アサルトリリィ~円環の赫星~   作:ですティニー

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前回のあらすじ:作戦会議とアナザーサイドとCHARM変更解釈とあれこれと。
テスタメント用としたらそういう経緯なんかなぁと、使い出したタイミング的にラボ跡から回収も全然あり得そうですけども。そういや新作舞台で遂にお祭り作品で神琳より優先された聖恋ちゃん。
まだ少しのインターバル、せっかくの東京だし全員確認しておかないとね。


過去と今と

「あれは……ごめん、ちょっと野暮用」

 

「ん? じゃあこっちは勝手に終わらせとくねー」

 

 そんなこんなで葵ちゃんのあれこれを聞いた後、ちょっと気になるのが見えたので佳世のCHARMを受け取りに行く二人と別れ、軍人さんたちから好きに使っていいと言われていた物資の中から貰っておいたゼリー飲料をちびちび飲みながら、通信機片手に公園の入り口の辺りにいる幸恵の方へ向かうとちょうど終わったみたいだしと声を掛ける。

 

「どっかに連絡?」

 

「はい。テンプルレギオンの仲間と……雪華様たち他のガーデンからの救援が来る前に、ルド女近くにケイブが発生したので先に戻ったメンバーが対応して、今は補給と警戒のために帰還しているそうです」

 

 葵ちゃんの話にもあったけど、確かルド女唯一にして最強戦力であるトップレギオン──テンプルレギオンはメンバーが出撃ごとの指名制だとか。

 であれば不測の事態に備えあからじめ多めに人数を取っているか、なんならこちらの方に幸恵と佳世の二人が残った段階で追加指名でもしていれば、『円環の御手』に『ルナティックトランサー』という強力なアタッカーが二人も抜けていても、案外なんとかなるものなのだろう。

 

 なんて指を顎に当てて考えていたのを不安がっていると思われたのか、話題はそのままレギオンメンバーの話へ。

 

「平気ですよ。うちの隊長や副隊長はこれ以上ない程頼りになりますし、他の仲間やわたしたちのシュベスターもそんなにヤワじゃないですから」

 

 幸恵の語り口にはどこか自分に言い聞かせているような響きも交ざっているけど、多分外野の私がとやかく言う部分でもないかと、食い付くのはルド女特有のワードの方にする。

 

「シュベスター……あぁ、百合ヶ丘(うち)で言うシュッツエンゲルとシルトみたいな」

 

「ええ」

 

 記憶を手繰りながら、幸恵が取り出し眺めているペンダントを見る。風の噂だとルド女の擬似姉妹制度はそれを互いに交換することを、誓いの証とするらしい。例によって例のごとく、二水ちゃんたちリリィオタク情報になるけど。

 ともかく出撃毎に指名される変則的なトップレギオンとはいえ、姉妹で選ばれているというのだからそのシュベスターの子──さっきの話に出ていた来夢ちゃんだったかも、この手の制度の形式から下級生である一年ながら中々にやり手なリリィなのだろう。実際ヒュージに囲まれながらも救援の到着まで二人で持ちこたえてみせたようだし。

 

「ん……『たち』ってことは」

 

「勿論、佳世にもいますよ。なんと『ブレイブ』に覚醒しているシュベスターが!」

 

「へぇ?」

 

 ブレイブ──今のメンバーだと瑤もそうだけど、対象のマギを浄化し精神の安定を図るレアスキル。

 意図的に暴走状態に陥るルナティックトランサー持ちとペアを組むにおいて、その力を安定させ限界以上にポテンシャルを引き出す最高のパートナーとされるレアスキルに、元々佳世を慕っていた下級生が覚醒していたというのは中々運命的だ。

 

 それを自分のことのように嬉しそうに語る様子から、レギオンとしての関係がなくとも普段から幸恵は佳世と仲が良いのだというのがよく分かると、他校とはいえ後輩に先を越されていることになんともいえない感情が顔を出す。

 

「私もいつかは(シルト)を持つのかなぁと思ってたら、いつの間にやらもう三年の夏直前だ。ちょっと羨ましい話ではあるね」

 

「あら、雪華様にもお姉様はいらしたのでしょう? 確か、佳世と同じルナティックトランサー持ちだったとか」

 

「あー、うん。けど一般的な擬似姉妹っていうより、部活の先輩後輩みたいなノリだったからさ。うちの場合」

 

 その出所は、向こうもリリィオタク特有の情報網だろうか?

