アサルトリリィ~円環の赫星~   作:ですティニー

41 / 93
前回のあらすじ:訓練と必要なお話と後方保護者会と、昔の話とちょっとした悪巧みと。
大体二学期かなと思ってたら話中のリリィ新聞でも秋って書いてたし、そういう意図したズレの起きるエリア。
ちなみに再三の話になりますが、大元の書き始めたタイミングから某後付けイベストはそこまで考慮してないし、内容も色々カチ合ってしまったのでぴーちゃんは柔肌ガードしなくていいよ!やったね!…ホントかぁ?(既に全裸&生足御披露目済み)


周りとの兼ね合いで前倒しになってしまったお祭りの話

「ところでこれ、例年なら秋頃にやってたと思うんだけど、なんで今年に限って7月なのさ?」

 

「さあ? 来場するお偉方の都合だとかじゃありませんの」

 

 百由の工房を出た後、一柳隊の控室にてソファーに座りながらケータイでとある通知を眺めながらぼやくと、隣から返ってくるのは至極どうでもよさそうな、あんまりに投げやりな楓さんからの言葉。

 とはいえこんなご時世だ、そういう連中の集まれるタイミングも限られるだろうってのは、まあそうなんだろうけども。

 

 ──あるいは今年は『一柳結梨』という特大のイレギュラーがいることから、それを探りたがるよからぬ輩のスケジュールを崩す狙いがあるのかもしれない……なんてのは、少し考え過ぎか。寄ってきた結梨ちゃんにもいつもので気付かれるし。

 

「んー? 雪華、なんか難しい匂いしてる」

 

「そりゃあ私がこの中で一番のお姉さんだからね、そういう時も「はぁっ!?」……どしたん?」

 

 なんて折角人が話してるのにいきなり反対側の方を二度見しながら叫ぶのは、隣に座っていた楓さん。いつぞや人の肩に担がれながらガタガタしていた夢結と違い、叫ぶ程に動揺はしても手に持つティーカップの中身だけは溢さないのは腐っても世界レベルのお嬢様か。とはいえそんなに彼女を驚かせるような物なんて……

 

「……は?」

 

「やりましたわ」

 

「やりきったのう」

 

 そんな風に一仕事終えた空気な神琳さんとミリアムちゃんの目の前には、ネコミミ付きの巫女風メイド服とかいう属性の玉突き事故状態なコスプレ衣装を着せられた雨嘉ちゃん。確かに部屋入った時「なんか隅っこで囲まれてるなー」とは思ったけど、なんぞこれ?

 いやしかし、彼女の真っ黒な髪に白を基調に赤を差し色とした巫女風のメイド服は中々に映え──

 

「いや、そうじゃなくて!」

 

「かわいい……!」

 

「わんわんは可愛いナ!」

 

「ねえ梨璃、結梨もあれやりたい」

 

「ええっ!?」

 

「梨璃、甘やかすばかりでは結梨のためにならないわよ」

 

 どうすんのこのカオス? 逆にいつも通りなのかもしれない他の子たちはともかく、鶴紗ちゃんなんてあれが猫ではなく雨嘉ちゃんだと頭で理解してはいても、どこかで感情の処理がバグってんのか固まった顔で手だけウズウズしてるし。

 

「なんにせよ、確かこういう『イベント』って原則1レギオン一人だけでしょ? うちは雨嘉ちゃんが代表ってことで。二水ちゃーん、登録よろしく」

 

「あっ、はい!」

 

「ま、待ってふーみん……」

 

 だが悲しいかな、雨嘉ちゃんが動くより早く申請の入力は終わってしまっている。

 そんなタブレットの画面を見せられた彼女は膝から崩れ落ち、両手をついてこの世の終わりのような雰囲気になってしまうが、まあ何処に出しても恥ずかしくはないと思うよ、うん。本人の羞恥心? 勿論管轄外ですとも。

 

「むーっ、結梨がやりたかったのにー」

 

「あら、結梨さんにはあとでいくらでもお貸しいたしますよ?」

 

「こんなこともあろうかと、工廠科の方でもまだまだ用意はしておるぞい!」

 

