アサルトリリィ~円環の赫星~   作:ですティニー

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前回のあらすじ:チラリ顔見せだから何人か名乗れてない面々と姉妹揃っての悪巧みと最後にフキコンビ。
ということで10話ぶりくらいの百合ヶ丘、もう懐かしさすら覚える面子とまた歩んで行きましょうか。ようやくアニメでいう話数も進むよ!


季節外れの転入生と制御不能の足音って話

「ん……朝……じゃない、か」

 

 感じた振動に目を覚ませば、向かい側の席で葵ちゃんも同じように寝惚け眼を擦っていたから、姉さんのガンシップを強奪(レンタル)して帰っている途中だったかと思い出す。

 

「……あ、そっか東京の帰り」

 

「だね……で、ここ相模です?」

 

 返事ついでに操縦席の方に聞いてみれば、答えはハッチが開かれること。ならと葵ちゃんがベルトを外して降りる前に、餞別代わりに手元のお土産の中から自分用に買っていた分のひとつをポイと放る。

 

「ととっ、ありがと」

 

「ま、知り合いと分けるかはお好きに?」

 

 渡したのは最中(もなか)だし、多分苦手な子は……どうだろ、まあそういう場合は食べれる子にだけ分ければいいか。

 

「じゃ、先輩もおやすみー」

 

 そのまま手を振って葵ちゃんが降りて行けば、その先には彼女の帰りを待っていたのか色違いな赤い制服のリリィ。多分レギオンの先輩か何かだろうかと眺めていると、私の渡した最中を箱ごと奪おうとして葵ちゃんに腕でガードされていた。いや、こんな夜中まで待っててやることがお土産待ち?

 

「ま、なんにせよこっちも賑やかそうで」

 

 とりあえずハッチも閉じたし、百合ヶ丘までもう一眠り──そこで夢に見たのは、数日前の記憶。

 

◇◇◇

 

 夢結のダインスレイフを取り戻した戦闘の後、私と梅とで夢結に肩を貸しながら2レギオンで学院への帰路に就く中、不意に思ったことをそのまま口にする。

 

「にしても、まーたこないだと同じ形になってるね?」

 

「そう、ですね。お手数をお掛けします」

 

「ハハ、夢結はいい加減誰かに甘えるってことを覚えた方がいいゾー?」

 

 梅に茶化される通り、生前の美鈴との擬似姉妹関係もひたすらあいつがシルトにぞっこんで、夢結の側は基本的に受け身というか姉にされるがままって感じだったのだから、夢結としては自分から相手の間合いへどこまで踏み込んでいいかの加減がまだ分かっていない、というのもあるのかどうか。

 

「……努力は、してみるわ」

 

 指摘されずとも流石に自覚があるのか、梅の言葉に頬を赤くしながらこっちに顔を逸らす夢結。その結果顔と顔とが至近距離になるのを役得と言うにはまあ、私から見た夢結は結局他人(美鈴)のシルトで他人(梨璃ちゃん)のシュッツエンゲルであるという認識が強すぎてなんとも。流石に横恋慕さんにはなれんよ。

 

「…………」

 

「梨璃ー!」

 

 なんてしばらく話題もなく沈黙が続いていると、学院の正門が見えたところでそちらから走ってくるのは二本のおさげを肩を通して垂らす、百合ヶ丘の制服を着た薄紫髪の少女。

 

「あ、結梨ちゃん!」

 

「えっ、それって……?」

 

 記憶がない。と聞いていた彼女へいつの間に名付けたのか、梨璃ちゃんが名前を呼びながら返せばその単語に覚えしかない二水ちゃんはハッとするのだから、梨璃ちゃんも少し申し訳なさそうに彼女の方を向く。

 

「あ、えーっと……ごめん、勝手に使っちゃった」

 

「い、いえ、それはいいんですけど……」

 

 確かにあのカップルネーム(結梨様)は二水ちゃんがリリィ新聞で言い出したことと言えばそうなんだけども、それを拾った子に付けるのはどういう心境なのやら。なんて足を止めていると、とことこと近寄ってきていた結梨ちゃんは勢いよく梨璃ちゃんの胸に飛び込む。

 

「わっ!?」

 

「えへへ……じゃなかった。えーと、お帰り、なさい?」

 