 とはいえことの始まりは高等部に上がりたての頃、レギオンへの勧誘の流れのまま「折角だし契っとくか?」くらいの軽いノリだったし。いくら姉さんが中等部から百合ヶ丘へ入学した生徒に宛てがわれる上級生の『指導担当』だったとはいえ、はたして私に拘る理由は何処にあったのか……どうにも自分のことは分からんね。

 

「ふふ、そういう形もまた青春っぽくていいんじゃないかしら?」

 

「まあ、ね。お互いその距離感を気に入ってはいたから、あの人の卒業まで関係は続いたんだろうし」

 

 こうして話題に出したのだ、横浜でのすれ違いの件も含め今度鎌倉に呼びつけて何か奢らせるか。なんて企んでいると聞こえた足音に二人して振り向けば、そこにいたのは神庭の赤い制服姿な──

 

「叶星さん?」

 

「どうしたのさ、ギガント級もう戻って来たの?」

 

 とはいえそれにしては辺りが静かだ。もしこんなに早く再出現したのなら軍人さんたちも騒いでいるだろうし、叶星がレギオンメンバーも連れずわざわざ一人で来たのも気になるところ。

 

「いえ、少し相談したいことがあっておふたりを探していたので。ちょうどよかったです」

 

「私たちを?」

 

 幸恵とはこの場でたまたま一緒になっただけというに、そんな一纏めにされるような案件なんて……

 

「厳密にはあの一年生、琴陽さんのことなのだけれど……あの子、本当に弱いのかしら?」

 

「んー、確かに最初会った時もなんか戦い方にズレというか違和感はあったけど……幸恵、彼女のレアスキルは?」

 

「琴陽さんの、レアスキル。ですか……」

 

 そう話を振ったが、幸恵からの反応は曖昧だ。

 曰く琴陽ちゃんは風紀委員の一員である以上に、有名なリリィを見付けては手当たり次第に手合わせをお願いしている問題児としてガーデン内でも変に目立っているとのことらしい。この間百由の工房で会った、今もこっちに来てるらしい柳都の麻嶺がイースター祭の時ルド女に立ち寄った際も、いきなり挑まれたらしいとかなんとか。

 

「いや、風紀委員が自ら風紀乱してどうすんのよ? よりによってお祭りの日に」

 

「そういうこともあって学年が違えど噂は結構聞こえて来るのですが、彼女がレアスキルを使っているのを見たリリィはまだいない……はずです」

 

 それは手合わせだからと私たちみたいな過激な輩と違って流石に弁えているのか、あるいは単に未覚醒なだけなのか。それとも──

 

「……だったら、あの時は咄嗟に、だったのかしら?」

 

「叶星さん、何か心当たりがあるの?」

 

「ええ。さっきノインヴェルトの混線した中の一瞬だけだったけど、俯瞰視野の端で彼女がヒュージからの攻撃が来るのが分かっていたように避けた上で、鋭い反撃を……そう、まるで“高嶺ちゃんがレアスキルを使っている時みたい”な」

 

 宮川高嶺、叶星のパートナーである彼女のレアスキルはさっき見た感じだと『ゼノンパラドキサ』──サブ相応の出力ではあるが『この世の理』と『縮地』の力を合わせ持つ複合スキル。ヒュージが綺麗なくらい動いた順で倒されてたし、縮地よりはそっちでいいはず。

 戦闘特化のスキルがふたつ合わさっていることから「戦闘力が上昇する」なんて雑な言い方でもそう間違っていないくらいの、とりあえずで使って強いタイプのレアスキル。

 

 そして件の琴陽ちゃんがしたという先読みのような動きからの速攻、条件は当て嵌まるけど……『インビジブルワン』レベルの速度が出せるそれを使えばさっきのように無理してパスを受けることもなかったろうに、わざわざその力を周りに隠している理由はなんなのだろうか。

 

「……雪華様?」

 

「ああ、ごめん。怪我自体は嘘じゃなさそうだから今更何が出来るでもないだろうけど、同じガーデンな幸恵はこれからも気を付けてね」

 

「は、はあ……?」

 

 とはいえ彼女がガーデンの方針より自らの信じる物に従うらしい風紀委員だとして、その腹の中に何かを隠しているにしても万一この土壇場でまた裏切るようなら、残念だけど──

 

「ま、私は他の子たちの様子見てくるから、後は若いおふたりに」

 

 唯一整備に出していないCHARMである、腰アーマーに懸けていたブリューナクの重さと指で触れた刃の冷たさを意識するのも一瞬、話を打ち切ると幸恵はおかしそうに微笑んでいる。

 

「若いって、ほんのひとつ上なだけでしょう? まだ年寄り気分には早いんじゃないかしら」

 

「はっはっはっはっ……リリィにとって、案外一年の差は大きいよ」

 

「……?」

 

 私より年下なくせに幸恵も叶星も、ついでに佳世にもパートナーがいる事への負け惜しみなのかなんなのかは自分でも分からないけど、ともかく行くったら行く!

