さて、そろそろ本題ですが、楔は方々に打ち込んでいるつもり…そんな回っす。
で、タイトル通り、世界単位で見ると何で滅んでないのってくらい上が相当腐ってるアサリ世界…だとしても、足掻いてみせるしかあるまいて。
「……ん?」
あれから急いでシャワーを済ませ、無作法にはなるけど寮の廊下を歩きながらタオルで頭を拭いて部屋に戻るかどうかってところで、懐からする着信音。この設定は……やっぱり、『あやちゃん』か。向こうもガーデンに入学してからはそういうのなかったのに、珍しいなぁ。
「はいもしもし、あやちゃん?」
『あ、雪華姉ー。元気?』
「まあ、元気だけど。どうしたのさ急に? そっちだって訓練に出撃にと忙しいでしょうに」
部屋に戻って鍵を閉めながら出れば、電話の向こうから聞こえるのはふたつ下の従姉妹な
『んー、たまーーーに電話して様子見といてとは
「相変わらずマイペースだねぇ。で、神庭の方はどうなん?」
『まあ、東京は御三家もあるから鎌倉程頻繁に守備範囲にヒュージが出るってことはないけど、その分出る子らのやる気は十分だからねー。中々思ったように活躍出来ないや』
ベッドに腰掛けながら聞いてみるけど、その御三家の一角なルド女、明らかに内外共にズタズタそうなんだがなぁ。現地のガーデンからすれば、また見え方も違うのかどうか。
『で、御三家といえば雪華姉こないだルド女の救援に来てたんだって? 東京まで来てたんなら、なんでこっちに顔出してくれないのさー』
「いやいや、予想外の規模で被害広がってたからって慌てて助太刀しただけで、こちとら戦闘終わったらもう深夜だったからね? そっちも授業あるんだし起こすのも悪いでしょーが」
『そうだけどさー、可愛い従姉妹がどうしてるかー。くらい見に来てよー』
うーん、なんだろうね。あやちゃんと話してるとやっぱりテンションが大分向こうに引っ張られる。まあ最近きな臭いことばっかりだし、息抜きにはいいのかな。
「なら、今度東京行くようなことあったら顔出すからさ。予定開けといてよ」
『オッケー。今月中? 課題の都合もあるから、余裕ある時がいいんだけど』
「まだそこんところは分かんないかな、こっちはまた忙しくなりそうだし」
『えー、そんなのちゃちゃっとやっつけちゃってよー。雪華姉強いんでしょ?』
やっていいんなら、もうとっくにヤってるよ。そもそも今回の件は誰を潰せばいいのかもまだ分かんないし……なんてのを通常の電話回線で従姉妹相手に話せるでもないから、苦笑いを返しておこう。
『うるさいなぁ、人が寝てる横で』
『あはは、ユウは無駄に早寝するから損するんだよー?』
『日本じゃ三文の徳って言うんじゃなかったかなぁ? 僕の覚え違いじゃなければ』
なんて濁しているとあやちゃんの同室相手を起こしてしまったようで。確かに10時に寝てるのは早いなとは思うけど……ってもう10時か。
「んじゃ、同室ちゃんにも悪いからそろそろ切るねー」
『えー……まいっか。おやすみー』
さて、切ったならそのまま今度はアプリを開いて〈連絡網〉のグループから今使われている物を選んで、参加状況を確認……よし、十人揃ってるね。
『そろそろ時間だけど、番号。いーち』
『にー』
『さーん』
『しー』
『ごですわ』
『ろーく』
『し、しーち……』
『はーち』
『きゅ、きゅう?』
『じゅう!』
よし、揃ってるね。ちなみに内訳は上から私、エレンスゲ組、御台場組、神庭組、ルド女組、葵ちゃんの順番。てか、リリィオタク組はチャットでも普段のノリなんだ? 徹底してるというか、素直に手間でしょうに。
『さて、とりあえず百合ヶ丘は大分きな臭いことになりそうだけど、今日は最初ってこともあってまずは全体的な情報共有からにするつもり』
