いや、ね。辰姫ちゃんの設定からして様子のおかしいヒュージとかね?ルナトラって突っ込んじゃうよねと…はい。どうして雪華までこうなったのかは、本文にて…
状況としては一柳隊の射程距離に入るまでの間ギガント級ヒュージを雪華一人で抑え込めている……ということから例のバリアにより減衰させられたとはいえ仮にもアールヴヘイムの放ったノインヴェルト戦術、相当なダメージが入っているのは間違いないと思われる。
それでも巨体故の暴力的な勢いは健在で、ヒュージの触腕が届く範囲に接近するのは念のためTZのメンバーまでにしておくべきだろう──
「梨璃さんたちBZの方々はこの地点から支援射撃を、夢結様!」
「ええ、すぐに雪華様を連れて戻るわ」
判断を下した楓の飛ばす指示に事前の打ち合わせ通り夢結が一人突出した雪華の元へ向かい、他のメンバーはそのバックアップという形になるが、ここまで来ても雪華が急に戦場へ飛び込み単騎特攻した理由が見えてこない。
「梅様、何かこうきっかけみたいなものはありましたか?」
「いや、さっきまで鶴紗たちと普通に話してたと思うけど……どうなんだ?」
「様子がおかしかったと言えばおかしかったけど、具体的にどこがどうって言われると難しい……です」
「あのヒュージがレストアだというのなら、知り合いか誰かの仇……でしたら一目見た時に飛び出していますか」
鶴紗を加え編成を変えたTZ内で相談しても、結局憶測の域を出ない。突入前妙に苛立っていたことから神琳のそれが一番近いのかもしれないが、今度はしばらくの間大人しくしていた理由が分からなくなるのだから。
「何か、飛んでる……?」
「ありゃあ例の新型CHARMのビットじゃな、近頃百由様とテストしておるのを何度も見たから分かる」
そこで雨嘉が気付くのは、いつの間にか雪華の周囲を付き従うように飛び交う一振りの剣。ミリアムの補足からその出所は分かるが、その本体は見えずワイヤーで背中のアーマーと繋がっているような具合なのは、いったいどういう理由なのか。
「烏丸重工お得意の〈スレイブ〉ですかね?」
「スレイブ?」
「はい、近年同社より提唱されだしたCHARMのコアクリスタルの演算能力に着目しそれとリンクさせることで大小様々な装備を運用する思想で、いつだったか梨璃さんの借りていたインカムもそういった経緯で開発された最新モデルになります!」
二水の解説によると第3世代CHARM技術の応用で投入されるようになったそれは、雪華のサブアーム付きバトルクロスや専用機たちのような元が別物同士になる複数CHARMの並列運用タイプの運用データをベースとした物だとか。
「……っとと、それより今は皆さんの援護をしなきゃ!」
「うん! 雨嘉ちゃん、狙える?」
「大丈夫、射線は通ってる……!」
「わしもやるぞー!」
BZ組がヒュージの攻撃範囲外に配置されているのなら、やることはシューティングモードでの支援射撃。雨嘉のアステリオンによる狙撃に続いて梨璃と二水のグングニルが弾幕を張りヒュージの触腕の動きを鈍らせ、そこへミリアムのニョルニールによるレーザー砲撃が触腕をいくつか弾いて道を切り開く。
「おー、梨璃たちもやるナー!」
「梅様、関心している場合ではありませんわよ? わたくしと神琳さんで援護します、おふたりは夢結様の道を!」
「了解、背中は任せる」
「では、参ります!」
楓のジョワユーズと神琳のマソレリック、司令塔二人の専用機が奏でる銃撃の
「夢結様、こっちの砲撃に紛れて」
「ええ!」
このヒュージの暴れ方が不規則なのは遠目に見ても分かっていたから、攻撃を当てた隙にと鶴紗は告げるが、その間にも雪華はギガント級の周囲を跳び回りながら出鱈目に攻撃を加えている。故に夢結を飛び込ませるにしてもタイミングを見計らう必要があるが……それならば鶴紗の大得意な分野だ。