 

◆◆◆

 

「なるほど、そのおメダイをシュベスターの証に……」

 

「……うぅ。そ、そそそそんなに見つめられると恥ずかしいですよぉ~」

 

「ナニコレ」

 

 なんてグラン・エプレの残り四人らしき赤い制服が見えた遊具の辺りにフラっと立ち寄ったら、CHARMを替えた帰りなのだろう佳世が新品のブルトガングを盾にしつつも、それごと紅巴ちゃんに詰め寄られて滑り台の柱の辺りで壁ドンのなりそこないみたいな具合に捕まり、首元のペンダント──正しくはおメダイって呼び方になるらしいそれを凝視されていた。

 

「で、どういう状況?」

 

「えっと、紅巴がルド女の擬似姉妹制度について佳世様に根掘り葉掘り聞いていたら、いつの間にかこんなことに……その、あの子ちょっとこういうリリィ同士のあれこれに敏感で」

 

「あー、なるほど?」

 

 お互いそこまで積極的なタイプでもなさそうなのに、リリィオタク同士謎な科学反応でも起こしたのやら……なんて姫歌ちゃんに話を聞いていると、ピコンという音が聞こえそうな感じに何かを思い付いた風な灯莉ちゃんがこちらへ駆けてくる。

 

「ねーねーせっちゃんせんぱい、百合ヶ丘はそういうのってないのー?」

 

「んー? まあうちもシュッツエンゲル同士で認識票のサブタグを交換したりはあるけど、私の場合は姉さんが卒業する時にお互い返したからなぁ」

 

 参考までにと自分のを取り出しながら灯莉ちゃんに返事をするけど、姉さんに「シルトを取る時、その子も他の女のが付いてたら嫌だろ?」と言われて返しはしたが、別に上下に擬似姉妹のいるノルンのパターンも結構あるどころかガーデンの方こそがそういう繋がりを推奨してる訳で。そういうところもやっぱり百合ヶ丘らしくないんだろうね、私たちは。

 

「あれー? なんかそういうのって『おっ姉様~♪』って感じにベッタリじゃないの?」

 

「うわっ、だからってあたしに引っ付くなー!」

 

 まあその理由は以下略、そっち系は梨璃ちゃんたち辺りの甘々が一般的な例で、繰り返しになるけど私たちが特殊なパターンだって自覚はある。とはいえ姫歌ちゃんに飛び付きながらチューするフリまでしてる灯莉ちゃんが想像するみたいなのは……いるんだろうなぁ、わりと。てか人目を憚らずかはともかく、何組か浮かぶし。

 

「ところで、叶星が雪華様たちを探していたと思うのだけど、入れ違いになってしまいましたか?」

 

「いや、そっちの用事は終わったからその内戻ってくるんじゃないかな」

 

 そんな一年たちを見守るような位置取りの高嶺がお姫様の行方を聞いてくれば、またしても噂をすればで私の来た方からコツコツと靴音が聞こえる。

 

「皆、お待たせ……なに、してるの?」

 

「そうね、紅巴さんが情熱的に佳世さんに迫っている。なんてところかしら」

 

「みみみ、見てないで助けてくださーーーい!」

 

 まあ、こっちは平和そうだからいいんじゃないかな。うん。

 

◆◆◆

 

「うあー、しぬ~」

 

「いきろ恋花。ほらなんかじゅもんみたいなやつ」

 

「んなのもう何もかも溶けてダメに決まってんで……あ、これはこれでいいかも。溶けたクリームの甘さが染みるぅ」

 

 さて続いてこちらは元いた階段の下ら辺に残ったままだったヘルヴォル側。まず目につくのはさっきの『フェイズトランセンデンス』の反動でガス欠状態な恋花が階段に寝かされ、藍ちゃんのダボダボな袖でパタパタされながら、最初に持ってたカップを手渡されて看病……看病かこれ? ともかく面倒を見られている様子。恋花も藍ちゃん程ではないにせよわりかし背低めとはいえ、どっちが年下だこれ。

 

「他は大丈夫そう?」

 

「そうですね。こちらは負傷者もいませんし、CHARMの方も軽い整備で問題ないそうです」

 

