アサルトリリィ~円環の赫星~   作:ですティニー

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前回のあらすじ:メカルンペル君他大暴走、何であんなに量産したんじゃ百由様。
そんなこんなで本戦開始、あんまり出てこないけどたまに仕事するモブリリィ、嫌いじゃないっす。
ラスバレ由来のエピソード、元が文章同士で若干演出に困らないでもない。なので方向性は模索中…
体調崩したり、透明だ、気分がいい…世界行ってたり、火星や地球のレイヴンやってたり、人類種の天敵になってたりしたらまた結構間が…ああ、次は熱管理だ。


駆け抜けるリリィたち

「ところで百由様、結梨のグングニルにいったいナニをしたんじゃ?」

 

 とりあえず「追い掛けるんならこれに着替えなさいな」と百由から渡された、メカヒュージへ何かしらの効果があるかもと期待してな、いつぞや百由も使っていたアーセナル用の戦闘服に出撃組の三人が袖を通してる最中、ミリアムちゃんが発した台詞がそれ。

 

「ナニって、武装面は雪華様のやつの予備からブン取ったって、ぐろっぴも一緒に作業したんだから知ってるでしょ?」

 

「いや、近接方面だけだと思っておったのじゃが……射撃機構もか?」

 

 無言で頷く百由の行動の真偽は、大破したり分解されたりでバラバラなブレイザーのあれこれらしき色々がそこら辺に転がってるのが、まあ答えなんだろう。

 いや、いくらオートで帰還してたソードビット六基全てが大破してて当分一式では使えそうにないからってさぁ。別にソードライフルとシールドはそれぞれ単品でも使えるんだし、そこは残しといてよ。

 

「うちの、ってーか霊奈さん(あの人)の作ったのは多目的を名目に雑多な技術詰め込みまくりだからなぁ、散弾モードで背中撃たれなかっただけマシでしょ」

 

「ブレイザーのはビットとの合体機能との兼ね合いで通常射撃か高出力、あとレーザーブレードだけですよー」

 

「……ふ、ふーん?」

 

 い、いや、テストはビットの操作重点で、そこら辺は後回しにしてたんたから仕方ないじゃん! ええいマニュアルはどこだ!

 なんて相変わらず散らかりっぱなしな有様に悪戦苦闘していると、戦闘服付属のゴーグルを頭に掛け終えたミリアムちゃんが、見かねたのか指で目的地を示してる。てか、よくそのなっがいツインテでそれ通せたね? 裏側で外すタイプ?

 

「最近作ったCHARMのなら、その上じゃぞ」

 

「はいはい、流石は保護責任者。えーと、ヴィンセ……それは御台場の子に送ったやつ。ヴァンピー……冬佳のだし。あー、これ?」

 

 ブレイザーの名前はこの間私がその場で付けた訳だから、載ってるのは企業側での『第4世代技術試験用CHARM』だとかの味気ない呼び方だけど、表紙のシルエットは同じだから間違いはないだろう。

 

「とりあえず読むからもらってくね。ほら結梨ちゃん、そろそろ時間だし検査ですよーっと」

 

「はーい……ところで百由、わたしにも」

 

「言われずとも、服も専用の通信機も寮の部屋に送っとくから。焦らない焦らない」

 

 そうして百由と二人で結梨ちゃんを工房の外へ押し出して、後は後輩たちに任せるとしようか。信じて託すのも、また先輩の役目だ。

 

「んじゃ頑張ってねー」

 

「ふぁいとー」

 

 やれやれ、折角の休みだってのに、今日もまた長い一日になりそうな予感。

 

「……何してるんです?」

 

 まあ、その様子をまた百由のとこへ出撃帰りに壊れたCHARMを持って来ようとしてたんだろう汐里ちゃんと聖に変な感じに見られたのは、この際コラテラルダメージとして。

 

◆◆◆

 

──ようは、自分らしく戦えば、それでいいんですわ

 

 どうすれば楓のように戦えるか、なんて二水の言葉を無理だと楓本人にバッサリ否定されて、代わりに投げ掛けられたそんな言葉。

 

