どうしたって!戦闘回は文字数から逃れられない…ので暴れてくれ。な精神です。
そして二度目のような三度目のような、少し変則的な感じに九つの集めた想い~♪タイトルの意味は前半はタイミング的な解釈、後半は本文にて?
ちなみに、元は2話からここまでが去年の更新。
「あっ、やりましたね!」
「そうね。これで……」
ダインスレイフが梅たちによって奪還されたのを確かめながらヒュージから離れた所へ降りた梨璃と夢結だったが、その直後夢結は片膝をつき髪を引っ掴むように頭を押さえていた。
「うっ……はぁっ……はぁっ……!」
「お姉様? しっかりしてくださいお姉様!」
前髪が乱れ片方しか見えない夢結の眼はマギにより赤く光り、髪も大部分が白くなっている。その上目の焦点も一ヶ所に定まらず呻いているのだから、どこをどう見ても限界だ。
「あ、あぁぁ……梨璃……美鈴お姉様……」
「わたしはここにいます! どこにも行ったりしません!」
絶対に揃うことのないシルトとシュッツエンゲルのことを同時に呼ぶのも、『ルナティックトランサー』によって纏う負のマギにより彼女は幻覚か幻聴かに蝕まれているからなのだろう。そんな夢結に対して梨璃が今出来ることは、夢結の手を取り必死に呼び掛けることだけ。
突入前、梅が梨璃の目覚めるだろうレアスキルについて何かしら知っているようなことを話してはいたが、どんなスキルであろうとどうやれば使えるのかも分からない以上頼ることは出来ないし、例えレアスキルがあろうがなかろうが梨璃は夢結のシルトなのだ。彼女の助けになってあげたいという想いに違いはない。
「ぁ……ぁぁ……っ……ぅ……!」
「お姉様、わたしの声を聞いてください!」
そうして荒くなった呼吸に声にもならない音を混ぜるようになった夢結を梨璃が抱き締めた時、彼女が手に持ったままなグングニルのコアがその想いに応えたかのように光ったのは、必死になるあまり強く目を閉じていた梨璃には気付けなかったことになる。
◆◆◆
同じ頃、百合ヶ丘の校舎は屋上──戦場から遠く離れているはずのそこで、一人の少女が梨璃たちのいる方角を不思議そうに眺めていた。
「……梨璃?」
「あら、何か見えたのかしら?」
そこへ屋上の入り口から彼女へ尋ねながら入って来るのは、一柳隊の見つけたこの少女にとっては梨璃の次に見慣れた相手。とはいえ梨璃相手程に懐いてはいないので、反応も少し曖昧になるが。
「えっと、は……はちゃ……」
「ふふ。無理せず名前だけでいいわよ」
「……うん、わかった祀」
これから彼女の扱いは一年生になるのだから目上の相手への言葉遣いは改めさせるべきなのかもしれないが、今の本題はそこではない。入寮の準備をしている最中少女が急に部屋からいなくなったと、お世話係の一人としてよく彼女に接していた祀に連絡が来て探していたのだから。
そんな少女は出撃前に様子を見に来ていた梨璃に結んで貰った二本の長いおさげを肩越しに足らしながら、自らの感じた内容をどう伝えたものかと言葉を選ぶ。
「うーん、ちゃんと見えたわけじゃないけど……なんとなく、あのあたたかい光が梨璃なのかなって」
「光……一柳隊は今戦闘中のはずだけれど」
こちらに関しては生徒会の一員として、一柳隊がアールヴヘイムの仕損じたヒュージ相手にその場を引き継ぐ形で交戦しているとは祀も聞かされてはいた。
しかし戦闘エリアになる廃墟は百合ヶ丘からは結構な距離があり、何かしらの道具もレアスキルも無しにその細かい様子など分かりはしないだろう。だが彼女の言うように感覚的なそれとするのなら、リリィとして色々と可能性は──
「くんくん。なんだかむずかしい匂いしてる」
「そうね。でも、もしかしたら私の考えすぎなだけで、実際はもっと簡単なのかもしれないわ」
