アサルトリリィ~円環の赫星~   作:ですティニー

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前回のあらすじ:チャッ…チャチャッ…と二年生多めに。
多分この子、視点役のあるオリキャラではあるけど、主人公タイプかってーと我ながら疑問符。
前作、と付けると若干それっぽいイメージかもしれない。後輩の見せ場を奪わないZアム○とかア○クの號というかタラクみたいな。



狂乱の果て/手を伸ばすワケ

 あれから数日が経ち学院内の武道館、そこでとあるシュッツエンゲルの訓練の見物客へ紛れ込み、欠伸に開いた口を手で隠しながらその様子を眺めていると、横から聞き覚えのある声を掛けられる。

 

「はぁ、まったく呑気な物ですわね。雪華様はお止めにならないんですの?」

 

「そうは言うけどさ、ちゃんと刃にカバーしてるだけ、うちの世代よりいくらか優しいでしょ?」

 

「ああ、やっぱりこの間のはわざとCHARMあのままだったんですね……」

 

 そんな風に知り合って少しながらも、既に私への扱いをはっきりとさせたらしい楓さんと二水ちゃんからの呆れたようなそれを受け流しながら見るのは、二人との共通の知り合いである梨璃ちゃんとそのシュッツエンゲルである夢結の訓練……とは言うが、その実夢結が一方的に梨璃ちゃんへ打ち込んでいる様。

 しかし夢結も派手に吹っ飛ばしはしても毎度梨璃ちゃんが最低限起き上がるまで待ってくれてダウン追撃には走らないし、狙いも刃へカバーを被せたCHARMに対してだけと『こっちの尺度』で見ればそうやり過ぎということもない。

 

「ま、激戦続きだった初代アールヴヘイムの一員だった夢結からすれば新入生なんて等しく素人なんだから、誰だろうと特別扱いはしないってことでしょ」

 

「そりゃあ、二年前の甲州撤退戦から昨年の御台場迎撃戦までの30戦を欠員ほとんど無しに戦い抜いた伝説のレギオンからすれば、高等部からの新入生なんてどこの誰でも可愛らしい赤ちゃんのようなものでしょうけれど? わたくしが言いたいのは、そうであるのならそれ相応のやり方もあるのではないか。ということですわ」

 

「むっ……」

 

 それを言われると強く否定はできない。私があの夜告げられた梨璃ちゃんに対し夢結がここまでスパルタにならざるを得ない理由なのだろうあのことは、安易に言いふらすような物でもないのだから。

 

「よっと」

 

 そう私が返事に困っていると、上の足場から手すりを飛び越えてストンと降りて来るのは縞々靴下の緑髪。

 

「いや、何してんの梅?」

 

 マギで強化されるリリィの身体能力をもってすれば大したことのない高さとはいえ、いきなりのことで上に残されたいつぞや見たようななっがいアホ毛の子も「おおー」って覗き込んで来てるし。

 とはいえわざわざそんなことをして降りて来た理由など、私たちの会話に混ざるため以外ないんだろうけど。

 

「夢結は何より自分に対して妥協できない性格だからナ、お姉様として半端はやれないんだろ」

 

「あ、梅様。ごきげんよう!」

 

「梅とも知り合いなの? ちょっと顔広すぎない二水ちゃん?」

 

 まだ入学式から一週間と少し、勉強だって大変だろうにいつの間にか梅とまで知り合っているとは、フットワークが軽いというかなんというか。

 

「あら、ごきげんよう梅様」

 

「おう。皆元気そうだナ!」

 

 その上楓さんまで顔見知りのような対応をするものだから、流石にそうなった経緯を聞かずにはいられなかった。

 

「で、こっちはどういう関係なのさ?」

 

「梨璃さんと夢結様が契ってすぐ、二水さんとおふたりの様子を見ているところにフラッと梅様が現れまして、そこからの縁ですわ」

 

「なるほど? 分かるような分からんような」

 

「おっ?」

 

 なんて話していると梅の関心したような反応に改めて梨璃ちゃんたちの方を向くと、なんとか踏ん張りCHARMを構えた状態を維持する梨璃ちゃんに、受けられるとは思っていなかったのか夢結が打ち込んだ勢いのまま逆に弾かれていた。