「……うん、ただいま!」

 

 まあ、何はともあれ結梨ちゃんは梨璃ちゃんをお出迎えするためにやって来たのは伝わるから、彼女の後ろから追って来たのだろう祀さんの表情も、そこまで怒ってはいなかった。

 

「……ふーん、噂の子にカップルネームを。また面白いことになりそうね」

 

「弥宙、なんか悪い顔してる」

 

 とはいえ私たちはヒュージと戦ったばかりなのだからこのまま立ち往生とも行かない訳で、アールヴヘイム側から茶化されそうな雰囲気を感じると一応、一応は最上級生らしいことをしようか。

 

「えー、結梨ちゃん。と呼ばせて貰うけど、私たちこれから戦闘後の検査が……って、あれ?」

 

 よくよく考えれば、今結梨ちゃんは戦闘終わりの梨璃ちゃんに思いっきり抱き付いちゃってる訳で……と追い付いた祀さんに視線を向ければ、諦めたように首を横に振られるのが答え。

 

「まあ、このまま結梨さんも検査に連れていく他ないでしょうね」

 

「だよねぇ」

 

 状況的に仕方ないとはいえ、私たちがそういう雰囲気で話していると梨璃ちゃんも責任を感じたのか、申し訳なさそうに混ざってくる。

 

「あ、えっと……ごめんなさい? 今日って結梨ちゃん入寮の準備、でしたよね」

 

「そうね。でも後で私から必要なことは伝えておくから、今は検査にいってらっしゃい」

 

 どの道結梨ちゃんもリリィとして百合ヶ丘に通う以上、こういったことにも早く慣れて貰った方がいいという判断ではあるんだろう。なんて梨璃ちゃんに微笑み掛ける祀さんの様子に納得していると、肩から微妙な振動が伝わる。

 

「……夢結?」

 

「いえ、なんでもありません」

 

「いやでも」

 

「なんでもないのよ、梅」

 

 ……そこまで語気強めて言うのは何かありますよ。という回答に他ならないんだけど、突っついて火傷するのもあれだし今は梅と夢結越しに目を合わせて、やれやれという顔をお互いしておこう。

 

「あ、でも検査受けるんなら名前登録しとかないといけないような? 名無しの権兵衛でも困るし」

 

「ならそのまま〈結梨様〉の字でいいじゃろう。ほれ二水」

 

 なんて私の気付いたそれにミリアムちゃんがそのまま二水ちゃんへ促せば、取り出されたタブレットに臨時メンバーとしての登録申請画面が開かれる。

 

「それで、名字はどうしましょう?」

 

「では、梨璃さんのお子さんのような物なのですから、そのまま一柳と」

 

「……まだ、そのネタ引っ張るんだ?」

 

 なんて神琳さんの冗談なのか本気なのかイマイチ分からん発言の真意はともかく、それを受けた楓さんはピシッと固まったと思えば頭を抱えて「キセイジジツキセイジジツ……」と脳破壊(フリーズ)しているのだから、まあこうかはばつぐんだったようで。

 

「んー、一柳隊の預かりになるんならそれでいいんじゃない?」

 

「ソラ、あんた他人事だからって適当に言ってない?」

 

「でも他になんか案あるのか? なら手っ取り早い方がいいゾ」

 

 そのまま梅やアールヴヘイムの面々まで混ざってきて二水ちゃんが揉みくちゃにされたけど、結局他の候補もなくあっさりと通ったことだけはここに残しておく。ちなみに梅が離れたせいか、余計夢結から伝わる振動は強くなっていたとも。

 

◇◇◇

 

「あーーー、うーーー……」

 

 などと少し騒がしい名前公開になった先日のことを思い出しながら、梨璃は今教室の席でソワソワと壁の時計を眺めていた。

 

「…………?」

 

「まあ、落ち着けない理由は分かるけれど」

 

「だからって梨璃さんが気にしても仕方のないことでしょう」

 

 それを樟美が不思議そうに眺めているとクラス委員の壱や、寮の部屋で朝から制服を前後逆に着たりと明らかに落ち着きのない様子だった梨璃を同室相手として見ていた閑は彼女の不安も理解はするが、決まった以上どうにもならないだろうと傍観気味。

