アサルトリリィ~円環の赫星~   作:ですティニー

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前回のあらすじ:見送りと寝起きとカリスマっ!とおあーっ!と。
今回は基本オリキャラ組回になるかなと、裏方の答え合わせも兼ねて。なおクローズド部分が増えないとは(あ)
年内には無事間に合わなかったので、あけおめ投稿ですわ!


それぞれの戦場─ばしょ─で

「母さん……?」

 

 しばらくぶりとはいえ、生まれてこの方見慣れた後ろ姿──濃い緑の長髪がこちらを振り向けば、私と同じ深紅の瞳が見据えてくる。

 

「やれやれ、相変わらずボロボロね。うちの子は」

 

 黒紅(くろべに)(はな)父さん(雪夫)の一文字と合わせて私の名前の元になる──なんて話はともかく、親に呆れたように言われると反発したくなるのが子供というものだから、私もその感情に従って視線を逸らす。

 

「……仕方ないでしょ、私がやらなきゃいけなかったんだから」

 

「で、怪我人がどこで何してたのよ。こんな時間まで」

 

 制服の上着を被せていても、頭の包帯や吊っている左腕は隠せるようなものでもないのだから、隠し事がバレて拗ねたような感じでしか返せない。

 

「ご飯。元気そうだからってオッケー出てたからさ」

 

「そんな状態で?」

 

「片手でもハンバーガーとかくらい食べれるでしょ。流石にトレー運ぶのはレギオンの子に手伝ってもらったけど……ってそうそう、学食といえばさぁ」

 

 このまま自分の話をずっとされるのも嫌だから、関係ない訳でもないしと少し前の話を。

 

◇◇◇

 

「あれ、雪おばさん?」

 

「だーれがおばさ……叔母さんだったわ」

 

 誰に聞いたのか、食堂の入り口で待ち伏せしていた梅に注文したものを乗せたトレーを持ってもらいながら、開いている席を探していたら目に付いたのは大分久しぶりな親戚の黒い髪。

 黒紅(くろべに)雪菜(ゆきな)、父さんの下の妹さんで、ガーデンを卒業した後は軍に入ったって聞いてたけど、このタイミングでよくもまあ百合ヶ丘に軍人さんがねぇ……なんて考えていたら、私が立ち止まったのに気付いた梅が戻ってくる。

 

「なんだ、知り合いなのか?」

 

「えっと、父さんの妹さん。なに、まさか今回の件でヒュージにボコられてたの、おばさんの所属してた部隊だったりする?」

 

「いや、確かに顔見知りも何人か百合ヶ丘に保護されてたけど、あたしゃあ別口でね。烏丸のお嬢さんと色々あったのさ」

 

「ここでも姉さんかよ……」

 

 外堀から埋めに……はちょっと意味が違うか。ともかく雪おばさんが語るのは、閑さんたちが担当していたエリアとはまた違う場所での戦いの話。

 

◇◇◇

 

 日付としては昨日になる鎌倉の山中、一旦休憩だと停車した輸送車の中で、怪訝そうな声が上がる。

 

「先輩、今回の輸送ルート見ました?」

 

「あぁ、これを作ったヤツはとんでもない大バカ野郎だって話だろ? ケイブ頻出地域の近くをこの程度の車でぶっちぎれだなんて、よっぽど急いでるか死んでこいかの二択さね」

 

 護衛こそ付いてはいるが、装甲車二台程度ではスモール級にすら数によっては歯が立つまい。軍のリリィ部隊は動かさないか動かせないのか……どちらも後者だなと現役の頃から何度も助けられた、戦場での勘が告げている。

 ならばもう軍で自分がやることは残っていないようだと、先日受けたある『提案』への回答が彼女の中で決まり、端末へ指を走らせた。

 

「よし、返事は出した……後はあたしだけでやる。あんたはここで降りな」

 

「冗談。帰ったところで今の軍の有様じゃ、口封じに捕まるか殺されるかでしょ? 付き合いますよ先輩、地獄の底まで」

 