祀が考え込んでいるといつの間にか少女が目の前まで来てこちらをまじまじと見上げていたので、あまり不安にさせるのもよくないかと努めて柔らかく微笑み掛ける。この無垢な少女が温かいと感じた光がなんであろうと、そう受け取れたのなら恐らくは向こうでも良いことがあったのだろうから。
◆◆◆
ギガント級から離れるためアンカーを打ち込んだ先にはちょうど鶴紗ちゃんとミリアムちゃんも退避していたようで、そこへ梅を抱えて飛び降りるような形になると『フェイズトランセンデンス』の反動で力尽きてるミリアムちゃんが、鶴紗ちゃんに膝枕をされていた。
「うぉぉ……あ゛ー゛……」
「この後ノインヴェルトもしなきゃいけないんでしょうに、そんな調子で大丈夫なの?」
「……うぅむ。最悪レアスキルさえ使える程度に回復したら、後はなんとかするぞい」
「枯渇状態から回復してすぐに連続使用って、そんなことして平気なのか……?」
生憎とうちのレギオンにこの系統のスキルを持つのはミリアムちゃん一人なためその辺りの勝手には詳しくないと鶴紗ちゃんの疑問には誰も答えられないけど、まあミリアムちゃん自身も筋肉痛が酷いのに無理矢理動いた後くらいの反動は覚悟しているのだろう……いくら私でもそこまでの無茶はしたことないけど。
「……うん、やっぱりこれ夢結の使ってたダインスレイフだナ。傷の付き方に見覚えがある」
「いや、それ覚えてんのも怖いな?」
なんて話している間に梅がダインスレイフを確かめ終えてのそんな発言には、色々とコメントに困った反応になる。中等部時代の話だから高等部に上がってから程頻繁には戦闘へ駆り出されていないにせよ、夢結がそれを失くしたのはもう一年半以上は前のことでしょうに。
「んー?」
「ったく……で、皆はっと」
「ひゃああっ!?」
梅へのツッコミもほどほどに辺りを見回してみると、ギガント級への牽制を終えた神琳さんと雨嘉ちゃんが揃ってこっちに降りてくれば、反対側の楓さんは悲鳴の主である二水ちゃんの離脱が間に合わず触腕に当たりそうだったのを引っ張り、そのまま彼女を背負って跳んでくる。
「……あれ、梨璃さんと夢結様は?」
「私らより先に離れたはずだけど、誰か見た?」
そんな風にして必死に楓さんの背中にしがみついていた二水ちゃんが全員揃っていないことに気付くと、皆してキョロキョロする中近くの建物の裏から人影が。
「すみません、遅れました!」
◆◆◆
(さっきの、なんだったんだろう……?)
レギオンの仲間たちのいるところへ夢結と降り立ちながらも、梨璃の胸中ではあの後夢結の暴走が収まっていた原因なのだろう不思議な現象への疑問が渦巻いていた。記憶が、そして身体が覚えている限りではこの感覚は初めてではないはずで4月に夢結を止めた時も5月の横浜での時も、そして今日もいつもいつも不意にやってくるのは、梅が言っていたようにまだきちんとスキルに覚醒していないからということなのだろうか?
「……梨璃?」
「あ、ごめん鶴紗ちゃん。なんでもないよ」
とはいえ今は自分一人のことより目の前のこと、全員揃ったのを確認すると楓が作戦会議を始めようと二水を降ろして仕切っているのだから。
「さて、これで頭数は揃った、と言いたいところではありますが……二水さん。アールヴヘイムの皆さんがヒュージと交戦していた頃から、色々気にしておられたようですけれど?」
「あ、はい!」
振り向いた楓に話を振られて、彼女の背中から降りたばかりな二水はメモ帳のひとつをめくり、目的のページを開いていた。
「あのヒュージの張っていたバリアですけど、恐らく〈マギリフレクター〉じゃないかなと」
「マギ、リフレクター?」
言葉の意味通りの反射板……というのは安直過ぎるだろうが、あのまま天葉が突撃せずにいたらマギスフィアも弾かれていただろうし強ち間違いではないのかもしれない。などと梨璃が首を傾げていると、その単語に聞き覚えのある数人が反応する。
