アサルトリリィ~円環の赫星~   作:ですティニー

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前回のあらすじ:やりましたわと三年生枠に代入と色々大暴れとマギ切れでぐえーと。
若干予定とズレはしたものの、まあ区切りにはよかったんでね?ちなみにチーム配置の理由はなんか知り合いだらけだったのでと、縁による代入。
そんなこんなで、やり残しと他にも色々…間が大分空いた理由?ハンドラー・ミソラーに意味を与えられてました(違)


嵐の合間の──

「……戦死、ですか?」

 

 ──遠征帰りの検査が終わった後、教導官室に一人呼び出されて担任の先生から聞かされたのは、私の同室相手の訃報だった。別に知り合いの死が初めてということもなかったけど、いやに現実感がない。

 

「ええ、戦闘が終わったと油断していたら、生き残りのヒュージに死角から襲われたとのことで……」

 

「………………」

 

 まあ、戦場ではよくあることなのだろう。他のヒュージの死体の影に隠れてたとか、瓦礫の下から飛び出してきたとか、炎の中に潜んでたとか、ヒュージという人の常識という物差しで推し量れない相手となれば、こうしたハプニングもそこまで珍しくもないのだろうとやけに冷静な思考で先生の話を聞いていたけど、その内容はほとんど頭に入っていなかった。

 

「……ごめんなさい」

 

 その帰り、寮のエントランスで待っていたのは『あの子』のシュッツエンゲルだった二年生。何に対しての謝罪なのか問いただす気はなかったし、そもそも私が許す許さないの問題でもないしで彼女に頭を下げられたままどうしたものかと眺めていると、私を追ってきたのか姉さんがその場は取りなしてくれて、先輩が帰った後心配そうに聞いてくる。

 

「お前、大丈夫なのかよ?」

 

「正直、何もかも追い付いてないかな」

 

 これが目の前で死なれたとかなら、いつぞやのダインスレイフの彼女の時同様復讐に燃える展開なんかもあったんだろうけど、他所で死なれて敵討ちもとっくに終わっているとくれば、今更私があの子に何が出来るというのか。大体あの先輩の方こそ、これから遺族の方々とかに何度も頭を下げることになるのかもしれないのだし。

 

「とにかく今日はもう休め……っつっても部屋に戻ったら色々考えちまうか。しゃーない、今夜は俺の部屋に来い、霊奈は整備で缶詰めだっつってたし」

 

「ん、まあいいけど」

 

 姉さんが分かりやすく過保護にもなるくらい、()()()()()は妙に静かだった。それこそ、端から見たら心が壊れてしまったかと思われるくらいに。

 

◇◇◇

 

「ふぅ……最近、嫌な夢ばっかり見るなぁ」

 

 目が覚めれば一柳隊の控室──テンション上げ過ぎて気にもしてなかったけど、多分マギ切れで倒れただけだからと医務室に運ばずとも普通に寝かせるだけで十分と判断されたか。なんて状況を把握して体を起こせば、私以外にも向かい側のソファに寝かされていたちびっこが一人視界に入る。

 

「ミリアムちゃんまで……? まさか『フェイズトランセンデンス』でも使ったんじゃ」

 

「ご名答~♪まったくまだ予定あるのに、この子ってば熱くなっちゃってさぁ。雪華様も、また大分やらかしましたねー?」

 

 なんて特に答えを期待してなかった独り言に返事を寄越しながら、ついでに缶ジュース─じゃない、エナドリだこれ。翼授かっちゃったよ─ともかく、キッチン側の扉から部屋に入ってきながら、差し入れも投げ渡して来るのは百由。

 そしてちょこんとその後ろから付いてきていた結梨ちゃんの手には替えなのだろう濡れタオルがあったから、二人で私よりダメージありそうなミリアムちゃんの看病でもしてたんだろうか。私の方は、額を触ってみればまだそれなりに冷たい冷却シートが……おう。

 

「ま、ありがとうでいいのかなぁ?」

 

「わたし、頑張った!」

 

 結梨ちゃんが貼ってくれたらしくそこでむんと腰に手を当てながら自慢気に胸を張るのなら、まあ頭くらい撫でてあげようか。

 