 今度の『積み荷』である顔色の悪い白衣姿という、見るからに研究職な人間と今鎌倉周辺を騒がせている案件と、その二つが関連しているとしたら、繋がる事柄などひとつしかない……ゲヘナの陰謀だ。

 どうやら事実を隠蔽するため政府はコトの関係者を一人として生かしておくつもりはなさそうなのだから、従うも逆らうも既に変わりなどない。運転席こそ譲りながらもそのまま助手席側に座る後輩に、いつぞや鶴紗を横浜へ運んだ時も先輩と呼ばれていた元リリィ──雪菜も口角を吊り上げる。

 

「はっ、そうかい。エリアの手前で離脱する、舌噛むんじゃないよ!」

 

 彼女とてガーデンを出た後もリリィでいられる内は前線で世界を守っているつもりでいたが、その先の未来が積み荷やその裏に潜む連中のような、欲望に濡れた俗物が幅を利かせる世の中だと言うのなら──以前より打診を受けていた側へ転ぶのに、躊躇う理由はない。

 そもそも先に裏切ったのは世界の方なのだからと、彼女は現役時代に獲物を前にした時のような、獰猛な笑みを浮かべていた。

 

「なぁに、こちとらデカイ相手に噛み付くのは慣れてんだ、ヒュージ相手も人間相手も今更同じさね」

 

「でしょうねぇ、でなきゃこんな窓際にもなってないだろうし」

 

 うっさい。と余計な一言には肘鉄をお見舞いして、休憩も終わり輸送車を走らせてしばらくすると、護衛から分かりきっていた通信が入る。

 

『不味いな、この先で戦闘が発生しているようだ。どうする?』

 

「仕方ない、迂回するよ。着いてきな」

 

 車の向きを変える間にも、チラリと宙を舞うリリィたちの姿が見えたのだから、雪菜が「頑張んなよ」と後輩へ心の中でエールを送っていると、近くで轟音が鳴り背後をミラーで確認しながら通信で呼ぶ。

 

「っと! 生きてるか!?」

 

『こちら一号車、怪我人はいないがヒュージの攻撃を受けて行動不能。車両を捨てる!』

 

 左側、ケイブ頻出地域に近い方の守りに就いていた装甲車が黒煙を上げ擱坐していることから、エリアの外周側で活動していたヒュージの関知範囲に引っ掛かったと見るべきか。

 

「先輩、ヒュージが来ます!」

 

『こちらである程度注意を引く、構わず進んでくれ!』

 

 聞こえた音からして、脱出した一号車の乗員たちがマシンガンなどの手持ち火器を中心にヒュージを攻撃しているようだが、スモール級の何体かは被弾しその場に倒れ沈黙したが、それも群れの一角の更に一部、という風ではあるものの、一応の足止めにはなっている。

 

「無理するんじゃない。ヤバくなったら百合ヶ丘の方に逃げるか、最悪戦闘エリアに突っ込め!」

 

『そうだな……可能ならやっておこう、通信終わり』

 

 向こうで戦ってるのがリリィなら、泣き付けば見捨てられることだけはないだろうと言外に告げても、明らかにそのつもりのない、事務的な返事で通信を切られれば、どいつもこいつも命を軽く見やがってと、舌打ちのひとつも溢す。

 

「……先輩!」

 

「分かってる!」

 

 それでも自分たちのために彼らは足止めを買って出てくれたのだから、今更止まることだけは許されない。

 

「んぁ?」

 

 だからとアクセルを全開で踏んだ瞬間、視界を横切る『(あか)』に気を取られる間もなく、何かが輸送車の上に着地したとの揺れが。

 

「取り付かれた!?」

 

「いや、今の前からだろ!」

 

 反射的な言い合いも程々に、通信機越しに割り込まれたのだから意識をそちらへ向ければ、どこか気の抜けた声が。

 

『あーあー、ちょっと車の屋根お借りしてるです』

 

「誰ですか!?」

 

『そうですね……あなたたちを積み荷ごと始末しようって、この騒ぎの黒幕どもの敵ですよー』

 

「その声……あんたか〈星を眺めるヒト(スターゲイザー)〉! 返事にしたって早すぎるだろう!」

 