 そんな様子は置いておいて二人を生暖かく見守っていた片割れな一葉ちゃんに話を振れば、聞きたいことを察して一気に答えてくれる。

 

「……とはいえ一度の出撃で二度のノインヴェルト戦術など、帰還後アーセナルからの小言は覚悟しておくべきなのでしょうが」

 

「あー、それ私もかも。既に一機ロストだし」

 

 状況が状況とはいえ流石に手榴弾か何かのようにCHARMを使い捨てたなど、百由やミリアムちゃんたちにバレたら何を言われることやら。とりあえずハンマーでヘルは確定か。

 

「で、こっちも一人いないね?」

 

「千香瑠なら、さっきルド女の琴陽さんと向こうに」

 

 はて? 不在理由は瑤が指差しながら教えてくれるけど、なんでまたその組み合わせなのか、同じ東京組とはいえ学年もガーデンも違うというのに。とはいえ琴陽ちゃんと、ね……

 

「ふーん、折角だしデバガメしとくかな。皆の様子は一通り見ときたいし」

 

「いや、もう少し本音隠してくださいってばセンパイ」

 

 まだ体も起こせない恋花に顔だけ向けながらツッコミを入れられるけど、気になった以上はそういう性分なものでね。

 

「でも恋花も気になるでしょ? 実は生き別れの姉妹だった~、とか」

 

「姉妹、か……」

 

 あれ、なんかまた地雷踏んだ? 恋花へ返す冗談の流れ弾で一瞬瑤の表情が……なんて気を取られていると、藍ちゃんがぽてぽてと瑤の側まで寄って両腕を広げていた。

 

「……ん?」

 

「ぎゅーっ」

 

 そのまま抱き付いたはいいけど、結構な身長差がある二人だから藍ちゃんは瑤のお腹より少し上の辺りに引っ付く形になる訳で。にしても急にそんなことをした意図はなんなのか、瑤の方も分かっていないようで疑問の声が溢れる。

 

「どう、したの?」

 

「今の瑤、なんだかよくねむれない時のらんみたいだったから。らんじゃ瑤みたいにおふとんにはなれないけど、瑤が好きなくまさんの代わりにはなるよ? だから、ぎゅーってしてる」

 

「そっか……ありがとう、藍」

 

 謎な言い方はともあれ想いは伝わったようで、幾分か穏やかな表情になった瑤が藍ちゃんの頭を撫でているなら後はもう私が首を突っ込むことでもないかと、恋花の腕を引いて起こしている一葉ちゃんと起こされている恋花に手を振って立ち去ることにする。

 

◆◆◆

 

「さて、例の二人は……いた」

 

 噴水近くのベンチで街頭に照らされている千香瑠と琴陽ちゃんは何かしら話し込んでいるようだけど、近寄る途中で見えた表情はあまり明るくはない。

 

「どうしたのよ、またこんな組み合わせで?」

 

「雪華様? いえ、琴陽さんの様子がおかしかったので少し話をしていたら、思いもよらない縁があったと言いますか……」

 

「……私と千香瑠様は、二年前の〈甲州撤退戦〉の戦場で共に戦っていたみたいなんです。もっとも所属は違いましたし、そうだということもついさっき知ったのですが」

 

 また撤退戦……なんてなる程繰り返した覚えはないけど、色々因果な戦いだ。

 そして二人の様子から、お互い同じような傷を抱えているようにも……どっちも当時は中等部だったろうに、まったく。

 

「……そこで、誰かを?」

 

「お互い、一緒に戦っていた友人を……私は、今でもよく夢に見ます……忘れたくても、忘れられない」

 

 それで、そんな琴陽ちゃんとたまたま同じ物を抱えていたから千香瑠の方もつい話してしまってこうなったと。

 

「無理に忘れることは、ないんじゃないかな?」

 

 覚えているから繋がりがまだ残っているとも言えるし、辛い思い出であろうと生きている限りは背負い続けるしかない。

 酷な言い方にはなるかもしれないけど、残された側が死者に出来ることなんて、相手を想い続けてなるべく忘れないようにすることだけなのだから。

 

「……でも、私は」

 

「それは私にも言えるわ琴陽さん。あの時自分にもっと力があれば……なんて、あの場にいた全てのリリィが同じ思いのはずよ」

 

 あの戦いにおいて出た犠牲者の多くは彼女たちの友人や美鈴を始め民間人を守るべく戦っていた人間であるし、戦闘の最中ネストへの道が開かれている状況で突撃か撤退かで意見が別れたことが、初代アールヴヘイムの解散した一因だとも言われている。

