お風呂会でまで分割が起きる…今回に関しては人数の問題、だけでもないんだよなぁ。前半は狂乱持ちの暴走と、後半の拾いたかったネタとで文字数はまた弾ける 何度だって息を切らして~♪
「えっと、お姉様?」
リリィオタクの集まりがあると出て行った二水たちを立ち上がって見送っていた梨璃は、再度座って湯船に浸かりながらどうしたものかと夢結の顔を見ていた。
「特に待たせている相手もいないのだし、わたしたちはもう少しこうしていましょう」
「えへへ、そうですね♪」
今日一日離れ離れだったのだからと、嬉しそうに湯船の中で体を夢結に寄せる梨璃。そうされた夢結の頬が赤く染まっているのは、お湯の熱さにあてられたからなのかどうなのか。
「梅様、そっち抑えててくださいね」
「おう、夢結の憩いの時間は奪わせないゾ!」
「……流石のわたくしもここで割り込む程無粋ではありませんが?」
「日頃の行いじゃろ、日頃の」
鶴紗と梅に肩を抑えられている楓はいかにも不服そうな感じだが、その目の前でふよふよと仰向けで湯船に浮かぶミリアムは冷めた目線を流していた。
「あーらおアツいこと。じゃあわたしも……樟美は?」
「天葉様のところよ。邪魔するっていうんなら、あんたも楓さんみたくしてあげようかしら?」
「うーん、いっちゃんに捕まるっていうのも悪くはないけれど、流石に馬に蹴られたくはないし今日は控えるわ」
梨璃たちに触発された亜羅椰も狙った樟美が同じ状態ならと最低限のラインは越えないようだが、それはそれとして壱の側へじりじりと近寄って──
「はいそこまで。まったく人にはさっさと契れって煽っといて、やることはやるんだから」
「あらら、見付かってしまいましたか。ではわたしはこれで……辰姫ー、上がるわよー」
しかし依奈に割り込まれれば亜羅椰とて諦めはするようだが、そのまま「はーい」と気の抜けた返事をした同室の辰姫を伴って出ていこうとするのは、素直すぎて逆に怪しい。
(ま、好きにやっちゃえば?)
(……っ! あんたと一緒にするな!)
──などと去り際に何を企んでいるのかと警戒していた壱の耳元へと囁くのだから、からかい半分というのが亜羅椰の真意だろうか。
「ホント、亜羅椰ってば隙あらば誰だろうと手を出そうとするわね」
「そ、そうですね。レギオン内外どころか、他所のガーデンの子にまで手当たり次第で困っちゃいます」
チャプ……と依奈が隣に座って浸かる水音や身体を流した後故に濡れた肩やタオルで髪を束ねていることから見える首筋すら、今の壱は何故か無性に意識してしまう。亜羅椰に言われたこととは関係なく、彼女の──番匠谷依奈の一挙一動をいちいち細かく見てしまうようになったのは、いったい何時からだっただろうか。
ある日レギオンに加入したばかりの彼女が自分の代わりに司令塔になると告げられ、壱はAZへ入るようにと言われた。その時の居場所が奪われたような喪失感と、急にその後釜に収まった彼女への怒りが混ざった、よく分からない感情は今でも壱の中に少なからずある。
しかしポジションのコンバートが壱のことを正当に評価しての采配だというのは、戦っている内に自分でも嫌という程に分かってしまった。だから余計に拗れて、捻れて……素直になんて、いつまで経ってもなれる訳がないと思っていた。
「それにしても、あたしの顔を見たらすぐ噛み付いて来た壱が、今ではこんなに大人しいなんてね」
「……いけませんか」
新潟に行く前、市街地での戦闘にいわく付きらしい第4世代CHARMを投入すると出撃直前に言われた時だってそうだ。自分になんの相談もなく……と暗い炎が心の中に渦巻かなかったなんて言えるような資格は既に失くしていたし、依奈と百由の覚悟にしても片意地になって半ば聞き流していた。なのに──