「えへへ~♪」

 

「んぉ……ここは?」

 

 なんてやっていると私たちの話し声に反応してか、もぞもぞとミリアムちゃんが顔に乗せられた濡れタオルを掴みながら身体を起こす。

 

「あら、起きたのぐろっぴ? 流石というか、大分派手にやったじゃない」

 

「百由、様か……? あぁ、そういえばフェイズトランセンデンスを……使ったんじゃったな……」

 

 ミリアムちゃんは寝起きなのもあって、百由に誉めてるのかなんとも分からんことを言われてもまだ大分ボーッとしているようだけど、まあ記憶も平気そうだし特に問題はないか。

 

「ま、後は私が見とくから、二人は向こう戻っていいよ?」

 

「ではお言葉に甘えて。結梨さん、準備するわよー」

 

「はーい」

 

 はて、梨璃ちゃんの猛反対もあってほとんど競技には参加しないようにされてた結梨ちゃんの出番なんて、競技会もド頭の方で終わってたような気がするんだけど。確か紗癒さんとこのレギオンの子と競ってたはず──まあ、準備とか言うからには倒れてるミリアムちゃんの代わりに、手透きだからと臨時のお手伝いさんでもさせるんだろう。

 

「何させる気なのかは知らんけど、百由はあんまり無茶振りしないようにねー」

 

「あー大丈夫ですってば、元々ぐろっぴにやってもらうつもりだった役を代わってもらうだけなんで」

 

 やっぱりそういう系。ならまあそこまで過保護にならんでもいいか、どうしてもダメそうなら向こうにいる梨璃ちゃんか夢結辺りが止めるに決まってるし。

 

「じゃ、わたしたちは戻るからぐろっぴもしっかり休むのよー?」

 

「のよー!」

 

 なんて百由の語尾を真似ながら結梨ちゃんが背中から押され連れて行かれれば、控室に残されるのは寝起きが二人。

 

「とりあえず、差し入れ飲もっか?」

 

「……じゃの」

 

 テーブルの上にも百由が私に投げて来たのと同じ缶があるのなら、多分ミリアムちゃん用だろうと手渡せば二人して意味もなく乾杯してカシュっと小気味良い音を立てながら開けたエナドリを呷る。

 

「で、結局何やる予定だったのよ?」

 

「雪華様も前に見たとは思うが、例のメカヒュージがようやく実用レベルになっての。その内の一体を使って、わしとエキシビション……とは言うがその実模擬戦のようなものを予定しておったんじゃよ」

 

「あー、いつぞや某『でっていう』か何かみたいな勢いで乗り捨ててたやつ。てか訓練用の模擬ヒュージならシミュレーターのとかいつものメカメカしいやつもあるんだし、そこら辺のとなんか違うの?」

 

 なんだかんだそういうのには事欠かないくらいには各ガーデンで一般的に普及しているのだから、わざわざそれらと違う物としてあの天才真島百由がお出しするのが、大差ない代物とも思わんけど。

 

「おう、まず今日使う予定のやつは雪華様も見たタイプの制式版で、件の特型をベースとして本物のヒュージらしいリアルな動きを追究し、より実戦的な訓練に使えるように……んむ?」

 

 ほーん、またやけに拘りの強いのことを……って、途中でミリアムちゃんの解説止まったんだけど?

 

「のう雪華様、さっき百由様はなんて言うておった?」

 

「ん、どれのこと?」

 

「いや、結梨を連れてった理由の……」

 

「あー、確かミリアムちゃんの代わりに……」

 

 そうそう。で、ミリアムちゃんは今誰が何をするって話しをして……ん?

