アサルトリリィ~円環の赫星~   作:ですティニー

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前回のあらすじ:親族周りと怪しい動きとそろそろ剥がれそうなメッキと。
という訳で、ある意味これがラスバレから第一の刺客かもしれないアレ、前は大分フルブルーム寄りだったし…海老名君は東京送りになったケド。


群れなすメカルンペル

──わたしには、理想としているリリィがいます。その人は、百合ヶ丘の入学試験をトップの成績で合格。戦闘力・指揮力共に一級品で、〈百合ヶ丘の至宝〉とも呼ばれています。

 

(でも、わたしは特にそんなことのない極普通のリリィで……そんな人に憧れても仕方ない。なんて思っていたところもあったのに)

 

 あの人はいつの間にか、当たり前のようにわたしのことも大事な仲間として扱ってくれて、戦場でもそれ以外でも、一緒にいる時間はどんどん長くなって……だけど、訓練の成績の差は無慈悲なまでに歴然で、本当にあなたに近付けたのか、まだ分からないんです。だから──

 

◆◆◆

 

「ミーリーアームー」

 

「んむ?」

 

 休日のグラウンド、そこで二水が百由の作ったメカ某くんの何号機だったかを相手に自主練中なのをメカヒュージの監督役としてミリアムが見守っていると、背後から呼ぶ声に振り替えった先には、最近彼女たちの仲間に加わった少女の姿が。

 

「なんじゃ結梨か。もう出歩いて大丈夫なのかー?」

 

「うん。先生にもあんまり体動かさないのも逆によくないって言われたから、無理しない程度ならいいって」

 

 確かに体を支える筋肉だとかは使わなければ衰える物だし、まだ生まれたばかりな彼女なら尚更だろう。

 ならば手間も省けてちょうど良いと、ミリアムは近くに置いてあった荷物の中を漁りだす。

 

「ふむ、であればこれを見よ! 我らが百合ヶ丘女学院工廠科の総力を上げてパーツほぼ総取っ替えな惨状から復活させた、結梨専用のこのグングニル・リペアを!!」

 

「おぉー?」

 

 そこからじゃーんと取り出したCHARMに結梨は「とりあえず名前が増えてるから凄くなったんだろう」的によくわかってなさそうな反応をするが、その程度は想定済みだとミリアムは説明を続ける。

 

「まずこないだのような無茶な戦い方は出来んようリミッター周りを強化しつつ、烏丸重工──雪華様の扱うCHARMのメーカーから提供された技術をフィードバックして、刀身の表面を最新の素材でコーティングしマギの伝達効率や切れ味を向上、またシューティングモードにおいても銃口に雪華様の機体のようなレーザーブレードの出力機構を加えておるから、咄嗟の近接戦闘にもより対処しやすくなっておるぞい」

 

「なんか、雪華のCHARMみたいになったっていうのだけは分かるんだけど、リミッターって?」

 

「細々とした部分は色々とあるが、一番大きいのはレアスキルの同時使用の制限じゃな。結梨も聞いておるじゃろうが、そこら辺の加減もなしに暴れ回ったのがあの時突然意識を失くした一番の原因なのじゃから」

 

 結局、結梨が複数種類のレアスキルを単独で同時行使出来た理屈は未だによく分かっていないが、今となっては以前見せたほどの出力は相当無理をしないと出せないだろう。ということだけは、検査結果からも確実だった。

 

「とはいえ、その反動から来るマギの最大保有量やスキラー数値の減少から、今となってはあれほどの大立ち回りはもうやれんかもしれんのじゃが。まあ、そこは念には念をということでの」

 

 当然それはあの戦闘で無茶をやった反動ではあるのだが、スキラー数値自体は下がって尚発見当初の50よりは上であることから、ある程度は彼女の努力次第で巻き返しは効くだろうとのことらしい。

 

 故に今でこそ政府内部の親ゲヘナ勢力が烏丸親子の手によって非合法な実験への関与を公表され、方々からその痛い腹をつつかれる前に雲隠れしたおかげで表向きはこうして落ち着いていられるが、結局その裏のゲヘナに関しては大手を振って動かせる駒が減っただけでダメージというには微妙な以上、非合法な面では結梨がいつまたゲヘナの手の者に狙われるかも分からない立場であるのは変わらないのだから、自衛のための手札は多いに越したことはないと、彼女が望むのなら鍛えることにミリアム自身は賛成の側だ。

