TEP千秋楽でアドリブというか梢ちゃんがトチった時咄嗟の反応が「わたくし?」だったし、御台場舞台以外だと基本椛様の一人称わたくしだから、多分素はそっち。
もう少しなんだよなぁとまだ書きたいと、色々な想いが鬩ぎ合いながらの後半戦──ファイッ!
「さて、と」
ぶっ壊したカービン一機以外は問題なく、調整が済んで無事返ってきたCHARMをケースに収め背負い直していると、不意に懐のケータイが鳴るので、通話ボタンをポチリ。
「ん、もしもし?」
『白井です、雪華様』
出てみればその相手は夢結で、名前を出した直後になんともなタイミングと言うべきかどうか。とはいえわざわざ辺りのテントを探して『彼女』に繋いでやる義理なんぞないと一瞬で思考は打ち切り、夢結への返事を。
「あーごめん、ちょっと東京で戦闘に首突っ込んだから、今日中には帰れそうにないわ」
『まったく、そんなことだろうとは思いましたが……梨璃たちが心配していましたよ?』
だから代表して夢結が連絡してきたと。改めて、私には過ぎたレギオンかもしれないね……なんて考えていると、同じくCHARMを受け取った帰りなのだろう背後からの声が。
「雪華様、そちらもレギオンに連絡ですか?」
『今の声は……幸恵?』
「あー、まあそんなところだけど。はい」
「……?」
けどまあこっちの穏やかな縁なら別に繋いでも構わないだろうと、幸恵へ振り向くと軽くケータイを放ってみる。
◆◆◆
「……もしもし?」
急に何を。と思わないでもない幸恵だったが雪華の名乗った所属からもしや、と期待を込めて電話に出てみれば受け取った雪華の携帯の向こうからは彼女の予想通りな、しかし過去の記憶よりいくらか柔らかくなった声が。
『久しぶりね、幸恵』
「夢結! 本当に久しぶり、元気にしてた?」
『そうね……なんとか、元気でいられているわ』
そういえば風の……というより佳世の噂で夢結の方も幸恵同様今度は姉として擬似姉妹契約を結んだと聞くし、自分たち二人は『こんなところ』まで似ているようだと自然に笑みが溢れる。
「ふふっ」
『……何か、おかしかったかしら?』
「ううん、嬉しいのよ。多分」
などと電話越しとはいえ旧友との再会をお互い噛み締めていると、そのまま話は途切れてしまう。
夢結も幸恵も『お姉様』になろうと揃ってどうにも不器用なところは直らず自分から話題を切り出すのが苦手なものだから、同じ部隊でも口数の多い楪辺りを挟めばちょうどいいのだろうかと思い始めた頃、けたたましいサイレンの音に眺めていた雪華共々現実へ引き戻される。
「……っと、ようやくお出ましか」
「それじゃあ夢結、先輩をお借りするわね!」
『ええ、とんだ暴れ馬だから気を付けて』
違いない。『円環の御手』持ちのリリィはCHARMを投げたりな荒っぽい戦い方もしょっちゅうだとはその一人である幸恵自身も思うが、その中でも例外的な立場のこの先輩はとびきり荒々しいのだからと、笑みを浮かべて雪華へ携帯を軽く投げ返す。
「っと、そんな訳だから勝って来るよ」
『その点を心配してはいませんが、あまり東京の街を壊さないようにしてくださいね』
「それは私じゃなくて、あのヒュージに言って欲しいかなぁ!」
段々後輩からの扱いに遠慮がなくなって来たぞと、それもまた信頼の形かと雪華も通話を切ると幸恵と並び、予定の合流ポイントへ向かう。
◆◆◆
「あれ、私らで最後?」
再びの下北沢、後退してヒュージの拡散に備える軍のヘリなり装甲車なりを時折見送りながら目的の広場に着くと待機な戸田さんを覗く残りの十六人は先に到着していたようで、一葉ちゃんが確認のため見渡している。
「時間的には問題ありません。では全員揃いましたので改めて確認します、我々ヘルヴォルの方にはルドビコのおふたりと葵さん、雪華様。そしてグラン・エプレの方には、御台場女学校の皆様がそれぞれ先だってノインヴェルトのパス回しを行った後、各レギオンの支援へ回っていただきます」
