色々詰めすぎて前回で帰るとこまで入りませんでしたはい、思ってる以上にみんな好きに出てくるんです(制御する気/ZERO)
まだまだ一度もタイトルとかの特殊EDに辿り着かない間にもう二十話台、ある分に追い付くまでは日刊ですが、その後は月数回レベルになるとは。
結局、呼び掛ければ最低限の受け答えこそしても自力で動けるだけの気力が尽きていた夢結をレギオン控室に連れ込むと、そこでは先に戻った鶴紗ちゃんを含む一年の皆が追加のテーブルも並べて普段より場所を取っているその上に色々と食べ物なり飲み物なりを並べて、梨璃ちゃんの誕生日を祝う準備をしていた。
「あ、お帰りなさ……お姉様?」
「ええ、ただいま……」
私たちが入って来たのに反応した梨璃ちゃんも、梅と私に支えられながら無気力状態の夢結に疑問符を浮かべてはいたが、どうにかという様子で返事だけは返せた夢結を奥のソファに座らせたのを見ると、近くへてちてちと寄って来る。
「お姉様、どこか具合が悪いんですか?」
「いえ、そんなことはないのだけど……その、お誕生日おめでとう、梨璃」
それでも目的は忘れてはいけないと、控室に向かうまでの間に私が彼女の鞄へ一本忍ばせておいた瓶ラムネと一緒に、ラッピングされた──恐らく駄菓子の方のラムネを夢結が取り出して梨璃ちゃんへ手渡しすれば、不安そうだった彼女の顔に笑顔が咲いた。
「わぁ、ありがとうございますお姉様! 実は子供っぽいかなってお姉様の前じゃラムネを飲むの避けてたんですけど……お姉様には、全部お見通しだったみたいですね」
「そ、そうね……」
あ、反応に困ってる。夢結のことだから自分に合わせるように梨璃ちゃんへ我慢をさせていた……みたいに捉えてるんだろうか。私としては、梨璃ちゃんの様子は単に背伸びがバレて照れくさそうにしてるだけに見えるんだけど。
「ほれ遅刻組、おぬしらもはよ並べんか」
「おっと、それもそっか」
「おう、先輩に任せとけ!」
お皿を持ったミリアムちゃんに手伝えと言われたならと私も梅とそっちに回れば、何もしないのも落ち着かないようで夢結も近くの雨嘉ちゃんへ声を掛けていた。
「ならわたしも手伝うわ。雨嘉さん、何かやることは」
「大丈夫です。夢結様は、そこで梨璃と一緒にいてあげてください」
「ふふ、今日一日頑張った夢結様のための特等席ですよ?」
立ち上がろうとした夢結を座らせる雨嘉ちゃんと神琳さんはエプロンを付けているから、テーブルの上のいくつかは学食から持ってきたとかでなく二人の仕込みなのだろうか。
「雨嘉、これって……クレープか何かの生地?」
「うん、大体そんな感じ。ジャムの近くに置いておいて」
「了解」
どうやら鶴紗ちゃんは二人の助手として呼ばれたようで、時折備え付けのキッチンの方へ顔を出しては指示を受けながら忙しなくしている。そんな彼女の様子を眺めていると、梅にトンと肘で小突かれた。
「『馴染んでるようでよかった』って?」
「そりゃあね、私にはどうしてもそこまで面倒見れる力はないもんだからさ」
学年が違う──という以上に、いつぞや言ったようにまだ私は最上級生だからと形から慣れない先輩面をしているだけの、他人の面倒なんて戦場でしか見れないような輩だ。それ以上相手の深いところへ踏み込む気も、相手にそうさせるつもりもないのだから……
なのに今またレギオンへ入ってこうしているのも、この間梨璃ちゃんへ語った以上に周りから影響されているってことなんだろうけども。
「おーい、ケーキ置くからそこを退いてくれぬかー?」
「ミリアム、足並み合わせて。落ちちゃうでしょ」
「おっと」
お祝いの場に似つかわしくない考え事をして邪魔になりましたじゃあ格好が付かない、後ろに退いて道を譲ればミリアムちゃんと鶴紗ちゃんが、誕生日ケーキだろう物をホールで運んでいた。てか結構でかいな?
