アニメとさして変わらんエリアは意図してカットしてたり地の文の説明で済ましたりしてますけど、それでも油断するとこんな文字数に膨れるのが毎度の著作になります。おかしいなぁ?
ということで、アニメベースに扱うならここからが正念場…色々全開で行きましょうか!
あれから少しして梅や神琳さんたちこそ来ても、当然レギオンの全員は揃わず……というのに『国から』直々に命令が下ったとの新着メールを見れば、自然と鼻で笑いながらの悪態も出てくる訳で。
「はっ。梨璃ちゃんと結梨ちゃんを捕まえる役を
従うならそれでよし、逆らうようなら他に用意してあるだろう追手──既に結構な数が動いているらしい軍なり、この後通達を送るのだろう他校のリリィなりと私たちが争う様を二人に見せつけるだけ。
最初からそのつもりなのが見え透いている話の飛ばし具合といい、一から十まで全部仕込みな茶番だろこれ? なんて苛立ちを一切隠さず、足を組みながらぼやく。
「で、でも実際にそう命令が……」
「うん、だからそれがおかしいんだってば。この話って例えるならハッキングの犯人見付けたのに、そいつ無視して同じ店でパソコン買った他の人のやつを適当にぶっ壊せば解決です! っつってるようなもんだからね。バッッッカじゃねーの」
そもそもこの命令がガーデンでなく一足飛びに政府から、というのが何もかもが釈然としない。
やつら曰くの通り結梨ちゃんがゲヘナによってヒュージ細胞から産み出された存在ですとして、危険思想のマッドどもがイノチを弄びましたーって自白したのを、何がどうなったら真っ先に裁かれるべき元凶が野放しで、連中に産み出されただけの無実の彼女を襲えって話になるのか……世の腐敗もここまで来ると、いっそ清々しい。
「おいおい、完全に地が出てるゾ雪華サマ」
「単なる暴論にも聞こえますが、筋の通らない話と仰りたいのならば、理解はできます」
まあ結局政府やゲヘナの連中は実験なりなんなりの成功例である結梨ちゃんを捕まえて
「実際彼女がヒュージ由来の生まれだとして、今の結梨ちゃんは人間そのものだって結果は出てるんだしさぁ。ミリアムちゃんもあの時渡したデータは見たでしょ?」
「まあ、百由様は逆に十分過ぎるとも言っておったが……結梨がこういう産まれじゃと言うのなら、むしろその不自然さこそが自然なんじゃろう」
これで少なくともその点で結梨ちゃんが化け物と罵られるいわれはないし、そう言いながら彼女を産み出したと自白した
「ならそれであの子のことを知らないやつらへ向けた、上っ面の理論武装は完了。それでも結梨ちゃんを化け物として捕まえろって叫ぶやつらには、一言〈ひとごろしー〉って罵倒してやりゃあいいのよ」
「──連中がその程度で止まるんなら、誰も苦労してないんだけど」
「どうしたの、鶴紗……?」
「……鶴紗さん?」
今回の話がゲヘナ絡みの案件だ。という情報が入ってから妙に大人しかった鶴紗ちゃんの声の調子は、普段のそれよりも遥かにトーンが落ちていた。
彼女がゲヘナによって強化されたってのは横浜での一件もあってもう皆知ってるけど、その発言の理由はそれだけだろうか? 昔やつらのところにいたのなら、そのやり口もよく知っているのかと思っていると、まだ話は続くようで。
「わたしが昔ゲヘナに身体中をいじくり回された──っていうのは今更だけど、連中が主にどうやって強化リリィの『素材』を確保するか……簡単さ、ケイブごとヒュージを差し向けて、リリィを死なない程度に襲わせるんだ。そうして致命傷を負ったところへ、生き残りたいなら強化を受け入れろって選ぶ余地のない状況に追い込んで……わたしには、そんな見せ掛けだけの権利すらなかったけど」
「っ──」
鶴紗ちゃんがどこか他人事のように語るのは、昨日ルド女組から聞いたのと似たような話。未来の方は元から強化されていたのだから微妙に事情が違うとしても、戸田さんの知り合いだという二年生が襲われたのも、同じ理由なんだろう。