『それこそ真っ先に聞きたいところなんですけど?ならあたしたちから行かせてもらいますか』
ひとまず私は最後になりたいですと態度で示せば、最初の報告はエレンスゲの二人から。
『調べた限りで分かったエレンスゲの内情、思ってたよりややこしいことになってるっぽいんだよねぇ』
『まず今のエレンスゲの校長──
『八雲?それって確か御台場のOGじゃなかったか』
『ええ、確か現役時代のアキラ先生や
反ゲヘナガーデン出身が親ゲヘナガーデンの校長に、ねえ。どんな経緯でそうなったかは知らんけど、そりゃあ冷遇されてなきゃ嘘だろう。
『ともかくそういうこともあってヘルヴォルに指示出すのは、基本ラボ寄りの無駄に偉そうな教導官ばっかり。当然感じはめっちゃ悪い』
『あとは、特に隠されてもなかった資料から知った情報なんだけど……藍は『生まれながらの強化リリィ』らしいの』
『生まれ、ながらの……?』
『どっちかと言えば生まれる前、になるのかもしれないけど、ともかく胎児の段階で母親の方にヒュージ細胞を突っ込むことでお腹の中の子供もまとめて強化する──書いてる限りじゃそんなやり口だってさ』
『そんな受動喫煙みたいな』
茶化すように書き込んでるけど、内心は中々煮えくり返っている……イノチを弄ぶのも一石二鳥ってか? ふざけんなよ。
『で、藍はそんな生まれのこともあってラボの方に定期的な検査だなんだで呼び出されることも多いし、逆らおうにも実際何が起こるか分からない。って教頭が煩くてさぁ』
『つまり、校長派閥よりそれ以外の派閥のが勢力としては上で、大して改革は進んでないと』
『そんな感じ。校長との接触も「お忙しいから」とか「代わりに伝えておこう」とか適当な理由付けられて……ただ、代わりに直属になってる序列2位レギオンの『クエレブレ』は、校長先生がそういう方針なのもあって酷い扱いはされてないみたい』
『き、聞いたことがあります。強化リリィ特務レギオンクエレブレ!本来ならそちらが序列1位のレギオンに納まるはずで、その名残もあって隊長には〈シャナ〉という称号が贈られるとか……』
こういう時に話が早いのは、リリィオタクな佳世。しかしまあ、なんかツンデレでメロンパン好きそうとか思ってしまう呼び名……とは言うなかれ。一応、リリィって『神宿り』なんて髪や目の色変わる技? もあるけど。
──ちなみに後日、二水ちゃんからその序列2位の子と知り合いですよーという話を聞いてコーヒー吹き出しそうになって無理に飲み込んでむせたのは、また別の話。いや、どういう経緯よ?
『ま、そんだけエレンスゲが内部からガタガタだってことは伝わったと思うけど。おかげで校長派な序列2位の一年にも睨まれてるし』
『でも、あの子少し前の恋花と似てるような気がする。一葉に噛み付く感じとか特に』
『あー……いや、実際そうか。向こうも大概リアリストなんだろうけど、理想だけじゃどうにもならんからあたしらもこの集まりに参加してる……って外には漏らせないか。校長の噂が本当なら、一応敵って訳じゃないはずなんだけど。味方かっていうと今度はこっちの微妙な立場がなぁ』
またなんかリリィ同士でも面倒なことになってそうで。ひとまずエレンスゲの話はこんなところらしいと、次は姫歌ちゃんが切り出す。
『えっと、神庭はゲヘナに対するガーデン側のスタンスが中立なこともあって、恋花様たちのように直接的な話ってことはないんですけど……今の生徒会長、二年生の
『秋日ね……うん。確かにあの子は中等部の頃エレンスゲを出てったし、その理由もよく分かる。多分、あたしも何処かで選択が違えばそうなってたってくらい、あの戦い……〈日の出町の惨劇〉はおかしかったから』