(わたしらしく、わたしにしかできないことを……)

 

 それがなんなのか、具体的な答えなどすぐに出るような物でもない。けれどそう言われたからにはじっとしていられなくて、ガーデンを出てから何度目かのメカヒュージの群れ……にしては数が多すぎたし、恐らく普通のヒュージもいくつか混ざっていたのだろうそれとの交戦を終えた後、二水は楓とミリアムに休んでいるよう告げて一人先行し梨璃と鶴紗を探していた。

 

「この辺りで、いいかな?」

 

─鷹の目─

 

 旧市街と言っても鎌倉のそれはほとんど廃墟と呼んで差し支えなく、『鷹の目』の俯瞰視野においても障害物が多いというのはそれだけで面倒だ。いくらズームすればその下も見通せるとはいえ、当然その分見れる範囲は狭まるし、その分見落としやすれ違いの可能性も上がる。だからある程度開けた場所へ立ち、そこを起点に少しでも見れる範囲を広げようとして──

 

(あれって……?)

 

◆◆◆

 

 結果だけを言うなら、検査は異常なしということで上級生二人も仕方ないと納得したので、結梨は寮の部屋に用意されていた服装に着替えると、まとめて置かれていた通信機と雪華に預けられた『ある物』を引っ掴んで一目散に飛び出していた。

 

 それでも先に出た三人より大分出遅れてるからと寮を出た時点で『縮地』を使ってはいるが、確かにこの間海の上を駆けた時に比べてちょっと遅いかなーと小さく不満を抱いていると、上着のポケットの中で通信機が鳴り出したので走りながら取り出して応答する。

 

「百由?」

 

『あーあー……聞こえ……結梨さーん?』

 

「ちょっと聞こえ辛い。みんなは?」

 

『市街……途中でわたしが……いた応援が……はずだか……まずはその……ちに話を聞いて』

 

「ん、わかった!」

 

 百由からの通信はメカヒュージの影響か多少ノイズ混じりだったが、この服のおかげかジャミングを受けているなりに最低限聞きたい部分は聞けた。ならいいやと通信を切れば、結梨は使うマギを更に増して加速する。

 そうしてしばらく街の方へ向けて寂れた道を駆け抜けていると、前方に四人ほど誰かがいるのが見えてきた。

 

「あれ? おーいそこの君ー」

 

「あなたも百由先輩に頼まれ……ってあれ、一柳さん2号?」

 

 その内の二人は結梨の側からは見覚えがないが、今彼女が着ているのと同じアーセナル用の戦闘服──〈アーセナリーローズ〉だとか袋のタグに書いてたそれを着て同じようにゴーグルを頭に掛けた姿だったし、その奥に見えるのは見知った顔……というか神琳と雨嘉だったことから、百由が言っていたのはこういう意味かと理解する。

 

「あら結梨さん、ごきげんよう」

 

「うん、ごきげんようみんな。ミリアムたちは?」

 

「えーと、鶴紗が行くって言ってた、旧市街の方に。あと、工廠科の二人が見たらしいけど梨璃も一緒みたい」

 

 旧市街……そうなると、この間梨璃と一緒に隠れた辺りだろうか?

 なんて目星を付けて結梨も雨嘉が指差した方向に早速向かおうとするが、よく見れば神琳も雨嘉も丸腰なのにこんなところへ置いていって大丈夫なのだろうかと、駆け出して数歩で後ろを振り向いていた。

 

「あー大丈夫大丈夫、私たちこれでも百合ヶ丘の戦う(リリィで)アーセナルですから!」

 

「二人を学院まで送り届けるくらいはできるし、最悪予備機引っ張り出してるから、ダメそうならこれ渡して神琳さんたちに守ってもらうよ」

 

 そう言って赤銅色なアステリオンをケースから取り出す、工廠科生二人の自信があるのかないのかな様子にそれはそれでどうなんだろうと結梨は思うが、ともかく彼女が心配する必要はないと二人は言いたいのだろう。感じる匂いも、逆にこっちのことを心配している風なのだから。

 

「うん、二人のことよろしくね!」

 