「あー、それってブーステッドスキルのひとつだっけ? 先輩たちが何人か持ってたけど、あくまで『リリィ基準で』燃費が悪いって話だからなぁ」
とはいえ雪華の知識も断片的で、リリィとは比べ物にならない大きさのギガント級では多少マギの消費量が多くとも保有するマギ総量の差から大した問題ではないのだろう。そうなるともう一人の知ってそうな反応を見せた鶴紗頼みになるが──
「……研究所にいた頃、軽く聞いたことがある。確か何度も使うにはインターバルがいるとか話してた」
「そうですね。実戦でも連続しての使用は確認されていないようで、その隙を突いて撃退されたという例もあります」
しかし、二水が知るそのケースでも交戦したレギオンはノインヴェルト戦術で大半の力を使い切っていて、その後の追撃までは望めなかったらしい。との付け足しまで聞いて、雪華がとりあえずで浮かんだ案を口にする。
「となると致命傷になるような攻撃を見せてリフレクターを使わせた上で、その裏で進めてたノインヴェルトをぶち込めと?」
「あるいはノインヴェルト戦術を見せ札としてマギをそこまで込めず、わざと防がせてから残る火力を総動員するか……これまでの戦闘でギガント級にも相当なダメージは入っているはずですし、頭数も足りない以上は「だったら、あたしたちも混ぜてもらえるかしら?」依奈様?」
そこで神琳の言葉に割り込んで聞こえた声に一柳隊の面々が振り向けば、梨璃や夢結には先程ぶりになる依奈が、樟美と壱を連れてそこにいた。
「うちにはアーセナルが二人いるんだもの、これくらいの無茶は通すわよ。それに、いつぞやの貸し借りもあることだしね?」
「ふふ、どちらが貸しでどちらが借りになるのでしょうか?」
依奈が持ち出したのは演習場での救援と途中から戦線に参加したこと、あるいはその後の発破か、いずれにせよ不思議と縁がある各レギオンの司令塔二人が顔を見合わせて笑っていると、壱たちの方にもクラスメイトな楓たちが話し掛けていた。
「それにしても、よく間に合いましたわね?」
「まあ、弥宙と辰姫の二人には結構無理言ったから、今晩のデザートは直させたCHARMの分追加なんだけど」
「天葉姉様にあんな無茶させたヒュージ、許さない……!」
「樟美さん、なんだかやる気が凄いなぁ」
梨璃の感想はどこかズレてはいるが、ともかくノインヴェルト戦術で頭の方に近かったことから比較的余裕のあったこの三人のCHARMだけはなんとか応急処置を間に合わせて、こうして駆け付けたということになるらしい。
「これで人数は増えましたが……」
「ノインヴェルト戦術の扱いね? あたしたちはあくまで助っ人だし、そっちの作戦に乗らせて貰うわ。詳しい部分は一柳隊で決めて頂戴」
それだけ信用されている。というのなら動かない理由もないと、夢結が口を開く。
「なら、スタート役はわたしに任せてもらえるかしら? これで少しは選択肢が広がると思うけれど」
「まあ、それくらいでしたらいいでしょう。では基本人数の九人で回すとして、依奈様たちを入れて十三人……手が空くのが四人、火力の面で考えると」
「雪華様とミーさんはそちらですね。この中でも単独での火力ならおふたりが抜きん出ていますし、後は高出力砲搭載型のCHARMを扱う梅様と鶴紗さん、でしょうか?」
例の『切り札』とフェイズトランセンデンスを備える二人に加え、
「怪我のこともありますし、何を言われずとも夢結様はスタート役以外任せられませんわ。これ以上無茶されて傷が悪化してはたまりませんし」
「……自覚は、しているわ」
ルナティックトランサーのあるなしに関わらず、なまじ経験も実力もあるばかりに端から見たら危なっかしい戦い方をしているとは自分でも分かっているが、今更変えられるようなものでもないと夢結が髪先を指で弄りながら視線を逸らすと、これまでの戦闘で大分乱れていた彼女の髪を整えに梅が寄って来た。
