というわけでようやく百合ヶ丘に帰ってきたので、予定までに色々とやって行きますとも。情報出たからにはちょくちょく突っ込んでくぞ次期主役さんたち。なお前提条件がどんどん狂い出すからこれ以上舞台の出来事を直接は扱えない模様、どんどん。前もメンバーや全体的な流れを変えてるから直接とは言いがたい?そうねぇ。
7月になって早数日が経ち、今日はレギオンとしての訓練の日──といっても、一年の皆に先んじて待っている射撃訓練所には私たち以外にもう一人、特別ゲストがいるんだけど。
「にしても、わざわざ隊長直々にねぇ。気合い入ってます?」
「いえ、うちの後輩たちも、そろそろ私がいなくても問題ない頃ですから」
つまりは同盟レギオンを代表して祀さんが、今回の一柳隊の訓練に協力してくれることになっていた。
「んで、今日は高校からリリィな子を重点的に見てけばいいんだっけ?」
「ええ、一人につき経験者組の一年生とわたしたち上級生からそれぞれ一人ずつ、1対2で当たる形になるわ」
で、梅と夢結の確認する内容は、つまり祀さんを入れて十二人になるから三人ずつ四班で見ていく形になるということ。ちょうど人数も増えたし、基礎を改めて確認するにはいい機会ということで。
「お、お待たせしましたー!」
そこまで決まっている以上特別今になって打ち合わせるようなこともなく、しばらく時計を眺めていると大体5分前くらいで、一柳隊の一年生一同が梨璃ちゃんを先頭にやってくる。
「いや、まだ時間あるけど?」
「へ? ……あれ、ホントだ」
さて、ラウンジかどこかで見た時計がズレてたとかそんなところだろうか。まだそんなに焦るような時間でもないのに、梨璃ちゃんたちがどこか慌てた感じだったのは。
「ともかく揃ったならいいか。今日は祀さんも来てくれてるし、三人ずつ四班に別れて訓練ねー」
「内訳はわたしたち上級生と、楓さんや神琳さんたちのような経験者組が梨璃や二水さんたち初心者組一人につき二人で当たる形になるわ。その組み合わせだけど「勿論! わたくしは梨璃さんと」鶴紗さん、わたしと梨璃を担当してくれるかしら?」
「分かりました」
なんかあっさり楓さんの乱入が流されてるけど、まあ鶴紗ちゃんのが何万倍も安全なのは分かりきってるので、誰も止めやしない。
大体、楓さんって確か初対面の時も手取り足取りはまだしも「腰取り」とか意味不明な単語言ってたし、多分彼女に任せたら梨璃ちゃんの腰どころかその下にまであっさり手が伸びるだろう。というか今も梨璃ちゃんに抱き付いてて、見えないところでナニしてるか怪しいし……やっぱりこないだ日羽梨の言ってた毒舌を否定出来ないや、ごめん。
「んじゃ、ふーみんは梅が見てやるゾ! わんわん、手伝ってくれるか?」
「あ……はい!」
「えっ、わたしなんかが梅様と雨嘉さんとですか!?」
梅の人選の意図は後衛の索敵スキル持ち同士、感覚を合わせておいた方がいいとかそんなところだろう。
「おう。なんなら梅が的役やってあげてもいいけどナ?」
「梅さん、それは今回の趣旨と違うでしょう?」
「おっと、祀を怒らせたら後が怖いからナ。冗談は程々にだ」
大分気分屋なところがある梅も、流石に生徒会長代行を務める祀さんがいる場なら大丈夫だろうとして、私は自分の担当を見ようか。
「で、ミリアムちゃんには私と神琳さんね。百合ヶ丘流をしっかり叩き込んであげよう」
「ふふ……」
「そこで微笑まれるのが一番アレなんじゃが……まあ、素直に胸を借りるとするかのう」
さて、こっちは特にトラブるような面子でもないからいいけど、問題があるとすれば余りで組んでーとなった最後の班。
「……わたくしがこの組み合わせですの?」
「ええ、腕の見せ所でしょう?」
つまりはこの中で一番の初心者な結梨ちゃんを楓さんと祀さんで見る、ということになる訳で。そんな中あからさまに不満を隠さない楓さんの様子も、祀さん好きが過ぎた結果色々と周囲に突っ掛かりがちなエイルのメンバーをまとめる立場な祀さんとしては可愛いものか。
「二水が言ってた、楓は今年の一年生で一番すごいんだって」
「あ、それ厳密には外部入学組の一番……」