 気軽に告げる声に雪菜の方は覚えがあったようで、問いへの答え代わりにバックミラー越しにはレーザーが迫るヒュージを次々と射抜く様子が見えた。

 

◆◆◆

 

「さてと、折角なんで実験もさせてもらいましょうか!」

 

 雪菜に異名の方で覚えられていた、いつものマーカー弾とアンカーの合わせ技で空を翔け、輸送車の上に飛び乗ったマント姿のリリィ──霊奈は改造アステリオン(ストラトス)のグリップエンドに増設した装備へ、眼鏡のフレーム端に取り付けた装置から指示を送る。

 

「レイガンビット一番から四番まで全基展開、ターゲット捕捉……ファイア!」

 

 お馴染みなマギワイヤー越しに繋がった4つの子機が解き放たれると、ブレード部を鋏のように中央から開き刃の内側とその支点、一基につき3つの銃口を覗かせ主の命に従って閃光を乱れ撃ち、先頭のヒュージから順にレーザーの群れが穿っていく。

 

『おおー、これが噂の第4世代CHARMってやつか。先輩、これならなんとかなりそうですね!』

 

『どうだかねぇ。無賃乗車だろうと遠慮はしない、振り落とされるんじゃないよ!』

 

「ご忠告どうもです、っと!」

 

 アンカーを四隅に打ち込み、身体を固定しながら通信に返していると、アクセルを踏み込んだのか輸送車が加速する中霊奈もストラトスの本体で近寄るヒュージを狙撃。

 試作段階といえどビット兵器の威力は凄まじく、たった一人の援軍だけでもヒュージの数は確実に減らせているが、主戦場から外れているにしては妙に多すぎると、各々嫌な予感が──

 

『ケイブ反応……直上!?』

 

『ちぃっ、全速力で突っ切るよ!』

 

「いえ、そこまで慌てることもないですよ」

 

 ──的中して、頭上に出現したケイブは3つ。確かに普通なら危機的状況だろうが、「この場においては一手遅かったですね」と、そう呟いた霊奈がかけている眼鏡のレンズに映されたモニターが友軍の反応を示していたのだから。もう状況は終了したも同然だ。

 

『またなんか来ましたよ!?』

 

『今度もそっちのかい?』

 

「ええ、まあ。この世で一番頼りになる、私の最高のパートナーです!」

 

 誇らしげに告げる霊奈の言葉に偽りなく、戦闘エリアへ勢い良く上空から飛び込んで来た影は、欠片の焦りもなく淡々と言葉を紡ぐ。

 

「システム、戦闘レベルで起動。ターゲット確認……排除、開始」

 

─ルナティックトランサー─

 

 左腕に備えたシールド裏からのビームがケイブを横からまとめて焼き払い、その隙に空中へ展開した障壁を蹴り高ランクの『ルナティックトランサー』持ち特有の重力に囚われない速度でヒュージの群れと輸送車の間へ地面を滑るように割って入った零夜は、ビーム砲塔をシールドより分離させ、本体よりケーブルで繋がるそれをグリップとして右手で保持して光刃を展開し、先程本体へ取り付けた蛇腹状のブレード──レーザーエッジと合わせて振りかざす。

 

「近頃裏方ばっかりでストレス溜まってるんでね、この新型で八つ当たりをさせてもらおうか!」

 

 掲げるCHARMの名は『テウルギスト』──本体のシールドへ多数のアタッチメントパーツを装着させて戦場を支配する、霊奈の手によって1から零夜専用に開発された最新鋭機。装備によって特性を変える様をさながら神霊を降ろしているようだと例え、降霊術師の名を与えられた。

 そうしている間に護衛の装甲車が彼女の横を通り過ぎたなら、遠慮の必要はないとヒュージの群れへ零夜は突貫し、第3世代CHARM特有の擬似二刀流を以て切り込む。

 

「ぜぇっ!」

 

