アサルトリリィ~円環の赫星~   作:ですティニー

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前回のあらすじ:わちゃわちゃ下北沢とはいはいゲヘナゲヘナと特別ゲスト参戦(ヒュージ)と。
…あれ?いつになったら百合ヶ丘に帰れるんだろう(自業自得)
まあ、必要なことなのでコツコツと積み上げて行きますわ。さあ、出張編クライマックスだ!


迷いと痛みを貫いた先に(前編)

 今度は四手に別れての平行作戦。それでもこの場において私のやることは変わらない、目の前の敵に全力で当たるのみと気合いを入れて、ブリューナクを担当のラージ級へ向ける。

 

「で、ビームが凄いって言うけど、実際どれくらいのもんよ?」

 

「んー……雪華先輩と幸恵様、どっちか片方だけで受けようとしたら、防御は抜かれなくてもそのまま押し切られるくらいには威力がある。って『視えた』」

 

 何かを考えるように指を頭に当てて少ししての、葵ちゃんからの返答がそれ。『ファンタズム』の予知とはいえそこまでか、じゃあ──

 

「二人がかりなら!」

 

「どうかしら!」

 

「え、ちょっ、二人とも!?」

 

 私たちが並んで駆け出した途端、金のラージ級が掌を向けチャージ中なのだろうそのど真ん中の砲口を見せ付けてくるのだから、望むところだと幸恵のシャルルマーニュと肩越しに前へ回した私のオーバーライザー、二機のCHARMでの全力防御で以て真っ向から受けに入る。

 少なくともファンタズム継続中の葵ちゃんから驚きの声は上がっても制止はされないし、この選択にそう間違いはなさそうだ。

 

◆◆◆

 

「おーおー、向こうは真っ向勝負か。まったく幸恵らしいね!」

 

「とはいえこちらにはあちらのような防御型CHARMはありませんから、同じようにはやれませんわよ」

 

「分かってるよ椛。早速行くよ!」

 

 ビームを真っ正面から結界とフィールドで弾きながら目標に向けジリジリと前進する幸恵と雪華の様子をチラリと眺め、トントンと爪先で地面を叩きながら首にかけていたヘッドホンを頭に着けリズムを取る楪と、そっとその横に並んだ椛。幼馴染みの二人はCHARMを天地にかざし、レアスキルを発動させる。

 

─テスタメント─

─レジスタ─

 

 最大出力を出す椛の『レジスタ』をこちら側に残った八人へ『テスタメント』の拡大化で楪が届け、その分低下する自身の防御は自慢の健脚でカバー可能だと、近寄るヒュージには軽快なステップと共に流れるような斬撃をお見舞いして撃破。〈セインツの宝石〉の輝きを、有象無象のヒュージではくすませることなど叶わないとばかりに見せ付ける。

 

「はいはいはい!」

 

「ゆず、こっちですわ!」

 

 そのまま追加のケイブから現れたスモール級を二人で蹴散らしながら銀のラージ級からのビームを揃って避けた後の空白を、岬の蝶と花と(船田ツインズ)が駆けた。

 

「露払い御苦労様ですわ、セインツのおふたりさん」

 

「日も暮れて久しいのにキラキラキラと目障りな……ぶっ潰しますわよ、純?」

 

「ええ、姉様。《ルナティック」「トランサー》」

 

 一歩、二歩、三歩と飛ぶように戦場を突き進む船田姉妹の進路が重なる声と共に交差した刹那、翼のようなマギの残光を残しながら揃って更なる加速をかけると、二人は瞬く間に銀のラージ級へ肉薄し斬撃を叩き込んでいく。

 

「出たな、双子の『ルナティックトランサー』!」

 

「相変わらず流石の出力ですわね、レアスキルの共鳴現象……」

 

 それが船田姉妹が浄化系のスキル持ちを帯同させずとも、こうして全力で戦える理由。双子故の完全に一致する波長で同調し響き合うレアスキルが互いの力を増幅し、共に戦っている間は負のマギの影響をも跳ね除けられるのだから。