─ファンタズム─
「
「…………っ!」
鶴紗から送られたビジョンの導く未来へと、ティルフィングから放たれる閃光の影に隠れ地上から廃墟の隙間を縫って駆ける夢結が目指す先は、ギガント級の真後ろ。逆に正面にいたはずの雪華の姿が搔き消えたのを通信越しに二水から聞くと夢結は建物と建物の間を三角跳びで駆け上がり、自らで予測した位置へブリューナクを置くように振るう。
「雪華様、お戯れはそこまでに」
「……ま、分かってはいるんだけどね」
彼女は別に夢結や辰姫のように暴走系のスキルを持っている訳ではないのだからこうして止められた以上は話も通じるようで、雪華もCHARMを真っ向から打ち合わせて来る夢結の勢いに押され、遅れて迫るヒュージの触腕から逃れるかのように一旦ヒュージから離れた位置へ降りるのを受け入れる。
◆◆◆
そのまま廃墟の一角へ落ちるように降りると、開き直ってる訳でもないけど務めて普段通りの調子で口を開く。
「で、今のは鶴紗ちゃんのファンタズム?」
「いえ、ヒュージの横を抜けるまでしかテレパスは来ていません」
「ん、となると……」
「雪華様は『インビジブルワン』を使う際よく相手の背後を取る癖があるようでしたので、そこを突かせてもらいました」
サブスキルは効果がレアスキルと比較して二~三割落ちると言われているけど、私のインビジブルワンの場合レアスキルである『縮地』と比べて速度はともかく持続時間に少し不安があり、そこから相手の死角へ素早く飛び込むような癖が出ていたのだろうか。
「あー、なるほど」
「それで、どうしてこのようなことを?」
「夢結は、何か感じない?」
質問に質問で返すのはマナー違反かもしれないけど、暗に「私は何かを感じたからこうした」と白状しているのは伝わったようで、夢結は顎に手を当てて考えるような仕草をしている。
「ギガント級故の威圧感のような物はありますが、それ以上は……辰姫さんが聞こえるという『声』とは、また違うのでしょうか?」
「上手くは言えない、けどなんか違和感というかノイズのような……そんな感覚があいつが上陸するより前からずっとしてるのよ」
それこそ私にも辰姫ちゃんのような異能なりなんなりがあればもう少し上手く例えられたのかもしれないけど、無い物ねだりをしても仕方ないか。
「そうですか……」
『夢結様、ヒュージの方は今は大人しくしていますが、そっちはどうなりましたの?』
「問題ないわ。雪華様、こうなった以上は鶴紗さんの代わりにAZへ入っていただくことになりますが」
「了解。勇み足の責任は取るよ、全力でね」
ともかく、皆が追い付いて来たからにはワガママもここまで。ここからは私事でなく、お仕事の時間か。ならばとインカムを指でトンと叩き、ようやく通信を繋ぐ。
「私たちで左右から攻撃を仕掛ける、援護を頼んでいい?」
『雪華様、言いたいことは色々とありますが『おいた』は終わったということでよろしいんですの?』
「でなきゃこうして相談もしないでしょ。んじゃそっちでカウントよろしく」
ため息の後、不承不承といった風で楓さんの『分かりましたわ』との返事が来れば、夢結の方に視線を向けて頷くのを確認してから左右にヒュージを迂回するように広がって配置に就く。
『こちらはスリーカウントで射撃を開始します。それに続いて前線のおふたりは一撃離脱の攻撃を、まずは様子を伺いますわ』
「了解、夢結の方も……見えた」
反対側の廃ビルへ夢結が降り立つのを確認すると、うちの隊の隊長副隊長シュッツエンゲルの会話が通信越しに聞こえてくる。
『気をつけてください、お姉様……』
『心配ないわ、あなたたちが援護してくれるのでしょう?』