「ん、どうしたの二水ちゃん?」
で、避けた先で自分の作業は終えたのか椅子に座っている彼女がタブレットとにらめっこしているのを見れば、こうして声を掛けもする。
「ああいえ、アールヴヘイムの帰還が遅れている件なのですが……」
ふむ、聞く限り三日前には件のアルトラ級ファーヴニルの討伐は終わっていて、今日の日中には柳都を発った……のまでは確実なんだけど。
「なんだっけ、途中で連絡途絶えたとか?」
「はい、その上帰路の辺りでヒュージの活動が活発化していた……なんて情報もあるので」
「新潟の土産話が聞けなくて残念?」
和ませようとからかってはみるが、流石に二水ちゃんの返事は真面目な声音だ。
「あはは、それもないと言えば嘘になりますが、今は単純に心配ですよ……いくらアールヴヘイムの皆さんが強くても、ガンシップに乗った状態で襲撃なんてされたらどうしようもないですし」
「緊急時の降下訓練くらいはやってるけど、流石に限界はあるからねぇ」
それにしたってちゃんとした装備を使う暇があるのか、あったとしても妨害があるか、高度や周囲のマギ濃度、風の流れなんかも加味すると大分運任せな、半分気休め程度とは言われているレベルだけど。仮に落死は避けられても、相応に消耗するからそのまますぐに戦えるかは状況次第だろうし。
「まあ便りがないのはなんとやら、確定情報がない内は余計な心配しても仕方ないでしょ?」
「そう……ですね」
「悪い方に考えるから悪くなるのよ、こういうのはね」
それに、本当に最悪の知らせなんてのは予兆もなく突然訪れる物だから。身構えている余裕がある内はそうそう最悪な事態になんて……そこで浮かぶのは、もう色褪せてしまった思い出の中から数人の顔。
「……っと」
「雪華様?」
いかんね、口とは反対にこの場の雰囲気とは逆のことばかり考えてしまう。こうして変にネガティブというか後ろ向きな気持ちが入るのは……あー、大体月1ペースでなってる気がする。だからって何も今日じゃなくていいだろうに。
「さあさあ、皆さんグラスの用意はよろしくて?」
なんて隅で話していたら聞こえた楓さんの声から準備が終わっていたようなので、慌てて近くのペットボトルを掴む。
「あー、二水ちゃんもオレンジでいいよね?」
「え、はい!」
二人分のグラスにジュースを注いでいる内に、本日の主役である梨璃ちゃんはロウソクに火が付いたケーキの前へ。そこから周りのメンバーで目配せをすると、お馴染みのハッピーバースデーソングを。そして──
「ふぅー」
梨璃ちゃんがロウソクを吹き消せば、皆が拍手と共に口々にお祝いを……クラッカーとかのパーティー御用達な小物がないのはまあ、片付けの手間と差し引いてか。ともかく始まった以上各々隣の相手と乾杯したり、梨璃ちゃんの方へ乾杯しに行ったりしている。二水ちゃんも私とやったらそっち行ったし。
「で、結局これなんなの雨嘉ちゃん?」
「えっと、故郷の方のお菓子でポンヌコークル……日本語で言うならパンケーキ、なんだけど実際はクレープに近いか。そんな感じです」
雨嘉ちゃんが説明しながら生地を自分のお皿に移して近くに置いてある生クリームやらジャムを乗せて、クレープみたいにクルクルと巻いていると近寄ってきた鶴紗ちゃんが会話に混ざってくる。
「ヨーグルトもこれ用?」
「うん。本当は少し違うの使うんだけど、今は切らしてて……」
「ん──それでも美味しいよ」
「も、もう食べてた……?」
それどころか鶴紗ちゃんは最後の一口を前にヨーグルトをかけて、そのまま一枚というか巻いて一本というかをペロリと平らげている。お腹が空きがちな理由は分かるとはいえ、見てると凄いもんだなぁ。さて、私も色々と──
「雪華様も、かんぱーーーい!」
「おん、こういうの自分から回るもんだっけ?」
「えへへ、楽しいからいいんです!」
なんて梨璃ちゃんがいつの間にやら向かい側から回ってきてこっちの面々にも乾杯して回ってるから、とりあえずグラスでグラスに応えよう。
「にしても、ケーキに雨嘉ちゃんのあれにサンドイッチ、お寿司にオードブルってなんか節操なくない?」
見た感じ後ろ二つは容器からして店屋物っぽいけど、つまりケーキは自前に見えるという訳で。そこら辺得意そうなのは……やっぱり神琳さんと雨嘉ちゃんの同室コンビか。
「あはは、一年生の皆が張り切って色々用意してくれたので……雪華様もやってみます?」
「まあ、食べ始めには無難っちゃ無難かな」
梨璃ちゃんが既にお皿に乗せているサンドイッチの方もテーブルの上ではパンと具は分けて置いてあり、セルフで挟むスタイルになっている。パンの種類もいくつかあるし、そこら辺は出身の違いやら個人の好みに配慮した形なんだろうか? なんだかんだ結構な多国籍になってるし、この面子。
とりあえず日本人な私は無難に食パンにクリーム乗せて、オレンジパインイチゴで──ん?