 とはいえ当の結梨は、難しいことはまだ分かっていない様子だが。

 

「なんか、大変だね」

 

「いや、他ならぬおぬし自身のことなんじゃがのう……そうじゃ、なんなら結梨も今から一緒に自主練でもやっていくか?」

 

 そう提案しながらミリアムが二水の方を振り返ると、休憩中だからと停止させてあったはずのメカヒュージの様子が、明らかにおかしかった。

 

「おー、変身した」

 

 結梨は呑気に日曜朝辺りの番組の影響か『変身』などと例えるが、胴体がパカッと開いてテンタクル種特有の触手がゾロゾロと姿を覗かせる形態変化など、わざわざ訓練用の機体で再現されていただろうか?

 

「まてまてまて。確かに身の危険を感じると姿を変えるヒュージもおるにはおるが、アレにそんな機能は──なんじゃこれは。勝手に戦闘レベルが上がり続けておるじゃと? ええい、言うことを聞かんかこのポンコツめ!」

 

 画面の異変に慌ててミリアムが手元の端末で操作権を取り戻そうとするが、何度入力してもエラーを告げるメッセージしか出てこず、だというのに画面上の数値は設定限界を越えて上昇し続けている……誰がどう見ても、異常事態だ。

 

「ねーミリアム、なんか同じのぞろぞろ出てきたんだけど」

 

「なんじゃと、何故待機中の機体まで勝手に……はっ、いかん。逃げるんじゃ二水! メカヒュージの制御が利かん!」

 

「えっ?」

 

 たった一体の相手だとしても朝から長々と続けていたのだから、二水の体力は相当削られているだろう。実際ミリアムに危機を叫ばれるまで、膝に片手をつきながら息を切らしたまま、前もまともに見れていなかったのだから。

 

 であれば制御を外れ次々と起動するメカヒュージ軍団の前に彼女がいるのは、最早飢えた獣の群れの前に羊を放つが如く。咄嗟に体の前でグングニルを構えられただけ、頑張ったと誉められるべきだろう。

 

「うぁ……きゃあああっ!?」

 

「二水!?」

 

 なんとかCHARMを構えたところへメカヒュージから撃ち込まれるレーザーに、オートで展開される障壁での防御こそ間に合うが、急なことに踏ん張り切れずそのまま吹き飛ばされグラウンドを転がる二水の姿を見て、ミリアムの腹は即座に決まった。

 

「ええい、恨むなよ百由様……結梨、ぶっつけ本番で悪いのじゃが」

 

「わかった。あいつらを倒せばいいんだね」

 

 ミリアムが端末を置き地面に突き立てていたニョルニールを手に駆け出すと、状況を分かっているのか分かっていないのかな結梨も、渡されたばかりの改造グングニルを構えてそれに続く。

 

「うおぉぉ!」

「てやぁっ!」

 

 そのまま二人に背を向け二水の方へ行進するメカヒュージ三体の内一体ずつへそれぞれCHARMを振り下ろすが、必殺のつもりで放ったそれには振り向き様に触手を割り込まされて威力が削がれ、本体を両断するまでは行かなかった。

 

「むっ?」

 

 しかし、ミリアムが気になったのは攻撃を防がれたことよりも、それの代償として切断され地面に落ちて尚蠢く──

 

「──生体パーツじゃと? そんな物がこのメカヒュージに組み込まれておるはずはないのじゃが」

 

「でも、斬った感じはあの時のメカなんとかくんと全然違う!」

 

 本来の仕様と戦った経験がある結梨の言葉も気になるところだが、今はそのまま目の前のもうメカかどうか怪しくなったヒュージと交戦を続けるしかなく、二人がそれぞれ相手からの反撃をCHARMで受ける間に、残る一体のメカヒュージは、なんとか起き上がろうとする二水のすぐ側まで来ていた。

 

「このっ……あ」

 

「二水ーっ!!」

 

「……え?」

 

 それに気付いた結梨が唖然とし、ミリアムが必死に叫ぶのも虚しく、上体を起こしたばかりの二水目掛けて、メカヒュージのテンタクル種がベース故の刃のような脚が無慈悲に振り下ろされる。

 

(ダメ、間に合わない……!)