梨璃ちゃんへそう返すくらい夢結には余裕があるようだし、この感覚は私だけの問題か? だとしても、普通のヒュージにこうなった覚えなんてないし……ああいや、少し違うけど4月のレストア、あいつを狙撃する前に朽ちたCHARMを見た時の──
『3、2、1──今ですわ!』
「「はぁっ!!」」
ゆっくり考えてる時間はないか。と思考を打ち切り、楓さんたちの響かせる銃声を聞いて私たち二人も飛び込むと接近しながら数度の射撃の後CHARMを勢いよく振りながらブレードモードへ切り替え、お互いにブリューナクで左右からギガント級を斬り付ける。
「ん? 夢結、そっち行った!」
「……っ!」
表面を軽く撫ぜる程度しか刃が通らなかったのもあり勢いのままヒュージ越しに夢結とすれ違う形にはなるけど、その先でこちら側のヒュージの触腕が不自然に見えないとなるとどこに向いたかのかと後ろをチラリと見れば、反対側のも含めて一斉に夢結へと向かっていた。
何故またこのタイミングで夢結一人だけを狙う……なんて疑問はともかく、昔はお店か何かだったのだろう廃墟の上に降り立つと後ろ手にアンカーを射出、ギガント級の体に打ち込んだそれを引く勢いにスラスターを合わせもと来た方へとんぼ返りする。
「くっ……!」
「一旦離れる、口閉じてて!」
不自然に私を無視しだした触腕の間を抜けると、ブリューナクで何度か受け止めていた夢結を確保。そのまま射程圏外まで抜けようとするが、ヒュージ本体もこちらを追うように進路を変え迫ってくる。
「なに、どういうの?」
「わたしを、狙って……っ!?」
逃れるように近くの高台へ降りて夢結を離すと、何があったのかおもむろに頭を押さえている……このヒュージに、何かあるのだろうか。
「まさか……でも、どうして今の今まで」
「ん、なに? 実は顔見知りだったとか?」
なんらかの手段でマーキングをしたリリィを執拗に付け狙うタイプのヒュージもいるとは話に聞くけど、それにしたって長くても数ヶ月とかそれくらいのはず。加えて4月から今日まで誰も知らない中で夢結が一人何処かへ遠征した、なんて話は聞いてないし前年度にしても梅があの状態の夢結を一人にするはずがない。だから夢結だけの知っているヒュージとなると、その対象はかなり限られるが……
「はい……記憶が確かなら、このヒュージとは
厳密には夢結『だけ』ではなかった、けどもうそれを知るのは夢結『しか』いない……つまりは夢結のシュッツエンゲル、美鈴の仇になるということか。いや、それならそれで夢結が忘れていたのは──
「そうか、『ルナティックトランサー』の暴走……!」
「はい……なので今でも朧気にはなりますが、このヒュージがわたしを狙ってくる理由があるとするのなら、恐らくは」
『でしたら、鶴紗さんをAZに戻して夢結様は一度後ろへ「そんな暇が、あればね!」
通信の向こうで神琳さんの言うことは理想的だけど半分私のせいとはいえ状況としては分断されかかっているし、ヒュージも開けた距離をもう埋めてこちらへ再度触腕を伸ばして来ているのだから、それを切り払いながらでは語気も強くなる。
「向こうの人数絶妙に足りてないし、さっきのバリアもあるしで下手にノインヴェルトも撃てないでしょこれ!」
「ならここはわたしが引き受けます、雪華様だけでも向こう側へ合流を!」
「冗談! 自分の仇にシルトまで襲わせるなんて、美鈴に申し訳が立たんでしょうが!」
大分勢いだけの会話になってきてるけど、そもそも目下あのバリアをどうするかの案もないのだし、まだ様子見や時間稼ぎは必要に……いや、この距離なら行けるか? 夢結ばかりを狙って来ている以上、離れさえすれば私は半ばフリーなんだし。
「……夢結、10秒間だけでいいから耐えて。少し試したいことが」
