はい。はい。
や、わざわざアニメ版を題材に介入話書く時点で彼女を見殺しにしたがる奇特な方のが少ないとは思いますが、一応ブレイク宣言をば…死の運命を定める世界にすら、抗え。
あ、とっくに追い付いてるからとちょっと説明文とかタグとか色々整えてたり。
しばらく経ち、ミリアムちゃんから各々調整の終わったCHARMを受け取ると、再び私たちは海岸で水平線にヒュージを臨む形になっていた。
「作戦を確認します。まずノインヴェルト戦術開始後、雪華様は雨嘉さんをあちらの小島へ輸送、その後結梨ちゃんと二人で敵ヒュージの無力化を行います」
「そのあとこっちは全力で逃げるから、回し終わったら構わずコアを狙い撃って」
「は、はい……!」
二水ちゃんの説明に続いて口にする分にはたったこれだけの非常にシンプルな作戦だが、はたしてどうなるのやら……こればっかりは誰にも分からない大博打だ。そもそもやつが万一リフレクター持ちなら、今度は『二度目』など到底望めない状況なのだから。
とはいえ学院側へのヒュージの襲来こそ収まっても、その後処理に人員を割かれていて増援など期待できない以上、もう突き進むしかないのもまた現実──なら、力の限り抗うとしましょうか。
「それを言うならおふたりの方こそまたあのヒュージの側まで行くのですから、いくら休眠していようと流石に迎撃してくるでしょうに」
「んー、なんとかする!」
「というか、しなきゃいけないからね?」
恐らくあのギガント級が今現在不自然なまでに沈黙しているのは、最初九基あった子機のビットが今はもう録に残っていないからだろう。
ついでに“9”という数で連想されるのは、今から私たちが行おうとするノインヴェルト戦術。それをヒュージなりにやってみた結果が、あれなのか。
あるいは
「ま、なんとでもなるでしょ。この子たちの感覚にも少しは慣れて来たし」
そう言って引き抜いたソードライフルを指揮棒のように振ると、ソードビットとシールドがそれに従い飛び回る。というかシールドまで単独で飛べるのはどういう設計なんだろうか、助かったからいいけどさ。
「おぉー」
「で、今度は行きもこれなんですね」
「まあ一気に飛んでく必要もあんまりないしさ。走るより低燃費だし、帰りが最悪のんびり乗る余裕ないって考えるとね」
ふよふよと浮かぶシールドを結梨ちゃんと鶴紗ちゃんにつつかれるが、足場と移動の両方にマギを使う先程のあれはあくまで速度だけを重視した緊急手段に過ぎないし、思ったより脳波コントロールサーフィンも悪くはなかったしで採用となりましたとさ。
そう装備の調子を確認し終えて元のように納めているところへ、とことこと梨璃ちゃんが近寄ってきた。
「あの、結梨ちゃん。雪華様も、今いいですか」
「梨璃?」
「出撃前の激励かな?」
「いえ、そうじゃなくて……さっき、結梨ちゃんがヒュージに殺されそうだって聞こえた時……すっごく胸の奥が悲しくて、苦しくて、痛くて……わたし、どうにかなっちゃいそうだったんです」
それはそうだろう。梨璃ちゃんはこのレギオンの隊長だし、今は結梨ちゃんの保護者代わりでもある。そんな立場で自分の手も目も耳も声も、何もかもが届かないところで彼女が死にそうだということだけを聞かされて取り乱すな、なんて口が裂けても言えない。
だけど梨璃ちゃんは意を決して、不安を振り払うように言葉を紡いでくれる。
「だから──ううん、そうじゃなくてもですけど、二人とも絶対無事に帰ってきて。これは隊長命令です、破ったら……えっと、酷いんですからねっ?」
「任せろ梨璃。生きて帰るまでがリリィの戦いなんでしょ?」
「そんな遠足みたいな……けどまあ、了解しましたよ、隊長さん?」