「おい、それって」
「つまり、ゲヘナはヒュージを制御下に置いていると。そういうことですか?」
「流石に全ての個体を完全に操れるって訳じゃない。けど横浜の件からも連中の子飼いなヒュージが存在するのは皆も分かってるでしょう? そいつらは、何もあの時みたいな表向きの実験に使われるだけじゃない」
それは分かる。下北沢での件なんてなんかもう状況からして色々と露骨すぎて、隠す気配すらなかったし。
なら梨璃ちゃんと結梨ちゃんの元にもその手の駒が送られ、これまでの先輩たちのように『事故』と処理されない保証はなく、最早一刻の猶予もないのでは? なんて緊張が走ったところで、控室のドアが開かれ遅刻者の一人が入って来た。
「あら、どうしたんですの皆さん。そんな難しい顔をなさって?」
「か、楓さん! 梨璃さんが結梨ちゃんで逃亡中で、ゲヘナがヒュージで襲撃で!」
「落ち着きなさいな二水さん。梨璃さんと結梨さんのことはわたくしも把握しておりますし、当然納得もしておりませんわ」
さて、にしては慌てて駆け寄る二水ちゃんを手で制する様子は妙に落ち着いてるけど。そこについては私が聞くより先に、鶴紗ちゃんが突っついてくれる。
「……で、遅れた理由は?」
「単なる私用ですわ、もう済みましたのでお気になさらず。ともかく梨璃さんと結梨さんをお助けするのでしょう、モタモタしている暇はありませんわよ?」
質問を流しながらケースを放り投げ、取り出したジョワユーズを不敵に担いでそう告げる楓さんは、相変わらず即断即決だ。
とはいえ、こっちの話も大体そういう方向に進んでいたのだから特に問題はないだろう。皆もそれぞれCHARMを手に、部屋を出る準備をしているし。
「そうだね、ここはお偉方のご命令に従って出撃してやろうか。ただし〈戦場ではこっちの判断で動かせてもらう〉けど、ね?」
「はい、〈事件は会議室で起きてるんじゃない! 現場で起きてるんだ!〉ってやつですね?」
「……なんか微妙に噛み合っとらん気がするし、どっちにせよまーた相当古い映画見とるんじゃなおぬしら」
やかましい、良い作品に新しいも古いもないのよ。なんて私と二水ちゃんに横から突っ込むミリアムちゃんはともかく、皆で部屋を出たところで、ちょうど戻ってきていた夢結とバッタリ出くわす。
「あ、夢結様……」
「あなたたち、何をしているの?」
「わたくしたちの家族を救いに行くだけですわ。そういうことですので、ご一緒なさいますか“お母様”?」
そりゃあよく神琳さんがからかって言ってるように、結梨ちゃんが梨璃ちゃんの娘扱いなのなら、相手役は自動的に夢結になるんだろうけども……まさか楓さんが冗談とはいえ、そんな言い回しをするとは。
「産んでないわよ……ふぅ、分かりました。あの子たちの“お姉様”として、わたしも迎えに行きます」
夢結も返しにそこを強調するのはまだ子供なんて作る歳じゃないってのと、梨璃ちゃんは誰にも渡さないって想いの現れだろうか。それとは別に楓さんと夢結の間に周りと違う空気が漂った気がするのは、少しの間からか。
「で、そっちはどうだったのさ? 何してたか知らんけど」
「わたしは祀たち生徒会三役と共に理事長室へ呼び出されていましたが……生徒会にしてもガーデンにしても、立場があるというのも時には好きに動けず、厄介なのだということだけは」
夢結の様子から当然他にもなにかしらあったのだろうけど、学院側としては外野に余計なことを言わせる隙を見せないよう、表向きはちゃんと「自分たちで対応してみせてますよー」ってポーズは崩せないと……まあ重要なのはそれだけか。
「ならますますわたしたちでやらないとだナ。それじゃあ隊長の梨璃不在だし、代わりにやっとくか、夢結?」
「ええ。行くわよ皆──一柳隊、出撃!」
だったら、お偉方の代わりにこの杜撰な茶番を破壊しに行くとしようか?