「すまんの雪華様、そこのジャム取ってもろうてもよいか?」
「まあいいけど……ミリアムちゃん、まさかのまさか?」
「そのまさかがなんのことかは知らんが、見ての通りじゃが」
ああうん、フルーツ敷き詰めた上に渡したブルーベリージャムをドーン……やると思ったけど、やるとは思ったけど!
「うへぇ……またしても見るからに甘ったるそう」
「ま、まあ好みは人それぞれですから?」
口ではそう言っていても、梨璃ちゃんも割りと引いている反応なのが答えというか。あと、チラリと見えた夢結はまだそんなに元気は回復していないが、梅がお世話しているから大丈夫そうだ。
「鶴紗さん、サンドイッチ置いておきますね」
「ん……ありがと」
そして神琳さんは神琳さんで、無難にハムとタマゴを挟んだのをふたつ鶴紗ちゃんの目の前に静かに置くと、今回ばかりは特に手を出すことはしていない。毎回そうやって下手に踏み込みすぎないのなら、警戒心強めな鶴紗ちゃんとて拒絶はしなかろうて。
というか神琳さんに限ってそこら辺の距離感を見誤るタイプには見えないし、多分梅辺りを参考にして今日はこれくらいにしてるんだろうけど、何故に普段はああも……うーむ、分からん。
「さてと、はい雨嘉さん。あーん」
「え、神琳……?」
あの、なんなんすかねそれは? 鶴紗ちゃんにサンドイッチを渡すだけ渡した神琳さんが箸を持ってオードブルからウインナーを取った、まあどうぞ。けど、なんでそれを雨嘉ちゃんに向けているのか。行動の温度差が極端過ぎるし、周りの目もあるしで雨嘉ちゃんめっちゃ困惑してるし。
「えっと、その……恥ずかしいよ」
「あら、わたくしは大丈夫ですよ?」
いや、顔真っ赤にしてるし、明らかに雨嘉ちゃんの方が大丈夫ではないんですが。なんなら助けを求めるようにこっちに視線が向いてくるけど、触らぬ神に祟りなしと目を逸らす……神琳さんだけに。
「あそこまでやれ、とは言わないけど梨璃ちゃんも夢結に何かご褒美あげたら? 勘違いと不幸なすれ違いがあったとはいえ、一日向こうまで行ってたんだし」
「うーん、そういうのになってるのかは分かりませんけど、さっきお姉様にぎゅーってしてもらいました! 故郷のぶどう畑の匂いがして、なんだか懐かしかったです♪」
ぶどう畑かぁ。甲州市の方ってぶどうが有名で、それで作ったワインが美味しいとか私の生まれる前二人で行ったらしい両親から聞いたことはあるので、そういうのが飲める歳になるまでには奪還したい気持ちは少なからずある。とはいえ現地のガーデンもそれに懸ける想いは強いだろうしで、隣県の百合ヶ丘にまでお呼びが掛かるかは分からんけども。
「まあ、夢結様力加減相当間違えてたので、梨璃さん意識飛びかけてましたけど」
なんて考えていたら、戻ってきた二水ちゃんが報告がてらタブレットのカメラで撮った二人の写真を見せてくるけど、連写し過ぎじゃね? ほとんどコマ送りレベルなんだけど。ともかく鯖折りとまでは行かないけどハグというには力み過ぎな夢結の不器用っぷりに呆れていると、悔しそうに楓さんも画面を覗き込んでいた。
「うぐぐぐ……しかし、このまんざらでもない様子な梨璃さんの笑顔を消したくは……」
「あむ。難儀な性格しとるな、おぬし」
「だからこそ一線は越えないって、いっそ信頼は出来るでしょ?」