 

 それを前にした二水に出来たのは痛みに備えて目を閉じ、防御結界を強めつつ身体を強張らせることだけ──

 

(……あれ?)

 

 ──だがいつまで待っても衝撃のひとつも来ず、恐る恐る瞼を上げた二水の目に映るのは、赤みがかった茶色のウェーブ髪。手にした彼女専用のユニークCHARM(ジョワユーズ)でメカヒュージの攻撃を受け止めている、見慣れたその背中は……

 

「「楓!?」」

「楓さん!?」

 

「はあああっ!」

 

 いくら機械といえど不測の事態には対応が遅れたのか、脚を弾かれガラ空きの胴体への一突きで吹き飛ばされるメカヒュージへ、続けて楓はジョワユーズをシューティングモードに切り替えての射撃を至近距離から連続で浴びせることで、前進も後退も許さずその場へ釘付けにする。

 

「結梨!」

 

「うん!」

 

 それを見て相対するメカヒュージから伸ばされる触手を弾いて強引に脇を抜けたミリアムと結梨が合流したならと、前後から続けざまにCHARMでの斬撃を叩き込み一気に沈黙させると、そのまま二人も楓の隣に並び二水を背中に庇う形となった。

 

「まったく、何をしているんですのちびっこ2号? 病み上がりの結梨さんまで巻き込んで」

 

「そもそもおぬしこそなんでここに……いや、今はそんなことはよいか。ともかく理由は分からんが、戦闘レベルも設定を振り切っておって完全に制御不能なんじゃから、最早壊すしかなかろうて。のう結梨?」

 

「うん! 機械のことはよく分かんないけど、止めるより叩く方が早いと思う!」

 

「大昔のテレビか何かじゃないんですのよ? まあ、その方が分かりやすくていいですけれど」

 

 とはいえ、この場で唯一の技術者(アーセナル)であるミリアムがお手上げというのなら、事実そうなのだろう。ならばと楓はCHARMを構え直しながら肩越しに振り向いて、二水に呼び掛ける。

 

「それで、二水さんは休んでいますか?」

 

「……いえ」

 

 普段自分のことを卑下しがちな二水とて立派な百合ヶ丘のリリィであり、仲間から──何より“憧れの相手”から発破をかけられて黙っていられる程大人しくはないと、グングニルを杖代わりに立ち上がりながら宣言する。

 

「もちろんわたしも戦いますよ!」

 

「ふふ、その意気ですわよ」

 

 立ち上がった二水は制服が砂埃に汚れて足取りも普段より少しフラフラしているが、その目に宿る覇気には一点の曇りもない。ならば問題はないだろうと、楓も微笑みを返す。そうなると、今残る不安要素は──

 

「ところで結梨さん、お体の調子は?」

 

「んー、前に競技会であのなんとかくん? 倒した時と比べたら、ちょっとヘンかも」

 

 先日の戦闘によるダメージから未だに結梨が本調子でないのは当然だし、ほんの数日間とはいえ大事を取りベッドに寝たきりだったのだから、多少の違和感も仕方のないことか。

 それでもこうして動けているだけ、録に歩けもしなかった最初に目覚めた時よりは、遥かにマシではあるのだが。

 

「では、いつかの射撃訓練で教えたことは?」

 

「バッチリ!」

 

 こちらは声の様子から、それなりに自信はありそうだ。となるとグングニル持ちの二人には機体特性に合わせて援護を任せるべきで、前には専用機持ちの自分たち二人。これで即席とはいえフォーメーションの形が決まれば、楓は隣へ視線を送る。

 

「ミリアムさん、おふたりに背中は任せて、わたくしたちで突っ込みますわよ?」

 

「どっちにも無理はさせられんからの、合点承知じゃ!」

 

 まだ遠くにも起動していないのを含め複数体が見えるが、現在交戦距離にいる暴走したメカヒュージは先程までミリアムたちが交戦していた二体と、その後ろから更に二体の合計四体。