◆◆◆
「あら、おひとりとは珍しいですわね」
「ええ。少し、状況を把握したくて……そちらは、いつもの三人?」
百合ヶ丘の守備範囲な山林地帯、そこの丘になっている辺りで『軍が動き出した』とガーデンからの出撃命令を受けた閑がアステリオンを片手に周囲を眺めているところへ掛けられた声に振り向けば、そこには自分と同じ百合ヶ丘の制服を着たリリィが三人──隊服のベレー帽を普段から愛用しているLGローエングリン主将の紗癒と、赤みがかった桃色の長髪が彼女の幼馴染みでルームメイトな
「にしても、あの子一人捕まえるのに軍まで動かすなんて……ますますキナ臭くなって来たわね」
「ここまで来ると、『悪いことしてるから急いでます』って感じだよねー」
政府の無理な行動から見え見えな事情に真っ直ぐぼやく広夢と、ゆったりとした雰囲気は崩さずとも呆れは隠さない雪陽。そんな二人の様子から、ガーデンからの特命を自分と同じ〈三姫様〉が率いる彼女らのレギオンも受けたのだろうとは、わざわざ問わずとも分かる。だから前置きは飛ばして、必要な確認のみを。
「シュバルツグレイルは例のエリアからヒュージを出さないよう、広く展開しているわ。ローエングリンは?」
「こちらも同じですわね。お姉様たちからも道中レギンレイヴやシュバルツグレイルの皆様を何組か見掛けた、と連絡がありましたし、あちらもそうだと思われます」
加えて三姫様最後の一人、
「それにしても、随分とやる気なのね……?」
「わたくしたちは政府の思惑など関係なく、ただガーデンの仲間を守るのみと決めましたもの。それに一柳隊の雪華様には一飯の恩がありますから、そのお返しも兼ねて」
何より同じリリィを守るのに理由などいらない──そう堂々と胸を張る紗癒の様子に閑が感心していると、後ろの二人はコソコソと。
「あー、最近紗癒が買うカップ焼きそばの種類同じのばっかりになってたのって、そういうこと? さっきも前に見たようなの食べてたし」
「わたしが色々レギオン内で庶民的な食べ物広めたのはいいけど、皆違いとかあんまり分かってなかったから、ようやくお気に入りが出来たのなら何よりだよ~」
「ところで閑さん、おひとりで随分と先行なされているのですね?」
「……正直、あのまま学院に残っていてもやれることはなかったし、政府が軍まで動かす強行策に出た以上梨璃さんと同室なわたしは
シュバルツグレイルのメンバーながら、生徒会としての役割があると出撃していない彼女の言い分は、ローエングリンの三人にも分からないでもない。
政府がこのような恥も外聞もかなぐり捨てた暴挙に出たとなると、閑の身柄は最悪軍に捕らえられて梨璃たちへの人質として『使われる』可能性すらあるのだから、作戦行動中として仲間と共に武装させガーデンから離しておく方が安全だとは理解出来るが、納得出来るかは別問題だった。
「ヒュージと命懸けで戦う方が同じ人を相手するより安全だとは、少々皮肉が過ぎるように思いますけれど」
「立場を盾に反撃されないと分かっている人間は、時に何をしでかすか分からないもの。ガーデンもそんな相手を無抵抗で部屋に迎え入れろ……とは言えないでしょう?」
このどこか冷めた受け取り方は自身の異名の由来にもなった冷静な思考故なのか、巨大財閥の娘だなんてヒトの裏側を見ることも多い産まれから、元より他のリリィ程世界に希望を持てていなかっただけなのか……少なくとも、ルームメイトが悪意を以て狙われている状態でその答えをはっきりと出せる程、今の閑は感情を抑えていられないようだ。
(梨璃さん……あなたたちの背中は誰にも撃たせはしないわ。二人の救援に一柳隊が動いてくれるのなら、わたしの役目はこの場を納めてみせること)
「……?」