「ん……その櫛は?」
「依奈に借りた。百合ヶ丘のリリィたる者、身嗜みはきちんとしないと、だろ?」
少し前の遭遇でその辺りも依奈に見られていたかと、夢結の真似でもしているような言い種の梅を拒みはせずそのまま身を委ねる夢結を微笑ましく眺めている梨璃の横へ鶴紗が並ぶと、同じく先輩たちを眺めながら声を掛ける。
「あの二人、やっぱり仲いいよね」
「うん、皆仲良くが一番だもん!」
何が嬉しいのか大分テンションの上がっている梨璃はそのまま鶴紗の手を取って来るので、少しの気恥ずかしさから鶴紗は話題を逸らす。
「……それで、フィニッシュ役は梨璃になるみたいだけど、大丈夫?」
そうしている間に進んだ楓たちの説明では負傷している夢結と初心者な二水から初め、そこからアールヴヘイムを含む中等部からリリィをしている経験者組がギガント級の近くでマギスフィアを回し、最後は楓から隊長の梨璃へ渡して安全圏からフィニッシュを──
という風に順番は決まったが決してラストなら楽ということもなく、今は沈黙しているヒュージも次はどんな変化を見せるか分からないのだからと鶴紗が不安げにしていると、繋いだままの手を二人の顔の間に持って来る梨璃。
「大丈夫だよ。一柳隊の皆だけじゃなくて、アールヴヘイムの人たちも繋いでくれるから、きっと!」
梨璃のことだからどうせ意識はしていないのだろうが、無償の信頼というのも時にはむず痒いと鶴紗も今度は視線を逸らしてしまう。そうすると次は先程ヒュージの攻撃が当たって制服の破れている部分へ梨璃の手が伸びて、優しく擦ってくるのがくすぐったい。
「あっ、かすり傷だから。もう直ってる」
「でも、かすり傷でも怪我は怪我だよ」
「……怪我の度合いなら夢結様のが酷いでしょ」
「お姉様は、梅様が見ててくれてるから」
つまり今の梨璃は鶴紗担当ということらしい。恨むぞ先輩……と思うのも夢結の髪を櫛ですいて整えている梅がどことなく普段よりご機嫌そうな様子からやるにやれなくて、結局頬を赤く染めて梨璃にされるがままでいるしかない鶴紗であった。
◆◆◆
「………………」
「またダインスレイフを前にしてセンチメンタル入ってます?」
回収された夢結のダインスレイフ──それは先程見せられたビジョンから最期に美鈴が使ったCHARMでもあるのだからと、壁際に置かれたそれを眺めているといつぞやのように後ろから依奈に声を掛けられたから、振り返りもせずに答える。
「まあね。たまたまではあるけど、今度も弔い合戦にはなるのかな」
「こないだの、そんな心情だったんです?」
「ま、気持ち的には『あたし』の仇だったってことで」
前回は昔あの場で一度死んでいたようなもの、というつもりでいたという話ではある。しかし今回はまごうとなく同級生の命を奪った仇、そんな視界の端のギガント級がしばらく大人しくしているのはここまでのダメージが相当なものだったんだろうけど……次は休むだけで済ませるものか、ここで仕留めてやる。
「ともかく、そっちは任せたよ〈プランセス〉さん?」
「この場合、どの異名で返すべきかしら?」
知らないよ。なんかいつの間にか私にも覚えがないのが増えてることもあるし、正直自分でもどれで呼ばれるのが正しいのかは分からない。まあ、同学年の
「あと、CHARMの方大丈夫なの? 私のブリューナクは夢結に貸すから出せないけど」
「なんとかしますよ。アステリオンだって悪いCHARMじゃないですし、この程度で泣き言なんて言ってたら
いや機種の問題じゃなくて、出撃前から気になってた『円環の御手』だっていうのに片手分しかCHARMないことの方なんだけど……まあ、本人が大丈夫そうならいいか。んで、最後に出した名前は迎撃戦の仲間たち?