やることは単純、先程と同じ感じのそれを分割して混ぜるだけ。しかし口にする程簡単かどうかは、ヒュージの勢い次第なところは否めない訳で。
「ところで、今更だけど特殊弾どっちの使えばいいの?」
そこで浮かべた疑問──グラン・エプレ側しか特殊弾を持っていないことへのそれには、隣の幸恵へ純からケースごと投げ渡されるのが答えか。反射的に受け取った幸恵も、私と同じで少し意外そうにしているけど。
「まさか御台場のリリィ、それもあの純さんから何かを託されるなんて思ってもいなかったわ」
「……ガーデンの立場は関係ありません。わたくしはあなただからこそ特殊弾を渡すに値すると、ただそう思っただけですわ」
「つまり、純は幸恵さんの実力を認めたからこそ、その特殊弾を託したのだと言っていますのよ」
せめてもの抵抗なのか、そっぽを向きながらツンツンしてみせてもまたしても初から本心をあっさり明かされては、さしもの純も慌てて振り返ったところで声にならない物しか出てこず、咳払いをして誤魔化すばかり。
「~~~……んんっ。ともかく、先程のフィニッシュショット、お見事でしたわ」
「っへえぇ~? 『あたし』には死んでもそんなこと言わないくせぐえっ」
あ、純の隙が見えたからって楪がここぞとばかりに煽りに走ろうとして、椛さんに首根っこひっ掴まれて止まった。てかなんだ、さらっと自分のことあたし呼びしてるし君もこっち側か?
「ゆず?」
余計な言葉はなく、肩に手を回し正面に向き直らさせて一言名前を呼ぶ。それだけなのに、「はい」と素直に返事して蛇に睨まれた蛙のように楪は縮こまっていた……そういう力関係かぁ。
「ふふ、ありがとう。大事に使わせて貰うわ」
「ほら、行きますわよ。副会長さん?」
幸恵の返事に満足した純と無言な椛さんに引き摺られて、なんとも不満そうな表情のまま楪がグラン・エプレの側へ連れられて行くと、初も会釈を残してそれに続く。
「楽しそうだなぁ、御台場」
「それが、彼女たちの強さの秘訣なのかもしれませんね」
あるいは、実力故にじゃれていられる余裕もあるのか。単純に相性の問題もありそうだけど、喧嘩友達程度ならむしろ張り合うことで戦果は上がりそうでは? まあ、それはそれとして、こちら側のリーダーになる一人のリリィの隣まで寄って一言。
「時に一葉ちゃん、この戦場にどれくらいゲヘナの介入があると感じてる?」
「御三家の守備範囲である以上『エリアディフェンス』によりある程度ヒュージの出現はコントロールされていると思いますが……今のところは、なんとも」
東京はケイブ発生時の特殊な粒子を抑え込む装置、エリアディフェンスの殊更強力な物を配置することによりケイブによるヒュージの出現を御三家の守備範囲へ集中させ、エレンスゲや神庭等の御三家以外のガーデンが国定の守備範囲を持たずにいられるようになっている。それ故エレンスゲの手当たり次第な外征スタイルや、神庭のように出撃をリリィ自身の選択制にするというやり方も可能になっている訳で。
──逆を言えば、そのコントロールを握っている側の人間がちょっと手を加えれば子飼いのヒュージを狙って送り込むのも容易となる。国とゲヘナがグルな以上、近頃ケイブがルド女の守備範囲に集中しているというのとルド女が親ゲヘナガーデンであることは、決して無関係ではないだろうから。
「感覚的にはほぼ黒だとしても、物的証拠に乏しくてギリギリのグレー止まりと。とはいえここまで長引いてる以上、ほぼ確定でいいと思うんだけどなぁ」
「そう言われると否定は出来ませんが、どちらにせよあのギガント級はここで倒さねばならないことに変わりはありませんから」
「ま、それはそうなんだけども。序列1位サマは真面目だことで」