『それで、その戦いの時偶然知り合った子と神庭に、とは聞いたんですが……それが誰かまでは、多分秋日様自身がガードしてるのかなと』
『そっか、元気そうでよかったよ……ってこれじゃまたあたしの話になっちゃうか。ごめん、続けて』
この前叶星がその会長さんの名前を出した時の反応といい、わりと親しかった相手のことについ話しすぎるのを抑える恋花に促されれば、今度は紅巴ちゃんが。
『それと、わたしたちのクラスメイト……のルームメイトの方が神庭に来る前は何かしらの実験に失敗したからと移されたラボで暮らしていて、そのラボがゲヘナの仲間割れで襲撃されたどさくさに紛れ、仲のよかった研究員の方に逃がされた……という話が』
『またなんかややこしい話だなぁ。エレンスゲといい、ゲヘナも一枚岩じゃあなさそうだね』
楪がボヤくように、世界規模の複合企業だなんてなると国どころかラボや個人単位で方針が違う。なんてこともしょっちゅうだろうし、動かせる『戦力』があるのなら気に入らないところを襲うくらいは、まあ平然とやるんだろう。
というのはともかくとして、さっきあやちゃんと話したばっかりなのもあるし、神庭組にはちょっと聞きたいことがあったと思い出す。
『そういやこないだは聞きそびれてたんだけど、二人のクラスメイトに神代彩文って子いない?』
『え、今紅巴の話してたクラスメイトがその彩文ですけど……お知り合いなんですか?』
『うん、今年から上京した従姉妹でさぁ、この前もクラスメイトがトップレギオンなんだーって自慢してきたし。元気してる?』
『あー、灯莉程じゃないですけど、元気な子だとは思います?』
ふーん、なるほどなるほど。というかそうなると、襲撃されたラボ出の子ってさっき不機嫌そうだった子か。毎度のことながら世間が狭い……
『んじゃ、次は御台場か。セインツには二人強化リリィがいるけど、二人ともさっき名前出したアキラ先生に助けられてて、三年の先輩の方は強化されてすぐだったから、イルマの方のラボに運ばれてブーステッドスキルを外した……ってくらいかな』
『穏健派のイルミンリリアンラボねぇ、信じていいのやら……』
どうしても穿った見方しか出来ない私じゃ、
『で、そっちの変態だけど。私より純が説明した方が早いだろ』
『……敢えて否定はしませんわ。我々ロネスネスには強化リリィは一人しかおりませんが、それが少々特殊と言いますか』
『あんなの変態でいいだろ変態で。ヒュージの攻撃食らって逆に嬉しそうにしてるし、めっちゃ気持ち悪い感じにクネクネしてるし』
純が大分言葉選びに困ってるのをいいことに、楪は変態変態好き勝手書き込んでいるけど、ともかく個性が強いのは伝わった。
『去年、わたくしと姉様は各地を遊学していたのですが、京都の山中で継ぎ接ぎだらけのCHARMを持った強化リリィと遭遇し、打ち倒したのをきっかけに国外どころか御台場に帰るまで付きまとわれる羽目になりましたの』
『う、うん?』
『だから言ったじゃん、変態だって』
確かによく分からん。そもそもなんで山の中にいたのか、継ぎ接ぎだらけのCHARMなんてどう用意したのか、というか負けた相手をストーキングするって何? お礼参り……にしては今は同じレギオンだし。一目惚れ?
『曰く、元々いたラボの方は「これ以上強くなれそうになかったから」と壊滅させて山中を彷徨っていた、とのことですが。本当のことかどうかはなんとも』
『案外、あやちゃんのルームメイトみたくその継ぎ接ぎだらけのCHARMを研究員に渡されて逃がされた、とかかもね』
流石に古都といっても、未だ文化的な理由から護りも厚い京都なんぞに作ったラボがたかだか一人に壊滅させられるような規模とも思えんし、思い出したくなくて暈したとかだろうか?