「雪華様? 分かりました」
そう言い残してその場を離れると適当な建物の上に着地しブリューナクを腰アーマー背部のラックへかけ、両手でソードガンを抜きシールドは肩の上を通してそれらと平行に……向ける先はギガント級ヒュージの上部、レストアされた証と言える継ぎ接ぎ部分。
「セット、ブレード展開……」
実際のところ今からやるのは仕様外のことになるし、前にやれたからやっているだけで理屈は分かっていない。ソードガンのレーザーブレードとシールド側のビームソード、ふたつの機構を共振させることでその間に発生するのは弧を描く光の刃。
東京のどこかのガーデン所属なリリィが得意とするらしい『飛ぶ斬撃』という技とは毛色の違う『斬る射撃』とでも言うべき物をふたつ、向けるのは当然ギガント級。その補修の跡へ向けて。
「一気に本丸を狙い撃つ!」
とは言うもののそこまで正確に狙わずとも撃てば当たるサイズだけど、右側の光刃を放つと同時にインビジブルワンでギガント級の脇を通り反対側へ抜ける通り掛けに後ろ手に左側を発射し、二枚の光刃でヒュージを挟み込むようにする。
そのままソードガンをシールド裏に納めつつ少し下のグリップを展開、サブアームから外れて落ちてくるのに合わせて握りその内側のトリガーを引けば側面のスリットからマギによるビームの刃が炎のように揺らめきながら噴き出す。元が寒冷地仕様のそれを流用したビームソードはほんのりどころか相当な熱を帯びており、そこから来る威力は折り紙付きだ。
「総攻撃! 剥ぎ取ってやる!!」
一人挟み撃ちによりご自慢のバリアの展開も間に合わず直撃を受けるヒュージの動きが鈍ったところへ斬りかかりながら叫べば、夢結も触腕を弾きながら同じように突撃してくれるしヒュージの背後からは皆の射砲撃が更に動きを抑制する。
「でぇぇぇぇっ!」
「はぁぁぁぁっ!」
なら最早その巨体で逃げられる道理はなく、ビームソードを束ねて縦に一閃し引き裂いた跡を夢結のブリューナクが抉るように斬り取り、ギガント級の胴体が修復の跡からばっくりとその半ばまで裂ける。
「「──っ!?」」
だがその瞬間、私たちを襲ったのは強烈なイメージ。あるいはこれが、先程からの嫌な予感の正体だったのかもしれないけど、そこまで考える暇もなく私たちの意識は落ちて……待った……なんで……夢結の……ことまで……
◆◆◆
「やったか!?」
「ミリアム……それ、多分フラグ?」
注意深くアステリオンの銃口を向けながらヒュージの様子を探ろうとしている雨嘉だが、先輩二人の同時攻撃はアールヴヘイムとの連戦によるダメージも残るギガント級には相当な痛手だろうとは分かる。しかし問題なのは──
「二水ちゃん、お姉様と雪華様は?」
「うーん、ギガント級に肉薄したのまでは見えたんですけど……今はちょっと」
夢結と雪華に吹き飛ばされたギガント級が付近の廃墟を数個巻き込んで派手な土煙を上げながら倒れたせいか、主戦場となっていたエリアの視界は最悪で二水や雨嘉のレアスキルをもってしても後方からでは状況を把握しきれておらず、その様子を見て梅が近くの神琳へ訪ねる。
「梅がひとっ走り行ってこようか?」
「そうですね、このまま分からないままでもいられませんし……」
「待った、誰か飛び出してくる」
そこで鶴紗が気付いたのは人間サイズの何かが煙の中から勢いよく飛び出てくる様子、つまりはヒュージではなくリリィ二人の内片方。シルエットからそこまで重装備ではないのならば──
「夢結様!」
「まだ倒せていないわ! それに今のは……っ!」
近くの建物の上に降り立ちながら楓たちに対し警告を出し、彼女の後を追うように迫るヒュージの触腕をブリューナクで弾いて逸らす夢結。
「やっぱり、お姉様を狙って……?」