なんて二水ちゃんから即座に訂正が入るけど、まあ主題としては楓さんが凄いから教えてーってことなんだろうから、多分一番なのが内でも外でも大差はない。
「……ふぅ、仕方ありませんわね。ですが結梨さん、このわたくしが教えるのです、泣き言仰っても止めませんからね?」
「うん。どんな……ヒュージ? が出てきても一人で全部やっつけられるくらいになるまでやる!」
そんな風に結梨ちゃんが一人盛り上がっていると、正反対に冷静な声が割り込んでくる。
「それは言い過ぎね。一人の強いリリィの力で何もかもが変えられるのなら──ヒュージとの戦いなんて、とっくに終わっているはずだもの」
「むーっ、祀のイジワル!」
「ま、万能のヒーロー一人で全てが変えられるのなんて、物語の中の小さな世界だけだよ」
水を差されてむくれる結梨ちゃんには悪いけど、そういう驕りは破滅に一直線な思考だから私としては認められない……大体画面の向こうのヒーローたちも、基本的には仲間と力を合わせて世界を救ったりしているんだから。
まあ、時々いる本当に一人でなんとかしてしまう規格外にしたって、結局は
「うぐ~……雪華はいったいどっちの味方なの?」
「味方だからこそ、現実は見ておくようにって話よ。じゃあ結梨ちゃんは今から私たち十一人全員を同時に相手して勝てるの?」
「えっ、なんで?」
「なんでも。で、そんなの無理でしょ? そしてヒュージは私たちよりよっぽど数が多くて、人なんか豆粒に見えるくらい大きいのだってちょくちょく出てくるんだから、一人で全部解決するだなんて寝言は言ってられんのよ」
困惑している隙に言いたいことを言い切るけど、疑問符を浮かべたままの彼女はどこまで分かってくれたのやら。そこら辺勘違いしてると、
なんてやれやれムードでいると、祀さんが私の言いたい内容を引き継いでくれる。
「だからこうした地道な訓練が必要なの。決して一人で世界の全ては守れなくても……せめて、自分の手が届く範囲を、少しでも広げるために」
「……祀様?」
そこで梨璃ちゃんも気付いたのは、祀さんの言葉の裏に隠しきれない『後悔』があること……まあ、中等部から長いことリリィをやっていれば、誰しも何かしら心の奥底には抱えた物があるということで。
プライベートに過ぎる話題だし今度ばかりは私から何も言うことはないと見守っていれば、結梨ちゃんもいつもの嗅覚でそれを察したのかこれ以上反抗する気は失くなったようだ。
「……わかった。じゃあ楓、まずはCHARMの使い方教えて!」
「と仰られましても、よくよく思えば結梨さんはまだCHARMをお持ちでないはずでは?」
楓さんの言うように試験明けで色々と学院側もバタ付いている時期なのもあって、結梨ちゃん用の機体は先月の内に申請こそ済んでいても渡すのには少し掛かる。という話ではあったけど、流石に無計画なんてことはないワケでして。
「一応そこら辺はちゃんと考えてるよ。はい結梨ちゃーん、指出してー」
「んー?」
どこかお医者さんのような真似をしながら呼んでみれば結梨ちゃんも素直に右手の人差し指を向けてくれるから、その腹にケースから取り出したグングニル・カービンの切っ先をなぞらせる。
「えっ、雪華様!?」
「はい、そのままコアに指つけて。そうそこ、キラキラしてるやつ」
なんてことをしてると梨璃ちゃんが信じられない物でも見るような目を向けてくるけど、血が垂れる結梨ちゃんの指をコアに押し付けているのを見ると、このやり方に覚えがあるようで納得はしてくれる。
「あっ……そっか」
「ま、私の貸すにしてもこうした方が確実でしょ?」
「いや、だからといっていきなり黙ってそれをやるのは心臓に悪いぞい……」
そうかなぁ、一応手順としては正統なのに、血での契約。というのも私がデュエル世代だからの感覚なんだろうか、ミリアムちゃんは呆れたようなジト目状態。
しばらくして、起動した音と同時コアに浮かぶのは、結梨ちゃんのバインドルーンなのだろう〈マンナズ〉と〈ソーン〉の重なった物。あー、ソーン。ソーンかぁ……いや、別に何が悪いとは言わんけど、ちょっと趣味の方でね。なんとなく退場察してはいたけど、あの空気でコックピット一発はないでしょ、一発は。