ならば進む先に現れたミドル級ヒュージなどさっさと片付け──ようとしたところで、横合いからの射撃に続いて飛び込んできた『ツガイ』の従者を伴うリリィに、ヒュージは一刀の元切り伏せられていた。
そんな突然の闖入者に、事前に生徒会の一員として把握していた情報を思い出しながら、閑はヒュージを切り捨てた後も油断なく残心しているリリィへ問い掛ける。
「そういえば、サングリーズルも任務中でしたね。〈ケイブ頻出区域〉が由比ヶ浜ネストの活動に当てられて活性化していたとか」
ケイブ頻出区域──呼んで字の如くな、エリアディフェンスの配置により弾き出されたケイブが多数発生するエリアで、人類の生活圏を確保する過程でどうしても生まれてしまう危険地帯。
そこから周囲にヒュージが拡散してしまわないよう、近場のガーデンより定期的な『ガス抜き』のための出撃が行われていたりはするが、閑たちの待ち伏せているエリアの一部もその範囲内だったのだから、こうして遭遇することもあるか。
「だってのに軍がこっちの『作戦行動中だー』って警告を無視して続々突っ込んで来るんじゃ、どうしたってこうなるでしょ?」
呆れて肩をすくめる闖入者──ふたつに分かれた『ツガイビット』として浮遊させていた鞘を呼び戻しそれに刀型のユニークCHARM『ソハヤノツルギ』を納める、トレードマークな赤いリボンに代わり戦闘時だからと同じ色のヒュージサーチャーを頭に着け、赤を基調とした彼女専用カラーなレギオン制服の下にボディスーツタイプのバトルクロスを纏う、サングリーズル独自の着こなし姿な近藤貞花の態度には、流石に誰も異論を挟めない。
いくら鎌倉の軍が腐敗しほとんどゲヘナの手先と化していると言えど、現場の人間に無策で命を捨てさせるのが当たり前になっているとは。
『こちらルイセ、やっぱりダメでしたー!』
「まあそうなるわよねー。なら近くの
通信越しに行われた隊員からの報告で、確認された軍の部隊は漏れなく全員ヒュージの群れの真っ只中に何も知らないまま突っ込んで行ったということになるが、既に戦車辺りがヒュージに攻撃されたのだろう黒煙があちらこちらで上がっているし、もう状況は大分進んでしまっているのだろう。
「でも、目の前で命が失われるのをリリィとして黙って見てられないわ!」
だとしても。と声を上げる広夢の言葉はリリィなら誰しも当然のことであるから、貞花としても乗るのは吝かではない。
「分かってるって、だから
サングリーズルは〈制御不能のレギオン〉などと呼ばれている通り一部の生真面目な生徒からの受けはあまりよろしくなく、苦労して結成の申請を通してからも大分ドタバタすることになった。
しかし貞花のシュッツエンゲルである三年生の
「そうですか? わたしは貞花様の積極的に困難な
「加えてあれ程個性的なメンバーが貞花様の下ひとつに纏まっているのは、それだけで瞠目に値しますわ」
「うんうん、そういうレギオンって実際強いよねー」
結果として閑は貞花の決して命を見捨てず命を捨てないスタンスや、時にギガント級とすら単独で張り合うその実力を、紗癒や雪陽はサングリーズルの面々が個性と実力ばかりが極端に伸び切っているような有り様だというのに、レギオンとしては不思議と纏まっていることへの賛辞を送ってくるのだから、存外好まれてはいたようだ。
どちらにせよ、この場においては得難い援軍であるというのに変わりないとは、今この場にはいないレギンレイヴの朔愛とも共通した見解ではあるのだろう。
◆◆◆
『で、こっちは手持ちの情報投げつけたら、反論も出ず呆れるほどあっさり終わったんですけど。こんなのがホントに国連通された案件だったのかしら?』
さて、意気込んで飛び出したはいいけど、学院を出て夢結が梨璃ちゃんたちに身を隠すよう教えたらしい、とうの昔に放棄された区画への道すがら、百由からの通信に出たらなんかもう表向きの茶番の方にはあっさりとケリがついていた。えぇ……?