 

「ほう、夢結様がステップを崩したとな?」

 

「ふーん、ようやくマギが馴染んできた。ってとこかな?」

 

 ちょっと離れた位置からまたまた梨璃ちゃんに対して興味津々そうなミリアムちゃんはともかくとして、CHARMとはただただ手に持って振り回せばいいだけの武器ではなく、それに使用者のマギを通わせて初めて十全に扱える。そういう代物だ。

 故にわざとそれを断ち切れば以前のようにあっさり砕けるが、逆にしっかりと全体に行き渡らせれば訓練だからと手を抜いた様子は微塵もない夢結の打ち込みといえど、来る位置さえ分かっていれば真っ向から受けられるようにも──

 

「……いや、にしたって順応早すぎない?」

 

「あら、雪華様も梨璃さんの実力を疑っておられましたの?」

 

 なんてひょこっとこっちの顔を覗き込んでくる楓さん。さっきまで不満たらたらモードだったろうに、調子いいなぁ。

 とはいえ話を聞くに梨璃ちゃんは元より目が良く運動も得意な子らしいので、契ってから一週間ずっとこんな感じのことを繰り返しているというのならば、こうもなるか。

 

「そりゃあ補欠とはいえ合格してるんだし、最低限百合ヶ丘でやってけるくらいのセンスはあると思ってはいたけど……ん?」

 

「これって……?」

 

 その時ゴーンゴーンと聞こえるのは、襲撃を告げる鐘の音。なんのだと聞かれれば、勿論ヒュージのだ。

 百合ヶ丘は近年わざわざ高等部の校舎の位置を移してまで、海にある〈ヒュージネスト〉より襲来するヒュージに対する防波堤として機能するようにされているのだから、当然その迎撃は私たちリリィの役目。そして今日の出撃担当は──

 

「わたくしたちレギオン無所属の、いわゆるフリーランスなリリィですわね」

 

 流石に範囲が広過ぎるからとその全員がという訳ではないが、少なくとも今日は私や今話している面々の名前はあったはずだ。工廠科なミリアムちゃんはともかくとして。

 

「で、ミリアムちゃん、頼んでたやつは?」

 

「おう、百由様が昨夜仕上げておったぞい。オーダー通りの三機セットで、場所はいつものじゃと」

 

 なら問題なし、急げば戦闘中に乱入するくらいはやれるだろう。

 

「オーケイ。んじゃ皆、また後でね」

 

「は、はい。お気をつけて!」

 

「あんまりのんびりしてると、先に片付けちゃうゾ?」

 

 挨拶もほどほどに武道館を飛び出すと、目指す場所は工廠科にある整備室のひとつ。

 個人の工房預かりでは不在時のすれ違いが面倒だからと、私がCHARMの整備や調達を頼んだ場合、終わった後は大体その手の共同で使える場所に置いておくようにしてもらっている。

 

 そんな訳だからと校舎に戻るとエレベーターのボタン操作も気持ち早めに、目的の階についた途端に飛び出てそのまま廊下を走るのは、見る人に見られればお説教コースなのだろうが、一応の緊急時なので容赦して貰いたい。

 

「えーっと、ここだここ」

 

「うわでた」

 

 なんて駆け込んだ整備室で私を迎えるのは、作業中だったのだろうアーセナルたち二人の内片方の露骨に嫌そうな反応。いや人の顔を見るなりご挨拶だね?

 

「ここに百由に頼んだやつがあるはずなんだけど?」

 

「百由様のならそっちの台に……また壊したんです?」

 

「またって……ああ、君らアールヴヘイムの?」

 

 どこかで見覚えがあると思えば、この間のお手合わせの時に見てたメンバー?