どこか堅くなりそうでなりきれてない梨璃ちゃんの言葉へ冗談混じりにウインクで返すが、あまりよろしくなさそうな顔色を見るに今でも梨璃ちゃんは恐れや不安と、他にも多くのマイナスの感情に飲み込まれそうになっているのだろう。
それでもこうして送り出してくれているのは私への信頼か、それとも言葉通り隊長という立場故か……どちらにせよ裏切れるものではない。今の私たちは同じレギオンの仲間、だから“共に戦い共に生きる”たったそれだけの簡単なことなのだから。
「確かに伝説の初代アールヴヘイム出身の二人に比べたら頼りないかもしれないけど、これでも先輩なんだし私の前いたレギオンが冠する名は〈勝利〉の二文字、それをここに約束するよ。勿論さっきの命令も絶対に守る、何に懸けてもね」
だから今は、最後の希望であるリリィの証なルーンの刻まれた指輪を掲げ、勝利を誓うだけだ。
なんていつものように格好付けていると、楓さんが結梨ちゃんの様子を確かめるように、身体に異常がないか触って確かめながら話し掛けていた。
「それで結梨さん、あなたがいくつレアスキルを扱えるのかは分かりませんが、これからは同時に使うのはお止めになってくださいね」
「どういうこと?」
その辺りもまだよくわかっていなさそうな結梨ちゃんの疑問には、
「本来一人ひとつしか持てないはずのレアスキルを、複数扱えるだけでも十分危険なんだ。それの同時使用なんて続けたら、どうなるか誰にも分からない……本当に、今はなんともないんだね?」
「まだちょっと背中が痛いけど、ちゃんと動けるよ?」
結局皆の心配は止まるところを知らないが、当の結梨ちゃん本人はぐーっと背を伸ばして随分と余裕そうだ。単に、まだ限界なんてものを分かってないだけかもしれないけど。
「まあヤバくなったら腹殴ってでも止めるし、その上で責任取って送り届けるよ。それに梅残しとかないと、雨嘉ちゃんまでパス回せないでしょ?」
「それはそうだけど、ホントに大丈夫なのか?」
「先程も倒れられたのですし、無理はなさらない方が」
そしてこっちは何故か私にさえ再三の確認をしてくる梅と夢結の二年生コンビ。そんなに信用ないかねぇ私……ないか。
「……ま、成果出してるから別にいいでしょって思考で独断専行多数な問題児だし、普通は信用されないか。とはいえ限界は弁えてるつもりだよ、所詮つもりでしかないんだろうけど」
なんて頭に巻かれている包帯を押さえながら言えば、呆れたような反応しか帰ってこない。
「自覚ある上でコレだからめんどくさいんだよナ。この人って」
「そうね。いつもいつも後ろから見ているつもりでいて、結局最後は自分から進んで鉄火場に飛び込んで……聞いていますか雪華様?」
「悪いとは思ってるって。それでも目の前で誰かに死なれるのはもうごめんだから、これ以上イノチを取り零したくないから、そして皆と笑っていたいから私はまだこうしてリリィを続けている……これじゃ、ダメかな?」
腐った連中の多いこんな世界を守るだなんて、ありふれたお題目なんかのためにはもう戦えないが、手の届く範囲の誰かのためになら、まだ、戦える……そうそう人に話すようなことでもないからあまり公言はしていないけど、多分それがまだ私がリリィという立場で
「一応、その中に自分もカウントしてはいるんだナ?」
「勿論。私が死んで泣いてくれる人がいるんなら、そんな涙は見たくないからさ」
「……分かりました。結梨を、
「おう、任されて」
一柳隊全員の妹、それ故の〈一柳結梨〉──ほとんどその場のノリと勢いだけで適当に付けられたような名字だけど、今になってその名に意味を与えるのなら、多分そういうことになるんだろう。
ならば年齢だけでも一番上のお姉さんとして、やんちゃな末妹の面倒くらいは見てあげましょうか。
