時々入るフライング組も、一応次の予定はあったり…まずはアニメ分の完走だ、うん。
どこで切るかの判断に困って、結局収まらないといういつものパターン(
「さて、状況を整理しようか」
移動中、といっても神琳さんだけサブスキルに『インビジブルワン』を持っていないのだから、私と雨嘉ちゃんで交代交代に担ぐか背負うか引っ張るかしてのインターバルの間に、とりあえず入ってきた情報を纏めることに。
「まず、夢結と梅の追ってたヒュージが今回の騒動の原因として、そいつがこの辺りに向かってるみたい。念のため住み処なりの特定に別の子たちが向こうでの捜索は引き継いでくれてるけど、まあそっちはいいか」
「それで、そのヒュージは地中を移動するタイプらしい、と聞きましたが」
「だからなるべく建物の上を通るようにはしてるけど……雨嘉ちゃん、それっぽいのは見える?」
廃墟の屋上から辺りを見渡しても、正直私にはよく分からない。元よりごちゃごちゃしたエリアなのだから、ヒュージが暴れて建物が倒壊したのと何かが地中を通ったのと、何も使わずに判別出来るかと言われても困る。
「……まだ、何か目立つようなものは」
「そんな簡単に掴めるんなら、わざわざ名指しの捜索隊なんぞ組まれもしない、かぁ」
そも『天の秤目』で一発なら、向こうは交戦も想定して『レジスタ』持ち辺りとのチームで当たらせるべきだったろうし、それを抜きに元初代アールヴヘイムの二人にお呼びが掛かった以上、それなりの等級なヒュージの可能性が高い。だから、梨璃ちゃんたちが捕まる前に発見してはおきたかったんだけど。
「あ……向こうに、動く何かが。多分、ヒュージの群れ……?」
「んー、そっちのパターンかぁ。まあ仕方ない、百由の方にも報告上げといて、このまま追うよ」
今度は雨嘉ちゃんが神琳さんの担当なら、私が先に行くべきだろうとアンカーを近場の廃墟に射出、引っ張られるがままに跳んでいく。
◆◆◆
「二水ー、そっちはどう?」
「……大丈夫、だと思う」
援軍が百合ヶ丘から向かっているのなら、こちらからも百合ヶ丘へ戻ろうと、ヒュージが本格的に動き出す前にと二人組で交代交代に偵察をして、進む・留まる・戻るの簡単なハンドサインだけを決めた撤退作戦。
しかし、辺りにヒュージが集まっていたにしては、随分と遭遇回数が少ない。二水たちの番は真ん中でこれが二順目──つまり五度この確認を繰り返していることになるが、ひとつ前な楓とミリアムの二度目な時を除いて、ヒュージを見掛けることすらないのだから、少し気味が悪い。
「くんくん……なんだろう、嫌な感じしてる?」
「うん。何かを見落としてるような、そんな……?」
不安な心中を結梨の能力で見抜かれて答えている途中、二水は不意にハッとなる。
先程俯瞰視野で確認した限りだと、ヒュージは周辺から集まっていたはず、それこそ各々は群れと呼べる程の纏まりもなく、雑多と言えるくらいに。だというのに、撤退を始めてから遠目に見えたのすらほとんどいないというのは……
「まさか、《鷹の目》!」
休む間もあまりなく出発して、まだマギは万全とは言い難いが、ほんの少しの間で構わない、ある程度周辺を確認すれば──
「……やっぱり。結梨ちゃん、皆を呼んで!」
「わかった!」
──結果は明白、進行方向
「ちょっとちびっこ1号、前に出過ぎじゃありません?」
「先に行くから着いてきてって!」
後ろから残りの四人が追い付いてきて、結梨が二水からの伝言を伝える間も彼女は忙しなく辺りを見渡しながら駆けていたが、ある地点で止まると振り向いてこちらに手を振っている。
『囲ま……早……!』
そこまでの距離でないはずなのに、二水からな通信のノイズが激しい。とはいえ今の状況を伝えられるだけの言葉は聞こえたのだから、梨璃たちも言われた通り足を早めると、左右の廃墟がレーザーに貫かれる。
