そろそろここに書くことが無くなってきたシモキタ編、多分フィニッシュ。今度こそ、今度こそ終わりだデカイだけの拡散やろー!
「でぇぁっ!」
こっちの接近に気付いたヒュージが振り向いた時にはもう遅い。と告げる代わりにシールドから展開したビームソードでその丸い胴体を一刀両断し、屋上に降り立つと同時もう一体にグングニル・カービンをブーメランでも投げるかのように投擲、角度が悪くて刺さりはしなかったけど直撃して怯んだところへ左手にソードガンを持って飛び込み、突き刺しながら右手で上から落ちてくるカービンを掴み袈裟に叩き割る。
「そろそろフィニッシュが近いよ!」
「ええ!」
そうしていると少し先のビルの上で楪と幸恵が上空や辺りの建物の壁面を登ろうとするヒュージを撃ち落としているのが見えるから、ここは二人に任せていいなと横に降りてきた葵ちゃんに目配せを。
「はいはい、どうせ突っ込むって言うんでしょ? 大体ノリは分かってきた」
「ははっ。理解ある後輩は好きだよ、私は!」
もう完全に深夜テンションでどんどんタガが外れてくるけど、こうしてアドレナリン出してかないとそろそろ寝落ちしかねないくらいなんでね。
「でも、ギガント級の前の建物大体潰されてない?」
葵ちゃんが怪訝そうに言う通りグラン・エプレやヘルヴォルが通っている左右はともかく、私たちの向かう先はギガント級自体がほとんど動かずとも拡散されるヒュージが暴れたりした結果ほとんど瓦礫の山と化しており、流石にこの上を通るのは面倒だとは言われずとも。
「だったら、今から道を作るまでよ!」
高らかに宣言しながらパチン。と指を鳴らすとシールド中央のフィールドジェネレーターが迫り上がり、同時に『聖域転換』を発動、ギガント級までの間に無数のマギによる足場を展開すれば、初見な葵ちゃんからは感心したような声が上がる。
「おぉー、天空アスレチッ「あ、あれこそ〈円環の赫星〉! 雪華様が雪華様たる由縁な擬似空戦機どぶはぁ!?」「ちょっと! あなたブリだかガブだか知りませんけど、こんなところで何を呆けてるんですの!?」……大丈夫かなぁ、あっち」
騒がしさにチラリと肩越しに後ろを見れば、そこにあったのは空中で鼻血でも出したのかなんなのか変に仰け反っている佳世に、後ろから来ていた純がぶつかったのか縺れ合いながら落ちていく光景。追い付いてきたかと思ったらまあ……元気で何よりと思うことにしよう、うん。
「ともかく、これで行けるでしょ?」
「まあ、こんなに目立つとヒュージにも気付かれるけどね」
「望むところよ。このあたしのテリトリーから生きて帰れる訳が!」
言ってる側から乗ろうとした先にギガント級の肩より飛び出したファング種のスモール級が降ってくるが、その程度のサイズなら問題ないとアンカーを打ち込んで逆に振り回し、足場へ降りながら近くを飛んでいたリッパー種のヒュージへ投げ飛ばす。
「落ちろ!」
ヒュージとヒュージがぶつかる瞬間チャージを済ませておいたブリューナクで砲撃を放っての二枚抜き、念入りにバルカンも撃っておいて爆発まで確認しながら葵ちゃんの方を見ると、足場の裏にワイヤーを打ち込んで移動してたり早くもこの戦い方に順応しているようで。流石は楓さんの親友、伊達や酔狂で世界一を勝ち取ってはいないようだ。
「叶星!」
そして、グラン・エプレ側のノインヴェルトも大詰め。高嶺がリサナウトを振るいマギスフィアを投げ飛ばした先に叶星が向かえば、高濃度のマギに惹かれ魔法球にヒュージが群がろうとするのを葵ちゃんと手数の暴力と言わんばかりの弾幕で押し留め、こちらのテリトリーに突っ込んでくる叶星とすれ違い様に軽く頷き合う。
「はあぁぁぁぁっ!!」
ギガント級を射程圏内に捉え、クラウ・ソラスの引き金が引かれればマギスフィアは阻むものもなくヒュージへ一直線に向かう。『マギリフレクター』を使うならここだろうけど──
「んあ?」
マギリフレクターを張られた、それは想定内だからまだいい。しかしそれがギガント級の左腕側面、まるで盾のように展開しそのまま腕を振ることでマギスフィアをあらぬ方向に弾き飛ばすというのは、ちょっと聞いてないぞ。
◆◆◆
「あれって……定盛、行くよ!」
「え、行くよって何処ひゃあっ!?」
不意に動き出したギガント級により、グラン・エプレと御台場組によるノインヴェルト戦術は失敗──に終わらせたくない。まだ皆の繋いだキラメキは残っているんだからと、灯莉が姫歌の手を取って雪華が雑多に展開している微妙に動く足場を上に上に跳び継いで行くと、最後に一番高い地点の足場を蹴り大きく空へ舞い上がる。
「ちょっと、少しくらい説明!」
「いいから、このまま投げて!」
何を? と聞こうにも唯一の得物なデュランダルなぞ投げても仕方がないし、前を見れば遠くにマギスフィアの光があるということはそこへ向けて自分自身を投げ飛ばせと、この型破りなルームメイトは繋いでいた手を開き掌をこちらに向けて姫歌を急かしているのだ。ならばそのリクエストには、アイドルとして全力で応えなくてはなるまい!
