アサルトリリィ~円環の赫星~   作:ですティニー

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前回のあらすじ:えないちはよ契れと新潟奪還戦もよろしくとしずりりタイムと。
ようやく元で言う折り返し地点、細かいタイムテーブル分からんけど大体これくらいかなと進んどります。そして戦闘シーンは何話ぶりか…暴れるとしようか、タイトルの子が(え)


電撃の行く末/ワンマンアーミー

 数日後、いい天気ではあるけど私の心はその様子に反して混乱していた。

 

「で、なんでこんなピクニック気分なのさ?」

 

 この間の意図せず発生した横浜遠征でぶっつけ本番ながらノインヴェルト戦術こそ経験したが、梨璃ちゃん・二水ちゃん・ミリアムちゃんの新米一年トリオのようにまだ集団戦のなんたるかを体で覚え切れていない子も多いと、百合ヶ丘でも屈指のエリートレギオンである2代アールヴヘイムの戦闘を見学することになった──まあここまでは分かる。

 

 なのになーんでいつもの廃墟エリアの端っこの建物の上で、夏前の強くなりだした日差し対策なのかパラソル差してテーブルに椅子まで用意され、挙げ句サービスですと言わんばかりにドリンクまで出て来るのか。お嬢様の意味間違えてない?

 とはいえ出されたからには頂いておくかと、オレンジジュースの入ったグラスに刺さっていたストローを抜いてから一気飲みをしている私のところにゆらりと亜羅椰ちゃんが近寄ってくれば、その視線は私の左手へ向いていた。

 

「それだけの安全を約束している、ということですわ。それにしても、折角専用機の帰ってきた雪華様を目の前にしてお預けとは、なんて残酷なのかしら……その指輪『本気(マジ)』なんでしょう?」

 

「そうは言うがね亜羅椰ちゃん、前の調子でやるんならお互いCHARMぶっ壊してアーセナルに怒られるだけだと思うけど? 大体、今度はそっちが外征帰りで専用機絶賛修理中でしょうに」

 

 それに百合ヶ丘の外征旗艦レギオンとしてあちこち飛び回るアールヴヘイムで私や汐里ちゃんみたくホイホイCHARM壊すような癖が付くのって、お抱えのアーセナルが血涙する羽目になるだけだと思うんだけどなぁ。実際毎度お馴染みの弥宙ちゃんと辰姫ちゃんのアーセナルコンビが「マジか」って感じの死んだ目でこっち見てきてるし。

 

「前回のはわざと壊させた、の間違いでしょうに」

 

「でも、結局あのままやってたら量産機同士『砕け散るまで戦え!』だったと思うよ、経験則だけど」

 

 混ざってくる天葉からのツッコミもなんのその、『フェイズトランセンデンス』はS級であろうと結局発動後のパフォーマンスの低下は多少なりと発生するのだから、注がれるマギが減れば当然本人のみならずCHARMの守りも弱くなる、であればあの割り込みさえなければ最後の一撃で亜羅椰ちゃんのアステリオンを砕き返せたはずだろうて。

 ……まあそこまでやってたら「下級生相手に何マジになってんの?」って私が工廠科一同に怒られてただけなので、止めてくれたこと自体は感謝だけどさ。

 

「でも、この前百合ヶ丘に帰ってきたばっかりでよかったの? 見たところCHARMもほとんど予備機だし」

 

 繰り返しになるがアールヴヘイムはつい先日まで新潟へ駆り出されていたこともあり、その際に手配されたはずな機体を含む各々の専用機の姿は見えず、天葉の持つそれも個人としての専用機であるフラガラッハではなく、あくまでアールヴヘイムの一員としての機体であるグラムだ。

 

 というか、依奈と月詩ちゃんの二人が折角の『円環の御手』だっていうのに片手分しかCHARMがないって、最早満身創痍なのでは? 件の戦いにはあの時百合ヶ丘に来ていた麻嶺のツテと御台場迎撃戦での縁で知り合いの多い東京のガーデンである〈御台場女学校〉まで頼ったと聞くし、軽く内容を聞いただけでもその激しさは伺い知れない。

 

「まあ当番だって言われてる以上は仕方ないですし、夢結や梅からの頼みだからっていうのもありますけど……一番はあの子が気になったから、ですかね? 雪華様としてはどんな感じです」

 

「「…………」」

 