 それ故、参加した者の心に多くの後悔を残したのは確かだろう。もし、仮に当時他所で任務中だった私たち烏丸隊が参加出来て……いや、よそう。現実に『if(もしも)』はないんだから。

 

「そうじゃないんです。あの時私たちは、()()()()()()()()()が来て助かったと……だけど、だけど……っ!!」

 

「琴陽さん!?」

 

 ──さて、人が物思いに耽っていたらいつの間にか琴陽ちゃんがフラフラと立ち上がり私にCHARMの切っ先を向けていたのは、いったいどういう了見なのだろうか。

 何をしてこようが構わないよう表情を殺しながら油断なく腰のブリューナクに手を伸ばして引き抜くと、声音も自然と熱が抜けたものになる。

 

「なんのつもり、かな?」

 

「……ごめんなさい、筋違いなんだとは自分でも分かってはいるんです。ですが雪華様、あなたは先程自分のレギオンを〈一柳隊〉だと、確かにそう仰いましたよね? あの、『白井夢結様』のいる」

 

「──ああ、なるほどね?」

 

 つまりその救援は夢結たちだったと。恐らく状況的には梨璃ちゃんを助けた後の──美鈴の、最期の戦場。

 確かにその時も夢結はルナティックトランサーが暴走していたのだし、そこら辺に転がっている見ず知らずのリリィのことなど気にもしてられなかっただろうけども。実際、この間のビジョンにも彼女らしき影は欠片すら見えなかった。

 

「そこまで見てたんなら、自分だけが被害者です……っていうのは筋が通らないんじゃないかな」

 

「確かに、あの時夢結様と共にいたリリィ……シュッツエンゲルだったという方があの場で亡くなったというのも、知ってはいます。だけど、ルナティックトランサーで暴走した彼女は私とあの子を戦場に置き去りにした! 助かったと思ったのに、裏切られた!」

 

「だからその腹いせに、夢結の仲間な私をヤろうって?」

 

 「勝手に言ってろ」とバッサリ切り捨てるのは簡単だが、美鈴が最後に駆けた戦場の生き残りにそういう言葉を投げるのもあいつに失礼かと、ある種()()()()()()()()()()()()彼女への対応を考える。

 

 まあこうなっているのはわざわざ先に断っている通り、色々偶然が重なった結果抑えきれなくなった感情の爆発なのだろう。戦闘前にも夢結の名前を佳世が出したり、同郷の相手がいたからとちょうど昔を思い出してしまい、蓋がしきれなくなった感じ。

 端から見れば単なる言い掛かりだろうがなんだろうが、本人としては至極真面目に怒っているが故の……ったく、カウンセラーはリリィの仕事じゃないっての。

 

「なら撃つなり斬るなりすればいいよ。それで君の気が済むんなら」

 

「……っ。あなたに、あなたに何が「分からないよ、復讐なんて『目の前にいた元凶をただぶっ飛ばせばいい』って内容でしか知らない私には」……え?」

 

「なに、百合ヶ丘だからって私が身綺麗なお嬢様だとでも思った? とっくにこの手は救えなかった人と、それを奪った相手の血でまみれてるよ。だから分からない、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()の気持ちなんて」

 

 それは件のダインスレイフのことだけでなく、前のレギオン時代に一度任務の最中不審な施設を発見した『ことにして』ゲヘナのラボのひとつに殴り込みを掛けた時のこと。

 

◇◇◇

 

 夜もふけた頃のとある研究施設──中からの手引きにより入手したカードキーで潜入自体は簡単に果たせた。その情報源は過激な実験を繰り返し過ぎることに反発した内部からの告発であったとは、当時の姉さんの弁。

 そして、そのラボには突入の数日前どこかからの呼び出しで隊を離れていたレギオンの先輩が一人いるはずだった……だが、そこには()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

『なんだよ、これ……!』

 

『酷い有り様、ですね』

 

 姉さんと霊奈さんを先頭に突入した時、施設に囚われていた強化リリィは全てが実験の副作用によるショック死か、ヒトの形を留めていなかったか……当然、私の先輩も。

 実験用のアリーナか何かでのそんな惨状にレギオンの皆が言葉を無くす中で私の視界に映ったのは、近くの窓越しにこちらの様子を見ている逃げ遅れた研究員。

 

『……アレか、あいつらの仕業か』

 

 それを見た当時の私は、反射的にソードガンの銃口を向けると躊躇いなくその引き金を引いていた。CHARMに限らず「ヒトに武器を向けてはいけない」なんて人間として当たり前の常識は、一切働くことなく。