「はーい、お姉さんたちに任せときなさい!」

 

「一応同学年でしょーが、一応。まあ、ついでに百由先輩への貸しも返せるし、気にしないでいいよ」

 

 漫才のように手でツッコミが入る工廠科の二人はともかく、神琳と雨嘉はお使いに子供を送り出す風な空気感だ。

 

「結梨さんも、お気を付けて」

 

「また無理したら、梨璃が泣いちゃうよ?」

 

「わかってるー!」

 

 今度は振り向かず、応えながら掲げたグングニルを振ることで返答とすると、結梨はそのまま今出せる全速力で旧市街まで一直線に向かう。

 

◆◆◆

 

 旧市街──先日鶴紗が梅から聞いたのだという〈猫の集会所〉のひとつへ向かうのに同行していた梨璃だったが、目の前の空間が少し揺れたような気がすると、突然鶴紗に押し倒されるように庇われていた。

 

「梨璃!」

「え?」

 

 急なことに理解が追い付かない梨璃だが、眼前の鶴紗の何かを堪えるような表情と飛び散ってきた生暖かい感触から、何者かの攻撃を受けたのだ。ということだけはなんとか分かった。

 

「あ、ぐっ……!」

 

「た、鶴紗ちゃん!?」

 

「気に、しないで……この程度、っ!」

 

「わぁっ!?」

 

 言葉を切って梨璃を抱え鶴紗が跳んだ直後、先程まで二人がいた場所をレーザーらしき何かが通り過ぎて焼いていた。

 

「な、何が起きてるの!?」

 

「分からない。けど多分、ヒュージの攻撃……くそ、CHARMを整備に出してる時に限って」

 

 だとしても、この辺りで近頃ケイブの反応があったのならガーデン内で注意するよう通達が出ていたろうし、人よりよっぽど危機察知に優れる猫が頻繁にヒュージが出てくるような場所に集まるでもないのだから、運悪くはぐれでも引いたかと鶴紗は物陰へ滑り込む。

 

「そ、そうだ鶴紗ちゃん。さっき怪我したんじゃ、血が……」

 

 そこで下ろされた梨璃は鶴紗の体を探るが、制服の破れた付近に付いた血痕こそあれど、そこにあるだろう傷口が見当たらなかったことで、今更になって『リジェネレーター』のことを思い出す。

 

「あ、そっか……ごめん」

 

「……気にしないで。それだけ、わたしが馴染めてるってことでしょ?」

 

「で、でもわたしを庇ったせいで」

 

 いくら強化リリィだから傷が直ると言っても、梨璃を庇った時の辛そうな顔と声は間違いなく堪えきれない痛みを感じているそれだったのだから、気にするなと言われても──

 

「……や、やっぱりヒュージ!?」

 

「なに、この姿……?」

 

 ステルスによる擬態を解き姿を現すのは、全体的にはよくいる三つ足なテンタクル種のシルエットだが、二人にはあまり見覚えのない変異後の姿──すなわち逃げ出したメカヒュージの一体だ。

 しかもその後ろに小ぶりとはいえケイブまで発生したとなれば、もう手段は選べないと鶴紗がもうひとつのブーステッドスキル『アルケミートレース』を使おうと自らの指先を噛み切ろうとしたその時、CHARMを持たずとも指輪の補助で操れるマギで多少なり増幅された二人の聴覚が、数人分の足音を捉える。

 

「こっち!」

 

「うわ!? 自分で動けるから!」

 

 強引でもなんでも、どの道このままでは増えるヒュージにやられるだけだと梨璃が鶴紗の腕を掴んで走り出せば、曲がり角を過ぎたところで複数の人影が視界に入った。

 

「見つけましたわ、梨璃さんっっっ!!」

 

「鶴紗も、まだ生きておるなー?」

 

 それはまたしても二人からして見覚えのない格好の、楓とミリアム。そして少し遅れて続く二水は、赤く染まった目の色から鷹の目を使いながら通信機越しに誰かと話しているように見える。

 

「……うん、そのまま真っ直ぐ──今!」

 

「えぇーい!!」

 