 いったい誰のどんな想定なんだろうね、それ。年一のお祭り騒ぎだし、ふざけて変なのばっかり用意してる気しかしないんだけど。

 

「となると、わたしのコレクションもいくつか切るべきなのかなぁ……?」

 

「いや、皆して記憶ない子取っ捕まえて着せ替え人形にするんじゃないのよ」

 

 二水ちゃんもいつものパパラッチ根性以上のナニかを目覚めさせそうになってるし、流石にアレだなと止めに入る。まあこれくらいで止まる気はまるでしないし、結梨ちゃん本人も何も分かってなさそうな顔してるけど。

 

「んー?」

 

 で、結局これが何のための騒ぎかというと、その答えは──

 

◆◆◆

 

 ──数日後、飾り付けやら『観客』やらで色々と普段と違う様子になるグラウンドにて。

 

「戦技競技会ねぇ。見世物にされてるみたいで、あんまり気乗りはしないんだけども」

 

「そう言うわりには、雪華様も結構大きい出番があるみたいじゃが?」

 

「スポンサーの意向というやつですよっと。ほら、今日は主任も来てるし」

 

 そう言って目線で指すと、ここのOGということもあって彼女は到着早々理事長代行のいるテントへ向かい、挨拶をしているようだ。

 というか改造アステリオン(ストラトス)を腕に添えるような構えでこれ見よがしに抜き身で持ってて、普段は使わないサイレンサーまで付けてる上にマガジンも半端に減ってるんだけど……まあそういうことなのだろう。“向こうさん”が先に横紙破りしてる以上どこにも泣きつけないからって、相変わらず好き勝手やりおる。

 

「あー、噂の霊奈様か。今回は何を企んどるんじゃ?」

 

「別に、新型の出来を確かめにってだけみたいだけど? ……表向きは」

 

 なんてちょっと学院の外に目を向ければ、近場の森の中ではいかにも怪しい工事現場のおっちゃんみたいなのが力尽きて鉄塔にへばり付いてたのが、急に胴体を何かに引っ張られたように落ちてるし。その前に命綱を斬ったの……目に見えなかったけど透明なビットか何か?

 

「……あぁ。こりゃ大惨事じゃのう」

 

「先に主任が麻酔弾で眠らせてたんだろうけど、向こうさんが手段選ばないからってやり過ぎでしょ、まったく……」

 

 ここまで直接的な手段に出てる以上、確実に『お客さん』の上にいる連中の弱みか何かは握ってるんだろうし、救援の見込みもゼロだろう。

 あとはいつも通り情報だけ抜き出したら敵対勢力に売り飛ばすにしたって、果たして国も立場もバラバラなのだろうこのしたっぱさんたちはそれまで五体満足でいられるのやら。死ななきゃ安いは相手に押し付けるもんじゃねーぞと。

 

「ま、そういう訳であたしは出番まで付きっきりで調整あるから。また後でー」

 

「おう、百由様にもよろしく頼むぞい」

 

 まあ、そりゃ色々とよろしくはしないといけないんだろうけど。なんてミリアムちゃんに手を振りながら、百由が缶詰めになってるんだろう整備室を目指す。

 

◆◆◆

 

「では、参ります!」

 

 競技会、とは言うものの実のところ来客に向けたリリィやそれ絡みの技術のアピールによるイメージアップを計るという側面もあるのだから、組まれたプログラムの中にはリリィ同士で競う競技以外にも、選ばれた数名のリリィによる演舞のようなものがある。

 その先陣を切るのは、十八人と百合ヶ丘屈指の所属人数を誇る水夕会──LGレギンレイヴより副将の六角汐里。彼女はタンと垂直に跳び、周囲をクルリと見渡すように自身を囲むターゲットをティルフィングからの連続射撃で撃ち落としながら、時折の反撃はシャルルマーニュによる防御結界で的確に弾いてみせる。

 

「おぉー、すごいね汐里。えっと、確か汐里のレアスキルって……」

 

 これまでCHARMを持ったとしても訓練中か起動テストか、そんなほんの数度程度な結梨が実戦形式故の迫力に感心した声を上げれば、ピョコッと彼女の隣に現れる二水が頼まずとも解説をしてくれるようで。

 

「はい、汐里ちゃんのレアスキルは『円環の御手』! うちのレギオンだと雪華様が覚醒されている近年発見されたばかりの新しいスキルで、片方のCHARMを子機とすることにより本来一人ひとつずつとされるCHARMでの二刀流を──」

 

(……『ちゃん』?)