 

「大体、今日になっていきなりわたしの横の席が空いてるのが答えでしょ」

 

「あの方のことも、校内では最早ほとんど公然の秘密ですものねぇ」

 

 鶴紗のぼやきに乗る楓の言い回しは、何かを秘密にしていることが周りにバレているという方向での言い方。

 

「今日までは『リリィ新聞にも載せるな』とは言われてますけど、ここまで来ると今更大々的に取り上げるまでもないと言いますか」

 

「それに寮の方は好きに行き来していたみたいですから、既に顔見知りな方も多いかと」

 

 加えてメモを取り出して零す二水を横目に神琳が参考書を閉じながら告げるように、一柳隊のメンバーも大方の事情は察している感じとなれば、期末試験明けの月頭でただでさえ浮かれている他のクラスメイトにも今日学生として人生で一度は遭遇してみたいとある『イベント』があるようだとは、何を言われずとも伝わる。

 

「そういえば、月明けだって聞いたような……」

 

 そんな中汐里がボソリと呟いてみせれば、耳聡い楓が思い出したかのように乗ってきた。

 

「確か汐里さんの後見人は、担任の吉阪先生でしたか」

 

「はい、なので少しフライングして今日のことも聞いて……あ、今の内緒にしててくださいね?」

 

 悪戯っぽくウインクしながら口の前に人差し指を立ててみせる彼女に言われずとも、自分に対し(主に自業自得で)厳しい汐里の保護者代わりの担任へわざわざ告げ口をするような理由は楓にはないし、他の生徒もガヤガヤと騒いでいるのだから聞こえたのも自分だけだろうとぼんやり前を向くと、朝のホームルームを告げるチャイムが鳴り、立っていた面々も各々自分の席に戻り教室内の喧騒も次第に収まっていく。

 

「あ、あばばばば……」

 

 ──その一方で梨璃のメンタルは自分に向けてではないにせよ周囲の高まり続ける期待の前に限界を迎えているようだったが、幸いというべきかこれ以上の精神的負荷が掛かる前に教室のドアが開き、吉阪が入ってくると壱の号令に挨拶を済ませれば、早速話は切り出される。

 

「さてと、今日はホームルームの前にひとつ話が……って、この様子だと皆分かってそうね」

 

 ドアが開いた途端なんとか持ち直した梨璃に限らず「私たちは平静を装っています」という格好だけなのがクラスのほとんで、隠し切れない期待の眼差しを向けられているとなれば前置きも不要かと、一度閉めたドアへ向かって吉阪は声を掛ける。

 

「じゃあ()()()()、入ってきて頂戴」

 

「………………あ、はーい!」

 

 慣れない苗字呼びに自分のことかどうか迷ったのか数拍置いて、再度ガラリと開いたドアの向こうには結梨の姿が。その様子にクラスの半数近くは「やっぱり」な感じでいるが、初見な何人かは呼ばれた名とその姿とに興味津々といった様子。

 

「それじゃあ挨拶を」

 

「えっと、一つの柳の木に夢結の『結』と梨璃の『梨』で、一柳(ひとつやなぎ)結梨(ゆり)だよ。よろしく?」

 

 などと梨璃が名乗る時によくやるような説明を自分なりにアレンジしたのはいいが、名前の元になる二人の音がどちらの字も同じだから、伝わる人にしか伝わらない言い方になってしまっているのに自分自身でさえ若干首を傾げながらも、とりあえず黒板に書いてから振り向き、ぺこりとお辞儀をして名乗りはした。

 

「謎の美少女転校生来たーーー!」

「あの子が噂の、ね……」

「……え、一柳? 結梨様? ん? んん?」

 

 その結果はワーワーと騒ぐのとどこか見定めるような感じと色々混乱しているのとで三つに分かれ、途端に教室の中が混沌の様相を極めることに──なるというのは『ファンタズム』なぞなくても分かるのだから、誰に確認をするでもなく結梨の名前が書かれた黒板前まで歩いて来た楓が、教室内を見渡しながらパンパンと手を叩く。

 

「はいはいお静かに。まずこのお名前についてですがそもそも結梨さんは我々〈一柳隊〉が発見し保護することとなったので、『便宜上』一柳の姓を名乗っていただいているだけですわ。なので梨璃さんと夢結様が()()して()()されて産まれたおふたりのお子さんだとか、そういったことは一切ありませんので、誤解なさらぬように」