「屈め!」
「駆け抜けますわよ!」
ミリアムの警告に揃って頭を下げ腕で庇いながら降り注ぐ瓦礫の中を走っていると、前方の二水が恐らく崩れた廃墟から現れたのだろうヒュージへ向け発砲しているのだから、最後尾を駆ける楓や鶴紗も後ろを見ずに射撃を行う。
「──っ」
「楓?」
「なんでもありませんわ!」
途中苦々しい顔をしているのを鶴紗に指摘されても、今はそんな場合ではないと切り替えてスピードを上げる楓。その間に先頭の梨璃がたどり着くと、並走しだした二水へ問い掛ける。
「二水ちゃん、この先はどう進めばいいの?」
「まずまっすぐ行って、次の交差点を右……ううん、左に!」
「うん!」
本人に言えば謙遜されるだろうが、鷹の目を使って二種類の視界を同時に見ながら的確な指示を出せるのだから「やっぱり二水ちゃんは凄いんだ」と感心しつつも、言われた通りにふたつめの交差点を曲がろうとした梨璃だが、その時建物の中からヒュージの触手が──
「え?」
「させませんわよ!」
頭と胴体、急所を的確に狙おうと伸ばされたそれをジョワユーズで切り払いながら、驚いて足をもつれさせた梨璃の体は空いた左腕でしっかり優しく抱き寄せる、普段から叫ぶ愛は飾りではないと言わんばかりな楓・J・ヌーベルの姿がそこにはあった。
「あ、ありがとう楓さん」
「この程度お安いご用ですわ。ですのでこのままわたくしに身もここ「てえいっ!」
なんか(一方的に)良い雰囲気になろうとしているが、それはそうと不意討ちをしてきたヒュージは追い付いてきた結梨が両断しているから、その辺りを信頼してイチャイチャに専念したとしておこう。
「二人とも早く! ヒュージいっぱい来てる!」
「んんっ。では行きましょうか、梨璃さん」
「う、うん」
とはいえ遊んでいられる状況ではなく、結梨が急かさずとも二水が進んだ方向以外からはヒュージが群れで押し寄せているのだ、気を取り直すと三人も改めて駆け出すが、しばらく進むと道の向こうからもヒュージが迫ってきた。
「お、おい二水、他に道はないのか……?」
「すみません、ここまで「来れば十分だよねぇ!」……はいっ!」
──建物の上を乗り継ぐなんて目立つルートを使っていたからか、二水が彼女の接近に気付いたのは梨璃からの問いへの答えを訂正する直前。だからミリアムの不安な様子を切り裂くように『上から』声が聞こえれば、二水も見上げながら力強く返事を送る。
◆◆◆
「いっけぇぇぇっ!!」
左手のシャルルマーニュを引っ掻けて廃ビルの壁面を削るようにして降りながら、右手のグングニル・カービンを梨璃ちゃんたちの進行方向上のヒュージへ向けて乱射。何体かの反撃のレーザーは壁を蹴って宙に躍り出てかわすと、シャルルマーニュを腰に掛けたホルダーへ納めながら、開けたカービンのチャンバーへ普段ライザーのランチャーで使っている徹甲榴弾を装填、メカヒュージなのだろう個体へ頭上から数発撃ち込む。
「雪華様か!」
「私だけじゃないよ!」
そのまま爆発をバックに着地すれば、まだ微妙に動こうとしていたメカヒュージが背後から狙撃されて、今度こそ完全に機能停止。肩越しに振り向いて見える通り、神琳さんに横から支えられた雨嘉ちゃんがやってくれたようで。
「雨嘉、神琳も!」
「皆、早くこっちに!」
「梨璃ちゃんと鶴紗ちゃんにはお届け物がある、先に行って!」
「わ、分かりました。行こう、鶴紗ちゃん!」
梨璃ちゃんが鶴紗ちゃんの手を引いて横を抜けていくのなら、後はこいつらを足止めするだけとグングニル・カービンのポールを伸ばしていれば、二水ちゃんと結梨ちゃんが並んでくれる。
「ここまでお疲れ様。私が突っ込む、援護頼んでもいいよね?」
「うん!」
「はい!」
