とりあえず世界は壊した、理由も詰めるには詰めたはず。下手な逆張りより、愚直なまでに真っ直ぐな展開の方がよっぽどいい。ありきたりなお涙頂戴よりも、みんなで笑えるハッピーエンドを…残りもそんな気持ちで駆け抜けるのみ。
ちなみに、元から上げてた方だと一昨年のこの日が1話投稿日なんで、二年掛けてなこの話数ですわ。
「また、助けられてしまったわね」
「迎撃戦のことなら、こっちこそ夢結が危険を承知で突っ込んでくれたお陰で、なんとかなったと思ってるんだけどなぁ。ま、この場合はお互い様、ってことでいいんじゃない?」
なんか最後にツッコミ待ちなのか無意識なのか分からないオチになりはすれど、目的の二人は無事回収し百合ヶ丘へ搬送された。
それならばこれ以上留まるには理由が苦しいと、百合ヶ丘の飛行場へ停められた烏丸所有のガンシップに乗り帰ろうという楪たちを見送るのは、一柳隊からこのメンバーに旧知の相手がいる夢結と楓。その片割れである葵は、雪華の相変わらずな無法っぷりに頭を抱えている。
「シモキタと合わせてなんとなく、楓の苦労が分かったような気がするよ」
「雪華様もこれに懲りて、少しは大人しくなってくれると良いのですが……まあ、無理でしょうね」
「あはは……じゃあ、今度会う時は何か食べにでも行こっか?」
個人的な知り合い同士の二組が話し終えると、五人を見渡せるように夢結は向き合い、頭を下げる。
「改めて、今回は雪華様のために駆け付けてくれて、ありがとうございました」
「いえ、そんなに畏まられるようなことでは……私は、一応ガーデンからの指示もありましたし、結局決め手は烏丸の方からの依頼ですから」
「わ、わたしも、あの白井夢結様に頭を下げてもらうようなことは、なにも……」
有名人にそのようなことをさせるなど……と萎縮する二人には、それぞれ横から気を抜くよう声が掛けられる。
「それでも自分が行くと決めたのは一葉自身なのだから、素直に受け取っておいた方がいいんじゃないかしら?」
「大体、雪華先輩と関わるんならこれからも色々あるだろうし、佳世ちゃんも慣れといた方がよくない?」
恐らく、この縁も今回限りの物にはならない。そんな予感がするから、叶星の次の言葉は正面の夢結に向けて。
「ところで雪華様のレギオン、一柳隊の副隊長である夢結さんに、折り入ってお願いがあるのだけど」
「何かしら。わたしに出来ることでよければ……」
◆◆◆
目が覚めると見知らぬ天井──という程でもなくて、命を懸けた戦場にその身を置くが故に何度かお世話になった覚えのある、学院内の病室はベッドの上。
「やれやれ、片腕で済んだだけ御の字と言うべきか」
ぼやきの通り左腕はギプスの上からなんて言うんだっけか……ともかく布か何かで固定され、頭にもまたキツめに包帯が巻かれているけど、まあこんなもの生きているのなら安いものだろう。
「ん──と、あたたっ」
それからしばらく上半身を起こしベッドの上で軽く動きながら節々が痛む身体の調子を確かめていると、短いノックの後返事も待たずにドアが開いて、見慣れた緑髪がひょっこりと入ってくる。
「なーんだ、思ったより元気そうだナ」
「まあね。この程度ならしょっちゅうだったし……一応確認するけど、私で最後?」
「そっちの意味なら、皆無事でもう目も覚めてるゾ」
「そっか」
梅の言葉も別に意外に思うことはない。あの光がなんなのかは大体察していたし、それに導かれたってことは「やってみせろよ」ってことだ。
だから手を伸ばしたし、だからその手を掴めた。これでめでたしめでたし……余計な蛇足なんて、必要ない。だから私も──
「他にも、言うべきことはあるのかもしれないけど……その、ただいま」
「……ああ、お帰りだゾ」
梅はこうして笑顔で迎えてはくれるけど、心配は、大分と言わずかけたのだろう……けど今はお互いの無事を喜ぶだけでいい。私たちの選んだリリィという生き方に大事なのは多分、そういう割り切りだろうから。
「で、容態とかについての色々貰ってきたし、これから隊の皆で見ようと思うんだけど」
「オッケー動く。それくらいはいつも大目に見てもらってるし」
ともかく梅が書類を見せ付けてくるのならとそのままベッドから這い出れば、おいおいと言いたげな様子でジト目が飛んでくる。
「結構な怪我に見えるけど、前のレギオン時代からいっつもそんな調子なのか?」
「しょっちゅうだって言ったでしょ。とりあえず目通しときたいし、歩きながらでいいから見せてくれる?」