 

「……ミリアムちゃん、『それ』の時間っていつ?」

 

「……そろそろじゃのう」

 

 なるほど、なるほど。とりあえずそろそろ走れるくらいには頭も働いてると思っていいとして、時計から視線を外して目配せをすれば、ミリアムちゃんも大体飲み込めたのか無言で頷いてくれる。

 

◆◆◆

 

「わたし、できたよー!」

 

 さて、結果だけを言うならダッシュも虚しく間に合わなかった私たちが見たのは、なんかやけに長ったらしい名前だった百由謹製のメカヒュージによる触腕攻撃をCHARMでいなしながら踏み込んだ結梨ちゃんが、自身の髪色より幾分か濃い赤紫で彩られたフレームのグングニルを振るって、メカヒュージ君が四等分に斬り捨てられているところ。

 

「ほほう、よもや百由様の自信作に勝つとは、結梨のやつめ存外やるではないか。しかも最後の踏み込みからの流れ、まるで夢結様みたいじゃったぞ」

 

「夢結みたい、か……ねぇミリアムちゃん、いったいいつ誰が()()()()()()()()()()()()()()の?」

 

 そこまで盛り上がれない気持ちのまま学院側の見物人を見渡してみれば、今年からリリィな一年生程浮かれている反応が多くて、私と学年の近い上級生程何かしら考えてそうな率が高い。

 

「んあ? そもそも結梨はCHARMを持ったのすら今日で何度目かとかそんな……む?」

 

「だろうね。で、そんな新米が、夢結の動きなんてにわか仕込みで真似出来る? 無理でしょ」

 

 ミリアムちゃんも気付いたようだけど、本当にドの付く素人が見よう見まねでそれだけ動けるのなら、ガーデンも何も必要ない……そうなると、これを叶える身体能力なり技術なりは結梨ちゃんが“私たちに拾われる前”から備わってないといけない訳で。

 ここまで言えばその先は言うまでもないのか、なんか近くでショックからか項垂れていた百由も、顔を上げるとハッと額を押さえてヤバそうな感じでいる。

 

「あー、これわたしやっちゃいました?」

 

「ま、流石に結果論でしょこれは」

 

 とはいえ、デバガメどもの具合がどうかは確かめとくかと、『連絡網』のチャットを開いてそこら辺のテントの下から見ているだろう主任へ連絡を。

 

『どんくらい外野駆逐出来てます?』

『えっと、大方8割前後かなと』

 

 んー、微妙に微妙な数字。対処すべき範囲が広すぎて姉さんでも時間が足りなかったか、百合ヶ丘側は立場上『人道的な』回収にしか回れなかったにせよ、なんともまぁ。

 

「となると最悪今夜中には詰めとかないとか……ぐろっぴ、ちょっと手貸して」

 

「……おう。何やら呑気に結梨の初勝利を祝うなんて空気ではなさそうじゃからな」

 

 ともかく試合が終わりはしたから、安全のため張り巡らされていた柵も解放されて梨璃ちゃんを先頭に一柳隊の他のメンバーが結梨ちゃんに駆け寄ってはいるけど、私たちはそこに混ざれそうにないかな……あと、百由は不意に振り返って破壊されたメカルンペルくんだったかを怨めしそうに見ない、やることあんでしょ?

 

『で、『サンプル』の結果は?』

『さっき()()()()が直接持って来てくれました。後で渡しますから、落ち着いた頃に校舎裏で』

『ラジャー』

 

 おじさま……いた、理事長代行のテントに。烏丸(からすま)刀夜(とうや)、烏丸重工のCEOで、娘な姉さんより濃い灰色な髪の男性がスーツ姿で挨拶をしているのなら、一応そこまで話を通すのは間に合ったようで。

 

◆◆◆

 

 それからしばらく経ち夕方──そろそろ残すプログラムが僅かとなった頃、野暮用と言って離れた楓を見送ると、二水はついでに辺りをキョロキョロと見渡す。

 

「そういえば、ミリアムさんと雪華様戻って来ませんね?」

 

「まだ休んでるんじゃない?」

 

 あるいはどこかしらのタイミングで百由に捕まり、改めて手伝いにでも……と鶴紗がいくつかのパターンを思い浮かべていると、噂をすればなのか見慣れたド級のツインテールがチラリと視界に入る。

 

「いや、いた。あっちの方」

 

「えーと……あ、ミリアムさーん!」

 

 鶴紗の指差す方に梨璃が手を振れば、声に気付いたミリアムが特設ステージ周りの人混みを掻き分けて、一柳隊の一年生が集まる辺りに抜けてくる。

 