「じゃ、アンカーガン片方預けとくね。いくら夏でもずぶ濡れになられたら困るし」
ともかく忘れない内にと、右手側に仕込んでいた方を夢結に渡しておく。さっきみたく梅が途中で跳んでパスしたところを夢結のパワーで引いてもらえば、多分海面より陸に着く方が早いはずだ。
「はい……皆、ポジションには就いたわね?」
「「はい!」」
「「おう!」」
「うん!」
私が運ぶ二人はともかく、浜辺に残る皆は普段より幾分か散開したフォーメーションになる。万一こちらに攻撃が飛んで来た時に狙いを絞らせないというのが一番の目的になるけど、いざこうして見ると壮観でもあるかな。
「それじゃあ……梨璃ちゃん!」
「はい! 一柳隊、ノインヴェルト戦術、開始っ!!」
その号令に従い、少し大仰な手付きでリリィとして私の持つバインドルーン──〈ユル〉と〈エオロー〉が合わさったそれを宙に指で描くとブリューナクに装填された特殊弾へマギを込め、クルリとグリップ側を向けてCHARMごと結梨ちゃんへ手渡す。
「さあ始めようか結梨ちゃん、あなたのリリィとして最初の大仕事を!」
「うん! わたしはまだこの世界のことを何も知らない。いい人たちばっかりなのか、悪いやつの方が多いのか……でも梨璃たちは、わたしの“家族”はあたたかくて幸せな思い出と居場所をくれた。だからわたしはわたしとして、みんなのことを守りたい。それでいいんだよね、鶴紗っ!」
「ああ、上出来だ!」
万感の想いをマギに込めてブリューナクから射ち出されたマギスフィアは鶴紗ちゃんのティルフィングへ、そして私たちはここからが佳境だ。
「行くよ二人とも、黒紅雪華と!」
「わ、王雨嘉!」
「一柳結梨っ!」
「「行きます!」」
私の趣味な口上に今回は二人も乗ってくれたので、展開した防御フィールドをフロート代わりに、そのまま一気にシールドのスラスターを全力で全開にして発進させる。
◆◆◆
『こちら雨嘉、狙撃ポジションに到着したよ。スコープの調子も良好、狙えると思う』
「了解。あんまり時間は掛けられないぞ、楓!」
三人が出発して少し経ち、雨嘉からの通信で作戦の段階が進んだことを確認した居残り組はそれに合わせてノインヴェルト戦術を進行させ、マギスフィアは鶴紗のティルフィングから楓のジョワユーズへ。
「ところで鶴紗さんも、結梨さんに倣って何か秘めたる気持ちを仰っても宜しいんですのよ?」
「やってる暇があれば、でしょ」
いくらCHARMと共に手数が減っていようと、あの二人なら接敵からそう時間を掛けずにヒュージを丸裸にするだろう。ならばこちらも手早く雨嘉にまで回せと、鶴紗に素っ気なく急かされた楓は次の相手へ向き直る。
「まったく連れませんこと。頼みますわよ、ミリアムさん!」
「受け取ったぞ! しかし、いざやるとやはり不安じゃな」
もうノインヴェルト戦術も何度目かともなると特に問題なく楓からのパスをニョルニールで受け止めたミリアムだが、ヒュージの近くでやる場合と比べてマギインテンシティ──いわゆるマギ純度だか強度だかの影響か平素のノインヴェルト戦術と比べ、大分マギスフィアが軽く感じる。
既にミリアムで五人目であるにも関わらずそうだというのは、まだ上級生二人を含む後半の面子が残っているとしても、頼りなさの方が強い……ならば。
「これを使うしかあるまいな、《フェイズトランセンデンス》!」
どうせこの後交戦するつもりはないのだ、出し惜しみの必要はなかろうとミリアムは自身のレアスキルを解放──限界時間ギリギリまでマギを注ぎ込みながらニョルニールを頭上で力の限り振り回して、二水へ向かいマギスフィアを放り投げる。
「次は二水の番じゃ、そうら行ってこい!!」
