アサルトリリィ~円環の赫星~   作:ですティニー

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前回のあらすじ:暴走は先に他の子にさせちゃったから夢結様はキャンセルとまだ伝わらない話と被せていいイメージは被せとくかと。
色々こねくり回しながら進めてるとどうしても文字数が確かに溢れてる。今回もそりゃあ大人しくしてないでしょが再び…制御出来てないだけ?うん。



握ったこの手が繋ぐもの

『だぁもう、どうなってんのこれ!?』

 

 梨璃が雪華のビットがまだ飛んでいるのに気付いたと同時、通信越しに彼女の叫び声が飛び込んで来たのもあって存外無事なようだが……その向こうからはガリガリと何かが擦れるような嫌な音も聞こえることから恐らく咄嗟に防御フィールドを全開にして守りに入ったはいいが、それ故にヒュージの触腕に囲まれて身動きが取れなくなっているのだろう。

 

「……ぁ」

 

「聞こえましたかお姉様? 雪華様は生きてます!」

 

「まだ、って感じになるけどナ。ともかく梅たちは一旦夢結を連れて下がる、雪華サマのことは任せたゾ!」

 

『承りました』

 

 神琳の返答を受け、一旦視線をヒュージに向けると梅は未だショックを受けたままの夢結を抱えて跳び、それに梨璃も続く。

 

「さて……雪華様、内側はどうなっていますか?」

 

『どうもこうも、引くも押すも出来ないってやつ?』

 

 ヒュージを大きく迂回して後方へ下がる三人を見送った神琳が雪華へ問い掛ければ、変わらずノイズ音混じりとはいえ元気ではありそうだ。その様子は余裕というよりは自棄になっているという風ではあるが、彼女を捕らえたまま触腕はギガント級の真上に向かっている。

 

『というかさ、これじゃ外見えないんだけど?』

 

「それでしたら……ふーみんさん、『鷹の目』をお願いします」

 

「は、はい!」

 

 相談をしようにも雪華が状況を分からないではいけないと、呼ばれた二水が寄ってきたのを確認した神琳は軽くマソレリックの刃先を二水のグングニルに合わせる。

 

─鷹の目─

─テスタメント─

 

「こ、これって……?」

 

 『テスタメント』を使われたことで力の広がる感覚がする二水だが、自分自身には何も起きていないことから鷹の目を『誰かに渡した』のだと分かればその相手など一人しかいないと、顔を前へ向ける。

 

『お、見える見える。けど、調整難しいねこれ』

 

「なるほど、テスタメントにこういう使い方が!」

 

「考え方の問題ですよ。『レジスタ』や『ヘリオスフィア』のような広域スキルの範囲を広げるだけでなく、個人へ効果を及ぼすレアスキルの対象をこうして広げることも出来るということです」

 

 つまり神琳がやったのは雪華に二水の鷹の目を共有させた、そういうことになる。これで雪華も状況は把握したようだが、それはそれとして気付いたことがあるようで疑問の声が上がる。

 

『……ねぇ、これ抜け出したらそのままヒュージの真上にダイブしない?』

 

「ええ、ですので雪華様にはそのままダインスレイフを回収していただこうかと。ピンチはチャンス、という言葉もありますし、一本だけならば前回よりは楽でしょう? わたくしたちの攻撃に合わせて脱出していただければ支援もいたしますので」

 

『いやまあ、そうだけどさぁ』

 

「結構、欲張るんだね……?」

 

 それを聞いていた雨嘉が感心半分引いている半分な風でいると、彼女へ振り向いた神琳は微笑んでいた。

 

「ふふ……」

 

◆◆◆

 

 一方色々と荷物を置いていたからと戦闘開始前にいた建物の屋上まで撤退したアールヴヘイムの面々はそこに陣取って怪我の手当てなどをしていたが、その中で居心地が悪そうなのが一人──主将であるはずの天葉が、無言でむすっとしたままの樟美に手当てされていた。

 

「あたた……やっぱりまだ怒ってる?」

 

「……………………」

 