 そう彼女がチラリと見る先には梨璃ちゃんが……てかなんだねその向こうの楓さんと鶴紗ちゃんや、じとーっと見てくるその目は。あたしゃあ梨璃ちゃんには手ぇ出さんし、天葉にしたってもうシュッツエンゲルもシルトもいるでしょうに、多分そのシルトこと樟美ちゃんなんだろう背中からの視線も痛いし。

 

「んー、頑張ってるんじゃないかな? 一匹狼気取りだった夢結や鶴紗ちゃんが今この場にいるの、梨璃ちゃんが損得考えずただ助けたいって一心で飛び込んでったからだし」

 

「だから危なっかしくて、放っておけない?」

 

「ご明察。ああいう子は誰かがいつも見てないと、一人で無茶して驚くくらいあっさりと逝っちゃいそうで、なんか怖くてさ」

 

 善人ほど早死にするってのはまあ、大抵はそういうことなんだろう。それに誰かのために迷わず動けるからこそ、よからぬ輩にそういうところを利用されたりなんかも、今の世の中じゃあ十分あり得るし……我ながら擦れてるとは思ってるけど、そういう『悪党』の存在を知っているものだから、私にはこういう言い方しか出来ない。

 

「ま、なんにせよ万全じゃないんなら無理はせずにね」

 

「ご心配なく、あたしたちも柔な鍛え方はしてませんから。それに、ワガママを通した以上多少の無茶振りは受け入れますよ」

 

「ワガママ、か」

 

 天葉の語り口には少し自虐的な響きが混ざるし、その様子を見た亜羅椰ちゃんは鼻を鳴らして露骨に不満そうにしているが──新潟での戦いが佳境に入った頃、件のアルトラ級ファーヴニルの咆哮に呼応して東日本各地のヒュージネストが活性化し、事態を重く見た学院側は百合ヶ丘の守りを固めるためアールヴヘイムへ帰還命令を出していたとか……いや、そこで元凶野放しにして受けに回ったらそのまま詰みじゃね? 上の判断は時々どうにも分からん。

 

「ああ、帰還命令突っぱねて突撃したってやつ? あたしは結構好きだけどなぁ、そういう自分を貫き通すワガママって」

 

「……そうですか?」

 

 とはいえ、その時新潟にはファーヴニル以外にも戦いの最中他のギガント級ヒュージの亡骸を取り込みギガント級からアルトラ級へと成長した個体もいたらしいのだから、仮に命令に従っていたところで無事撤退できたかは怪しいけど。

 

 ……というか実際その帰り道で、別口の群れと遭遇したからこそなこのCHARMの損耗具合なんだし。結果論にせよ万一新潟の方を放っておいたら、果たして今私たちはこうしてのんびり話してなどいられたのか。

 

「そうだよ。実際そのアルトラ級が討たれなければ百合ヶ丘もどうなってたか分からないし……私たちだって鶴紗ちゃんを助けるために大分無茶はやったけど、それで救われた命があるんならそれは素敵なワガママだったって、今でも胸を張って言える」

 

 もしどうしようもない選択を迫られた時『何が正しかったか』なんてのは全部が無事に終わった後だからこそできる仮定の話だというのなら、そういうことを語れる今がある以上そこに間違いはなかった……ということにならなければ、それまでにやったこと全てが嘘になってしまうから。

 

「だから天葉も、自分は間違ったことなんかしてないってドーンと構えてりゃいいのよ。あの戦いには〈電撃新潟奪還戦〉なんて素敵な呼び方も付いたんだからね」

 

 電撃新潟奪還戦──アールヴヘイムと柳都女学館が誇る精鋭リリィたち、御台場女学校から来たふたつのレギオン〈ロネスネス〉と〈ヘオロットセインツ〉。そんなガーデンの垣根を越えた豪華メンバーにより実行された、二手に別れての二体のアルトラ級を同時に強襲した電撃作戦。

 リリィ新聞の号外で、新潟奪還までの激戦を最後の戦いから取ってこう評し後世に語り継がれるべき物だと称えることを許されたのだから、認可した生徒会も規則通りの罰則以上に何かを言うつもりはないのだろう。彼女たちとて、時にその命を懸けて戦うリリィなのだから。

 

「あはは……独断専行の常習犯な雪華様に言われると、妙に説得力がありますね?」

 