その勢いのまま倒れ込みながらも、彼女はいつになく晴れ晴れとした表情をして、仲間を信じて託すのみだと空いた拳を突き上げる。
◆◆◆
「あれって、ノインヴェルトの光……?」
旧市街の一角──ギガント級の攻撃による被害が残る中、自分はまだ動けるからと志願し負傷者が取り残されていないか探していた汐里がそれを見かけたのは、単なる偶然だった。その光景へ口をついて出た言葉に、彼女の同行者である二人の視線も同じ方向へ。
「しかもあれ、ミリアムさんの『フェイズトランセンデンス』ってことは……一柳隊? まさかあの水平線の彼方にいるヒュージを、ノインヴェルト戦術で狙撃しようっていうの!?」
「へぇ。どうやらあの子たちはまだ諦めていないみたいね、今からわたしたちも合流する?」
驚く壱へ茶化すように提案する亜羅椰の言うことも分からなくもない──のだが、最初はシュッツエンゲルやレギオンメンバーの制止も構わず一人で飛び出したはずな汐里としては、予期せぬ同行者二人に確認したいことがあった。
「……ところで今更ですけど、おふたりは何故ここに? 今回の一件、出撃前に『アールヴヘイムの援軍には期待しないように』と言われていたんですが」
「確かに、『軍相手にだけは絶対個人の勝手な判断で動くな』とは天葉様たちに厳命されていたけれど……あそこまでのヒュージの大群が現れたのなら、話は別でしょう?」
「わたしは半分亜羅椰のお目付け役にね。とはいえ、いざ出たら出たで例のギガント級が現れて、戦闘らしい戦闘はほとんど終わっていたんだけど」
そんな二人の持っているCHARMも普段使いの物でも個々人の専用機でもなく、そこら辺の予備機を引っ付かんで来たのか銀一色で統一されたブリューナクやアステリオンだ。
日頃から優等生で通っている壱がいる以上、周りに黙ってということもないのだろうが、他のメンバーがいないことからも結構な無理を言って出てきたのは確かなのだろう。
「なるほど、でしたらあんまり変なことはやれないのでは?」
「確かにうちであんなことやろうとしたら、いっちゃんか弥宙辺りのカミナリが落ちるのが目に見えてるわねぇ。あぁ、わたしにならいくらでも落としてくれて構わないけど?」
「こんな時に気持ち悪いこと言わないでよ……」
あるいはこんな時だからこそ場を和ませようとしての冗談なのかもしれないが、恍惚としたように頬に手を当てながらな亜羅椰の発言は湿度が高すぎるし言い方も嫌にねっとりしていて、さしもの壱も変な鳥肌が立ってしまう。
とはいえ口にした理由以外にもクラスメイトが多く他も知らない仲ではない相手が多いのだから、百合ヶ丘の命運を一柳隊へ託すことにそこまで不安はない、というのもあった。
確かに一柳隊は新米リリィや素行に問題のある者が多く、一見して凸凹だらけの寄せ集めにも見えるレギオンではあるが、だからこそそれらがガッチリ噛み合った時の爆発力は凄まじいのだと、壱とて以前共闘という形で目にしてはいるのだから。
「ふぅ、やれやれ」
そしていつも通りにべもなくフラれた亜羅椰だが、特に気にすることもなく海岸の方を見ながら何かを呟いている。
「……しっかりやりなさい、二水」
「ん、何か言った?」
「いいえ、なんにも。このまま取り残されてる人やヒュージの討ち漏らしがいないか、もう少し見ておきましょうか」
「ふふ、そうですね」
今の壱と亜羅椰は汐里を挟んで左右に分かれる形になるので、壱にはよく聞こえなかったそれも彼女にはバッチリと聞こえており、汐里もまた亜羅椰と共通の知り合いに想いを馳せる。
(二水さん、あたしも応援してますからね)
「ん、今あそこで何か動いたような……」
「先行していた誰か、サングリーズル辺りのメンバーかしら……?」