あれこれつまみながらなミリアムちゃんの言うように、短絡的な思考になど走らないからこその楓さんだろうし、その点は疑わなくていいからこそ夢結もそこまで角は立ててはいないってことで。
「しっかし、結構遅くなっちゃったか。これ片付けてたら10時とか回らない?」
視界にチラリと入った時計を見たら大浴場の学年別の時間がちょうど過ぎたぐらい、まあ任務帰りとかの生徒のために大浴場自体は結構遅くまで開いてはいるけど。
「たまにはいいんじゃないか? 裸の付き合いってやつだゾ」
「ゆーて
他所はどうだか知らないけど、その辺りは風紀の問題だろうか。いやまあ楓さんとか亜羅椰ちゃんとかの手合いを見てると、それをやりすぎとも言えないのが困りどころか。とりあえずいつの間にか半分は消えてるケーキを一切れ、十等分だし人数分かね。
◆◆◆
「ふはぁ……」
カポーン──と名前はド忘れした何かの音を聴きながら額にタオルを乗せてお風呂に浸かっていると、私も日本人なんだなぁとしみじみ感じてしまうのはなんなのか。遺伝子に刻まれた本能とでもいうのやら」
「
「口に出てた? えーと、私と鶴紗ちゃん、梨璃ちゃん、二水ちゃん、夢結くらいか」
他はハーフの楓さんと梅、アジア系ではあるけど向こうの方な神琳さんと雨嘉ちゃん、んでヨーロッパなミリアムちゃんとまあさっきも言った通りに結構な多国籍、百合ヶ丘が世界レベルのガーデンというのがよくわかる状態だ。
それでも百合ヶ丘で一番有名だろう初代アールヴヘイムだと海外枠がハーフの梅くらいだったし、2代目は普通に日本人だけなことを考えればこの人数で半分外国組というのは中々レアなのかもしれないけど。
「で、夢結たちはまだ洗ってると」
「髪長い組はどうしてもナ。今日はそれだけじゃないみたいだけど」
時間的に普通に入る子は粗方終えていて、遅い組が入るのには微妙に早いと半端な時間だからなのか誰かしらの根回しがあったのかは知らないけど、今大浴場には私たち以外誰もいない貸し切り状況なのだからまあ、誰が何してても目に入るというか。
「お姉様、どこか痒いところはございませんかー?」
「……梨璃、こういうのってわたしがやる側であるべきではないのかしら?」
「いいえ、今日はお姉様の方こそお疲れなんですから、わたしでいいんです!」
つまるところ、梨璃ちゃんが夢結の後ろに立ち髪を洗ってあげていた──その割には真っ先に悔しがりそうな楓さんも、今日ばかりはそそくさと身体を流し終えていて私の隣に来るのだから、珍しく平穏という感じなんだけど。
「で、楓さんや、さっき入る前に『上級生にも侵せないはずだったわたくしの聖域が~!』とか言ってたのはよかったの?」
「勿論よくはありませんわ。で・す・が♪梨璃さん的にはこれくらいはオールオッケーだと言うのなら、明日からわたくしが時々頼むのも問題ないということで、この程度はコラテラルダメージというやつですわ!」
「おぬしは前置きの言葉を聞いとらんのか……」
とはいえ梨璃ちゃんなら普通に頼めば「いいよー」と快諾してくれそうなのがまあ。ここまで素直だといつか悪いのに捕まらないか心配なんだけど、それこそ楓さんが逆にガードするだろう……なんかおかしいとか思うな、そろそろ慣れろ私。
「お姉様、流させて頂きますねー」
「っ。え、えぇ……」
あ、梨璃ちゃんまた無意識ムーヴしてる。そこで耳元から囁くのは効果抜群でしょ、シャワーの温度がとかでなく夢結の体変に震えてるし。