 いくら競技会のリベンジに燃え、しばらく睡眠時間を削ってまで工房に籠っていた百由の作品といえど、このメンバーなら対処できない数では──

 

「ってなんじゃー!?」

「ええぇーっ!?」

「あら」

 

 前衛の突入に合わせて支援射撃がある──それはまあいい。しかしグングニルというCHARMは二水や梨璃の物がそうであるように、初心者にも扱いやすいようレーザーマシンガンによる弾幕を張っての、面制圧射撃が売りの機体なはずだ。

 

「あれ、なんか違う」

 

 にも関わらず、何故結梨のそれからはメカヒュージの脚一本を一撃で吹き飛ばす威力な砲撃クラスのレーザービームが飛んで来たのか。撃った本人すら、手元のそれに視線を落としては目の前の有様を見ての二度見三度見で、かなり困惑気味である。

 

「えっと、どうしよう?」

 

「ええい、使える物はとりあえず使っとけ! 後で百由様に問い詰める内容が増えたのう……」

 

 ともかくいきなり一体動きが鈍ったのは助かると、前衛二人はすれ違いざまに足止めの一撃だけを加えて後衛の二人にトドメは任せ、当面の相手は残り三体。

 

「……結梨ちゃん、右!」

 

「んっ……急に、出てきた?」

 

 無言のオーダー通りに一体を同時射撃で撃ち抜いて機能停止させると同時『鷹の目』でグラウンド全体を見ていた二水が伝えた言葉に、結梨が銃口よりレーザーブレードを展開させたグングニルを横に振るうことで応えると、胴体を真っ二つに切り裂かれスパークしながらその場に崩れ落ちるメカヒュージの姿が、何もなかったはずの空間に突如現れる。

 

 姿を消そうとも隠しきれなかった、不自然な足跡に気付くのが遅れていたら今頃どうなったことかと、二水が冷や汗を袖口で拭っているとその様子を横目に見ていたミリアムも思わず声を荒げる。

 

「んなっ……いつぞや逃げ出した個体と同じ擬態能力まであるとは聞いておらんぞ!?」

 

「もう何が起こったものやら……二水さん、他におかしな様子は!」

 

 多少の問題は覚悟した上で、チラリと振り向きながらな楓の問い掛けには、多少では済まない答えが。

 

「えっと……た、待機中だった機体が、全ていなくなってます!?」

 

「マジか!?」

「マジですの!?」

「マジだ!」

 

 二水が見渡した限り現在交戦中の三体と、その後ろから迫る二体を除いたメカヒュージの姿は先程まで起動してなかったはずの大型タイプの物を含め既になく、代わりにそれらの足跡らしき痕跡がグラウンドの外へ向かっていた。

 

「いよいよもって余裕がないぞい。さっさとこやつらを片付けるしか「やれやれ、休日の昼間っから騒がしいことで」む?」

 

 そこで聞き慣れた声と共に突如後方からこちらを見ていたはずなメカヒュージ二体が吹き飛び、ミリアムの受け持っていた機体に追突すると砲撃が連続で突き刺さり、三体まとめて機能停止に追い込む。

 

「ワンターンスリーキル……ってね。で、結梨ちゃん探してたら、これなんの騒ぎよ?」

 

「せ、雪華様ぁ!?」

 

 上着の前ボタンを少し外し半端に着崩している制服姿になっていようと、未だ先日の負傷の跡として頭や身体のあちこちに包帯を巻き、左腕は袖に通さず三角巾に吊られたままながら右腕一本でブリューナクを軽々と振り回して不意打ちとはいえ複数のメカヒュージを瞬殺し、やれやれとCHARMを肩に担いでみせるその黒髪紅目の先輩の姿は、相変わらずめちゃくちゃの権化だった。

 ……そもそも普段から『円環の御手』故によく大型のCHARMであろうと片手持ちしているとはいえ、絵面がこう、アレである。

 

「く、訓練用のメカヒュージが突如暴走したのでその場に居合わせたわたしたちで対応していたんですが、大多数は学院の外へ……」

 

「えぇ……これ、百由が作ってたやつでしょ。それってヤバくない?」

 

「勿論ヤバいですわよ。という訳なので」

 

「オーケー、とりあえず駆逐する。もう一体は任せた」

 