となると楪にひたすら変態と言われてる人物像とは微妙に噛み合わんけど、その態度が過去を勘繰らせないためのポーズ──かは分からんね。
『じゃあ、次はルド女ね』
『さ、幸恵さん……その、わたしでよければ、代わりに』
『いいえ、これはわたしが伝えないといけないことよ。未来お姉様のシュベスターとして、わたしが』
未来、か。戦場ですれ違った時に数度声掛けをしたくらいの関係でしかないけど、私の知る中でも最上位に置いていい実力者──ルド女の鬼神。
その未来がゲヘナに何かされた。とは下北沢の一件で彼女の妹で今は幸恵のシュベスターな来夢ちゃんが襲われた時、葵ちゃんが触りを聞いていたけど……これから語られるのは、そのより深い部分。
『未来お姉様は、あるケイブに襲われた際レアスキルの『フェイズトランセンデンス』を限界まで使い、マギの制御を失って爆発させ戦死した……そういうことに
『それって、この前ヒュージに襲われてた二人、ですよね?』
『ええ。改めてになるけど二人のことを助けてくれてありがとう、葵』
『いえいえ、クララたちのおかげですから』
さて、『されていた』ということは当然秘密にされた真実があるということで、この場で話す以上ある程度は読めるとしても、それ以上は誰も挟まず幸恵の続きを待つ。
『でも、未来お姉様は生きていた……いえ、生かされていた、と言うべきかしら。ゲヘナの手による度重なる強化実験で、体内のヒュージ細胞が暴走して自分で自分が抑えられなくなったお姉様は、急に現れてギガント級を撃退した後わたしたちに「迷わず倒しなさい」とだけ告げて……』
『……つまり、未来は在学中から強化リリィだったと?』
『そう、なります。だからああなる前に、わたしたちの前から姿を消そうとして、ゲヘナの手によるケイブに襲われ……そして、再びわたしたちテンプルレギオンの前に現れたお姉様は、もうほとんど人の姿をしたヒュージと化していた。飛び散る血の色はヒュージと同じ青錆びた物、受けた傷もすぐに直って、仲間たちが次々倒れて行く中、最後はわたしと聖恋が動きを止めて、来夢が……ギガント級へ放つはずだったマギスフィアで、お姉様を』
いくら『リジェネレーター』でも、不死身の能力という訳では絶対にない。再生が追い付かず致命傷を受ければそのまま死ぬし、大型のヒュージすら消し飛ばす一撃をその身に受ければ……例え原型が残っていようと、再生に使うマギが足りるはずもなく。だからって、なぁ。
『本当に、それしかお姉様を苦しみから救う手段がなかったのかは分からない。けれどそれがお姉様の最期の祈りで、わたしたちは約束したから……だから、未来お姉様やこれまで犠牲になってきた全ての命に誓います。ゲヘナの手から、必ずルド女を取り戻してみせると』
『これは、姉さんに話通しといた方がいいかもね』
『あ、それでしたら実は最近も二年生の誰かが不自然なケイブに襲われて、ラボに搬送されたって話が……その人は琴陽さんの知り合いだったみたいで、珍しく落ち込んでました』
おいおい、進行形にしたって節操が無さすぎるでしょうが……あと姉さん、取り込み中なんだから『管理者特権で見てるから心配すんな』とか
『なんか、ウチのガーデンって他と比べると恵まれてるんだなぁ……いや、家庭の問題ばっかりだから逆にややこしくはあるか』
『そういう葵ちゃんの方、相模はどうなん?』
『うーん、知ってる強化リリィって言ったら違うレギオン、〈特命遊撃隊〉の
まあ、そこまで悲壮感漂わせてる子じゃなかったし……ん、なんで覚えがある?
『あー、もしかしてその子二年で、名字は伊東だったり?』
『うん。なんで雪華先輩が……ってそうか、苗陽先輩中等部は百合ヶ丘にも通ってたんだっけ』
確か閑さんの異母姉……いや、今時そういうのあるのかってなるけど、お金持ちはまだそういう『火遊び』は結構やってるようで。
ちなみに妹な閑さんの方のお母様が本妻という、中々ややこしい家庭だとは在学中の霊奈さん情報。なんてこと調べてんの?