「ではわたくしも「お主はこっちじゃ」ちょ、ちょっとちびっこ2号!?」
ふむ、そこ二人は入り用みたいだけど、雨嘉ちゃんは変わらず建物の上から支援してくれてるし、神琳さんも降りてきてくれたから、まあ枚数は十分か。
◆◆◆
建物の影に無理矢理連れ込まれ、そこでようやく手を離された楓は、不満そうにミリアムを見詰める。
「なんですの? 今は遊んでいる暇はないでしょうに」
「だからこうして、その前におぬしのCHARMを診なければならんのじゃろ」
「……なんのことか「分からんとは言わせんぞ」
楓が普段から実家のことを自慢するように、確かにCHARMの知識は一般的なリリィよりは遥かにある。だが整備に関しては、いくら素人より上だろうと本業には決して及ばないのも事実だ。そんな彼女に不調が出ているCHARMを移動しながらの片手間で直せるのなら、初めからアーセナルなぞ不要なのだから。
「さっき梨璃を庇った時の反撃を結梨に任せたのも、これ以上ジョワユーズに無理をさせんためじゃろ?」
「……はぁ。だとしても、わたくしは自分のCHARMを他人に触らせるつもりはないと言ったでしょう。わたくしのCHARMは「『鳥の羽根よりも軽く、蜂の針よりも鋭く、時に鋼よりも固く重い』じゃろ?」むっ」
予定していた決め台詞を先回りされたことに楓がむくれるが、この程度は機嫌を損ねた内にも入らんと、あっけらかんとミリアムは語り続ける。
「その言葉、昔から耳にタコが出来るくらい聞かされたからのう。おかげでわしもそらで言えるぞい」
昔馴染み……というには少し腐れ縁に過ぎるが、楓とは日本に来る前からの仲ではあるのだから、ミリアムにもある程度の癖は分かる。だから今だけでも手を貸させてもらいたい、そうでないと、一柳隊のアーセナル失格だろうから。
「わしらを連れていたせいでらしくことをさせた結果CHARMをダメにさせたなど、おぬしがよくとも、わしのアーセナルとしてのプライドが許さんのじゃ」
結局のところ、楓のジョワユーズがこの短時間で大分消耗してしまっているのは、まだ不馴れなミリアムや二水の事を逐一カバーしながらの強行軍だったが故。だからその分の借りを自分なりのやり方で返させろと言っても、この程度は当然のことで負担とも思っていないのか、楓からの返事はない。
「…………」
「それとも、梨璃にいい格好するどころか守られるヒロイン役がお望みなら、わしも無理にとは言わんがのう」
ならばと、こやつには梨璃をダシに使うのが一番効くだろうというのも、楓の性格をしっかり理解した上での発言だ。
◆◆◆
「雪華様!」
「返します!」
梨璃ちゃんたちの声に振り向くと、コアを雨嘉ちゃんたちから受け取った本来の愛機に付け替えながら私の貸していたCHARMは投げてくれているなら、目の前のヒュージを回し蹴りで蹴飛ばす。
「律儀に悪いね。さて、結梨ちゃんもちょっと返してもらうよ!」
「ん?」
横を向いたついでに結梨ちゃんが背中に背負ったままだった私のCHARMケースを回収して、一度手持ちのCHARMをしまいながらケースを展開させてアーマーとして装着、勢いのまま体が後ろを向くと同時、投げ飛ばされたCHARMを右手で二本まとめてキャッチする。
「どうにも、ここのところケチが付きっぱなしだ……この辺りで、鬱憤張らしをさせてもらおうかな」
だから懐から取り出した予備のコアをはめ、起動に合わせて前に向き直れば両手に持つ二刀で近寄るヒュージを弾くと、周囲を見渡しながら場を支配するように告げる。
「レアスキル──〈
◆◆◆
「そーれそれそれそれぇ!」
そのまま二水たちが支援射撃を送る中雪華が切り込めば、流れるような剣戟と銃撃の嵐に次々とヒュージは撃破され、群れの勢いは一気に削がれる。だからこそ、余計に二水の内心は乱れてしまうのだが。