 二水の合図に廃墟の壁をグングニルでぶち抜き、近くのスモール級数体を纏めて蹴散らしながら現れたのは、楓たちと同じ服装に身を包んだ結梨。

 

「ナイスタイミングですわよ、結梨さん!」

 

 梨璃たちを探す途中、旧市街を駆けているところを見付けた二水からナビゲートを受けていた彼女は、護るように割り込むと二人にも何処か見覚えのあるCHARMケースを、背負ったまま見せ付けてくる。

 

「結梨ちゃん!?」

 

「……ってそのケース、雪華様の?」

 

「うん。急だからこれしか用意できなかったらしいけど、使って!」

 

 そう言って開かれるケースから顔を覗かせるCHARMは、梨璃としては雪華と初めて会った時を思い出す組み合わせ──グングニルとダインスレイフ、それらのカービンタイプ。

 

「ダインスレイフか、元の方なら昔使ったことがある。梨璃はこないだそっち借りてたよね?」

 

「う、うん!」

 

「コアも持ってきておるようじゃな。起動までの時間稼ぎは、わしらに任せい!」

 

「任される!」

 

 二人がそれぞれCHARMを受け取り、起動するためマギクリスタルコアを装着しマギを込める隙を作ろうとミリアムと結梨が砲撃でヒュージの進行を防ぐと、そのままヒュージの群れに向け突っ込んでいった。

 その間に楓と二水は梨璃たちの側へ駆けて来るが、多少とはいえ鶴紗の血に頬の濡れた梨璃の姿を見てしまうと、楓の顔は瞬時に青ざめてしまう。

 

「ご無事ですか梨璃さ……梨璃さんっ!? ち、血がっ、血がぁ!!」

 

「あ、これはわたしのじゃなくて」

 

「わたしが庇った時に付いたんでしょ。そんなに騒ぐな楓、気が散る」

 

「うわっ。け、結構派手にいきましたね……」

 

 とはいえ見た目で誰の血かなど分かる物でもないので、鶴紗の制服の背中側から左の脇腹辺りにかけて大きく破れているのを見ていなければ楓が勘違いしたのも無理はないだろうが、見たら見たで二水はドン引きだ。

 

「別に……相手が見えなかったから梨璃に下手に避けさせるより、この方が安全だと思っただけ」

 

「そこでご自身の安全も勘定に入れて下されば、もう少しわたくしも落ち着けるのですが?」

 

「……次からは、そうする」

 

「ま、まあまあ楓さん……鶴紗ちゃんも悪いとは思ってるみたいだし」

 

 戦闘の真っ只中というには少し気を抜きすぎているのではとは梨璃自身思うが、ともかくその間にも先に終えた鶴紗に指南されつつ不慣れなりに梨璃が装着したマギクリスタルコアにルーンが浮かび上がり、CHARMを起動させる。

 あくまで検査の間に急いで用意された物なので、今メンテナンスに出している愛機を使っている時と比べるまでもなく違和感は拭えないが、この際使えるのなら文句はなしだ。

 

「よし、これで……行ける? 梨璃」

 

「うん、なんとか!」

 

「とはいえ数が多すぎますわね……一旦退避して、体制を建て直しますわよ!」

 

「なら、ここはわしの出番じゃな。蹴散らしてくれるわ──《フェイズトランセンデンス》!!」

 

 斬っても撃っても次々と押し寄せるヒュージの大群を前にミリアムのレアスキルが発動し、溢れるマギそのものをバリアとして敵の攻撃を弾きながら、チャージを終えたニョルニールがマギの閃光を解き放つ。

 

「うおぉぉぉぉっ!!」

 

「おぉー、なんとかビーム」

 

 このあと倒れるのが分かっているからとミリアムの後ろに控える結梨が思わずよく分からない感嘆の声を上げるほど、ものの見事に前方から押し寄せていたヒュージの群れはミリアム渾身の一薙ぎからの三連砲撃で後方のケイブごとまとめて消し飛んだが、その代償として彼女自身は待ち構えていた結梨の腕の中へ倒れ込む。

 

「おっ、ととと」

 