とりあえず左腕は固定されてて袖通せないしと、そこらに架けてあった制服の上着を適当に入院着の上から羽織って、誰かが私の部屋から持ってきたやつだろうか。なんて思いながら出た廊下で件の書類をファイルごと梅から受けとると、早速目を通しておく。
「……てか、私の分もあんじゃん」
「そりゃあうちの隊の分まとめて貰ってきたからナ。というかあの有り様から軽傷扱いなの、ちょっと納得いかないゾ?」
なんて呆れた風にされても、実際そこまでのダメージは残ってないと診断書にも書かれているんだから、これが現実。左手も痛いには痛いけど、後に残るような痛め方はしてないようだし。
「そうは言っても特に残るような怪我もないし、こうして固定してるのも念のためみたいだから、少し痛むの無視すりゃ動かせはするしで……ん、こっちは梨璃ちゃんのスキルに関して? まあ、だろうねって感じ」
「だから前にも言った……時は雪華サマ、ヒュージに捕まってたか」
状況的に判断に困る部分はあったけど、やっぱりギガント級のビーム攻撃による残存マギが相当だった、ってことなんだろうか。ヒュージを撃破した後も、梨璃ちゃんだけは依奈の指示で説明する時間も惜しいとレアスキルだけに集中させられてたって話だし。
「んで残りは結梨ちゃんの……あ、そういや結梨ちゃんにちょっかい出してきたゲヘナの連中は?」
「生徒会曰く『散々好き勝手された分は裏でやり返します』ってさ。なんでも、逃げ出したってことに
などとさらっと伝えられる情報には、どうしたってあの二人の顔がちらつく訳で。
「『善意の』第三者ねぇ。十中八九連中が尻尾出すの狙ってたってだけでしょ」
「まあナー。で、ここからは噂なんだけど、その第三者ってのはとあるガーデンの卒業生なリリィだって話だゾ」
それをわざわざ言う時点で
「それ、噂じゃなくて『ようやく連中に一泡吹かせてやったぜ』とかの事後報告の類いでしょ」
「アハハ、流石に身内のやり口には敏感か? 書き置きによると、昨日の夜来てたらしいゾ。
「ったく、あの人たちはさぁ……」
楓さんに姿を見られたことといい、つまりは姉さんが今回の件でやった何かしらの自慢をしに来たら私は寝込んでいた。そういうことになるんだろう。
「それで、そっちの方は?」
「あーごめん、話してたから途中だわ」
話が大分逸れてたか。さて、肝心要の結梨ちゃんについてだけど……うん。
「……まあ、勝ち取れたんじゃないかな。あの子の未来は」
「そっか……いやー、これで『余命いくばくもない』とか書かれてたら嫌だから、それだけ見れてなかったんだよナー、助かったゾ雪華サマ!」
そうバンバンと、痛まないよう私の右腕を叩いてくる梅。いや気持ちは分からんでもないけど、怪我人を心のガードベントにしないでくれません?
「まったく、毎度調子いいんだからさぁ。とりあえず、皆は控室に揃ってんの?」
「流石に今日くらいは安静にしてろ、って言われてる結梨以外はナ。梨璃たちの命令違反についても、あのヒュージの討伐と相殺で頭の堅いお偉方を黙らせた……というより、今回の件で色々言って来てた連中はこれまでも散々やってたゲヘナ絡みの悪行がバレて、そのままトンズラしたから文句を言ってくる相手がいなくなった。ってのが一番みたいだけどナ」
まあ、私としてもこっちは徹頭徹尾勝手な大人たちの都合に振り回されただけの被害者だってのに、不当に逮捕なんぞされてたまるかってのもあるから、向こうが勝手に自滅したんなら別にいいけどさ。
とはいえ、杜撰に過ぎる理屈がひっくり返され一転して完全に政府の役人どもが行った無法の被害者という立場になった結梨ちゃんはともかく、仮にも生徒会の目の前でその逃亡を幇助をした梨璃ちゃんと夢結は完全にお咎めなしとは行かず、
──なお、それでもそんな物に慣れている訳もない梨璃ちゃんは夢結に書き方を教わりながらもひーこら言ってたらしいのは、また後で聞いたお話。
「あ、そういえば二人が海に落ちてすぐ、東京からこないだ雪華サマと一緒に戦ったって面子が来てたゾ。大分無理したみたいだから各校一人ずつだったし、見付けたら乗ってきた烏丸のガンシップで送り届けるだけして、すぐに帰ってたけど」
「それ、一番最初に言ってくれないかなぁ? お礼のメールくらい後で打っとくか……」
ちなみに後で確認したらあの時のメンバー全員からではないにせよ、結構溜まっていたとは──にしたって一番上の一葉ちゃんや『お加減は如何ですか、お早い返信求ム』とか、いつの時代の言葉使い入ってんのよ?