 横一文字に先頭のミドル級を両断すれば、彼女を囲もうとするヒュージへ霊奈からの横槍が。紛失防止とマギ供給を兼ねたワイヤーの楔から解き放たれたビットが、上空から撃ち下ろす形で乱れ撃って群れ単位でその場に釘付けし、零夜がエッジを鞭のように振るいまとめて打ち上げれば、そのままビームソードの出力を最大、限界まで伸ばされた光の刃がヒュージを群れ丸ごと一刀の元斬り散らす。

 

「まだ来るか!」

 

 今のは先鋒に過ぎないと、ヒュージの増援が来るのならエッジを根本からパージし、マント裏から取り出した砲撃用のアタッチメント──メガキャノンと取り替えて、ビームソードを切ったグリップをメガキャノンの基部に合わせるよう、再度シールド裏へ装着すると、急に後ろへ引かれる感覚に……

 

「うわ!? 何すんだいきなり!」

 

「流石にこれ以上付き合うのは、サービスが過ぎるんじゃないです?」

 

 ルナティックトランサーで興奮し過ぎてるとはいえ、零夜が置いてきぼりではこの先に支障が出ると霊奈のビットから伸びるアンカーに捕まり、四基に引っ張り上げられている。という状態に零夜も気付くと、文句も程々にキャノンを展開し空中で砲撃、迫るヒュージの群れの前方を薙ぎ払うと同時、遠方にプレッシャーを感じる。

 

「……こいつぁ」

 

「いやー、予想通り形振り構いませんねぇ。とはいえ、今更私たちが首を突っ込むまでもないでしょう」

 

 それは一柳隊が見たのと同じ、ネストの側の海面へ浮かぶように現れた、レーザーレイ種はギガント級ヒュージの姿。しかし霊奈の方は、雪華のために用意した我が子(CHARM)たちがいるのなら問題にならないだろうと、杖代わりに立てたCHARMへ顎を乗せる余裕すらあるが。

 

『それで、後はどういう流れで?』

 

「このまま東京までお願いしまーす。本社にたどり着きさえすれば、後はどうにでもなるんで」

 

 雪菜の問いに答える通り、この場さえ凌げれば9割方詰み。トドメの一手を手に入れたのなら、政府に余計な真似などもうさせるつもりはないのだからと、零夜を引っ張ってくるビットに攻撃を命じ、追い掛けてくるヒュージの勢いを更に削ぐ。

 

◇◇◇

 

「で、都内の烏丸本社に積み荷を送り届けた後、次の職場として百合ヶ丘の用務員を紹介されたってさ。後輩さんはそのまま警備で雇われたらしいけど」

 

「ふーん。ところで、それで話逸らしてるつもり?」

 

 まあ、叔母さんと姉さんたちの話をしたところで、そんなことを聞きに母さんがわざわざ来た。なんてこともなく、とりあえずこっち来なさいと言われたのでてちてちと──

 

「ん……やめてよ、もうそんな歳でもないんだし」

 

「何言ってるのよ、親からしたらいつまでも子供は子供なんだから」

 

 ──近寄ってみれば、立ち上がった母さんにぎゅっと抱き締められる。そりゃあ心配はかけたんだろうけど、母さんだって現役時代は相当無茶してたろうに。

 

「ねえ雪華、アンタ大人と子供、どっちでいたいのさ?」

 

「なに、藪から棒に?」

 

「リリィは公人という側面もある大人であると同時に、まだ学生という子供でもある。だからそのどちらでもない、半端な立場……母さんにはね、アンタがそのどっちに自分を当て嵌めたいのか、分からなくなってるように思えてたのよ」

 

 急にそんなことを言われても、リリィは大人じゃないし子供でもない──なんて何かで歌われていたような話なんて、特に意識したことはないはずだけど。

 

「アンタ、いつからかたまの電話の時『あたし』より『私』を使う方が多くなったよね? けど最近は、また少し『あたし』も増えてきた」

 

「……そんなの聞こえ方次第でしょ。母さんだって、たまにどっちで言ったか分かんないし」

 

「まあ、それはそうなんだけど。でも雪華が昔みたいに自分を抑えないようになったの、あの子たちの──レギオンの仲間たちのおかげなんでしょ?」

 