「こ、これでわしのノルマはこなしたぞ~……」

 

「相変わらずの威力ですわね、ミリアムさん。さて」

 

 これで少しは流れが向いて来たと思いたいが、楓が『レジスタ』の内包する力のひとつである鷹の目のサブスキル相当の俯瞰視野で周囲を確認するも、その微妙そうな表情には彼女の隣でそろそろ限界が近いからと少しの間だけ鷹の目を使った二水も同意するしかない。

 

「楓さん、これって……」

 

「……戦闘音を聞き付けたのか、辺りのヒュージがここへ集まって来てますわね」

 

「ま、まだいるの!?」

 

「さっきからこれだけ騒いでれば、仕方ないか」

 

 しかし一時の物とはいえ、ヒュージの切れ目である今がチャンスには違いない。囲まれる前にと先程通って来た方向にあると二水の言う廃工場へ、六人は急いで避難する……ミリアムは、梨璃と結梨の二人がかりで左右から肩を担がれる形になるが。

 

◆◆◆

 

 梨璃たちの駆け込んだ廃工場の片隅、そこに並ぶコンテナのひとつに背中を預けながら、ミリアムは一息つく。

 

「ふぅ、ようやく落ち着けたのう」

 

「で、休むついでにそろそろ説明して欲しいんだけど。こっちはいきなり襲われてCHARM渡されてで、状況何も分からないし」

 

「それに、皆の着てる服は……?」

 

 そんな鶴紗と梨璃の疑問に訓練中に暴走したメカヒュージを追って楓たち四人が飛び出して来た経緯の説明を終え、最後に神琳と雨嘉は一足先に学院の近くで援軍に保護されたことまで伝えられると、梨璃は安堵の息をつく。

 

「ふぃー、無事でよかったぁ……楓さん、二水ちゃん、ミリアムさんに結梨ちゃんも、皆ありがとう!」

 

「まあ、助かったよ」

 

 そんな二人の感謝の言葉、というか梨璃のそれの途中でバッと動き出した楓はいつも以上に熱く激しく梨璃に抱擁をかましていた。

 

「ふぇ、か、楓さん!?」

 

「あぁ~、梨璃さん。梨璃さんっ! ようやく、ようやくお側に! わたくし今日はもう離れませんわよ~!」

 

 そんな楓はスリスリと頬擦りまでして来てスキンシップも激しく、充電中とばかりのリリサンニウム(そんな物質はない)欠乏具合であるが、そこまで大袈裟にしなくてもと梨璃は困惑している。

 

「いや、わたしは怪我とかしてないから? ほんとに大丈夫だからね?」

 

「というか普通に迷惑じゃろうが、それに風呂とかはどうするんじゃ?」

 

「あはは、まあ楓さんがこうなるのは分かりきっていた展開ではあるんですが」

 

 それに呆れるミリアムと二水を尻目に、立ち上がった鶴紗は結梨を手で呼ぶ。

 

「とりあえずこのままじゃ話にならないから……結梨、手伝って」

 

「あいあいさー!」

 

「それ、男の上官相手への返事だから」

 

 などと微妙な言葉の間違いを指摘しながら、どこで覚えたのかな敬礼を返してくる結梨を連れて、梨璃に抱き付いたままな楓を二人がかりで引き剥がす。

 

「あら、梨璃さんのことなら差し上げませんわよ?」

 

「別にわたしのでもないから……」

 

 楓が口ぶりのわりに抵抗しないのは、今は梨璃のお尻を狙っていないことを含め本気ではないということなのか……普段のアレが冗談でないのも、それはそれで風紀の問題なのだが。

 

「はぁ……」

 

 そんな様子に話が進まんじゃろとミリアムがため息をつくと、二水が無理矢理場を纏める。

 

「と、ともかくこのまま闇雲に動いても危険ですし、ひとまず百由様に連絡を取った方がいいですよね?」

 

「じゃな。また何か新しいことが分かったかも知れんしの」

 

「また?」

 

「まあそのことについてもこの後まとめて話すから、少し待っとれ」

 