なんてことはあったけどその後はお互い特に話すこともなく、一柳隊の控室の前まで黙々と進んで行く。
「んじゃ、あたしゃ手塞がってるんでドアよろしく」
「どうぞ、お姫様」
梅のやけに着飾った冗談に、入院着の上に制服の上着かけてるだけの姫とかなにさ。などとツッコミを入れていると、控室に入った途端八人分の視線がこちらに集中する。いや、そんなに見なくても。
「あー、ごきげんよう?」
「おうごきげんよう……じゃなくて、なんでもう出歩いとるんじゃ雪華様!?」
「いや、かすり傷でしょこんなもん。片腕吹っ飛んだりしたでもないんだし」
実際そうなって心身のダメージから引退を余儀なくされたリリィなんて、この5年ちょっとでそれなりに見てきたし。とはいえジョークで済まされる様子でもなさそうなので、梅から受け取ってたファイルを見せ付けてさっさと本題に入る。
「聞きたいことは大体分かってるし、そこら辺のは梅がもらって来てくれた。いいよね?」
「「…………」」
沈黙を肯定と受け取って、皆は向こう側に座ってるしファイルをテーブルの上に置くと反対に向けてから、ズラすように書類を広げる。
「まず一番心配だろう結梨ちゃんのことから話すけど、はっきり言って普通のリリィなら再起不能なまでに全身が負のマギによって汚染されかけていた、というのが最初の診断結果。イレギュラーなレアスキルの使い方に加えて、長時間あのヒュージの近くで戦って相手側のマギを浴びすぎた、ってのが主な要因らしいけど」
「そりゃあ、あれだけ無茶なレアスキルの使い方をした上に、ギガント級ヒュージのそばでCHARM側が先にダメになる程のマギを扱ったとあればのう……あの時、もう少し気にしておくべきじゃったか」
アーセナルとしてのミリアムちゃんの後悔を聞いて、なのに何故結梨ちゃんが無事だったのか、自分の経歴から思い至った答えを鶴紗ちゃんが零す。
「でも、結梨は生まれながらの強化リリィ……いや、下手したらそれ以上みたいなもの」
「だからこそ助かった、というのでしたらとんだ皮肉ですわね」
それに続く楓さんの考察に「ま、実際はそれだけでもないんだけど」と続きを指さす。
「とはいえほんの少し、後少しでも越えたらいくらあの子でも精神か肉体か、あるいはその両方がもたなかったラインでその侵食が止まっていた……その理由は」
「十中八九、梨璃さんのレアスキル、でしょうか」
「あの、胸の奥が温かくなる感覚……?」
そんな神琳さんたちの発言に、今度は梨璃ちゃんに全員の視線が集まる。
「あれって、結局なんなんですか? わたし、皆を助けなきゃって無我夢中で……」
さて、大体の答えは分かっていたし、検査の結果も的中率は七割ほどと絶妙に信用ならないししたくもない数値だけど、私自身の体感は他の同スキル持ちと共闘した時のそれと大差はない、故に間違いはなさそうだ。
「それについて言っていいか……は私の判断でいいのかな、夢結?」
「……わたしの許可がいるというのでしたら、お任せします」
「オッケー。なら言わせてもらうけど梨璃ちゃん、あなたのレアスキルは『カリスマ』周囲のマギを浄化して自身の中に取り入れ、仲間へ分け与えることが出来る癒しの力。それを展開されていた『テスタメント』に乗せて結梨ちゃんに届けてくれたことが、彼女の命をギリギリで救った。流石に多少のダメージは残るみたいだけど、あくまで普通に暮らす分には退院後簡単なリハビリですぐ問題なくなるってさ」
その辺りについての書類をまとめて見せながら、努めて優しくその内容を伝える。完全に無事だとは言えない結果だが、それでも、レギオン全員で勝ち取った未来なのだから。
「そう、ですか……よかった。本当に、よかった……」
身体を震わせながら、一言一言を絞り出すように吐き出す梨璃ちゃんへ、そっと夢結が寄り添う。
「梨璃……?」
「違うんです……嬉しいのに、嬉しくて仕方ないはずなのに……うっ、ひぐっ……お姉、様ぁ……」
そこまで言ってあの戦闘から──いや、結梨ちゃんと共にガーデンから逃亡した時からずっと張り詰めていた緊張の糸が解けたのか、そのまま梨璃ちゃんは夢結に抱き付いてわんわんと泣き続ける。