 あるいは工廠科生というのならその夜、学年別の入浴時間なんてとっくに過ぎていたからと、遅くに入った時の大浴場でかもしれないけど。

 

「ええまあ。けどあれでうちの面々のCHARM使い荒くなったら、絶対に許さないんだから!」

 

「いや、影響されるような子……あー、一年にも円環の子いるんだっけ?」

 

 この前樟美ちゃんだったかに隠れられていた、さっきも見たアホ毛の子がそうだとかなんとか、風の噂程度に。

 でも私ってば基本二年以下からの評価は「あの人の戦い方だけは絶対に参考にするな」なんだけどなぁ、だからこそか。

 

弥宙(みそら)うるさい。集中できないじゃん」

 

辰姫(たつき)は元から自分のしかやってないでしょうが! わたし一人じゃ数が多すぎて手が回らないっていうのに、いっつも目を離したら自分のCHARMばっかりいじって」

 

 ふむ、さっきから話してるアッシュブロンド髪の子が弥宙ちゃんで、その子と私の会話を他所に黙々と作業をしていたスカイブルー髪の子が辰姫ちゃんと。脳内にメモメモ。

 

「それこそいつも言ってるよね? 辰姫は自分のCHARMしか見たくないって」

 

「だーかーらー、高等部でそういうワガママがいつまでも……はぁ」

 

「工廠科って一括りにしても、色々な子がいるんだねぇ」

 

 どうやらドヤッと豊満な胸を張る辰姫ちゃんには弥宙ちゃんも随分と手を焼いているようだ、ある種マイペースというかなんというか。

 なんて二人の漫才を眺めながら、注文通りのCHARM三機を並べて置かれていた愛用するオーダーメイドの大型ケースにしまい、そのまま背負うと入り口へ向かう。

 

「さて、それじゃあ私は出撃担当なもんだからこの辺で。ではごきげんよーう」

 

「あ、はい。ごきげんよう……ともかく、辰姫は他のもちゃんとやる!」

 

「はーい……ちぇー、あの先輩もう少しいてくれてもよかったのに」

 

 さっきは邪魔者扱いしてたくせになんか勝手なこと言ってるけど、喧嘩するほどなんとやら。我らが百合ヶ丘の誇る伝説的レギオンの名を継いだのは、この間の亜羅椰ちゃん含め随分賑やかな子たちみたいで。

 

◆◆◆

 

 その頃の梨璃たちはというと、いざ海沿いの廃墟エリアにて水平線の彼方より迫るヒュージの姿を確認したまではいいが、夢結にここまでと言われ待機させられていた。

 

「まったく、来いと言ったり待てと言ったり……随分と勝手ですこと」

 

「じゃが夢結様の言い分も分からん話でもあるまい。ありゃあ『レストア』じゃろうからのう、下手に一年生が行くより上級生だけで対応すべきじゃろ」

 

「レストア?」

 

 愚痴を溢す楓の横に何故かいてCHARMを担いでいるミリアムの口にした、いかにも専門用語っぽいそれに梨璃が首を傾げているとその答えは反対側、眼鏡をかけた長髪の先輩から。

 

「正しくは『レストアード』、ヒュージが巣であるネストに帰還し修復された個体……それが何を意味するか分かるかしら、一柳梨璃さん?」

 

「も、百由様? えっと……戦闘を、生き残ってる?」

 

 「せーかい」と梨璃たちのいる足場の端に腰掛けながら、太股の辺りに乗せた端末のキーボードを叩き出すのは真島百由。梨璃としてはシュッツエンゲルとなった夢結の次くらいに話す上級生、という認識の相手。

 どうやら出撃担当に名前のなかったはずの彼女とミリアムがいる理由は、工廠科の生徒らしくデータ取りか何かのようだ。

 

「すなわちリリィと何度か戦った経験があり、かつそれら全てを生き残っておるヒュージ……故に普通のヒュージより手強いんじゃよなぁ」

 

「にしては、夢結様も梅様も特に気にせず突っ込んでおられますが?」

 

「ま、あの二人にとっちゃレストアだろうとヒュージはヒュージ。やることは変わらないでしょ」

 

 元々生物的かと言われると疑問符のある外見なのがヒュージだというのに、迫り来るラージ級──スモール級、ミドル級に続くヒュージの等級としては下から数えても上から数えても真ん中に当たる数メートル台後半の個体、このラインから通常兵器での撃破が不可能とされる大型ヒュージの、継ぎ接ぎだらけで元の形も怪しい部分や不規則にトゲの生えた風貌は、見る者に威圧感を与えてくる。

 

 とはいえ歴戦のリリィである二年生二人にとってその程度は慣れた物のようで、梨璃たちの視線の先では夢結が上陸の際に飛び上がったヒュージの足元を抜けながら、先制攻撃を掛けていた。