「……? 梨璃、これどうするの?」
「え、わたし?」
私が少し意識を逸らしていたら、結梨ちゃんの傷口にクローバー模様の絆創膏を張っていた梨璃ちゃんがちょうど目の前にいるからと、CHARMの扱いを聞かれている訳で。ならいっそ慣らしがてら──
「カービンっていってもブレードが違うくらいで射撃の方は元のグングニルと感覚は同じだし、試しに撃ってみたら?」
「ふぇ? は、はい!」
ともかく持ってるならそのままやってみようと促せば、射座についた梨璃ちゃんが的を狙い引き金を引くと、訓練用の弾で威力や反動は抑え目とはいえ、予想より数が出過ぎたのに驚いて的から大分逸らしている。
「わわわっ!?」
「あ、そういやこないだチューン変えてもらってたっけ」
自分では合ってた感覚も、そうと知らずに使えばズレるのも必然か。まあ、梨璃ちゃんも一度見ればそういうつもりと覚悟しながら少し軽めに引いて、さっきよりはちゃんと狙えているようで三発撃って有効判定は二発ってところ。
「おー?」
「う~……と、とにかくこんな感じで」
「お見事ですわ梨璃さん、後はこのわたくしにお任せあれ!」
さて、なんだかんだ文句言ってた楓さんも、梨璃ちゃんの前でいい格好出来るならと的が切り替わる間にヒョイとグングニル・カービンを受け取って、結梨ちゃんへ渡している。ホント分かりやすいなぁ。
「ま、なら任せていいか。さて神琳さん」
「ええ。ミーさん、お覚悟を」
「いや、何を覚悟しろというんじゃ」
◆◆◆
「そう、両手でしっかりと構えて……ああ、片目は閉じない方がちゃんと狙え……口は開けずにしっかり閉じて……足は肩幅に広げて、姿勢は正しく……」
「んー、こう?」
いざやるとなれば手を抜くようなタチでもないと、本当に事細かく結梨に言葉や手を沿わせる楓。それを祀が眺めていると、怨めしそうにチラリと視線を向けられる。
「……少しくらい、手伝ってくれてもよろしいのではなくて?」
「生憎、私は一柳隊の皆さん程結梨さんに懐かれてはいませんから」
先程も正論を言って噛み付かれたばかりだからと、お手上げとまでは言わずとも何か起きない限りは手出しはしないと告げられれば、楓もこういう時くらい生徒会相手に点稼ぎをしておくのも悪くはないかと、無理矢理自分を納得させる。
……もっとも、梨璃と同室かつ彼女のことを楓が(色々な意味で)狙っているのを知っている閑も生徒会の一員なのだから、多少ポイントを稼いだところで焼け石に水で済めばいい方なのだが。
「にしても、やっぱり今の新入生はグングニル率が高いんだナ。結梨のも確かそっちで頼んでんだろ?」
「あ、はい。ただ今は実機の余裕がないので予備パーツを使って1から組み上げることになるとかなんとか……」
なんてしている間に初心者組が全員射座についたならと、借り物な結梨抜きでも半数がグングニル使いなことを二水に梅が聞いたところ、返ってくるのは色々とガーデン側も世知辛いんだなぁという内容。確かにわざわざメーカーに新しいのを発注するよりは早いだろうとはいえ、そりゃあ転入からほんの数日では用意出来ない訳だ。
そもそも、いくら企業のスポンサー付きだからとホイホイ投げ捨ててる雪華みたいなのがおかしいだけで、一機一機に戦車並の費用が掛かるCHARMは本来畑からとれるようなノリで用意できる代物でもないのだから。出撃すれば両手のCHARMを確実に要整備レベルにまで破損させる程な汐里が百由以外から整備を断られているのも、手間以上にコスト面の問題もあるのだろう。
「……ふーみん、ちょっと右」
「は、はい!」
「お、梅より早く指摘するなんて、やっぱり射撃はわんわんに頼んで正解だったナ!」
世間話に興じながらも訓練は訓練、少しのズレを雨嘉が訂正すれば、誉めながら梅が手を伸ばして髪をわしゃわしゃしてくる。
「あっ……これくらいは、ヘイムスクリングラの中等部でみっちり仕込まれました、から」
「あそこは後衛の育成に力入れてるからナー。でも、それに付いていけたから今こうして言えたんだろ?」