 『自分を抑えていた』か、否定は出来ない。〈先輩〉という立場に自分を当て嵌めて後輩の前だからと色々取り繕っていなかったら、今年度に入ってからのゲヘナ絡みの案件、そのどれかで私は世界を完全に見限って、姉さんたちのようになっていただろうから。

 「それでも」と理不尽な現実へ一緒に抗う百合ヶ丘の皆と一緒じゃなければ、あるいは東京でそれぞれの大切な世界(居場所)を守っている仲間たちと出会えなければ──守る価値などないと断じた世界へ私は躊躇いなく刃を向け、壊す側へ回っていたのは容易く想像できる。

 

「だからね、母さん少し安心したのよ。アンタってばたまの電話でもあんまりそういう相談はしてくれないし、中等部の訓練中ヒュージに襲われたって時なんて、後から連絡来て父さん泣きそうだったわよ」

 

「ごめん。あれはあたしの責任だから、誰かに話すのは違うかなって……あの時は思ってたから」

 

「親に子供が遠慮なんかするんじゃないのよ。あの後いきなり電話してきた零夜ちゃんに『学院から担当に付けられたのに、お子さんの心を守れませんでした』って謝られたんだから」

 

「えっ?」

 

 なんかまた姉さん絡みで初耳な情報が飛び出してきた。確かに姉さんは中等部からの編入生にガーデンから割り当てられる指導担当の上級生ではあったけど、あの日はそもそも学年別で訓練の班も違っていたんだから、責任なんて感じることもないだろうに。

 あるいはそんなだからこそ、自身の立場もあって全てを背負い込んだのかもしれない、か……今度会ったら、こっちから何か奢るべきなのかな。

 

「……だからって、まだ家族が全員無事なあたしが、不幸者ぶる訳にもいかないでしょ」

 

「バカねぇ、不幸に大きいも小さいもないでしょ」

 

 それでも、実際に失ったものが大きいか小さいかで言えば、私は後者になるんだろう。

 しょっちゅう『いなくなる』学友たちも、守れなかったレギオンの先輩たちも、血の繋がった家族と比べればどうしたって軽い……どうでもよかった訳ではなく、情が確かにあったからこそ、余計に肉親との差も浮き彫りになるってだけの話。

 

「だから、雪華も辛い時は辛いって言いなさい」

 

「別に、今回くらいのはしょっちゅうだし……」

 

「今回だけじゃないでしょ、あれ以外も零夜ちゃんから色々聞いてるんだから」

 

 うげ、よりによってそこの裏切りかぁ……これまで隠してた分の無茶も、ほとんど筒抜けかな、こりゃあ。

 

「ともかく、いい加減放してよ」

 

「また、無茶するんでしょ?」

 

「あたしがリリィでいられる内はね。母さんだって、現役時代はそうだったんでしょうが」

 

 む、いい加減遠慮が剥がれて来たか。どうにもこないだのあやちゃん相手といい、身内の前だとあんまり自分を抑えられない……ということは、普段はやっぱり無理してるのかな。

 なんて自己分析をしていると、何かがガタリと音を立てたと振り向けば、同じように反応したのか腕の力も緩んでいて、自然と母さんから離れる形に。

 

「──ぁ」

 

「盗み聞きなんて、いったい誰に教わったのかなぁ? 結梨ちゃん」

 

 そうすればさっきチラリと見掛けた通りの、私の真似なのか入院着の上に制服の上着を羽織っただけの結梨ちゃんが、ほどいている髪を垂らしながら半端に空いたドアの隙間にいた。

 

「……えっと、ごめんね?」

 

「まあ、ちゃんと謝れたのはよろしい。あ、母さん、この子だけどさ」

 

 とりあえず紹介だけはしとくかと、結梨ちゃんを部屋に招き入れるとそのままベッドの側まで連れていく。

 

「流石に分かるよ、今回の騒動の子でしょ?」

 

「そう言っちゃうとそうなんだけど……ほら、挨拶挨拶」

 

「えっと、一柳結梨だよ。お母、さん?」

 

