ちなみに、今更ですけど東京組は既にある程度自前の話進行済み想定では?御台場は時系列的に該当するのが新潟編になりますけど。
どうしても原作側が妙に時空が歪みまくってるし、こっちからも歪めたしで直接的には繋げられんなりには色々と触れて行きたい所存ですわ。
ギガント級がケイブに消えてしばらく、今更に出てきた防衛軍が陣取っている公園の一角を借りて、先程のメンバーに葵ちゃんを加えて計十九人のリリィが集まっての作戦会議となる。
「で、結局さっきのあれはなんだったんですの?」
そんな中最初に口を開くのは、折角ギガント級への攻撃を譲ったというのに仕損じたことへ不満そうな純だ。階段の最上段に座りながら腕も足も組んでて、いかにも不機嫌ですアピールをしながら。
「『マギリフレクター』──最近
さっきカービン投げたのはその真似にしたって距離的に不完全が過ぎたけど、流石に百合ヶ丘の中でも殊更有名な──というかこの間彼女たちが新潟へ行った際、ここにリーダー格のいる御台場の2レギオンも後から合流していたのと件の御台場迎撃戦も合わせて個人的な知り合いも多いだろう、代替わりしようと未だ世界最高峰のレギオンの名を出したからか多少はザワ付くも、その辺りの情報に詳しいのだろうリリィオタクな佳世がおずおずと手を挙げながら発言している。
「確かにルド女の方にも先日リフレクター持ちのギガント級ヒュージが現れて、1レギオンのノインヴェルト戦術だけでは撃破出来ませんでした……で、ですが百合ヶ丘の個体は雪華様の所属するレギオンがその場を引き継ぎ、無事撃破したと聞きます。その時の戦法を使うのは──」
「うーん、あの時はネストから直行してきたギガント級単体との戦闘だったから、私のB型兵装の出力に皆の
なんて前に伸ばした左手のリングカートリッジを眺めて参加人数だけなら変わらない先日の戦闘の話をすれば「だからあの時、未……様の攻撃には……」とぶつぶつ幸恵が考えている横へ、状況が違いすぎて参考にならないと縮こまりながら佳世も座る。
「あ、あぁ……流石にケイブどころかギガント級からもヒュージが増え続けるような状況で、そんな悠長なことはしてられませんよね……」
ざっと見てユニーク機、ないし高級機がズラっと並ぶこの面子からしてスキル関係を抜きにしても総火力は余裕であの時以上ではある。
だけど、そこまでの戦力であってもノインヴェルトのパス回し及びそのフォローを行いつつ、増え続けるヒュージも相手しながらこれだけの人数をフィニッシュ役含め一点に集中してられるかってのは……大分怪しい。どうせラージ級以上が出たら、今下北沢の警戒をしてくれてる軍の装備では逃げ出すしかないだろうし。なにさ主力装備の開発時期が今世紀頭って? いくら近代化改修はしてるにしたって限界ってもんがあるでしょうが。
ともかく、集合ついでに再度確認したところ『レジスタ』持ち三人に『テスタメント』持ち二人、他にもレアサブ問わず範囲型のスキル持ちがちらほらいるのなら、より現実的なのは──
「二隊同時ノインヴェルト戦術。今度はタイミングを合わせ一体に集中させて、多少形は違ってもあの時の状況を再現するしかない……か。特殊弾の残りは?」
──なんて話を振ってみれば、返事は続々と。
「すみません、ヘルヴォルは先程のノインヴェルト戦術で残弾ゼロです。近頃出撃が多かったので、支給が間に合わず……」
「悪い、
「グラン・エプレも一発だけですが、温存出来ています」
「オーケーオーケー。残りの隊長格となると──」
グラン・エプレは保持として、ヘルヴォルとヘオロットセインツの分は先程使ったのだから後はもうひとつの御台場組であるロネスネスを率いる船田姉妹か。そこで全員の視線が集まる中、純は見せ付けるように懐から特殊弾のケースを取り出している。
「誰に聞いておりますの? いくらCHARMの調整が間に合わずフルメンバーではないにせよ、念のため特殊弾は持参しておりますわ」
「とはいえこちらも同じく手持ちは一発、もう失敗は許されませんわね」
なるほど、神出鬼没な噂のわりにトップの二人しか来てないのにはそういう理由があったと。多分セインツの方もそんなところ? 今頃御台場じゃあいつもの弥宙ちゃんみたく、新潟帰りの惨状にお抱えのアーセナルがひーこらしてるんだろうか。
とはいえこれでひとまずスタートラインには立てた……次は配置に関してになるけど、そこの仕切りは一葉ちゃんが進めてくれるようで、立ち上がって語り出す。
「今度はフィニッシュショットを撃つタイミングも重要になります。連携を考えてレギオン単位で来ているヘルヴォルとグラン・エプレを主軸に、残りのメンバーをそれぞれ四人ずつに分けたいと思うのですが?」