 それだけ告げると、雪華は『インビジブルワン』で得た俊足による踏み込みからの飛び蹴りをメカヒュージに浴びせ、逆手に持ち替えたブリューナクでその脚の一本を切り上げて根本から断ち切る。

 

「…………鈍った身体の慣らしには、ちょっと不足かな!」

 

 機械であろうが絶対に装甲を厚く出来ない間接部狙い──なるほど、一見はちゃめちゃなようで確かに計算尽くなその攻撃は、腐っても百合ヶ丘の三年生か。怪我人だとかは関係なく、任せて問題はなさそうだとは四人にも見て分かる。

 

「まったく、相変わらずのやりたい放題ですわね」

 

「じゃの。まあそれ故戦場では頼もしくもあるが、いつまでも先輩に頼りっぱなしじゃおられんぞい!」

 

 負けじと楓とミリアムも迫るメカヒュージの脚をそれぞれ弾き、射撃を胴体との接続部分に集中させてからの斬撃で左右の脚をもぎ取ると、最後の一体だからと後ろから駆けて来る足音に呼び掛ける。

 

「今ですわよちびっこ軍団!」

 

「そのままぶち抜け!」

 

 楓とミリアムが振り向きながらヒュージの左右へ抜けて道を譲ったところへ、合わせて飛び込んで来るのは二水と結梨。

 

「「やぁぁぁぁぁっ!!」」

 

「はい終わり」

 

 二人の持つグングニルによる突きがメカヒュージの中心部を貫き、その間に雪華も受け持つメカヒュージの上に取り付き逆手持ちのブリューナクで串刺しにしていたようで、これにて全機沈黙。ひとまずは戦闘の幕引きとなる。

 

◆◆◆

 

「さて、これはどういうことなのか説明してもらおうかなぁ。百由?」

 

「いや、そもそも『これ』がなんのことかの心当たり──は、ありすぎてどれのことかしょーじき分かんないんで、まずはCHARM降ろしてくれません?」

 

 戦闘終了後、とりあえず百由が作ったやつなら責任取らせるかと後輩四人を引き連れて工廠科地下の工房に乗り込み、「モユサマオルカー」といつものミリアムちゃんの呼び掛けに釣れたところへ、待ち兼ねたぞとブリューナクの砲口を向けてホールドアップさせてるのが今の状況。

 

「これ雪華様、いくら百由様相手といえどなんの説明もなしに断罪するのはよくなかろう」

 

「いやぐろっぴ、するのは確定なのね?」

 

 そりゃあそうだろう。とはいえこれでは話が進まないのでミリアムちゃんに説明を丸投げすると、彼女より百由に渡された端末内に残っていたメカヒュージの起動ログから、制御系にバグが発生していたとのことが分かった。

 

「バグって言っても、いったいどんなのさ? 『人類の9/10でも抹殺しろ』ってコマンドでも実行されてんの?」

 

「いやー、別にそんな無差別的なのじゃないですよー。ただ……そのー……えー」

 

 百由にしてはやけに歯切れが悪いし、若干挙動不審。具体的には結梨ちゃんの方をチラチラと見ながら、珍しく罪悪感と戦っているような具合でいる。

 

「はぁ……まあ簡単に言いますと、メカヒュージの制御プログラムが暴走したところ、勝手にあるレポートを覗いちゃったみたいで」

 

「レポート、というと?」

 

「こないだの競技会、つまり結梨さんにメカルンペルくん壊された時のね。その時自信作だったあの子を瞬殺された怨み辛み……もとい強化プランだとか負けないための戦術だとかの類いを、仮想敵として一柳隊の皆の名前と一緒に書いてあったのがあったのよ」

 

 おい途中で漏れ出た私怨。ともかくその時点で嫌な予感しかしないし、さっきの戦闘で私が来る前、結梨ちゃんをピンポイントでステルスアタックしようとしてた個体までいるらしいから、なんかもうダメそうなんですけど。

 

「で、そのバグった結果はなんなのじゃ」

 

「先に聞くけど、言っても怒らないでよね?」

 

「なんで?」

 