 おぉう、間違ってはいないけどあたし(雪華)の、とか着けないと変な誤解招く言い方。実際母さんも苦笑いしてるし。

 

「あはは、にしてもアンタと比べたら、この子の方は随分身綺麗に済んでるねぇ?」

 

「……私の方が防御厚かったんだし、盾になるのが自然でしょ」

 

 確かに、言われてみれば入院着で見えてないだけとしても、外見だけなら私と結梨ちゃんのどっちが重傷かなんて一目瞭然だ。けど、そこだけは譲れなかったからこうなってるんだし、今度こそ名誉の負傷だと胸を張らせてもらいたいけど……やっぱり親と子という関係から、バツの悪い感じな返事しか返せない。

 

「くんくん……なんだろう、ヘンな匂い」

 

「……はいはい、母さんは知らないんだからややこしくしないの」

 

「ふむ、異能持ちの類いかい?」

 

 そういえば、結局結梨ちゃんのこの能力って分類的にはどうなるんだろう? さっきの検査結果にはレアスキルについてしか書かれてなかったけど……まあ何も指摘がないってことは、同じく不明ってことでいいか。とか考えていると、母さんが結梨ちゃんの頭をポンポンとしている。

 

「まあなんにせよ、君は生き延びた。それはリリィにとって何よりも大事なことよ」

 

「……うん。雪華にも、似たようなこと言われた」

 

「そりゃあね、『何がなんでも生き残れ、死んだら終わりなんだから』なんて感じのことは母さんにも先輩たちにも、何度も口を酸っぱくして言われたし」

 

 その上で「死ななきゃ安い」とギリギリより少しはマシな程度で結局危ないラインを攻めてるんだから、親不孝者というか可愛げのない後輩というか。

 

「ん……ふぁ……」

 

「おっと、おねむの時間かしら?」

 

 なんて思考を逸らしていたら、限界なのか結梨ちゃんは眠そうにフラついてから倒れ込むのを、母さんが優しく受け止める。

 

「むにゅ……梨璃や夢結とも違う……なんだろう、この感じ」

 

「そりゃあ擬似姉妹と母親とじゃあ、感覚も違うだろうね」

 

 そのまま抱き締められると、不思議そうにしながらも安心したように結梨ちゃんは次第に睡魔へ身を委ねて……抱き癖でもあるのかって感じだけど、父さん曰く当時の職場で初めて会った頃にはこんな感じだったらしいから、母さんもリリィ時代に色々あったのだろう。生まれつきだったとしても、まあそれはそれだけど。

 

「ん……すぅ……」

 

「さて、流石に送らないと不味いかしら?」

 

「なら、ここを出て右手に行って、角の部屋だったかな」

 

 行くのも戻るのも直接ではなかったけど、今までのこともあってお互いの病室の位置関係くらいなら分かる。

 

「じゃあそろそろ面会時間も怪しいし、ついでに持ってくかね。雪華はちゃんと休むように」

 

「はいはい、じゃあまたね」

 

 まったく、最後まで……心配かけてるのは自分だけど、やっぱり認めるにはどうにも反骨心が勝ってお小言を聞き流す感じに。

 

「ふぅ……なんで学校でまで親に色々言われなきゃならんのよ、ん?」

 

 自業自得だろ。なんて正論を投げてくる相手もいないからとぼやきながらベッドに戻ると、母さんが読んでいたのかその上には新聞が置きっぱなしになっている。持って帰ってよこれくらい……

 

「……姉さんが社長に?」

 

 折角だし軽く読んでみるかと目を走らせると、一面に今回の政府のやらかしが就任会見で姉さんによって暴露され、前社長だったおじさまは真相を国連に正しく報告したことからオブザーバーとして防衛省に迎えられたり、結梨ちゃんの一件に絡んでいた政府のお偉方は揃って行方を眩ましたなど、梅から聞いた以上にも色々と書かれていた。

 

「にしたって、()()()()()()()()()()()()()()……ねぇ」

 