 

「……堅い」

 

 夢結の愛用する『ブリューナク』は大型な見た目に違わず攻撃特化のCHARMであるのだが、下方からのすれ違い様の連撃も上に回り飛び越えながらの一撃も、ヒュージの甲羅のような装甲へはあまりダメージの入った感じがしないと着地し警戒の段階を引き上げていると、夢結の隣に梅が跳んでくる。

 

「やれやれ、こりゃ手こずりそうか?」

 

「……わたしに考えがあるわ。梅、合図をしたら砲撃を」

 

「りょーかい!」

 

 それまでは様子見だと、夢結はブリューナクをシューティングモードに切り替えながら一定の距離を保ちつつヒュージへ数発射撃を加えると、梅もそれに倣って反対方向へ駆けながらヒュージへ自身のCHARMの銃口を向け、その引き金を引く。

 

「夢結様……」

 

 本物のヒュージ、それも以前の特型──通常のヒュージにはない特徴が見られるヒュージだったとはいえ、あくまで小型であったそれとは違う大型との戦いを不安げに見守っていると、梨璃の耳に飛び込んで来るのは本来この場にいないはずのリリィの声。

 

「あれは梅様のユニークCHARM『タンキエム』! 分類としてはディフェンシブチャーム、防御系のCHARMとされていますが専用に小型化された高出力砲を搭載しており、攻撃面も決して隙のない機体となっています! またその名前は亀にまつわる伝承の魔剣が由来とされており、梅様自身も亀がお好きだとか!」

 

「ふ、二水ちゃん!?」

 

「……二水さん。あなた今日は見学だったのではなかったかしら?」

 

 夢結から戦場の端で待つように言われた梨璃も実戦経験は入学式の日に一度きりのどっこいどっこいとはいえ、彼女の記憶が確かなら初陣でラージ級の相手など補欠合格の二水には明らかに不釣り合いだと、学院の方に残っていたはずなのだが。

 

「あはは。その、やっぱりじっとしていられなくて……」

 

 それでもしっかりCHARMは持ってきているのだから、頬を掻きながら照れる二水も相応の覚悟をしてここまで来たのは間違いないのだろう。

 

「……まあいいでしょう。どういう理由でかはさておき、こうなればわたくしたちの出番はそうないと思いますし」

 

「え、でも夢結様の攻撃も……」

 

「まあ見ておれ、恐らくはそろそろ」

 

 楓とミリアム、ミドルネーム持ちコンビには夢結たちがヒュージへ距離を保ちながら射撃を続けている意図が分かっているようで、しばらくして痺れを切らせたヒュージが彼女らへ向けて何かを飛ばすのが見えた。

 

「ミサイル!?」

 

「なるほど、恐らくおふたりはこれを……」

 

 ヒュージがその体から放った小型の誘導弾、それが夢結や梅の駆け抜けたあとに着弾するか、あるいは途中で撃ち落とされるかでたちまちヒュージの周りの様子は煙や爆炎で見えづらくなるが、梨璃の隣で普段は水色な瞳を赤々とマギの光で染める二水には、今もある程度の状況は見えているようだ。

 

「二水のレアスキル『鷹の目』か、便利なもんじゃのう」

 

「戦場全体を上空から見渡す、俯瞰視野の力……だったっけ?」

 

 梨璃も以前アールヴヘイムが出撃担当の日に二水が使っているのを見たそのレアスキルに驚くことはしないが、それで彼女の察した夢結たちの狙いとは。

 

「梅!」

 

「そこだナ!」

 

 ヒュージがミサイルを吐き出した内の二ヶ所へ二人のCHARMから閃光が突き刺さると、遂にヒュージがダメージを受けたように砲撃を受けた箇所を連鎖的に爆発させながら仰け反る。

 

「あ、そっか。いくら装甲が厚くても」

 

「ええ、攻撃のため露出しているところは守れない。力押しだけがリリィの戦い方ではない、ということですわ」

 

 加えてこのヒュージの攻撃手段はミサイル、すなわち爆発物なのだから夢結の考えとはその発射口を撃ち誘爆を狙った、ということになる。

 そして戦場で動きの止まる程の隙を見せた以上、それを相手に突かれるのは必然で、飛び上がった夢結がブレードモードへ戻したブリューナクでの一撃を──

 