 傷口に消毒液が染みる以上に綿棒越しでも妙に力が入っているような感じがするから、ぷいっと無言でそっぽを向く樟美がシュッツエンゲルへの可愛らしい抗議としてそれをやっているのだとは天葉とて嫌でも分かってしまうが、分かっているだけでは許されないと、なじるようにその向こうから声を掛けられる。

 

「そろそろちゃんと反省しなさいってことでしょ、口だけで言ってもすぐまた特攻したんじゃ誰だって怒るわよ」

 

「うっ……つまり、依奈も?」

 

「でなきゃここで樟美側に付くわけないで、しょっ!」

 

 そこで擦りむいていた右頬にガーゼを叩き付けるように貼られては、シルトと同室相手による包囲網の完成した天葉に抵抗する余地は残されていなかった。

 

 ──この様子なら無茶してばかりなリーダーへのお説教なりなんなりは任せるとして、司令塔の依奈に変わって現状の確認をと三人の様子を眺めていた壱は、視線を近くのテーブルの上に置かれたいくつかのCHARMを前に作業中なアーセナル二人へ向ける。

 

「それで、そっちはどう?」

 

「どれだけ頑張ってもこれが限界よ。こっちはあかねぇとのラリーで結構負荷が……あーもう、わたしも見栄張らずパーツのストックに余裕あるアステリオン辺りにしとけばよかったぁ!」

 

 確かに高コスト機というのはほぼイコールで高性能ではあるのだが、こういう時ばかりはパーツの都合で気軽に直せないからグランギニョル社の高級志向も困ると、応急措置で済みそうなCHARMはこれだけだとそれ以外のCHARMを脇に退けた弥宙が荒れていると、先の大暴れが嘘のように気の抜けた様子の辰姫が愚痴りだす。

 

「ねぇ、もうティルフィング触っていい? 今日はギガント級の相手したからいい感じのデータ取れたのに~」

 

「そのせいでフレームにまでダメージ入ってるんでしょうが! まったく、汐里さんといいどうしてそうこの強度のCHARMをホイホイ壊せるんだか……ユグドラシルの担当が気の毒だわ」

 

 ティルフィングのユニーク機のユーザーであるクラスメイトが、あまりにCHARMを壊しすぎるから百由以外のほとんどのアーセナルから整備を断られがちだ。とは壱も噂として知ってはいるが、こうして工廠科の生徒である弥宙の口から悪い例と出された以上、そちらの意味での有名人というのは間違いなさそうだ。

 

「……ところで、今更だけど辰姫はその制服どうしたの?」

 

「あーこれ? 亜羅椰の」

 

 などと二人のやり取りを眺めていたら、辰姫とてアーセナルのはずなのに今日に限って身に纏う制服が工廠科のそれでなく壱たちと同じ標準仕様のそれと気付いて聞いてみたところ、テーブルの上へ気だるそうに上半身を乗せつつ制服の袖を摘まんでの返答がなんともな物だったことから、壱も思わず引いた反応になってしまう。

 

「ちょっと亜羅椰。あんたまさかそういう趣味が……」

 

「いっちゃんがどんなイケない妄想をしたのかは知らないけれど、単に辰姫が百合ヶ丘に帰ってからしばらく整備浸けで洗い物出さずに溜めてたから、朝起きたら「今日着る服がない~」ってなってただけよ?」

 

 だから同室のよしみで貸しただけと亜羅椰が告げれば「サイズが合って良かったわー」と零しながら体を伸ばす辰姫。それを見て弥宙の視線が怨めしそうに二人の胸部装甲を往復したのは、多分気のせいではないだろう。

 ともかくここはアーセナル二人に任せるしかないと亜羅椰に手を振り見送られる壱が残る二人の元へ向かえば、茜が見守る中屋上の柵から身を乗り出して月詩が悔しがっていた。

 

「う~、CHARMがもう一本、せめてシャルルマーニュでもいいからあればまだやれるのに……」

 

「それだけ最近忙しかったのだから、CHARMもつくしもたまには休まないとダメよ?」

 

「あかねぇも無理はしないでくださいよね。『テスタメント』は負担も大きいんですし」

 