「もう、ちゃんと帰って来なさいよね!」
「まっかせて~☆」
とはいえ片手がCHARMで塞がっている以上片腕の力だけで成さねばならないが、姫歌とて日々訓練に明け暮れているリリィなのだ。マギが入って軽くなっているCHARMとリリィ一人程度、投げ飛ばせずしてどうして質量差的に本来敵いっこないヒュージの攻撃を押し返せようか!
「だったら気が済むまで行ってきな、さぁい!!」
パーカーをなびかせて風に乗る灯莉の差し出す右手をこちらも右手で掴み、一息に前方へ放ると姫歌はデュランダルをシューティングモードへ変形させ、彼女の背後を狙おうとした
「とっどけぇ~!!」
そうして姫歌に撃たれ吹き飛ばされたヒュージが目の前に飛んできたならと、灯莉はそれを踏み台に夜空から落ちる一等星に飛び付き、同時に地上で一人残されあたふたしている紅巴を視界に捉える。
「とっきーーー!!」
もう具体的に何かを言う暇もないと、灯莉がマルテをフルスイングしてマギスフィアを弾き飛ばす先は、キョロキョロと他に〈とっきーさん〉はいらっしゃらないかとの現実逃避に走る紅巴。
そのままやりきったような表情で逆さまに地上へ向け落ちる灯莉だが、『天の秤目』抜きでも鍛えた目はこちらに弧を描いて向かってくる
「あおいんナーイス♪」
「いや、なんでそんな落ち着いてるの?」
あだ名なのだろう気の抜ける呼び方はともかく、片手がワイヤーでぶら下がるために塞がっているのもあって左手で支えながら肩に担ぐ形になる灯莉が妙に慌ててないことに彼女もファンタズム系──サブスキルの『虹の軌跡』にでも目覚めているのだろうかとの疑問が葵の頭に浮かぶが、そんな状態でも灯莉がマルテで目につくヒュージを撃ち落とす様子に我に返ると、足場から外したワイヤーを引き戻しながらマギを込めてエネルギーブレードを形成し、進路上のヒュージを両断しながら手頃な足場の上に乗りながら灯莉を降ろす。
「は、はわわ……!」
一方急に一人になってしまったかと思えば空の向こうで灯莉の為したあまりにも無茶苦茶な展開に思考が追い付いていない紅巴だが、右へ左へ視線を動かす中で目の合った高嶺が頷いたのを見れば、覚悟を決めてシュガールのグリップを握り直し気合も満ちる。
「高嶺様……行きます!」
先程は踏み出せなかった──いや、仮に踏み出せたとしても多分「おふたりの尊い空気に土岐などの苔むしたようなリリィが割り込むなんて恐れ多い……」と遠巻きに眺めつつ二人に近寄ろうとするヒュージを刈り取るだけだったろうけれど、しかし今は対等な仲間として信じて任されたその背中を追って、スタリと信号機の上に降り立った高嶺目掛け紅巴はマギスフィアを弾く。
◆◆◆
「ちょっ、ギガント級動き出したんだけうわっ!?」
「恋花様、そこで止まってください!」
あちらの戦況の変化は地上を駆けるヘルヴォル側にも影響を及ぼし、ギガント級の巨体が腕を振ることの余波で残り少ない周囲の建物が崩れ、一葉の忠告に足を止めた恋花の眼前へ先を行く一葉とそれ以外のメンバーとの間を割くように破片が降り注ぐ。
「一葉ちゃん!?」
「っ、平気です!」
千香瑠の悲鳴に一葉も無事を伝えるよう声を張り上げ、そのまま指示を出すくらいには余裕があるのだから、崩落範囲の外にまで駆け抜けてはいるようだ。
「藍は恋花様にパスを回して、あんまり時間がないから!」
「だって。おとさないでね恋花」
「だーれに言ってんのよ?」
隊長命令を受けてポンと藍が気楽にモンドラゴンを振ってマギスフィアを放れば、ビルの崩落の影響か付近にあまりヒュージがいないのもあって何の苦労もなく恋花のブルンツヴィークに渡るが、彼女自身は目の前の瓦礫の山にどうしたものかという風にしている。