「なら私たち御台場組がグラン・エプレ側でいいか? また懐かしい顔も揃うことだしな!」
「ふふ、そうね」
「はぁ? あなた何を勝手に……」
楪がそんな風に近くへ座っていた高嶺と肩を組みながら話を振れば、またしても噛み付くのは純。なんかこう犬猿の仲って感じ。
「……まあ、叶星も高嶺も腕は鈍っていないようですし? また組んで差し上げてもよろしいですが」
とはいえ他の面々に対してまではそこまでツンツンはしないようで、変わらず腕は組んでいても声音などの態度は大分崩している。
「ええ、よろしくお願いするわね?」
「皆、またこうして一緒に戦えるとは思ってなかったわ……!」
「二人が御台場を去ってからだから、中等科以来かしら? 純ったらずっと心配して「姉様……!」ふふっ」
そんな風に高嶺と叶星がどこか懐かしそうに御台場組と話していると、反応するのはリリィオタク二人。
「はうぅ! あの伝説の〈船田予備隊〉のメンバーが六人も……!」
「まるで夢のような共演……げほっ」
さっきも軽く触れたけど、グラン・エプレのメンバーはほとんどが御台場の中等科の出身らしい。
しかも二年の二人は船田姉妹や楪、椛さんたちと同じ予備隊──中等部、あるいは科の生徒主体のレギオンとして一時期活動していたとかなんとか。
「………………」
それにしては椛さんだけその輪に加わらず遠巻きに眺めているだけなのは、結局その予備隊は高等科への進学を待たず解散という結末になったことからして、彼女たちの間でも何かしらあったのだろう。
てか、それよりも魂飛んでそうな感じに二年組の方を拝んだまま固まってる紅巴ちゃんは色々と大丈夫なのだろうか。いや二水ちゃんみたくぶはっと鼻血吹き出して、今にもフラフラと倒れそうになってる佳世も大分怪しいけど。
「じゃ、ルド女With駆け付け組がヘルヴォル側か。よろしくね」
「幸恵様、またお世話になります!」
「ふふ、葵とはいつぶりになるかしら?」
ともかく幸恵へ駆け寄る葵ちゃんがそのままルド女時代の思い出話に花を咲かせているのもあってか、周りも流れでギガント級が再出現するまでは一旦解散となりつつある中、一人隅の方で鼻血を拭っている佳世へこちらも話を振るとしよう。
「で、ルド女にいた頃の葵ちゃんってどんなだったのさ?」
「へ? ああいえ、わたしはルド女に入ったのは高等部からなんで……その辺りは、あんまり」
つまりは入れ違い……でもないか。葵ちゃんは中等部時代色々なガーデンを飛び回ってて、最後の方は楓さんと同じ聖メルクリウスだったんだし。
「とりあえず、ティッシュ使う?」
「……いただきます。手持ちは今尽かしてまして」
そんな訳で鼻血ダラダラな佳世へ日中そこら辺で配ってたポケットティッシュを渡していると、幸恵と話し終わった葵ちゃんがいつの間にか増えていた荷物ことさっき見たトリグラフの入っていた物とは別のCHARMケースを抱えて、誰を探しているのかキョロキョロとこちらにやってくる。
「で、結局それどったの葵ちゃん?」
「あ、雪華先輩。『ブリ』って人へこれを渡して欲しいって頼まれてるんだけど」
「ふが、その呼ばれ方ならわたしです。
流石に学年が違うと分かったからか葵ちゃんも喋り方はそのままでも呼び方だけは変えているけど、鼻にティッシュを詰めていた佳世が何事かと応対すれば、目の前でケースが開かれるのが答えに。
「んー、これって一葉ちゃんのと同じやつ?」
「ユグドラシル社の第2世代CHARMの中でも耐久性に定評のある『ブルトガング』ですね。で、ですが、なんでわたしにこれを?」
流石にカラーまでは違うにせよ、
「えっと、いちか様と新潟から来てた麻嶺様から預かって「いいいいちかさんにままま麻嶺様!? そ、それでおふたりはなんと?」う、うん。実はさっき──」
ともかく葵ちゃんが向こうの先輩からそれを受け取るまでの経緯を、二人して聞くことになる。
◆◆◆
──葵がグラン・エプレと別れてしばらく、何処かの路地にて。
「あっれー?」
久しぶりの東京とはいえ見覚えのある道なのだから、迷っていることはない……はずなのだが、先程から葵が遭遇するのは群れからはぐれた小型のヒュージばかりで、リリィの一人もいやしないというのは何か致命的な間違いをしているのでは、と不安になるのも仕方ないことか。
「どう……ルチアは……」
「さっき……って子に……」
「ああ……その二……同じクラスの……」
「ん?」