「……今、何か光った?」

 

「このヒュージは今のところレーザーやビームを吐いてくる様子はありませんが……」

 

 ほんの一瞬、ヒュージの装甲の隙間から何らかの光が梨璃には見えたが、特に攻撃の予兆だとかということもなく、そのままヒュージは夢結の斬撃をその身に受ける。

 

「今のは……?」

 

 その傷跡からも光が漏れているのに夢結が気付くが、砂煙の中を機雷のように漂っていたミサイルを前に思考を切り替え、ブリューナクで咄嗟に受けるも踏ん張りの利かない空中故に、爆風に吹き飛ばされた。

 

「うっ……」

 

「夢結、そろそろ下がるか!?」

 

 なんとか勢いを殺し地に転がっていた夢結はまだ行ける、と言う時間も惜しいと自身を庇うように近寄ってきた梅の横を駆け抜けると、そのままミサイル攻撃の隙間を縫って再度ヒュージに取り付く。

 

「……まったく」

 

 相変わらず無茶ばかり、とでも言いたげに梅がタンキエムで砲撃を放つと、その射線上にいたミサイルのひとつが推進部をやられているのを見た夢結は、ブリューナクで弾くようにヒュージの背中へそれを叩き付ける。

 

「おっ、今のはいいのが入ったのではないか?」

 

 ミリアムの言うように、その一撃はヒュージの甲羅のような装甲であろうとかなりのダメージだったようで、一部が弾け飛びその下にあるヒュージの本体が──そしてその背に突き刺さる無数のCHARMもまた見える。見えて、しまった。

 

「……えっ?」

 

「なに、あれ……?」

 

 そのCHARMたちの機種には纏まりはなく、ただ共通しているのは朽ちたように色褪せたその姿のみ。まだ新人も新人な二水と梨璃はその光景を見て頭で理解しようとも、心が理解を拒んで固まってしまう。

 

「なんてことですの……」

 

「CHARMはリリィの手足も同然、それがこんなにあるってことは……」

 

「あやつめ、武蔵坊弁慶か何かのつもりか……」

 

 流石にミリアムが例えに出したかの有名な物語の僧兵のように999本、ということはないが少なくともこの場にいるリリィの総数より遥かに多いCHARMの亡骸は、そのままこのヒュージ、ないしその属する群れの犠牲となったリリィの数を現しているのだろう。

 

「あ……あぁ……」

 

「下がれ夢結!」

 

 そしてこの場にいるのはリリィ、マギに共鳴し操ることのできる“年頃の少女たち”。

 遠目に見た梨璃や二水でさえあまりの光景に言葉も無くすのであれば、それを間近で見るどころか囲まれてしまった、百由曰くの()()()()()少女である夢結は……

 

「……ぁあああああああああああああっ!!」

 

 それは彼女自身のメンタルが元々不安定になっていたところへ、あまりにも『死』をイメージさせるリリィたちの墓標とも言えるこの惨状が引き金となった、狂乱の果て。

 発動する『ルナティックトランサー』──自らマギの暴走状態に移行し、それをある程度の制御下におくことで絶大な力を発揮するはずの夢結が持つレアスキルだが、当然その制御に失敗すれば見える物全てを破壊するまで止まらなくなる狂戦士と化す、諸刃の剣。

 

「──っ!」

 

 近くにいた梅が遮二無二に振り回される夢結のブリューナクに巻き込まれまいと咄嗟に飛び退いたことから、完全暴走状態に陥った証に夢結の黒い長髪が白く、紫の瞳が紅く染まっているのだという知識がなくとも、味方ごとヒュージを攻撃しようとした今の彼女がその力を制御できているとは、誰の目にも見えない。

 

「──だから、夢結は自分から封印していたはずなんだけどね」

 

「それって……」

 

 雪華から──いやそれ以外にも梨璃が百由を始めとする夢結のことを知るリリィたちから聞いた話を纏めると、夢結が連想してしまった最悪の死のイメージとは。

 

「そ、二年前の、夢結のシュッツエンゲルである川添美鈴様の死。どうせあの人が何かしら口滑らせたんでしょ?」

 