「けどさ、これどうすんの? 一息に越えるって訳にも行かないし、下手に足場にしたらマジで崩れそうだしで」
「案なら、ある。恋花は先に跳んで」
「ん、オッケー」
とはいえそこは中等部からの仲、その程度の不安は先回り済みと言わんばかりに瑤が自信満々に答えてくれるのなら、いつものように信じて任せるだけだとCHARMで地面に円を描き、先んじて跳躍。
「……ねぇ、なんでCHARM振りかぶってんの?」
「口閉じてて、舌噛むよ」
少しして地上から瑤も追ってきた、と感じて下を見れば何故か彼女はクリューサーオールをグッと野球のバットか何かのように構えており、恋花の頭の中にはどことなく嫌な予感が過ってしまう。
(あー、そういや前に一葉が色々引っ付かんできた記録の中になんか似たようなのあったよね。確か百合ヶ丘の訓練映ぞ──うわぁ!?」
思考を断ち切るようにブレードモードの腹が恋花の靴裏を叩き、そのまま彼女を瓦礫の山より高い天空へと打ち上げるのだから、重力に引かれ落下し始めた段階でブルンツヴィークをギガント級へ向かう一葉へ色々溜め込んだ物を吐き出しながら構える。
「あーもう一葉ぁ! 責任取ってあのギガント級、絶対にぶちのめしなさいよね!!」
「無論、そのつもりです!」
放たれるマギスフィアを少し跳んで受け取りながらな一葉の元気過ぎる返事から、やはり今度もメンタルへさしたるダメージはなさそうなこのにぶちんに言いたいことはまだまだあったが、本日何度目かの落下の感覚にもういいやと、恋花は下で待つ瑤の腕の中へ色々諦めた感じで落ちて行く。
◆◆◆
紅巴が弾くように飛ばしたマギスフィアは高嶺の元へしっかりと向かうのだから、後はタイミングを合わせ掬い上げるようなスイングで、ギガント級周辺に展開される足場のひとつで待つ叶星へ届けるのみ。そんな高嶺の動きには何の迷いもなく、どこか優雅さも感じさせるその雰囲気に紅巴は見とれていた。
「はふぁ~……」
「……紅巴ぁ?」
灯莉の無茶苦茶から解放された姫歌がそんな彼女の様子に気付き、目の前で手をひらひらとさせるが無反応なことから完全に魂抜けてるなと、見えるはずもない彼女のそれが天に登るのを見上げる風に佇むしかない。
『──前線の皆さん、聞こえますか?』
「あっ、はい!」
とはいえパスを回してはい終わり……と言えないのがこの乱戦。通信の向こうから椛たちの担当していた周辺のヒュージがギガント級の方へ集まりだしたと伝えられれば、紅巴も我に返り清聴する。
「……えっと、ひめかたちはここでヒュージを迎撃したんでいいんですね?」
『ええ、そちらには初さんが追い込みますのでそのまま挟撃による殲滅を』
船田姉妹でも微妙に苦手意識のある純の方は先に中央側へ回ったとのことから姫歌もホッと息をつくが、その純の発言に割り込み有無を言わさなかったのが姉の初なので彼女相手でも決して気を抜ける訳ではないと思い直すと、ヒュージの鳴き声とそれを追うように聞こえた銃声とに現実へ引き戻された。
「あまり呆けている時間はありませんわよ?」
「叶星様と高嶺様の仲を引き裂かんとするヒュージ……土岐が切って切って切りまくります!」
「いや、多分そういう意図はないと思うわよ?」
まだ微妙にテンションがおかしいままな紅巴に呆れながらも、だからこそグラン・エプレの一年生で自分だけはしっかりしておかないといけないのだと、姫歌も気を引き締める。
◆◆◆
一度フィニッシュショットが弾かれたからと、当初の予定より大回りに動きギガント級の側面を取った一葉は『レジスタ』の俯瞰視野で状況を確認しつつ、まだ無事だったビルの非常階段を登っていた。
(叶星様にマギスフィアが戻った。なら……!)