 月詩がそうなる気持ちも分かりはするし、嗜める茜の言葉にも頷くしかない。けれど当の茜自身「目立たないように」と言いながらも常に誰かしらのフォローをして回っているのだ、他人の心配もいいが自分のことも労ってもらいたくはある。

 

「ふふ、いっちゃんもソラたちの代わりに見回りするのはいいけど、ちゃんと休憩はするように、ね?」

 

「……分かってます」

 

 だから気を張るのも一旦ここまでと壱は近くのクーラーボックスからオレンジジュースのペットボトルを取り出して、先程一柳隊に出していたこともあり結構減っているそれをちびちびと飲む。

 

「ん、今の……ソラ、ちょっと散歩して来る」

 

「依奈?」

 

 そうして結果的に三人ずつに別れてる形になった後、何かに気付いた依奈は一人屋上の柵へ手をかけ乗り越える。止めようにも天葉は手当てを終えてから樟美に片腕をホールドされているし、そのまま下へ降りて行くのを見送るしかなかった。

 

◆◆◆

 

「これで、よしっと」

 

「お姉様……」

 

 その頃戦場から離れた一件の廃屋の中まで下がり、道中で気を失った夢結の上着を脱がせ肩の傷に応急措置をした後包帯を巻く梅の様子を不安げに梨璃は眺めていたが、ふと気になったことを口にする。

 

「梅様って、こういうの慣れてるんですね?」

 

「ん? まあ夢結と二人で突っ込んで仲良く傷だらけ、ってのもしょっちゅうだったからナー」

 

「ありがとうございます!」

 

「いいって、本当に慣れっこなんだから」

 

 アールヴヘイム時代も、解散してからの間も、梅はずっと夢結と一緒に戦ってきた。だからこの程度はいつものことだと、最後に包帯の端と端とを結んでから立ち上がる梅は両手を腰に当てて気にすんなと告げているが、それでも伝えたいことがあると梨璃は言葉を紡ぐ。

 

「いえ、今だけじゃなくて……お姉様、梅様といる時や梅様のことを話している時、なんだか普段より安らいでいるような、そんな感じがするんです。だから、お姉様とずっと一緒にいてくださっていて、ありがとうございます」

 

「それこそわざわざお礼を言われるようなことでもないゾ? こうしてたのも大層な理由なんかなくて、わたしのため、わたしの信じる物のために……何より、夢結には辛い顔や悲しい顔なんかより笑顔の方が似合うからナ!」

 

 だから梅はその笑顔を守り続けたい。ただそれだけのシンプルな理由を微笑みながら告げられて梨璃も笑顔を返していると、半ばまでヒビ割れている窓からレギオンの方で何か動きがあったのが見えた。

 

「っと、そろそろ戻らないとだナ。夢結のことは頼んだゾ梨璃!」

 

「はい。梅様も、お気を付けて!」

 

 「おう」と最後まで笑顔を崩さず近くに立て掛けていたタンキエムを手に外へ飛び出す梅を見送ると、しばらくして聞こえた呻き声に夢結の方へ駆け寄る梨璃。

 

「うっ……」

 

「お姉様、痛みますか……?」

 

 左肩を押さえて上半身を起こす夢結を支えながら不安そうにしている梨璃に、夢結は不器用に笑いかける。

 

「まだ、なんとか動かせるわ……これはあなたが?」

 

「いえ、梅様が。もう向こうに戻っちゃいましたけど」

 

「そう……梅には迷惑を掛けてばかりね」 

 

 包帯越しに少し血の色が滲む傷口の辺りを押さえる夢結の語り口にはいつものように自嘲が混ざるが、二人きりな今だからこそ聞きたいことがあると梨璃も口を挟む。

 

「お姉様、さっきのって……」

 

「……あのヒュージは、あの日甲州で梨璃と会った後に遭遇したヒュージよ。そしてわたしは、その戦いの中で美鈴お姉様を……さっき戦っている最中、その時のビジョンを見たわ。恐らく、雪華様も同じ物を」

 

「そんなことが……」

 

 いつか聞いた彼女の心に残るトラウマ──今回の敵がそれを刺激するヒュージであるというのは間違いないようで、夢結がシャツの上からかきむしるように胸元を押さえているところへ、梨璃はそっと手を添える。