『さて、一通り終わったようならホストの私になるけど……まず、今のうちの隊に強化リリィ『は』一人しかいないし、彼女の実験を担当していた連中もこないだ私たちがその子を助けてる裏で姉さんが軒並み捕縛したようだから、その点ではもう解決したと言っていいかな』
『また含みのある強調ですわね』
『正直答えが出てないからなんとも言えないけど、その子の件の帰りに拾った子がいるんだけど、前後の状況からまあゲヘナ絡み……としか分からなくてね』
だとしても、それから手に入った情報からもう大分黒ではあるんだけども……結梨ちゃんと同じ顔した子が『量産』されて襲って来る展開とか、あたしゃ嫌だよ?
『あー、それって楓が言ってた件?』
『まあ、多分そう?』
『お、ホントにあの楓・J・ヌーベルと知り合いなんだ』
え、恋花そこ疑ってたの? 所属も二重に同じって言ったのに……この場合葵ちゃんの方込みかもしれないけど。
『総評すると、現在ルド女と百合ヶ丘が危うい状態、ということでよろしいですわね?』
『ま、御台場は今のところ保護され終わったり勝手に抜け出したやつばっかりだしな』
『あ、エレンスゲは逆に問題ない扱いなワケ?』
『結局内側での派閥争いだから、今すぐ周りに飛び火する……って程でもないのかな?』
そして神庭もとっくに抜け出した子だけ。下手にちょっかいを出すといらぬ敵を作るだけだから、中立という立場も有効に働いていると。
相模は……提携相手とはいえエレンスゲ内部が落ち着かない内は巻き込まれそうにない、でいいのかな? メーカーがバックにいるのは同じだし、内輪揉めも収まってないのにこっちまでつつくと面倒事が増えるだけなのは、流石に向こうも分かっていると思いたい。
『で、拾った子なんだけど一柳隊が拾ったからって名字もそのまま一柳にしてるから、分かりやすくはあるのかな?』
『う、噂は聞こえています!一柳結梨さん、その名前はレギオンの隊長な一柳梨璃さんと副隊長な白井夢結様のシュッツエンゲルに付けられたカップルネームの〈結梨様〉から取られた。とかなんとか……』
『夢結も大変だなぁ、折角シルト出来たのに冷やかされて落ち着けないなんて』
『でも、こないだ話した限りじゃ思ったより元気そうでよかったわ』
だからリリィオタクのネットワークで流れるの早くない? とはいえそこで知られているのは大きいか、日中のことでいつ彼女を『造った』連中が動き出すか分からなくなったし。
その後はもう軽い雑談で済ませながら、また集まれそうな時を聞いてこういう場を設けたい、と共有して各自思い思いのタイミングで解散となった。
◆◆◆
さて、明けて翌日な今日は競技会の振り返り休みで講義も訓練もなしとなれば朝から控室へまばらに集まりもするけど、その面子が私以外には二水ちゃんと結梨ちゃんに加えて今入ってきたミリアムちゃんのちびっ子トリオのみというのは、結構珍しい顔ぶれ。
「ふぁ……ん、おぬしら朝から何を見ておるんじゃ?」
昨夜百由と色々やってた影響か、まだ眠そうに目を擦るミリアムちゃんがそう聞きながら混ざってくるならと、ちょいちょいと手招きして端末の画面が見えるようにする。
「ほほう、アニメとな? わしも日本のアニメについては一家言あってのう……ん、なんか今不自然に場面切り変わらんかったか? というか絵柄も別物じゃろこれ」
「あー、これ実家から持ってきた好きなシーンの寄せ集め編集だから。なんならアニメどころかニチアサの特撮系も結構あるかなぁ」
なんて話しながらシーンを切り替えてみると、存外に食い付きはいいようで、ミリアムちゃんは私たちの座るソファの後ろで腕組みしながら頷いてくれていた。
「ふむ、時間があればたまに『チャーミィリリィ』のついでで見ることもあるが、こっちも中々派手で悪くないんじゃよなぁ」
「結梨はこの、仮面のヒーローが好き! へーんしんっ☆」
「わたしも特撮は大好きですけど、ロボアニメの方も捨てがたいんですよねー……そうなるとやっぱり──先生っていいなぁ……」
この中だと二水ちゃんが一番私寄りだろうか。てか、この前のバッタ兄弟といい、二水ちゃん妙に仮面の緑枠好きなこと多くない?