そんな時聞こえた誰かの話し声。少し遠いから途切れ途切れで詳しい部分は分からないが、こんなところにいる以上現地のリリィなのは間違いないだろうと葵が駆け出せば、曲がり角から飛び出したところで彼女の立てた足音に反応した二人のリリィからグングニルとダインスレイフ、それらのカービンタイプの銃口を揃って向けられるので慌てて弁解を。
「わーっ!? 待って待ってわたし味方。そっちのシスターにも許可貰ってるから!」
「……葵ちゃん?」
そのリリィの片方は制服の違いから一瞬迷っていたが、よく見れば知った顔であると気付けばCHARMを下げながら、確かめるように葵の名前を呼ぶ。
「そうそう、中等部の頃ルド女にいた石川……え、
先に気付いた空色の髪を左でサイドテールに結んでいるのが
この二人は葵が一時期ルド女に在籍していた頃の友人なのだが、
「ていうかそれ〈テンプルレギオン〉のジャケットってことは、二人とも一年生で選ばれたの? やったじゃん!」
ルドビコ女学院のトップレギオンであるテンプルレギオンは、いつでも全力で戦えるようメンバーが出撃毎の指名制であるが故に、例え上級生であっても毎回選ばれるとは限らない。
だからこそ、そのメンバーに一年生でなったというのは二人が中等部から己を磨き続けた結果に他ならず、共に切磋琢磨した葵としては自分のことのように嬉しくもなる。
「ま、まあわたしの実力なら当然よ」
「ぷふっ」
そこで朝妃は格好付けるようにパッとサイドテールを手で払ってみせるが、何がおかしいのか隣のクララは口を手で押さえて噴き出すのを堪えていた。
「なっ、なによ?」
「あーらモニカ? あなた一度テンプルレギオンへ選ばれなかったことに自棄を起こして、アンジェラたちと応・援・団になってなかったかしら~?」
「は、はぁっ!?」
「ふふ、相変わらず仲いいんだから」
中等部の頃からペアを組んでいたこの二人とは葵がルド女から他所のガーデンへ移った後も時々連絡を取っていたにせよ、顔を合わせるのは久しぶりなのに変わらないなと昔を懐かしむのもほどほどに、折角テンプルレギオンに指名されたのにも関わらず二人きりで行動していることに葵は疑問を飛ばす。
「ところで迷ってたわたしが言うのもなんだけど、二人はこんなところで何してるの?」
「わたくしたちは今ガーデン近くに発生したケイブへ向かう途中ではぐれたルチアと、それを追ったソフィア様を探しているのですわ」
「ルチア? ソフィア、様?」
クララの癖こそ思い出しても呼び捨てなことから同級生なのだろう『ルチア』の方はともかく、彼女と仲の良い先輩に『ソフィア』を洗礼名に持つリリィなどいただろうかと葵が首を傾げていると、朝妃からの補足が。
「あの〈
「未来様、って幸恵様の
中等部の途中でルド女を離れた葵は詳しい事情こそ知らないが彼女は二年生だった去年の春、尽力していた〈幕張奪還戦〉の準備中に行方不明となり、その後戦死が確認された……とだけは人伝に聞いていた。
「さっき会ったクララのクラスの子たちから聞いた話だけど、どうにも来夢が戦場に迷い込んだその二人を助けるため自分から囮になって、それを聞いた聖恋も後を追った……なんて事情みたい」
「ルチアは未来様の使っていらしたラベンダー色のアステリオンを、ソフィア様はモニカと同じダインスレイフ・カービンを使っているはずなのだけど、ここに来るまでどっちか一人でも見掛けなかったかしら?」
「……ごめん、わかんないや」
ともかく彼女の妹と幼なじみもまたテンプルレギオン入りしているようで、クララと朝妃は今その二人を探しているらしいが、生憎グラン・エプレの面々と別れてからいつの間にかルド女への道に抜けていた葵が出会ったのはヒュージを除けばこの二人のみ。だからその答えは、首を横に振ることしか出来ない。
「そう……でも葵がいて助かったわ。『ファンタズム』持ちだなんて人探しに最適だもの~!」
「あー! その手があったか、さっすがクララ!」
単独ではマギの消耗を気にしてそこまで使っていなかったが、確かにこのレアスキルを使えば二人と合流する未来を手繰り寄せることも可能だろうと、葵も善は急げで集中する。
「いっくよーーー! 《ファンタズム》っ♪」
瞬間葵の脳裏を駆け巡るのは、無数の可能性のミライ──
《このままガーデンまでたどり着き、見知ったリリィや教導官に挨拶をする自分──》
(違う)
《ヒュージと交戦中、今度は下北沢の戦闘エリアに二人を連れて迷い込む自分──》
(違う)
《テンプルレギオンに合流し、クララや朝妃とノインヴェルト戦術に参加する自分──》
(違う)
《見慣れないライトブラウンのツインテールなリリィと、そう長くはないオレンジ髪を左でサイドテールに束ねたリリィがヒュージに追われているのに加勢する自分──》
(……ん?)
