引き続き日常回というか、ようやく進んでのアニメ5話途中というか。つまりはガラス瓶にビー玉で蓋をした炭酸入り清涼飲料水のことかしら?
こういう間の回こそをしっかり繋いで行きたいと思う、みんなそこに生きているんだから。
あれから百合ヶ丘に帰ってしばらくして、私の部屋に夢結が来た。まあそれはいい、寮自体は同じだし別に知らない相手でもなし。それで相談がある、それもいい。で、その内容というのが──
「……雪華様は、梨璃の好きな物が何か知りませんか?」
「何、誕生日プレゼントの相談?」
これだ。正直私よりよっぽど一緒にいるくせに、それをどこか不安そうな感じを隠すことも出来ず私に聞いているという時点で色々問題な気がするけど、まあわざわざ聞いてきたならば知ってる限りは答えてあげようか。
「……え、ええ」
「……ま、お昼の注文待ちな時にハンバーガーが好きというか憧れだー、ってくらいは聞いたことなら。あともう知ってるとは思うけど、瓶の方のラムネ」
なんて梨璃ちゃんと前に話したことのある内容を思い出しながらポスっと栓を開ける手振りも合わせると、夢結は俯きながら目を閉じて、どこか観念したような様子でいる。
「やはり、ラムネですか……それも駄菓子でなく、ガラス瓶にビー玉で蓋をした方の」
「ん? そうだけど、私も時々貰うし。そういや今日も貰ったやつの残りあるから、折角だし夢結も一本キメて……夢結?」
謎に堅っ苦しい呼び方をして……と呆れながら私が机の上に置いていた鞄の中を漁ろうと一旦後ろを向いた隙に、いつの間にか夢結は何処かへ去っていた。『あれ』の場所知ってるのかな?
まあいいか。いくら夢結でも流石に売ってる場所も知らずに買いに行くなんてとんちんかんなことはしないだろうし、最悪今みたいに誰かに聞くでしょ。
◆◆◆
なんて考えたのがフラグだったのか、翌朝、昨日頼んでいた物を受け取った帰りに寮のカフェテラスで優雅にコーヒー(ミルクのが割合多い)タイムと洒落込んでいた時、向かい側に座って来た梨璃ちゃんから投げられたのは──
「は、夢結がいない?」
「はい……皆さんの話を聞く限りだと、お姉様は朝早くに外出許可を取ってまで、何かを探しに行かれたみたいなんですが」
なんて話。折角の可愛いシルトの誕生日に何処行ってんのと言いたくなるけど、そういやどっかの誰かさん曰く『要領が良さそうで案外不器用なところも、また夢結の魅力的な部分なんだよ』とのことらしいので、まあ今回もそういうことなのだろう。多分。
というか昨日の様子からして夢結は間違いなくラムネを買いに行ったんだろうけど、平日にそこまでして探しに行くのは真面目なのか単に思考がぶっ飛んでんのかの判断が付かない。あと、やっぱりあれのことは知らなかったか……梨璃ちゃんが普段どこから調達してると思ったのやら。仕送り?