(やっぱり、一柳隊の皆さんは凄い……でも、わたしは……)
楓に「自分らしくでいい」と言われても、二水にやれたのは仲間と合流するまでの時間稼ぎで、雪華たちの援軍が間に合わなければ結局は囲まれていたのだろう。
勿論、梨璃たちは例え二水がそんな弱音を吐いたとしても彼女の良かったところをいくらでも教えてくれるはずだが、こればかりは自己評価の問題で、それ故に言葉にされることはない。
「二水、危ない!」
「え、ひゃああっ!?」
そんな風に最低限誤射だけはしないよう前だけを見て物思いに耽っていたから、二水らしくもなく見落としてしまった側面から迫るリッパー種のスモール級ヒュージの体当たりを──今度もジョワユーズが阻む。
「せぇっ!」
もうこうしたカバーリングも慣れた風な楓も、先程までのどこか消極的な動きとは打って変わり、突っ込んできたヒュージの刃を弾くと素早く本体を斬り付けて撃破すると、確かめるように軽くCHARMを振っている。
「……確かに、言うだけのことはありますわね」
「じゃろ? ともかく足止めはここまでにして、本格的に囲まれる前に後退するぞ!」
「で、ですがこのまま繰り返しても……」
単純に数が違いすぎるのだから、ここを抜けても直に追い込まれるのは変わらないのでは……実際全員でジリジリと下がった先でもヒュージの群れが現れるのを、それ見たことかと二水が何かを言う前に、雪華の声が遮った。
「ま、一応ここ来るまでに軽く打ち合わせはしてるんでね。時間は?」
『んー、ちょっと待たされたかナ?』
インカムを押さえながらの気安い掛け合いと同時、閃光が
「皆、遅れてごめんなさい!」
「お姉様!」
(でも、これじゃ結局さっきまでの繰り返し……)
シュッツエンゲルの到着に喜ぶ梨璃の様子を確かめるまでもなく、このタイミングで駆け付けてくれるなら夢結と梅の二人に他ならないだろうが、折角の一柳隊全員集合も、二水の心にかかった靄を晴らすには至らない。
(このヒュージの動き方、明らかに何者かに統率されている。なのに、群れのボスが未だに姿を見せないなんて……ん?)
ケイブまで発生してる以上、ミドル級止まりの群れなはずはない。そのことから夢結たち二人の追っていたヒュージは推定ラージ級以上、だというのに、今この状況に至るまでその姿が見えないというのは──
「梨璃さん、少しの間戦線の維持をお願いします!」
「二水ちゃん?」
撤退戦の目的は援軍との合流なのだから、ここから反転して迎撃という選択肢なら梨璃の頭にも過っていたが、維持というのは少し意外に思っている間に、二水は鷹の目に集中しているのが一旦閉じて再度開かれた彼女の目が赤く染まっていることから分かる以上、何か策があるのだろうと任せられるのが、一柳梨璃から二川二水に向けての信頼の形だった。
「お姉様、雪華様!」
「聞こえてる!」
「ええ、少しと言わず、これ以上ヒュージは進ませないわ!」
まず二方向を支える二人に声を掛ければ、それぞれヒュージを斬り伏せながらの頼もしい返事が。続けて他のメンバーには……わざわざ言うまでもなく、夢結や雪華とは違う方から迫るヒュージを射撃で押し留めてくれているようで。
そして、梨璃のそんな頼れる仲間の一人である二水も、この間に目的は果たせたようだ。
「雨嘉さん! 10時の方向の砂煙、その下を撃ってください!」
「え? 何も、いないように見えるけど……ううん、分かった!」
言われて視線を向けても、特に何かの姿は見えない。だからこそ何もいない場所に立つ砂煙など、『その下に』何かがいる証と伝わった雨嘉のアステリオンから二度三度とレーザーの光が走るが、地面の下となると流石に効き目が薄いのか特に反応らしい反応はない。
「梅、ちょっとこっち任せた!」