《二人の手にしてるCHARMは、ラベンダー色のアステリオンにダインスレイフ・カービン──視えた。こっち!」
幸いにして葵の視たビジョンはここに来るまでに通り過ぎた場所でのこと。であれば案内出来ると踵を返して駆け出せば、向き合い頷いたクララと朝妃もその後に続く。
◆◆◆
「来夢っ!」
そんな光景を視られた片方である来夢が交差点でヒュージに囲まれているところへ、その一角を切り崩しながらCHARMを振るって彼女の幼なじみが駆け付ける。
「聖恋ちゃん!」
「無事でよかった……それにしてもいくら来夢がヒュージに狙われやすいからって、こんな数!」
今ケイブは下北沢と新宿御苑──ルドビコ女学院の近くに発生しているはず。であればその中間になるこんな半端なところにミドル級止まりの小型ばかりとはいえ十数体規模の群れがいるのは不自然で、それこそ『来夢を意図的に狙っている』とでも言わんばかりに思えた。
ここまでの前提があれば聖恋も大切な幼なじみの片割れを奪った、ガーデンの影で暗躍する者たちの存在に行き着くのは早い。
「こいつら、まさかゲヘナの差し金で……だとしても、来夢には指一本触れさせやしない!」
─この世の理─
発動するレアスキルにより無数の近未来予測が聖恋の視界を満たす──自身の性格が落ち着きのない方だと自覚のある彼女も、この力を使っている間は妙に思考がクリアになる感覚が強く、それに身も心も委ねることでヒュージへ冷静に対処する。
二人を包囲する群れから飛び出してくるのはまず五体。それに対して聖恋はレアスキルによる先読みを頼りに一体をCHARMで突き刺し、近くのもう一体へ投げ飛ばしぶつけたところをまとめて射抜いて撃破。
その隙を狙い後ろから飛び掛かろうとした個体にはサッと体を半身に引きその爪を地面にめり込ませたところへ、ダインスレイフ・カービンを横一閃。そのまま腕を引き戻しつつ、反対側の二体を来夢の方へ近寄らせないよう牽制射撃──
「来夢、今だ!」
「うん、当たって!」
動きが止まったならやれると来夢のアステリオンが二度火を噴いた数だけヒュージが倒れ、それでもまだ数的有利のあるヒュージからはお返しだと熱線や光弾が二人目掛けて飛んでくる。
「きゃあっ!?」
「ぐぅっ……!」
自分が避ければ来夢に当たる、そんなコースの物だけを聖恋はダインスレイフ・カービンを盾に防ぐと、来夢の手を取りながら駆け出し二人で前方へろくに狙いも定めずレーザーをばらまいて退路を確保すれば、来夢にも狙いは読めた。
「聖恋ちゃん、ガーデンの方に向かってるの?」
「ああ。それと、なるべく派手に戦って誰かに気付いて貰わないと……この数は明らかにおかしい!」
出来ることなら聖恋一人でこの群れを駆逐し突破したかったが、戦闘中にガーデン近くへケイブが発生したからと下北沢の方は東京各地からの増援やその到着までを自分たちで支えると残った幸恵と佳世に任せ、急いでガーデン側へ戻る最中でこうなったのだから連戦による限界という物は弁えていたし、自分も来夢も一年生にして早くもレアスキルに覚醒していようと先輩たちに比べればまだまだ未熟。故にここを二人だけで切り抜けるには、まずこの囲まれた状況から崩さないといけない。
「っ、邪魔だぁ!」
だからこんな所で止まっていられないと、上から道を塞ぐように降ってきた赤いドローンのような飛行型ヒュージへ来夢の支援射撃を背に聖恋が接近し一刀両断、斬り抜けながら左右に分かれた残骸を二人でそれぞれ前後から撃ち、確実にトドメを刺す。
「聖恋ちゃん、後ろ!!」
「う、ぐぅ……!」
その時聞こえた来夢からの声を信じ、振り向きもせずダインスレイフ・カービンを背負うように割り込ませることでビルの影より飛び出してきた宇宙服のような姿のミドル級ヒュージの振り下ろした腕は防げたが、先程の群れも来夢の後ろから迫る以上足止めなどされてはいられない……ならば聖恋が判断を下すのは早かった。