なんにせよ今日の主役が来たのだからと、部屋に持って帰るのもあれだしと隣の椅子に置いておいたモノを手渡す──つまり本日は6月19日、こちらの一柳梨璃さんのお誕生日という訳で。
「まあその内帰ってくるでしょうとして、こうなったら先に渡しとくくらいは許されるよね。お誕生日おめでとう、梨璃ちゃん」
「あ、ありがとうございます雪華様! 開けていいですか?」
「そりゃあもう既に梨璃ちゃんのだからね、ご自由に」
私が返事を言い切るのが早いかなタイミングで、渡した身長程もある包みを嬉しそうにゴソゴソと開ける梨璃ちゃん。こんな可愛い子と一日会えないなんて夢結も難儀な性格だねぇ、と入れすぎたミルクがなくとも大分冷め切ったコーヒーを飲み干す。
そうやって梨璃ちゃんウォッチングをしていると、揃って探していたのかいつもの二人もやって来た。楓さんも二水ちゃんもプレゼントらしき包みを抱えていることから、大体考えることは同じようで。
「あらごきげんよう雪華様。むむ、梨璃さんへのプレゼント一番乗りは取られてしまいましたか」
「はいごきげんよう。いや、普通同室の子が真っ先に渡してるでしょ? 皆イベントごとに飢えてるお年頃なんだし、こうして用意してる私もだけどさ」
まあ閑さんがそれをやったのかどうかは、朝起きた時の梨璃ちゃんのみぞ知る。なんだろうけど。
「どうでしょう? 同室の相手が誰かとシュッツエンゲルの契りを結んでいる場合は、姉妹の方に遠慮して夜部屋に帰って来たら~って人も一定数いるようですね」
「ほほう、流石は百合ヶ丘屈指のリリィ通。そこら辺の統計もお手の物かぁ」
「あはは、まだまだ総数が足りてないので確かな数字では出せませんが」
「あ、二人ともごきげんよう!」
そんな風に二水ちゃんたちと話していると梨璃ちゃんも二人に気付いたようで、私の渡したプレゼントの一部が見えるくらいに開けたところで挨拶をしていた。
「梨璃さん、ごきげんよう!」
「ごきげんようですわ梨璃さん。で、それは……見たところ抱き枕ですわね」
「結局、こういう時って普段使いな物の方がいいかなって。あと、無難にラムネ一丁~ってすると絶対何人か経路ごと被るの見えてるし」
その経路とは知る人ぞ知る、ここ私立百合ヶ丘女学院の七不思議に入れるか生徒間で密かに議論されてたりされてなかったりな、以前梨璃ちゃんがそこで買ったと言っていた学院の門を出てすぐの茂みに隠れている、色々と謎の自販機だ──噂としては結構大きめなのに夢結が知らなかった感じなのは……そういう俗っぽいのには興味なさそうだしなぁ、あの子。
ともかく中身がラムネのみなのも謎なら、誰がいつ補充しているのかもまるで謎。そもそも、わざわざ学院のすぐ外に置くくらいならそのまま中の自販機とか購買にも納品してくれません? 値段とか契約の問題?
「あはは、わたしもそれは読めたのでラムネはラムネでもちょっと趣向を変えて、最近復刻された駄菓子のラムネをドリンクにした物に……でも、この色ってラムネの瓶と似た感じに見えますね!」
「まあ、あんまり外しすぎることもないし?」
私が梨璃ちゃんに渡した抱き枕は、絵柄こそないがシンプルにそういう系の色で統一された円柱状の物になる。水玉模様とかでもそれっぽいかなーと思ったけど、ビビッと来たので選んだ次第ですはい。中身はビーズのにしたから、駄菓子の方の要素もなくはないか?
で、なんで抱き枕かと言われると、まあ昨日の閑さん情報から梨璃ちゃんって寝る時物寂しいのかなぁと安直に……あと、普段はクッション代わりにもなるでしょうというのも。私も小さい頃は長いことそんな感じに使ってたし、今は実家に置いてるけど。
「あら、皆さんお集まりのようですね」
「ご、ごきげんよう……」
「なんじゃなんじゃ、わしも混ぜんかい!」
そこに神琳さんと雨嘉ちゃん、ついでにミリアムちゃんまで来るものだから姦しいを2グループ作って余るほどの集まりになってくる。夢結がどこまで行ったかは知らないけど、せめて退屈な誕生日にはならないといいかな。
◆◆◆