そりゃあ私だって首を突っ込んだ以上手を抜くつもりはないけど、こうもマイナス要因が重なるとモチベーションの維持も大変だっての。
「よく言われますが、これが私ですので」
「一応、悪くは言ってないつもりだよ。ともかく状況によってどっちがトドメかは変わるんだろうけど、フィニッシュはお互いリーダーになるんだ──任せたからね?」
「……はい!」
微妙そうに微笑んでいた一葉ちゃんに握り拳を見せれば同じように拳を作ってコツンと応えてくれたのだから、今はこっちの仲間のため頑張るとしますかね。
「そろそろ時間ね……来た!」
「総員、戦闘準備!」
そんな風にしているとまた感じた揺れと共に、再度空が割れケイブからギガント級が姿を見せるのだから、一葉ちゃんと叶星が先頭に立ち号令を掛ける。
「これより臨時編成での二隊同時ノインヴェルト戦術を開始致します!」
「幸恵さん、楪、スタート役はあなたたちに任せるわ!」
叶星の投げ渡す特殊弾をパッと楪が受け取ると、隣合わせの幸恵と揃ってCHARMへ装填、フロッティを肩に担ぎながら足でトントンとリズムを取っている。
「オッケー、一気に上げてくよ。幸恵、付いてこれる?」
「ええ、言われなくても!」
奇しくも先程のノインヴェルト戦術では最初と最後だった二人が、今度はそれぞれスタート役になると。
しかしなんだろうね、この二人からは迎撃戦で同じ部隊だったこと以上になんというか根っこの部分で呼吸が合う、そんな感じがする。
◆◆◆
「では、作戦開始!」
ギガント級が地響きと共に着地し、無事な左肩からヒュージをばらまき出したのに合わせ、椛の号令の下に一斉射撃。夜空をレーザーやビームの光が彩りリリィたちが下北沢を駆け抜ける中、ノインヴェルト戦術のスタートを飾るのはCHARMにマギスフィアを生成させた二人。
「最初から全開で行くわよ──レアスキル《円環の御手》!!」
シャルルマーニュを抜刀しながら二刀で円を描くようにして構えてから近寄って来るヒュージを華麗な二刀流で続々と仕留める幸恵に続くのは、愛機フロッティのブースターをふかせて戦場を駆け回る楪。
本来刺突補助のための物であろうとそれを彼女の得意な高速戦闘に組み込めば、目の前のヒュージを追い抜いて後続の射撃の間を抜けて蹴散らした上で、先頭のヒュージが振り向いたところへ一閃という結果にもなる。
「流石の『完全回避』。素早さに一層磨きがかかったわね、楪!」
「へへっ。どんな攻撃も当たらなきゃいいのさ、っと!」
そのまま飛行型のミドル級の突撃を避けた勢いで背中合わせになりつつ、回転しながら周囲のヒュージへ二人でひたすらに乱射すれば当然注意も集まり次々と反撃が来るが、直撃コースの物だけを的確に幸恵が左手に持つシャルルマーニュの結界で弾いてくれているのだから、楪も攻撃にだけ集中し目につく側からヒュージを撃ち落とすのみ。
「よし、こんなもんでいいでしょ。次、椛ぃ!」
「こっちも行くわよ、佳世っ!」
引き付けたヒュージを撃破し終えたならと、楪はCHARMから足へ落とすようにしたマギスフィアをリフティングの要領で受け止め、一度軽く蹴り上げると横を駆け抜けた椛の進む先へ向けて豪快なシュートを放つのだから、合わせて幸恵もフィエルボワを手の中で回し二人がヒュージを駆逐した道を行く佳世へ、マギスフィアを投げ渡す。
「ととっ……あ、ハンドはアウトですかね?」
「別にサッカーをしている訳ではありませんので……来ます!」
楪が時折こうしてはしゃぐのにも昔からの付き合いで慣れたことだと余裕を持って受け取る椛と対照的に、少し出遅れた佳世はブルトガングを片手に右手で直接マギスフィアをキャッチする形にはなるが、そのままCHARMのコア付近にキープさせマギを注げているのだから、結果だけを見れば問題はないのだろう。