「来夢、ここはオレに任せて先に行け!」
「せ、聖恋ちゃん……?」
「先に戻って、
彼女の言いたいことは分かる。だがそれは決して自分の望む物ではないから、来夢は聖恋を押し潰そうとするミドル級の胴体にアステリオンの刃を突き刺すと、そのまま遮二無二にCHARMの引き金を何度も引く。
「うあぁぁぁっ!!」
「それ、未来の……」
ゲヘナに囚われて非道な強化実験を繰り返され、体内に埋め込まれたヒュージ細胞の暴走によって狂化し人の形をしたヒュージと成り果て自分たちテンプルレギオンと交戦した未来──彼女がその戦いの中で見せた技とも言えない本能的な攻撃を実の妹として彼女の背中を追っている来夢が真似たのは、今の聖恋の姿が自分に構わず倒しなさいと告げた姉の姿と被ったからか。
「わたしは、お姉ちゃんや聖恋ちゃん、幸恵お姉様に守られてばかりじゃない! わたしも、お姉ちゃんみたいに皆を守りたいの。だから!」
ヒュージから引き抜いたアステリオンのコアの上で何かを押さえ付けてから握り締めるようにした来夢から広がるのは強く、それでいて暖かい光。
『カリスマ』──周囲の負のマギを吸収して浄化し、仲間に分け与える癒しのレアスキル。彼女が持つその力は、消耗したマギの回復という形で挫けそうになっていた聖恋の心に火を灯す。あるいはヒュージに囲まれているが故に場に漂う負のマギによる心理的影響が、カリスマの効力で弱まったこともあるのかもしれないが。
「……そっか、そうだよな。来夢もずっと、未来のことを目指してたんだから」
目標は同じ、遥か高みのあの背中。勝手に諦めていてはいつまでも届かない……なら来夢の攻撃とレアスキルによってヒュージの力が弱まったのを感じると、聖恋はダインスレイフ・カービンで腕を押し返し、振り向きながらその胴体を斜めに切り上げた。
「うあぁぁっ!」
しかし気合一閃とヒュージを両断したはいいが、その直後何かが砕ける音に思わずCHARMを下げる聖恋に来夢が駆け寄る。
「聖恋ちゃん!?」
「オレは大丈夫、けど今のでCHARMが……」
聖恋のダインスレイフ・カービンは無理な体勢で受けたからか二つに分かれている作りな刀身の片方がひび割れ、もう片方の先端も少し欠けている。
損傷は銃身にまでは及んでいないから射撃はまだなんとかやれるだろうが、どちらかと言えば接近戦の方が得意になる聖恋としてはかなりの痛手だ。
「あ、ヒュージが……!」
「くっ、止まってたらいい的か……走るぞ来夢!」
だからと言って追手は止まないのだから立ち止まっている暇はないと聖恋が来夢の手を取り再び駆け出そうとすると、道の先からCHARMによる銃撃が二人を追うヒュージたちの進行を阻む。
「今のは……?」
「はぁっ!」
ヒュージの勢いが止まったのと反対に、トップスピードで駆け抜けグングニル・カービンで力強くヒュージを打ち据えるリリィは、聖恋にとっては入学以降散々付きまとわれて見慣れた姿の……
「クララ!」
「お待たせ致しましたわソフィア様、後はわたくしたちにお任せを!」
そんな彼女が背負う可愛らしい熊のぬいぐるみ『くまま』も、今は物凄く頼もしく映る──だってあんなに重いし、持っててくれって投げ渡された時重さに負けてめっちゃ足浮いたし、あと重いし。
しかし当のクララは鉛か何かでも詰まっているのかな重量のくままを背負っているとは思えない軽やかな動きで、ヒュージを翻弄し確実に仕留めている。
「せぇっ!」
「朝妃ちゃん!」
続けて飛び込んでくるのは、ダインスレイフ・カービンのグリップでなくフレーム部分を直に保持しての突きでミドル級の胴体を抉るように貫く朝妃。本人曰く本気の構えというのに偽りはなく、クララ程のスピードはなくとも的確に力強くヒュージの急所を突く。
「よっと」
「「……誰?」」
そして最後に、トリグラフを分離させた二挺拳銃として腕をクロスさせた構えで連射しながら滑り込んで来る葵に対しては初対面なため微妙な反応にはなるも、当の本人の方は分かっていたことだと体を起こしながら振り向いて軽く挨拶を。