「あの夢結様がこうもたじたじとは、是非ともそのテクニックを教わりたいところですが」
「えっと、梨璃のあれって、意識はしてないみたいだし、人に教えられるような物なのかな……?」
古くの伝統芸能だかなんかで『思わざれば花なり、思えば花ならざりき』──って言葉もあるし、自然体で飾らない梨璃ちゃんや雨嘉ちゃんに鶴紗ちゃんが心を開き気味なのも、まあそういうことなんだろう。
なんて考えながら、二水ちゃんから聞いたいつもの定位置で今日は並んで寝転んでそれを眺めている神琳さんと雨嘉ちゃんの会話に耳を傾けていると、その二水ちゃんはまた興奮モードになっている。
「こ、これぞ正にリリィのアジールというやつです~! やはりおふたりを眺めていれば、ネタの提供には困りませんね!」
「あー、うん。刺されたりしない程度にね?」
校内の掲示物に目を通すだろう生徒会には夢結と同室な祀さんもいるし、なんなら二水ちゃん本人が時々差し戻し食らうとも言っていたのだから、アウトなラインまで行っちゃったのがそうなってるということなんだろうけど。
「ん、なんか脱衣場の方から気配が」
「工廠科の面々が来る頃……にはちと早いのう。というか雪華様、気配ってなんじゃ気配とは」
まあ、実際には少し話し声が聞こえたってことなんだけども。百由辺りにしては実際まだ早いし、任務帰り組だろうかと皆の視線は揃って入り口に。
「ふぅ、ようやく帰ってきたって気が……夢結?」
「天葉? 帰還途中、トラブルがあったと聞いたのだけれど」
「あーうん、ヒュージの群れと戦闘にもなって大分時間は食ったけど……んー、情けは人の為ならず?」
ともかくそんな風に主将な天葉を先頭に、2代アールヴヘイムの面々がフルメンバーでぞろぞろと入って来ると、湯船に向かう途中だった夢結とちょうど鉢合わせる訳で。
曰く新潟での激戦続きでほとんどのCHARMが要修理レベルに破損していたため大分時間は掛かったものの、その戦闘でも誰一人として欠けずに切り抜けはしたが、代わりに空の足であるガンシップが破損、立ち往生を余儀なくされた所へ『新潟を救った勇者をこんな所で立ち止まらせる訳にはいかない』と現地の人々の協力があり物資や整備士の派遣を受け、なんとか今日中に百合ヶ丘まで帰って来れたとかなんとか。
「ふーん、勇者ねぇ。追放モノかって顔もいるけど?」
「あらお酷い、どうしてわたしたちが追放されるのかしら。雪華様?」
「あんたは鏡見なさいよ鏡……新潟でも着くなり向こうの子取って食おうとしてたくせに」
「意味は伝わってなかったみたいだからいいけど、亜羅椰ちゃんのえっち」
なんか色々久しぶりな面々ではあるけど、亜羅椰ちゃんのグルメさ(勿論夜の方で)に変わりは全然無さそうで──いや、救援に行った先で何やってんのさ? 樟美ちゃんめっちゃじとーっとしてるし。
「まあまあ、あの子は本命がいたからいいじゃない。それとも、いっちゃんが代わりになってくれる?」
「……あんた、結局わたしをどうしたいのよ」
ん? 壱ちゃんの反応が少し怪しい。普段なら亜羅椰ちゃんに粉をかけられても慣れたことだと素っ気なく返してそうな感じなのに、何故か困った風な感じに。
「「じーーーっ」」
「な、何よあなたたち!? ほら髪洗うから散った散った!」
弥宙ちゃんと辰姫ちゃんからの何か言いたげな視線に慌てて洗い場へ向かう依奈、その照れ具合は明らかに露骨で──
(ああ、そういう?)