「ですが、近頃その手のヒュージと夢結様が交戦したという報告は……もしかして、この種別のヒュージ……いや、でもそれなら情報のズレも……」
「二水ちゃん?」
「ふーみん?」
「お、雪華様も出てきたぞい」
二水がブツブツとまた何かを思い出しているのに梨璃と雨嘉が気を取られていると、ミリアムの上げた声に前を向けばどこか不機嫌そうな様子の雪華が夢結と反対側の高台の上へ降りるのが見える。
「……夢結、さっきのは」
「分かっています、雪華様。この戦闘が終わればどのような処罰でも……」
「いや、それはいい。あいつが、美鈴があそこまでなるってことは、それだけ激しい戦いだったってだけ……それに言ってたでしょ、『運命』だったって。夢結が悪いなんて、あいつは一言も言っていない」
二人の会話は他のメンバーからではその意味が分からな──いや、梅だけは美鈴の名前が出たことと夢結の様子から彼女らの話している内容が二年前のことを指しているのではないか、と朧気に感じられはした。
「……あの光、またなのか?」
しかしそれ以上に夢結に弾き返された触腕の戻る先、ヒュージの本体があるのだろう土煙の中でゆらゆらと光る何か……4月のレストアとの交戦時に見かけたCHARMの山のようなそれに、目が奪われる。
「今度は一本だけ……余程の手練れにやられたと見えますわね」
「ですが、CHARMがこうなっている以上このヒュージはそのリリィをも打ち破ったということです。油断はなさらず」
「了解……浮いてくる」
シューティングモードのCHARMを向け注意深くTZ組がその様子を眺めていると、数を増やした触腕を振って煙を晴らしながらヒュージが起き上がる。その胴体こそ先程の攻撃でチーズのように割けていたが、中央に鈍く光を放つCHARMを台座か何かに刺しているような格好で携えて。
「……ダインスレイフ?」
元々量産機であるそれ自体は特に珍しいCHARMという訳ではない、実際新型が次々ロールアウトされようと使い慣れたCHARMの方がいいと愛用し続けている上級生は多いし、新入生にしても推奨はされていないとはいえ分厚い刀身は時に身を守る盾にもなるのだからまばらに使用者はいる……だが、パーソナルカラーに彩られた物となると話は違ってくる。
「あれ、わたし……のは工廠科に預けてるか」
リリィたちがCHARMを受領する際にはある程度のカラーパターンから選ぶことが基本なのもあり一瞬鶴紗の脳裏には以前使っていた似た配色の機体が浮かぶが、それは予備機として取り置いて貰っているはずだとかぶりを振って意識を戻す。
「もしかして、わたしの……ダインスレイフ……っ!?」
何かに惹かれるように呟いた夢結が頭を押さえると、先程のように脳裏にビジョンが過る──月明かりが照らす下で舞い散る赤、伸ばした手、離れる背中、空中に放り出されるシルエット……それらを振り切るように、夢結はブリューナクのトリガーを千切らんばかりの勢いで引いていた。
「お、おい夢結!?」
「……っ! ……っ!!」
バチバチとCHARMがスパークする程のマギを込めて、何度も何度もブリューナクから放たれる閃光がギガント級の巨体を揺らす。見るからにCHARMに、そして夢結自身にも相当な負荷が掛かっているだろう自棄を起こしたかのような攻撃に、梅に限らず他全員の視線が呆気に取られたように釘付けになる。
「返しなさい、それはわたしの『お姉様、危ない!!』──っ!?」
抑えなどもう利かず、衝動的にルナティックトランサーを発動しようとCHARMを振りかぶりマギを解き放とうとした刹那、通信越しに聞こえた梨璃の叫ぶ声に夢結が意識を戻すと……目の前にヒュージの蛇腹状の触腕が迫っていた。
(変形──間に合わない?)