 やっぱり百由らしくもない。ミリアムちゃんからはよ言えと答えを促されても、その返事は芳しくなく、彼女から逸らすように向けられた視線で見られた結梨ちゃんは首を傾げている。

 

「あー、えっとー……」

 

「それって、わたしたちに何か関係があるってことですか?」

 

「でしたら、内容によるとしか言えませんわね」

 

 そのままどうにか予防線を張ろうとしても、二水ちゃんと楓さんからのごもっともとしか言えない反応に断ち切られては、流石の百由も肩を落として観念したように続けるしかない。

 

 ──とはいえ、その内容は確かにこの面子を前に黙っていたくなるのも、気持ちとしてはまあ分かる物なのだが。

 

「……メカヒュージの最優先攻撃目標が一柳隊、LGラーズグリーズに設定されているわ」

 

「なんじゃとー!?」

 

「百由ぅ、いくらなんでもやっていいことと悪いことがあるよねぇ?」

 

 流石にあんまりにもあんまりな答えに一旦は止められて降ろしたブリューナクを、ミリアムちゃんの絶叫に釣られるように持ち上げて再び百由の顔に向ける。もう、撃っちゃっていいよね?

 

「いや、そんな直接的に一柳隊をやっつけろ(はぁと)とか書いてた訳じゃないですからね!? この子相手はどう攻めたら勝てるかしらーとか、いっそ正面からが無理なら闇討ちならーとか……」

 

「……え、つまり、わたしのせい?」

 

 また両手を上げながら言い訳にもなってないことをペラペラ言ってる百由の反応に、どうしてそう思ったのかは知らないけど結梨ちゃんが咄嗟に呟いたことには、即座にミリアムちゃんからフォローが入る。

 

「いや、1000っ%百由様のせいじゃろ! いきなり結梨を代役に立てといて、負けたらみっともなく逆恨みをするなど、上級生として恥ずかしくないのか! というか後からデータ見たらあのどこをどう見ても初心者用ではない設定、最初はわしを公衆の面前でボッコボコにするつもりだったんじゃなかろうな!?」

 

 どんどん怒りのボルテージが上がっていくミリアムちゃんの様子に圧倒されながらも、流石にそこまでは考えすぎだと百由の反論も早い。

 

「い、一応ぐろっぴでもレアスキル使えば、ちゃんと勝てるくらいのバランスにはしてたから……それを、素で破壊されたから、こうなっちゃってるってだけで!」

 

「やっぱり、結梨が勝っちゃったから……」

 

「悪くない! 悪いのはこの大人げないダメダメのダメ百由様じゃ!」

 

 二人がそんなだから、痴話喧嘩に挟まれた結梨ちゃんが無駄にシュンってしてるじゃん。あーもうはよちぎれ……じゃなくて。

 

「とりあえず、ターゲットなはずの皆を前にどっか行ったってことは、他に目的なりなんなりがあるんでしょ?」

 

「そうですわね。となると次の狙いはレギオンの他のメンバー……梨璃さんたち!?」

 

 何はともあれ軌道修正だと無理矢理話を戻してみれば、即座に重い至った答えにハッとなる楓さん。

 

「と、とにかく皆さんがどこにいるか、今すぐ確認してみます!」

 

 そこで二水ちゃんが工房に備え付けの端末から学院のデータベースへアクセスして、皆の予定を確認するまでの間、手空きの私たちはケータイでそれぞれ連絡を取ろうとした訳だけど──

 

「まあ、夢結がダメなら梅もセットでダメよね……」

 

 ──結局はここにいる私たち以外、一柳隊の仲間は誰一人として学院内にはいなかった、ということになる。幸い夢結と梅の二年コンビは朝からガーデンの調査任務で出ているらしいのだから、間違いなく武装してはいるだろう。

 だけど一年組の残り半分、梨璃ちゃんと鶴紗ちゃんは出掛ける前に整備のためミリアムちゃんにCHARMを預けてたみたいだから確定で丸腰、神琳さんと雨嘉ちゃんは、用件次第というところか。

 

 ……いや、いくら非番でも常にいくつかCHARM持ってないと逆に不安にならない? 私だけ? でも東京じゃそれが役立ったからいいじゃん。

 