戦うのは任せるとしても、やるべきことは山積みだ。まずは目の前のことからコツコツと、それは変わらない。
◆◆◆
「うわわ、っと!」
などと遠方で有名リリィたちから想いを走らされているとは露知らず、ミリアムのフェイズトランセンデンスにより相当な量のマギを一気に込められたマギスフィアをグングニルで受けた二水は、暴れるマギスフィアへマギを込めながら砂浜に足を取られて、バランスを崩しそうになるのをギリギリで堪えていた。
「それにしても、そろそろ流れ弾のひとつでも来そうな物なのですが……やけに静かですわね」
「雪華様の大きく迂回して仕掛ける策が功を奏した、ということでしょうか」
そんな楓と神琳、司令塔二人の会話を聞いて二水が『鷹の目』で確認すると、雪華たちは雨嘉を指定ポイントまで送り届けた後ヒュージの側面まで相当な遠回りをしながら回り込んだ様子が見え、そこからヒュージ本体へ向け真横から突入しながらの射撃に反応したヒュージからの弾幕の間を縫って放たれるのは、今は結梨の手に渡った雪華のブリューナクによる砲撃。
「ふーみんさん、次はわたくしへ」
「はっ、はい!」
であればこんなところでもたつく理由もなく、マギスフィアを一度上に軽く弾くと二水はグングニルを野球のバットのように構えフルスイング。請われた通り、神琳の元へ全力全開で打つ。
「い、行きます……うあぁぁぁっ!!」
「ジャストミート、ですわね。さあ行きますよ、梨璃さん!」
流れるようにマソレリックでそれを受けた神琳は、回転の勢いを加えながら素早くマギを込めて、梨璃のグングニルへ向け正確に繋ぐ。
「……うぅっ!」
(重い……これが皆の想いと、命の重さ……でも!)
その重みに梨璃は自分の足が海岸の砂ごと沈むのを感じるが、それでもマギスフィアはしっかりと受け取り、手で上から押さえ付けて自分色に染めていく。それを見守るのは、副隊長にして憧れのお姉様である夢結。
「梨璃、行けるわね?」
「はい、絶対に繋いでみせます……お姉様ぁ!」
彼女への答えとして梨璃はグングニルを大きく振りかぶり、大上段からマギスフィアを投げ放つ。
──その時だった、梨璃の体から何かが広がる感覚がして、それを周りの仲間たちも確かに現実のものとして感じ取ったのは。
「これは……?」
「梨璃のレアスキル!? この大一番で覚醒とは、持ちすぎじゃろおぬし!」
マギスフィアをブリューナクで受けたまま唖然とする夢結を他所に、フェイズトランセンデンスの反動で倒れていたはずのミリアムがパッと飛び起き、さらには他のパスに参加したはずのメンバーでさえ、マギスフィアに注ぎ消耗したはずのマギが回復したことに驚いていると、夢結のカラーに染まっている途中だったマギスフィアを横からかっさらうのは、梅のタンキエムの刃。
「梅、いったい何を!?」
「なんだか知らないけど、全身に力がみなぎってくるんだ……もう一周やってみせろよ、鶴紗ぁ!」
彼女はそのまま空中でグルンと縦に一回転し、そんな宣言をしながら弾くようにマギスフィアを鶴紗の元へ飛ばす。
いきなり予定にないとんでもないことを言い出し即座に実行する梅だが、今感じている体の内側から活力が沸いてくる温かな感覚に、夢結も反論するつもりにはなれないのは事実であった。
「え、えぇっ!? ぐっ、おも……」
それに対して驚きはしても咄嗟に受け止めたのは、流石は一年生でも屈指の経験を持つ鶴紗といったところか。本人に言えば自慢にもならない経験だと、自嘲するだろうとしても。
しかし、本来であれば既にヒュージに向け放たれる直前レベルにマギが込められたそれを今から更に回すのは、いくら鶴紗以外にも場馴れしているメンバーがいるといえど──