(百合ヶ丘内の非公式はよ契れランキングだと、このおふたりは相当高い方ですねー)
(素直になれない方々というのも苦労しますわねー)
大体分かった、これは向こうで直にはよ契れって言われたな、依奈と壱ちゃん? それでも今までのことがあるからお互い変に意地張ってからかいの種にされてると、コソコソ話。
◆◆◆
来てしばらくは騒がしくしていたが、アールヴヘイムの面々も湯船に入るとゆったりとした時間が流れる中何故か一人で角にいた天葉へ、夢結が隣に腰を降ろしながら声を掛ける。
「何はともあれ、お帰りなさい……でいいのかしら」
「うん、ただいま。なんか、夢結とこういう会話することになるなんて思ってなかったなぁ」
「それは、どういう意味で?」
「いや、去年は一緒にあちこち飛び回ってたし……その後はお互い、色々大変だったから」
天葉も夢結も、初代アールヴヘイム解散時は決して良好な精神状態ではなかった。それでもお互い今日までなんとか生き延びて、道は違えてもその先で得たシルトのお陰でそれぞれ立ち直ることが出来たのは同じなのだから、しみじみと語る彼女の様子に夢結も頷く。
「そうね、本当に皆には迷惑を……それでも、わたしたちは今ここにいる。だから、あの子にはやれることをしてあげたいの」
「……今回のこと、ルームメイトさんから何か?」
「ええ、聞いてはいるわ。百合ヶ丘からの指示を突っ張ねての命令違反……そのペナルティのひとつに、出撃担当のローテーションずらしは無しだと。そこで相談なのだけど──」
夢結とて新潟の戦況には明るくなかったのもあり祀もあまり偏った伝え方はしていなかったらしいが、ここで夢結が提案をしてくるのは誰かの入れ知恵を勘繰ってしまう。一柳隊と秦祀隊の同盟の件を抜きにしても、祀とて彼女の様子を気に掛けていた面々の一人なのだから。
「ま、それも込みで罰ということにしておいてくれってことみたいだけどナ」
「梅!」
「あはは、ぶっちゃけてくれた方がこっちも気が楽だってば。一年生たちの見学を兼ねてるんなら、誰も損はしない訳なんだし」
命令違反を繰り返さないようにと監視役を置くにしても、そこに知り合いの多い一柳隊を合わせてくれているだけかなりの恩情を貰えているのだろうから、混ざってくる梅の言い方には沈みかけていた天葉にも空元気を返せるだけの余裕が戻ってくる。そのまま落ち着いたついでに見渡せば、反対側にて佐渡島での戦いのMVPが早速リリィ新聞の突撃取材を受けていた。
「それで、ファーヴニルとの決戦では乃彩様がキーパーソンとなられたとのことですが!」
「いや、キーというかうちの隊長からの無茶振りというか……それでも、なんとかはなっちゃったのよねぇ。もう二度とあんなのはごめんだけど」
思い出すだけでも相当くたびれた様子になっている乃彩だが、新聞記者モードと貸した二川二水にそんな些細なことを一々気遣うデリカシーなど残っているはずもなく、そのまま彼女から根掘り葉掘りを聞き出すと、続いてアールヴヘイム一同へ回り回りに質問攻めである。
「──でねー、わたしは柳都の人たちに助太刀しながらこう言ったの『その意気やよしだよ!』って!」
「おぉー、月詩さんらしい豪快な登場!」
「ふふっ」
月詩は自身の新潟での武勇伝を嬉々として語り、茜がその横で優しく見守っている。
「で、さっきいっちゃんも言ってた跳ねっ返りの子だけど、遅刻してくるなり同じ柳都の先輩相手に生意気言っちゃってたからすこーしカラダに分からせてやりたくなっちゃって……ま、その先輩とはなんだかんださっさと契りなさいよって感じだったから、喰うのはやめにしたんだけど」
「あ、亜羅椰さんらしいですね……」
「戦闘の方でも折角の専用機だからって大暴れだったけどねー。向こうの先輩相手に格好よく啖呵まで切ってたし」