その間に二人の進路上に近くの建物を突き破りながら現れるのはカプセルのような胴体に四つ手四つ足の、東京ではよく見掛けるタイプのラージ級。ならば恐れる道理などないと、椛は布都御魂を折り畳み大筒モードと呼ばれる射撃形態へ切り替え静かに歩み寄りながら的確に生物にとっての急所である体の中心だけを狙い、数ヶ所付けた射撃跡をブレードモードに戻したCHARMでまとめて斬り上げ、ヒュージを一刀両断する。
「せぇっ!」
「うわ、すごっ……!」
「このくらい大したことではありませんわ。それに佳世さん、あなたも幸恵さん同様ガーデンに戻ればシュベスターなのでしょう? もう少し自信を持たれてもよろしいのでは」
とは言われても今ここにいるのは各ガーデントップクラスの実力者や、有名ガーデンの所属ばかり……などと謙遜をしようにも、佳世自身もまさに東京が誇る御三家であるルドビコ女学院のテンプルレギオンに選出されている身という、まごうことなきエリートリリィが一人。というのが客観的な事実だとしても、安定して選出されていない立場では周り全員が自分より上に思えるとそれも霞んでしまう訳で。
「そ、それは……「次、反対側から!」は、はいっ!」
などと佳世が耽っているとダンスのリードでもされるように椛にCHARMごと手を引かれるのだから、その先にヒュージがいるならと迷わず発砲。ヒュージの数が少なくなってくれば多い方へそれとなくリードされるが、なんとか対応出来るラインを越えないようにしてくれている、というのに椛の気遣いと自分のフォローをしつつも戦場をコントロールしているのだということを感じさせられる。
「わたくしたちはこれくらいでいいでしょう、次の方へ!」
「はい……ってヒュージが!?」
そうして近くのヒュージを結構な数撃ち落としていたからか、ギガント級の左肩から撃破した以上の数のヒュージが吐き出され二人がヒュージに対応している間に先行していた次のパス相手となる船田姉妹や雪華、葵といった面々と二人を引き裂くように降り注ぐ。
「くっ、初さん!」
ヒュージの群れが地上まで落ち切る直前、咄嗟にCHARMを振るいヒュージの下を潜らせて初までマギスフィアを届かせて見せた椛は、伊達に武のガーデン御台場女学校の生徒会長ではないのだろう。しかし急なことに佳世まで合わせられるかと言うとそうではなく、マギスフィアがひとつこちら側に残ってしまう。
◆◆◆
「はわわ、どどどどうしましょう!?」
さて、ちょっと面倒なことになった。二人との間にこれだけのヒュージがいては、パスのために投げ飛ばされたマギスフィアが途中で撃ち落とされる可能性が高い。
だからといって同じリリィがマギスフィアを保持していられる時間にも限界があるし、今いる道路の左右はビルに囲まれているのだから立ち往生も迂回も厳しい……となるとこの手札でなんとかしないといけない訳で、視線を周囲に走らせる。
「ここと、ここ。んでもって佳世の位置が……よし。葵ちゃん、ちょっと手貸して」
「えっ? まあいいけど」
「こちらは待っていられませんわよ?」
「それでいいよ」と純へ簡潔に返しながら、改めて装備のチェック。一か八かの奇跡なんぞ起こす必要はない──私にとっての当たり前、それさえあればこの程度は楽勝だ。
「だから、そっちは先に前の掃除よろしく!」
近くのビルの看板にアンカーを打ち込み、スラスターの噴射の勢いも合わせて一息に跳ぶ。ここまですれば佳世もハッと気付いたようで、看板を蹴り宙を舞う私の目線の先へ、少し遅れてブルトガングを振りかぶっている。
「大分無茶苦茶するんですね、鎌倉のリリィって!」
「無理無茶無謀は重々承知。それでもやらなきゃ、何もこの手に掴めやしないからさ」
防御フィールドを全開にして強引に突っ切る形になるのだから、いくつか混ざる飛行型ヒュージの相手まではしてられない。地上に落とされたヒュージはマギスフィアに集まっているのか佳世たちの方を見ているし、その隙くらいはあると信じて。