いくら私の回したネタや、今回の件を告発する直前に手を引いたらしいグランギニョル社から結梨ちゃんの
──ちなみに私用とか言ってた楓さんに実家のことを尋ねてみても、「流石はわたくしのお父様ですわね」と誤魔化されたということを。
にしたって国連を通した話ってことにしてたくせに、実際に国連のことを持ち出された途端その言い分が矛盾するのは、いくらなんでも考えなしが過ぎないかってなるけど……〈破綻した設計の…妥当な末路だ〉ってのは、こういうことなんだか。
「まあ『どこどこの方から来ました~』なーんて詐欺の常套句だし?」
『詐欺、かぁ。けどそうでもないと流石に呆気なさ過ぎるか……とにかく、わたしはやれるだけのことはやりました。あとは頼みますよ、せーんぱい?』
「柄にもなく甘えられてもなぁ」
それにここまでトントン拍子だと流石に怪しすぎるし、楓さんが姿だけ見たっていう姉さんも今何をしているのか不明とくれば、新型も含めた現状のフル装備で出た意味も、まだありそうだ。
『で、その新型ですけど、一応あのデータ通りソード側のサブコアにもビット制御をある程度補助させるようにしたから、負荷は大分抑えられて……あー、でも異常があった伝達系の調整が間に合わなかったんで、砲撃は撃てはしてもまだほとんど『フェイズトランセンデンス』感覚の一発屋になるとだけ』
通信越しに一気にまくし立てられると流石にちょっと混乱するけど、ないとは思わなくても聞き返さずにはいられないというか。
「えっと、そういうのは仕様書とかないの? あったとしてどっかに埋まってるか……まあいいや、とりあえず使うには使っていいんだね」
『技術的見地からはイエスではありますけど、そうならないことを……あー、チャーミィ辺りにでも祈っておこうかしら?』
「なんでよりによってそいつ選んだよ」
初心者用のナビにしてもあんまり過ぎて、初めて見た時に「なんだこれ」ってなったから当時の隊長─まだ指導担当だったけど─にマッハで消す方法聞いたというに。
「ともかく、リリィをなぶり殺しにしてまで実験体を欲しがるような連中が、国連まで通したことにしてた案件で無様に赤っ恥をかかされたとあっちゃあ、末端を切り捨てた程度で済ますはずがない。ギガント級投下くらいは覚悟しとかないとね」
そう気を引き締めながら確認しなおす装備の内訳は普段通りのオーバーライザーにブリューナク、そして競技会に引き続き背中に背負う新たなる力『トレイルブレイザー』──この新型には〈先駆者〉の銘を付けせてもらった。これから未来を切り開こうってんなら、いっそふさわしすぎる名前でしょう?
『あーあ、こんなことになるんならぐろっぴにわたしの勇姿見てもらいたかったなー』
「コトがコトなんだから然るべきとこに出せるよう、録音データくらい残ってんでしょ……で、とりあえず聞きたいことは聞いたし、そこまで言うんならこのままミリアムちゃんと代わろうか?」
『そうねー……折角だしお願いしまーす』
「へいミリアムちゃん」
「うおお、なんじゃいきなり?」
ほいほい、とケータイを投げ飛ばすとミリアムちゃんは何か考え事でもしていたのか、慌てて受け止めている。
「ん、わしにか? もしもし……なんじゃ百由様か。頭の硬い連中の相手お疲れ様なのじゃ……うむ、今わしらは梨璃たちのところに向かっておるが……うん? いや、なんでそうなるんじゃ……おい百由様、もーゆーさ──切りおった」
電話の様子は何かまた変なことを百由が言い出したようで、状況が状況だし足こそ止めてはいないが、少し下がって横から覗くとミリアムちゃんの表情は何がなんだかといった風だ。
「なんか混乱してるけど、百由はなんて言ってたのさ?」