自分はその反対側から本命のフィニッシュを放つだけだと、確認のための俯瞰視野を切り、上へ上へと駆け上がることに集中する。
(よし、ここなら遮蔽物もない。ヒュージも皆さんが引き受けてくれているなら、私はただしっかり狙って撃てばいい)
屋上にたどり着けば、雪華の出す足場に囲まれたギガント級とその周りを跳び交う数人の姿が遠目に見える。一度ヒュージの腕が届く程近くを通ったのもあってマギスフィアへのマギの充填も問題なし、リフレクターもこのまま叶星側への対処に使い切るのなら、何も不安材料は──
その時一葉の頭に過るのは、自分のようで自分のものではない声と、言葉にならない感覚。
「う、ぁ……なに、がっ……?」
頭が割れるようにさえ思うそれに一葉も思わず膝から崩れ落ち頭を押さえるが、同時に時折夢に見るような所々が抜け落ちている歪な記憶まで襲ってくれば、マギスフィアを取り落とさないよう震える手でCHARMを必死に握るのが精一杯だった。
(暗闇──熱──炎──煙のにお……違う、これは……現実だ! 過去の夢なんかじゃ、ない!!」
無理をして喉から音を絞り出しながら一葉は左手で作った拳を側頭部へ力の限り叩き付けるが、物理的な痛みだけで誤魔化せないナニかは、その程度で彼女を逃がしてはくれない。
《アナタハ誰モ守レナイ》
《悪イ夢? イツマデ現実カラ目ヲ背ケルノ?》
《理想デ世界ハ変エラレナイ、分カッテナイノハ誰?》
「あ、ああああああああああああああ!?」
何かがおかしい、この自分の姿と声で囁く『誰か』の言葉はなんだ? ヒュージの攻撃? ゲヘナの仕掛けた罠? それともこの身体の──
「私……私、は……」
何も分からない、何も見えない。目は開けているはずなのに、光がどこにも……
「恋花様……瑤様……千香瑠、様……!)
救いを求めるように仲間の名前を呼ぼうとするが、それらを実際に言葉として出せているかも分からず、一葉はそうしないといけない理由すら見失いそうになりながらもマギスフィアを守るためCHARMを抱くように背中を丸め縮こまり、最後に一人残った名前を叫ぶ。
「……らーーーん!!」
「ち・へ・どーーー!!」
なんかよく分からない雄叫びが呼び声に応えるように聞こえたと思えば、謎の幻覚が消え身体の自由も戻った。そう理解して一葉が振り向けばそこでは『ルナティックトランサー』発動状態の藍が、悪魔のような上手く形容出来ない形状だがこんなところにいる以上はヒュージなのだろう怪物をモンドラゴンで屋上の柵がへこむ勢いで吹き飛ばしていた。
「かずは、だいじょうぶ?」
「あんまり大丈夫じゃなかったけど、藍のおかげで助かったよ」
恐らくこの不調の元凶だったのだろう、不明ヒュージを叩いた反動で側まで跳んでくる藍の背に庇われながら一葉がマギスフィアは無事だろうかと確める間に、今度はギガント級のいる方向から空を駆ける
「なんだか知らないけど、邪魔者は瞬殺させてもらおうか!」
その下手人たる雪華はいつものブリューナクとライザーのツインバスターキャノンに加えてシールドのバルカンとランチャー、更にはどういう訳か右手に持つ三機目、グングニル・カービンまで合わせた文句無しの一斉射撃でヒュージの半身を消し炭にしながら、両手のCHARMを腰アーマーにマウントしライザー側は連結させたままレーザーブレードとビームソードを同時起動、屋上へ舞い降りながら光の刃を十字に振るい残るヒュージの胴体を四等分すれば、砕けた柵と共に落ちるヒュージの残骸へ分離させたソードガンとシールドからレーザーと散弾を連射し、確実にトドメを刺す。
◆◆◆
「……てか、勢いでやっちゃったけどなんだったのこいつ?」
「わかんなーい」
ここに来て性懲りもなく追加の特型など、と思わんでもないけど今度は藍ちゃんにも見覚えはないようで、私への返事をついでにしながら一葉ちゃんへ駆け寄っていた。