 

「わたしは、あの夜見た美鈴様の姿しか知りません。でも、お姉様のシュッツエンゲルだったお方なら何があってもシルトの、妹のことを守りたかったんだと思います……『お姉ちゃん』って、そういうものですから」

 

 例えその結果何があったかシルトの刃に貫かれたとしても、そこに後悔はなかったのだろうと、彼女と共に過去のビジョンを見せられたという雪華の語った内容からも伝わった。

 

「……だけど、あの時お姉様を刺したCHARM越しの感触が、飛び散った血の生暖かさが、今でもこの手に残ってる。死神だなんて言われているのも当然ね、わたしの手はもうとっくにお姉様の血で汚れているのよ!」

 

「だったら、わたしにその手を拭かせてください! それに、もしまた誰かがお姉様の悪口を言っていたら、わたしがそれ以上にお姉様のいいところを伝えます! お姉様は自分からそんなことをするようなお方じゃないって、わたしが……一柳隊の皆が分かってますから!」

 

 途中どこかズレた返しになってしまったかもしれないが、それでも構わない。本気で応えなければきっと今の夢結には届かないからと、梨璃は握る手に力を込める。

 

「……ごめんなさい梨璃。わたしが、わたし自身が何よりわたしのことを信じられないの。だから今は」

 

 だが、あれだけ忌まわしき力だと思っていたレアスキルをああも簡単に解き放とうとしたことが引っ掛かりとなって、どうしても夢結の心を頑なにしてしまう。

 

「けほ……結構埃っぽいわね」

 

「……依奈様?」

 

 その時聞こえた足音とぼやきに二人が振り向けば、CHARMも持たずに歩いて来たのか先程撤退したはずの彼女がいた。何故ここに、という疑問には分かりきっているからか質問をするまでもなく答えが。

 

「梅だけが戻って行ったのが見えたから、ちょっと気になってね。で、遠目だから確証は持てないけど夢結、あなたさっき『ルナティックトランサー』を使おうとしてたわよね?」

 

「……っ」

 

 レアスキルとは覚醒するリリィの性格的傾向からどのスキルになりやすいかある程度判断できる。という学説があるのと関係しているのかは分からないが、各々のレアスキル発動時無意識に行うルーティンは似通った動きになりがちで、色々と見慣れている依奈には隠せるようなことでもなく、夢結が怯えたように身体を強ばらせたことで返答は不要だった。

 

「やっぱり。なんだか今の夢結、迎撃戦の後に雰囲気が似てたから」

 

 御台場迎撃戦──かの戦いに第1部隊の一員として参加していた夢結はその最中甲州撤退戦の後では初めて自らの意思でルナティックトランサーの封印を解き、仲間の窮地を救ったと依奈は聞いていた。そして、彼女はその時も今のように忌まわしきスキルを使ったということの方に意識が向いて、仲間たちからの礼の言葉にも上手く返せなかったとも。

 

「で、4月の出撃でも発動したのを梨璃さんに止めて貰ったって聞いたわよ」

 

「だからって、やれた理由も分からないのにまたこの子を危険に晒す訳には行かないでしょう!」

 

 どうしてあの時梨璃の言葉だけが夢結に届いたのか、どうしてそれで自分が狂気の彼方より戻ってこられたのか、結局のところ夢結にも梨璃にもそのからくりは分かっていない。だというのに自分自身はああも軽率に破滅の引き金を引ける状態なのだから、これ以上誰も巻き込みたくはないと夢結は声を荒げる。

 

「でも、一度は成功したんでしょう? だったら、試しに任せてみたらいいじゃない。それとも、そうしたくない理由があるの?」

 

「それは……」

 

 内心を見透かされているような─事実夢結の拒絶の仕方はあまりにも分かりやすかったのだろうけれど─言葉には返事に詰まってしまうが、依奈とてこんな時に苛めたい訳ではないのだから固くしていた表情をふっと崩しながら話を続ける。

 

「こんな時、あの人ならこう言うんじゃないかしら『誰にも頼らないっていうのは強いとは違う』って」

 

「………………」

 

 少し気取った風に告げる依奈の言い種は、普段の彼女らしくなくて違う誰かを思い起こさせる。いつだったか、夢結に「自分たちリリィはどれだけ強くなればいいのか」と問い掛けてきた相手──お互い頭の中に思い描く人物は、それと同じあのいい格好しいの先輩なのだろうから。先程自分たちを庇うようにヒュージに捕らわれた彼女にも、もっと周りを頼れと叱責されたばかりではなかったか?