 

「ではゆず、周囲のヒュージは私たちで!」

 

「はいよ!」

 

 返事を返しながら背面にCHARMを回し後ろから迫っていた昆虫のようなスモール級を楪のフロッティが串刺しにしたところへ、椛が構える布都御魂の砲撃が後続のヒュージごと飲み込み、その直前に離脱した楪は椛の砲撃の隙を狙った上空の飛行型ヒュージに下から飛び付き貫く。

 

「あら、よっと!」

 

「ぶっほぉ、これが御台場女学校生徒会長と副会長、幼馴染み同士の完璧な連携……!」

 

「ほらほら、余所見してないで行くよ佳世ちゃん!」

 

 そのまま楪がヒュージを断ち切りながらクルリと着地するのを見物して興奮しているところを「ちゃん付け!?」とまさかの年下からのフレンドリー過ぎる呼び方に驚いたまま葵に引っ張られる佳世の様子は、二人きりになったからと何処か物憂げにグラン・エプレが抜けて行った先を眺める椛と、彼女に言葉を掛ける楪は知らないことである。

 

「……やっぱり、まだ気になる?」

 

「気にならない、と言えば嘘になりますわ。ですが今の私はヘオロットセインツの隊長としてここにいます……それが答えでは、ダメでしょうか?」

 

「いいや。だったらさっさと片付けて、待ってる皆の所に帰るよ!」

 

 思い浮かべるのは賑やかながらも頼もしい、レギオンメンバーの姿。そうしている間にも手は休めずにいたのだから近くの残りは一体、楪がサブスキル『インビジブルワン』のスピードも乗りに乗せた飛び蹴りを頭部に浴びせ、体勢を崩したミドル級を前後から二人で十字に斬り裂く。これでこちら側に残るは、件の片割れである銀のラージ級のみ。

 

 そのラージ級の方を見れば、纏わり付く船田姉妹を押し潰さんとその巨体に見合った豪腕を振り下ろしていたが、共鳴するままにルナティックトランサーを全力で稼働させる二人には掠りもせず、その腕は交差地点に残る再びのマギによる翼の残像のみを捉え、派手に土埃を上げるだけに留まる。

 

「ほーら、邪魔するよ!」

 

 そんな分かりやすい隙が見えたからと、楪はCHARMから吹き出す炎と共にラージ級の腕を駆け上がって肩口へブースト全開のフロッティを突き刺し、ヒュージの体表を蹴りながら抉り取るようにCHARMを引き抜き空中でクルリと回しながらシューティングモードへ移行させ──

 

「うっわぁ!?」

 

 そのまま傷口へ連続射撃をと飛び跳ねた楪の左右を船田姉妹のCHARMからの砲撃が通り過ぎて行き、彼女の代わりにヒュージの腕をもぎ取る。

 

「あーらごめんあそばせ、ちびっこ副隊長さん。小さすぎて気付けませんでしたわぁ」

 

「ごめんなさいね」

 

「おっ、おい!」

 

 空中でバランスを崩したまま瓦礫の山へ落下する羽目になった楪のヘッドホンをズリ落としながらの文句しかなさそうな怒声など聞いてもいないと、怯んだラージ級の隙を見逃さずフルンティングをクルリと回しブレードの柄に手を伸ばす純と、一応は謝りながらネイリングのコア回りに備えた()()()()を起動させる初。

 

「「せぇの──」」

 

 純が解き放つは居合斬り。彼女の最も得意とするその技を十全に活かすためフルンティングは本体から刀型のブレードを引き抜き使用する第3世代CHARMとして設計されているのだから、純の動きに一切の淀みはなく全力でマギを込め、神速の踏み込みにより最高の一撃を叩き込む。

 