「ぷはっ。しばらく離れとったら、なんじゃこの人だかりは?」

 

「あれー」

 

 ぼやくミリアムへの答えは、結梨が指差すステージ。先日ミリアムたちに着せられていた例の衣装を身に纏う雨嘉が、その上でスポットライトを浴びせられている様子。

 

「あー、結局あれで出場したのか……よく雨嘉が納得したのう」

 

「ふふっ、ちゃんとお話しすれば快く引き受けてくれましたよ?」

 

 その時は雨嘉を壁際に追い込んで無理矢理着させたような代物を、自分が抜けているのに如何にしてと零せば、それはそれで何をどう『オハナシ』したのか気になる様子な神琳の答えにミリアムも余計気になってしまうが、まあいつものように「あなたならやれるわ」とか上手く乗せたのだろうとは読める。結果、雨嘉の頬が着ている巫女服モドキの差し色より更に赤く染まっているのが夕焼けのせいだけではないだろうというのも、致し方のない犠牲か。

 

『さて、ではコスプレ部門優勝者への景品として、今から納品ホヤホヤの高級パーツでCHARMのカスタマイズし放題と参りますよー!』

 

「え、あっ……!?」

 

 などと周りが結果に各々騒いでいると、マイクを手に現れた霊奈によってどこぞへ連れ去られる雨嘉を見て、昨夜一年生の入浴時間でもそんな話が話題になっておったな──との現実逃避も程々に、彼女らの消えていった方へ向け合掌するミリアム。

 

「おぉう……雨嘉のアステリオンや、コアとフレームくらいは拾ってやるのじゃ」

 

「あ、心配するのそっちなんですね?」

 

 実際、雨嘉自身はどのパーツを使うか聞かれるくらいで特別ナニをされるでもないのだろうから、二水のツッコミも一応というところか。

 

◆◆◆

 

「これ、私も混ざってよかったの?」

 

「ま、後始末なら『善意の協力者』で済むだろ」

 

 皆が色々最後の方のレクリエーションがてらなお祭り騒ぎに興じているだろう中、私はガーデン近くの森林地帯で姉さんのやっていた掃除の後片付けをしていた──どうにも今は皆と騒げる気分ではなかったから、霊奈さん越しで寄越された提案をありがたいと引き受けて。

 

「……で、正直わざと残してたでしょ?」

 

「なんの話だよ」

 

 即本題に入っても当然すっとぼけられるけど、姉さんのカスタムブリューナクはいつぞや私がバトルクロスでやっていたようにブレードタイプのビット─予想通り半透明な刃のそれ─をグリップエンドへマギのワイヤーでくくりつけるタイプの改造を施されており、単純なマギコントロール技術なら強化リリィな分私より上なはずの姉さんがやったにしては、どうにも『お掃除』の進行状況が遅かったように感じる。

 

「今回収してんの、ほとんど日本人じゃん」

 

「それがイコール日本政府の手先ってことにはならないなぁ。一応ワールドワイドな世の中だぜ、日本人だからって日本にしか住んでないワケないだろ?」

 

 言ってること自体はその通りでも、喋り方がどうにも言い訳染みている。まるで意図的に情報が流れる先を絞らせました、って言外に告げてるも同然……どうせ握らせたい情報だけ送らせたら、順に即KOだったろうし。

 

「単刀直入に聞くけど、何するつもりよ?」

 

「そうだなぁ……雪華、お前今の世界が()()()()()()()()()か?」

 

 なんか質問への返事の代わりにいきなり悪役みたいなこと言い出したけど、私の答えは悩むことなく出てくる。

 

「まさか。そんな風に思ってたやつが、あんたのレギオンにいたワケないでしょ?」

 

「……ま、そりゃそうか」

 

 世界を、少なくとも日本政府は操っているも同然なゲヘナへ散々に反抗した烏丸隊(シグルーン)。そのメンバーはどういう経緯があったにせよ誰もがこの世界に納得していなかったから、隊長(姉さん)の下戦い抜いた。だからこそ、その生き残りは私に限らずこの世界を肯定するか否定するかと問われれば、全力で否定する以外の答えなどあり得ない。