この感じだと、中の人というか外の人というかが同じロボの方も好きそう。いやでもこないだ別のシリーズ見てた時「ファイター、いいですよね」とか言ってた気がする、確かに私も阿修羅サーベル回とか大大大大大好物だけど、劇場版とかもう異次元過ぎて笑うしかないけど。
「あ、そろそろ梨璃と約束あるんだった。じゃあ……えっと、ごきげんよう??」
「はいごきげんよう。またお昼にでもねー」
「ん……?」
そこでチラリと時計を見ると軽い挨拶を残して結梨ちゃんがドアを開けて入ってくる鶴紗ちゃんとすれ違いながらてくてくと去って行くのなら、空いた私の隣に座ってくるミリアムちゃんへ布教タイムと行こうか。
「さて、アーセナルってことはメカ全般好きっしょ? いいもん揃えてますよお客さん」
「いや、いったい何モードなんじゃそれ?」
──なんて和気藹々とした雰囲気も、結梨ちゃんが出て行ってしばらくしてから届いた通達で、全て台無しになるんだけど。
◆◆◆
少し時間が経ち、百合ヶ丘は校舎の屋上──不意に疾った閃光が止めば、そこに残されるのは三人と一人。
「……まあ、CHARMを持たないままCHARMを持った
「祀、まさかあなた最初からこうするつもりで……?」
「『なんとかするから時間を稼いでくれ』、あの手紙にはそう書いてあった。それなら、望まない仕事へ本気になる必要もないでしょう」
誰もいない──いなくなった場所を眺めていた祀は隣の金髪の二年生、眞悠理からの質問へ答えると、自分たち生徒会三役と一人向かい合うように振り向く夢結を見据える。
「それでも私にやれるのは結梨さんを『この場で捕まえない』までよ。後は任せていいかしら、“夢結”?」
「祀……? ええ」
普段はさん付けで呼んでいたはずのルームメイトからの呼び捨て──夢結がそれに驚くのは一瞬、そう呼ぶということは今の彼女の言葉はルームメイトでも生徒会役員でもなく『戦友』としての物だと捉えていいのだろうと、静かに頷く。
そしてその戦うべき相手とは、ガーデンの
◆◆◆
「あなたは……」
時を同じくして百合ヶ丘の校門前──本国から届くはずな『ある物』を受け取ろうとした楓のたどり着いた先には、多数のスーツ姿の大人たち。
その半分がもう半分を組み伏せていることから何らかの抗争があったのかと分析していると、勝っている方のリーダー格と思われる女性のサングラスを外した下の目に、何故か見覚えがあるような気がした。
「はじめまして……じゃあないか? 母さんが生きてた頃、一度だけ本社のパーティーに海外のメーカーも呼んだことがあったと思うけど」
「……やはり、あなたが零夜様ですのね」
記憶の彼方にある、彼女の兄の横で来客に笑顔を振り撒いていた自身より少し歳上の少女と、今サングラスを外しながら語り掛けてくる何も光を映していないようなくたびれた赤い瞳は上手く一致しないが、それでも語り草とその奥に残る僅かな光で確信は持てた。反ゲヘナの活動に積極的な烏丸重工の、その次期総帥となるのが彼女であると。
「今回の件、どうにもキナ臭い感じしかしないからって色々調べててな。それでフランスの本社からグランギニョルの車が来てるからと百合ヶ丘にカチコむバカがいないか網を張っていたら、これだ」
「如何なる非道を働いてもその行為が正当化されると思い込んでいる輩は、何時の世もいると……これは今更ですわね」
そもそもそういう思い上がった下郎に仲間を好きにさせないがため、楓は本国から送られる物を受け取ろうと今ここにいるのだから。
「──っ」