 

『おい雪華、やめ──』

 

◇◇◇

 

「……それは、人を撃ったことがある。ということですか?」

 

「あれを人と呼ぶのなら、ね。ヒトの皮を被ったバケモノに、慈悲なんて一切くれてやる気にはならなかった」

 

 そんな昔語りを終えた私への“戸田さん”からの問いには「いっそヒュージを撃つより気が楽だったかもしれない」なんて言葉を添えて。

 

「何を考えているか分からない怪物より、明らかに人のココロを捨てた邪悪な存在と分かっているやつらの方が、遥かに撃ちやすかった」

 

 などと忌々しく吐き捨てる私に、それでも千香瑠は心配そうに聞いてくる。

 

「……それで、雪華様は平気だったのですか?」

 

「さあね? 〈この世に悪があるとするなら、それは人の心だ〉なんて言うくらいだし、その時に私のココロはそっち側に転んだのかもしれない……けど、例えそうなってでもあの時の私はヤツラを許せなかった。それだけは事実」

 

 言葉を切って一度目を瞑り、先を言うか否か迷うのは数秒──どうせ東京と鎌倉とで住む場所もガーデンの立場も違う以上、そう何度も会うような関係でもないのだ。今更躊躇うこともない。

 

「だから戸田さん、君も本当に我慢ならないって言うんなら後先考えず撃てばいい。八つ当たりでも筋違いでも、感情のまま引き金をどこまでも自分のためだけに、身勝手なまでにそのエゴで引けるのが人間って生き物なんだから」

 

 ──ああ、結局こうなるか。所詮私にはいつぞやのインタビュアーさんや梨璃ちゃんたちのように自然と他人の心を開くなんてのは土台無理な話で、真っ向から意見のすれ違う相手には、こんな上から試すようなことしか言えない。

 

「なんで……あなたは……」

 

「理由はどうあれ、自分がやったことを他人にやるな、っていうのは筋が通らんでしょ。だからそれで気が済むんなら撃てば? 勿論抵抗はさせてもらうけど……まあ、その時は私が先に手を出したとでも言えば、怪我人なのを含めて同情は誘えるんじゃないかな?」

 

 皮肉げに足の包帯を見ながら告げるが、彼女は固まったまま動かない。勿論、やるにしても千香瑠が周りに黙っている前提にはなるけど……そもそも生真面目そうな彼女ならやり合うことになった瞬間、レアスキル(ヘリオスフィア)を使ってでも私たちのことを止めるか。

 

「…………………………ッ!!」

 

 とはいえしばらくの葛藤の後近くの街灯をへし折った彼女のグングニル・カービンが、一応の返答になるのだろう。

 

「それが答え……かな?」

 

「……筋違いだとは最初に言いましたし、ここで撃てば全部あなたの思い通りになる気がして、なんだか嫌だっただけです」

 

「そう、ならそれも君の感情からの選択だ。嫌なことに従う道理はないよ」

 

 私が嫌われる程度で収まったのなら、まあ安い方だろう。とはいえ本気で許せないのなら、東京なんぞで燻らずに百合ヶ丘まで乗り込んで『お礼が言いたくて』と嘘でもなんでも適当なことを言って夢結を呼び出し、その場で問い詰めればよかったろうに……ということはやはり、誰かに責任を求めたかっただけなのか。

 

 それを甘えた考えや逃げているだけだ。なんて思ってしまうのは私がとっくに人の死に慣れてしまっているのか、単に薄情な人間だというだけなのか。

 

「今の、なんの音だ?」

 

 しかしまあ、当然こんな派手に物を壊せばその音は辺りにも聞こえるし、刺さったままのCHARMにより折られて倒れた街灯なんて動かぬ証拠まである以上は、集まってきた御台場組に取り繕った()()を語るのみ。

 

「いや、少し煽り過ぎちゃって彼女を怒らせたみたいでさぁ」

 

「……はんっ」

 

 ──そこに援護射撃が入るのは、意外だったけども。

 

「満足に戦えもしないのについてきて、事実足を引っ張ったのですからそれで何を言われても全てその方の自己責任でしょう? だというのに物に当たるなどと、リリィとしての心構えが知れますわ」

 

「……相変わらずだな、純。不馴れなやつがいたなら、私たちがフォローしてやればよかっただけだろ!」

 

「弱い方に合わせたら弱くなりますわ! 例え一年生であろうと参加するとついてきた以上、あの程度のパスにも『合わせられません』では無駄に周りの被害が増えるだけでしょう?」