 

 そんなことはいくら魔法のようなマギの力がある世の中になろうと、女の子同士なリリィとリリィの間に子供など出来る訳がないのだから言われずともクラスの誰しもが分かるが、今度は何故彼女が擬似姉妹(ゆゆりり)のカップルネームを名乗っているのかに疑問は集中する。

 

「ええ、ええ、勿論そうなりますわよね。この呼ばれ方は梨璃さんが百合ヶ丘に来たからこそ皆さんから賜った呼び名、それを同じく百合ヶ丘に来たからこそ出会えた結梨さんに……つまりは、同じようにその運命の出会いを祝福しての命名ということになりますわ!」

 

 「ますわーますわーますわー」とセルフでエコーを掛けながら左手を胸に当て右手を斜めに掲げてクラスメイトへ演説する楓はさらっと梨璃へ向けウインクしてみせるのだから、今のは渾身のアドリブだということなのだろう。実際梨璃も自分のことのはずなのに「そうなんだー」と納得しかけていたし。

 

「説明ご苦労様、ヌーベルさん。それでこっちの一柳さんの席は安藤さんの隣だから、あなたも一緒に席まで戻るように」

 

「はーい、行こう楓」

 

「あっ、ちょっと」

 

 吉阪からの指示に素直な返事を返す結梨がそのまま楓の手を引っ張れば、今回ばかりはいつも通りな担任からのそっけない扱いに文句を言う暇もないと楓が自分の席に大人しく戻れば、結梨はたどり着いた自分の席へ座る前に隣へ笑顔を向ける。

 

「よろしくね、鶴紗!」

 

「……ん。分からないことがあったら、出来る限りで教えるから」

 

 少し照れ気味ではあるが彼女の事情は分かっているから、ちゃんと言うべきことは伝える鶴紗。また、自分の周りが騒がしくなりそうだなと思いながら。

 

◆◆◆

 

「……これ、結構地味じゃない?」

 

「ま、まあそんなに派手にやって事故が起きました。なんてなったらいけませんし……」

 

 放課後、工廠科内の実験用スペースにて後輩と二人天井を見上げながら私のソードビット四基と、その少し先をまるで鳥のようにビームによる光の翼を広げ飛翔する──冬佳のために百由の用意した第4世代CHARM『ヴァンピール』の子機が空中で互いを代わる代わる追い掛ける様を眺めながらコントロールする。

 

「で、そっちのビット……ビットか? ともかくそれの操作感ってどんなもん?」

 

 CHARMにしては小柄なこっちのソードビットと比べても大分大型なそれをどう呼んだか困った感じにはなるけど、冬佳の方は一通り説明は受けているようでしっかり答えてくれる。

 

「えっと、子機のザッパーカイトは本体のシリンジからマギによる繋がりで、糸か何かで引くような感覚で操作すればいいと言われました」

 

「だから(カイト)ねぇ、こじゃれたことを」

 

「そこは、作った百由にでも?」

 

 それはそう。烏丸(うち)みたいに各自勝手に名付けて構わんよってのが珍しくて、基本的にCHARMの名前とかは作る側がカッコつけついでに色々な祈りと願いを込めて付けるもんだから。と少しズレているところに『一応聞こえてますからねー』とスピーカーから聞こえる百由の声に現実へ意識を戻すと、ビットの方へ指揮でも執るように指を振ってみる。

 

「なら、これでどうよ!」

 

 一基で背後から追い立て、その先で待ち伏せた三基で囲う……なんてのは同じように隣で見てる冬佳にも筒抜けで、囲み切る前に加速したザッパーカイトが予定された包囲地点をすり抜けて行く。

 

「むぅ。やっぱりひとつの方が動かし易い感じ?」

 

「そう、ですね……前に使ったエインヘリャルと比べれば、そこまで意識の引っ張られる感覚はないです」

 

 だとは思う。今更百由が親友に危ない橋を渡らせるなんて考えられないし、冬佳が今使っている機体と同型のCHARMも既に実戦投入されているのだから、その運用データのフィードバックで更に安定させているに違いない。

 