「分からないんです、あの時咄嗟に動いた自分が」
「……あぁ、新潟に行って最初の戦い? あの時は助かったわ、ありがと」
なのに新潟でのアールヴヘイムの初陣──それは崩壊しかけた戦線への救援のための出撃で、戦闘の最中依奈が突出してしまった場面があったのだが、そこで壱は考えるより先に身体が動き自身のレアスキルである『この世の理』のS級固有技〈神威の荒域〉と呼ばれるそれを解き放っていて、無数の光を放ち複数の標的を纏めて薙ぎ払うその力により依奈を取り囲んだヒュージは瞬く間に殲滅された。
その時は柳都のリリィを救出するためだったとはいえ、我ながらかなり迂闊であったとは依奈も思っていたから素直にお礼の言葉を告げるが、それを受けた壱はひねくれた返ししか出来ない。
「……いいんですか、わたしなんかにそんなお礼を言っちゃって」
「なぁに、まだ気にしてるの?」
「ずっとしてますよ! 最初から依奈様たちはわたしを含むレギオン全体のことを見ていたのに、わたしだけが無理に意地張ってて……こんなの、子供みたいじゃないですか!!」
高校生など本来まだまだ子供だとか、そんなことは関係ない。壱は過去に一度人間関係で
「ねぇ、壱。新潟に行く前、あなたにフィニッシュショットを任せた時のこと覚えてる?」
「依奈様の操るエインヘリャルのビットがわたしの取り損なったマギスフィアを弾いて、わたしにパスをくれましたよね。なのにわたしは、戦闘が終わってからも不貞腐れたままで……」
(……ん?)
壱の反応にはどこか覚えがある。これはその戦いより前の、雪華たちとの演習場での戦闘の後フィニッシュショット前のミスを気にしていた依奈自身と被るのではないか? という結論に行き着くと、依奈は拳を口に当て笑いを押し殺す。
「くっ、ふふ……」
「な、何がおかしいんですか!?」
「ごめんなさい、これはあたし自身へのよ。ああいや、壱も関係はあるのか」
そういえば、あの演習場での一件から自分も他人への当たりが少しは優しくなれたなと依奈が思い出しついでに考えていると、壱がピンと指を揃えて伸ばした手を差し出していた。
「これは?」
「……仲直りの、握手です」
そもそも依奈と壱との間に直す程の仲など何時の間に出来ていたのか? という疑問は浮かぶが、こう言ってくれたということは少しは歩み寄ってもいいと思って貰えたのだろうと、依奈は笑みを浮かべてその手を取る。
「そう。じゃあ、改めてよろしくね〈
「〈プランセス〉にそう仰って頂けるのなら、光栄です」
お互いに敢えて異名の方で呼び合うように壱からの返しはまだ固いし、結ばれた手も物凄く固いどころかむしろめちゃくちゃに痛いが、彼女の表情からは自分に向けられる険が取れたように思えたから、全てはここから始めればいいのだろう。
──勿論、何度か壱が声を荒げていた以上、大浴場内の他の面々からの注目などとっくに引いている訳で。
「本当に、ここまでやるくせに契らないっていうのはおかしいですわよね」
「……多分、そうやって周りが冷やかすから余計に契り辛いんじゃない? からかわれるのが目に見えてるから」
『ファンタズム』による予測だとかでなく、単に気質からリアクションが分かりやすい部類になる二人だからとの鶴紗の分析には楓も納得して頷けば、浴槽の縁にもたれながら片足を水面に上げ呟く。
「まあ、意地の張り過ぎもよろしくないとは思いますが」
「……楓も梨璃さえ絡まなければ普通のこと言うから、対応に困るんだよナー」
「それこそさっき言われておった亜羅椰同様話半分でよいぞ、こやつらはそういう生き物じゃ」
なんとも微妙そうな表情で楓を見る梅には、レギオン内で彼女と最も付き合いが長いミリアムから半ば諦めろとの宣告が。
「ぜぇ……はぁっ……それで、ノルンにはなれそう?」