◆◆◆
ノインヴェルト戦術開始直前──雪華から渡されたブリューナクへコアを付け替えてシューティングモードへ切り替え、梨璃から託された特殊弾を装填すると夢結は仲間たちを見渡して告げる。
「梨璃、皆……行くわよ!」
「ええ、アールヴヘイム!」
「一柳隊!」
「「合同ノインヴェルト戦術、開始!!」」
援軍を代表してな依奈と一柳隊の隊長としてな梨璃の号令が重なると、それを聞いて各員は事前に告げられた配置に散らばる。
「二水さん。焦らず、正確によ」
「は、はい、夢結様!」
まずマギを込めた夢結が少し先に待機する二水へマギスフィアを撃ち出すと、それをグングニルで受けた二水は前を向きゆっくりと狙いを定めながらマギを注ぎ込む。
「すぅー……はぁー……すぅー……」
落ち着け、落ち着け、落ち着け……と内心唱えつつ二水が深呼吸をしていると、予定していたポイントを樟美が通過し合図として視線だけで振り向いて来るのが見えたから、その進路上へCHARMを向けトリガーを引く。
「や、やあっ!」
「いい位置……!」
慌てる必要もなく、しっかり樟美の元へマギスフィアは届けられた。別働隊になる梅たちもそれぞれ途中で離脱し、ヒュージに気付かれないよう所定の地点へ回り込んでいる。
「いっちゃん、依奈様へ!」
「分かってる、今度こそわたしたちの連携を見せてあげましょう!」
壱の言葉に頷いた樟美がグングニルで軽く打ち上げたマギスフィアを、後ろから跳んで来た壱が飛び付くように受け取ると一気にマギを込めながら通りがかりの建物を蹴って跳躍。よりマギ純度の高いギガント級の直近まで突入しているはずの依奈へ向けて上空からパスを飛ばそうとして、彼女がヒュージの触腕に囲まれているのに気付く。
(再生が思ったより早い? けど依奈様なら……)
いや、壱がイメージしているのはあくまで両手にCHARMを携えている場合の彼女の姿。円環の御手を使っている時の戦闘力の向上は平均して1.5倍と言われているのだから、今アステリオン一機しかCHARMを持たない依奈は雑に計算して普段の2/3にまでそのパフォーマンスが低下しており、加えて単純な手数の減少がこの場においては予想以上に響いている。
本来の彼女なら、
「いっちゃん?」
「ごめん樟美、フォローをお願い……依奈様ッ!!」
壱の叫びに依奈が振り向くと彼女がマギスフィアごとブリューナクを投げて寄越すのが見え、一瞬動きが止まった僅かな隙も飛び込みながらグングニルを乱射する樟美が依奈を狙う触腕の一角を切り崩して、CHARMの通り道を作りながらカバーする。
「壱?」
「貸すだけです、壊したら承知しませんからね!」
素直になりきれない言葉を残し、樟美に抱えられて壱が離れていくのを見送った依奈は左手にブリューナクを受け取りながらアステリオンでヒュージの触腕を切り払うと、フッと笑みを浮かべてアステリオンを持つ右手の中指にはめた指輪をCHARMを交差させるようにして、ブリューナクのコアへ裏からかざす。
「そこまで言うんなら、壊れない程度には好きにやらせて貰うわよ──《
他人のCHARMでそのリリィ本来の全力は出せない……という常識を覆すのがレアスキル円環の御手。片方さえ自身のマギクリスタルコアの装着されたCHARMであれば、もう片方に仲間のCHARMを借り受けても本来の使い手と同じように使いこなせる。
そしてこのブリューナクは、アールヴヘイムの最前線を任せた田中壱に合わせて調整されている……ならば、この程度の壁は突破してみせろということだ。
「援護します!」
「助かる!」
追い付いてきた神琳と雨嘉が死角から迫る攻撃は撃ち落としてくれているのなら、後は前へ突き進むのみ。依奈は近付く触腕をアステリオンで叩き落とし、ブリューナクで横に薙ぎ払うとその勢いのまま振り回すように両手のCHARMをシューティングモードにし、その場で回りながら周囲に弾丸をばらまく。
「返すわ、よっ!」
大立ち回りにてヒュージの注意を引き付けたまま流れるようにフリップを効かせて壱のブリューナクを振るい、マギスフィアを神琳へ向け投げ飛ばす依奈。
「受け取りました!」
マソレリックのブレードでマギスフィアを受けながら、神琳が周囲を見渡すと別働隊の面々は配置に就き終わっており、ヒュージの正面に位置する神琳たちから見て左右に鶴紗とミリアム、二人の向かい側にそれぞれ梅と雪華のX字にヒュージを包囲する形になっている。