「わっ、急だナ!」
引っ張るように、というか実際にアンカーで引かれた梅に持ち場を押し付けると、建物の間を三角飛びで登った雪華は屋上に降り立ちながら、顔半分で振り向いて雨嘉へ叫ぶ。
「地面ごとぶち抜く、先に撃って!」
「……はい!」
恐らくは大盤振る舞いなフルバーストなのだろうと勢いから察した雨嘉が先導するように同じところへ撃ち込めば、狙撃は得意でなかろうとお手本をなぞるくらいは出来ると、雪華のダインスレイフ・カービンに籠められた徹甲榴弾が六発連続で放たれ、砂煙を爆炎に上書きする。
◆◆◆
「さぁて、ご対面といこうかな」
かなり無理に連射したのだからこれで引きずり出せはしただろうと、無茶の反動で大分全体の熱くなったダインスレイフ・カービンを屋上に突き立てるようにして眺めていると、お返しとばかりに煙を晴らしながら熱線が飛んでくるから、袖口からのアンカーで隣の建物の壁に張り付いてかわす。
「あー、変な行動パターンからそうだろうとは思ってたけど」
遅れて地面からせり上がるように姿を見せるのは、目測でラージ級の、種別は反撃の威力から察していた通りなレーザーレイ種のヒュージ。にしたって塔と呼ぶには大分不恰好な、エリンギか何かのような姿は──
「見たことない、タイプ……?」
「恐らく、あれが夢結様と梅様の追っていた不明ヒュージです!」
雨嘉ちゃんの呟きへ被せるように続ける二水ちゃんの発言は、ヒュージの群れ全体の動きがどことなく新手の生えてきた方へ寄った風に変わったように見えることから、口で言う以上の確信が伝わってくる。
「けど、あれが例のやつならまた地中に逃げられるゾ!」
「最初に襲われた子たちも、そのせいで録に情報が集められなかったようだから……」
そこら辺も百由から聞いてはいるけど、まあ未確認の特型相手なら言い訳も立つでしょう。
「なら、モグラ叩きと行くしかないか……ん?」
──少し様子がおかしい。そう視界に入った結梨ちゃんが何故か立ち止まっているのに気付いて壁を蹴り、近くに飛び降りてみれば彼女を挟んで向こう側からやってくる梨璃ちゃんも同じようで、二人して駆け寄ると俯いている結梨ちゃんの顔を覗き込む。
「結梨ちゃん?」
「ごめん、梨璃……」
謝罪の意味はグングニルを握る手のみならず、結梨ちゃんの身体が本人の意思に反して怯えるように震えている様が、何よりも雄弁に語っていた。その理由が
まあ、こればっかりは仕方のないことか。普通、死にかけたことを怖いと思うのは当たり前だし、その理由であるヒュージとはサイズも見てくれも違うし別個体だと頭で分かってはいても、同じ種別のヒュージを前にしてフラッシュバックが起きるというのも、ままある話なのだから。
「しゃーないか。梨璃ちゃんはそのまま結梨ちゃん連れて下がって、後は私たちで終わらせる」
だから無理に戦え、なんて言えない。
そういった恐怖を知らないリリィこそ後先考えずに突っ込んで無駄に死ぬだけだし、失うことが怖いと実感しているからこそ、他の誰かにも自分のせいでそんな思いはさせたくないと、生き残ることへ必死になれるのだから。
「……ううん。わたし、やるよ」
「結梨ちゃん……?」
そこで心配そうに寄り添う梨璃ちゃんの手を取りながら、結梨ちゃんは何かを決意するように語り出す。
「ありがとう、梨璃。でも、多分ここで雪華に全部任せて逃げちゃったらわたし、もうヒュージに立ち向かえなくなっちゃう……それじゃ、結梨はリリィじゃいられなくなるから」
「そんなこと」
ない、と言うだけなら簡単なのだろう。別にヒュージと面と向かって戦えずとも逃げ遅れた人の救助だとか、リリィの力でやれることは他にもいくつか思い浮かぶけど、多分結梨ちゃんが言っているのはそういうことではない。