「無理ね。あの子、一度こうと立場を決めたら全然関係が進まなくなるから」
その間にようやくくすぐり地獄から解放された雪華だが、彼女からの質問に答える綺更はシルトのシルトが出来る見込みのなさに、呆れているのか面白がっているのかは半々といった様子。
「でも、悩みの種はひとつ消えたんじゃないかしら?」
「……これくらい、自分でなんとか出来ないと来年困るのは依奈自身よ」
そこでルームメイトである若菜からの指摘にも素直に答えない辺り、やはりシュッツエンゲルというのはどこか似た者同士が結びがちということなのか。
「あーっと、うちの依奈がごめんね?」
「いっちゃんの場合、あれでも十分歩み寄れた方……です」
一方渦中の二人とそれぞれルームメイトな天葉と樟美の二人は、天葉が逃げ場のない角にいるままだからとギュッと樟美に抱き付かれている形で、それを見ていた。
──とまあ先に上がった二組を除いても2レギオン相当のメンバーに見られていた、というのを当の依奈と壱が自覚すればどうなるかというと。
「~~~~~~!!」
「────────!!」
二人して耳まで真っ赤になりながら声にならない悲鳴を上げ、依奈は顔の半分まで湯船の中に隠れ、反対に壱は慌てて浴槽から飛び出すと入り口目掛けて一目散に駆け出していた。
「走ると危ないよー」
「……だから言ったでしょ」
「おー、流石鶴紗だナ!」
樟美と鶴紗、各レギオンのファンタズム持ち二人がレアスキルを使うまでもなく読めていた結果には特に慌てることもなく反応し、残った依奈に大しても周りからの視線は暖かい。
「ふふ……」
「樟美?」
そうして周りの騒がしさが収まった頃、シルトの溢した笑みに天葉が首を傾げると、見上げてくる瞳と瞳が合う。
「よかったなぁって、思います」
「うん、そうだね……新潟も救えて、皆無事で」
「でも、最後に無茶したのはめっ、です」
樟美が話題にするのは新潟での戦いの最終局面、天葉がマギスフィアを抱えたままファーヴニルへ突撃を掛けたこと。
柳都の精鋭と2代アールヴヘイムによる同時攻撃により相当弱らせていたとはいえ、アルトラ級からの攻撃に自身のレアスキル『ヘリオスフィア』を全開にさせて真っ正面からその中を突っ切って最後の一撃を叩き込んだ天葉が、気を失ったまま刀身の砕けたフラガラッハを手に力無く空から降ってくる光景をファンタズムで『視た』時は樟美も生きた心地がしなかったし、天葉も天葉で気絶から目覚めた瞬間のシルトの泣き顔は勝利の余韻も吹き飛ぶ程で、二度と樟美にこんな表情はさせたくないと思えた。
「今日はかなりひっついてくるのも、そういうこと?」
「はい……もう何処にも行かせません……!」
これはしばらく離してくれそうにないぞと未だに周囲の視線を避けるように沈んでいる同室相手の方をチラリと見れば、当の依奈には「好きにしなさいよ」と言わんばかりに目を逸らされる。
「分かった。じゃあ今日は向こうの部屋で一緒に寝よっか」
「……はい、天葉姉様♪」
共に精神的な問題から特別寮入りとなっていた去年、天葉と樟美が揃って暮らしていた部屋は未だにそのまま残して貰っていたし、実際今年になってからもよくそっちで過ごすことは多い。だからまあ、心配をかけた分のツケは早い内に払っておくしかなさそうだ。
「なんだか、ああいうのって憧れちゃいますね」
その仲むつまじいシュッツエンゲルの様子に、ふと零れた梨璃の言葉に夢結は少しバツが悪そうに答える。
「……そうかしら。わたしたちの場合も心配を掛けるとしたら主に姉なわたしの方になるのでしょうし、シルトにばかり負担を掛けるのはフェアじゃないわ」
「だとしても、お姉様の力になれたらわたしが嬉しいからいいんです! だから、わたしが困ってる時にもお姉様がわたしを助けてください。それでおあいこです」