「あー、クララと朝妃の中等部時代の友達な石川葵。よろしくね!」
「えっと、入学してすぐの頃に朝妃ちゃんが知り合いだーって自慢してた子?」
「多分、そうだと思う?」
二人の確かめるような会話に「へー、朝妃そんなことしてたんだー」とニヤニヤする葵だが、クルリと回してトリグラフを連結させると、気持ちを切り替えクララと朝妃の援護へ向かう。
「二人とも、一気に片付けるよ!」
「ええ!」
「そのつもり!」
真っ先に葵が残るヒュージの群れへ飛び込めば、二人の支援射撃が作った道を駆け抜けトリグラフの実体ブレードの側を閉じて背後を見もせずに一射、怯んだヒュージを左右からクララと朝妃が斬り捨てると、そのまま雪崩れ込んでの乱戦へ。
「ん……これって」
「撃って、ってこと?」
三人に置き去りにされる形になっていた聖恋と来夢へ送られたのは、葵からのテレパスによる少し先の未来。この状況では誤射が怖いところではあるが、振り向いて頷いてみせる葵の様子から問題はないのだろうと二人はCHARMを構える。
「──今っ!」
クララたちの方にもテレパスは送っていたようで、葵の掛け声に合わせ来夢たちが引き金を引くと同時示し合わせたように二人が射線から消え、撃たれたヒュージは背後から葵がトリグラフの両端の刃で二体まとめて切り裂く。
更に分離させた二挺で左右を薙ぐように連射すると、今度も見えているような動き──実際クララのレアスキル『ゼノンパラドキサ』は朝妃の持つ『この世の理』の要素も持ち合わせているので、葵のファンタズムにより送られる予知とリアルタイムでの行動予測を合わせることでこの三人の戦場で誤射など起こり得ないのだから、みるみる内にヒュージは数を減らして行く。
「これで、ラスト!」
最後にトリグラフの連結状態、パルチザンモードでの大振りな一撃で残っていたミドル級が両断されると、ようやく落ち着けると五人は集まる。
「ふぅ、間に合ってよかったよ」
「で、なんでこんな半端な所にヒュージが?」
「この不自然なヒュージの出方は去年の、オレたちも巻き込まれた未来が襲われた時のケイブと似てる。だから今度もゲヘナの……あっ」
ほとんど身内なつもりで話していた聖恋だが、葵はあくまでも『元』ルド女。先日テンプルレギオンとしてガーデンの闇に触れたメンバーではないことから咄嗟に口を押さえるも、当の葵自身は気にしていない様子。
「あー、ゲヘナが世間で言われてる程真っ当な企業なんかじゃない。って話ならちょっとした縁から知ってるし、今更平気かな?」
「そ、そうなの?」
来夢への返事に頷きながら葵が思い起こすのは、優雅になびく赤茶のウェーブ髪。いつだったか百合ヶ丘の見学に行った楓が見たという『現実』──世のため人のためと嘯いて世を乱し人を食い物とするゲヘナの実態も、ゲヘナからリリィを保護すると掲げる百合ヶ丘が保護だけはしても、その後は不思議な程無力だということも。
何より、不当な扱いを受けていたあるリリィへ何も出来なかった自分自身にこそ、曲がったことが嫌いな彼女は怒っていたから。
そんな楓が先日『ようやく一泡吹かせてやれましたわ』と電話先故に少しボカした言い方で伝えて来たのは、葵としても胸のつかえが下りたような気分だった。つまりは自分と同じレアスキルらしい金色の髪をしたリリィを、楓は向こうの仲間たちと救い出すことが出来たということだから……その中に自分がいないことに、葵は一抹の寂しさを覚えるが。
「まあ、だからってあんまりいい気はしないけどね。どこも変わらず、って感じ?」
「その制服、相模女子だっけ。鎌倉の方も、色々酷いって聞くからな……っ!」
などと話している途中だろうとお構い無しに、ヒュージの増援が寄って来るのだから揃ってCHARMの銃口を向け発砲するも、聖恋の前の個体だけは無傷のまま接近しているのにクララが疑問を抱く。