 

 相変わらずのオタクモードに入る二水の言葉の中で、いつの間に仲良くなったのか汐里への呼び方が随分と近しくなっている。と結梨を挟んで反対側の梨璃が気にする間にも汐里は順調にターゲットを撃破していき、〈不動劔の姫〉の名の通り二刀流による怒涛の攻めで最後に出てきた大型の物を仕留めると、締めに観客へ向けて礼をして下がれば、入れ違いに今度は二人がグラウンドの中央へ。

 

「あ、とーかとルイセだ」

 

「ほら、結梨ちゃんも手振ってあげて」

 

 それが結梨も時々お世話になっていた先輩と彼女のシルトなクラスメイトならと、二人して手を振れば冬佳たちもチラリとこちらを向いて笑みを返してくれた。

 

「冬佳様の使用するCHARMは第4世代試作機のヴァンピール! 彼女のシルトな我らが一年椿組のルイセさんの使う『ヤーレングレイプル』の試作機共々、同型機が東京の御台場女学校初の自主結成レギオンであるロネスネスへ百由様によって提供されている繋がりがあります!」

 

 続けてシュッツエンゲル二人が構えているCHARMの解説をする二水だが、双方の提供された相手のリリィが共にあの船田姉妹と個人的な関係も深い……というのはここにいる一柳ご両人に言っても伝わらないかと、メモの端のそれは今夜もやるリリィオタクトークのため置いておく。

 その間にもシリンジモードの本体から糸で繋がっているような感覚で導かれる冬佳のザッパーカイトが時に射撃で、時に光の翼による突撃で空中のターゲットを撃破していけば、ルイセは片手にガントレットとして装着する形になるヤーレングレイプル試作機による直接殴打、あるいは銃口になっている指先を向けての射撃で地上のターゲットを片付け、最後にそれぞれ残った目標をすれ違い様に撃破することで終幕。デモンストレーションも終わり次の種目に移ることに──

 

「よし、がんばるぞー!」

 

「あれ、結梨ちゃんの出番もう終わったよね?」

 

「なら梅と変わ……っと、祀が目を光らせてるナ。悪いけど結梨は来年まで待っててくれ」

 

 意気込む結梨には悪いが、競技へ参加するためにCHARMを取ってきた梅が彼女たちの前を通るだけで生徒会も明らかに警戒している。これが日頃の行いかと梅もあっさり引き下がると、そのままチームごとに集まる場所へ向かう。

 

「むーっ……ん、雪華のなにあれ?」

 

 不満げにする結梨がそれを視線で追えば、神琳と同じチームなのだろう雪華の装備が、普段より更にゴテゴテとしているのが目につく。

 

「えーと……あ、噂の新型CHARM」

 

「それって、初めて雪華様に会った時に二水ちゃんの言ってた、第4世代の?」

 

「ですです。確かようやくテストも進んでビットの使用数の制限がなくなったって聞きますけど……」

 

 その伝手は、もう立派な百由のお手伝いさんのようになっているミリアム辺りだろうか? ともかく梨璃もそちらを見れば、開始前に集まって少しの作戦会議といったところだろうか。

 

◆◆◆

 

「なーんか、また見たような顔だらけだねぇ?」

 

 そもそも百合ヶ丘での行事なのだから、外部からの観客を除いて百合ヶ丘内の関係者しかいないだろう──というのを抜きにしてもグラウンドに集まるのはラーズグリーズ(うちのレギオン)にアールヴヘイム、サングリーズル、ローエングリン、レギンレイヴ、んであの面子は……ロスヴァイセかぁ。

 他にはうちのチームの閑さんみたく隊長だけが一人二人くらいで、参加者のレギオンは大分偏ってる感じがする。イケイケな面子が固まってるとか言われるとなんとも言えなくなるけど、5チーム中3チームでメンバー内のレギオン被りが起きてる以上まあその通りか。