「ほほう? その辺り詳しくお願いします!」
亜羅椰の場合こちらは武勇伝というか食べ歩き録というか……それでも辰姫の零した言葉に二水がピクンと反応すれば、彼女も新潟での初戦闘の様子を語る。
「──あぁ。そういえばあの時いっちゃんがぼぼっ!?」
「あー、二水さん? こいつの言うことは話半分でいいからねー?」
「あっ、はい」
「キジも鳴かずば撃たれまい、ってやつだね」
確かにあの一件はリリィ新聞に投げ付けるには絶好のネタだとは辰姫も思うが、余計なことを言うなと後ろから壱に押されて顔を湯船の中に沈められた亜羅椰の様子を見ていればそれに続こうとは思えなかったし、二水もこれ以上は無理そうだと次の相手へ。
「あ、弥宙さん。今夜もこの後閑さんといつものやる予定なんですけど」
「ふふん、柳都のリリィ情報ならバッチリよ! 最新の擬似姉妹から各自の戦闘スタイルや愛用CHARMまで、なんでも聞いてちょうだい!」
続く弥宙に対してはこの後二人で根掘り葉掘り聞かせて貰うと約束を取り付けていると、閑と同室な梨璃のなんとも言えなさそうな声が横から飛んでくる。
「あはは、こんな日でもやるんだね?」
「二水さん、夜更かしは程々にするように。明日も授業はあるのよ?」
「き、今日中には……終わったらいいなぁ」
天葉との用事が終わり梨璃の隣へ陣取る夢結からも上級生としての注意が飛べば二水とて多少縮こまりもするが、それはそれとして固まっている三年生組の方へ向かおうとすると、そこには先客が一人──アールヴヘイムの二人と同じく三年生の雪華が、友人とは言えなくとも他人ではない程度の微妙な距離感でいた。
◆◆◆
「とりあえず、無事でよかったでいいのかな?」
「あら、同級生だって以上にあなたと私たちに接点があったかしら」
話し掛けた結果は素っ気ないというか本当にその通りだから言葉に困るけど、そんな綺更を嗜めるように若菜も会話に入ってくる。
「ふふ、後輩たちばっかり仲が良さそうで寂しいってことなんでしょう」
「んぐ。そう言われると、そうだけど……」
実際私は高等部に上がっても同級生とは余り積極的に絡んでいなかったから、そのツケが回って来たと言えばそうなる。その前から一人でいたがっていたのもあるし、レギオンの先輩たちとばかり一緒にいたのにしたって、私より強いから
「なら素直にそう言えば良いでしょうに。それとも、私たち相手なのは仕方なくだとでも?」
「依奈といい
「ガーデンの言うことを聞かない、という点ではわたしたちも元烏丸隊を言えなくなってしまったわね」
若菜が冗談めいて私たちを例えに上げた夢結たちも言っていたその部分、まあ私も今度それとなく天葉に探りを入れてみるか。大体こうなったのも、元は百合ヶ丘が色々理屈っぽいこと言って他の戦力出し渋ったのが一因でもあるんだし、なのにアールヴヘイムだけが悪いだなんて正直釈然としない内容では──
「ふーん、自分から話し掛けておいて一人黙り込むなんて、随分といいご身分ね?」
「うへぁ!?」
あっ、ちょ、やめ……うあっ……
◆◆◆
「ふふ、ここがいいのかしら?」
「なっ……んのっ……!」
「……まあ、くすぐられてるだけなんですけど」
「あの人のことはいいでしょ。これ以上閑さん待たせるのもあれだし、さっさと上がるわよ!」
一人考え込むような仕草で固まっていた雪華が綺更に弄ばれていては、今の三年生から何を聞ける状態でもないかと二水が呆れていると、弥宙に手を引かれて立ち上がらされる。
「あ……り、梨璃さーん、閑さん今夜もお借りしますね~!」
「う、うん?」
別に同室だからといっても彼女は梨璃の持ち物だとかそういう訳ではないのだが、そのまま二人の通り過ぎた入り口がバタンと閉められたからには、梨璃が何を言う暇もなかった。