「ふふ……」
などと照れている雨嘉の様子を神琳が微笑んで眺めていると、ミリアムにちょいちょいと指示しながらチラリと横目を向ける雪華から疑問符が。
「どしたの?」
「いえ、雨嘉さんが古巣のことを自分から話すだなんて、随分と馴染んでいるようで何よりと」
まあ、逃げるようにだなんて例えるくらい思い詰めて日本に来た。なんて言っていたのが、まだ遠慮する様子が強いとはいえ昔のことも振り返れるようになったのなら、レギオンに入った効果は確かにあったのだろう。
「それとミーさん、もう少し持ち上げた方が狙いやすいですよ?」
「お、おう。にしても、おぬしらよく周りのことを気にしながらわしのことも見れるもんじゃな」
「戦場じゃあ後ろどころか360°全部に上の方まで目を付けてなきゃいけないんだし、横並びならまだ楽な方かな?」
冗談かどうか分かり辛いことを言う雪華だが、例の第4世代CHARMを扱うようになってから妙にその辺りの感覚が磨かれているような感じはあるのだから、本人としては大真面目なのだろう。
「梨璃、先輩たちの前だからとか、結梨の前でいい格好しなきゃとかは考えなくていいよ」
「あっ……あはは、やっぱり、鶴紗ちゃんには分かっちゃうよね」
一方こちらは結梨が同じクラスに転入することになってから梨璃が妙に気を張っているのは端から見れば丸分かりなのだからと、ちょっとのズレを直しながら鶴紗にそこを突かれれば、我ながらおかしくなっていた自覚のあった梨璃としては照れくさそうに頬を掻くばかり。
「………………」
「ふふ、シルトが取られそうで気が気でないのかしら?」
「んんっ……そんなのではないわ。それに鶴紗さんは、楓さんと違って変な気は起こさないのが分かっているからこそ、梨璃を任せたのだもの」
それを後ろから眺めていた夢結はいつの間にか隣にいた祀に弄られて一瞬変な声が出るが、実際四人の中で一番梨璃を任せて安心出来るからと鶴紗を選んだのは夢結自身なのだ。彼女なら梨璃に余計な手出しをすることなく、様々なCHARMを扱った経験から最適な指導が望めるだろうと。
「そう? 同室に選ばれたことといい、私たちってどこか似ているところがあると思ったから」
それは、祀ならばこのような訓練であろうと親しい相手が他の誰かと密着するような状況に嫉妬を覚えると言っているようなものだろうが、まだその辺りの感情は周りから指摘されてもピンと来ないのが夢結だった。
「……なら、わたしは聖とも似てないといけないことになるのだけど」
一応、服装を似せれば見た目だけは同い年の姉妹──と通せなくもないだろうが、谷口聖と白井夢結では肝心の纏う空気が正反対だ。初対面の相手でも、上手く騙し通せるかどうか。
「ああ、確かにそうなるわね。でも見た目なら結構いい線行けるんじゃないかしら?」
「……祀、あなた随分と気を抜いてるのね?」
同じ生徒会長といえど三年生で〈ブリュンヒルデ〉の史房よりは気安いとはいえ、同じ二年生の〈ジーグルーネ〉の眞悠理程自由ではない、そんな中間な彼女だからこそ〈オルトリンデ〉の代行を務められているのだとは思うが、今の祀は寮で普段から夢結が見ている姿より数段楽しそうでいる。そのことを口にすると、返ってくる反応は少し目を丸くしながら。
「驚いた、夢結さんにそこまで気にされるなんて」
「答えになってないわよ……」
自分が戦闘面以外ではどこか抜けていることや、他人の感情にそこまで気を向けていられる余裕がなかったにせよ、近頃は周りの仲間たちのお陰で後者は少しずつマシになっていると思っている夢結としては、これはからかわれているのか? と感じてしまうが、ちゃんとした答えもあるようで祀は言葉を続ける。
「でもそうね、浮かれているのはその通りかも。あなたに頼られたのも、同盟レギオンの一員として一緒に後輩たちの訓練を見ているのも、夢結さんと同室になった頃には今こうしていられるだなんて思ってもみなかったから」
以前雪華にも語ったような内容ではあるが、今の夢結になら直接伝えても平気だろうと判断してのそれの効果は、良し悪し半々といったところだろうか。