 初が左手の指に着けるリングカートリッジからのマギを注がれ、起動するはB型兵装。狂戦士(ベルセルク)の名を冠するその装備はリスクの高さから禁忌とされるだけあり、使い時さえ間違えなければその威力は絶大だ。例え防御力が皆無となろうが「当たらなければ何も問題ない」と豪語する初の動きに躊躇いはない。

 

「「──せええええええ!!」」

 

 それらを双子の呼吸で完全にシンクロさせた斬撃に左右から胴体を横一文字に断ち切られ、断末魔も上げることなく果てる銀のラージ級。

 

 ──その断面を彩る蝶の羽根と桜の花弁とが見えたのは、マギの見せた夢か幻か。

 

「ったく、いいところは全部あいつらか」

 

「でもゆずも格好よかったわよ。飛び上がるところまでは」

 

「はは……これでも、あの二人も色々あって昔と比べたら少しは丸くなったんだろうけどさぁ」

 

 結局同じガーデンに通う以上、これからも事ある毎に衝突しながらもなんだかんだ戦局は打開してくれる彼女らに自分は背中を預けてしまうのだろうなと、昔からの中々切れそうにない腐れ縁には椛に手を引かれて立ち上がる楪の口から溜め息がひとつ。

 

◆◆◆

 

「ほーら射程内!」

 

「お返しよ!」

 

 その頃のこちらは金のラージ級のビームの中を二人で突っ切り、照射が途切れた瞬間に反撃のレーザーをたらふく撃ち込んでいる雪華と幸恵。

 その横を駆け抜け周囲の小型ヒュージを蹴散らすのはトリグラフを連結状態で振り回す葵と、それに手を引かれたままの佳世だ。

 

「このままいっくよーーー!」

 

「うわっと……ホント今年の一年はどこも元気です、ねぇっ!」

 

 葵が自分の手を離し突撃したのを見て、ぼやきながら佳世もまた先程彼女から受け取ったブルトガングで進行方向へ飛び込んできたスモール級ヒュージを豪快に逆手持ちで両断。そのまま着地すると指で眼鏡をクイッとズラし、揃って心のギアも上げる。

 

「こうなりゃ、手当たり次第にやってやらぁ! さっさとかかってこーい!」

 

 豹変した佳世が勢い良くCHARMを振り回す様子に、初見故に不意を突かれた感じになるのが一名。

 

「んあ? あれで彼女まだルナトラってないの?」

 

「ええ、まあ……佳世はCHARMを持つとハイになるタイプで、戦闘中どころか訓練でもよくああなっています」

 

 これまでは緊張や気後れから無意識に抑えられていたそれも、椛に発破を掛けられたのもあってこの大一番においては興奮の方が勝ったようだ。そんな佳世がレアスキル発動中か否かはマギとかの雰囲気で見分けるしかないとのことで、色々な意味でシュベスターに『ブレイブ』持ちの子がついて安泰なんだなと、不思議な納得の仕方をする雪華。

 

「ともかく、まずはあの邪魔な腕から黙らせるよ!」

 

「火力なら任せて! 特注の大口径グレネードだ、ただじゃ済まないわよ!」

 

 横に向けた右腕を支えに構えた葵のトリグラフ、その子機側の銃口より撃ち出される榴弾はラージ級の掌にある砲口に吸い込まれるように飛び込むとその内部で炸裂し、内側からその腕を半ばで粉砕する。

 

「ナイス葵ちゃん! さぁて、ここらで一気に駆逐する!」

 

 残った二の腕部分で胴体を庇うようにしているラージ級に向け横向きに回りながら跳ぶ雪華はブリューナクを振り降ろしラージ級の二の腕ど真ん中を斬り付けると、そのままブリューナクから手を離し地面へ落としつつ左右のシールド裏にグリップを展開、手元までスライドさせたそれを握り締め──

 

「ビームソードユニット・ツインドライブ! せぇやぁぁぁぁっ!!」

 

 マギの足場を出した上に立ちシールドの側面より放出するビームの嵐を剣として下からX字にラージ級の腕を切り裂き、オマケだとガラ空きになった本体へ正面に向けたシールドの先からバルカンとランチャーの一斉射撃を叩き込む。