「だから、わたしにも守らせて……ここを、わたしたちの
語気を強めてみても、結梨ちゃんの体はまだ微妙に震えている。けどその奥に秘めた覚悟は梨璃ちゃんにも伝わったようで、彼女がシュッツエンゲルである夢結の方を向けば、優しく頷いてくれたのに同じく頷きを返す。
「分かった……一緒に行こう!」
「うん、梨璃!」
「ところで梨璃ちゃん、あれ持ってる?」
「へ? 持ってるって……あ、はい!」
丸く収まったところでと改めて梨璃ちゃんに聞いてみれば、返答は懐から取り出される金色のケース。それに気付いて、ヒュージへの牽制を任せていた皆も次第に陣形を狭めつつ集まってくれる。
「さて、無事元凶のヒュージは見付かった訳ですが」
「でも、あの位置は狙いにくい……」
上から神琳さんの隣へ降りてきた雨嘉ちゃんが言うように、特型のいる辺りは高めの建物が多くて、上から狙うのでもないと射線が通り辛い。だからといって素直に跳んだり登ったりしてみれば、さっきのように砲撃が飛んでくるか、最悪驚異と見なされれば地中に逃げられるのは目に見えている。となれば──
「このままヒュージの群れごと廃墟を突っ切って、至近距離から仕留めるしかありませんわね」
「じゃな」
幸いというべきか、さっきの炙り出しですぐには引っ込められない程度にはヒュージの身体は露出されている。なら、今はそれが最適解か。
とはいえ、それは向こうも承知なのか率いられるヒュージの動きは、変わらず親玉を守るような布陣を敷こうとしている……
「夢結、ここらの雑魚の相手は梅と二人で任せていい?」
「それは構いませんが……意外ですね、雪華様なら『ここは私に任せて先に!』くらいは言いそうなところを」
ああ、うん……それはあたしの分析としては完璧に正しい。まあ『普段の』って但し書きが付くけど。
「流石に弁えてるよ、しばらく病室詰めだったやつの限界はね」
「……そのわりには、梨璃たちと合流する時、映画か何かみたいな動きしてたような?」
ごめん雨嘉ちゃん、今それ言われると返しに困る。いや本人は「やっちゃった」って感じで恥ずかしそうに口押さえてるし、咄嗟に出た反応なんだろうけど、結局それが私の周りからの認識……ここは雨嘉ちゃんみたいなタイプからも遠慮が抜けてきたと、ポジティブに取るべきか。
「コホン、ともかく任せた。鶴紗ちゃんは貰ってくよ!」
「え、何がうわっ!?」
ともかくAZの夢結が抜けるのなら、私が鶴紗ちゃんの横に入るのが取り決めだからとアンカーで彼女を引き寄せて、そのまま揃って先頭に躍り出るだけだ。
◆◆◆
雪華の行動は意外と言えばそうかもしれないが、そもそも前のレギオン時代から時々戦場で鉢合わせていたらしい二年生の二人はともかく、一年生からした雪華は同じレギオンになる前もなってからも彼女が一人突っ込んでばかりで、一緒に戦っている、という感覚の得られる距離での戦闘はほとんどなかった。
だから、そんな頼り下手な彼女なりに周りと合わせようとしての結果が、先程からの多少強引な感じなのだろう。ならば、いい加減先輩に頼ってばかりでないとは行動で示すのみと、鶴紗以外の一年生一同もまた二人に続いて駆け出す。
「さて、梨璃さん。この場合どのようにパスを回すべきでしょうか?」
そんな中、フォーメーションの都合梨璃の少し先を駆ける楓がチラリと顔を振り向かせながら聞いてくれば、もう何度目かなノインヴェルト故に多少は知識が追い付いてくる。
「えっと、基本的にマギインテンシティはヒュージの近くの方が高いから……先に前の二人に? あ、でもマギスフィアにマギを注いだら自分のマギが減っちゃうし、わたしたちが追い付いてから、フィニッシュまでの間で!」