「分からぬ。いや、言っておる言葉は分かるんじゃが、何故そうなるかの理由が分からぬ……」
百由に何を言われたのか、かなり動揺しているミリアムちゃんからケータイを受け取っていると、前を行く雨嘉ちゃんが何か異変を感じたようで横を向きながら立ち止まっている。
「……ねえ神琳、今なにか音がしなかった?」
「あちらは……学院の方ですね。ふーみんさん」
「はい……これって!?」
二水ちゃんの慌てる様子から、案の定痺れを切らせて仕掛けてきたかと思い駆け寄って『約束の領域』を発動し『鷹の目』の力をお借りすれば、いくつかのレギオンがほぼほぼ壊滅しているような有り様の鎌倉府の防衛軍様を守るように学院の方へ向け下がっているところへ、大量のヒュージが旧市街の方から迫る様が映る。
「ひゅっ、ヒュージの大群です! まっすぐ学院へ向かって!」
「さっき聞いたとはいえ、こうも露骨に仕掛けてくるかぁ……あーあー、こちらLGラーズグリーズ黒紅。誰か聞こえる?」
とりあえず誰かしらに繋がらないかと、インカムを押さえながら通信を飛ばしてみると既に最前線では交戦が開始されているのか大分雑音混じりになるが、応えるのは汐里ちゃんの声。
『こ、こちらLGレギンレイヴ六角です。今どこにいるんですか雪華様?』
「あー、ちょっと大回りで梨璃ちゃんと結梨ちゃんを迎えに行ってる。そっちはまあ、大変そう?」
『色々あって想定以上のヒュージが出てきましたからね、大分混乱しては……それでも、あたしは戦います……後悔しないために』
そんな決意表明のような言葉の後、彼女のためにと設計されたティルフィングのユニーク機が誇るバスターランチャーが火を吹いたようで通信越しに砲撃の音が響き、上から眺める光景にも一筋の閃光が走る。
『こっちはなんとかしますから、そちらは梨璃さんたちを……あたしたちのクラスメイトのことを、よろしくお願いします!』
「了解、汐里ちゃんたちもご武運を!」
そう通信を切ると走るペースを上げ、先頭組に合流する頃には夢結が二人へ逃げるよう言ったらしいエリアの近くになっていたので、先程の内容をざっくり共有しておく。
「なら今はそっちの対処は学院の皆に任せるゾ。こっちにまで同じことされたら、梨璃たちだけじゃ磨り潰される!」
「梨璃さんたちの端末のGPS反応はすぐ近く……あそこの学校ですわ!」
その言葉に従って日曜夕方もかくやの勢いで廃棄された街の中に佇むそこへ全員で乗り込み、急いで階段を駆け上がる。
◆◆◆
「梨璃ちゃん、結梨ちゃん、まだ生きてるね?」
そのまま二人の元へたどり着くと、寂れた教室の片隅で並んでいるのは、特に怪我もなく無事そうな二人の姿に一安心。にしてもなんかこう結梨ちゃんはキメ顔になってるし、さっきまで何を話していたのだろうか?
「雪華様!? それに──」
「みんな慌ててどうした? そういえばさっきから外が騒がしいけど」
そりゃあ二人きりで何をしていたのかはともかく、国からも追われる身となったのに仲間たちが駆け付けてきたなど色々聞きたいことはあるのだろうが、私たちの答えなど初めから決まっている。
「どうしたも何も、二人を迎えに来たんだけど?」
「百由様がちょちょいのちょいで結梨の無実を証明してくれたのじゃ!」
「それでもう二人が軍に捕まる心配もなくなった、何も気にせず帰ってこい……って話のつもりだったんだけどナ」
「ゲヘナがヒュージをけしかけて来た、ここもいつ狙われるか分かったものじゃない!」
「え、えぇっ?」
梨璃ちゃんはいきなり雑多な情報を投げつけられフリーズしかけているけど、反対に隣の結梨ちゃんは落ち着きすぎなくらいに、一人どこか遠くを見つめている。いや待った、この目の輝きは……鷹の目?