 

「お互いの手の内が粗方知られている中で、こちらが新型を持ち出した雪華様を抱えているというのは大きいわね」

 

「はい、そのままいつも通りの遊撃に当たって貰ってよろしいですか?」

 

 なんてクラスメイト同士もう相談するまでもないとばかりに閑さんと神琳さんから開始即突っ込めとのオーダーが来れば、五人一組となるメンバーの残り半分、亜羅椰ちゃんと日羽梨も口を挟んでくる。

 

「なら、わたしも雪華様とは別口で動いていいかしら?」

 

「それはいいけど、守りの方は?」

 

「わたくしたち残る三人で就けばよろしいかと、下手に攻め手ばかりを増やすよりは、その隙を埋める形で」

 

 そこも既に考えているようで、神琳さんの答えに「ま、初動としてはそんなものね……」と日羽梨も納得はしたのだから、後は開始を待つのみか。

 

◆◆◆

 

「で、これってなにするの?」

 

 ──と各々のボルテージが上がっているのはいいが、結局これだけのリリィを集めて何をするのかと、参加しない競技だからと事前の説明を受けていない結梨は隣の梨璃へ質問を。

 

「えーと、皆さんの集まってるところにそれぞれ棒があるよね? あれが倒されるかその先の的が撃たれちゃったら負けで、最後まで残ってたチームの勝ちだよ」

 

 つまるところ攻めと守りのバランスが大事になるのだが、そこまでは多分言っても伝わらないかと悩んでいると、開始を告げる鐘の音と共に参加者たちがそれぞれ動き出す。

 

「わたしとお手合わせお願いします夢結様!」

 

「こんな時でもないと構って貰えませんから!」

 

「倒しちゃったらごめんなさいですー!」

 

 そんな中、元々同じチームだった弥宙と月詩に加え、事前に打ち合わせでもしていたのか同じレギオンの辰姫が合流する形で横並びに向かうのは、名前を呼ばれた通りな夢結の元。

 初代と2代目、同じアールヴヘイムの先輩としてこういった機会に胸を借りようというのならその意気やよしと、夢結が三人を迎え撃とうと刀でも構えるかのようにザッとグラウンドを踏み締めながらブリューナクを地面と水平に持つのを見ると、眺める梨璃はハラハラするし、結局これまで彼女と手合わせの機会に恵まれなかった亜羅椰としては、抜け駆けでもされたかのような気分になる。

 

「お、お姉様!?」

 

「ちょっと! 辰姫まで何やって……あら?」

 

 さて、同じチームの指揮官三人から共に暴れてよし。と宣告されたあの利かん坊な先輩は何処へ行ったのか、隣に感じるマギの残滓から察するに──

 

「じゃあ、私も混ぜてもらおうかなぁ!」

 

 ──四人が交差する直前、覚えがある声と共に聞こえた何かが風を切る音に向け咄嗟に各々CHARMを振るえば、一人ひとつずつ確かな手応えが返ってくるのが答え。

 

「っ──これは」

 

「こないだ依奈様の……使ってたやつとはちょっと違うかぁ」

 

 ともかく弾かれたソードビットが主の元へ戻るのを見れば、そこには空中へ出した足場に佇みながら普段通りサブアーム越しに左右にライザーのシールドともうひとつ、背中にビットのキャリアーを兼ねた大型のシールドを携え、ビット制御のため着けたヘッドセットのバイザーを光らせる雪華の姿。

 

「うげ、例の新型ここまで見なかったと思ったら、こっちに回してきた!」

 

「ふーん……なんか面白そう!」

 

 『第4世代CHARMが十全に力を発揮すれば、その戦力は1レギオンに匹敵する』──なんて話を他の工廠科生徒から聞いたことのある弥宙としては、その真偽はともかくこうした団体戦に持ち出すのは理解こそしても実際にぶつけられる側になるのは御免被りたい風でいるが、隣の辰姫は更に歯応えのありそうな獲物の登場にティルフィングを構えワクワクを抑え切れずにいるのだから、このまま夢結に押し付けるとはいかないかと嘆息する。