『はーい二人ともそこまで、ビット回収したら元の台に置いといてー』

 

 なんて考えていると、再度の百由の声に今日はここまでと告げられる。まだ行けそうだとは思うけど、慎重過ぎるくらいでいいとは今更だしヘッドセットを外すとソードビットが背中のシールドへオートで戻るのに任せながら、先にCHARMを片付けている冬佳へ相談を。

 

「とりあえずあたしはこの後ちょっと息抜きにでも行くけど、冬佳はどうする?」

 

「すみません、今日はレギオンの方で先約が……」

 

 あらら、なら仕方ない。第4世代CHARM使いの先輩としてもう少し雑談ついでにコツとか聞きたかったんだけど、そうなると今度はいつ誘おうかと考えていたら、空気が抜けるような自動ドアの空いた音に冬佳と二人して振り向く。

 

「おーい雪……あ、とーかだ」

 

「結梨ちゃん? なんで名前……って、そうかリハビリ繋がり」

 

「はい、何度か時間が同じだったので」

 

 そういえば前に梨璃ちゃんもそのこと言ってたし、夢結も説明から冬佳と気付いてたっけか。まあ、いくら百合ヶ丘が大きいガーデンだろうと学校は学校、世間と言うにはあまりにも狭いんだし誰かしらが知り合いってのもそう珍しくもない話。

 

「で、どしたの?」

 

「えっと、今日は雪華に案内やってもらってって言われたから」

 

 あー、そういや今日の当番私だっけ。案内といってもまだガーデンの施設とかよく分からないだろうと、レギオンメンバーで交代交代にコミュニケーションがてら結梨ちゃんを連れてくことになってたんだけど……

 

「ん、オッケー。それで、今まではどこを?」

 

「お昼はクラスのみんなと食堂行って、昨日はなんかの訓練所と、大浴場? だったと思う」

 

 ふーん、まあ最低限ってところだけど……なら、あそこかなぁ。とCHARMを返し終わると、隣の冬佳に少し耳打ちを。

 

「ねぇ冬佳、ごにょごにょ……」

 

「……あ、はい。確かに待ち合わせはそこですけど」

 

 よし、なら都合がいい。交流が大事だってんなら顔はなるべくレギオン外とも繋いどいた方がいいだろうし、特に冬佳のレギオンともなるとね。

 

◆◆◆

 

 ガーデンの裏山にある、木造の建築物。自然に囲まれ海を臨む位置になるのもあって中々にリラクゼーション効果も高そうなそこにあるのは──

 

「あっ、ちょい待ち結梨ちゃん。これも一応お風呂だからソックスは脱いでからね」

 

「んー?」

 

 十字に切り抜かれた板張りの床、その溝のようになっている部分を満たすのは程よい湯加減のお湯……まあつまりは足湯な訳で、好奇心のままに結梨ちゃんが突っ込もうとするのは流石に腕を掴んで止める。

 

「ふふ、大変そうですね」

 

「そう思うならお手本にでもなってくれるかなぁ?」

 

 と言ったところで手本も何も脱いだ物を畳んでおく、くらいで既にタイツをそうしている冬佳にこれ以上何をしろとって話ではある。なんて気を逸らすのも程々に、結梨ちゃんがルーズにしていたソックスをちゃんと畳んだのを見るとタオルを渡してから並んで足を浸ける。

 

「ふぅ……やっぱり百合ヶ丘っていったらこれよね」

 

「なんかぽかぽかするー」

 

「言ったでしょ? お風呂みたいなというか、物自体は同じなんだから」

 

 はしゃいで飛び込んだりしないよう注意しながら冬佳と二人左右から結梨ちゃんを挟む形にはなるけど、不思議そうに足で水面をパチャパチャとさせてもそこまではしないかと一息付いているところで、渡り廊下に人影が──それは冬佳と同じ、半袖になっていたり右肩にレギオンの紋章を付けていたりと標準制服がベースながらに多少上着をカスタムした、レギオン制服姿な二人。

 

「あれ、とーかその二人どうしたの?」

 

「雪華様……それに隣は、例の転入生?」

 