「ところで、そういえば楓も外出組ではなかったっか? 昨日控室で話してた時、いつも通り『梨璃すわぁ~ん』とか言うておったろうに」

 

「……変な物真似にはノーコメントとして、ちょっと気になることがありまして。まあ、こうなるのなら張り付いてでも梨璃さんのお側にいるべきだったとは思っていますが」

 

「下手しなくても実際にやりそうだから怖いなおい」

 

 それにしても気になること、ねぇ……まあ楓さんの視線の先にいるのが二水ちゃんなことで、大体分かりはするけど。聞くところ、さっきも朝から大分無茶な自主練してたみたいだし。

 

「でも、まさか外にいる全員に連絡がつかないなんて……」

 

「ステルスどころか通信妨害までしてくるとか、流石にやり過ぎじゃろうに……そんなに怨んでおったか」

 

「いや、勝手に学習してそうなっただけだから! わたしはやってないからね!?」

 

 それ余計アウトだから。自己進化するメカとか厄ネタの定番だし、あとは増殖と再生で役満ね。聞けぇ!

 

「にしても梨璃ちゃんたちとは別口で出てる夢結と梅までってのが気になるけど……あー、ガーデンの方を起点にジャミング食らってる感じ?」

 

「だと思うんで復旧は急いでますけど、どこがどうやられてるのかもさっぱりというか。中で何かする分には問題ないのに──」

 

 そりゃあメカヒュージにとってもこっちがホームなんだし、暴走がシステムの内側からなら仕込みやすいだろうて。

 

「けどこうなったからには仕方ないか、学院側にも説明して正式に「あー、水を差すようで悪いんですけど、そこの二人はドクターストップね。というか雪華様が結梨さん探してたの、検査の時間だからでしょ?」……それはそうだけど、別に片腕でも平気だから、私は出てもいいけど?」

 

「怪我人の平気だは信用なりません。今のわたしの言葉もでしょうけど」

 

 ふむ、あの百由がここまで卑屈になるくらい責任を感じているようなら、無理に突っ張ねることもないか。どうせ梨璃ちゃん絡みなら楓さんが張り切りまくるだろうし、ひとつひとつ潰して行くだけなら三人でもなんとかなるでしょ。

 

「それと、ブリューナクもいい加減メンテ必要なんで、流石に置いてってくださいね」

 

 なんて一人納得していると、ついでのように告げる百由に私が追撃食らってる中、隣でガタッと立ち上がるのは結梨ちゃん。

 

「やだ、結梨も行く! 結梨があれ倒したせいで、今梨璃たちが狙われてるんなら……」

 

「だからそれは百由様が全面的に悪いんじゃと……それに検査をすっぽかしたら、余計梨璃に心配かけるじゃろうに」

 

「うぅ~~~」

 

 梨璃ちゃんを、そして皆を守るために無茶をした結果どうなったか──前の一件で何も感じなかった訳でもないようで結梨ちゃんは返事に困り俯いて唸ってはいても、やがて観念したように顔を上げる。

 

「……………………分かった。でも、検査終わったら、わたしも出ていいよね?」

 

「ま、結果が異常なしなら、私たちには止める権利も資格もないけどさ」

 

 それに話の限りでは私と結梨ちゃんもれっきとした連中のターゲットなのだから、学院に残っていれば何体か戻ってくる可能性は十分にある……というか、校舎に一体くらい張り付いてそうだし。

 

「あー、そうなると使えそうなの……お、カービンは帰ってきてるよねぇ」

 

「……とか言うておるわりに、雪華様も出る気マンマンなんじゃな」

 

 相変わらず雑多に積まれた何が何やらの山の中を漁って、烏丸の方から送り返されたグングニル・カービンを差し色で確認しているとミリアムちゃんにジト目で見られるけど、他にも考えられるパターンとして狙われていることを知らないまま皆が帰ってくるのを、メカヒュージなり“誰”とも知れない暴走の元凶なりが近場で張っているかもしれないし、そう考えると当面はお留守番だとしても、最後にはやらなきゃならんのよ。

 

 まあ、そんな支度をしたところで、結局私の方も検査次第だけどさ。もしダメだった場合は独立傭……もといフリーランスの子でも呼びつけるか、うん。今日誰か空いてるかなぁ。

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