 

「にしたって、新しいレギオンにいりゃあ少しは考えも改まると思ったんだけどなぁ」

 

「それで先生たちにいらん根回しまでして……まあ、話は最後まで聞いてよ。私は世界なんてもんがどうなろうと構わないけど、少なくとも姉さんたちが良くしてくれるまでは、仲間たちと戦い続けるつもりだよ」

 

 多分このまま質問をはぐらかされるんなら、せめて伝えておきたい言葉だけは勝手に告げさせてもらおう。

 

「だから、期待していいんだよね……()()?」

 

「とは言うけどなぁ、今更世界全部をひっくり返せるような裏技があるんなら、こんなバカげた世の中には最初からなってねーからな? 都合良く逆転サヨナラホームランは流石に無理だっての」

 

 そこまでのことをやろうとするのなら、いっそ今の世界を一度全て丸ごと焼き払った方が早いんだろうけど、結局それをやってしまえばゲヘナと何も変わらないし、色々本末転倒だ。

 

「ま、何にしても『仕掛け』はするんでしょ? 期待は裏切らないでよね」

 

 だからと試すようにブリューナクの砲口を向ければ、姉さんも同じように返してくる。

 

「おいおい、当たり前のこと言うなよ」

 

 そのまま特に慌てることもなく、お互い撃ち抜くのは背後の相手──小型のヒュージ、しかもサーチャーにも引っ掛からないレベルの個体と考えると、たまたま紛れたはぐれだろうか?

 

「ふむ……誰かを襲った様子もないし、群れから落伍した個体ってとこか」

 

「いっそのこと残りの目標全部ヤってくれてた方が、面倒が少なくてよかったかもね」

 

「お前なぁ……一応言ったらアウトだろ、それは」

 

 なんて言われても、敵なら人もヒュージも関係ないのは姉さんも同じだろうから、呆れながらも一応なんて枕詞が付く訳で。とはいえこっちも学院絡みの任務ってことにはなってるし、真面目にやらない訳にもいかないんだけど。

 

「ああ、そういやこれ生徒会の誰にでもいいから渡しといてくれ」

 

 そんな中手渡されるのは、カラスのシルエットのマーク──烏丸重工の社印を捺された封筒。

 

「手紙かなんか? 今時古風な……生徒会長の誰か、ってことでいいんだよね?」

 

「おう。中勝手に見んなよ?」

 

「見ないよ、イタズラ好きな子供じゃあるまいし」

 

◆◆◆

 

 そのまま『掃除』も終わり、学院に戻る頃には日も暮れていたから、そろそろだろうかと校舎裏へ向かってみれば、いたのは案の定白衣姿の眼鏡女子。

 

「おや、思ったより早かったですね」

 

「なのに待ってたんだ……てか、景品の方は?」

 

 ちょっと前画像付きメールが一年の皆から送られてきた、コスプレ部門を優勝したらしい雨嘉ちゃん……のアステリオンを玩具にしてたろうに、結果だけ見れば私より先に霊奈さんがいるんだから、暇なのか忙しいのか分からん。

 

「とりあえずこっちからは新作な『天の秤目』と連動させられるモデルのレーザーサイトや大型マガジンを、百由ちゃんの方からは超長距離射撃用のロングバレルを、って感じですかねー♪あの子、狙撃が得意って聞いたので。流石にサイレンサーは断られちゃいましたけど」

 

「まあ、そりゃうちでほぼ唯一の遠距離担当ではあるけど……私はやれて火力任せの薙ぎ払いだし」

 

 何せ今は専用機だけでもトリプル高出力砲(バスター)だ。撃ちっぱなしにして振り回すだけで軽いヒュージの群れ程度は吹き飛ばせるけども、迂闊に被害を出せない街中とかになると、とてもじゃないがやれたもんじゃない。そういう点では、スナイパーが後ろにいるっていうのはいつまで経ってもありがたいもので。

 

「で、本題に入りますけど。()()は伝わったってことでいいんですよね?」

 