そんな重なりあうシュッツエンゲルの姿を見て一人、また一人と立ち上がり控室を出ていく一柳隊一同──楓さんだけはなんかあからさまに葛藤してたから、一番最後になってドアを閉めた後ミリアムちゃんに茶化されてるけど。
「楓ぇー、おぬしそんなに馬に蹴られたかったのか?」
「まさか、わたくしもそこまで野暮な女ではないとだけは」
あっけらかんと答えはしても、事実さっきまで何度も後ろを振り向く未練たらたらな様子で部屋から出ようとしなかった事実は変えられないので、相変わらずな楓さんの様子に二水ちゃんとミリアムちゃんはジト目になっている。
「最後まで一人残ってた時点で、十分野暮だと思うんですが」
「じゃのー」
「おだまりちびっこーズ! 確かにわたくしが梨璃さんをお慰め出来ないのは残念ですわ。ですが、今梨璃さんの想いを受け止められるのは夢結様だけですもの、仕方ありませんわ……さあさあ、こうして出たからには折角ですし、結梨さんのお見舞いにでも参りましょうか」
「……ふーん?」
普段の言動が私利私欲にまみれているのは周知の事実だけど、それでも常に相手の意思は尊重し、時には立ち位置を弁え自らを律せる。それが楓さんなりの生き様なのだろうと、その背中を見送りながら思う。
「楓がまともなことを言うなんて……明日はダインスレイフでも降るの?」
「そうでもないゾ。楓はアレで結構ちゃーんとしてるところもあるんだ」
「『アレ』だし、ところ『も』なんだ……」
「普段の梨璃さんへの態度を思えば、まだ優しい言い方かと」
だからこんな風に周りから弄られるのも、また彼女の人徳故……そう信じたい、うん。
「ま、私も一応診てもらわないとだしね。どうせすぐ治るはずだけど」
「流石にあんな風になっておいて、その軽さはおかしいでしょ……」
「いやー、残念ながら雪華サマはこれが平常運転なんだゾ。酷い時はおやつ感覚で『肋骨が逝ったか……』してるし」
「いくらあたしでもそこまで酷くはないけどなぁ!? 確かにCHARMついでに体も壊してた時期も一応あったけどさ」
それにしたって二年途中に『円環の御手』に目覚めてから少し変えた戦闘スタイルに慣れるまでって、ほんの少しの間だけだってのに。私のイメージってなんなんだろう……分からない、本当に分からないんだ。
「なーにモタモタしてますのー? 置いていきますわよー!」
なんて梅たちとじゃれていたら残りの面々は先に行ってるのだから、なんともまあ。これでも最上級生なんだけどなぁ、そろそろ扱いに慣れられてしまったか。
◆◆◆
「おおー、みんなぞろぞろときた」
「ふむ、とても廃人一歩手前だったとは思えんのじゃが」
そんなこんなで発見以来再びの入院着な以外は、思ったより元気そうな結梨ちゃんの病室。
そこにはお見舞いの品なのか定番なフルーツの詰まったバスケットに始まり、お菓子の詰め合わせとかエナドリとかラムネとかペヤングとか色々と置いてあることを見るに、私たち以前にもお見舞いに来た人はかなり多いようだ。
……いやなんでペヤング? エナドリも大概酷いけど、そこら辺は趣味的過ぎて犯人ごと絞り込めるし、それ故に悪気はなさそうなのがなんとも。
ともかく差し入れの理由が彼女への後ろめたさなのか、命を懸けて戦ったことへの感謝なのか、はたまたそれ以外なのかは人それぞれなんだろうけど。
「ところで、梨璃と夢結は?」
「あー、っと?」
(一応メールは送っておいたので、気付けばその内こられるかと)
(オッケー、流石できる女)
結梨ちゃんからの質問へ言葉に困っているところ、さりげなく囁いてきたファインプレーの楓さんにはグッとサムズアップ、ぶっちゃけ年長者の私がやっとくべきことだとは禁句で。
「二人はちょっと用事あるから、少し遅れてくるかもだって」
「むーっ。じゃあなんか食べる?」
「なら遠慮なくもらむぐぐっ」
そして一番近くに座っていたからか、はたまた利き腕が動かせない有り様だからか、何故か私が結梨ちゃんにチョコバーをあーんしてもらうなんか逆だろな光景が生まれていた。ちょっと梅は肩抑えるな! 誰か二水ちゃんのカメラを止めろー!!