「どっ、りゃぁ!!」
「手貸してって、そういうこと?」
そのまま佳世がマギスフィアを私の進路上に放れば、途中のヒュージを葵ちゃんが撃ち落としてくれるのだから今更に地上のヒュージがこちらを狙おうとしてももう遅い。進路上の一体を踏み台にして、腰のアーマーからブリューナクを引き抜くと引ったくるようにマギスフィアを確保し、足場代わりのヒュージを蹴りながら右手にもグングニル・カービンを構え空中で逆立ちするような形で全CHARMの銃口を下へ向ける。
「そーら落ちろぉ!」
◆◆◆
「うわっ、雪華先輩ってばやることがいちいち派手だなぁ」
足場としたヒュージを撃破するのみならず、一人爆撃機か何かのように地上のヒュージへ実弾レーザー問わず乱射しまくる雪華の余波から腕で顔を庇いつつ、そういえばこっちはどうなのかと葵が後ろを向けば、見えるのはギガント級の側から押し寄せるヒュージの群れを前に船田姉妹が圧倒している様。
初の持つ両刃の大剣型CHARM『ネイリング』に弾き飛ばされたテンタクル種のヒュージを純が一刀の下両断すれば、本体側から放ったマギの光弾を初がネイリングで純の後ろから迫るヒュージへ向け弾き返し、流れるようにCHARMをシューティングモードへ展開させての射撃もまた純の手で彼女の後ろへ、それを数度繰り返し互いの死角を補うような立ち回りで瞬く間にヒュージの数を減らして行くと、二人して狙いを定めた最後の一体の上へ雪華がブリューナクを突き刺しながら降ってくる。
「よし、じゃあこれをさっきのお礼ってことにしといてよ」
「あら、義理堅いことで」
「その多対一を征す縦横無尽な戦いぶり、うちのメンバーの何人かを思い出しますわね」
なんて初の言い様に「そりゃあ光栄だねぇ」と軽口で返せば「ですので、その人数分働いて頂いてよろしいかしら?」と中々の無茶振りが返ってくれば雪華も苦笑いするしかなくなるが、反対側からの轟音に葵も含めた四人揃って振り向くことになる。
「おおっ、とぉ!」
その発生源は愛機フロッティの吹き出す爆炎に引っ張られるままに飛び込んでくる楪で、勢いに振り回されるような形になりながらもCHARMを叩き付けるようにしてスモール級一体を押し潰し、シューティングモードへ切り替えながら近くの個体に銃口を向け引き金を引く。
「こっちも滅茶苦茶だったー!?」
「新潟行きに間に合わせた新型だし、まだまだ乗り慣れてない新車みたいなもんだからね!」
先輩たちの傍若無人っぷりにツッコミ役に回るしかなくなっている葵へフロッティを肩に担ぎながら楪が気取った返しをしていると、追い付いた幸恵も周りのヒュージを撃破していくのだから気を取り直して加勢する。
「ともかく葵ちゃん、ヘルヴォルまで配達よろしく!」
「純も、頼みましたわよ」
ヒュージの亡骸を蹴って跳びながらブリューナクを振るう雪華と、銃弾のラリーの続きとでも言わんばかりに流れるようマギスフィアを投げ渡す初、二人からそれぞれ葵と純までパスが回ることで次からは本命の各レギオンとなるが、まだまだヒュージは押し寄せるのだから先程のように先を行く2レギオンが見えるまではしばらくこのメンバーでなんとかしなければならないようだ。
「おっと、結構ハードだなぁ!」
「この程度いつものことですわ。鎌倉のお二方も、遅れても手助けはしませんわよ」
それはつまり「ついて来い」ということで、葵と雪華の実力を買っているのだろうとは純の厳しくとも侮ってはいない絶妙な態度から感じられるから、二人もCHARMをクルリと回して頷く。
「オーライ、強行突破はお手の物ってね。そっちこそ置いてかれても知らないよ?」
「ホント、上級生って無茶しかしないよねってうわぁ!?」