 だからこそ余計に夢結は何も返すことが出来ずにいると、自身の携帯の着信に依奈が出ていた。

 

「ん、もしもしソラ? 用事なら終わったわ、すぐ戻る」

 

 相手は天葉のようで短い受け答えだけをして通話を切ると、依奈の瞳は夢結を真っ直ぐ見据えてくる。

 

「ともかく、夢結の抱えている問題に本来あたしは部外者なんだろうけど……あの人の、雪華様の後輩としてこれだけは言わせて欲しかった。それだけよ」

 

「そうね、雪華様なら迷っている暇があるなら前だけを見て進めと、そう言うんでしょうね……梨璃?」

 

 そこで夢結が横を見ると出撃前のように二人の話を黙って聞いていた梨璃は、両手で夢結の手を優しく握ってくれていた。ちゃんと隣も見てくださいと、訴えるかのように。

 

「ふふ、余計な心配だったかしら? それじゃ、あたしは準備があるから戻るわね。その間は任せたわよ」

 

「ええ。わたしは今のレギオンで、今の仲間たちとやるべきことをするわ」

 

 完全に吹っ切れた、ということもないのだろうが掛けられた発破に答えるくらいの気力は戻った夢結の様子を見て、依奈は満足気に頷くと手を振りながら去っていく。

 

「依奈様、わざわざお姉様を励ましに来てくれたんでしょうか?」

 

「……見るに見かねて、と言われたら否定出来ない状況だけれど」

 

「あ、でも依奈様ってさっきおふたりの話されていた迎撃戦でも、同じ隊の方たちにアドバイスをしながら戦い抜いた~って二水ちゃんから前に聞きましたよ!」

 

 迎撃戦──そうだ、あの戦いと比べればこの程度苦境でもなんでもない。ここしばらく後ろ向きでいた依奈も今はあの頃のように全力で前を向いているのなら、せめてかつての彼女の仲間として恥じない自分でいたいと夢結は梨璃に手を引かれて立ち上がる。

 

「行きましょう梨璃、レギオンの仲間を助けるのに隊長と副隊長が不在では格好が付かないわ」

 

「はい、お姉様!」

 

 過去のことはまだ振り切れないとしても『今』から逃げはしない。夢結は一人ではないと、握った梨璃の手から感じる温もりが、優しさが伝えてくれているから……だから、進んで行ける。

 

◆◆◆

 

「悪い、遅れた!」

 

 梅が楓たちのいる高台までたどり着くと、大体の打ち合わせは終わっていたようで広がりかけていた仲間たちが振り向く。

 

「いえ、今からなのでちょうどよかったですわ」

 

「でしたら、わたくしたちが左右の触腕を攻撃するので梅様はヒュージ本体の撹乱をお願いします」

 

 司令塔二人からの説明で、雪華を捕らえる触腕の内ふたつを外側から、残るひとつを雪華自身が内側から攻撃することで包囲を解かせ、そのまま残り六人の支援を受けながら先輩二人でヒュージに肉薄しダインスレイフの奪還を、という風に話はまとまったと聞く。

 

「了解。夢結のCHARMをこれ以上ヒュージの好きにさせらんないからナ」

 

「ええ、では攻撃開「わたしたちにもやらせて貰えないかしら」夢結様?」

 

 そこで夢結と梨璃も追い付くが、自身は負傷しCHARMも破損した夢結に無理などさせられるかと楓の反応は歓迎ムードとは程遠い。

 

「わたくしも鬼ではございませんわ、今日はもう休んでいてくださって構いませんのよ?」

 

「こうなったのはわたしのせいよ、ここで見ているだけなんて出来ないわ」

 

「でも、ブリューナクはもう……」

 