──なお抵抗も虚しく、その写真が後日週刊リリィ新聞の一面に使われたということだけは、ここに記しておく。内容も話せ? やだよ。
てか編集してる最中に乗り込もうとしても、校内にも寮にも二水ちゃんの影すら見当たらなかったのは、いったい何がどうなってんのか……リリィ新聞の編集室は旧校舎の地下にあるって、なんで???
◆◆◆
「ごめんなさい、遅れました!」
「あ、梨璃! 夢結も!」
そんな風に弄られたりしていると、しばらくしてまだ目の辺りが少し赤い梨璃ちゃんが、夢結を伴って病室へ入ってくる。
「結梨ちゃん……生きてるん、だよね?」
「うん! わたし、ここにいるよ!」
嬉しさの余り結梨ちゃんが梨璃ちゃんへ向けて飛び出しかねないから、シーツ越しに押えてステイステイ──どうにも梨璃ちゃんの方は、何から話せばいいか決めきれてなさそうだし。
「さてと、レギオン全員揃ったからにはまずは反省会でもしますか」
「なんだ、今更優等生ぶっても手遅れだゾ?」
梅がわざと茶化してくれるけど、生憎今回ばかりはおふざけではないんでね。
「だとしても、私だって反面教師になるべき時とそうじゃない時くらい弁えてるよ。ということで結梨ちゃん、今からあの時言ったお説教ね」
一晩経って、少なくとも私よりは先に目が覚めていたのだろうこともあってか、結梨ちゃんの方も心構えは出来ているようで、黙って頷いているなら広げた指を折って数えながら、最初にひとつ。
「まず、どうやって戻るかも考えず無策で突っ込まないこと」
もうこの時点で鶴紗ちゃんとかの「それをあなたが言います?」って視線が痛いけど、あたしゃあ最低限帰れる算段は立てた上で突っ込んでるんだからいいでしょ……続いてふたつ。
「次に、前に祀さんも言ってたけど一人でやれることなんて限界があるんだから、誰かを頼りなさい」
これが最初から制服のリボンを引っ張ったまま私に相談してたのなら、一緒に突っ込むにしたって一度目から残りの皆に動いてもらうことだって出来たし、単純に一戦一往復分のマギを節約出来たなら多分私も結梨ちゃんも、途中で力尽きる羽目になんてならなかったと思うし。そして──
「じゃあ、雪華はどうなの? なんかみんな色々言いたそうにしてるんだけど」
次を告げる前、そんなことを聞き返されれば、痛いくらいの視線に自覚はあると繰り返すことも出来ず、反射的に返事が出ていた。
「……そんなの、後悔してるに決まってるじゃない。『あの時こうしていればよかった』とか『あの場にいたのが私よりもっと強いリリィなら』なんて……本当に、よくあることよ」
背負い過ぎている……ついそう言ってしまうくらいには、後悔だらけの日々。だから私は、自分の手が届かない先まではもう見ていられない代わりに、届く範囲だけは全力で守り抜く。そう割り切るしか、ないから。
「……随分とぶっちゃけますのね」
「嘘言っても仕方ないでしょ? それでも『私』は、私の目の前でだけは嘆きも悲しみも背負わされる子が一人でも少なくなるよう、少しでも寂しくなくするために今もみっともなく戦い続けてるだけ。後悔はいつもしてるよ……けど止まるつもりは、もうない」
「……後悔って、してもいいの?」
「むしろ後悔や反省をしないやつは、ずっと同じ失敗を繰り返すだけで逆に信用ならないと思うけど?」
結梨ちゃんには意外そうに聞かれるけど、私はそれまで一度も失敗をしたことのない、あるいはそうだと『思い込んでいる』人間こそ、いつか致命的な時に周りを巻き込んで派手にやらかすもんだと思っているし、後悔の機会があるレベルの失敗ならどんどんしておけと言いたい。勿論、今回はそんな程度では済まないからこそあの時はしっかりと怒ったけど。
「珍しく雪華様がまともなことを言っておるのう、こりゃ明日はマイクロミサイルコンテナや爆導索でも降って来るのか?」