 

「トドメ、ルド女の意地と誇りを見せてもらうよ!」

 

 そう告げなからアンカーを近くのビルの壁面とブリューナクに打ち込んで回収と離脱とを平行して行う雪華と入れ替わりに飛び込む二人が翻すのは、ここ下北沢を守る私立ルドビコ女学院が誇る精鋭の証〈テンプルレギオン〉のジャケット。

 

「ええ……行くわよ佳世!」

 

「はい、幸恵さん!」

 

(それに……行きますよシュベスター(つぐみさん)!)

 

 幸恵の後に続きながら、シュベスターと交換したおメダイにジャケットの上から触れ、一度閉じてから見開いた佳世の瞳は深紅に染まっていた。

 

─ルナティックトランサー─

 

 一度は制御の難しいこの力を封印することすら考えていた佳世だが、『ブレイブ』持ちの妹と離れていても一緒に戦っているとその繋がりを信じていられるから、彼女も今更この力を使うことに迷いはない。

 

「よっしゃぁぁぁぁぁっ!!」

 

「はあぁぁっ!」

 

 大地を踏みしめながらCHARMを掲げ(とき)の声を上げる佳世の横から、レーザーアックスを展開し投擲される幸恵のシャルルマーニュ。それがラージ級の胴体に突き刺さり怯んだ隙に、CHARMを追って飛び込んだ彼女は右手に残るフィエルボワも続けて突き刺しシャルルマーニュと共に左右へ振り抜き、最後に二刀を揃って振り下ろす。

 

「佳世っ!」

 

 『円環の御手』二人の波状攻撃によりラージ級のダメージも相当なようで、連撃の前に仰け反り膝を付いたヒュージの隙を見逃さず、幸恵は肩越しに後ろへ向け叫ぶ。

 

「くたばりやがれぇぇぇぇぇぇっ!!」

 

 着地した幸恵の影から跳び上がり、ラージ級の頭上を取った佳世はそのまま取り付くとブルトガングを突き付け至近距離で何度もトリガーを引き連射、仕上げにブレードを展開しながら飛び降りる勢いを乗せたCHARMを両手で力の限り振り下ろし、ヒュージを真っ二つに両断してその爆発に巻き込まれ──

 

「あっ……すみません、助かりました」

 

「ふふ、これくらい軽い物よ」

 

 ないようにと、佳世の前にシャルルマーニュの結界を展開した幸恵が割り込んだところへ、付近の小型ヒュージを粗方駆逐した葵と雪華とが駆け寄る。

 

「これで佳世ちゃんのリベンジも完了だね!」

 

「またちゃん付け!?」

 

「……ところで葵ちゃんや、佳世って一応二年のはずなんだけど」

 

 葵のまたしてもな勘違いに雪華がツッコミを入れると再びなんとも言えない顔になるのも、ここまでくるとお約束か。

 

「えっ。いや、なんか雰囲気的に一年の子かなぁって……あ、でもさっきルド女の皆も様付けしてたか……もう、上級生なら皆もっと上級生らしくしてよ~!」

 

「え、えぇ……さ、幸恵さん、わたしってそんなに上級生らしくないですかね?」

 

「うーん、というよりうちのガーデンっていかにもーな上級生の方が少ないような?」

 

 この際肝心なところで不器用な自覚のある自分のことは置いておくとしても、一見無口でクールな風でも結構天然な言動が多かったり、欧州帰りだからと『天の秤目』持ちな癖に距離感が全体的におかしかったり、事あるごとに情報料として他の生徒からお金を巻き上げていたり、気配を消せるサブスキルである『ステルス』持ちなのにアイドル志望だったりと、恐らく私立ルドビコ女学院にはキチンと先輩をやっているリリィより個性に振り切ったリリィの方が二年生に限らず多いのではないかと、幸恵もあまりフォローはできそうになかった。