勿論、今年からのリリィな梨璃とは比べ物にならない程場数を積んでいる鶴紗や雪華ならば、ある程度のコンディションの低下はなんとかするだろうが、鶴紗には先程自分を庇って怪我をさせてしまったし、雪華も病み上がりなことを考えると負担は抑えるに越したことはないと、楓からの問いに答えながら、梨璃はグングニルへ特殊弾を装填し、引き金に指を掛けながら声を張り上げる。
「神琳さん、お願い!」
「ふむ、この場合は……」
「わたくしたちである程度溜めてから雨嘉さんへ、ですわね!」
折り返しの段階で最前線の二人へ的確に渡すのなら、他に適任はいない。そう雨嘉自身の実力で得た信頼から、司令塔二人はサッと梨璃から託されたマギスフィアを雨嘉まで回し終えると、彼女の射線を確保するため周囲から迫るヒュージの迎撃を始める。
◆◆◆
入り組んだ路地の影から先の様子を伺いながら、少しは落ち着けそうだと今の内に隣の鶴紗ちゃんへ有無を言わせず引っ張ってしまったことへの謝罪を。
「付き合わせて悪いね、鶴紗ちゃん」
「……別に、元から配置は前ですから」
まあ、それはそうだけども。返事も聞かず無理矢理流れで付き合わせたことで、機嫌悪くしちゃってたら流石に全面的に私が悪いし。
「で、梅は何してんのよ……跳んだら撃たれるって分かってるでしょうに」
そんな中向かい側で斜めに割れて傾いているカーブミラー越しに見えるのは、あからさまに囮ですよーとド派手に高く跳んで下へ向けタンキエムで砲撃をしている梅の姿。流石にあの梅のことだから、無策ってことはないんだろうけど。
「あれって、先輩の?」
「あー、そういや夢結に貸した方返して貰った覚えないけど、やけに手慣れてんなぁ」
案の定というかラージ級から放たれたビームは掃除の終わった真下にアンカーを打ち込んでの急下降でかわされ、そのまま梅の姿も廃墟の中に消えていく。見よう見まねにしては微妙な慣れが入ってるし、いつの間にか又貸しにでもなってた?
とりあえずあの様子なら心配はいらないとして、こっちは……見えた、左にスモール級数体と、右にミドル級が一体。
「ミドル級の方は、見た感じメカヒュージ。これまでの様子から、多分あいつらが特型から群れへのアクセスポイントみたいなモノになってるんだとして……そっちは任せた」
「まだ皆は結構後ろですけど、大丈夫なんです?」
病み上がりだからか気に掛けてくれるのは嬉しいけど、過度な心配にはこれでも先輩だぞと反発したくもなる天邪鬼な気分から、返事は言葉でなく行動で。
シャルルマーニュにアンカーを引っ掛け、エネルギーカートリッジを激発、防御結界を展開させ影から通りへ放れば、マギの光に釣られてヒュージの注意が集まったのを見てから飛び出す。
「あっ……まったく!」
「後ろはよろしく!」
そのままシャルルマーニュを引き戻しながら、右手のグングニル・カービンからの乱射で前方のグループをまとめて足止め。締めの弾丸を籠めてから空いた左手にシャルルマーニュを握ってヒュージからの反撃を防ぎ、一度クルリと手の中で回したグングニルの引き金を。
「撃ち抜く!」
装填したのは対ヒュージ用のAP─アーマーピアッシング─弾、その名に恥じぬ威力は横に並んだヒュージを二体まとめて射抜き、怯んだところをシャルルマーニュのレーザーアックスとグングニル・カービンのブレードの二斧で両断、残る一体は……ティルフィングの刀身に叩き潰されてる。鶴紗ちゃん、もう向こう片付けたのか。
「……これでも、わたしたちは頼りないですか」
「そういうんじゃないんだけどねぇ……うん、ま、いい機会かな」
不機嫌にさせてはいても、理由はこっちか……それなら言葉にした方が早いだろうし、行動だけじゃどうにも不安だ。だから通信を繋ごうとしてみれば、元凶なメカヒュージも大分数を減らしたからかノイズもイヤホンの接触が悪い時くらいに留まっているし、迷わずスイッチを入れる。