宣言通りと言うべきか即座にスラスター全開で飛び出す雪華にそろそろ自分の中の常識が嫌な音を立てだした葵だが、こうなれば毒を食らわば皿までだとトリグラフの子機側のテイザーワイヤーを雪華のバトルクロスに引っ掛け、相乗りさせて貰うことにする。
「おや、乗車賃は身体でのお支払となりますよっと!」
「じゃあ、お釣りはとっといて!」
そのままワイヤーを巻く勢いで雪華の背中に乗ってすぐアーマーを蹴って跳んだ葵が空中から弾幕を張れば、被弾し動きの鈍ったヒュージからブリューナクとグングニル・カービンによる二刀流で仕留めつつ、シールドから自身もバルカンでの弾幕を張る雪華。
「てかそれどういう仕組みなの?」
「さあ、使えるから使ってるだけ!」
思考制御により自在に動くサブアームを見ての疑問には
「そろそろ合流予定地点ですわ」
初の言葉に辺りを見渡せば、高架下の近くに集まるヘルヴォルと周囲の建物の上に散らばりヒュージへ対応しているグラン・エプレとが見えるので、それぞれ担当の方へ。
「お待たせしました、千香瑠様!」
「そこの一年生、
葵から千香瑠、純から姫歌へ、掛ける言葉の方向性こそ違えど確かにマギスフィアは託され、これで一応の仕事は終わり……とは行かずまだまだヒュージは山程いるのだから、後方の幸恵たちも合流して交戦中の面々へ二人も加勢する。
◆◆◆
そうしてマギスフィアが本命の2レギオンに渡った後、飛び込んできた純の方から聞こえるのは不意に溢れたのだろう笑い声。
「ふふっ」
「ん、どしたの?」
「いいえ。新潟にしても今回の遠征にしても、わたくしたちロネスネス以外にもこれだけ戦えるリリィがいるのでしたら、それは喜ばしいことなのでしょうと」
よく分からないけど、私や他のリリィのことを認めてくれたってことでいいのだろうか? 言い方が若干遠回しで素直になりきれないのは、彼女の生まれつきの性分としても。
「その心は?」
「『キヴァタテオ』もファーヴニルも、そして今回のギガント級も、全てが滅びるべくして滅びるということですわ!」
最初の名前は確か新潟遠征で御台場組が2レギオンの総出で当たったという、噂の進化したてのアルトラ級だっけか。
まあギガント級では等級としてはひとつ下になるのだから、そこ二体と並べられると大分見劣りはする……どころか今回の個体は大きさのわりに運び屋としての役割とリフレクターに全振りなのか本体は出現場所から動かず大した攻撃も飛んで来ないし、結構な失敗作なのでは? と思わんでもない。一騎当千を木偶の坊にして有象無象を増やさせたところで、総合的な戦力は大幅なマイナスにしかならんでしょうに。
「いかんいかん、完全にゲヘナの仕業って断定して……ん?」
大分思考が逸れたなと頭を振っていると、異変は目の前で。空間がぐにゃりと曲がったと思えば、空いた穴から現れるのはふたつの巨体。
「これは……」
「ここに来て、ツガイのラージ級?」
追加のケイブと共に現れた隻腕の首なし巨人、そう形容出来る左腕と右腕のそれぞれ欠けたラージ級が二体。色も金銀揃えだしなんともまあ分かりやすく『ぼくらコンビでーす』といった風貌だ。
「あ、あのヒュージは「あー、えびな君だ!」
「え、えびな君???」
その姿に見覚えがありそうな数人の反応の内、ひとつ凄い所帯染みた名前が出てきたもんだからお隣さん
とはいえそれを言ったのが
「えーっと……藍ちゃん、あのヒュージと戦ったことあるの?」
「くんれんじょのシミュレーターでだけどねー。あのヒュージは、手からビームだしてきたり「攻撃性が非常に高く、『ヘリオスフィア』のバリアすら真正面から打ち砕く程です」おー、よく知ってるね佳世!」
藍ちゃんの話に割り込んだ佳世の顔は俯いていて私からはその表情は伺えないけど、明らかに声が震えていることから何かしらの因縁のある相手なのだろうと、まだ話の聞けそうな様子の幸恵へ話を振る。