 そう結梨の疑問に答えながらミリアムが通信機を取り出して百由を呼び出すと、数度のコール音の後聞き慣れた声が迎える。

 

『……あっ、ぐろっぴ?』

 

「おう百由様。とりあえず梨璃たちと合流はできたのじゃが──」

 

 そのままミリアムは百由と何やら話しているようだが、それがどこか遠くに聞こえるなぁと思うと同時、結梨の視界が不意にフラつく。

 

「あ、れ……?」

 

「結梨ちゃん!?」

 

「まったく、病み上がりで無理するから……」

 

 幸い無防備に顔面から地面に倒れるのは途中で梨璃と鶴紗に左右から体を受け止められることで避けられたが、不思議と体に力が入らない現状に結梨は呻く。

 

「う~、なにこれ……?」

 

「典型的なマギ切れのそれ。どうせ校舎出てからずっと、何かしらのスキルを使いっぱなしだったんでしょ?」

 

「……うん、正解」

 

 リリィの扱うマギは『気』だとかそういった物にも例えられるように、その量が著しく低下すると、酷い虚脱感に襲われる。『フェイズトランセンデンス』使用後のリリィが倒れるのはそのせいだし、だからこそ無闇なスキルの乱用は、そのままコンディションの低下を招きやすいのだ。

 そういう意味では寮を飛び出してからここまで、誰かと話している時以外は縮地による全速力で駆け抜けていたり、止まっている時には周囲の確認に鷹の目すら使っていた結梨はこれまでの道中散々ヒュージと戦ってきた楓たち、特に先程フェイズトランセンデンスを発動したばかりなミリアムとも大差ない消耗具合だろう。

 

 今の有り様から何を伝えずともそう判断され、鶴紗に壁際へ連れていかれゆっくりと座らされる結梨だが、そこで大人しくしているような性格ならこんなところまで飛び出して来てはいないのが彼女なので、ハラハラと眺めている梨璃に話を振る。

 

「梨璃ー、こういう時早く回復する方法って、何かないの?」

 

「え? か、回復って……」

 

 しかし幸か不幸か、まだマギ切れで動けなくなった上での作戦行動など経験したことのない梨璃にはその辺りはなんとも言えないと悩んでいると、そういえば最近ようやく自覚した自分のレアスキルが『仲間を回復させる力』だとかなんとか言われていたのを思い出す。

 

「えっと、わたしの『カリスマ』……とか?」

 

「……ちゃんと使えるの?」

 

「うっ……」

 

 実のところこれまでカリスマの発動していたと思われる状況は、全て無我夢中でいたら無意識に発動していただけに過ぎないので、そこを鶴紗に突かれると返事に困るしかない。

 梨璃自身も覚醒を自覚したのだからと訓練で試す話が出てはいても、まだ落ち着かないから今はしっかり休んでの週明けにという話になっていたのだから。

 

 一応周囲のマギの吸収と変換自体は、スキル保持者が意識せずとも勝手に行われるらしいとは聞いたが「空気洗浄機みたいだなぁ」と漠然としたイメージになってしまい、それをしっかりと操る自分の姿がどうにも浮かんで来ず、こんなことなら訓練より前にアールヴヘイムの乃彩や他にも同学年だったりに数人いるらしい校内の他のカリスマ持ちに、何かしらコツでも聞いてみるべきだったのだろうか。

 

「み、ミリアムさ~ん」

 

「なんじゃ梨璃、そんな情けない声など出して」

 

 結局まだ分からないことだらけな梨璃は、よくフェイズトランセンデンス使用後に倒れているミリアムなら経験則から何かしら良い案があるだろうと、助けを求めるしかなかった。

 などと若干失礼な理由で選ばれたとは露知らず、通信機を楓に渡して百由との情報交換を任せた彼女は、梨璃からの要件を聞くと人差し指で額をトントンと軽く叩きながら答える。

 

「ふーむ、マギの回復のう。下手に焦らず自然回復に任せるのが一番簡単ではあるが、急ぎのやり方もないこともないぞい」

 

「「ホント!?」」

 