「ま、自覚はあるよ。けど曲げちゃいけないところがひとつは無いと、人間すぐ楽な方楽な方に逃げちゃって、あっという間にダメになっちゃうからさ」

 

 持論と呼べる程のものでもないけど、立ち向かうことを止めてしまえばそこで終わり。今の世界ってのは多分そういう風になってしまっているのだろう……その手に望む未来を求めるのなら、行く先に何があってもただ真っ直ぐに突き進むしかないのだから。

 

「ふふ。じゃあ、あたしたちも今から楽じゃない現実と必死に戦うとしますか」

 

 そんな風に言いながらグラムを肩に担いでみせる天葉からは気負った様子がなくなったから、少しは気が晴れたのだろうと思いたい──しかし、それとは別にどうにも先程からこの妙に身体中の神経がザワつく感覚は、いったいなんなのか。

 

 あと、視界の端に見えた通りすがりな依奈からの目線がまたしても刺々しい。いやだから君たちね?

 

◆◆◆

 

 雪華への牽制も程々に本来の目的である夢結の隣へたどり着けば、やれやれと肩を竦めている依奈。

 

「まったく、あの人は油断も隙もない……」

 

「でも、少し安心したわ」

 

「……何がよ」

 

 しかしそんな依奈を見守る風でいる夢結の視線はどこか優しく、決して悪い意味ではなかろうと何処か釈然としない。

 

「少し前までの依奈は、まるで抜き身の刃物みたいだったもの。こうして天葉の周りを気にする余裕ができたのなら、良い変化だと言えるのではないかしら?」

 

「それこそ長いこと切れたナイフみたいだった夢結に言われてもねぇ……まあ、努力はしているつもりよ」

 

 だからレギオン内でのギクシャクとした関係も新潟に行く前から少しずつでも清算出来ていると思いたい依奈は、これ以上はとりつく島もないと諦めた亜羅椰の向かうアールヴヘイムの一年生たちが固まって談笑している方へ目線を向けた。彼女たちの中心となっている、ライトグリーンの長髪をその瞳の中に映して。

 

「なら、シルトには取らないの? 思っていたよりも悪くないものよ、シュッツエンゲルになる経験というのも」

 

「……どうかしら。あたしも夢結みたいに後輩へ全てを委ねられるのなら、そんなに苦労はしないんだろうけど」

 

「なっ、何故それを……二水さんの仕業ね」

 

 まだ直接見掛けてはいないが、先日の梨璃の誕生日会での一件が二水に連写されていたことを考えると恐らくは今週のリリィ新聞でまた自分と梨璃とで一面を取ってしまったのだろうと、依奈のからかうような様子から察した夢結が頬を朱に染めながらそっぽを向くのだから、それ以外にも二人のイチャイチャをよく見掛けている依奈としては、その様子がおかしくて思わず笑ってしまうしかない。

 

「くくく……あの白井夢結をこーんなに可愛くしちゃうだなんて、とんだ一年生もいたものね」

 

「……それは、どっちのことを言っているのかしら?」

 

「両方よ両方。折角だしあたしもリリィ新聞に初代アールヴヘイム時代のあれこれを垂れ込みしちゃ──うのは止めとくわ、うん」

 

 少しからかいが過ぎたのか、ゆらゆらと夢結がよからぬタチのオーラを纏っているように見えてしまった以上は触らぬ神になんとやらだと、依奈は弛い敬礼を残してそそくさと天葉の隣まで退散する。

 

「まったく……心配をかけたのはお互い様か」

 

「お姉様?」

 

 先程までの会話は依奈の反対側から照れ気味に眺めていた梨璃だが、夢結の様子には天葉のように自虐が混ざっているように聞こえたので、彼女の側へズイッと近寄る。

 

「り、梨璃?」

 

「心配してくれる人がいるのって、素敵なことだと思います!」

 

 だからもっと素直に甘えてもいいのだと、そう言いたいのだろうか。熱意が先走って少し言葉足らずになっているシルトの様子に夢結の頬もまた少し緩みそうになるが、聞こえたヒュージの襲来を告げる鐘の音に意識を切り替える。

 今から自分たちが出撃する訳ではないとはいえ、いつヒュージ側の増援などのイレギュラーが起きるとも限らないのだから、見学であろうと無警戒ではいられない。

 

「それじゃあ始めますか。アールヴヘイム、出撃っ!!」

 