先程から怒りのままに最大出力かつ立て続けに砲撃を放っていた反動かブリューナクの稼働が平時と比べほんの少し鈍く、今この瞬間においては致命的なズレが生まれる。
だがそれでもまともに食らう訳にはいかないと夢結はなんとかCHARMを割り込ませるが、半端に変形している状態で強引に受けたせいかブリューナクは半ばで折れ、勢いを殺しきれなかった触腕が彼女の左肩を防御の上から切りつけた。
「あぁ……っ!」
「お姉様!!」
「夢結ー!!」
ギリギリで軌道を逸らしたおかげか覚悟していたより傷は浅いが、ヒュージに切られた肩から派手に鮮血を散らしながら崩れ落ちる夢結は梨璃と梅の悲鳴も遠くに聞こえる中、半壊したCHARMを杖代わりに屋上から落ちることだけはなんとか避ける。
「う、くっ……」
「皆さん、夢結様のフォローを! ヒュージの様子がおかしいですわ!」
追い込まれると行動パターンが変化するというヒュージの目撃情報は近頃増えてはいるが、このギガント級の場合それとも感じが違う。楓の勘はそう告げているのだから、何の影響か先程以上に執拗なまでに夢結だけを狙う触腕の迎撃に全力を尽くせと、率先してヒュージへの射撃を開始する。
「じゃが、遠巻きに撃ってるだけでは限界があるぞい!」
「だったら、わたしが行きます!」
「梨璃さん!?」
「梨璃!?」
その時、BZから前線まで飛び出すのは梨璃。相変わらずの突撃癖だがこの程度は楓も想定済み、何より愛しのお姉様の危機に『黙って見ていろ』と言うような薄情者が彼女のレギオンにいるはずもないのだから梅に向けて目配せをすると、彼女が頷くのを確かめてから雪華とまとめて指示を飛ばす。
「雪華様、梨璃さんがまた突っ込んだので、梅様と支援を!」
「……了解。あたしゃあそういうのこそ慣れてるからさ!」
「一気に行くゾ!」
─縮地─
◆◆◆
「とは言ったものの、突っ切るのは無茶あったか!」
さっきダウンさせたから発狂モードにでも入ったのかヒュージの出す触腕の数も増えていて、一々フィールドで弾きながらだと大分効率が悪い、この辺りはレアスキルな梅との差……というよりは元のスタイルの問題か。
「……いや、にしたって急にこっちもちゃんと狙ってくるようになった?」
最短コースだからとギガント級の脇を抜けようとしたのもあってか攻撃の勢いは先程までとは比べ物にならないし、集中度合いもフラフラな夢結を無視してまでときた。ともかくこれじゃ埒が空かないと一旦離れて手頃な廃墟の上に降りると、ヒュージへ牽制射撃を送りながら隣に楓さんがスルリと降ってくる。
「優先順位が変わった、ということですわね」
「発狂モードだって? 言われなくても分かるってば」
「ゲームか何かの例えはともかく、あのダインスレイフを他の誰にも渡したくないのか……あるいは露出した内部が急所であると近寄る敵の迎撃が最優先となったのなら、近くに何人か配置すれば夢結様の安全も速やかに確保出来るでしょう」
少し遠回りになるルートを取った梨璃ちゃんやその援護に回った梅が夢結への救援だと理解しているのか、はたまた今はギガント級に一番近い位置になるのが二人だからかヒュージの触腕もそちらに向いているけど……どうにもヒュージが取る行動としては中々に不可解だ。
「あるいは戦利品を手放したくない? こないだのレストアはそんな気配微塵もなかったけど」
「そこまでは分かりませんわ。ですがヒュージとて生物、何かしらの拘りを持つ個体は確認されていますでしょう?」
まあ、獲物に何かしらのマーキングを施すタイプも過去に出現している以上そこは否定出来ないけども……あるいは、あのダインスレイフが元々夢結が使っていた機体だからか。
「ともかくタンク役なら私が行くよ、梅たちにも合わせて動くように」
「承知致しましたわ!」
◆◆◆
「聞こえたな梨璃? 梅たちがこいつの相手をする、先輩たちに任せて先に行け!」