「まあ、でないと用意もしませんし? というか、雪華ちゃんってばどうやってこんな悪いやり口を……」

 

「……大体あなたたち見てたせいだと思うんですけどねぇ。それっぽい理由付けてラボ襲っては、それっぽい言い訳を繰り返してた」

 

 ともかく、私が送らせたグングニル・カービンのコアが『見知らぬ誰かの血』によって契約されていたのを、連絡網の方で「検査しといてください」と頼んでおいたのもあってこっちの近況も合わせてその狙いを把握してくれたようで、霊奈さんはその結果が入っているのだろう記録用のメモリを、懐から取り出している。

 

「とりあえず、例の新型ちゃんの調整案をカモフラージュに入れてますけど、結果の信憑性は保証しますよ。念のためその手の──まあ口だけは中立というか、故あればなんでもする闇鍋なところとかも通してますから。とはいえこれだけで白か黒かは、まだ光の当て方次第だとは言っておきます」

 

「なるほど……ま、ありがとうございました」

 

 そのまま渡されたメモリ、それが今回彼女がわざわざやってきた一番の理由である。本来パーツ類の輸送や納品だけなら当然担当は別にいるし、百合ヶ丘までの護衛もわざわざ霊奈さんの手が必要な程ではないのだから。

 

「で、雪華ちゃんが()()()にそこまで入れ込む理由って、いったいなんなんです?」

 

 と言われても特別な理由などありはしないんだから、ありのままを伝えるしかない。

 

「ありませんよ? 彼女がどこのどんな子であれ、私の仲間だっていうんなら誰にでも同じようにするだけ。たったひとつの特別なんかじゃなくて、皆と作る当たり前で大切な日々……多分“あたし”が守りたいのって、本当はただそれだけですから」

 

「ふぅ、あなたはそういう子だったですね。それ、かなりワガママ言ってるの分かってんです?」

 

 別に誰にでも無償の愛を、なんて博愛主義者のつもりは微塵もない。三年生にまでなってようやく私が心から守りたいと思えたのは、百合ヶ丘(ここ)で知り合った皆とのなんてことない毎日なんだろ──ん、足音?

 

「だ、誰ですの!?」

 

「あー私、私。撃たないでってば」

 

 誰かと思えばこの声は楓さん。とりあえずメモリを懐に入れてから振り向いてホールドアップして、怪しい者ではないと行動で示す。

 

「今誰もCHARM持ってないですけどね。ところで直接顔を会わせるのだとはじめましてですかね、楓・J・ヌーベルさん?」

 

「え、えぇ……霊奈様にはうちの隊の雨嘉さんがお世話になったみたいで、その、色々と」

 

 ふむ、楓さんの霊奈さんへの対応が何処かぎこちない。離れてる間にレギオン内でまた何か起きたんだろうか?

 

「ん、てかもういい時間か。じゃあお気をつけてー」

 

「はーい、お見送りご苦労様です」

 

 やることは終わったし、見付かった以上裏方ごっこもお仕舞いだと、手を振りながらそそくさと主任は退散する。

 

「で、なんの悪巧みをしていたんですの?」

 

 だけどそれで見られたという事実がなくなる訳でもなく、振り返れば少しは調子の戻ってきた楓さんのジト目に見据えられるから、懐から取り出したメモリをひらひらと見せ付け、一応用意しておいた方の理由を。

 

「折角の新型、御披露目にやらかしたもんだから開発者直々の改良点をね。本当なら百由ともじっくり煮詰めたいんだろうけど、あの人もあの人で忙しい身だからさ」

 

「へぇ、開会前は文句タラタラでしたのに、案外乗り気なんじゃありません?」

 

「それはそれ。競技会はかったるいけど、あの子自体はあたしとしちゃあ長年の夢が叶うかもしれないんだからねぇ」

 

 嘘は一切言っていない。『それ以外にもある内容』にはノータッチなだけで……しかしこのやり口はいつぞやの梅にはあっさりと本心を見破られたもんだから、内心穏やかじゃないけど。

 

「……まあ、そういうことにしておきましょうか」

 