「? ソフィア様、引き付けるにしてもやりすぎでは」
「分かってる! けどさっきのでもう撃てなくなってて……?」
「ではわたくしが……あら?」
返事をしながら聖恋がトリガーを引くも空砲にすらならず、どう見ても彼女のダインスレイフ・カービンは沈黙していた。なら仕方ないとクララが代わりにヒュージを倒すためグングニル・カービンを向けようとした矢先、突如現れた光の壁に弾かれたスモール級ヒュージの胴体に刃が生える。
それは別に攻撃のための変態ではなく、背後から何者かに貫かれたという証。青錆のようなヒュージ独特の血が滴る刃がスッと動くと、真っ直ぐな断面を残してヒュージが上下に両断され、その後ろの下手人の姿が露になる。
「綺麗……あれ、ルド女のリリィじゃない?」
「あの人って、もしかして……?」
手に持つ刀型のCHARMを振る所作の優雅さはまるで舞踊でも見ているかのようで、黒のパーカー姿で夕暮れに映える銀の長髪を翻すリリィへの反応は素直な感想を零す来夢と、噂に聞いたような覚えがある葵とで正反対。
一方聖恋たちの方は先程の光の壁の主は恐らくこの他校のリリィではなく自分たちの知る『先輩』であろうと、彼女の状態を知っているが故に少し慌てて探せば近くの建物に寄りかかっている姿が見えるのは、予想通りに二本のおさげを後ろに垂らす黒寄りの青髪。
「やっぱり、いちか様!」
「皆、無事だな?」
「ベロニカ様こそ、そんな足で出てこられるなんて……!」
──というのが何度も何度もいちかのお見舞いに足を運んでいる、彼女に庇われた張本人でもあるクラスメイトから聞いた話で、怪我をした戦闘からしばらく経った今も決して歩けない程ではないにせよ、戦闘行為など無謀だというのは分かりきっていたし、実際銀髪リリィも呆れ気味だ。
「わたしの用意した『アレ』の調整もまだだっていうのに、いちかったら聞かなくてね」
「わたしだって、別に再起不能になった訳じゃない。麻嶺に付いて貰いながらリハビリがてらってところさ」
口では軽く言ういちかも歩くのすら片足を引き摺るようにしているのだから、相当無茶をしているのは間違いないのだろう。ともかくそこで彼女が相手の名前を呼べば、引っ掛かりのあった葵はハッとする訳で。
「麻嶺って……やっぱり柳都の天津麻嶺様!」
「……もしかして、幸恵お姉様のフィエルボワを作ってくれた人?」
「……ってことは、こないだいちか様と一緒に百合亜お姉様に『エゼルリング』を届けてくれたって麻嶺様?」
「ん? ああ、どっちもその麻嶺だな。〈流離いのアーセナル〉ってだけあって、ルド女にもちょくちょく来てくれてるんだ……というか、そっちのは昔中等部にいた葵か?」
それには毎度お馴染み御台場迎撃戦の縁があったりするのだが、いちかが久しぶりに見た顔に反応している隙に麻嶺はスルリと来夢たちの方へ寄っていた。
「お姉様……ふーん、あなたたちがあの二人のシュベスターねぇ」
「ど、どうも?」
挨拶も程々に麻嶺の視線は聖恋のダインスレイフ・カービンへ向き、呆れてるような納得しているような反応をしている。
「なるほど。最近ほとんど整備にも出してないって聞いてたけど、その通りね」
「うっ……すみません」
近頃訓練のペースを上げたのもあって、少しCHARMの整備を疎かにしていた結果が戦闘中の破損という形で現れたのだから、聖恋としては叱られているような気分になって縮こまるしかない。
「ああ、別に怒ってる訳じゃないわよ? 壊れたなら直せばいいし、いちかからのプレゼントもあるから」
「プレゼント……?」
そこで一年生組が気付くのは、いちかがふたつもCHARMケースを持っているということ。なんてところでその片方を開けながら、いちかも聖恋の側へ。
「まあ、実際のところは百合亜のエゼルリングが間に合わなかった時のために頼んでたやつが、今更届いたからにはなるんだけど……それでも聖恋なら、こいつを使いこなしてくれると思ったからさ」