あの後、今日は梨璃ちゃんの誕生日を祝いに夢結が帰って来る頃にでもまた集まろうという話になり、一旦解散になった。ならば今日の用事をどれから済ませようかと中庭を歩きながら悩んでいたところへ、見慣れた緑髪がそのひとつへ向かっていたからと後を追って便乗することに。
「……二人も来なくてよかったのに」
「まあそう言うなって、それだけ心配してもらえてるってことなんだからナ?」
「いくら元気そうだっていっても、やっぱり心配だしさ」
つまりは、ゲヘナにより強化されたことから定期的な検診が必要な鶴紗ちゃんの様子を医務室へ見に来たということで。制服に着替えたところへちょうど居合わせる形になった。
そんなに心配心配言われてもと反発しようにも、鶴紗ちゃんのブーステッドスキル前提で無茶しがちな戦闘スタイルから強くは言えないようで、彼女からはため息がひとつ。
「はぁ……近頃はレギオンで戦うようになったから、ブーステッドスキルに頼る頻度も減りました。前衛が危ないって言うんなら、それこそ白井先ぱ……夢結様もでしょう」
「まあ夢結はレアスキル抑えながらだからナー、その分無茶させてるんだったら悪い」
梅が代わりに謝るように、二年前のあの一件から夢結の『ルナティックトランサー』は基本的に使用を封印しているようにずっと不安定で、極短時間の使用ですらすぐに制御を失いそうになるらしい。私としても4月の戦闘での様子を聞くに、本来はある程度制御出来るからこそのレアスキルでそうなる程に心の傷が深いのだろうから、無理に使わせる気にもならないけど。
「それで、検査の方は?」
「異常なし。一応強化実験自体はもう長いことされてませんから、今すぐどうこうなるような体じゃないですよ」
それでも念のため、何かが起きてからでは遅いと毎度の検査は続けているみたいだけど、当面の問題がないのならいいかと話を夢結のこと繋がりで振ってみる。
「それで、夢結と言えば二人とも昨日なんかあの子に聞かれた?」
「……先輩のところにも来たんですか?」
『も』ということは鶴紗ちゃんも同じようにどこかソワソワしていて不安そうな様子の夢結から、梨璃ちゃんへのプレゼントについて聞かれたと。
「まあ、ね。なんか色々伝え終わる前に出てっちゃったから、それがこの状況の原因かもってさ」
「んー、でも梨璃へのプレゼントなら昨日購買部で買ってたゾ? 梅が勧めたラッピング用の袋と一緒に」
「え、それでこれなの……?」
既に手ずから包んだプレゼントがあるはずなのに、何故にわざわざ……いや、繰り返しにはなるけど購買だと飲む方のラムネは置いてないから、完璧を求めたのなら分からんでもないが。
「それにしたって、もうちょい頼ってくれてもよかったのに」
「昨日の夢結様、梨璃の誕生日の前日だからって明らかに冷静さを欠いてた」
「だから必死になりすぎてて、小さな手掛かりだけで動いちゃったかー」
頭の後ろで腕を組む、呆れてるのか嬉しそうなのか半々な様子の梅には若干理解は出来るというか、散々荒れてた夢結がシルトのことで悩めるだなんて確かに微笑ましくはある。やってることは突拍子がなさすぎるんだけど。
「んー、まあ無事に帰って来るの待つしかないか」
そうこうしていたら予鈴が鳴ったのでとりあえず誕生日会のことだけ二人に伝えて、こちらもまた後でということになった。
◆◆◆
「とりあえずデータは大分集まって来たんで、次からはビットの使える数四基にしときますね」
「ふぅ、ようやく折り返しか」
今日は午後の訓練がないので、お昼の後百由の工房へ直行したところ、ここ半月ちょっとの苦労の甲斐があってか二基から始まった第4世代の運用もプラス二基で残りも二基、故に半分ということになる。
「で、違和感は段々なくなっていくはずなんですが……まだ残ってます?」
「操作の引っ掛かり自体はなくなってきてるんだけど、時々どうにもビットの方に意識の引っ張られる感覚は、まだ」