「いやそれ色々アウト。そりゃあゲヘナの連中ならそういう頭おかしい変態兵器作ってても、何も不思議じゃないけどさぁ」
そのままミリアムちゃんのあんまりな例えも、年頃の少女の身体を弄んで喜ぶような変態どもならやりかねんと否定できずにいると、纏めるように梅が話を引き継いでくれる。
「ともかく、失敗したんならちゃんと反省して次に活かせ、ってことを言ってるんだゾ。皆に心配かけたの、悪いとは思ってるんだよナ?」
「それは、ごめん。でも、みんなありがとう……
また、か。確かに最初に彼女を見付けたからこそ、今もこうして一緒にいられる訳ではあるけど。
なんて思っていると、いつの間にか結梨ちゃんの隣をしっかり確保していた梨璃ちゃんが、少し躊躇った後彼女に抱き付いていた。
「……ううん、わたしの方こそありがとう結梨ちゃん。今、ここにいてくれて」
「梨璃?」
今更言うようなことでもないだろうけど、もう梨璃ちゃんにとって結梨ちゃんは大切な家族の一人だ。そこに血の繋がりも他人からどう見えているかも関係なく、他ならぬ自分の心にそうだと、しっかり刻まれているはずだから。
だからまあ、その心をこうして守れたのなら、CHARMほぼ全滅の無理を通した甲斐もあったと──
「あー、ここにいたんですね? 雪華様」
「あ゛っ゛」
「おう百由様か」
──なるほど、ここが私の死に場所か
そう確信してしまう程、病室に入って来た今の百由の眼鏡の光り具合はヤバい。どれくらいかというと、まあヤバい。
「あー、あはは、はははははははは……」
「雪華サマが壊れたゾ……」
「いやいやー、そんなに怯えなくても
「えっと、誰に……頼まれたんですか?」
雨嘉ちゃん、多分善意100%なんだろうけど、今の私にはそれって死刑宣告を早めただけなんだよ……
「勿論、『シェリス先生』に」
「わああああああっ!! わあああああっ!!」
「うわぁ! 誰じゃ雪華様に『ルナティックトランサー』をテスタメントしたのは!?」
「わたくしでないのなら、雪華様がご自身の『約束の領域』を使った以外ないかと」
「……それよりも、ルナティックトランサーをいったいなんだと思っているのかしら。あなたたちは?」
急に叫ぶスキル。とか言ったら絶対世のルナティックトランサー持ちさん一同に怒られるから口にはしないけど、なんでよりによってあの人にバレたたのか。
他の先生ならある程度多目に見てくれるのに、リリィとしての現役時代あの〈
「……あー、ところで百由? CHARMのことだけど」
「んー、ブリューナクだけは辛うじて使えますよ? 他は……まあ一旦全部バラした方が早いわね」
「でっすよねー」
曰く比較的早めに投棄したライザーは数日で終わりそうだからともかく、コアの契約までバグった状態で限界も限界まで酷使したブレイザーも子機側は壊滅状態なもんだから、当然というか物理的にパーツも足りず、軍の対応に駆り出されていた面々の機体の修理もあるしと完全に後回しだとのことで。
「じゃ、そういうことでこの不届き者な先輩は連行してくわねーぐろっぴー」
「お、おう……」
「あああああああああああああああ……」
で、話を逸らそうにも即座にバッサリ両断されたのだから、逃げられる訳もなく引き摺られるしかない。
◆◆◆
「……ん?」
結局あのまま職員室に連行されてのお説教に本来の予定の検査にと長々と拘束され、終わった頃にはご飯時だったからそんなに元気なら普通に食べていいと先生にも言われ学食での夕食を終えて病室に戻る最中、なんか後ろの方に気配を感じて振り返ると、誰かがサッと空いてる部屋へ逃れようとしたのが見える。
「…………!」
(隠れてるつもりなのかなぁ)
病棟回りの廊下は基本的に大体の時間で電気は付いてるし、普段と違って結んでない
「……母さん?」