「…………はい」

 

 それには返事に困った梨璃だけでなく、ミリアムたちあの場に居合わせた他の面々もなんとも言えない表情になるが、ともかくその時にも夢結がルナティックトランサーを発動しており、暴走時特有の一時的な記憶の欠落があったこと、美鈴の遺体に夢結のCHARMによる物と思われる傷があったことなどから、彼女に自身のシュッツエンゲルである美鈴殺害の疑いがかけられた。

 結局その疑いは証拠不十分で晴れたとはいえ、一時的にだろうとそんな噂が流れたからと未だに一部では夢結のことを『死神』などと揶揄(やゆ)する者がいるなど、その一件は彼女の心を(さいな)むには十分過ぎる傷跡となっていた。

 

「そんな、夢結様だってお姉様を亡くされたのに……いくら覚えてないからって、そんなこと……」

 

「ま、二年前のことをわざわざ掘り返すひん曲がりはもう少ないけど……それでもまだ、ね」

 

 何より夢結が自分で自分自身を許せていない。なんとなく、そういうニュアンスを百由の話や狂ったままヒュージへCHARMを振るい続ける夢結の姿を見て、梨璃は感じてしまった。

 

「……行かないと」

 

「梨璃さん?」

 

「だって、こんなに沢山の人たちが夢結様のことを想っているのに……夢結様が自分で自分を死神だって、それで『孤高のリリィ』だなんて、寂しすぎるよ……」

 

 まだシュッツエンゲルの契りを結んで一週間と少しの付き合いでしかない梨璃では、夢結の胸の内に秘めた想い全てを理解できたなんてとても言えないが、それでもこうして彼女と、そして彼女を取り巻く人たちと言葉を交わして分かったことは確かにある。

 それに今はシルトである自分もいるのだから、夢結は本当の意味で一人ではないと、その繋がりを伝えるために梨璃は足の裏にマギを込めて跳んだ。そうした細かいマギの扱いはまだ危なっかしく、勢い余って飛び乗った廃ビルの上から落ちそうになろうとも。

 

「り、梨璃ぃ! おぬしいったい何を考えとるんじゃあ!?」

 

「ああもう、こうなったら無理矢理にでも連れ戻しますわよ! 二水さんっ!」

 

「は、はい!」

 

 迷いなく死地へ飛び込んだ梨璃の姿を見て一同は呆気に取られてしまったが、それでもこの中で一番経験のある楓が真っ先に我に返り、二水と共に梨璃の後を追う。

 そんな二人に仕方ないと続こうとしたミリアムだが、それは横に伸ばされた百由の腕によって遮られる。

 

「なんじゃ百由様。わしに仲間を見捨てろと言うのなら聞けぬ相「そこのビルの影、適当な出力でいいから撃って」なぬ?」

 

 ちょうど二水の飛び乗ろうとしている廃ビル、百由が指差すそこへミリアムがニョルニールの銃口を向けて引き金を引くと、放たれるレーザーがちょうどその影から浮かび上がるミサイルを撃ち抜く形になった。

 

「うわぁっ!?」

 

「二水さーん、鷹の目はなるべく切らさない方がいいわよー?」

 

「あ、ありがとうございますー!」

 

 その爆風に飛び退いた二水は百由へ振り向いて大袈裟にお辞儀をすると、再度目を赤く染めながら楓の後に続く。

 となると納得の行く説明を求めたいミリアムだが、百由とは知らぬ仲ではない彼女にはなんとなくタネの予想はついていた。

 

「今の、見えていたのかのう?」

 

「まあねー、これでも色々と“見て”ますから」

 

 自慢げに眼鏡を光らせる百由のレアスキルは『この世の理』──力の方向性を先読みするその能力により不意討ちのため配置されていたのだろうミサイルの動きを察知したのが、今のカラクリ。

 

「とはいえ、他にも色々やってそうだけどね」

 

「じゃな、とりあえず掃除しながら進むぞい」

 

 戦場から遠く離れているはずのこの位置でさえいつの間にか罠が仕込まれている以上、この廃墟は既にあのヒュージのテリトリーと思っていいのかもしれない。そう警戒しながら端末を脇に置いた百由の先を、ミリアムも行く。