百由の開発した機体を使った冬佳や依奈、自作の機体があるという柳都の麻嶺、他には御台場にも百由から贈られた第4世代CHARMの使い手がいることから私はあくまで最後発だからこそ先人の拓いた後の道を全力で駆け抜けられているに過ぎないが、それでも一筋縄では行かないのがビット兵器という代物なのだから慎重過ぎるくらいでいい……まあ、実際に私がそうかと言われるとアレだけど。
どこかに
「失礼します」
「お邪魔するわよ百由~」
そんなこんなで話しているとお馴染みのシュッツエンゲル──汐里ちゃんと聖が工房へ入って来るから、今朝からそういえばで知り合いに何度も聞いている話を再び。
「ねぇ、昨日皆のところに夢結来た?」
「いや、特に来てないですけど……え、あの子またなんかやっちゃいました?」
『また』て。まあ聖は初代アールヴヘイムのメンバーだった以上に、中等部時代と高等部に上がって少しの間は夢結のルームメイトだったりもしたのだから、あの子が気を抜いている時にポカしがちなのは重々承知か。
「……あっ」
ともかく梨璃ちゃんのことで彼女と接点の薄い聖には相談も何もないかと空振っていると、梨璃ちゃんと同じクラスな汐里ちゃんの方は何かしらあったらしく、考えるように少し傾けていた顔をハッと上げている。
「お、なんかあったの汐里ちゃん?」
「ほれほれ、お姉さんたちに話してみなさいな~?」
「なんで百由までノリノリなのよ……そういうそっちの方は?」
「んー? 来たわよ。夢結ってば柄にもなくシルトへのプレゼントに悩んでてさー、わたしは
「「………………」」
まあ、百由相手ならお隣なミリアムちゃんの縁もあるしで梨璃ちゃんもちょくちょくこの工房まで足を運んでるらしいから、確かにレギオン外の上級生としては一番会っているのかもしれないけど……それでシリンダー入りなヒュージの標本か何かを渡そうとしたなんて告げられては、そこはかとない人選ミス感がして聖と二人顔を見合わせてやれやれと首を横に振るしかなかった。
「で、話を戻すけど汐里ちゃんや」
「あ、はい。えっと、夢結様がラッピングのやり方に困っていらしたので、僭越ながら口添えさせて……もらったのですが……その、時にですね?」
「しおりん?」
なんかやけに歯切れが悪い。確か汐里ちゃんって色々物作り的なことをやる〈そうさく倶楽部〉とやらを主宰しているらしいし、そんな彼女に教わりながらならいくら夢結が時折不器用なところがあるとはいえ、盛大にやらかした。なんてことにはならないとは思いたいけど。
「……あの、雪華様。梨璃さんから瓶ラムネを頂いたことは?」
「ん、そりゃあるけど。なんでもガーデン出てすぐのとこにラムネだけの自販機が「え?」……ってことなん、だけど?」
それで、例の梨璃ちゃんのためにあるような自販機の話をした途端、汐里ちゃんが俯き気味に青ざめた感じになってしまうのはどういうことなのか。
「え、うそ……そんなところに、あったんですか?」
「ま、私もここ五年間で全く気付きもしなかったから、責めるに責めれないけどさ」
「つまり、梨璃ちゃん
聖から確認するように聞かれると、コクコクと頷いてそのまま黙ってしまう汐里ちゃん。いや、それにしたって夢結はそこら辺知ってる私にも聞きに来てたんだから、単に巡り合わせが悪かったで済む話なんだろうけど。その引き金を引いてしまったことに罪悪感でも感じているのだろうか?
「まあ、今更謝っても夢結は帰って来ないんだし、仕方ないんじゃない?」
「百由にしてはいいこと言った! それに、夢結だってわざとじゃないんならそこまで怒らないわよ」
「うぅ、でも梨璃さんに申し訳ないというか……午前の授業中も、どこか寂しそうでしたし」
まあ、折角の誕生日にガーデンの中で一番祝って貰いたい相手がいないというのは、そうもなっちゃうんだろうなとは……と話していて気付いたことがひとつ。特に変なことではないはずなのに、今更出てきた疑問というか。
「てか、ケータイはどうなのさ?」
「あっ、確かに……基本ガーデンの中にいるからって失念してたわ」
「いや、百由は結構外出てる方じゃない? 普段は引き籠り代表でもあるけど」