 

「折角のお祭りなんだし、たまにははっちゃけさせてもらうよ!」

 

 左右のシールドからソードガンを二刀引き抜きながら、ソードビットは弥宙たち三人を囲うように全基を射出して雪華自身は足場から飛び降り夢結へ向かうのなら、対応すべきは──

 

「密集陣形!」

 

 片手間に飛ばしているにしては囲うまでが早いことから、自身も動きながらビットを操作するマルチタスクにも大分慣れていると見るべきだろうが──だとしても三人で死角をなくすよう背中合わせに周囲を見れば、それぞれ届くビットをCHARMで弾き返すのは容易い。

 

「その位置でも、わたしには見えてるのよ!」

 

 そして彼女らを包囲する数が五基となれば残るひとつはどこか……弥宙が持つ『レジスタ』の俯瞰視野は頭上から降ってくる最後のソードビットを捉えていたから、マルテを前後反転させシューティングモードへ切り替えると月詩の肩に右手をついて跳び上がり、左手に保持したCHARMで真横からビットを撃ち抜く。

 

「ふふん、どんなもんよ」

 

 あくまで競技だからと抑えてある出力では弾き飛ばしただけで撃墜は出来ていないとはいえ、この手は通用しないと見せ付けるだけでも意味は大いにあると満足げに弥宙が地上へ降りれば、月詩が両手に携えるクリューサーオールとグングニル・カービンの二刀で、今度は正面から突っ込んできたソードビットをまとめて弾き返している。

 

「ちょとつもうしーーーん!!」

 

 〈ヴィルトシュバイン〉──訳すると猪となる月詩の2つ名に恥じない勢いは、競技だからと普段と違い片手に防御用のシャルルマーニュでなく依奈のように両手に攻撃用のCHARMとなった今の装備では更に増しており、反転して何度向かってこようと同じと告げる代わりに、一基一基流れるようにビットを切り払い続ける。

 

 そうして何度弾かれようと横槍が入らないようになっているならそれで構わないと、レーザーブレードを発振させながら上空より夢結へ斬りかかる雪華は、見せ付けるような強襲をブリューナクで受ける夢結と言葉を交わす。

 

◆◆◆

 

「そういえば、夢結とこうして真面目に手合わせするのって初めてだっけか!」

 

「昔は妙にお姉様が雪華様と訓練を合わせるのに反対なされていましたからね……ですが、雪華様の戦い方は戦場で何度も拝見させていただいています!」

 

 美鈴のやつそんなことしてやがったのか……絶対に失礼な理由なんだろうなぁとお互い様な予感はともかく、だったら見覚えのないマニューバーを仕掛けるのみ!

 

「てぇぁっ!」

 

「……っ!」

 

 いつぞやのように夢結が振り抜くブリューナクの勢いには逆らわず、バク宙の要領で背中側のシールドが上下逆さまになり上部の砲口を覗かせるのを見せ付ければ、夢結が咄嗟に跳ねた跡をレーザーが薙ぎ払う。新型のシールドに固定武装として備え付けられた大口径のレーザーカノン──競技用に出力は落としていても脅しには十分とその隙に着地すれば、横から嫌な気配が。

 

─ルナティックトランサー─

 

「もう別に雪華様でもいいや、その首貰ったぁ!」

 

「ちょっ!?」

「何してんのよ辰姫ぃ!?」

「おぉー、張り切ってるねぇ辰姫ちゃん」

 

 まてまてまてまて。こんなとこでルナトラ使うやつがあるかぁ!? なんて言おうが言うまいがティルフィングを振りかぶった辰姫ちゃんが止まるはずもなく、先んじて踏み込み懐へ入るとライザーのシールドから防御フィールドを展開して振り切られる前に腕ごと受け止めるが、反対側では夢結が半身にCHARMを構え直している。

 

「雪華様、お覚悟を!」

 

「なんか夢結まで妙に殺意高くない? こっちのルナトラに当てられた?」

 

◆◆◆

 

「いきなり派手にやってるわね……」

 