「──なにか、くる?」
「ぇ……皆伏せろーッ!!」
そんな結梨ちゃんの視線を追っていた梅が叫んだ直後、水平線の彼方より放たれた光の奔流が私たちの上を通り過ぎ、その余波で砕かれた天井からコンクリートの破片が降り注ぐ。
「ど、どこから!?」
「雨嘉さん!」
すぐに横薙ぎに通り過ぎて行ったそれによる被害に対してはマギによる障壁を張ったり、崩落の範囲外に飛び込んだり、直接CHARMを盾にしたりと各々対処して大きな怪我をしたメンバーはいないようだけど。問題はそれよりも──
「あ、ありがとう神琳」
「いえ、お怪我がなくてなによりです」
「くっ……皆、無事?」
「は、はい。お姉様」
「それよりも今の攻撃は……海からですの?」
特にそういった索敵系のスキルに覚醒していないはずの梅にも見えたということは、当然他の皆も同じように見えるはずで、元々砕けていた教室の窓から見えるのは由比ヶ浜の遥か彼方の海上にある竜の巣のようなモノ──ヒュージネストに隣り合わせるように現れた、ここからでも目視できる程に巨大な塔のような、いわゆるレーザーレイ種のヒュージ。そのサイズはこの距離からでもはっきりと姿が見える以上、どう見積もっても超大型のギガント級。
こいつが先程の超長距離砲撃をかましたということか。なんなら今も別の方向へ向けビームを放っているし、あっちは確かヒュージの湧いていた辺り……
「くっそ、やっぱりデカブツも出して来るよなぁ!」
「ゲヘナのことだ、こうなったらもう皆殺しにしても構わないんだろ。結梨が手に入らない以上、いっそのこと百合ヶ丘もろともに……」
そんな短絡的にも程がある行動も、唯一の動かぬ証拠である結梨ちゃんさえ始末してしまえば、一柳結梨などというゲヘナの被害者は『初めからこの世には存在しなかった』と、後はお得意の情報操作でどうにでもなるということなのか……ふざけやがって。
反射的に壁を殴りへこませるような怒りも程々に、結梨ちゃんが先程から使いっぱなしの鷹の目だろう物を先程の二水ちゃん相手と同じように拝借しヒュージを観察すると、そのヒュージの周りで光りながら浮かぶのは九つの浮遊端末。んなろ、小生意気に向こうさんもビット使いか。
「ん……雪華?」
「おっとごめん、ちょっと借りてた」
私は約束の領域を使う時よく相手の体に触れるのだが、結梨ちゃんのサイズだと頭がやりやすいからとその上に手を置いていたら、スキルを解除した後不思議そうな顔で見られた。
「ともかくさっさと降りるゾ。ここが狙いじゃないとはいえ、こんな調子で撃たれてちゃもたない!」
「じゃの。押さない駆けない喋らない……は避難訓練か」
「レディーファーストですわ、梨璃さんから早く」
「えっ? う、うん。行こう結梨ちゃん」
今この場にはレディーしかおらんがなって言いたそうな反応、まあ部屋の奥からってのは別に間違っちゃいないんだろーけども。
◆◆◆
─ファンタズム─
「……っ、お姉様?」
「汐里さん、今のは……」
一方こちらは4レギオンの担当する戦線、ギガント級らしきヒュージが水平線の彼方に確認されると同時、汐里や彼女と合流していた閑たちに送られるビジョン──それは汐里のシュッツエンゲルである聖の『ファンタズム』による物のようで、告げられたのは……
「皆さん、退避を!」
「雪陽、後ろの皆さんに今のビジョンを伝えられますか?」
「うん、やってみる!」
「皆聞こえてるわね? 急いで『視えた』射線から退く、止まると死ぬよ!」
汐里の警告に雪陽のファンタズムや貞花の通信で仲間に指示を飛ばし終わるのと、閃光が大地を灼くのはほぼ同時──近くを掠めた訳でなくとも超高温の熱線が広範囲を薙ぎ払うように放たれた影響で肌がいやにチリチリとする感覚がすることから、各々生きてはいるのだと確かめる。
◆◆◆
廃墟の終わりの方だったこともあり、学校に入った時と反対側から出て校庭を抜けて少し走れば浜辺に抜けて、その彼方のヒュージも変わらず視界にいた。
「なんなんだよあのトンデモ。まだ撃ってるなんて、いくらなんでもめちゃくちゃだゾ……」
「マギを直接撃ち出してる……? でも、マギをあんな使い方したらいくらギガント級のヒュージでも、もたないはずなのに……」