「かずはー、立てる?」
「うん、もう平気だから……藍は千香瑠様たちを手伝っておいで」
「ん。むりしないでね」
しかし藍ちゃんに手を引かれてなんとか立ち上がれた、くらいの有り様では無理をしているのは見え見え。だけど藍ちゃんもヒュージの姿や自分を呼ぶ声に駆け付けただけらしく、下を見れば椛さんたちとヘルヴォルとで挟撃する形になるヒュージはまだ残っているのだからと、素直に頷けば屋上の端から最後にチラリとだけ一葉ちゃんに振り向いて地上へ向け飛び降りる。
ともかく、私も私でこうして嫌な感覚を追ってすっ飛んで来たはいいけどすぐ向こうに戻るのも違う気がして、こういう場面ではガーデンの違う私みたいな相手の方が話しやすいこともあるかと一葉ちゃんへ話を促す。
「で、あのヒュージに何されたの?」
「よく、分かりません……ですが、恐らく〈日の出の惨劇〉絡みだとは」
「日の出町ねぇ」
数年前、かの町において発生した戦闘において想定外なヒュージの侵攻を前にした当時のエレンスゲ序列1位率いるヘルヴォルがやらかして、無駄に被害が拡大した──という噂程度の知識しかないけど、わざわざそんな事を言うからには、一葉ちゃんも何かしら関係のある立場ではあるんだろう。
「んー、となるとそこからゲヘナの仕込みかぁ。やっぱ物理的に潰した方が世のため人のためなんじゃないの、連中?」
「……それは、あまり否定出来ませんね」
こうして何かしらの手段で弄ばれている以上ゲヘナを庇う理由もないようで、なんとも言えない苦笑いを返した後、一葉ちゃんは一度口を閉じてから意を決した感じで続きを告げてくる。
「…………時々、自分で自分が分からなくなる時があるんです。何故誰のものかも分からない記憶を夢に見るのか、何故こうも学園のやり方に逆らう私が序列1位でい続けられるのか、何故不意に頭が痛むのか……その答えが、全てゲヘナの仕業だとすれば楽なのでしょうけれど」
「実際そうなんじゃないの? 一度どころかそんなに疑えてしまったんなら」
正直私にそういう話をされると、ゲヘナは殺せ。以外の答えは出せない、散々人を弄ぶ姿を見せられている以上、相手がゲヘナというだけで今更何を言おうが何をしようが、ただ消すのみ以外の感情も湧かないから。
「ま、例えそうだったとしても、少なくとも私にとっての一葉ちゃんは戦場で知り合った一人のリリィだよ。今のところはね」
「……ありがとう、ございます?」
まあ、どうでもいいと言いきれるのは私が部外者だからだろうし、疑問符で返されるのも仕方ない。
◆◆◆
高嶺からのパスを受け取ると、クラウ・ソラス越しに再度マギスフィアの重さを感じながら叶星は思考を走らせる……先程はシューティングモードでのフィニッシュだったから、リフレクターを纏わせたギガント級の腕に虫でも払うかのように弾かれてしまった。
ならば次に狙うべきはCHARMをブレードモードのまま、保持するマギスフィアごと対象に叩き付けるダイレクトフィニッシュ──当然至近距離で臨界状態のマギスフィアを叩き込む以上離脱のタイミングを誤れば自身も巻き込まれる危険性の高い戦法だが、今更そんなことは承知の上。
「叶星」
「……高嶺ちゃん?」
そう覚悟を決め飛び出そうとした叶星がクラウ・ソラスのグリップを固く握りしめているところへ、名前を呼ぶ声と共にそっと手が添えられる。横を見れば産まれてからずっと見てきた姿が当たり前のこととして隣にいてくれたから、そのことを強く確めながら心の内を吐露する。
「戦場に立つのも、他人の命を背負うこともまだ怖い……多分それは今更変えられないけど、それでも他のところから少しずつ変わって行けばいいと思うの」