 天葉の号令に続いてアールヴヘイムのスタメン九人が飛び出せば遠目にヒュージが上陸するのが見え、その姿は事前に通達のあったレーダーの反応通り多少小ぶりには見えてもラージ級より数段上のサイズ──すなわちギガント級であるのが分かるが、それを視認した辰姫は首を傾げていた。

 

「なんだろう、あのヒュージ……苦しんでる?」

 

 その理由は彼女が持つ〈異能〉──極一部のリリィに開花するとされるレアスキルともまた違う固有の特殊能力から来るもので、その中でも森辰姫の有するそれは()()()()()()()()()()()という超越感覚。

 下手なレーダーより正確とされるそれは上陸前からブツブツと呟くようなその声を捉えていたが、こうして対峙することでよりはっきりと呻くようなヒュージの声を認識すると、それを口の中で繰り返す。

 

「『イタイ、アツイ、クルシイ──』」

 

 ヒュージの姿は見たところ鞭のように触腕を振り回すのが特徴な浮遊タイプであるウィッパー種で、苦しみを訴えるような声は所々に継ぎ接ぎのような補修の跡が見えるレストアであるが故なのか、あるいは別の要因があるのかは知らないが……彼女にとってはどちらでもいいことだ。

 

「──じゃあ、その痛みごと辰姫がお前を消してあげる!!」

 

─ルナティックトランサー─

 

 辰姫が〈ワンマンアーミー〉と称される所以である汽笛のようなレアスキルの発動音と共に瞳を赤く染め、空色から赤黒く変色するマギをオーラと纏った彼女はBZより一人突撃しながらヒュージが振り回す蛇腹状の触腕の間を抜けて、ギガント級の側面へティルフィングでの一撃をお見舞いする。

 

「あぁ……やっぱりギガント級ともなると手応えも格別、ねっ!!」

 

「ちょ、ちょっと辰姫っ!? 今日は一柳隊にわたしたちの連携を見せるんだから、そういうのナシって言ったでしょうが!!」

 

 当然その場の思い付きでの行動なのだから勝手にフォーメーションを崩し単身突っ込みましたなどたまった物ではないと、グランギニョル社製の機体である槍型の射撃用CHARM『マルテ』を構える弥宙はカンカンである。

 あの楓・J・ヌーベルの前で戦うからと、今日この日のためにわざわざ手持ちCHARMの中でもワンオフの専用機(コルブランド)に次いで高価なこれの調整を間に合わせんがためなけなしの睡眠時間も削って整備したというのに、それをたった一人の暴走で台無しにされるなど冗談ではない。

 

「よっと」

 

 そんな弥宙がショックに叫んでいる横を抜けて前に出る亜羅椰は、本来の前衛になるはずだった壱の横に並ぶとその肩へ手を回す。

 

「とはいえ、今の辰姫に何言っても『聴こえない』でしょ? いっちゃ~ん、そういうことだから」

 

「分かってる、辰姫と亜羅椰のツートップに切り替えるわ。依奈様、あかねぇ、それでいいですか?」

 

 亜羅椰の誘うような手をにべもなくペシッと払うと、メイン・サブの司令塔二人にフォーメーションの変更を具申する壱。結局アールヴヘイムはそのメンバーのほとんどが突撃したがりなのは初代も2代目も変わらず、この程度は慣れた物だと二人の返事は揃っての首肯。

 文句無しの承認が出たのならばとチラリとそちらを見ていた亜羅椰もアステリオンをアックスモードに切り替えながら突入し、ヒュージへ一人で立ち向かう辰姫の元へ向かう。

 

「フフフ……さあ、もっと辰姫を楽しませてちょうだい!!」

 

「あーあ、思いっきり暴走モードがフルスロットルね。巻き込まれないようにっと」

 

 この個体はギガント級の基準からは若干小さいとはいえ、それでも人間から見れば相当なサイズ差のある相手になる。だが辰姫は怯むどころかむしろ興奮し恍惚とした笑みを浮かべているのだから、いつもの悪い癖が出ているなと亜羅椰も直接の援護には入らず、ルームメイトに迫る触腕を横からCHARMで弾くに留めていた。

 

「あれ……?」

 

 それを支援するべく高台でグラムをシューティングモードに展開し狙いを定める天葉だが、この戦場の空気に少しの違和感を覚え足を止めていると、隣に降り立つ依奈に声を掛けられる。