「察しのいい子は好きだよ、あたしは」

 

 とりあえずは無罪放免、で済ませてくれるらしい。というより、訝しげな目線はそのままだから『また何か変なことをするのか』と確信を持たれてるだけか、これは。

 なんて思っていると楓さんは一度目を閉じ、少しの沈黙を作った後再び目を開けると、先程までの空気を切り替えるように真面目な声音を投げてくる。

 

「……雪華様、もう少しお時間よろしいでしょうか」

 

「真面目な話?」

 

「ええ、とても」

 

 飾り気のない単刀直入な言葉、それ故に抱える意味は強調されて聞こえる。ならばその続きは、襟を正して拝聴するとしよう。

 

「もし、もしですのよ? 知り合いが『人として越えてはならない一線を越えた』のなら……雪華様だったら、どう対処されます?」

 

「なんで私たちに相談しなかった、なんで一人で全て背負おうとした。って言いながら一発ブン殴るかな……昔、私がされたことだけど」

 

 いつぞや東京で語った反射的な『私刑』──それは結局姉さんに横取りされた訳ではあるけど、ラボ帰りなガンシップの機内で姉さんから鉄拳制裁されて送られた言葉が、それ。

 あの人の今の状況からぶっちゃけ「お前が言うな」ってダブスタクソリーダーになりかねないけど、まあそこは霊奈さんが共犯者してくれてるってことで? 身内贔屓と言われれば、それまでだけど。

 

 ともかくわざわざそんな前置きを強調された以上、これは例え話なんかでなく、本当に近しい誰かが何かをやらかしたということなんだろう。だったらまず、手遅れになる前に引き戻せ──それが私の経験則から送れる、唯一の言葉。

 

「言われるまでもないとは思うけど、少しでも間違っていると、許せないと思えたならそれが自分の中の答えだよ。そこに嘘を吐いたら、本当に取り返しの付かないことになる」

 

「そうですか……そう、ですわよね」

 

「ん、まあそんなとこかな。じゃあ私はまだ色々やることあるんで、ごきげんよう」

 

「ええ、ごきげんよう」

 

 多分、楓さんなら放っておいても自分の答えを見出だしていたとは思う。知り合い、と暈していても恐らくそれ以上の仲だというフィルターさえ取っ払えば、やることなど初めから決まっているのだから。

 

◆◆◆

 

 さて、次に行くべきは生徒会室なんだけど……まあ後始末やら何やらで忙しいわなと。内部だけでなく真っ当な来客の出入りの確認から、姉さんも絡んでた招かれざる客の問題まで。

 

「雪華様? すみませんが、今は見ての通りなので……」

 

 そんな訳で一応のノックの後部屋に入ってみれば、書類の山に囲まれているのは祀さん。他の三役(会長)や役員たちもいないってことは、時間的に食事に行かせて一人引き受けた、ってところだろうか?

 

「失礼します。祀様、こちらに置いて……雪華様?」

 

 なるほど、流石にそれを見過ごすような訳もなく、代表して閑さんが祀さんの分だろう夕食の乗ったトレーを持って入ってくる。

 

「おっと、お邪魔だったかな?」

 

「いえ、そのようなことは……手紙、ですか」

 

「うん、姉さんから生徒会に届けてって頼まれちゃってさ。あの人やること終わったらすぐ帰るし」

 

 中身も見るなと言われている以上、読むところに居合わせるのもまたアウトだろう。口約束程度いいだろうと言われても、一応は元隊長で元お姉様のお言葉だ、通すべき筋くらいは私にもある。

 

「ともかくこれも一緒に置いとくから、揃ったら確認しといてよ」

 

 そう言って閑さんの持ってきたトレーの横に件の手紙を添えると、まだ用事はあるからと足早に退室。次に向かうのは──

 

◆◆◆

 

 ──工廠科地下の工房、その35番を割り当てられた生徒の元へ。どうせこのまま徹夜コースだろうからと、差し入れに購買部でおにぎりをそれなりの数買って向かう。どうにもまだ食堂で皆がいる中食べるような気にもなれなかったから、自分用のもいくつか突っ込んで。