「さて、雨嘉さん!」
「いいよ。神琳……!」
ならば手早くパス回しを終え、依奈と共に離脱しないことには始まらないと神琳は隣の廃ビルの上の雨嘉へ真っ直ぐにパスを回す。これで残りは彼女を入れて三人、大詰めだ。
「絶対に繋ぐ……楓っ!」
「いつも通り、正確ですわね!」
マギを込めて振り向いた先、梨璃との間に陣取る楓を狙うと雨嘉はアステリオンのトリガーを引き、迷うことなくマギスフィアを射出するとそれは楓のジョワユーズの切っ先に吸い込まれるように飛び込んでいく。
「皆の離脱に合わせて、一斉砲撃だゾ!」
「了解! さあて、自分で使うのは初めてだけど……」
もうそろそろだと梅がタンキエムをシューティングモードで構えるのに続き反対側の雪華はライザーの主機になる左側のシールド、その裏側のコアへ左手にはめた銀の指輪──〈リングカートリッジ〉をかざす。
「カートリッジロード、〈B型兵装〉発動!」
B型兵装──コア付近に取り付けられた装置よりリングカートリッジへ蓄えられたマギを一気に注ぎ込むことでCHARMを意図的にオーバーヒートさせ、一時的にギガント級とも渡り合える圧倒的な攻撃力を得る機構。
冠するBの意味は〈
そんな言い方をされるように未だに各ガーデンの上位レギオンの中にも使用者は多く、戦場へのアーセナルの帯同やレアスキル『Z』持ちの同行、一部の特殊装備を持ち込むなど使用後のフォローを前提に運用されているのがその実態になるが、雪華の場合は多数のCHARMを持ち込むことによるオーバーヒートの実質的な踏み倒しや、所属レギオン内にアーセナルであるミリアムがいることにより現場での再調整が可能だと、持ち込みを許されている形になっていた。
「依奈様、そろそろ離脱を! ミリアム、準備はいいか?」
「了解。そぉ、れっ!!」
「おう、もう今日は店じまいで構わん──《フェイズトランセンデンス》!!」
離れた位置故に全体を見ていた鶴紗の言葉に、ヒュージの触腕を引き付けていた依奈も切り払った勢いで体を回しながら後ろに飛び退き、近くの高台を蹴り更に跳びながら射撃を加えギガント級から離れていく。それを確認すると鶴紗はティルフィングのバスターランチャーを構え、ミリアムは本日二度目のレアスキルを発動する。
「別働隊、攻撃を開始してください!」
そうして別働隊の攻撃体勢が整ったのを見て、神琳が指示を下す。
「それっ!」
「…………っ!」
「ぶっ飛べ!!」
「わしも目立ちたい!!」
四方からの砲撃が五本、ギガント級に迫れば堪らずリフレクターを展開するが全方位に展開したからか耐久性は多少落ちているようで、B型兵装やフェイズトランセンデンスにより火力の増している雪華とミリアムの狙う、左側にヒビが入っていた。
「神琳、合わせて……!」
「かしこまりました!」
パスを飛ばした後少し下がっていた雨嘉も、それを見ればアステリオンを再度構えヒビ割れの広がる地点を狙撃し、神琳だけでなく依奈、樟美に壱もそれに続いて射撃を送る。
「皆……?」
「ソラのグラムの仇、って訳じゃないけど!」
「梨璃さんにパスが回る前に、これだけは破っておく……!」
「解除を待つより確実でしょう?」
いつの間にか二人に並ぶ位置まで来ていたアールヴヘイム三人の言葉に頷くと、残り少ないマギを集中させ何度もバリアを狙撃する雨嘉。
「皆はそのまま狙ってて、破壊する!」
バスターキャノンの連結を解除するとシールドからはビームソードを、クルリと手の中で回したソードガンからはレーザーブレードを平時の倍近くの長さで展開した雪華が跳び、光の刃をヒュージの張るマギリフレクターへまとめて突き刺すとソードガンのグリップを捻るように曲げ、シューティングモードへ切り替える。
「零距離、弾けろ!!」
当然シールドの先端も前に向けているのだから、表面のレーザーバルカンと裏面のマルチランチャーも全力稼働させ至近距離からレーザーと徹甲弾を連射、ソードガンも拡散モードで刺したままトリガーを引いて宣言通りに撃ち抜きパリンとバリアを砕けさせると、後ろからヒュージに突き刺さる仲間の射撃の間を縫うように、反動でミリアムの隣まで降ってくる。
「うおう、相変わらず好き勝手やっとるのう」
「ま、切り札を切ったからにはこれくらいはね? ともかく、楓さん!」
「合点承知ですわよ! さあ梨璃さん、はっきりきっかりお願いいたしますわぁ!」