 

「いきなりぼーっとして、どうしたのよソラ?」

 

「……あのヒュージ、レストアみたいなのにリリィをまるで警戒していない?」

 

 レストア──レストアードとはリリィと何度か戦い生還したヒュージのことであるというのが大前提となるが、このヒュージはむしろノーガードでルナティックトランサーを発動した辰姫とやり合っており、触腕での攻撃も護衛のように立ち回る亜羅椰や彼女らのフォローに入る一年生組の支援射撃の前には抵抗らしい抵抗になっていない。

 リリィと戦い慣れているが故のレストアであるはずなのに、このヒュージの戦い方からはそういった経験から来るべき物があまりにも感じられず、時折の死角からの一撃もサイズ差から振り回した触腕がたまたまそうなっているだけだと言われた方がまだ信じられる程に、やり口が雑であった。

 

「さっき辰姫ちゃんは『苦しんでる』って言っていたし、もしかしてあのヒュージ……酷い風邪か何かみたいな状態なのかしら?」

 

「ヒュージが病気ぃ? 流石に考えが突飛過ぎない茜?」

 

「ううん、多分そんな感じだと思う。このヒュージはただ苦しくて暴れてるだけで、あたしたちのことはついでか何かにしか狙ってない……いや、そもそも狙ってすらいないのかも」

 

 そんな風に二年生三人が考察を続けながらも一年生たちに負けじと射砲撃をヒュージへ送るが、それらが命中し無数に軽い傷を全身に残すのもまるで気に留めずギガント級は暴れ続けている──恐らくこのヒュージは、目の前の辰姫と亜羅椰すら視界に入ってはいないのだと確信を持てる程に。

 

「仮にそうならまともに付き合ってらんないわよ、ただ考えなしに暴れるだけのヤツとか一番タチが悪い!」

 

「そうね……だからさっさと、片付ける。茜!」

 

「ええ!」

 

─ヘリオスフィア─

─テスタメント─

 

 ヒュージが力を溜めるような動作を見せた瞬間、CHARMで足元に円を描き跳び上がった天葉と茜が空中でCHARMを重ねて同時にレアスキルを発動すると、戦場全体に広がる力がギガント級から放たれる光弾の雨霰に襲われるアールヴヘイムのメンバーそれぞれを、蒼く輝くバリアとなって正面から包み込む。

 

「これって……」

 

「天葉姉様!」

 

 守護天使(シュッツエンゲル)の力に護られていることにぱあっと笑顔になりながら樟美が壱と共に後ろへ飛び退くと、二人に空中で並ぶ月詩と弥宙は前の二人へ声を飛ばしている。

 

「おーい辰姫ちゃん、そろそろ時間切れだよー?」

 

「ていうか、後で言いたいことがあるんだから覚悟してなさいよね!」

 

「……ふぅ、もうちょっと遊んでいたかったのに」

 

 浄化スキルの側面もあるヘリオスフィアによって辰姫のルナティックトランサーも効果が薄れ、少し正気の戻ってきた彼女が露骨に残念そうにしていると迫る触腕の範囲から離すためか亜羅椰に腕を絡める形で引き寄せられるが、当の亜羅椰も亜羅椰でアステリオンをシューティングモードで構えながら、イタズラそうな笑みを浮かべていた。

 

「このまま下がるだけなのも勿体ないでしょう、辰姫?」

 

「まあ──ね!」

 

 まだ完全にルナティックトランサーは切れていない。他の浄化系スキルと比べてヘリオスフィアの場合副次効果故にそこまで安定もしていないが、構わず辰姫もティルフィングを展開しバスターランチャーの砲身にマギを集中させつつ亜羅椰に視線で合図を送り、後ろに跳びながら同時に引き金を引く。

 

「「それっ!」」

 

 高出力の砲撃が二発、比較的近い距離から並んで着弾したことでさしものギガント級といえど怯んだ様子を見せれば、その隙を見逃さず天葉は懐から取り出した特殊弾をグラムに装填する。

 

「これよりギガント級ヒュージにノインヴェルト戦術を仕掛ける!」

 

◆◆◆

 

「始まるわ。皆しっかりと見ておくように」

 

「瞬きしてると見逃しちゃうゾ?」

 

 夢結と梅の二人が二年組の元チームメイトとしてそんな言い方をしている間にも、天葉から次々とパスが回りあっという間に依奈・壱ちゃん・樟美ちゃん・弥宙ちゃんとその半数が終わっている。