しかしそれはギリギリ間に合わなかった……否、今学院から送られてきたメールの内容は『一柳梨璃が捕獲対象となった一柳結梨を連れて逃亡した』だ。つまりまだ彼女たちは政府の、そしてその裏にいるゲヘナの手に落ちてはいない。
ならば、政府なりゲヘナなりの手の者だろう不届き者たちが学院側に引き渡された頃に到着したいつもの車に積まれていた資料は、まだ盤面を返すジョーカーとなり得る。
「今回、グランギニョルは名前を利用されただけ……って訳じゃあなさそうだな」
「ええ、お父様には電話口にはなりますが『横っ面を張り倒して』おきましたわ。ですので、身内の恥はこちらで雪がせていただきます」
アタッシュケースを抱えながら告げる楓の宣言に、背を向け愛機を納めたCHARMケースを見せ付けて応える零夜。
「……悪いがこっちはまだやることがある、手は貸せねぇが武運は祈らせといて貰うよ」
「そちらこそ、あまり危ない橋ばかり渡られていては雪華様に叱られますわよ?」
「そりゃあ勘弁、あいつサバサバしてるフリして結構根に持つからなぁ……そっちも、うちの
互いに立場以上にやるべきことがある──ならばこのようなところでいつまでも時間を食うこともないだろうと、零夜はケースの中から盾のようなCHARMを取り出しその先端へ蛇腹状のブレードを取り付け、切っ先で足元に円を描き跳躍していく。
「あの機体、恐らくは話に聞く開発中の新型。そんなものを持ち出してまで何と戦うつもり……なんて、わざわざ聞くのは野暮ですわね」
強いて言うのなら世界と、だろうか? 国もゲヘナも引っくるめて、零夜の道を阻むものの末路は悲惨の一言だろうなと心にもない合掌を脳裏に浮かべると、楓も足早に工廠科の校舎を目指す。〈聖学工房の魔術師〉──彼女もまたこの事態を前に足掻いてくれているだろうと信じて。
◆◆◆
(? こんな時に誰から……)
なんだこれはとの怒りも程々に、制服のポケットからの振動に携帯を取り出した雪華だが、画面に表示されたのはレギオンが解散した今は使われていないはず─にしては昨日も当たり前のようにメッセージを残していたが─な烏丸隊のチャンネルへ、たったの一言。
『絶対にあの子を連中の好きにさせるな』
とだけ。このタイミングでそんな内容、名前こそ緊急時故に普段とは別の端末からなのか『ゲスト』と隠されていようと、今更雪華にこんな命令染みたことをする相手など──
「姉さん……?」
「雪華様?」
「いや、なんでもない」
不意に出た呟きを誤魔化しながら、今回の案件はゲヘナとグルな政府の陰謀だ──というのが雪華の中で確定する。自身のシュッツエンゲルであった零夜が動いた以上、それは間違いない。
ならば今自分が、既に動き出した彼女たちに変わってこの事態に打てる手は──ある、たったひとつだけ。
(私はちゃんと
そのまま雪華は携帯を操作し、アプリ内で別のチャンネルを開くと、そこへ元姉に倣い簡素な言葉のみを書き込む。恐らく今は色々と忙しく通信欺瞞にそこまで労力を割けないだろうから、その方が確実として。
『ハメられた!』
と。そしてそのチャット覧の名前は〈下北沢遠征〉参加者は雪華を含め各校から最大二人ずつの十人、当然その中には親ゲヘナガーデンの所属故に表だって動けないメンバーも多いだろうが、それでも反ゲヘナガーデンである御台場女学校の生徒側のトップである生徒会のメンバーもいるのだ。
だから下北沢での戦闘において徹底した反ゲヘナの姿勢を見せた雪華の姿を覚えているのなら、そして昨夜共有した情報から所属するレギオン名が冠する名字を持つ二人への政府の行動と合わせ伝わる物はあるはずだと、
ちょっとした出番付け足しが(2023/11/26)