 不安そうに二水が夢結の背負うCHARMを見るのも、夢結のブリューナクは刀身がその裏の砲身もろともに折れて最早戦闘に使えた物ではないし、誰もが雪華のように複数のCHARMを持ち込むようなタイプでもなくその雪華もヒュージに捕らわれている以上、回せる予備のCHARMもないのだから仕方のないことか。

 

「問題ないわ、マギクリスタルコアにダメージがないのは確かめた──だから、ルナティックトランサーを使って突入するわ」

 

「……いいのか、夢結?」

 

「ごめんなさい梅、これはわたしのわがままでしかないのかもしれない……それでも、ここで逃げることだけはしたくないの」

 

 夢結自身迷いがないとは言えない。それでも責任から、現実から、過去から逃げたくないと梅の目を真っ直ぐ見てこられては、敵わないなと梅は頭の後ろで腕を組む。

 

「まったく、相変わらず夢結はしょうがないナ」

 

「いや、それでもCHARMはどうする……んですか?」

 

 雪華がひとつを撃破し、彼女を捕らえるのに使われているみっつを除けばヒュージの自由に使える触腕は後ふたつ──ルナティックトランサーによって強化された状態ならその程度の数に遅れは取らないのだろうが、それでも夢結の使うCHARMがないという問題は解決していないと鶴紗が不慣れな感じに敬語で聞いてくると、彼女の前までずいっと近寄る梨璃が答える。

 

「大丈夫だよ鶴紗ちゃん、わたしがお姉様と一緒に戦うから!」

 

「……つまり、梨璃のグングニルを二人で使うの?」

 

 梨璃のCHARMをシュッツエンゲル二人で持ち、その様子を鶴紗に見せてくる。それが夢結の『わがまま』に応えようと、シルトとして梨璃の出した答えだというのか。

 確かにこれはめんどくさいなと思いはしたが、梨璃が自分で選んだことならと鶴紗も納得して文句は言わなかった。

 

『なんでもいいけど、そろそろ大分狭まってきたんだけどなぁ?』

 

「おふたりともシュッツエンゲル揃って言い出したら聞かないのは分かっていますが、そろそろ雪華様も危ないみたいですよ?」

 

 通信越しに雪華の余裕のなくなってきた声が聞こえたのに神琳が場を仕切れば、流石に喋り過ぎたかとそれぞれの配置に別れる。

 

「そ、そうだね。行こう鶴紗」

 

「うん。合図は任せた」

 

「ええ、ここからが正念場ですよ」

 

 右翼に雨嘉と鶴紗、神琳の三人──

 

「のう、これではちと火力のバランスが悪くないか?」

 

「ふふ、このわたくしがその辺りを考えていないとでも? むしろ過剰なくらいですわ」

 

「つまりはミリアムさん、大活躍のチャンスですよ!」

 

「なるほどなるほど、ここがわしの見せ場ということじゃな!」

 

 左翼には楓、二水、ミリアムのいつぞやの訓練でも組んだ凸凹トリオ──

 

「…………ふぅ」

 

「梨璃、緊張しているの?」

 

「うーん、『頑張らなきゃ』とは思ってるんですけど、何をどうすればいいかが分からなくて」

 

「梨璃は夢結の手をしっかり握っててやってくれ、多分それが大事なんだと思う」

 

 そして中央、梨璃と夢結と梅はギガント級を正面に臨む中最後の確認を──

 

「梅、もしかしてあなた」

 

「ここまで来たら()()()()のどれかだろ? 流石に分かるよ。けど梨璃はまだちゃんと覚醒してる訳じゃないし、近寄ればまたあのヒュージは夢結のことを狙ってくるかもしれない」

 

「分かっているわ。だからもしもの時は」

 

「おう、もっと頼ってくれていいんだゾ?」

 

 不確定要素が強いにせよ、梅には梨璃ならやってくれるという確信がある。一部で噂されている『彼女のレアスキル』のことを抜きにしても、その人柄と一度夢結の暴走を止めたという実績、加えて自身の直感から。

 それでもまだ入学数ヶ月の新米には違いないので危なっかしさの方が勝るが──なんのための先輩か、仲間と後輩の道くらいは作ってみせねばかつて所属していたレギオンの、伝説の初代アールヴヘイムの名が廃るという物だ。