 開幕早々グラウンド中央で大乱闘という有様には呆れるやら動きに感心するやらな日羽梨だが、こちらも気を抜いていられる訳でもないようで緑の疾風が脇を抜け……ようとしたところを神琳のマソレリックに受け止められていた。

 

「やはりいきなり仕掛けて来ましたか、梅様!」

 

「先手必勝、身内から倒しといた方が後が怖くないからナ!」

 

 実のところこの競技においての参加5チーム全てに一柳隊のリリィがいるのだが、神琳たちのチームだけは二人──しかも夢結に次いで手の内を知られているであろう雪華がいるということもあり、辰姫がいきなり抜けたのは予定外としても梅たちのチームが真っ先に攻めるべき相手には変わりなかった。

 

「やれやれ、〈百合ヶ丘の恋人〉さんから熱烈にアプローチされるだなんて、後で嫉妬が怖そうね」

 

「遠慮しなくてもいいのよー? しおりん以上に夢中になるってことだけはないんだから」

 

 互いにCHARMと軽口を交わしながらも、いきなりマークして来た聖のやり口に日羽梨は内心舌打ちする。辰姫がいつもの〈ワンマンアーミー〉に興じたおかげで守備についた全員が抑えられるという事態にはならなかったものの、ここで他のチームに攻められればどうなるか。

 

「っと!?」

 

 日羽梨がチラリと視線を動かそうとしたところで、仕切り直しに離れていた彼女と聖との間に吹き飛ばされて来るのは、雪華同様フラリと遊撃に向かったはずの亜羅椰。

 

 いくら普段の言動が不真面目そのものだろうと、決して生半可な実力でない彼女にそんなことが出来る相手など……と候補を探る前に亜羅椰を追って日羽梨の視界に入り込むのは、レギオンの仲間として見慣れた薄紫の長髪にツーサイドアップのテール、そして一際目を引く大きな蝶の髪飾りをしたリリィ。

 

「ふふふ……あら日羽梨、わたくしは無作法にもいきなり挑んで来たそこの肉食獣に文明人として躾をしていたところなのだけれど、道を開けてくれるかしら?」

 

(ほまれ)……? ええ、好きに暴れちゃいなさい!」

 

 その言葉に亜羅椰はパッと顔を向けてきて無言の抗議をしているが構うものか。同じサングリーズル所属の『円環の御手』持ちな二年生〈聖学の剣聖〉今川(いまがわ)(ほまれ)──日羽梨や聖たち同様の〈御台場迎撃戦〉参加者という武勇よりも、同じレギオンでこの競技においてもチームメイトなシルトである一年の清家(せいけ)知世(ともよ)が中等部時代天狗になっていたのを、挑まれた手合わせで彼女の指導担当としての立場以上の苛烈さでぼこぼこにして『わからせた』のが二人の馴れ初めとかいうSっけの強さの方が有名かもしれない彼女にロックオンされたのなら、それはもう自業自得なのだから。 

 

「あ、ちょっ……!?」

 

「さて、聖も邪魔をするのならご自由に? わたくし、二人まとめてでも構いませんから」

 

 このドタバタを押し付けて反転し梅を挟撃しようとする日羽梨を追おうにも、誉は右手のアステリオンを亜羅椰へ向けたまま聖の方へ左手に握るグングニル・カービンを振るい、ポールを伸ばして明らかに仕掛けてくる雰囲気だし、その間に起き上がった亜羅椰は当然のように聖の隣へスッと移動してくる。

 

「いいわ……聖様とのデュエットだなんて極上のボーナスですわ!」

 

「ふぅ、なんでこう百合ヶ丘(うち)のリリィって血の気が多いかなー」

 

 こんな物騒なご時世な上に、百合ヶ丘が守備範囲にヒュージネストをふたつも抱える対ヒュージの最前線だからだろうか? と分析してくれるような誰かもおらず、聖の嘆きはCHARMがぶつかり合う音に虚しく掻き消される。

 

◆◆◆

 

「──は、え、冗談でしょ!?」

 

 戻って雪華側、ルナティックトランサー持ちな辰姫が振るうティルフィングのT型という暴力的な組み合わせにもライザーの防御フィールドは問題なく耐えていたが、その内側のシールドを支えるサブアームが真ん中で嫌な音を立てている……というのが彼女の慌てた理由。

 

(どんな馬鹿力よ……これだからルナトラ持ちの強化リリィだなんて頭外れた組み合わせは!)