「それは……」
──申し訳ない、とは思っている。去年の学年途中の急な同室相手の入れ替えが、初代アールヴヘイムの解散までのことに伴う自身のメンタル面の問題だとは夢結自身誰に言われずとも分かっているし、先日美鈴の仇も同然なヒュージに遭遇した時の有様から、その部分は未だに解決しているとは言えないのだから。
「別に責めている訳じゃないわ。無理に過去を振り切らなくても、少しずつ前に進めばいい……それと、梨璃さんが呼んでるわよ。お姉様?」
「……ええ、ありがとう」
どれだけ礼の言葉を繰り返しても足りない程、本当に自分は周りに恵まれている。そう噛み締めながらCHARMの手動操作に手間取るシルトの元へ向かう夢結を眺めていたのは、祀だけでなく梅や雪華、彼女以外の上級生──つまりは、夢結のことを前から気に掛けていた面々。
◆◆◆
「なんでリリィになったか?」
なんてどこか微笑ましい場面も多かった訓練も終わり、皆がぞろぞろと解散になる中貸していたCHARMを返してもらおうとして近寄った結梨ちゃんに聞かれたのは、オウム返しに聞き返すそんな内容。
「うん、お昼ごはんの後梨璃たちに聞いても、雪華のは分かんなかったから」
好奇心旺盛なのは結構だけど、そういうのは人によっては大分重い事情を抱えてる場合もあるだろうに、結梨ちゃんは事も無げに聞いたんだろうなぁとは気安過ぎる雰囲気から丸分かり。
「一応確認するけど、聞いたのって一柳隊の皆にだけ?」
「? そうだけど」
返事は首を傾げてからの肯定……こりゃ意味分かってないな。〈知らないという罪と知りすぎる罠〉とは誰かが歌っていたけど、この子の場合根本の情操教育というものがまだ足りていないか。
「とりあえず、結構デリケートな話題だから私たち以外にはそういうのは聞かないように。で、細かい話になると小学生の頃、健康診断の時スキラー数値が結構高かったのもあって学校の先生にリリィになるのを勧められた、ってのはあるかな」
「うん、結梨も最初の50から上がってるって言われた」
「そっか、ちゃんと鍛えてるならいいことだ」
なんか少し話が飛んだ感じがするけど、結梨ちゃんもCHARM抜きの基礎訓練くらいは参加するようになっていたのだから、多少なりと効果は出ているのだろう。ちなみに、お気に入りは梅を中心に時々やっているアスレチック系だそうな。
「で、私の場合母さんもリリィだったからさ、小さい頃から現役時代の話とか聞いてて興味はあったし、小学校の終わり頃には『インビジブルワン』にも目覚めてたからってそのまま百合ヶ丘の中等部に無事編入」
「えっと、それって梅の持ってるやつのサブ、スキル……だっけ?」
「そうそう。大体レアスキルの七~八割な出力にはなるけど、それでもあるとないとでは大違いだからね」
それが私の場合は持続時間の問題として出てはいるけど、ぶっちゃけ連打する際の多少のラグはスラスターやアンカーで十分補えるしなぁ。小細工万歳っ。
「で、そこからは百合ヶ丘の生徒として程々に中学三年間を過ごして、高等部に上がってからは指導担当だった人とシュッツエンゲルを「しどーたんとー?」あー、そこ説明いるか」
これは結梨ちゃんに限らず高等部から組には縁のない話だし、仕方のないところはあると説明を。
「百合ヶ丘って半ばエスカレーター式みたいなところがあるからさ、中等部からの編入生って才能ある子を更に人数絞って……なんて、かなり限定してるのよね。自慢話みたくなっちゃうけど」
「つまり、雪華もすごいの?」
「ま、客観的にはそうだったんだろうね。ともかくそうして外部から来た子が孤立しないようにって、上級生から『指導担当』同級生からは『お世話係』を一人ずつ付けるの。んーと、確か結梨ちゃんってアールヴヘイムの樟美ちゃんと一緒のクラスだったよね?」
そう聞けば返事代わりにコクコクと頷いてくれるから、ちょうど分かりやすい例が知り合いにいるしと使わせて貰おう。
「あの子のシュッツエンゲルな天葉で例えると、上級生の若菜が指導担当で、同級生の依奈が生え抜きだからとお世話係にって感じ。高等部から組だと、生徒会の子が同室に付けられがちなのもそういうところ」