「仕方ありませんわね、神琳さん!」
「ええ、わたくしもそのつもりでした!」
「《レジスタ》!」
「《テスタメント》!」
ならばと背中合わせになり、CHARM同士も重ね合わせて頭上高く掲げながら自身のレアスキルの名を高らかに叫ぶ楓と神琳の二人。
楓がその場にいるだけで味方のCHARMの力を増すとされる『レジスタ』の出力を限界まで上げ、神琳の『テスタメント』による広域化でその濃度を保ったままこちら側の全員へ行き渡らせることで、多少は鶴紗の感じる重さも軽くなる。
◆◆◆
「ふふっ」
「どうしたの雪華? なんか楽しそうな匂いしてる」
サーフィンごっこに興じながら何度かギガント級へ側面から射撃を送り、私の前でブリューナクを構える結梨ちゃんの姿にフッと笑みが零れれば、当然聞こえるし感じるしでツッコミが入る。
「いや、そういえばそのインカムは前に梨璃ちゃんに貸したし、ブリューナクの方は夢結に貸したことがあるんだよね。だからそれを両方使ってる今の結梨ちゃん、まさに〈結梨様〉だなぁって」
「? わたしは普段から結梨だよ?」
何を当たり前のことを。と首を傾げられるけど、雑談も程々にそろそろ交戦距離だと気持ちを切り替え、割れたバイザーの代わりにヘッドセットの投影式モニターで確認を。
「ま、それはそうなんだけど。ともかく有効射程まで3、2、1──0!」
「当たれーっ!」
先程の牽制射で完全にこちらにヒュージの気が向いたようだけど、弾幕を時に避け時にビットで弾きながら二人で手に持つCHARMから砲撃を送っても、射程ギリギリからではダメージも微妙なところ。
結局再度敵の子機を叩き落とすためにはかなり近寄る必要があるなと改めて認識していると、弾幕が止みギガント級がエネルギーをチャージする様子が見える──何を確かめるまでもなく、砲撃の予兆。
「ビットのバリアで少しの間だけ受け止める。その後は散開して、まずは敵の子機から潰すよ!」
「わかった!」
指示を出しながら前面にビットを展開、全開にしたバリアに『聖域転換』も合わせたタイミングで、ヒュージからの砲撃が迫る。
「限界まで引き付けて……今!」
流石にシールド分の防御フィールドなしでは向こうが消耗していようと真っ向から受けられる物ではないし即座にバリアは抜かれたが、その一瞬の内に私と結梨ちゃんは左右へ飛び、直後に通り過ぎる熱線が海水を蒸発させるのを海に浮くようにして球状に展開した聖域転換のバリア越しに眺める。
「とはいえ、少しキツいか!」
砲撃の被害を避けるために一旦海中へ潜らせていたシールドを呼び戻す間にも弾幕の勢いは近くに寄っただけ増しており、初戦程簡単には懐へ飛び込めそうにないなと、全力防御の影響で残量が少なくなったのがモニターに見えたとビットをマギのチャージのためシールドに納めているところへ、ヒュージを挟んで反対側に向かった結梨ちゃんが声を張り上げる。
「雪華、わたしから行くよ!」
「無理しない程度にね、この手のって下手に追い込むと発狂モード入るし!」
新品そうな雰囲気からレストアではなさそうとしても、所属するネストが同じ以上ある程度の傾向は同じだろうと当たりを付けて忠告は投げるけど、その間に最低限のチャージが終わった順にソードビット二基をそのサポートに飛ばす。
「バリア展開、気にせず突っ込んで!」
「たぁぁぁぁっ!」
近寄る間に敵の子機は五つまで戻ってはいたけど、本体からの弾幕をビットに防がせながら飛び付いた結梨ちゃんがブリューナクで突き刺して残り四。こちらもシールドのスラスターと足裏に展開した聖域転換のバリアで強引に海面を滑りながら照準、ソードライフルで撃ち抜いて二枚抜き──残り二。
「ん、この感じ……何?」