 

 その上反対側から迫るのはルナティックトランサーを封印していようが力と技の揃った夢結、弥宙と月詩は下手なことをして誤射するのを恐れてか突っ込んではこない──ならばと即座にプランを立て、タイミングを見計らう雪華。

 

(3、2、1──今!」

「はぁっ!」

 

 夢結の突撃に合わせ、辰姫に折られる前にアームごとシールドをパージし、()()()姿()()()()()()()

 

「っ……!」

 

「ようやく夢結様だ、いっただっきまーーーす!」

 

 いつものパターンなら背後を取られた。と夢結が警戒しようにも、宙に残された雪華のシールドをあらぬ方向へ吹き飛ばしながら辰姫がこちらに突撃してくるのだから、相手をしない訳にも──とブリューナクでティルフィングの斬擊を斜めに受けていると、辰姫の背後へビットを従えた雪華の姿が見え、新型のソードライフルに六基全てを連結させた砲撃形態を取らせていた。

 

「バスターライフル、セット──ここだぁ!」

 

「え、この角度……うわっ」

 

「おー、これ漫画で見たことある。『貴様が助かってもコナゴナだー』ってやつ」

 

 どうやら後方に控えていた弥宙や月詩と、彼女たちのチームの棒を雪華は一直線に捉えたらしいが、そんなことよりも今は目の前のこと。辰姫はジリジリと押し切るつもりのようで、CHARM越しに段々力が込められるのが伝わってくる。

 

「フフフ……もらったよ、夢結様!」

 

「それは、どうかしら!」

 

 辰姫が決めに動いた。と声に先んじて一気に力が強まったのに合わせ、ブリューナクで受けたままなティルフィングの刃を受け流すように逸らす。

 

「えっ、わわっ!?」

 

「せぇいっ!」

 

 そのまま返す刀で横薙ぎにティルフィングを弾き、引っ張られて体勢を崩したところへブリューナクを上段から振り下ろす──少し変則的な形になるが夢結お得意の十字斬りをCHARMで受けた辰姫がそのまま吹き飛ばされて行く先では亜羅椰たちがやり合っているのが見えたが、夢結もそこまで面倒は見きれないと振り抜いたCHARMを下げながら告げる。

 

「今度は最初から、もっと本気で来なさい」

 

「お姉様……!」

「なんか、夢結すごい!」

 

 レアスキルもなしにルナティックトランサー持ちをいなした、これが初代アールヴヘイムの実力だと言わんばかりの様子に一柳コンビが感心していると、あちらの方も決着の時のようだ。

 

「だーもう! このルールでそのレベルのバリア個人で持ってるの反則でしょ!?」

 

「これ出力制限食らってるし、もしグラム二刀流やれててもダメなんじゃ……」

 

 どうやら防御装備の方までは今回の競技の制限が掛かってなかったらしく、辰姫にシールドを一枚剥がされてもまだ二枚残る上に片方は新型となる雪華の防御フィールドを弥宙たちの火力では抜けず、バスターライフルへのマギのチャージが終わったのか銃身として展開するビット部分がバチバチとスパークを散らすのだから、これはもう見るからにタイムアウト。

 

「最大出力……は怒られるけど、発射……ぁ?」

 

 引き金を引いた瞬間、ガクンと足に力が入らなくなった。と雪華が自覚すると砲撃の反動も合わせて上半身が仰け反るようにして、視界が空へ向いている。

 

「な、なんですの!?」

 

 その結果光の奔流は弥宙たちのチームの的の真上を通ると守りに就いていた楓を驚かせながら天へ向かい、しばらく光の柱のようになると次第に細くなり、最後には消えていた。

 

「……どういうこと?」

 

「おーい……気絶してる」

 

 急に何があったのかと弥宙が困惑している中、倒れた雪華に月詩が近寄ると彼女は目を回していたのだから、自滅というオチでいいのだろうか?