「生え抜きって、神琳みたいな?」
「そうそう。でも百合ヶ丘の場合入れ替わりが激しいからって、私たちみたいな中等部から組にもその言い方使う場合はあるみたいだけど、基本は初等部より前ね」
あれ、ところでこれ大分話逸れてない? 私の理由聞かれただけなのに、私がリリィとして歩んできた道のりのこと話してるし。けど、ここまで話しといて途中で切るのもなぁ……うーむ、いい感じに逸れたし巻いて撒くか。
「ともかくそのままその人のレギオンにも入って、二年間ちょくちょく関東一帯を飛び回ったりしてたのよ」
「おー」
当然そのほとんどがゲヘナのラボ近くで、散々縄張りを荒らし回っていたの間違いではあるんだけど。わざわざそこら辺を何も知らない子に言うことではない。
「でも、二水は雪華って他の三年生とあんまり一緒にいないって言ってたけど、その……えっと、お世話さんは?」
「あー……」
まあ、そことそこを聞くと当然誰だって疑問に持つよね。とはいえなぁ、基本的に『あの子』のことを私が話題にしないって部分で察してくれ……ってのも結梨ちゃん相手にゃ無理な相談か。
「遠いところに、行っちゃったからね」
「……雪華?」
訓練所の的側、屋根の切れ間から空を見上げながらの大分暈した言い方だろうとその下の感情は、驚いたような表情をされたことから結梨ちゃんには例の匂いとやらで筒抜けなんだろう。今はそれでいい……多分これこそ、入りたての子に話すようなことでもないんだし。
「ま、私のことなんて別にいいでしょ。今日もこれから百由んとこ行くけど、付いてくる?」
「うん!」
話の切り方としては雑だったかもしれないけど、誤魔化せたならいいかと受け取ったグングニル・カービンをクルクル回してケースに納めながら、訓練所を後にする。
◆◆◆
「邪魔するよー」
「お邪魔しまーす」
ということで工廠科地下の工房、今日は鍵も掛かってないしでそのままスーッと入ると、一応作業中ではあったようでゴーグルを上げながらここの主に迎えられると疑問符が。
「あれ、今日なんか整備の予定ありましたっけ?」
「んー、というよりはちょっと配達を? どうせ主任と色々あるでしょ」
「そりゃあ雪華様絡みのネタで霊奈様を頼ることは多いがのう、近頃は主に新型のことで」
おや、手伝いでもしてるのか先に来ていたミリアムちゃんもさらっと物影から出てくる。とはいえ言ってる内容が肯定ならそれでいい、なるべく個人的なルートの方が好ましいし。
「ふーん? ならそのついでにこの子送っといてよ、ちょっと
「それって、さっき結梨の使った?」
取り出すのはその通りのグングニル・カービン、わざと強調した部分で察してくれればそれでいいけど、目の下に隈作ってる様子から百由はここしばらくろくに休めてなさそうだし、深く考えずに受け取ってる感じ。
「あー、雪華様の使うCHARMのコアって何を学習したんだか、随分とヘンなことになってるからなぁ」
「そうなの?」
「うむ、大体『円環の御手』にせよ第3世代CHARMで採用しているマギクラウド技術にせよ、本来は親機を一機に絞ってそこに子機を紐付けしていく形になるんじゃが、雪華様のコアは逆にどこを起点にしても連鎖的に繋がって行くようになっててのう。一応のメイン使いのコアはあれどそこら辺はコロコロ変わるんじゃよ」
それがいつぞや、墓標代わりのダインスレイフをそのまま使えた理由というか、まあ例によって私にも詳しいところは分かってないから、整備は丸投げするしかないんだけども……だからこそ、今使える『ネタ』になるんだし。
「そんな訳でね、素人が触ってもあれだし見るからに修羅場ってる百由の負担も増やせないしで、今度あの人来る時に間に合うくらいでいいからさ」
「はいはい。ならぐろっぴ、明日送る資料に混ぜといてー」
「おう」
曖昧な指示でも大体は分かるのか、百由の工房にしては少し整っている─といっても箱に小分けにされている程度だけど─辺りにグングニル・カービンを持っていくミリアムちゃん。あれか、流石に見かねて最低限の整理をしたとかそういう?