 

◆◆◆

 

「そこ!」

 

 楓の持つワンオフのユニークCHARM『ジョワユーズ』の刃が鋏のように上下に広がることで現れた銃口から放たれた弾丸が、機雷のように行く手を阻まんとするミサイルを次々と撃破するも、その起動する理由となったのだろう梨璃はそれらも楓たちも置き去りにして一人突き進んでいるのだから、中々ままならない。

 

「まったく、夢結様たちと戦いながらここまでの仕込み……外れた分は全部罠に回していたんですの?」

 

「そ、それでもこのルートはまだ少ない方です。下手に迂回しようとしたら、連鎖的にドカンでしたよ……」

 

 それは単に梨璃や楓たちの運がよかった、というより未だ前線に残る梅がヒュージを真っ向から攻める夢結を遠巻きに援護していることもあり、正面側へのミサイルは二人が避けた際に廃墟のどこかしらに着弾しているか、二人のCHARMにより破壊されているかの結果だろうと、レアスキルで周囲を見渡す二水は分析する。

 

「梨璃さん、危ない!」

 

 それでもこうした罠になる前にヒュージから直接放たれるミサイルもあるのだから、その中を突っ込む梨璃は外から見ていると度胸があるというより、最早無謀の域だ。

 

「夢結様ぁ!」

 

「うぅっ!」

 

 そのままなんとか夢結の元へ飛び込んだ梨璃は反射的に振るわれた夢結のブリューナクをグングニルで受けるが、その瞬間、それを見ていた楓や二水は何かが広がるような感覚を覚えたような気がした。

 

「これって……?」

 

「うわ、わっ!?」

 

 とはいえ今はそんなことはいいかと、宙に浮いたままでは踏ん張れる訳もなくそのままCHARMを振り抜いた夢結に吹き飛ばされた梨璃の落ちる先を見極めた楓は、彼女が地面と激突する前に受け止めんと跳躍する。

 

「あらよっと、ですわ」

 

「か、楓さん!?」

 

 空中で梨璃の体を優しく受け止め、近場の高台へ優雅に着地をすると丁寧にかつ素早く降ろす。そんな楓の表情には呆れの色が強いが、梨璃に全く負担を与えていないのは常日頃から叫ぶ彼女への愛は確かだという証か。

 

「で、梨璃さん。何を考えておりますの? ここは危険過ぎます、このまま元の場所まで下がりますわよ」

 

「で、でも……」

 

 二人の降りた地点へぞろぞろと集まってくる二水たちを前に反論をしようと顔を上げた梨璃だが、どこか上の方から聞こえた声がそれを遮る。

 

「人が装備取りに行ってる間に、随分とめんどくさいことになってんじゃないのさ!」

 

 そんなぼやきと共にレーザーの発射音が二度、三度と聞こえた方に梨璃が振り向くと、上空より降下しながら白銀のアステリオンでヒュージを狙い撃つ黒髪紅目の三年生──雪華の姿が見える。

 

 彼女の装備は手にするアステリオン以外にも腰や背中に着けた装甲、いわゆるバトルクロスと呼ばれる物やその内のスカートを覆う形状のアーマーに左右一機ずつ備えたグングニル・カービンと、制服姿でCHARM一本片手に飛び出しただけな梨璃たちと比較すると結構な重装備に見えるが、それ以外で目についたのは地上の梨璃からは見上げる形になるのもあって、風で翻るスカートの間からチラリと見えた……

 

「スパッツ?」

 

「あら、その辺りのガードはリリィの嗜みでしてよ?」

 

 なるほど言われてみれば楓も二水も下半身はタイツなりでガードしているし、未だヒュージを前に暴れる夢結のカバーをするように忙しなく動いている梅も、見えたのは雪華同様に黒いスパッツだった。

 それに夢結も出撃前梨璃に対し身嗜みには気を配るよう言っていたのだから、今は動きが激しすぎてよくは見えないがそれ故何かしら対策はしているのだろう。

 

 ──ならば梨璃自身はどうなのかというと、恥ずかしそうに顔を赤らめてスカートを押さえているのが答えだった。この戦いが終わったら、何かしらガードできる物を調達しよう。そう心の中で決意しながら。

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