 ……ちなみに後ろふたつは、同一人物のエピソードである。

 

「……ところで皆って、私も言われてる?」

 

「まあ、多分筆頭かと」

 

 初対面でここまで言われるかと雪華も肩を落としてはいるが、その間に向こう側のラージ級を撃破した御台場組も寄ってくるのなら、遊んでいる暇はないなと持ち直して声を掛ける。

 

「ふぅ、そっちも終わったみたいだね」

 

「皆さんもご無事みたいですわね。ですが……」

 

 この場で倒したヒュージも結局は氷山の一角、未だヒュージを吐き出し続けるギガント級を仕留めない限りこのケイブでの戦闘は終わりそうにないと、レジスタの俯瞰視野で周囲を見回す椛は警戒を解かないでいた。

 

「どうする? このまま掃討と行きたいところだけど」

 

「何名かは突入した2レギオンの支援に向かうべきでしょうね……ゆず」

 

「オッケー、任された。幸恵と葵に、雪華様を貰ってくよ」

 

 ルナティックトランサー持ち三人は先程全力でかっ飛ばしたばかりで負のマギの影響が強まるギガント級周辺に突入するのは危うく、初に至ってはB型兵装まで使ったのだからCHARMすらしばらくは使えない以上突入組から外れるのも仕方ない。その上残るメンバーで唯一のレジスタ持ちな椛も外せないとなるとこのメンバーになるのは周りも分かっているから、多少不満はあろうと今回は純も楪の意見に異論は唱えない。

 

「それは構いませんが、ここまで来て仕損じるようなら……分かっていますわよね、川村楪さん?」

 

「当然。それより、純の方こそヘマすんなよ? わざわざ救援に来といて、怪我人連れて帰るなんて締まらないんだからさ」

 

 純からの皮肉げなフルネーム呼びには楪も皮肉で返しているのだから、ここまで来るとノーガードで殴り合うような関係こそがこの二人らしいのだろうと、他校のリリィにもよく分かる。ならばそんなやり取りも温かく見守り、楪が我先にと駆け出すのに続くまでだった。

 

◆◆◆

 

「……っ!」

 

 一方再開されたノインヴェルト戦術の後半、ヘルヴォル側の一番手となる千香瑠は大型のCHARMであるゲイボルグを振るいヒュージを間合いの内側に入らせないよう立ち回ってはいるが、セオリー通りなそれも今は何処か怯えが入っているように、彼女の近くで戦っていた瑤からは見えてしまう。

 

「千香瑠?」

 

「瑤さん……」

 

「さっきの休憩明けから……ううん、ルド女の琴陽さんと話してた帰りから、様子が少しおかしいって感じてた。何があったの?」

 

 千香瑠の学内での序列がその実力に反して84位と低いのは、彼女のメンタルが不安定だからだとはエレンスゲでもよく聞こえてしまう話だが、それでも同じレギオンの仲間として戦っている内に彼女が理由なく調子を崩すようなリリィでないのは分かるし、事実下北沢に突入してから先程までの千香瑠の動きにどこも問題はなかった。であればその間にあった出来事が、彼女をこうしたのだと瑤が答えに行き着くのは早い。

 

「そうね……多分、私は恐れているんだと思うわ」

 

 そこを指摘されると、千香瑠は右手を反対の手で押さえるようにしながら、絞り出すように心の奥底にしまってあったはずの想いを告げる。

 

「いざ甲州撤退戦のことを思い出してしまうと、怖いの……真琴の時みたいに、また大切な誰かを、この戦いで亡くしてしまうんじゃないかって。前だけを見ていたいのに、どうしてもあの日から進めないの」

 

「……少し前までのわたしは、自分なんていつ死んだっていいって思ってた。ある日父さんも母さんも()も、皆一度にいなくなって、世界でひとりぼっちになっちゃったから」

 

「えっ……?」

 