戦うことによる痛みを、怖さを知るから、それが誰かにもたらす悲しみもはっきりと分かる。どんなに苦しい現実にも立ち向かえるその強さを、その原動力になる温かい想いをくれるのは今も隣で微笑んで自分を見守ってくれる高嶺と、そして──
「皆といると勇気が湧いてくる……だから私はもう、逃げない」
レジスタに頼らず自らの目で後ろを守ってくれている後輩たちや友人たちの姿を目に焼き付けてから、CHARMの切っ先をギガント級へしっかりと向けて、高嶺と顔を見合わせて頷く。
「行こう、高嶺ちゃん」
「ええ。あなたとなら、何処までも」
戦うことは怖いけど、どうしても守りたいものがある──自分という運命を切り拓く力は、皆が届けてくれた。後はもう、恐れずに踏み出すだけ。
『……叶星様、こちらは準備が整いました!』
「了解、今度は弾かせないわ!」
そこで通信の向こうから一葉の声が聞こえれば、遠目に彼女が抱えるマギスフィアの輝きを確めながら高嶺と二人足場を蹴って跳んだ。
「「はぁああああああっ!!」」
状況はギガント級の反応を含め先程の繰り返しのようで、今度はマギスフィアをマギリフレクターとクラウ・ソラスとで挟み合うような形になり、拮抗状態という明確な違いが出る。
いっそこのまま高嶺の出してくれたマギの足場の上でリフレクターの限界まで付き合っても構わないが、片手を自分の手に添えてくれたまま反対の手にリサナウトを構える彼女を見れば、叶星も一層手に力を込めタイミングを見計らう。
「…………っ!」
僅かばかりの間、しかし当事者の二人としては随分と長く感じる程ギガント級と競り合っていると、不意にギガント級の巨体が揺らいだ。その理由はヒュージの全身へ周囲からの射撃と砲撃、時折斬撃がひっきりなしに叩き込まれているから。
叶星が少し俯瞰視野を向ければどうやら親玉であるギガント級以外のヒュージは粗方駆逐されつつあるようで、手の空いた者から順次ギガント級へ攻撃を仕掛けてくれているようだ。
「高嶺ちゃん!」
ならばと呼び掛ければ返事は首肯と共にクラウ・ソラスの上を滑るように振るわれるCHARM、同時に足場を蹴って二人が離脱する間にもリサナウトに弾かれたマギスフィアはギガント級の左肩へと真っ直ぐ向かうので、着弾の直前二人で握ったままなクラウ・ソラスのトリガーを引き、魔法球を撃ち抜いて先程の雪華のように起爆させた。
マギリフレクターは今ギガント級の肘から先を覆っているが、集中させている分より強固になり真正面からは破れなくとも範囲が狭まっていることから守れる部位も限られるため、二の腕より上はほぼノーガード──それ故広げられる前に爆ぜた今度のノインヴェルトは巣のような物が生えていたヒュージの左肩を消し飛ばし、地響きと共に落ちた左腕が泣き別れした痛みにギガント級の体を震わせる結果となる。
「……よし!」
「油断なさらず、ギガント級はまだ生きていますわ!」
初から警告の声が飛ぶように、ここに来てようやく叶星たちを驚異と認識したギガント級は残る右腕を未だ空中の二人へ向け、指先から肘までが裂けることで大量の触手へと姿を変えたそれを伸ばしてくる。
「ちょ、そういうのってアリなの!?」
「定盛、驚くより先に撃って!」
「フィニッシュショットの後で消耗していては、一本でも致命傷になりかねません!」
そうはさせまいとグラン・エプレの一年生がそれぞれ率先して二人を援護すべくCHARMによる射撃を送るが、何本か撃ち落としたところで元の数が多すぎてフィニッシュショットに巻き込まれないようある程度の距離を保っていたのもあって他のメンバーが続いても、多少の撃ち漏らしが出てしまう。
「っ……」
「高嶺ちゃん!?」
しかも叶星をお姫様のように抱き抱える高嶺も限界が近いのか触手を数本リサナウトで切り払った段階で冷や汗を垂らしているのだから、あまり余裕は無さそうだ。
「椛、事後承諾でよろしくて?」