ともかく、ならばもう掛けた方が早いだろうと電話帳を呼び出し、いつぞやは直接掛ける勇気の出せなかった番号へ掛ければ3コールもしない内に──
『え、えっと、お掛けになったお相手は現在甲州まで外出中です?』
「そう……って、なんで夢結のケータイに掛けたら梨璃ちゃんが出るのよ!?」
反射的な私のツッコミには、またしても夢結ではない近頃よく聞く声が答える。
『それは、先に梨璃さんが電話を掛けてきたからですよ。雪華様』
「……祀さん? ってことは部屋に置いてったのかよ!」
スピーカーモードにしながら近くの作業台の上にでも置いて続きを促すと、どうにも祀さんが朝起きたらもう夢結は部屋におらずケータイも机の上に置きっぱなしだったらしく、そうしたのはどの道陥落地域の近くでは電波の繋がらない可能性が高いからではないかと言う。
「いや、むしろ寝惚けて置いてった可能性の方があるんじゃない?」
『あ、あはは……』
『外出届には出るのが朝の4時と書いてありましたし、それも否定は出来ませんが……夢結さんはあれで大事な日には鋼の意思で起きるタイプですから』
「あー、確かにそういうとこあったわあの子。普段は結構抜けたところあるくせに、そんな時だけは鉄の強さでアラームより早く起きてたし」
新旧ルームメイトが口を揃えるのなら間違いはあるまい。となると不退転の覚悟で置いていったと見るべきか……なんの覚悟だよ。
『どう、したの?』
『あっ』
「んむ?」
そこで向こうから聞こえてきたのは、梨璃ちゃんでも祀さんでもない三人目。あまり覚えのない、どこかたどたどしい声。
「あ、もしかして例の一柳隊が海で拾ったって子ですか?」
『ええ、折角だから彼女を連れてうちの部屋に来ない? と提案したの。ちゃんと先生にも許可は貰った上で、松葉杖も用意して貰って』
つまるところ今梨璃ちゃんたちは旧館は祀さんと夢結の寮室にいるようで、梨璃ちゃんも思わぬ形で本人不在とはいえお姉様のお部屋訪問となったと。で、例の彼女は目の前で電話をしていたら気になって割り込んできた──なんてところか。
『やっほー?』
『あー、えっと……お行儀とか作法の方は、まだ途中で……』
「とりあえず、元気そうではあるみたいだね?」
「メディカルチェックの結果も軒並み問題なしではあるんで、後は最後まで気を抜かずリハビリってとこですね」
百由がリハビリと言ったのが聞こえたからか向こう側で嫌そうに『う~』と呻いているが、この先どう生きていくにしてもちゃんと歩けないで困るのは彼女なのだから、我慢して続けてもらう他ないだろう。
『もう大分一人で歩けるし、わたしも応援してるよ!』
「今は大変だと思いますけど、決して無駄にはなりませんから」
『うん……まえにせんぱい? にもそう言われたから、がんばる』
「ふーん、それって──」
「さて、ところであれは私のオーダーがようやく通ったでいいのかな?」
そのまま拾った子の相手はこっちのシュッツエンゲル二人と向こうの二人に任せるとして──何より汐里ちゃんは梨璃ちゃんたちと同じ一年椿組、その内例の彼女ともクラスメイトになるのだから早めに仲良くなっておいて損はないだろうし。
ともかく通話先を含めこの中で誰も使ってなかったはずな機種のCHARM、先月私の申請しておいたブリューナクが指定した通りなフレームは少し暗い銀ベースに青の差し色、ブレードや砲身はクリアグリーンで塗装された状態で片隅にあるのだから、口にする以上の確信があった訳なんだけど。
「ああそうだった。雪華様、この子のセッティングなんですけど──」
「んー、もうちょい火力に振れない? 多少耐久落ちても受けはライザー側に任せるからさ──」
そうして少しの間端末の画面を見せてくる百由とCHARMの細かい調整を詰めていると、向こうの拾われっ子が話し疲れて寝てしまったのか、コトンと頭でも乗せたような音と寝息らしいものが聞こえてくる。
『んぅ……すぅ……』
「なんていうか、子供だなぁ」
『それを言うには、まだ誕生日を迎えてない雪華様だと少し早いのでは?』
「はは、違いない」