夢結のすぐネガティブな思考へ向いてしまう癖は直ぐに治せる物でもないだろうし、それは周りも分かっていたから雪華は一度距離を取り、梅は近すぎず遠すぎずな位置を保ってくれていた。だがそんな先輩二人とも違う選択を取れる梨璃だからこそ、こうしてシュッツエンゲルに留まらず夢結を巻き込んでレギオンという形を創れたのだろう。
それに応えられるかは夢結自身まだ分からなくとも、改めて誓い合った以上梨璃の頑張りには相応のお返しがしたかった……その結果今日一日かけての遠回りはしたが、今こうして彼女の側にいられるのなら、そこにもう後悔はない。
「えへへ……♪」
何より、自然と伸びた夢結の手に優しく髪を撫でられて浮かべる梨璃の幸せそうな笑顔に会えたのなら、自分の帰る場所は彼女の隣でいいのだろうと夢結は思えた。それは多分、幸せなことなのだろうから。
◆◆◆
「あ゛~、酷い目に遭った……」
「ふふ、ですが綺更様は楽しそうでしたよ?」
「それは人を玩具にする楽しさでしょうが……」
お風呂から上がり脱衣所で部屋着に着替えてタオルでまだ乾ききっていない髪を拭いてる途中で神琳さんにからかわれていると、名を呼ぶ声を聞き付けたか当の綺更まで寄ってくる。
「ふぅん、郭神琳さんだったかしら。あなたも中々見込みがありそうね?」
「あら、光栄です」
「なんの見込みよ、なんの」
やけに笑顔な綺更の様子といい仰々しいお辞儀で応える神琳さんといい、絶対ろくでもないだろうというツッコミが通るような二人でもなく、このままでは先程の二の舞だと道連れ……もとい救援を探せば目に止まるのは──
「げっ」
「よし」
こっちに気付いた時の嫌そうな声など知らんなと、シュッツエンゲルの責任はシルトに取って貰おうかと依奈を捕まえれば、そういえばという風に神琳さんから反応が。
「ところで依奈様、あれから調子はよろしくなられたようで何よりです」
「……別に、あなたに心配されるようなことでもなかったわよ」
依奈の返しは一見相変わらずのつっけんどんに感じるが、表情や声音はこの前の演習場の頃と比べて大分優しくなっている──というのは彼女の姉をやっている綺更に目配せをしてみると頷かれたので太鼓判を貰えたようだし、今の状況にも面白そうにしている。
「ふーん、これは壱もうかうかしていられないかしら?」
「いえ、わたくしに横恋慕の趣味はございませんので、そこはご心配なく」
「まだ契ってないんなら、そうは言わないんじゃあ……?」
なんて会話に混ざってくるのは、ちょこんといつの間にか長椅子での神琳さんの隣を確保していた雨嘉ちゃん。彼女がいるのに気付くと、神琳さんも当然のように体を寄せて見せ付けるようにしてくるし。
「それに、わたくしにはもう雨嘉さんがいますから」
「あーはいはい、おアツいことで……ところで、今更だけどあなたたちって今年からよね?」
「? はい、わたしが日本に来たのが3月ですから」
いや、そこでなんで首傾げるかな雨嘉ちゃん? 実際依奈の疑問はもっともというか、ここ二人はお互いに希望しての同室──即ち同学年でのシュッツエンゲル相当の関係であるはずというのに、その組み合わせが来日したばかりで入学したてな子と生え抜き組の子だというのは結構な謎な訳で。
「で、その辺りどうなのさ神琳さん?」
「ふふ、企業秘密です♪」
答えはイタズラっぽい表情でウインクしながら、立てた人差し指を口の前に添える構え……いやまあ神琳さんが何を考えてヘイムスクリングラから日本に来た雨嘉ちゃんに同室を申し込んだのか、彼女も何を考えてそれを受けたのかなんて、散々聞かれはしてるんだろうけども。
「中々の強かさね」
「どういう感心ですかお姉様」
「…………?」
いや、だからそこで何も知らない顔しないでね雨嘉ちゃん???