 

「やあやあ、難儀してると思って救援物資だよーっと」

 

「なんじゃその無駄に高いテンションは……」

 

 実際無理して上げてはいるんだけども、毎度忙しい工房主の代わりに出迎えてくれるのは助手のミリアムちゃん。一応・v・(フォン)って名前に付いてるってことはお貴族サマのはずなんだけど、こうも面倒見るのが小慣れてしまっているのはなんなのか。

 

「まあよいか。ほれ百由様、豚トロおにぎりじゃぞ」

 

「あむ……」

 

 迷いなくお高いの取ったね? そこら辺のは自分用のつもりだったのに……まだまだあるし別にいいや、シャケおいし。

 

「んぐ……で、まさか冷やかしに来た、なんてことはないですよね?」

 

「勿論、百由にはこいつをプレゼント」

 

 ともかくミリアムちゃんから何個か餌付けされたのを飲み込むと、流石に用件があると分かって話を振ってくるのなら、答えはメモリを百由の手元に置くことで。

 

「……なんです、これ?」

 

「実はあたしもまだ見てない」

 

「おいおい……」

 

 実際手持ちのケータイとかそんなもんで読み込める訳もなく、部屋に戻ってもいないから中身を確かめる機会なんてありませんよっと。

 しかし百由が自分の端末に差し込んでその中のファイル──CHARMの方でなく本命の方を開くのを見ても、何がなんだか分からんのは同じなんだけど。

 

「それで、なにこれ?」

 

「ふむ、見たところ何かしらの解析結果のようじゃが……」

 

「……これ、いったいどうやって手に入れたんです?」

 

 とはいえ百由が急に真面目な声音になったから、どうやら当たりではあるようで。

 

「あー、一応『合意』だとは言っておくかな」

 

 つまりはいつぞや私のグングニル・カービンに()()()()()、結梨ちゃんの血から取れた遺伝子情報を霊奈さんから各地の企業なりなんなりに解析を頼んで貰った──そういうことになる。

 ということを伝えると、ミリアムちゃんからは「おぬし……」となんとも言えない目を向けられるし、百由は考え込んでいる。

 

「確かに、基本ゲヘナ過激派からは距離を置いてるところばっかり通されてはいますけど……まだ、まだ一手足りない……」

 

「そうなのか? よく分からんが、これだけの数の機関を通して結果が同じならば、証明には十分そうに見えるのじゃが」

 

「逆に十分過ぎるのよ、お手本通り過ぎて怖いくらい。これは、結梨さんのDNAパターンが()()()()()()()()()って結果なの……一応、間に合わなかった時の時間稼ぎには使えそうだけど、これじゃあくまで客観的な結果でしかない」

 

 つまり決め手として使うのなら、主観的な──『作った』側のデータが必要ということか。とはいえそれがやれるのなら、最初からこんな面倒なことにはなっていない。

 

「うーん、そこまでやってくれと頼むには色々とね……連絡するだけなら早いけど、流石に足も付くだろうし」

 

「わたしも相手がそこまで間抜けだとは思ってませんよ、迂闊だとか杜撰だとは言えますけど」

 

 まあ、それはそう。恐らく何かしらの実験だかの成果だろう結梨ちゃんをあっさり百合ヶ丘に拾われた挙げ句、ここまで特に騒ぎ立てることもしてないのだから。

 そうなっているのがあくまで一部の連中の暴走に過ぎなくて、上にバレたら問題になるから黙ってる……なんてのが一番望ましいけど、ここで彼女の『性能』が内外に見せ付けられてしまったのはちょっとと言わず不味い、結果で不手際を誤魔化せる恰好の素材が出来てしまったから。となるとこの後のことも少し変える必要が──

 

「っと、そろそろ時間がアレか。百由、とりあえず渡したからね!」

 

「ん? あれ、行っちゃった」

 

「なんだか今日の雪華様は忙しないのう」

 

 実際ミリアムちゃんの言う通り、忙しいんだから仕方ない。えーと、もう後は部屋戻って……お風呂は時間カツカツだからシャワーで済ませる。それからは──

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