私もあと二月半くらいはまだ17歳だ。大人ぶるには微妙に早いし、誕生日を過ぎたとしてもはたして年齢だけで大人と呼べるのかって問題もあるけど。
『では、経過報告もあるので私はこれで』
「ん、了解」
『梨璃さん。私がおぶっていくから、彼女を起こさないよう乗せるのを手伝ってもらえるかしら?』
『はい!』
そこで通話が切れるので、置いていたケータイを回収してポケットへ突っ込むと、百由からのお達しが。
「あ、今日は新型のテストお休みで。ちょっとビットの調整も見直しときたいし、そっちもそっちでめでたい日でしょう?」
「後輩のお誕生日会に疲れて倒れてる先輩、ってのも格好つきませんしねー?」
まあ、打ち切りでないのなら特に逆らう理由があるでもなし、今日くらいはオフ気分でいろと言うのなら素直に従おうか。
◆◆◆
「みゃう」
「……あら?」
日が沈んだ頃、どこか意気消沈した様子で行きよりひとつ荷物の増えた夢結が暗くなった道を歩いていると、近くの茂みから一匹の猫が出てきたのと目が合う。
「迷子、というより梅たちのよく話している集会所とやらの野良猫かしら?」
「なぁーご」
いつだったかの梅曰く、そこの猫たちは大抵人に慣れているからとよく授業を抜け出しては一緒に昼寝をしているらしいが、目的の方はともかく前半の内容は正しいようで、視線を合わせるよう屈んだ夢結の前までとことこ歩いてくると、その猫は彼女が手に提げているクーラーボックスを物欲しそうに見詰めている。
「みゃあ」
「ごめんなさい、あなたにあげれるような物はもう何もないのよ。ダメなシュッツエンゲルよね、わたし。折角のシルトへの誕生日プレゼントを、見ず知らずの子供にあげてしまって……」
屈んで猫と目線を合わせながらの言葉は、つまり今の夢結は梨璃の地元である甲州まで向かい、そこのある商店で瓶入りのラムネを買い店主の好意で用意してもらったこのクーラーボックスに入れて帰っていたのだが、その途中喉が渇いたと泣いていた子供に全て渡してしまった。という骨折り損のくたびれもうけの言葉が相応しい状態だった。
それが他人から良い事だと言われるような行いなのは確かだが、そのラムネを本来渡そうとした相手を蔑ろにしてしまったと、この前梨璃から言われたことを忘れていなくとも自虐のスイッチが入ってしまう。
「にゃあ」
「……慰めてくれているの? 優しいのね、あなたは」
雰囲気で夢結の気持ちを察したのか、猫はちろちろと届く位置にあった夢結の手の甲を舐めてくる──猫がそういうことをするのは親愛の証だ。というのも猫のことに妙に詳しい梅から以前聞いたことがあるが、いざ目の当たりにすると猫の舌のざらっとした感覚も気にならないくらい、心が温かくなったように思えた。
あるいは傷心故に少し過剰な反応になっているのかもしれないが、それでも今日の夢結は一日のほとんどが人もあまり乗っていない電車移動だったのもあって、今は誰でもいいから側にいて欲しいというのもあるのだろうかと手を舐めた後こちらを見詰めて大人しくしていた猫をそっと抱き上げていると、不意に聞こえたガサゴソとした音とそれに続く声に夢結は顔を上げる。
「待てこら! 逃がさないと言……って夢結?」
「おん? ホントだ。何してんだこんなところで」
「……どうも」
なんて心情だったから、ということも無いのだろうが猫の出てきた茂みから雪華を先頭に梅に鶴紗にと続々知り合いが生えて来ては、案外世界に一人きりなんてことも早々ないのだろうかと夢結も思ってしまう。
「あなたたちこそ、ここで何を……?」
「いや、雪華サマがその猫に遊ばれててナ」
「確かその子、前に梨璃が追い掛けてた猫。シュッツエンゲルして気に入られた……?」
そしてその時同様、追い掛けていた相手と違う相手に金色の毛をした猫は抱かれているのだから、少し不貞腐れた様子で雪華は自身の鞄の中を漁る。
「……とりあえず、期間限定のプレミアム缶開けるからその子捕まえてて」
「は、はい」
◆◆◆
「ふにゃん……」