「純さん……ええ、全力でお願い致しますわ」
そんな中フルンティングの本体へ突き刺すようにブレードを納め、バレルや各部を長距離砲撃用のランチャーモードに展開させながらな純の提案に、椛は御台場女学校の生徒会長として頷く。
船田純専用に開発されたユニークCHARMであるフルンティング、同機に搭載された高出力砲の最大出力は余りの威力の高さから教導官クラスの許可がないと使用が許されていない──だからこそ今は緊急時故に生徒側の最大権力者、御台場女学校生徒会長月岡椛の承認を以て済ませると、放たれた光が巨影を撃つ。
「やったの!?」
「れんか、それふらぐー」
端から見ても手応えを感じる程多数の触手を消し飛ばしながらフルンティングによる砲撃はギガント級の脇腹に力強く直撃したが、ギガント級としても随分と大きいこの個体がその程度で倒れてくれるならこんな夜中まで戦い続けている訳もなく、爆炎の向こうから生き残りの触手が一本、ようやく地上へ降りれるかどうかといった直前の高嶺と叶星へ向かい──二人の眼前で
「……やってみれば出来るもんだね、こういうの」
自分でも微妙に信じられない様子な雪華の取った手段とは、聖域転換のバリアをいつもの擬似空戦用の足場感覚で遠隔設置する際わざと『触手と座標を被せるように』何枚も配置するというもので、本来は突き破られても勢いさえ削げればなんとかなるだろうと思えば存外上手く行ってしまったと、その制御のイメージを強めるため指を曲げ前に向けていた左手を捻りながら閉じれば、交互に反対方向へ回転を始めるバリアたちに捻じ切られた触手は千切れ崩壊していく。
「うわ、えっぐ……」
「けどこれであいつの触手もなくなった、最後まで気合い入れていくよ!」
思い付きでなんてことをやるのかと葵がドン引きしていると、気を抜くにはまだ早いと楪がフロッティの引き金を引きながら渇を入れる。例え両腕を失おうとギガント級の巨体ならばたった一歩踏み出すだけで、その純粋な質量を武器と振るえるのだから。
「なら、ここに釘付けにしてやんないとね──《フェイズトランセンデンス》!」
「一斉砲撃、てぇーっ!!」
ここで最後なら出し惜しみも必要ない、そう恋花がレアスキルを発動しギガント級の頭部へ極太の砲撃を叩き込めば、雪華を初め純、瑤や千香瑠などの高出力砲持ちもそれに続き、大分消耗したはずのヒュージに息つく暇を与えない。
「…………!」
その間にビルから飛び降りブルトガングの銃口の先へ魔法球を携えながら、空中でギガント級へ狙いを合わせる一葉は、少しの思考を巡らせる。
──ゲヘナとは人類を守るために日夜研究を続けている組織らしいが、彼らの語る『人類』とは所詮、ゲヘナへ所属するか掲げる建前を盲信する者たちのことしか指していない。
こうして幾度となく実験の名目で街を焼き、そこで生きる人々の明日を奪い続けた上に、嘘偽りで塗り固められた安寧を築くのがゲヘナの言う平和なら……
(こんなものの……平和のために誰かが犠牲になる……)
明らかに通常の種とは異なる姿、大きさ、行動、加えて何度も現れる系統もバラバラな特型ヒュージ、その全てがこの戦場自体がゲヘナによるものと表している……ならばこの一撃はただのフィニッシュショットではなく、世界へ撃ち込む叛逆の証。
「そんな世界は、私たちが変えてみせる!」
引き金を引いた一葉一人でも、ヘルヴォルの五人だけでもなく、この場にいる二十名に満たないリリィでもまだ足りない。真の敵を見出だしたのなら、それぞれのガーデン、それぞれの戦場でこの事実を伝えていく……つまり、この戦いなど通過点にしか過ぎない。
だから、砲撃に顔面を焼かれ足止めされているところへ魔法球の爆発により上半身を吹き飛ばされ遂に倒れるギガント級の姿は終わりではなく、本当の戦いの始まりを告げているのだった。