「つまり、ミリアムちゃんにお世話されてるって?」
「べっつにー、あの子がやりたいからってやってくれただけですしー」
ん、なんか露骨に機嫌悪くなった? 徹夜のし過ぎでいい加減壊れだしたのか、あるいは──
(ねえ雪華)
(ん、どしたん?)
(なんか、ミリアムのことで茶化されて百由の匂いが変わった。んー……なんだろ、これ)
言葉に困るって、どういうことなのやら……いや、つまり『結梨ちゃんのよく分からない系統の感情』ってことが分かるのか。もしくは、そもそも百由自身が答えを出せてないから読めない、とか?
「……あ、で雪華様」
「なによ改まって」
なんてこそこそ話をしている間にエナドリの缶にストロー刺してキメながら再起動した百由が指差すのは、奥の作業台に乗せられたダインスレイフ。しかも見覚えのある金ベースな配色だってことは……
「あれ、夢結のダインスレイフか。何か分かったの?」
「一番大きなところだと、最後の契約者が美鈴様に上書きされてました。その影響かコアの術式にも結構な変化はありましたけど──」
つまり……あの馬鹿、致命傷負ってたのをこれ幸いと戦いながら血での契約をしたのか。まったく、最期まであんたってやつは。
「それと、これも綺麗にはしておきましたんで」
なんて考えていたら、百由からついでのように渡されるのは──
「認識票? 川添……ってこれ美鈴のじゃん。なんでこんなのが今になって」
「ダインスレイフの中、シューティングモードの銃口のところに引っかけてあったんですよ。せめてこれだけでも、百合ヶ丘に返してあげたかったのかどうか」
当然サブのタグはシルトであった夢結の物と替えられているから、何かしらの導きを期待したんだろうけど……実際、こうして戻っては来たんだから十二分に効果はあったようで。
「でも、なんであたしよ?」
「どうにも人の感情の機微ってもんに疎いわたしじゃあ、渡すタイミングも言葉も間違えて、下手に夢結のトラウマ刺激するだけになるのは分かってますしー? 雪華様ならその辺りの距離感は慣れてるでしょうと」
「信頼の証だとは思っておくよ、まったく」
なんてぼやきながら認識票を受け取ると、結梨ちゃんがこちらに顔を寄せていた。
「くんくん……二人とも寂しい匂いしてる」
「ま、人が一人死んだって話だからね。ニコニコしながらはやれないかなぁ」
これまで結梨ちゃんのいるところでこの手のことを話題にしていなかったのだって、結局は悪戯に不安にさせるのを避けるためだろうし。
……そう考えると、確かにこんなタイミングでこの話を振ってきた百由にそのまま丸投げされるのも分かってしまう。
「それはそうと、そろそろいい時間でしょ。ミリアムちゃん、結梨ちゃん連れて先に控室行っといて」
「んむ、雪華様は行かんのか?」
「や、こっちはもうちょっと百由と詰めるとこあるから、そのことも伝えといてよ」
要件を言えばミリアムちゃんは「おう」と気安い返事と共に、こっちに手を振ってくる結梨ちゃんを連れて工房を出ていく。その後に百由がこっちに持ってくるのは、例の新型。
「で、この感じだとフル稼働はぶっつけ本番になりそうですけど、大丈夫なんです?」
「んー、まあ行けるとは思いたいけど、当日のコンディション次第かなぁ」
ビット操作の点ではもう特に不安はないけど、いざ実戦形式となるとどうなるか。と聞かれるとやってみないことにはなんとも、だからこそ試しにちょうどいい『あの日』を選んだんだし。
「それよか、冬佳の方は問題ないの? 隣で見てて平気そうではあったけど」
「その辺りは実戦データ様々ってとこですねー。流石はロネスネス、質も量も十二分!」
確かにあの姉妹のレギオンなら、噂を聞かずとも色々凄そうではあるけども。ともかくそのままCHARMの調整だとかの相談を済ませると、後は当日だと私も工房を出てエレベーターに乗り込む。
(実はコピペミスって最初タイトルがおかしくなってたのは内緒だ)