そうこうしている間に廃墟を跳び次ぎ梨璃の元まで馳せ参じた楓は、ジョワユーズを梨璃のグングニルへぶつけるようにしてマギスフィアを託──そうとした時、グングニルのブレード部分から軋むような音がしたと思えばその刃が折れ、マギスフィアごと宙を舞う。
「えぇっ!?」
「わ、わたくしの愛が重すぎたばかりに……」
「いいえ、限界……っ」
なのは勢い余って転けている楓を見ている夢結も同じようで、マギスフィアを追うように跳ぼうとした矢先に傷口が痛んだのか、左肩を押さえ踞っていた。
「夢結様!?」
「……ミリアムちゃん、まだ動ける?」
「んお? もう一度CHARMを振るくらいならやれるが、何をするつもりなんじゃ?」
慌てて夢結に駆け寄る二水と吹き飛んだマギスフィアとを見て、雪華の取った行動はミリアムのCHARM、ニョルニールの上に飛び乗ること。
「うおおお!? なんじゃ……いや、これはもしや」
「分かったなら急いで、こっちもあんまり時間ない!」
急なことに倒れないよう必死でバランスを取っていたミリアムも先月の訓練で見たようなことをやれというのは理解したようで、残る力を振り絞りニョルニールを振り回して雪華をマギスフィア目掛けて投げ飛ばすと、レアスキルが切れたのかそのまま倒れ込む。
「うごあぁ~……」
「お疲れ様、後は任せて。一直線なら追いつけない道理はない……はず。オーバーブースト、いっけぇぇぇぇぇ!!」
例えフェイズトランセンデンスにより力が増していたとしても、後から追う形になる以上それだけでは微妙に足りない。だからB型兵装により攻撃に回していたマギを強引にスラスターへ集中し、天高くへ飛んで行ったマギスフィアの真下まで来たところで雪華は足場を出して即座に蹴りながら下方へ全力噴射させ、深紅の光に包まれるようにして
「〈
「確か、雪華様の異名のひとつでしたっけ?」
曰く彼女の纏うマギの色や烏丸隊時代のマント姿から取られた、レアスキルに覚醒する前からマギの足場や『聖域転換』の盾を使った滅茶苦茶な動きで戦場を駆け回る様子を表す呼び名。後退途中彼女を見上げる依奈の呟いたそれに壱が反応すると、無意識だったのか目を丸くする依奈に咳払いで返される。
「……コホン、ともかく早く下がるわよ。あの人なら梨璃さんまでマギスフィアを戻せるわ」
それが個人的な信頼からなのか単なる照れ隠しなのかわざわざ追及する程壱も野暮ではなかったし、特に逆らう理由もないのだからと足を止めている間に先を行く樟美の後ろに続くのを答えとする。
「捕まえ、たぁっ!」
空を昇る雪華がナギナタへ連結し少し伸ばしたソードガンの先端にマギスフィアを捉えると、異変はすぐだった。当然
「……っ、構わずぶっ放せ!」
CHARM同士のリンクが途切れかけて一部の制御を失っているからこれ以上は限界と判断してナギナタごとマギスフィアを放り投げると、雪華もそのまま落ちる、落ちる、落ちる──
「え、雪華様?」
「集中なさい梨璃、雪華様ならこの程度は平気よ!」
廃墟を突き破ってド派手に落下する雪華に気を取られたのも一瞬、彼女がCHARMごと投げて寄越したマギスフィアだけを二水に支えられる夢結がブリューナクで弾くと、魔法球は屋上に突き刺さるナギナタを置き去りに梨璃の元へ向かう。
「先程まででもうマギは十分溜まっていますわ! 梨璃さん、そのままフィニッシュショットを!」
「う、うん!」
グングニルのブレードは欠けてもまだ構造的に本体側は無事だ、だから起き上がる楓の言葉を受けてシューティングモードに切り替えたCHARMの銃口にマギスフィアを受け止めて、その重さに負けないよう梨璃は全身に力を込める。
(大切な人、掛け替えのないものたち……)
そんな仲間たちが想いを、絆を繋いでくれたマギスフィア。それを今度は自分一人で撃たなければ──
(ううん、一人じゃない。この温かさは、お姉様や皆がわたしに託してくれた物……)
マギスフィアの重さで少し狙いがブレるが、この大きさの相手になら外すことはないとギガント級を真正面に見据えて、梨璃は引き金に指を添える。
「梨璃、しっかり狙うのよ」
「梨璃さんにはわたくしたちが付いていますわ!」
「えっと、訓練通りにやればきっと大丈夫です!」
夢結が、楓が、二水が、他の皆もヒュージへの牽制射撃をしながら梨璃へ口々にエールを送っていて、彼女たちの繋いだ想いはこの手の中にしっかりある──だから!