 

「はっ、速い!」

 

「流石はアールヴヘイム、何度見ても凄すぎて逆に参考にならな……あっ、梨璃さん梨璃さん、見ましたか今の? 月詩さんが暴れるヒュージの攻撃に進路を変えたのを見て咄嗟に茜様が月詩さんへ渡るはずだったパスに割り込んで、一旦弥宙さんへ戻してからの刻むようなパスラリー!!」

 

「う、うん」

 

「ふむ、幼なじみ同士勝手知ったる仲故のアドリブじゃな」

 

 とりあえず今回の目標である初心者トリオにはいい刺激になっているのは確かなようだけど、やっぱり私の気分の方はどうにも晴れきらない。

 

「うーむ……」

 

「どうされたんですか、雪華様?」

 

「ノインヴェルト戦術、順調だと思いますけど……」

 

「気になるんなら『ファンタズム』で視ときましょうか?」

 

 一人釈然としない様子で悩んでいると、神琳さんと雨嘉ちゃん、鶴紗ちゃんに揃って心配される訳で。ところで二人に席挟まれてるのはいいけど、鶴紗ちゃんが露骨に雨嘉ちゃん側に寄ってるのは……まあ答えというか。

 

「いや、それは樟美ちゃんで間に合ってるとは思うけど。ほら」

 

「…………!」

 

 そうやって指差す先では、パスを終えた樟美ちゃんがグングニルをシューティングモードにしてバックアップに回りながらも視線は下に向けているというのに、暴れるヒュージからの無差別攻撃を的確にかわす様子が。それが高ランクのファンタズムの使用前提で戦場を駆け回る彼女のスタイルらしいのだから、万一のことがあっても自力でなんとかするだろう。

 

◆◆◆

 

「つくし、そこからなら行けるわね?」

 

「勿論だよあかねぇ! 辰姫ちゃーん、次任せた!」

 

 茜のサブスキル『軍神の加護』の差し示すパスコースを見て近くの建物の側面を蹴り跳び上がった月詩は、その勢いも乗せ空中から辰姫に向けてマギスフィアをグングニルで豪快かつ正確に投げ飛ばす。

 

「ナイスつきしー! あ、ラスト亜羅椰か」

 

「了解。あそこに投げてくれる?」

 

「オッケー」

 

 掲げたCHARMにパスを受け取った辰姫に亜羅椰が視線で示すのは、ヒュージの真正面。彼女が真っ向勝負を仕掛けるつもりだと分かれば、上から降ってくるように叩きつけられる触腕を避けて左右に別れるとペロリと舌で唇を舐め数度ギガント級へ射撃を放った後、辰姫はオーダー通りの位置へティルフィングを振るってマギスフィアを送る。

 

「不肖遠藤亜羅椰、フィニッシュショット決めさせてもらいます!」

 

 それを空中で側転しながら受け取った亜羅椰は、宣誓と共に廃ビルの上に舞い降りながら流れるような動作で自身を中心に逆巻くマギを込めつつヒュージを照準し、臨界を迎えたマギスフィアを解き放つ。

 

「ほほう、あの亜羅椰から『不肖』なぞといった殊勝なセリフが聞けるとはってなんじゃー!?」

 

 誰がどう見てもヒュージの回避行動は間に合わない、伝説のアールヴヘイムの名に恥じぬ超高速のノインヴェルト戦術──しかしその結果は、甲高い金属音のような物と共にマギスフィアがヒュージの目の前で何かに阻まれているかのような様子。

 

「なんじゃあの光は、バリアーなのか!?」

 

「まさか……いやでもそんな……由比ヶ浜ネストの個体にいた記録は……?」

 

 マギによるものなのだろう光の障壁と臨界状態のマギスフィアのぶつかり合う光で視界が埋まり、どうなっているのかは柵から体を乗り出さんばかりの勢いで驚きっぱなしなミリアムを初め遠目に見ている一柳隊からではよく分からないが、心当たりのありそうな二水は手持ちのメモをいくつか取り出してその中身を漁っていた。

 

「────ッ!」

 

「天葉様!?」

 

 そんな中謎の拮抗状態をよしとしない天葉が誰が止めれるでもない勢いで飛び出すと、光の壁に阻まれているマギスフィアに向けて振りかぶったグラムを力の限り叩き付けていた。