 確認するように聞いてくる片方はいつぞやの訓練ぶりな日羽梨だけど、その隣から横にした手を額に付けキラキラとした瞳でこちらを覗いてくるのは、角度から猫耳のようにも見える赤くてデカイリボンをしたライトブラウンのポニーテール……まあ、冬佳が百由以外で放課後一緒にリフレッシュしようってなる相手となると、しばらく寝込んでたのもあって大分絞り込めるけど。

 

「あっ、貞花(みさか)。実は第4世代CHARMのテスト終わりに、雪華様に目的地が同じなら一緒に行こうって誘われて」

 

「ちょっとせんぱーい、人のツレを口説こうだなんて中々いい趣味してるじゃないですかー?」

 

「いやいや、単にレギオンメンバーと待ち合わせしてるって言うからご挨拶がてら、ね」

 

 なんて立場な彼女からしたらまあ色々勘繰りはするんだろうけど、生憎こちとらノーマル……なんてのはもう飽きるくらい言ってきているつもりなのに、少しも共有される気配がないのは絶対面白がってる誰かしらの仕業なんだろうけど。ともかく二人も私たちの向かい側、貞花が冬佳の前に、日羽梨が結梨ちゃんの前に座りながら足を浸けている。

 

「ふはぁー、生き返るなぁ」

 

 で、日羽梨はともかく彼女──近藤(こんどう)貞花(みさか)、LGサングリーズル主将にして〈制御不能のレギオン〉という通り名の一番の由来とされる〈制御不能のリリィ〉。デュエル世代からも一目置かれるその実力に反し、高等部二年生にしてレアスキル未覚醒……なんて去年の自分と少し重ねてしまうところのある子として、気になっていたリリィが彼女だ。

 

 そんな貞花は天葉や当時百合ヶ丘に住み込んでいた縁で付いていってた麻嶺、椛さんたち、そして冬佳とも同じ第2部隊として参加した御台場迎撃戦の最中、戦闘に巻き込まれた御台場女学校の中等科生たちや彼女たちが守っていた民間人の逃げる時間を稼ぐため、単身ギガント級率いるヒュージの群れへ突っ込んだ──なんてとんでもない逸話があり、当然ヒュージに囲まれ絶体絶命の危機に陥ったものの、突如不思議な力を発揮しなんとか増援の到着まで20分以上一人で持ちこたえたとかなんとか。

 

 その時の力が既存のレアスキルに分類されない何かってなると扱いとしては異能持ちと言えなくもないけど、日羽梨の『Zのサブスキルのような何か』同様本人も自由に使えず、効果の方も「なんかすごかった」とよく分かってないみたいだしでなんとも。

 となると至極単純なマギによるオーバーブースト的なやつかもしれないし、普段から使えないのはギガント級の周辺以上のマギ濃度、あるいは命の危機でもないと発動しない火事場の馬鹿力的なのとか? 迎撃戦のボス的存在である〈巣なしのアルトラ級〉との決戦時にもそれと思しき力を発揮したって聞くし、どっちとも取れるけど。

 

 まあ、そういうよく分からんまま放置されてるのなら、私の()()()()()()()()()()()()も同じなんだけども。一昨年辺りから言われている、詳細不明だけどとりあえず何かしら4つ目のサブスキルに覚醒しているかもしれない程度の情報しかない、謎のそれ。

 

「で、その子が噂の?」

 

「ま、どの噂かはともかく」

 

「うちの一年生、貞花や冬佳のシルトだったりほとんど椿組なんで、グループチャットで色々と情報が来たんですよ」

 

 なんて色々脱線していると、貞花がこっち……というより結梨ちゃんを見ながら聞いてくれば、補足するような日羽梨の言う内容も前に梨璃ちゃんがそんなこと言ってたような気がする。と首肯を返すが当の結梨ちゃん本人はなんのことかと首を傾げている。

 

「んー?」

 

「いやー、とーかが珍しくレギオン外の子を気にしてるからね。そんなのあたしも気になっちゃう訳で」

 

「とーかの、知り合いなの?」

 

「うんうん、知り合いも知り合い。何を隠そうとーかのルームメイトとは最強のレギオン〈サングリーズル〉が主将、このあたし近藤貞花のことよ!」

 