 

「あれ、雪華動かなくなっちゃった? なんで?」

 

「えっ? えーと……」

 

「雪華様がマギ切れ……? 新型故のマシントラブル……それとも夢結様や辰姫さん相手に消耗し過ぎた……いやでも、普段ならもっと長時間フィールドを維持してても……ぶつぶつ……」

 

 それを見て結梨から飛んでくる質問への答えに困って二水を頼ろうにも、なんか思考のスパイラルに陥ってるから無理そうと梨璃が混乱していると、何かに気付いた夢結がやれやれという風に雪華と肩を組むようにして担いで、こちらへ寄ってくる。

 

「あれ、お姉様?」

 

「夢結、もうやらないの?」

 

「あれをご覧なさい、わたしたちのチームはここでリタイアよ」

 

 二人の疑問への答えは視線の先、夢結たちのチームの守りを担当していた壱が攻めてきたミリアムとのタイマンの中、彼女が『フェイズトランセンデンス』を発動しブレードの中央を展開し銃口を見せ付けるニョルニールから放った砲撃を避けた結果、背後の的を射抜かれてしまった様子。

 

「──避けてくれてありがとうなのじゃ」

 

「しまっ……!?」

 

「ふっふっふっ。入学から早数ヶ月、わしとて少しは考えて戦っておる……の、じゃ……よ……」

 

 熱しやすい性格から自棄になったと見せ掛けての頭脳プレーにまんまと騙されてしまったと、らしくないミスに壱が振り向くのとフェイズトランセンデンスの効果時間が切れてミリアムが倒れるのは、ほぼほぼ同時だった。

 

「…………素直にお見事です。とは言い切れないのがなんともね」

 

 呆れながらもこのままにはしておけないと、雪華に対する夢結と同じように倒れたミリアムを壱が担いでいると、彼女と同じチームな誉は辰姫まで乱入してきて混沌としていたエリアから離れ、チームの脱落に気付くとCHARMを下げながら自らのシルトを呼ぶ。

 

「あら、残念。知世、戻るわよ」

 

「あ、はーい!」

 

 金髪のボブカットな彼女を伴って誉が去れば、残されるのはよくよく考えればチームメイト同士である聖と辰姫の二人に挟まれる形となってしまっている亜羅椰。

 

「おっと?」

 

「ここで誉が脱落したのは有り難いわね。辰姫ちゃん、このまま亜羅椰ちゃんを抜いて梅と合流するわよ!」

 

「イエス・マム!」

 

「あー、悪いけどそれもう無理だゾ」

 

 勢いに任せて亜羅椰を倒そうとしたものの、梅は梅で先程辰姫の弾いた雪華のシールドが直撃コースで飛んできたのに気を取られた瞬間、神琳、閑、日羽梨の三人に囲まれてホールドアップ状態だった。

 

「なんだか色々決着が付いていますね……おお、あちらではローエングリンとサングリーズル、両レギオンの一年生と二年生のマッチングが! それに閑さんに向かってくるのは、LG〈シグルドリーヴァ〉二年生の──」

 

「ところで、雪華とミリアムどうするの?」

 

 二水が他の戦況に熱中している間に、夢結と壱が要救助者二名を連れて来たならと結梨が聞けば、上級生として夢結が答える。

 

「そうね……これくらいのマギ切れなら、少し休むだけでいいでしょう。二人とも一柳隊の控室に連れて行こうと思うのだけど」

 

「わかった、わたしも手伝う!」

 

 競技の様子も気にならないと言えば嘘になるが、今はなんとなくみんなのお手伝いをしたい。そう思った結梨が夢結と反対側から雪華を支えれば、梨璃もミリアムの方へ向かい同じように。

 

「壱さん、もう少しお願いしてもいいですか?」

 

「乗り掛かった船だもの、投げ出すような真似はしないわ」

 

 そのまま四人が二人を運んで行けば、残されるのは二水一人。

 

「……あれ、皆さんどこですか?」

 

「ちびっこ1号、一人で何盛り上がってるんですの?」

 

 いつの間に? とキョロキョロしていると二水も競技終わりの楓に回収され、同じく参加していた梅や神琳の待つ辺りへ連れていかれる。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。