 

 白熱する純と楪の討論はどちらの言い分も間違っちゃいないが、仲間に武器を向けた挙げ句手抜きまでして散々場をかき乱した相手に対して周りがどうこうで済むのかはなんとも言えないので、私としては純側の意見になる。

 勿論、楪はあの子の手合わせモードや叶星の見たという『本気』を知らないからこその、同情的な立場なんだろうけど。むしろ純にしても、その辺りを知らないからこの程度の煽りで済ませてくれているとも言えるか。

 

 個人的な見解を言わせて貰うならどんな奴でも別にいるだけならいいが、邪魔だけはしてはいけない。そうなったらどんな理由があれ、こうして不和の種をばらまくだけなのだから。その点は論ずるまでもない……けど。

 

「ともかく戸田さんも私も、お互い言い過ぎたやり過ぎたで一応手打ちにはしてるよ」

 

 そんなことは今更無理に混ぜ返すこともないから、もう終わったことだと流そうとするけど、純はこちらを見ても腕を組み不機嫌なままだ。

 

「百合ヶ丘の先輩は随分とお優しいことですわねぇ?」

 

「言ったでしょ? 煽ったのは私だって。大人げないのはお互い様、所詮は小娘同士のじゃれ合いよ」

 

「へぇ? では、この場はそういうことにしておいて差し上げますわぁ」

 

 流石に装飾が過ぎたのか、半目になる純の呆れ顔はほとんどバレているような反応。まあ別にそこの彼女を庇っているつもりなんぞは微塵もなく、あくまで場の空気のためなのだから黙って察してくれる分には困らない。

 

「ともかく、戦えない方はもうよろしいでしょう? 後はわたくしたちが、リリィとしてやるべきことをやるだけです」

 

「ま、それ以上の言い様はないかな? ガーデンへ帰るにせよここに一人残るにせよ、余計なことして傷を悪化させないように。君がお熱な夢結じゃあるまいし」

 

「……?」

 

 話題を断ち切るような初の言い分に乗っかってはみたが、戸田さんの反応は「何故そこでその名前が?」とでも言いたげだ。まあ、他校のリリィのあれこれなんて普通は知らないか。うん。

 

「いや、例の撤退戦でもその後でも、なんなら一昨日の戦いだって自分の怪我とか一切構わずに突っ込むもんだから危なっかしくてね、あの子」

 

「相変わらずだなぁ夢結は。先輩も大変だろ?」

 

「まあねぇ、いつもいつでもヒヤヒヤものよ」

 

 肩を竦めていると迎撃戦で夢結と同じ第1部隊の縁で楪は懐かしそうにしているが、彼女に毎度毎度食い付いてそうな純も今ばかりは腕組みをしたまま頷いていた。

 

「へぇ、流石は〈狂乱の天使〉白井夢結。その異名に違わぬルナティックトランサー持ちらしい戦いぶりですわね」

 

「またマニアックなの持ってきたね……〈アサルトリリィ〉の付属カードのじゃんそれ」

 

 とある会社が関係各所の許可を取って製作しているアクションドール、自作のオリジナルリリィを作るのがメインな〈カスタムリリィ〉と違って実在の有名リリィをドールとして再現した物──それがアサルトリリィ、儚くも美しく戦う少女たちの人形。

 確かここにいるロネスネスとセインツの隊長と副隊長の四人とも、しっかりと出ていたはず。隊員たちの方はまちまちだけど、なんであの紫サイドテールの子SNSじゃアイス持ってるのばっかり撮られてるんだろ? しょっちゅう落として絶望してるのが撮られてるのは、落ち着きがないってことなのかなんなのか。

 

 ちなみに現金な話にはなるけど肖像権とか諸々が絡むからか、ドール以外にもアクリルスタンドとかキーホルダーとかのリリィ絡みな商品の売り上げはある程度がリリィたちの活動に使われるとかなんとか。多分所属するガーデン行き? 臨時収入としてこっちの口座に入ったとかは聞かないし。

 

 ……脱線した話を戻すと、それに付属するカードにはなんかこうリリィたちの能力をステータス化したのとかあれこれを書いていたりするんだけど、今純が持ち出したのは夢結のドールに付属しているカードに記された異名。けど、呼んでる人初めて見たぞ……確か純本人の異名は〈狂乱の姫巫女〉で、そっちも『狂乱』入ってるからのシンパシー?