 

「それでは参ります。雪華様、ビットで陽動を!」

 

『了解、私が死ぬ前に終わらせてよね!』

 

「絶対に間に合わせるからナ!」

 

 空元気で軽口を叩いてみせる雪華が中から念じると神琳の回収していたビットが飛び出してヒュージの元へ向かい、続いて梅が廃墟の間を駆け抜ければ夢結も覚悟を決めたように息を吐く。

 

「……行くわよ、梨璃」

 

「はい。ルナティックトランサー、発動してください!」

 

 背負うブリューナクのコアへ後ろ手に手をかざし、マギを込める……これは仲間を助けるための戦いだ。今だけは身も心も焼くような狂気には呑まれず、その力だけを乗りこなせ。

 

─ルナティックトランサー─

 

「お姉様!」

 

「……っ!」

 

 夢結の纏うマギの雰囲気が変わった。そう感じたのに合わせて梨璃が一歩踏み出せば夢結も同じように足を前に出し、二人分のリリィの脚力により揃って宙に舞う。

 

「成功したのか?」

 

「一応、衝動に呑まれてでなく自らの意思で発動した場合は少しの間ならば問題ないとは聞いていますが……」

 

 鶴紗の疑問に答える神琳の知識もあくまで夢結の自己申告であり、自ら実際に見た訳ではないしその限界時間も様々なコンディションに左右されるものではあるのだろう。とはいえ梨璃と共に廃墟を跳んで行く夢結からはいつかのような暴力的な空気は感じないし、少なくとも今すぐに暴走するということはないのだろうと反対側からヒュージに向かう楓と一瞬視線を交わすと、気持ちを切り替える。

 

「そろそろ攻撃ポイントに着きます、雨嘉さん!」

 

「うん、《天の秤目》!」

 

 着地した屋上でレアスキルを発動させ片膝をついて狙いを定めるのは雪華を囲う触腕の内、こちら側の根本の部分。ヒュージ越しに楓たちもCHARMを構えたのを確認して、雨嘉は引き金を引く。

 

「さあ、ぶちかましてくださいなミリアムさん!」

 

「おう、任された! 《フェイズトランセンデンス》!」

 

 雨嘉の狙撃に合わせてミリアムが解き放つのは無限の力、時間は掛けれないのだから自身の放った砲撃の着弾も確かめずにCHARMを振り回し、楓と二水の張る弾幕の中を彼女はギガント級目掛けて突き進む。

 

『おっと、結構揺れるね』

 

「鶴紗、わたしの撃ったところに……!」

 

「了解……!」

 

 左右からの砲狙撃により雪華を捕らえる触腕が少し緩むが、この程度ではまだ足りない。やはり直接打撃を与える必要があると神琳側からも鶴紗が飛び出せば、正面から梅を先頭に梨璃たちも近寄ってきたこともありヒュージが力を溜めているのが遠目にも分かる。

 

「さっき見た全方位攻撃が来るゾ!」

 

「今のわしはこの程度では止まらんぞい!」

 

 それを見て途中にある建物の影に隠れる梅たち正面組と、フェイズトランセンデンスで得た無限大のマギをそのまま自身を覆う障壁として展開し突っ切るつもりのミリアム。しかし今跳んだばかりの鶴紗は空中にいて、回避も退避も間に合いそうにないのが梨璃からは見えてしまった。

 

「鶴紗ちゃん!?」

 

「大丈夫、致命傷だけは避けるから……!」

 

 梨璃よりほんの少しだけ背の高い鶴紗であろうと、大型のCHARMであるティルフィングを盾にすれば頭から胴体はほとんど覆い隠せる。それでもグリップを握る手やはみ出る足などに多少光弾が掠りはするが、彼女には『リジェネレーター』がある以上この程度なら問題にもなりはしない。

 

「うくっ……」

 

「お姉様!?」

 

 それよりも隣の夢結の方が頭を押さえて毛先が白く染まり出していることから、そろそろ限界が近そうだと梨璃がリードするように右手を引いて跳び上がれば、梅がギガント級の目の前までたどり着いているのが見える。