 自分の話に乗ってきた瑤からの突然のカミングアウトに、千香瑠もはっと俯きかけていた顔を上げる。

 近しい誰かを亡くすだなんて、リリィにはよくあることなのかもしれない。不意にそのことを思い出した時、どうしようもない無力感に襲われてしまうのも……だとしても、そこで終わりたくないから自分は今戦場(ここ)にいるのだと言いたげに、瑤はしっかりと言葉を紡ぐ。

 

「けど、自分を捨ててでも他の誰かに同じ思いをしてほしくなくてリリィをやっていたわたしにも、いつの間にか『全てを捨てて二人で逃げ出してもいい』って言えるような相手が出来た」

 

「それは……」

 

 瑤がそこまで想う相手が誰なのか、ヘルヴォルにいる以上千香瑠に伝わらない理由はないし、それでも二人がこうして今もガーデンに、レギオンに残ってくれているのが答えでもあるのだろう。

 

「でも今はそれだけじゃない。一緒にいて楽しい仲間も、たくさん出来た……だから守るよ。千香瑠も、皆も」

 

 当然二人が話し込んでいてもヒュージは待っていてくれるはずもなく、マギスフィアを保持する千香瑠目掛けての複数のヒュージから放たれるレーザーは瑤がクリューサーオールを()にするようにして防ぐ。

 

「心配しないで。千香瑠は一人じゃない、一人になんてさせないから……!」

 

「……瑤さん、下がって。その役割は私がやるわ」

 

─ヘリオスフィア─

 

 千香瑠が発動したレアスキルにより『楯』のように現れる光の壁がヒュージの攻撃を遮断しもう少し話していられる余裕が生まれるのだから、千香瑠も自らの弱さをさらけ出してくれた瑤へ向け、俯きながらもはっきりと応える。

 

「すぐには、無理だと思う。でも一葉ちゃんが、藍ちゃんが、恋花さんが、そして瑤さんがいるヘルヴォルが今の私の居場所だから……皆となら、まだ進める……!」

 

 決意を固めるように、千香瑠がレギオンメンバーの名前を一人一人噛み締めて呼びゲイボルグをシューティングモードに構え顔を上げると、少しずらした光の壁の影から雷鳴のような砲撃が放たれ、二人の正面に陣取っていたヒュージを薙ぎ払っていく。

 

「……ふぅ」

 

「いざ身の上話をしてみたら、わたしたち結構似てたみたいだね」

 

「かも、しれません。だって、レギオンは家族みたいなものですから」

 

「……じゃあ、千香瑠はお母さん?」

 

 一旦ヒュージの攻撃に隙間が出来たからその間に落ち着いた話をしよう、というのはいいが同学年からの急な母親呼ばわりはなんというかこうくすぐったくて、千香瑠も反応に困ってしまう。

 

「た、確かに私の方が誕生日はちょっとだけ早いけど、同い年なのに……」

 

「ならわたしがお父さん。恋花が妹二人に振り回される長女で、一葉が普段はしっかりしてるようで時々抜けちゃう次女、そして藍は皆に可愛がられてる末っ子さん」

 

 先程までの真面目な空気はどこへやら、瑤の可愛い物好きな側面が顔を見せたところで聞こえるのは、少し先での連続した砲撃音。

 

「それじゃあ行きましょうか、私たちの家族のところへ」

 

「うん。行こう、わたしたちの家族と」

 

 和みはしても決して戦場にいることを忘れた訳ではない。だから顔を見合わせてから駆け出す二人は、一人ヒュージの群れに突っ込んでいた藍に合流すると彼女を間に挟むようにして並んでCHARMを構え、それに気付いた藍もぱあっと笑顔を咲かせる。

 

「千香瑠、瑤!」

 

「よーく狙って藍ちゃん、いちにのさんで同時に」

 

「うん!」

 

 元気よく返事をする藍は、千香瑠の合図を受けての斉射の後クルクルとモンドラゴンを楯のように回して突撃し辺りに残るヒュージを片付けながら、二人に振り向いて言葉を飛ばす。

 