 

「こんにゃろーーーっ!!」

 

 スタート役だったことからCHARMへの負荷は他と比べて少なかったとはいえ、いい加減オーバーホールが必要だと言われる程近頃酷使の続いていたこともありその一撃の反動で天葉のグラムが限界を迎え刀身が砕けるが、代わりに相手のバリアも道連れにし幾分か大きさは損なわれはしたものの、マギスフィアはヒュージに着弾し大爆発を起こす。

 

「っ、まずっ……!」

 

「「ソラっ!?」」

 

 そうなると無防備に爆風に煽られる天葉もたまったものではなく、こうも空中でバランスを崩しては安全な着地など望めない……これは約束した傍からまた樟美(シルト)に怒られるなと依奈と茜に名を叫ばれながら天葉が目を閉じ落下するのを覚悟した時、後ろから誰かに抱き止められた。

 

「樟美……?」

 

「もう、姉様ったらまたこんな無茶を……」

 

 ファンタズム──樟美の持つレアスキルでここまでの流れは視えていたから、新潟の繰り返しになどさせてたまるかと彼女が予め近くで待機していた、つまりはそういうことになる。

 そのまま落下傘のような巨大な傘を備えた樟美に抱えられゆっくりと落ちながら爆炎が立ち上る方を眺める天葉の横を、不意に(あか)い閃光が後ろから駆け抜ける。

 

「え、砲撃?」

 

 ノインヴェルト戦術の直後なアールヴヘイムの面々にそんな余裕は残っていないはずだし、夢結や梅ならば突入前に一言くらい掛けるはず……だから誰の仕業なのかと天葉がそちらを見れば、逆光になるその先で()()()C()H()A()R()M()()()()()()()のは──

 

「……ちっ、これでも仕留め損なったか」

 

 両肩の上に回したシールドにソードガンを連結し出力を増した砲撃形態──ツインバスターキャノンの形を取っているオーバーライザーの本体側になるシールドが機体側面のスラスターを兼ねるスリットを開け廃熱を行っていることから、今の発言がなくとも晴れた煙の向こうで未だ健在なギガント級ヒュージへの砲撃を行ったのがいつの間にか戦闘エリアへ突入していた雪華だというのは、誰の目にも明らかだ。

 しかし彼女の様子は、平時の適度に気の抜けた調子ともゲヘナのことを語る時の虚無感混じりの怒り方とも違う、純然たる苛立ちを全面に押し出していた。

 

「あぁ、やっぱりお前か。さっきからキンキンやかましいのは……」

 

 そんな雪華が一瞬だけ頭を押さえたと思えば、いつもの魅せるような動きもなく無造作にCHARMの連結を解除してガンモードに切り替え前方へ出したマギによる足場へアンカーを伸ばして跳躍し、立て続けの攻撃を受けて崩された体勢を立て直そうとするギガント級へ単独で追撃を開始するまでの一部始終は、後方からでもしっかり見えてしまう。

 

「今度は雪華様までデュエルを!? 百合ヶ丘って実はそういうの流行ってるんですの?」

 

 声を上げて呆れる楓の反応はごもっともだが、それでもまだ戦場にはノインヴェルト戦術の反動で修理も程々に持ち出したCHARMが破損し、戦闘不能寸前なアールヴヘイムのメンバーが多数残されている。

 

「でも、どの道アールヴヘイムの皆さんが撤退するだけの時間は稼がなきゃ……一柳隊、出撃っ!!」

 

(それに、『一人にしないで』って頼まれたから……!)

 

 口にした内容に加えてかつて雪華が所属していたレギオンの先輩である霊奈の言っていたことの意味も今になって分かった以上、どちらの理由からもここで動かないでいる選択肢など元より梨璃の中には存在しなかった。故にグングニルを手に号令と共に駆け出す彼女を先頭に、一柳隊もまた戦いの渦へ飛び込む。

 

 そうなると、まずはふよふよと降下中の天葉と樟美(シュッツエンゲル)とすれ違う形になり、各々言葉を交わす。

 

「ごめんなさい梨璃さん、後はお願い……!」

 

「大丈夫です樟美さん! それにここで黙って見てたら、お姉様に突っつかれるだけじゃ済まないもん!」

 

「夢結、梅。折角の機会にこんなことになっちゃって悪いけど……あたしたちは、このまま撤退する」

 