 結梨ちゃんからの質問に答えながら自慢気に胸元をドンと叩いてみせるのだから、冬佳が初代アールヴヘイムの一員だった頃から貞花が彼女のことをいずれ自分の作るレギオンに誘うつもりだったという話は間違いなさそうだなと、少し情報をアップデート。

 

「さいきょー……一番強い、ってこと?」

 

「そう! この百合ヶ丘最強なあたしをリーダーに、世界で唯一戦闘系サブスキル7種類を制覇した〈世界最高のバランサー〉のとーか、TZの底で世界一でダブルリンカーの片割れ〈サングリーズルの魔術師〉日羽梨、他にもこのメンバーしかないってリリィをあたしが集めたまさに最強で無敵のレギオン、それがサングリーズルよ!」

 

「あ、そんなに言わなくても……それに、わたしはまだ病み上がりだし……」

 

「個性の尖り具合まで最強なもんだから、それをまとめるのも一苦労なんだけど」

 

 貞花からのべた褒めに謙遜気味に照れる冬佳と、彼女の言っていることを否定はせずとも問題がない訳でもないと弱めの毒を吐く日羽梨の両極端な反応から、まあ個性にぶっちぎったレギオンというのはこの三人を見ているだけでもよく分かるなと頷いていると、貞花の勢いから『凄く凄い』のだろうとは伝わった結梨ちゃんは拍手を送っていた。

 

「おぉー?」

 

「絶対意味分かってないでしょ」

 

「はは……」

 

 まあその通りではあるけど、なんて日羽梨の言葉に頷いていると、渡り廊下の方から何人かの足音がした後、ぴょこっと顔を覗かせるのは──

 

「あ、結梨ちゃんに雪華様! それと……ひ、ひばっ!?」

 

「うわっ、二水ちゃん?」

 

「まったく、先客くらいいて当然でしょうに」

 

 誰かと思えばいつもの三人組、しかし二水ちゃんが足湯の様子が見える位置に来た途端に固まって真後ろから梨璃ちゃんに追突されているので、最後尾を歩く楓さんは呆れ気味。

 

「ん? あー、雪華様んとこの子たち」

 

「だったら、わたしはそっちに行った方がいいかしら?」

 

「梨璃ー、こっちこっち!」

 

 貞花が振り向いたのに合わせて冬佳が彼女の隣に向かえば、空いた隣へ誘うように結梨ちゃんが手を振っているけど、一方サングリーズル組の残る一人な日羽梨は二水ちゃんの声が聞こえてから私の方にばかり視線を向けて、身体を震わせながらも決して振り向かないようにしている。

 

「おっ、お邪魔しましたーーー!」

 

「えっ、え?」

 

 そしてその理由だろう二水ちゃんも、ふと再起動したと思えばそのまま何故か梨璃ちゃんの手を取って走り去ってしまうのだから、何がなんだか。

 

「二水ー、どうしたー?」

 

「あ、ちょっとちびっこ1号!? り、梨璃さ~ん!」

 

 結梨ちゃんが至極当然な疑問を飛ばしたのにようやく思考が追い付いたのか、一拍置いて楓さんも慌てて二人を追い掛けて行ったのを見送る形になると、敢えて先の二水ちゃんには触れない感じな日羽梨のぼやきが。

 

「あんなのが〈百合ヶ丘の至宝〉ねぇ。腕前はともかく、それ以外に問題ありすぎじゃないかしら?」

 

 楓さんには悪いけど、実際その通り過ぎて一切の否定が出来ない。日羽梨は前にも楓さんが訓練中だろうと構わず梨璃ちゃんにベタベタしてたのを見てるし、常にこんなだとこれが外部入学組で最上位の姿か? と言いたくもなるだろう。

 一応、何度も顔を合わせていればその内いいところも見えてくるとフォローすべきかどうか。いやでもなぁ……

 

「んー、確かに楓ってしょっちゅうヘンな匂いになるけど、それでも梨璃や結梨には優しいよ?」

 

「ヘンなってことは、どうせ下心ありきなんでしょ」

 

 まあ、どうなんだろうねそこんところ。楓さんってば葵ちゃんと中等部時代同棲してたりと恋人のような関係だったみたいだし、かと思えば百合ヶ丘に来たのも夢結目当てとか言ってたのに入学して即梨璃ちゃんのお尻追ってるし……いや、それでも根っこはいい人なんだよ、自分でも言い訳に苦しむけど。