「らんも、ヘルヴォルのみんなといるのはあったかくて、ふわふわで、あまくて、おいしい……たいやき! たいやきを食べてるときみたいに、なんだかここがぽかぽかするの!」

 

 なんとなく浮かんだ物をそのまま吐き出しているような具合で、手のひらで平らな胸の辺りをぽんぽんと叩き、藍自身それが何かまだよく分かっていなさそうな想いを精一杯に伝えてくる。

 

「……『も』って、今の話聞かれてた?」

 

「みたいね。それじゃあ藍ちゃん、明日のおやつはたいやきにしましょう」

 

 瑤と千香瑠としては先程の話は二人の間だけな秘密のつもりであったが、聞かれていたのなら仕方ない。ともかくヘルヴォルの胃袋を掴んでいる千香瑠からのお達しに「わーい!」と藍が喜びのまま振り下ろしたモンドラゴンでヒュージを粉砕すれば、今度こそ付近の群れは粗方片付けられたようだ。

 

「よし、このまま一葉たちまで繋ぐよ。千香瑠、こっちに!」

 

「ええ、お願いします!」

 

 ならば後は上げるだけだと、千香瑠からトスされるマギスフィアをクリューサーオールに受けた瑤を先頭に、ギガント級へ向け駆け出す。

 

◆◆◆

 

 同じ頃、グラン・エプレ側でノインヴェルト戦術の先頭な姫歌は、他のメンバーより少しだけ遅れている理由である純から受け取ったマギスフィアの扱いに悪戦苦闘していた。

 

「このっ、大人しく……しなさいよ……!」

 

 先程はフィニッシュショット担当だったから狙いを定める数秒程抑えていられればそれでよかったし、だからこそ堂々とレアスキルを宣言してみせる余裕だってあった。しかし今度は建物の屋上を駆けて先へ跳びながら、その道中ヒュージの相手もしつつマギスフィアを保持し続けるというのは、思っていた以上にハードである。

 

(それに『あなたは』って、わざわざプレッシャーまで掛けてこなくても……!)

 

 しかし、あの見るからに厳しい他校の先輩が念を押したくなる気持ちは分からないでもない。リリィの戦う意味、それを考えれば作戦の失敗とは決してリリィの命だけの問題では済まない……姫歌とて、立場に流されるままでなく誰かを守ることを意識して出撃したことくらいあった。

 初めてグラン・エプレの、神庭のトップレギオンとしての制服に袖を通す前、以前ボランティアとして園児たちの面倒を見た幼稚園がヒュージに襲われるかもしれないと聞かされた時は、純粋に「あの子たちの笑顔を守りたい」という気持ちが真っ先に出てきたのだから。

 

──リリィの戦いは今日が最期かもしれず、命を賭すに値するかはリリィ自身が決めるべき

 

 同時に思い出されるのは入学式の日、トップレギオンであるグラン・エプレへ任命されながら校長より伝えられた神庭女子の理念たる言葉。それを真に理解するためにどれ程の覚悟が必要なのか、姫歌自身まだよく分かっていない……アイドルに、アイドルリリィになると故郷の新潟を離れ上京して数ヶ月では、まだ微妙に浮わついた気持ちの方が強いから。

 だけどそれでも、まだ半人前の域を出ない自分にも確かに分かるのは、ガーデンもレギオンも関係なく繋がれたこのマギスフィアから伝わる想いを裏切るようなリリィに、その覚悟を決める資格など初めからないということ。

 

 ならば見るがいいヒュージども、そして見ていてください先輩方! これがアイドルリリィひめひめが神庭を飛び出し初めて立つ大舞台のクライマックス、グラン・エプレの仲間たちと紡ぐシンデレラストーリー、その第一歩。だから──

 

「ノインヴェルト戦術、見せてあげるわ!」

 

 宣誓の言葉と同時上空からの狙撃にヒュージが撃破され道が開けた一瞬、相変わらず好き勝手に戦場を飛び跳ね回っている〈エアリアル☆シューター〉を視界に捉えると、姫歌が構えるのは鍵のようなブレードモードからグランギニョル社のCHARMらしい大仰な変形により刀身を展開し双胴のバレルとしたシューティングモードへ移行した愛機『デュランダル』──名前の元となった伝説の聖剣が意味するのは「不滅の刃」。その名に相応しく、こんなところで終わってなどやるものか!