「それって、つまり?」
「はい。4月のイースター祭の日にガーデン周辺でケイブが発生した時、あれらと同タイプのヒュージが出現していたみたいで……その時に、撃退はされたはずなのですが」
「それと、初めてこのタイプのヒュージの出現が確認されたのが『鎌倉府の海老名市付近』だというのが藍の呼び方の由来といいますか」
──海老名市ねぇ、よりによってそことそこが繋がるか。ともかく幸恵と一葉ちゃんの説明の通りだとして、こいつらがこんなタイミングで親ゲヘナガーデンであるルド女の守備範囲に再度出現した、だなんてあまりにも話が出来すぎている。
「となると、こいつもゲヘナの手の入ったヒュージか……ったく、毎度毎度形振り構わないでやんの」
これでは主任じゃないけど、考えなしにやらかし過ぎだと言いたくもなる。世のため人のためって言いながら世界を滅茶苦茶にする偽善にもなっていない支離滅裂な茶番に、人様を巻き込むなって。
「こいつ『も』って、前にも似たヒュージと遭遇したのか?」
「まあね、うちの後輩がゲヘナにちょっかい出された時に……弄った傾向は違うみたいだけど、油断は出来な」
なんて楪に語る私の言葉を「だからなんだ」とでも言いたげにカチャリと鯉口を切って遮るのは、何者かが意図的にリリィを害そうとしている状況へ見るからに不機嫌そうな純。
「例えどこの誰がどんな思惑で用意したヒュージであろうと、この船田姉妹には関係ありませんわ。ねえ姉様?」
「ええ。わたくしたちの邪魔をするのならなんであろうと斬り捨てるのみ、でしょう?」
「へぇ、珍しく意見が合うじゃんか初。叶星、一葉、グラン・エプレとヘルヴォルはノインヴェルト戦術の続きを……こいつらは私たち八人で片付けるよ、椛!」
そうフロッティの切っ先を二体のラージ級へ順に向けて宣言する楪。幸いにして、私たち混合チームと御台場組はそれぞれノインヴェルトのパス回しを終えている。
ならば今マギスフィアを抱える2レギオンさえ先に行かせれば、後顧の憂いなくこのラージ級に全力を尽くせる訳だ。
「そのつもりですわ、ゆず!」
「グラン・エプレも了解よ!」
「ヘルヴォル、承知致しました!」
「言ったからには、失敗は許しませんわよ?」
各隊長からの了承により目的は定まった。ならばと各々で散らばりながら、こちらは当面の敵への対処を椛さんが続ける。
「では銀のラージ級は我々御台場女学校の四人が受け持ちます。金のラージ級は幸恵さん、そちらのメンバーにお任せ致しますわ」
「分かったわ、椛さん。佳世、無理そうならあなたは後方から支援を」
「いえ……やります! いちかさんには気にするなと言われましたが、これはわたし自身へのケジメでもありますから!」
さっきの葵ちゃんの話でも名前の出たその子が、件のヘリオスフィア持ちさんだろうか。聞く感じからして佳世を庇ったか、暴走のフォローに入ったところで負傷した……って感じかね。
「なーんか因縁あるみたいだし、トドメはルド女の二人に譲ろっか。葵ちゃん?」
「オッケー! 幸恵様、わたしたちが援護します。思いっきりやっちゃってください!」
「勿論、言われなくてもそのつもりよ!」
駆け寄った葵ちゃんにCHARMの先と先をカチンと合わせて応えると、幸恵は一度目を瞑って深く息を吸い、宣誓の先陣を切る。
「……それではこれより、金銀二体のラージ級撃滅」
「及びそれと平行しての」
「ヘルヴォル!」
「グラン・エプレ!」
「「二隊同時ノインヴェルト戦術、再開!!」」
幸恵と椛さんに続くトップレギオン二隊長の号令、それに従いラージ級二体を避けるようにギガント級へ向け進軍を再開するヘルヴォルとグラン・エプレ。反対にラージ級と相対する形になるのは、私たち残るメンバー──下北沢での夜は、長くなりそうだ。