結構な大きさの猫缶を一缶丸々平らげてお腹いっぱいになったからか、満足そうに猫は茂みの向こうへと帰って行ったので、見送ると私たちもガーデンに帰るかと誰ともなく歩き初めてしばらく、明らかに気落ちした様子でいた夢結に梅が声を掛ける。
「で、夢結はこんな時間までラムネ探してたのか?」
「っ……何故それを」
「いや、これで分からんは無理でしょ?」
そもそも私以外にも散々梨璃ちゃんの知り合いに聞いて回ってたんだから、梅に限らずその中の誰にだって分かるだろう。
「大体、夢結が今日わざわざ梨璃を置いてくなんてそれ以外ないだろ? 鶴紗のこととか、レギオンのこととか、拾ったあの子のこととか、ずっと頑張ってたシルトの誕生日にちゃんとしたご褒美のひとつもあげられないなんて、夢結は絶対嫌だろうし」
「……そうね」
「でも多分、今日梨璃が一番欲しかったのって夢結様と一緒の時間だと思いますよ……昨日聞かれた時にそう言えなくて、クラスであの子が寂しそうにしてたのを見て気付いたわたしが言っても、遅いかもですけど」
「……ええ。わたしも、こうなるくらいなら少しでも長く梨璃と一緒にいてあげたらと……本当に、今更ね」
これはダメな傾向だなと、何があったのか結局こうなったと空なクーラーボックスの中を私たちに見せてどんよりとしたままな夢結の様子を見ていたら、辺りの感じから『例の場所』が近いと分かるので、もう少し歩いてから不意に立ち止まる。
「とりあえず、モノだけは取り繕えると思うけど?」
「雪華様、このようなところで財布を取り出して何を……?」
「……あぁ」
急に茂みを向いて鞄から財布を出せば夢結や梅からは何をしているのかという風に見られるけど、鶴紗ちゃんは流石に梨璃ちゃんから聞いてるのか納得したような反応。
「まあ見ててよ」
そのまま硬貨を茂みの向こうの『穴』へ投入すると、ブォンと何かの起動する音と共に明かりが灯る……まあ、つまりは例の梨璃ちゃん御用達の自販機の場所な訳で。
「おー、節電モード。というか前開けるタイプってまた相当レトロな、写真でしか見たことないゾ」
「その上中身もラムネだけって、なんの拘りなんだか……って夢結?」
とりあえずレギオンの人数分用意するかと追加でお金を入れて、流石に梨璃ちゃんの分くらいは夢結に払わせてあげた方がいいかと譲ろうとすると、その夢結は力無く崩れ落ちていた。
「あっ、夢結!?」
「……あれ、これあたしが悪いの?」
「さあ?」
魂抜けてそうな夢結は二人に任せて、とりあえずこのラムネを……流石に夢結の持ってたクーラーボックスに十本は無理か。
「えーと、鶴紗ちゃんその鞄猫缶で溢れてるとかないよね?」
「わたしをなんだと思ってるんですか……今日は結構猫集まってくれたから、それに入り切らなかった分くらいならいけますよ」
いや、だってそんな大きな鞄にめちゃくちゃでかでかと猫のプリントまでされてるし……てか、やっぱり結構入れてるんかい。
「「せー、のっ」」
ともかく許可は貰えたならと鞄を借りて余りを入れている間に、梅と鶴紗ちゃんが夢結を左右から引っ張り上げると肩を貸している。
「おーい、行くぞ夢結?」
「えぇ……」
「夢結様?」
「そうね……」
「……もうダメでしょこれ」
そのまま二人に呼び掛けられても夢結は上の空な反応だけど、この自販機があるということは学院も目と鼻の先なのでこのまま連行するしかあるまいて。なんて考えていると、聞こえた電子音に視線は鶴紗ちゃんの方へ。
「……ん? すみません、メールが」
「はいはい、支えるの代わるね」
音の出所は懐のケータイらしい鶴紗ちゃんへ預かっていた鞄を返しながら、代わりに夢結の腕の下から頭を通していると、メールに目を通した鶴紗ちゃんが申し訳なさそうに振り向いてくる。
「その、呼ばれたので……梨璃たちを手伝って来ます」
「あいあい、目一杯祝ってあげなよ」
「梅たちもゲスト連れて行くからナ!」
つまりは梨璃ちゃんの誕生日会の準備を一年生でやるからと、チラリと画面に見えた文を読んでいたら鶴紗ちゃんは一足先に駆けていく。なら、こっちは急がない程度に向かうとしようか。