 食い付くようにズイッと仲良く詰め寄ってくる梨璃と結梨の勢いに「お、おう」と引き気味にはなるが、習うより慣れろと先んじて目を閉じるミリアム。

 

「まあ瞑想……ともちと違うが、まずはこうやって目を閉じて、辺りのマギを感じるのじゃ」

 

「目を閉じて……感じる……あ、なんか、キラキラ……してる?」

 

「ほほう、そう感じ取るとは中々筋が良いのう。後はそれを、自分の中に受け入れる感じで……」

 

「おぉー、キラキラが入ってくる……」

 

 二人して片手を顔の少し下辺りで握り、祈るように瞳を閉じてぶつぶつ言ってる様子がなんかこう変な儀式か何かに見えてしまって、不安になった梨璃は自分よりはこういうのに詳しいだろう鶴紗に疑問をぶつける。

 

「ね、ねえ鶴紗ちゃん。これ大丈夫なやつなの?」

 

「……戦闘中にやるのは、無防備になるから危ないかな、うん」

 

「あれぇ?」

 

 思っていたのと少し違う答えではあったが、やり方自体は否定されなかったし、そういえば先日依奈にやるように言われたのも似たような感じだったなと思い出すと、恐らく変に問題のある行為ではないのだろうと梨璃も納得するしかなかった。少し離れたところでは、二水も同じようにしていたのだから。

 

「とはいえ、ちびっこたちの回復を待っていられるかは怪しいところでもありますが」

 

「そうなの?」

 

「ええ、百由様曰くな今回のメカヒュージ暴走の元凶……と思われる不明ヒュージが百合ヶ丘の方に向かっているらしいと、それを追っていた夢結様と梅様からの報告にあったそうで」

 

 梨璃の疑問に答える楓のそれを補足するように、通信機からは百由の声が続く。

 

『当然二人にも急いで向かってはもらうけど、こう距離があると先にスタートしたヒュージとどっちが早いかは……ちょーっと分からないかなぁ』

 

 曰く先日百合ヶ丘に届いていた夢結と梅が調査しているヒュージの物と思われる破片のサンプルが、人知れず活動を再開しメカヒュージを乗っ取ったのが監視カメラの映像を探っていた百由が見付けた今回の暴走の原因だとのことで、同じ群れとして合流しようとする可能性は非常に高いらしい。

 

「…………」

 

「梨璃?」

 

 そう語る通信先の百由にも平時の余裕はなさそうで不安な空気が流れる中、何かを考え込んでいる梨璃の様子に鶴紗が気付く。

 

◆◆◆

 

「あれ、なーんか歪んでるよねぇ」

 

 ()()()親指と人差し指でカメラのような形を作りながら校舎の壁、二階と三階の間辺りに透明な何かがへばり付いているようになっているのを確かめていると、野暮用と呼びつけておいたフリーランスコンビの片割れから通信が。

 

『屋上からもびみょーに見える感じやね。けど、このままうちが撃ち抜いたら被害なしっていうんは厳しいんやないか?』

 

 一応、こういう対ヒュージのための施設には緊急時のために防御スクリーン的なやつが備わっていたりはするけど、流石に展開される位置より内側で撃破したら、当然何をどう防げってんだという話で。

 もっと大掛かりかつ広範囲な装置のある御台場にしたって、いつぞやの迎撃戦の時みたいな大きな戦いだと懐に入られたら終わりだー。って感じだったらしいんだし。

 

「仕方ない、私が打ち上げるからトドメよろしく」

 

『りょーかい。けど、病み上がりなんやから無理せんようにな、雪華様? それはそうと、今のはツッコミ欲しかったところなんやけどな~、「()()」と「()()」で──』

 

 最初に任務がカチ合った時からこうな、言われるまでもない喋り口から分かる関西の魂故の後輩からにしては妙に軽過ぎる絡みを適当に聞き流して通信を切ると、爪先でトントンと地面を叩きながら身体のコンディションを確かめる。

 

「……ま、ダメでもまた通りすがりを捕まえるだけか」

 