「気にしないで、これまでのお礼だとでも思って頂戴」

 

「無理言ったのはこっちだからナ、その分後始末はしっかりやらせてもらうゾ!」

 

 クラスメイトの一年生と元チームメイトの二年生、託す側と託される側に別れる形になり一柳隊の面々との会話を終えた天葉と彼女を逃がさないようしっかりと抱き締めたままな樟美の着地点には、次々とアールヴヘイムのメンバーが集まってくる。

 

「うっわ、また派手にやったわね……」

 

「フラガラッハよりはマシだったとはいえ、帰り道で大分無茶させちゃってたからなぁ……」

 

 刀身部分がいっそ見事なまでに砕けたグラムを手に誰かさんの無茶が伝染(うつ)ったかなとは思っても、それを口にしたら「ソラだって元からこんなでしょ」と依奈にバッサリとされそうだとは分かっているから、代わりに側にいるシルトの髪を撫でる天葉。約束した矢先にこの様では、流石に甘々な樟美といえどつーんとしているのだから仕方ない。

 

「……って、あの二人はどこなのよ!?」

 

「まさか、まだ向こうに……?」

 

 そんな風に弥宙と壱が見回して探す間に、前線へ残っていたフィニッシュ役の亜羅椰と彼女とコンビを組んでいた辰姫の頭上を一筋の(あか)き星が駆ける。

 

「うわっ、一人で突っ込んできた」

 

「雪華様、手柄の横取りとはらしくないんじゃありません?」

 

「下がってて。怪我しても責任持てないから」

 

 珍しく乾いた返事で亜羅椰の軽口にも乗ってこない雪華はヒュージの振るう触腕を時にシールドで弾き、時にスキルやCHARMにアンカーを駆使し上を駆けるか隙間へ自身で出した足場を次々に乗り継ぎながらヒュージ本体へソードガンとシールドからひたすらに射撃を放ち続けている。

 それを眺めていると一柳隊の面々も追い付いてきたようで、まず二人の近くに降り立つのは楓とミリアム。

 

「まったく、こういう暴走役なら他に適任がいるでしょうに。そういう訳ですので亜羅椰さんに辰姫さん、ここはわたくしたち一柳隊が引き受けますわ」

 

「……『声』もなんか変になってきた。さっさと下がろ、亜羅椰」

 

「それにこんなCHARMのコンディションじゃあ、これ以上やれることもないか……ご武運を」

 

 どこか不安げに急かすような辰姫の様子を抜きにしても、フィニッシュショット後の亜羅椰のアステリオンは銃身どころかあちこちから黒煙を上げており見るからに限界だ。この様ではあの触腕の作り出す暴風の前では自衛もままならないのは分かるから彼女も変に意地は張らず、そのまま辰姫を追って後方へ跳んで行く。

 

「あら、先程の宣言といい今日の亜羅椰さんは随分と素直ですのね」

 

「ま、新潟で色々あったんじゃろ。それにCHARMのあそこまでのダメージ……『フェイズトランセンデンス』も合わせておったと見た」

 

 無限の力を引き出すそのレアスキルをフィニッシュショットに合わせれば確かに威力は増すだろうがその分反動も増加する訳で、高出力(バスター)モードこそあれど流石にそこまでのパワーを想定して設計されてはいない量産機のアステリオンでは無理もないことだと、同じスキルを持つミリアムはアーセナルとしての見地から語る。

 

「で、どうするんだ雪華サマ(あれ)。援護しようにもどうにもなんないゾ?」

 

「そうですわね、まず鶴紗さんは今日はTZへ下がってくださいまし」

 

「了解」

 

「そして夢結様、あの利かん坊を止められますか?」

 

「やってみるわ。あの人の動きはある状況に限っては一定の癖がある、そこを狙えば……」

 

 楓が追い付いてきた面々に軽く指示を出すと、雪華のポジションへ代わりに就いた鶴紗以外はいつぞやの図の通りに広がる。横浜に続きまたしてもイレギュラーな状況ではあるが、予行演習とでも思えばいい機会だ。

 それにいくらギガント級といえどアールヴヘイムとの戦闘で少なからずダメージは受けているはずなのだから、いかなる理由か独断専行に走る雪華も含めたレギオンメンバー全員が十全に動けば、勝機はある──

 

「それでは、作戦開始ですわ!」

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