「は、はい!」
頼もしいようなフラグのような発言に背中を押され、夢結のいる位置へ一直線なポジションに到着した梨璃はグングニルで足元に円を描き跳躍する。入学当初と比べて少しはマギの扱いに慣れてきたのもあって一回でおおよそ半分、次で夢結のところへたどり着けるともう一度同じようにしようと──
『危ない、梨璃!』
『伏せてください、梨璃さん!』
「え……きゃあっ!?」
通信から聞こえる雨嘉と二水の叫びに跳ぶのを止めて前へ倒れ込むように伏せると梨璃の頭上、先程まで彼女の胴体があった空間をヒュージの触腕が薙ぎ払っていた。
「……夢結に近づくのもアウト?」
「だからってあのままにしてたら夢結は……!」
「分かってる!」
先輩たちの焦る声を背に、梨璃は無理に倒れたものだからあちこちが痛む体を起こす。防御結界も身体の表面に張る物であるが故にこうした形の衝撃を完全には殺しきれないようだが、後ろは皆が守ってくれている。だから──
「っ……お姉様ぁ!」
この程度の痛みなど構っていられないと今度こそ梨璃が夢結の元まで跳べば、他の面々からの攻撃も無視してヒュージの触腕が梨璃たちの元へ迫って来るのを咄嗟にグングニルで受け止め火花を散らす。
「く、ぅっ……!」
「梨、璃……?」
まだ夢結の意識は覚束ないが、それでも梨璃が危機に陥っているのは自分の近くにいるからだと、それだけは分かった。だから、シュッツエンゲルに続いてシルトまでも自分のせいで亡くしたくはないと、無理をして口を開く。
「逃げなさい梨璃、このヒュージの狙いは「逃げません!!」梨璃……?」
「お姉様は、甲州でも横浜でもわたしのことを助けてくださいました……だから、わたしも逃げません! お姉様のシルトだって、胸を張って言えるように!」
「梨璃……っ。もしかして、それは……」
そこで夢結の視線が向くのは、梨璃のサイドテールを束ねる四つ葉のクローバーの髪飾り。甲州でのことを話題に出されたこともあって、それを縁取る色は
「それでも、わたしは……もうわたしのせいで誰にも……」
「だったら、すぐに一人で背負わずにもっと素直に周りを頼りなさいっての! 一人じゃ手の届く距離なんてたかが知れてるって、いい加減!」
先程二人でヒュージに仕掛けた時の影響か感情がかなり前に出ているのもあって口調も崩れて来ている雪華の声が聞こえた方を見れば、随伴させているソードビットのバリアで近くの触腕を弾きつつ、ブリューナクを夢結たち側の触腕へ二度三度と連射しながらこちらへ跳んで来る彼女の姿が。
「だぁっ!」
そのまま再度ビームソードを展開した右のシールドで弾くようにヒュージの触腕を両断して二人の隣へ降りる雪華だが、何かに気付いたのか慌てて夢結を梨璃ごと屋上の外へ突き飛ばす。
「──っ!」
まるでそれは、入学式の日岩雪崩に飲まれそうだった楓を切通しの穴へ落とした梨璃のようで──
「え……?」
「雪華様?」
急な行動への疑問の答えは、先程まで二人もいた屋上が崩れそこから現れたヒュージの触腕の残りに雪華が飲まれる様子。
「……ぁ、あぁ……!」
──またか、また失うのか。今度もこのヒュージによって、自分の目の前で。
少し下の廃墟まで突き落とされた状態で失意のまま半壊したブリューナクを取り落とす夢結だが、CHARMは梨璃に拾われ、崩れ落ちそうになる体はフリーになり駆けつけた梅に支えられていた。
「……梅、離して頂戴」
「そんな体とCHARMでどうすんだ」
そんなこと、自分でも分かっていない。だが見上げる屋上はもう完全にヒュージの触腕によって破壊し尽くされており、崩落したその跡で球状に絡まって──
「あれ、何か飛んでる……?」
少し前の雨嘉と同じ反応をするように、梨璃が見たのもまた同じ物。雪華のソードビットがワイヤーの千切れた状態で『何かを捕らえているかのように』囲いを解かない触腕へ突撃し攻撃を掛けていた。