 実のところ今回声を掛けた彼女とその相方にしても、連絡を入れたらちょうど出撃準備をしているところだったので、その前にこっちにもちょっと手を貸してくれとなっただけと手間はほとんど掛かっていないのだから、時間的余裕はあると言えばあるし、気負うこともない。

 

「よっ、とぉっ!」

 

 だから色々考えていた、なんてことは見せず駆け出して数歩で跳躍。アンカーを校舎の壁に打ち込んで軌道修正しながら、伸ばしたポールを両手で持ったグングニル・カービンで、ヒュージなのだろうシルエットを下からカチ上げる。

 

『ナイススマッシュ!』

 

「場外飛ばした。後は任せたよ!」

 

『オーライ、オーライ……ドンピシャッ!』

 

 屋上より高くに吹き飛んだと、ステルスを継続しつつも傷口だけは擬態しきれずにいるヒュージの様子を見上げて確認しながら再度通信を繋げば、インカムからはタイミングを見計らう声の後砲撃音が聞こえ、閃光に貫かれたヒュージが姿を現しながら爆散するのが見える。

 

「ふーん、こいつはメカの方か。まあ解析に回しといてもらうとして、出撃前に悪かったね」

 

『いやいや、こんくらいお茶の子さいさいやって。それより、よかったらこのままうちらも連れてっ『(しん)、それだと本末転倒でしょ?』おっと。これからうちと弥宏(やひろ)で、夢結や梅の代わりにあっちの任務引き継がんといかんかった』

 

 落ちて来た残骸を蹴って転がしながら真に一応の労いをしていると、通信に割り込む向こうの相方さんに軌道修正されている。

 

『ということなので雪華様、わたしたちは本来の任務に戻りますので。また今度』

 

「うん、また余裕のある時にでもね」

 

『はいはい、ほんなら夢結たちにもよろしくな~』

 

 ……まあ、通信終わりにそんな言葉を付け足される通り、この二人もいつもの孤高を気取っていても孤独ではなかった夢結のことが心配な知り合いの一組、みたいなもんで。

 ともかく、中でやることが終わったのなら次は外だ。これで内側から向こうに通信がちゃんと飛ばせるようになっていれば、色々状況は進んでるだろうし。

 

「もしもし百由? ──ん、了解」

 

 だから、短めの通信を切れば話が早いのはいいことだと、正門の方へ向き直る。

 

◆◆◆

 

「ヤッホー、そっちは無事だったみたいだね」

 

「……雪華、様?」

 

 先に待たせてある、と聞いた二人に後ろから声を掛ければ、援軍が誰かまでは聞かされていなかったようで振り返った雨嘉ちゃんには意外と驚かれた。

 

「で、私のCHARM預かってるって聞いたんだけど?」

 

「あ、はい。百由様からこれを」

 

 戸惑いは抜けずとも雨嘉ちゃんが抱えていたCHARMを受け取って確認すれば、エネルギーカートリッジの装備数が五発になってるってことは、確かに私のシャルルマーニュ。

 訓練中のはずみで壊してから随分と久しぶりな気がするけど、まあこの頃新型案件がやけに多かったりで、ライザーも帰ってきた以上私の手持ちの中でも急ぎではないと後回しにされてたとかかね?

 

「よし。そっちのは誰の?」

 

「えっと、梨璃と、鶴紗の……です」

 

 その上でまだ二人もCHARMケースを背負っていたのを雨嘉ちゃんに聞けば、自分と神琳さんとを続けて指差しながら答えてくれるのだから、順番通りの配分と。

 

「さて、それじゃあ行こうか」

 

「……その、大丈夫、なんですか?」

 

「ん? まあ、酷い時は怪我した翌日に出撃なんてのもザラだったしなぁ。こんだけ休めたならもういい、よっと!」

 

 いざ出発しようと進んだところで問い掛けてくる声に振り向けば、雨嘉ちゃんがあからさまに心配を隠せてないのだから、包帯をほどいて放り投げてみせる。

 

「あら、こんなところでポイ捨てはダメですよ、雪華様?」

 

「え、ここでそこ注意する?」

 

 けど最後に神琳さんから叱られるように言われて、微妙に締まらないのはまあご愛敬。

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