「ネストの側につけているのなら、直接マギの供給でもされておるのか……?」
二水ちゃんの疑問へのミリアムちゃんの仮説が正しいとして、最近どうにもらしくないヒュージが増えてきてるけど、遂に
「ともかく状況は極めて最悪って感じだね。ガーデンの方に向かっていたヒュージの群れはビームの巻き添えと展開してた面々の抵抗でなんとか倒し切ったみたいだけど、それでも大なり小なり巻き添えは受けて全滅判定……この場合、戦力のだいたい六割くらいが戦闘不能な意味ね」
繋がる範囲での通信と、二水ちゃんの鷹の目とでかき集めた情報がこれだ。閑さんも『
幸いというか流石のギガント級も沖合いから百合ヶ丘の校舎までは射程に捉えていなかったようだけど、撤退中な今でさえ砲撃が飛んで来るのだからリリィ側に負傷者こそ出てはいても、まだはっきりとした死者が出ていないのは奇跡……というよりこんなやつらのために犠牲なんぞ出してたまるか、というリリィ根性だろうか。
まあ元から壊滅スレスレだった軍人さんたちの方までは知らんし、逃げ出したとかの話も聞かないことから体の良いオトリなりになってくれたのかもしれないが、悪いけど目先の欲に目が眩んで悪魔の囁きに乗ってしまった上層部を恨んでほしい。
とはいえ見る限りでは軍も航空戦力どころかリリィ部隊すら出してこなかった以上、所詮は雑に動かせる程度の捨て駒なんだろうけど。あるいは後者の方に関してはいくら各地で腐敗の進む防衛軍といえど、リリィ絡みの部署はガーデン出身者や元関係者がほとんどなのだろうし、こんなことをする輩とはある程度距離を置いているのかもしれないか。
「雪華、ねぇ雪華ってば」
なんて一人変に納得して頷いていると、結梨ちゃんに制服の腰で結んであるリボンを引っ張られる。いやほどけるからね?
「あれがヒュージ、悪いやつら……?」
「の、手先だけどね、この場合。そう考えると、下北沢ん時に出てきた
「多分ナ。あの幸恵たちなら、こんなことするやつらの思い通りになんて絶対ならないだろうし、ゲヘナからしたら面白くはないだろ」
となるとあの時はガーデン側の良からぬ何かに感付いた生徒のみを出撃させ、体良く始末しようとしていたのだろうか?
にしては同じ親ゲヘナなエレンスゲの子たち……は同じく反抗的なヘルヴォルだけどルド女からは風紀委員の子も来てたし、結局全ては推測にしか過ぎないけども、やるだろうなという確信は強い。まあ、そんな外野はともかくとして。
「さーて、どう攻略したもんか。ガンシップ使うのは間違いなく自殺行為だし乗りに戻る時間も惜しい、かといって素直に海を行ったところでなぁ」
「いや、なんであそこまで行けること前提なんです? そりゃあ先輩なら海も陸も空も関係ないだろうけど」
しかし、流石にいくらなんでもギガント級のそれも特型と思われる相手へ、向こうに有利な地形かつ一切の支援なしでのデュエルを挑むのは鶴紗ちゃんから言われるまでもなく、無謀とかそういうレベルだ。
それ故に近年のノインヴェルト戦術を始めとする、連携重視のフォーメーションへの基本戦術の移行が行われたのだから……あと、いくら私でもレギオン全員を連れて行けるかとなると無理があるし、他にどうしろと。
「ねえ梨璃。リリィはヒュージと戦うから、リリィなんだよね?」
「う、うん。そうだけど……結梨ちゃん?」
「なら──わたしが行ってやっつける。結梨も百合ヶ丘のリリィだもん!」
なんて考えていたら、何やら結梨ちゃんの様子がおかしい──そう気付いた時には彼女は一瞬で浜辺を越え、一気に海まで飛び出しているのだから残される私たちは驚くしかない。
「なっ……あれ『縮地』か!? 梅と同じレアスキル!」
「しかもあの速度、『フェイズトランセンデンス』も合わせておるのか? じゃがそんなことをすればすぐマギが枯渇するはず──まさか、亜羅椰同様のS級じゃとでも!?」
「〈デュアルスキラー〉どころかレアスキル三つ持ち!? そんなの絶対にもたないぞ……戻れ結梨ッ!!」
他にも皆が口々に制止の言葉を叫ぶがそれが届いた様子もなく、ヒュージ本体からの光弾の雨霰をとても水上とは思えないデタラメな動きで避けながらひたすらに突き進む結梨ちゃんの姿を、私たちはただ見送るだけだった。