ケースより取り出されたCHARMを受け取り、自分のダインスレイフ・カービンから外したコアを付け替えると、展開される姿に率直な感想を零す聖恋。
「鎌、ですか?」
「〈アウニャメンディ・システマス社〉のシュガール。本来防御結界の薄くなる『テスタメント』持ちのための機体ではあるけど、そうじゃないリリィであれば尚更護りは硬くなるもの」
「アウニャメンディって、エレンスゲの母体の?」
テスタメント持ちの百合亜のために取り寄せた機体というだけあってな部分はともかく、同じく企業母体なガーデンかつエレンスゲと姉妹校提携を結んでいる相模女子所属な葵が反応したこのCHARMの開発元は、その立場からすなわちゲヘナ絡みの企業だということで、たちまち不安そうな顔になる来夢たち。だとしても、そんなことは些細な問題だと流離いのアーセナルは語る。
「確かにこのCHARMを作ったメーカーは、一切の言い逃れようもなくゲヘナ関連の企業ね。けど設計者は鎌倉の〈城ヶ島〉所属のリリィだし、何よりこの子はあなたの先輩たちの整備した
「守る、ための……」
そうと言われれば、この機体を拒む気持ちはそこまでなかった。お姉様のお下がり……ともまた少し違う感じであるが、元々シュベスターである
例え「一番強いやつのシュベスターになる!」と息巻いて後には引けなくなり、勢いのまま突っ走った結果であったとしても、いざシュベスターとなってからはなんだかんだ文句も言わず自分の面倒を見てくれている彼女を聖恋もいつの間にか素直に慕っていたし、お互い共通の知り合いが
などと聖恋が新しい相棒とこの場にいないお姉様へ想いを馳せていると、それをじーっと眺めるクララを横目に朝妃はいちかが持ったままなもうひとつのケースを気にしていた。
「それで、そっちのは誰のなんですか?」
「ああ、ブリの方にも新しいCHARMを用意してたんだけど……」
「佳世様なら、今は幸恵お姉様と下北沢の方に」
来夢の返しに「だよなぁ」と流石にこの足で激戦の続く下北沢まで行くのは止められるなと隣の麻嶺の様子を伺ういちかがどうしたもんかという風にしていると、手を上げて葵が一歩前に出る。
「じゃあ、わたしが持っていきましょうか?」
「いいのか? 今は別のガーデン所属なのに悪いな」
「いえいえ」とどうせこのまま下北沢へとんぼ返りするしで快く引き受けると、葵はそのままケースをよいしょと背負って周りにも正しい方向を確認してから挨拶を。
「いちか様、慌ただしくなっちゃいましたけどまた! クララたちも、今度改めて遊びに行くからね~!」
「今度は迷うんじゃないわよ~」
葵を見送った後のルド女一年生、というよりテンプルレギオン選出組もこの場は麻嶺といちかに任せ、葵と反対側へ駆けていく。
◇◇◇
「……って感じになるんだけど」
そのまま今度こそ今度こそと念入りに確認を重ねて、なんとか葵ちゃんがたどり着いた頃にはノインヴェルト戦術まで終わっていたと。それよりも──
「個人を狙ってねぇ、相変わらずゲヘナはやり口が汚い」
「あ、真っ先に反応するのそこですか?」
ルド女組的にはもうゲヘナに誰かしら狙われるのも日常茶飯事なのかもしれないけど、ついででいいからそこら辺も探ってこいと言われた私としては、そういうのはどうしても敏感になる訳で。政府のお膝元な首都でとか、当然向こう側に手厚いサポートもあるだろうし。
「ま、それはいいんだけど。とりあえず佳世もコア……はCHARMごと整備に出してるか」
「えーと、烏丸の人たちが来てるんでしたっけ?」
お膝元と言えば東京に本社がある烏丸重工も同じで、戦闘が長期化したりしてCHARMの整備が必要になった時なんかは、メカニックの派遣を昔と変わらず行っているそうな。
とりあえず実戦前の慣らしのためにも佳世のダインスレイフ・カービンからコアは移しておかないといけないのだから、受け取りに行かないといけないか。