 

「ちょっと梅の相手をしてて貰うゾ!」

 

─縮地─

 

 レアスキルを発動させた梅は隠れていた建物の壁面を蹴って跳び、ヒュージへ通りがかりに一撃を浴びせてはまたその先の建物を蹴ってすれ違い様に何度も攻撃を加える。

 地形を利用し『縮地』へマギを集中しているが故にいつぞやの雪華以上のスピードで縦横無尽に空を駆け回る彼女は緑の疾風と化していて、ヒュージが反撃に伸ばす触腕もまるで追い付いていない。ならばここがチャンスだと、夢結は梨璃のグングニルに手を添える。

 

「今よ!」

 

「はい! 鶴紗ちゃん、ミリアムさん!」

 

「合わせる!」

 

「うおおおおおお!!」

 

 この瞬間、梨璃たちへのヒュージのマークは外れて──正確には触腕のひとつは夢結へ向かおうとしていたが、それは左右から楓と神琳に撃ち抜かれ動きを止められていた。

 

「生憎と、その程度の動きは見え見えでしてよ?」

 

「ふふ、合わせやすいというのはこういうことを言うのでしょうね」

 

 余裕を見せる司令塔二人の手によって障害は排除されたと、四人は最後の一跳びを全身全霊で踏み締める。

 

「つぇぁっ!」

 

「どりぁぁぁっ!」

 

「「やぁぁぁぁぁぁっ!!」」

 

 固まっている触腕の根本それぞれに左右から鶴紗とミリアムによるCHARMでの一撃が叩き込まれ、最後に梨璃と夢結が二人で構えるグングニルによる全力の突撃(チャージ)で雪華への包囲に綻びが生まれる。

 

◆◆◆

 

『雪華様、内側から攻撃を!』

 

「オーライ! 散々ここで待たされたんだ、延長料金はたんまりとね!」

 

 かなり揺さぶられはしたけど二水ちゃんからの通信がなくとも大分外の光が見えたからと、正面のフィールドを一部解除して一番大きな隙間へレーザーブレードを展開したソードガン二刀を突き刺し、斜め下に切り開いてそこから外へ飛び出せば突きの構えのまま通り抜けて行く夢結と梨璃ちゃんのコンビとすれ違う。

 

「ちっ、そう簡単にはいかないか!」

 

「借りるゾ雪華サマ!」

 

 とはいえ囲いが解ければ途中で千切れてようとまだ動かせる触腕たちが私と離脱しようとする夢結たちを狙って来るけど、進路上にあったソードビットをキャッチしながら空を駆ける梅がそれらを即席の二刀流で蹴散らすとこっちにビットを投げ返してくる。

 

「お、サンキュー」

 

「ぬわぁっ!?」

 

「っと、下がるぞ」

 

 その間にフェイズトランセンデンスの切れたミリアムちゃんは着地に失敗して屋上から落ちかけたところを鶴紗ちゃんに抱えられているし、夢結と梨璃ちゃんも近くに姿が見えないことから問題なく離れられたようだ。

 

「鬱憤晴らしだ、最大出力を食らえ!」

 

 なら後は自分の仕事を果たすだけだと、生き残りの触腕への対処をビットに任せながらソードガンを連結させツインバスターキャノンの構えを取るシールドと両手でしっかり持つブリューナクとを揃って下へ向けて、一斉に砲撃。その後を追うように落下して怯むギガント級の上、ダインスレイフの側にブリューナクを突き刺しながら梅と降り立つ。

 

「んのっ、さっさと抜けなさいっての……!」

 

「これは夢結の物なんだ、返して貰うゾ!」

 

 結構固いなとダインスレイフの突き刺さっている辺りを梅と二人CHARMで斬り付け、顔を見合わせてから「せーの」で引き抜く。

 

「うおっと、流石に限界か」

 

 ちょうどそのタイミングでダインスレイフに夢中になってたせいで制御が疎かになっていたビットが触腕に叩き落とされて近くに転がってくるから、最初に着けていた背中のアーマーに戻しつつ手頃な建物にアンカーを射出。ダインスレイフを抱える梅を更に私が抱える形で離脱する。

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