◆◆◆
「ふぃゆぃ~……大分長い間浸かってたから、のぼせちゃったかも……」
それでも憧れの夢結お姉様と一緒にお風呂に入れるだなんて体験を済ませたのだから、火照った体から来る気だるさより嬉しさの方が勝っていると、寮の部屋に戻ってパジャマ姿でベッドに倒れ込みながら、思い出し笑いを抑えられない梨璃。
「ふふふふふ~……あれ、メール来てる」
ケータイのランプが点滅していることから気付いたそれに、こんな時間に誰だろうかと入浴中に届いていたらしいそれを開くと、文面を読み上げてみる。
「えーと『おたんじょうびおめでとうりり。よく分からないけど。こういう日はおいわいするんだって。まつり?が言ってた。だからおめでとう!』」
まだ文章のほとんどがひらがなだし書かれ方もあやふやであるが、例の海岸で拾った少女からの物のようだ。接している内に判明したこととして彼女はどうにも過去の記憶がないらしい故に常識から何からを一から勉強中なため色々拙いところはあるけども、普段お世話になっている梨璃への感謝の気持ちは籠っていると感じられたから夢結と過ごしている時とはまた違う温かさが梨璃の心を打ち、ひとつの決心をさせる。
「……うん、いつまでも『あの子』じゃダメだよね」
「あら、なんの話?」
「うひゃう!?」
どうやら梨璃が自分の世界を構築している間に二水たちとのいつもの語らいを終えた閑も帰ってきていたようで、壁際のソファに座りながら質問を飛ばしてきたのに気付くと梨璃はすっとんきょうな声を上げていた。
「そんなに驚かなくても……」
「ご、ごめん……ちょっと考え事してて」
「あの子からのメール?」
これは結構早い段階から聞かれていたパターンだ。と恥ずかしさやら何やらが込み上げてくるが、閑が呆れるのもほどほどに口を開けば梨璃も現実に引き戻される。
「記憶がない、と聞いたけれど……それなら、あまり深入りしない方がいいかもしれないわね」
「それって、記憶が戻った時に離れ離れになるかもしれないから?」
「……というより、彼女の存在が非常に危ういからよ」
生徒会の一員、そして何より梨璃と近しい立場故に閑も横浜での出来事は聞かされているし、その直後に例の少女が見付かったと聞けば誰に何を教わるまでもなくその裏側の可能性には行き着いた。
彼女がゲヘナの手の者に襲われるなりして、無理矢理実験に使われた被験者などの理由で帰る場所がないのならばまだいい。変わらず百合ヶ丘で保護出来るのだから──しかしいくつか浮かぶ最悪の可能性、初めからゲヘナ側の存在だったとする場合のそれを告げることすら梨璃を傷付けることになるから、閑も頭で考えはしても直接口にするのは躊躇ってしまう。だから暈した言い方しか出来ないが、方向性はともかく心配だというのは梨璃にも伝わったみたいだ。
「うん、そろそろ寮の方に移るかもって聞いたけど、まだちゃんと一人でやれるか心配だよ……」
「……過保護ね。けれど特別寮は中高問わずだし、誰しも訳ありなこともあって内側の結束は
取り越し苦労であることを祈りながら話をそちらに逸らす閑も、また梨璃に対して過保護になりそうになっているのかもしれないが、少し世界の裏側を知っているからと思考がネガティブに寄りすぎているのも否定出来ないのと、信じてみたい気持ちとで揺れ動いているのだろうかと客観的に自身の考えを分析する。
「そっかぁ。流石閑さん、色々知ってるんだね!」
「別に、これくらいは長く百合ヶ丘にいれば自然と耳に入る情報よ」
「でも、閑さんの方が後からレギオンメンバー集めだしたのに、先に結成してたし……SSランクだし……生徒会長もいるし……」
確かに事実として閑の方がレギオン結成に動き出したのは遅かったし、そのメンバーに生徒会長の一人〈ジーグルーネ〉である
「わたしの方は幼稚舎から司令塔となるべく教育を受けていたし、その間の知り合いや実際に何度か組んだことのある相手も多かったもの、今年からリリィになった梨璃さんとは条件が全然違うわ。それで同じくらいの時期に結成出来たのなら、少し遅れた程度は問題にならないでしょう」
だからこれはお世辞でもなんでもなく、閑も素直に梨璃の頑張りを讃えているだけだと言いたいのは分かる。それ故にむず痒いというのも、また事実なのだが。
「そ、そうかな?」