 

「で、それはいいけどさ、逃げてった子はどうなの?」

 

「えっ……ふ、二水さんのことはいいでしょ今は」

 

「いやいや、もう二年の一学期も終わるんだし、そろそろ身を固めとかないと色々辛くない?」

 

 なんて楓さんのことはともかく、レギオンのリーダーから直々に促されるくらいには、日羽梨が二水ちゃんのことを気に掛けている。なんてことは周知の事実のようで。

 

「……あたしを見て逃げ出したってことは、あの子も日羽梨なんかにシュッツエンゲルになって欲しくない、ってことでしょ」

 

「あれー、いつあたしは契る契らないって話にしたかなぁ~?」

 

「この……!」

 

 日羽梨が少し卑屈になっても、遠回しな言い方をしてたからと貞花はすっとぼけてみせるのだから、半端に怒り切れない感じに……まあ、当事者でもない私は詳しいことは知らないけど、サングリーズルの結成前な一年生の頃、日羽梨はシュッツエンゲルの契りを姉側から解消されたって話があるから、臆病になるのも仕方ないことか。

 なんて自分の認識票を取り出しながら物思いに耽っていると、向かい側に移った冬佳にあるべき物がないことに気付かれる。

 

「そういえば、雪華様のサブタグはご自分のに戻されているんですね?」

 

「姉さんのは卒業する前本人に回収されたからねぇ、今思えば自分の都合に私を巻き込みたくなかったからなんだろうけど」

 

「あー、零夜様(あの人)今も相当な頻度でカチコミしてるみたいですからねー。こないだも遠征先でいつものガンシップ見たし」

 

 おおっと、貞花の口からまた変な情報が飛び出たが? いやまあサングリーズルもサングリーズルで任務帰りにヒュージ見掛けたから予定にないけど駆逐しときますねーと寄り道上等なスタイルなのだから、関東で活動している同士時にそういう遭遇もあるんだろうけども。

 

「姉さん……お姉、様……雪華の夢結?」

 

「んー、まあ言いたいことは分かるけど、微妙に違うかなぁ。確かに定義としては夢結と梨璃ちゃんの二人と同じ擬似姉妹関係ではあったけど、本質的な部分でね」

 

 これまた散々言ってることではあるけど、ああいうラブラブカップル、略して……いや、やめとくか。ともかく私たちはあんな感じのとは無縁な二年間だったもんだし、同じかと聞かれてもやっぱり違うかになる。

 

「さて、そろそろ時間だしお邪魔するのはここまでにしようかな。結梨ちゃん、上がるよー」

 

「はーい」

 

 生徒会からもまだあんまり長いこと連れ回さないように。とは言われているし、レギオン仲間同士の集まりに部外者がいつまでもっていうのも悪いしで、ささっと足を拭いて……

 

「ってこらこら、足拭く前にニーソ穿こうとしないの。濡れるでしょーが」

 

「ん?」

 

 まだまだ教えることは山ほどのようで、やれやれ。

 

◆◆◆

 

 さて、特別寮の前まで結梨ちゃん引っ張って来たはいいけど、その裏側の成り立ち的にこのまま部外者が入っちゃっていいものだろうか。いや、去年までは姉さんたちが住んでたからと何度か足は運んでたし、今だってレギオンメンバーの付き添いで……と色々言い訳は立つけども。

 

「何してるんです? こんなところでボーッとして」

 

 なんて変に思考を逸らしていると、聞き覚えのある声に結梨ちゃんと揃って振り向けばそこには結梨ちゃんにとっては特別寮の先輩な──

 

「あ、鶴紗だ」

 

「……あー、今日先輩が担当でしたっけ」

 

 いつもの猫カバンを持った鶴紗ちゃん。ならレギオンも寮も同じで、身内の更に身内ならこのまま任せていいかと結梨ちゃんをパス。

 

「まあ、ね。時間だから送って来たけど、あとよろしくー」

 

「またねー」

 

 そのまま手を振って去ったものだから、入り口に残った二人を見詰めるもう一人には気付かず終いだった訳だけど。

 

「……あれ、鶴紗とあの子?」




実はクロスオーバータグは原作サイドに限らずだったり。
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