海岸、一柳隊の皆がいる辺りで何かが光ったと見えたと同時に感じたのは、どこか温かいと思える不思議な……いや、レアスキルにしても離れ過ぎてるしここまでその効果が届くことはないだろうに、なんでそれが私に分かる? さっきからどうにも、感覚が広がり過ぎて──
「わたししってる! これ、梨璃の光!」
「梨璃ちゃんの? どういう……っ!」
その先に思考を向ける暇もなく、ギガント級の登頂部からレーザーによる狙撃が二筋。こっちはスライド移動に角度もあって横に逸れたけど、跳んだまま落ちている途中な結梨ちゃんは踏ん張りも利かない空中なもんだから、ビットのバリアごと吹き飛ばされている。
「う、くぅっ……!」
「グリップを! 振り落とされれないでよ!」
返事はそのまま行動で示してくれるならと、空いている手で結梨ちゃんがビットのグリップを掴んだのを確かめて残る一基を護衛件足場として飛ばしながら、こちら側に残るヒュージ側の子機を捕捉、アンカーを打ち込み取り付くとソードライフルを突き刺しレーザーブレードを発振して内部から破壊すれば、結梨ちゃんもビットに引っ張られながら最後の一基を撃ち抜いてくれている。
「雪華、あとは?」
「そのまま掴まってて!」
ヒュージ本体からの攻撃は大破した子機を蹴飛ばした勢いで避けると、お互いの位置を確認……よし。
合流地点で結梨ちゃんを右手で捕まえるように抱き寄せ、ソードビットでヒュージからの弾幕は防ぐ。けどそこでガクンと落ちかけて──
「とっ、流石に二人は重量オーバーか」
ならこれ以上無理に飛ぼうとする必要もないと、スラスターの噴射を止めながら足場を空中に展開、ギガント級とある程度離れた位置で向かい合う形になればレーザーなり光弾なりが放たれるが、防御フィールドは抜かれていない。
となるとやはりあの子機で増幅なりなんなりしていたのだろうとして、時間を掛ければまた補充されるのは見えている……しかし、この状況って。
「ふぅ……こりゃ貞花を笑えないかなぁ」
「貞花?」
まあ、単身ヒュージの群れの足止めだなんて絶望的状況だったあの子に比べれば遥かにマシとはいえ、無茶具合は変わらんなと自嘲しながら、ビットを全てソードライフルの元へ集合させ連結──ソードモードがベース故に、今度はバスターソードになるそれの表面を指でなぞりながらマギを込め、二度続けて横に薙ぐ形で振るい波動のように広がるマギの刃を放ってヒュージからの攻撃を切り払いながら後ろへ跳び、新たに出した足場の上へ。
「結梨ちゃん、あのミリアムちゃんだか亜羅椰ちゃんだかみたいなやつ、やれる?」
「うん!」
などと確認をしても実行する直前、ブレイザーのシールドに備えられたフィールドジェネレーターがオーバーヒート、ビットもバスターソードと合体させている以上バリアは使えないともう聖域転換しか敵の攻撃を防げるレベルの防御はなくなるけど、正直そっちにマギを回す余裕もないのだから、あとは物理的な防御か!
「ちぃっ!」
「うぅっ……」
狙うのに最適なポジションを取った以上、それは向こうからも同じで子機を失おうと健在な本体から追撃の射撃が。今度はシールドで受けることになるけど、砕かれはせずとも衝撃はダイレクトに来るし、守りきれないスカートの端辺りをかすめて行ったりもした……だけど、耐えたならこの切れ目に決める。
「……今、やって!」
「結梨の力を見せてあげる!」
何に影響されたのやら、意気込んだ宣言と共にフェイズトランセンデンス特有のマギが逆巻く気配を背後に庇っていた結梨ちゃんから感じると、後ろに回した右手同士を繋ぎ『約束の領域』を発動。無限のマギをこちらにも──CHARM側の伝達がダメなら、私自身をバイパスにするまで!