 依頼元がそうだったとしても、普段の姉さんを知ってる身からしたら不自然なまでにゲヘナを被害者扱いして、一切矛先を向けないのは……まさか、ねぇ。思い至った可能性として、ゲヘナの力を利用するため、っていうのが。

 そもそもおじさま──刀夜さんは婿養子として烏丸へ来たらしく、元は研究畑の人間だった。なんて在学中姉さんから聞いた話から、ゲヘナとのパイプがあってもおかしくはないし、内部から崩そうっていうのなら、ここで政府に首を突っ込んだのも中に自分の派閥を作ろうって魂胆? そうなると国連に伝えられた『真相』とらやも、いくらか脚色されてそうだなぁ。

 

「それにしても、らしくないことをしてまあ」

 

 写真の姉さんが着ているのはスーツはスーツでも隊服のそれではなくビジネス用のお高そうなのだし、壇上で熱弁を振るう様子は、どこか演技っぽさも感じる。そのまま読み進めていると、またしても見知った顔があったので視線を向ければ──

 

「ふんふん、『ロネスネス、外征帰りにギガント級を撃破!』ねぇ。向こうもお忙しいことで」

 

 ──そこには『リリィとして当然のことをしたまでですわ』なんて飾らない態度でインタビューに応じる純の姿が。

 で、横に控える初はともかく、反対側に居座る冬佳が使っていたヴァンピールの同型機らしきCHARMを持っているのが、楪曰くの『変態』さんだろうか?

 

◇◇◇

 

 純が椛にも伝えた出撃の帰り、近場に『突然ギガント級が出現した』という軍からの不可解な連絡を受けたロネスネスが向かった先、そこでビルの上半分を潰し現れていた二足歩行型のギガント級ヒュージは、特にその場から動かずにいたのもありロネスネスの行ったノインヴェルト戦術で、問題なく駆逐された。

 

「………………」

 

 しかし、明らかに様子のおかしいヒュージにしては何事もなく倒せたことに、半壊したままなビルを見ながらどうにも納得がいかない風にしている赤い長髪にオッドアイのリリィが一人──ロネスネス所属の一年生、司馬(しば)(ともしび)。彼女の強化リリィとしての直感が、あのヒュージが人の手の入った物であったと告げてはいるが……

 

「燈、こんなところにいましたのね」

 

「……純お姉様」

 

 そんな呼ばれ方をされても実姉の初と違い二人の間に血縁関係はないし、御台場女学校でのレギオンの仲間や仲の良い生徒同士で交わされる〈血誓〉を結んでいる訳でもないが、わざわざ遊学先ならずガーデンに帰るまで追い続けてきた彼女にそう呼ばれるのなど、今更指摘するようなことでもないと触れはせずとも、後輩の様子がおかしければ純もレギオンの隊長として気にはする。

 

「あのヒュージのことが気になりますの?」

 

「ええ。何か追加の情報は……?」

 

「避難誘導を行っていた軍の方から聞いた話だと、あのビルだけ不自然なくらい誰も逃げて来ず、後から調べたら残っている下半分のフロアは当分人の使った痕跡すらなかった……とは」

 

 あんなものがいきなり出てきた以上ゲヘナ絡みの施設か何かではあったのだろうが、それにしてもここまで露骨だと、まるで疑ってくださいと言わんばかり。あるいは、派閥争いの果てに敵対勢力に狙われたのでは? と仮説を立てようにも、まずどこの誰の使っていた施設かも謎な以上、何もかもが憶測の域を出ない。

 

「気になるのなら、今度例の〈連絡網〉で集まる時にあなたも参加なさい」

 

「それは……っ、それは、そのお時間に純お姉様のお部屋に伺ってもよろしいと!?」

 

 先程までの重苦しい雰囲気はどこへやら、突然のお許しに燈は純へ駆け寄るとガシッと両肩を掴み、ついでに手に当たった彼女の髪を掴むと口元へ──運ぶのは流石に見逃されず、ペシッと手を弾かれるとそのまま純は振り返り離れていく。

 

「遊んでないで、そろそろ帰りますわよ!」

 

「はぁ~い、純お姉様♪」

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