 

「このあたしがパスを渡すんだから、あんたも絶対に受け取りなさいよ、灯莉ぃ!」

 

「はいは~い♪」

 

 例え気の抜けた返事であっても灯莉の動きに一切の綻びはなく、ヒュージひしめく中でも一際目立つパステルカラーのパーカー姿は、手頃な看板を蹴り軽やかに宙を舞っていた。

 一体何をどうやったらそんなデタラメな動きを叶える空間把握がやれるのか……この春知り合ったばかりなルームメイトの底知れなさには姫歌とて普段の騒がしさへの呆れ以上に感心するばかりだが、決してそれを表には出さずジャンプの頂点へ向け引き金を引く。

 

「うん、いい感じにマギも混ざってる♪」

 

 そんな姫歌の内心を知ってか知らずか、ご機嫌な調子でマギスフィアを確保しながら愛機マルテをクルリと回した灯莉は、先端に備えた天使の輪より二対の羽根を生やしたような形のシューティングモードから反転させつつ変形させ突撃槍型のブレードモードへ切り替えると、近くの建物の壁面を蹴り地上へ向け斜めにダイブする。

 

「うりゃうりゃうりゃうりゃ~!!」

 

 灯莉がマルテを突き出して空のヒュージを何体か轢きながら突入する先は、地上から彼女を狙っていたヒュージの群れの真っ只中。しかも上空に残る数体のヒュージも灯莉を追っている以上、流石に放ってはおけないと姫歌も彼女の落着地点に飛び降りれば丁度背中合わせの形になり、二人を囲もうと近寄るヒュージを揃ってCHARMで打ち払う。

 

「ちょっと、あたしたちが失敗したら東京がどうなるか分かってるの!?」

 

「分かってるよー。けどこんなにドキドキがムクムクするマギなんて初めて……これがかなほせんぱいたちがいたガーデンの、御台場の皆の色なんだ♪」

 

 マギスフィアをぐっと押さえるようにマギを込めながらよく分からない感動をしている灯莉もまた〈異能〉の持ち主が一人で、彼女が持つのは『マギの色が視覚的に見える』というもの。

 先程リフレクターを張ろうとしたギガント級の異変に先んじて気付けたその力は個々人の纏うものに限らず、対象がマギにより受けている様々な影響などもオーラのように見えるが故に、彼女の眼は姫歌の情熱的な赤から灯莉の自由な空色へと染まっていくマギスフィアの周りに厳しくも優しい紫、柔らかくとも鋭い薄桃、夕焼けのような温かい紅、駆け抜けるような煌めく橙と、混ざり合いながらも互いに主張し続ける多くの色を映していた。

 

「またいつもの? でもなんとなく、今はあたしにも分かる気がする……叶星様や高嶺様、そして紅巴も、この御台場の空気? みたいなのを背負って生きてきたんだって」

 

「おー、分かってるじゃん定盛~。それじゃあこの熱い想い、色あせない内に届けなくちゃ☆」

 

 なんて嬉しそうに告げながら自分が四苦八苦したマギスフィアの扱いもなんのその、ステップを踏むような気軽さで駆け出す灯莉に姫歌も続かんとして、思い出したようにピタッと止まって一言。

 

「あと、ひめひめね!」

 

 そこで律儀に反応するものだから、いつまでも弄られているのだろうとは姫歌とてなんとなく自覚している。しかしアピールを止めてしまえばなんかこう負けた気になるから、アイドルに後退の二文字はないのだ。


使用楽曲コード:26876132,27440737,27440753,27440761

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