「全力で攻撃に回す、少し堪えてよ!」
「がんばる!」
その間にCHARMもバスターソードからバスターライフルへ移行、更にシールドの裏側、コア付近へ曲げたライフルのグリップを叩き付けるように連結……ちっ、包帯がズレる。
「雪華、また血が!」
「構わないで……って結梨ちゃんも結構ボロボロじゃん」
邪魔だと言うのも手間だとまとめて引っ掴み包帯を放り投げれば、そこで構えたブリューナクから障壁を張りながら結梨ちゃんが前に出てくれるけど、よく見れば制服は所々破れてその下も傷だらけだし、自慢のおさげも左の方が半ばで千切れてしまっている。
「……うわっ!?」
「ととっ……仕上げ、二人でやろうか?」
とはいえ不慣れなのもあってか数発防いだくらいで、結梨ちゃんが衝撃に負けて私の懐へ背中から飛び込んで来るなら……ちっ、片目が血で塞がって……ん?
「なに、これ?」
「おーーー?」
顔を伝って顎から垂れた私の血と、肩口の傷から散った結梨ちゃんの血……それらがブレイザーのマギクリスタルコアに付いた途端にコアが激しく明滅、その表面で交互に映し出されるのは、私たちそれぞれのバインドルーン。
速すぎて最早四つのルーン文字が重なっているようにすら見えてしまうそれは、明らかに異常な反応。しかし壊れたにしてはCHARMとリンクする感覚は普段以上にクリアで、よく分からなそうに見上げてくる結梨ちゃんとも、約束の領域以上の“繋がり”を感じる──なら、行ける気がする。
「リミッター解除。出力110、120……トリガーを!」
投影したモニターの数値を確認しながら告げ、頷き前を向く結梨ちゃんの両手が私の左手を包むように添えられたならと、ターゲットは台座から生えるようになっているヒュージの根本。向けたビットの刃が中央から開いて出来た砲身の間で、限界を越えたマギがスパークする。
「「いっけぇぇぇぇぇぇっ!!」」
重なる声と同じく、重ねた手で引き金を。放つ光が海面スレスレを疾りヒュージに着弾したのなら、反動に逆らわず上へ上へ切り裂くように振り抜く。
大きさだけなら先程の結梨ちゃん単独のそれ以上な海を裂かんばかりの一撃で、ヒュージを縦一文字に引き裂いたように見えても機構の不調を押して無理矢理撃ったのと距離を取った分結果はヒュージの中央表面を焼くだけに留まり、その上コアがあるのだろう光の漏れている辺りの傷から、即座に塞がろうとしている。
「浅いか……!」
「どうする?」
「こうする!」
半ば脊髄反射的なやり取りをしながらバスターライフル側のサブコアにまだ繋がっている結梨ちゃんからのマギを流しつつある命令を下し、グリップを戻しながらシールドから分離させ槍投げのように右手へ持ち直したそれを、再生している最中のヒュージの傷口目掛け全力で投擲。
はたして塞がる傷口へ飲み込まれるかのように入っていったバスターソードは、内部でビットとの合体を解きヒュージの体内を蹂躙、最後には命令通り過剰に注がれたマギの制御を放棄して、もろともに自爆した。
ここまでやってようやくコアを守っていた外郭部分が吹き飛ぶ程度だが、どの道トドメを刺すのは私たちの役目じゃないのだから、それで構わない。
『夢結、引っ張ってくれ!』
『雨嘉さんにマギスフィアが回りましたわ! おふたりは早く離脱してくださいまし!』
「オッケー。結梨ちゃん、撤退するよ!」
「うん!」
なら後は通信越しに聞こえた楓さんの指示に従うがまま、マギの足場を二人分用意しながら、各々全力で後退する。