 

 なんてどこが感心するべき部分なのかは知らない純はともかく、何故か戸田さんは夢結が今怪我をしていた、ということに狼狽えたようにしている。

 

「え、あの人が……? そんなこと……から聞いてな……」

 

「いや、そこら辺一々公表したりしないでしょ? 大体さっきも話したリフレクター持ちは、アールヴヘイムすらスタメンのほとんどが残ってた予備CHARM壊してしばらく戦力外通告食らうくらいの相手なんだから、こっちもそんなに余裕なかったっての」

 

 実際私もあの時の装備が揃ってなかったら何度もオダブツだったろうし、たまたま色々と上手く噛み合っただけでしかない。ヒュージとの戦いは、いつだって死と隣り合わせなのだから。

 

「アールヴヘイムも……?」

 

「おっと口が滑ったか。まあとにかく百合ヶ丘は百合ヶ丘で守備範囲にネスト二個も抱えてるし結構手一杯で、上も新潟の時みたいにそんなホイホイ他所にエースレギオンを丸ごと出してられんってさ」

 

 そもそも新潟の一件にしても直談判に来た麻嶺とその友人を前に生徒会三役の意見が割れて、上位13レギオンの代表を集めた大きな会議になったんだから別に簡単ではなかったんだろうけど。にしたって閑さんのところに限らず何組かはレギオンを作ったばっかりだったり、継続組も年度が変わっての再編やらでバタバタしてたろうに、上の都合に振り回されるのはいつだって現場の人間か。

 なんてやれやれムードになっていると、口論に参加していなかった椛さんは戸田さんの方へ。

 

「リリィとして、もっと経験をなさいませ。そうすれば、今日のことも違うように見えてくるはずですわ……道半ばな『私』に言われても、説得力はないかもしれませんが」

 

「い、いえそんな! 椛様と比べたら、私の方こそ……」

 

 椛さんの一人称が変わった……これはあれか、『あたし』と同じ公私のスイッチとかそんな感じ? こっちは最近基準がゆるゆるになってる自覚はあるけど、彼女の場合今は一人のリリィとしてでなく、御台場女学校の生徒会長としての言葉ってことなのか。

 

 ともかくこれで話も終わりと、御台場組も去って行けば所在なさげにしていた戸田さんも「また診て貰います」と離れて行き、残されるのは私と千香瑠。

 なら私もそろそろ整備が終わっただろうと残りのCHARMを受け取りに行こうとしたところで、背後から声を掛けられる。

 

「さっきの話、どこまでが本当なんですか?」

 

「……言ったこと自体は全て、かな」

 

 意図してボカした部分、撃った後どうなったかについては、千香瑠も察したからこそ聞いてるんだろうけど。

 

 ──実のところ私が撃った弾が届くより先にレアスキルを全開にして踏み込んだ姉さんが、私の狙った研究員の胴体にガラスを突き破りながらブリューナクを突き刺し即死させていた。だから私が撃ったのはあくまでも死体だと、()()()()()()()()()()()と告げながら。

 結局残りの研究員は目の前で同僚が殺されたこととルナティックトランサーを発動した姉さんの、破ったガラスで血まみれになった姿の威圧感とに怯えて、そのまま大人しくお縄についた訳なんだけど。

 

「でもあの時明確な殺意を持って引き金を引いたのは事実だし、今でもゲヘナの連中はいくら死んだっていいと思ってる。だから、今日は少し安心したかな? 親ゲヘナガーデンのリリィっていっても、ここの皆は私たちと変わらなくて……ま、全員が全員そうじゃないみたいだけど」

 

「それは……」

 

 戸田さんにしたって私へCHARMを向けたことはどうでもいい、よくあることと言えばそうなるし、藍ちゃんの方が勢いとかヤバかったしで。

 けどノインヴェルトの件は別だ、ヒュージ一体倒すのにコストもリスクも高い攻撃だっていう事務的な理由以上にリリィ同士の絆が試されると思っているそれの最中、露骨な手抜きをして失敗させかけたというのは単なる裏切り行為以上の重さがある。そんな相手に二度と背中を預けたいとは思えないから、彼女にはお情け込みでも突き放すような対応しかやれなかった。

 

「他にやりようはあったのかもしれないけど、私はこんなだからね」

 

「それでも、悪くはなかったと思います」

 

「つまり、良くもないってことだよ」

 

 この場合角の立たない答えは夢結に渡りを付けることだったのかもしれないけど、言動の一切信用出来ない輩に仲間を売ってやる義理などないし、結局自分でなんとかしろとしかならない。

 だからこれ以上は言うこともないかと、改めて整備室代わりになっているテントを目指して噴水の近くを後にする。

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