「人と人との出会いは一期一会……その縁を“繋がり”と物に出来たのなら、それもまたその人の持つ力よ。あまり謙遜し過ぎるのも、梨璃さんの元へ集まった仲間に失礼になるんじゃないかしら?」
「うん、そうだね……ありがとう閑さん!」
「お礼を言われるようなことでもないわ」
「じゃあ、このプレゼントの分も一緒にってことで」
そこでベッドから起き上がった梨璃が手に取る小箱の中身は、閑から誕生日プレゼントにと送られた黒地にピンクで縁取られているリボン。自分には少し大人っぽいと思うが、折角貰ったからには似合うコーディネートでも考えるべきなのだろうかと、箱を机の上に戻しながら梨璃は内心張り切っていた。
「それこそ……ルームメイトとして当然よ」
「だから、来年はわたしもちゃんと用意するからね!」
閑の誕生日は4月も頭な2日であり、梨璃が入寮した時にはもうとっくに過ぎていた。だから来年こそは普段の感謝を込めたプレゼントを渡したいのだと意気込むが、閑の調子は変わらず冷静に返してくる。
「そのためにはしっかり生き残らないとよ。わたしたちリリィは、いつだって当たり前のように明日を迎えられるとは限らないんだから」
「うん……憧れだった夢結様のシルトになれたけど、それはゴールじゃない。レギオンを作ったりして、もっとお姉様と一緒にいられるようになったけど、まだわたしはリリィとしては入り口も入り口に立ってるだけで……だから、まだまだ閑さんや皆に色々教わらないといけないんだと思う」
「そんな状態なのに追加で厄介事を抱えているのだから、わたしのルームメイトは本当に忙しないわね?」
「あ、あはは……」
話題のあの子のことを指してな閑からの言い方には少しの手厳しさを感じるが、時折浮わつきがちな自分には誰かが隣で現実を見ていてくれているくらいでちょうどいいのだろうと、梨璃は顔の前で手を合わせ閑を拝んでいた。
「なので、多分今しばらくと言わずお世話になります!」
「はい、お世話させてもらいます。本当に、変な子ね」
付け加えられた言葉には梨璃へ呆れているようで隠しきれない優しさが滲み出ていたから、梨璃もぎゅっと閑に抱き付く。
「梨璃さん?」
「………………」
誰に言われずとも見えない未来への不安はある。自分なんかにレギオンのリーダーが務まるのか、いつかは自分も戦場で命を落とすのではないか……始まりは故郷、避難の最中大人たちとはぐれてしまった夜での出会い。
そこで出会ったリリィの片方、夢結のシュッツエンゲルであった川添美鈴はその直後に帰らぬ人となったという。ほとんど一瞬の邂逅でも分かる程に強く格好良かったあの人でも、戦いという物は無慈悲に奪い去る……戦場での死なんて直接目の当たりにした訳ではないからまだぼんやりとしたイメージしかないが、梨璃とて知っている誰かが『いなくなる』のは嫌だし、だから鶴紗のことも必死で助けに走った、そして自分のせいで他の誰かにそんな想いもさせたくはない。ならば結局閑の言うように生き残るしかない──自分一人でなく、仲間と共に。
「共に戦い、共に生きる……」
「あら、雪華様から教わった……訳ではなさそうね」
「ふぇ? わたし今何か」
「それでいいと思うわよ? 深く考えるより先に行動に移す。それこそ梨璃さんらしいもの」
梨璃が無意識に呟いたのだろう言葉は、かの先輩がかつていたレギオンでの教え。影響を与えまた影響されてもいる──それはレギオンの仲間として好ましい関係を築けていることの証なのだろうから。
「うん、そうなのかも?」
「ええ、だから周りは必死にフォローしないといけないのだろうけれど……皆もう慣れたでしょう。何よりわたしがそうだもの」
「えへへ、それほどでも」
「今のは誉めたつもりじゃ……いえ、そうと変わらないわね」
梨璃のことを『変な子』だと言いながらもそれを不快に思う気持ちはなく、今まで閑の周りにはいなかったタイプ故に閑自身もまた、彼女にお互い影響し影響されているのだから。
そもそもは自身のシュッツエンゲルな
「ふふ……」
「これからもよろしくね、閑さん♪」
だから閑の溢した笑みに合わせて梨璃に手を取られれば、優しく握り返すくらいには伊東閑は一柳梨璃を好ましく思っている。それだけが、二人の間での揺るぎない事実なのだろう。