「〈わたしたちの光〉で、守ってみせます!」
宣誓と共に放つ光は度重なるダメージで動きの鈍ったギガント級の触腕をすり抜け、ダインスレイフの刺さっていた箇所へ直撃すると一際激しい閃光となり辺りを照らす。
◆◆◆
「うわぁ、大分派手にやっちゃってる……おーい、生きてますか~?」
墜落するような形になってしばらくして、瓦礫の山に埋もれてて外はよく見えないけど誰かの声が聞こえたからには、助けてくれと呼ぶしかない訳で。
「なんとか死んでないー」
「あかねぇ、ここだってー!」
「分かったわ。皆、雪華様を見つけたわよ」
この感じ、アールヴヘイムの居残り組が助けに来てくれたんだろうか。そっちも大変だったろうに悪いなぁとか思っていると、パラパラと破片が頭へ降ってきた後に瓦礫がズレて、上から光が差し込む。
「おー、相変わらずタフですねー」
「ところでさっきの、こないだのわたしと梨璃ちゃんの真似だったりします?」
「ま、あそこまで上手くは行かなかったけどさ」
上に空いた穴から覗き込んで来るのは天葉と月詩ちゃん。その後ろでホッとしているのが茜と、呆れているのかドン引きなのかなもう一人。
「うわ、なんであんな落ち方して無事なんですか」
「ビットのバリア。こっちはオバヒしてないからギリギリ間に合わせたのよ」
そんな弥宙ちゃんからの言葉は棘しかないけど、まあ今回ばっかりは滅茶苦茶やってる自覚があるからソードビットを手に持って見せびらかしはしても、文句までは言えない。
「……まあいいですけど。辰姫、亜羅椰、わたしじゃ手届かないから後よろしく」
「そんな胸張って言うことかなぁ?」
「あら、素直に頼ってくれてるだけ可愛いじゃない?」
あのー、わちゃわちゃするより先に引き上げて……あ、二人の手伸びてきた。どうも。
「ふぃー……お互い後輩には頭が上がらんね」
「あ、やっぱりあたしもそっち側カウントなんです?」
話を振った際のリアクションもなんだかもう慣れてしまったって感じだから、腕を組んで「何を今更」って顔をすれば天葉がなんとも言えない様子で頬を掻いてるのが答えだった。
◆◆◆
「はい……はい……ええ、では」
「どうなったの?」
戦闘の光が見えなくなってすぐの着信に出た祀が通話を切ったのを見て、少女がよく分かってなさそうに首を傾げていれば、その答えは微笑みながら告げられる。
「戦闘に参加した全員の無事が確認されたわ。勿論、梨璃さんもよ」
「そっか、よかった?」
彼女は会話の内容もまだぼんやりとしか分かってなさそうだが、いずれその意味も分かるだろうと祀は彼女に与えられた『名前』を呼ぶ。
「
「ゆり……? 結梨のこと?」
先程少女の髪を結びながら梨璃がそう呼んでいたのを聞いた時は祀も不意を突かれてなんともいえない表情になってしまったが、それが彼女の選択なら自分にどうこう言えることでもないと受け入れ、まだ実感のなさそうな結梨へ少し生徒会としての顔を見せる。
「リリィは必ずしも明日が約束されている訳じゃない。だから待ってくれている誰かのため、こうして戦っているの」
「誰かのために、戦う……?」
それがさっきまでの光のことだとは結梨にも伝わったのだろうが、これ以上は説教臭くなっていけないかと祀も引き締めた表情を緩めて、気持ちを切り替える。
「だから、頑張ってた梨璃さんたちが帰って来たら笑顔で迎えてあげましょう?」
「うん、分かった!」
「あっ、結梨さん?」
とはいえ、そのまま結梨が屋上の入り口まで駆け出して見えなくなってしまったのでは、廊下や階段では静かにと注意するため追うしかないのだが。