戦闘回恒例の文字数膨れすぎな、一話に収まり切りませんでしたシリーズ。間に趣味が増えて、詰め込みたいものが増えたとも言う(
「あーあー、聞こえてる?」
『はい。雪華様、何かありましたか?』
繋がった通信の向こう、梨璃ちゃんの方からはそこまで変な音は聞こえないし、比較的安全そうだと判断すれば、そのまま本題に入る。
「何があったというか、そういえば言っておきたかったことがあったなーって」
結局東京から帰ってからも色々慌ただしくて、ちゃんとこのことを言えた相手などオフでの霊奈さんくらいだったなと、このまま流れで告白させてもらおう。
「あたしの戦う理由、あたしの守りたいもの、改めて皆にも話しておこうとおもってさ」
『雪華様の……?』
「ご存知の通り、『私』は今の世界ってもんが大嫌いだからね。そうなっちゃったもんだから三年になっても、ぶっちゃけ惰性で戦ってる感は否めなかった」
前の鶴紗ちゃんの件で移動中、梨璃ちゃんと二人きりで語ったことに嘘はない。けどあの時の私は正直そこまで皆を頼りに出来てたとは言えないから、保護者
「だから、あたしにとっての守りたい世界は、リリィとして出会えた皆と作る何気ない日常なんだって気付けたのは、今年も半分ちょっと過ぎてから」
『それって、東京行った辺りか?』
「まあ、ね。ホントいい戦友持ってるね、迎撃戦組はさ」
梅には他人事のように返すけど、今となってはその内の何人かは、私にとっての戦友でもある。でも、一度きりの共闘ではまだ知り合いの知り合い……なんて言ってしまうのは、この前わざわざ私のSOSに駆け付けてくれた皆に失礼か。こっちもこっちで、また今度お礼に行かないとだなぁ。
「うん、やっぱり私は出会いに恵まれてここまでこれたんだなってしみじみ思うよ。だから──」
『雪華様、お願いします!』
建物の隙間から正確に、雨嘉ちゃんのアステリオンからマギスフィアが放たれるのを確かめると、クールダウンの済んだダインスレイフ・カービンを背中から引き抜き受け止めて、マギスフィアごと掲げながらここに宣言する。
「後はそんな仲間たちとの──一度きりの青春ってやつを、卒業まで全力で楽しんでやる!」
「高校三年生になるまで学生生活楽しめてなかったって、大分勿体ない気がしますけど」
なんか今日の鶴紗ちゃん、やけに手厳しくない? ここまで怒らせてると、どうご機嫌取ればいいんだろ……確かコーヒー好きなんだっけ、後で先輩たちにいい豆でも聞いとくか。
「ともかく、ここでこっちに回ってきたってことはいつもの後ろがフィニッシュでしょ、少し走るよ!」
「…………」
空気を誤魔化しに少し勢いよく話してみても、こっちもこっちで梅から何か聞いてるのだろう雰囲気で、生暖かい視線しか返ってこない。
◆◆◆
「……結局、何も言えなかったな」
──先日のギガント級との戦いについて、言いたいことはいくらでもあったのに、いざ雪華が普段より戦場での距離を近くしてくると、どう話したものかとなっている内に先に行かれてしまった。
そうして鶴紗が一人佇んでいると、横からにゅっと出てきた顔に覗かれる。
「鶴紗ちゃん?」
「うわ!? 梨璃、もう追い付いたの?」
というよりはそれだけ鶴紗が呆けていただけで、これでは雪華に何か言うより、周りに心配されるのが先にもなるか。そしてフォーメーションで最後尾の梨璃に追い付かれたということは、他の一年生にもボーッとしていたのを見られている訳で、どうにも気を抜きすぎたと恥ずかしさから顔を逸らす。
「まあ、雪華様本人がやる気ならそのままやらせてあげていいでしょう」
「……分かってる、ちょっと距離感掴み損ねただけ」
元より人付き合いなど得意ではないが、これ以上は戦場でやることでもないなと鶴紗が気を取り直せば、元の配置へと楓を追い越しながら神琳へ確認を。
「で、次は誰になるの?」
「わたくしたちはもう終えていますから、結梨さん経由でBZへお願いします」
「任せろ!」
紹介された結梨がむんとグングニルを掲げてくれるなら、元気そうで何よりと鶴紗も前を向いて、進みながら雪華のパスを待つ。
「あとよろしく!」
「っ、ノールック!」
──相変わらず時々無駄に勘が
「結梨、次はミリアムに!」
「わかった!」
本来TZにいるべき梅や雪華がいないことから、空きを埋めるように入った彼女へ鶴紗が回せば、これで残りはBZの二人。メカヒュージの撃破状況から敵の指揮系統は大分切り崩せているとしても、ここからが油断ならないタイミングではある。
◆◆◆
「………………」
「梨璃さん?」
鶴紗からのパスを受け取った結梨がマギスフィアへマギを込めているのを、後ろから不安さが抜けきっていない様子で眺めているとそれを二水に心配されてしまうのだから、良くない連鎖だなぁと梨璃は照れ臭そうに頬を掻く。
「あはは、どうしても結梨ちゃん見てるとお姉ちゃん気分が抜けなくて……」
「うん……なんとなく、分かる気がします。わたしも、弟がいますから」
「二水ちゃんも?」
なんて返すと同時「『も』って、二水ちゃんに家族の話なんてしたっけ?」との疑問が梨璃の中で芽生えても、多分調べるところを調べたらこれくらいは出るんだろうなぁと、初対面の時すらわりと個人情報を知られていたことから納得するしかない。
「ところで二水ちゃん、ちょっとお願いしていいかな?」
「……へ? あ、どうぞ」
脱線も程々に、ノインヴェルトが始まってから試したいと考えていたことがあったから、知識量から一番頼れそうな二水に、梨璃は耳打ちをする。
「──って、行けると思う?」
「うーん、個人の感覚によるところが大きいとは思いますけど……ああでも、依奈様もあの時はそのやり方でって言ってたか。って、まさか?」
前例はある。けれど梨璃としても状況に流されるがままだったせいか、自分の力だけで成せたとは思えないからこその、せめてもの安心が欲しくての確認。その理由が『あの時』の再現を試みるからとは二水にも伝わるから、近くの雨嘉やミリアムへ目配せ……はするまでもなく、二水の呟きから察せられていたようで、油断なくCHARMを構えるのが答えに。
「大丈夫、梨璃には近寄らせない」
「うむ、この場面で誰かしらに倒れられても困るからのう」
主にそうなるのは言っているミリアム本人なのだが、不馴れな結梨がノインヴェルトでマギを使いすぎて戦闘継続に支障が出る可能性や、AZ担当の二人の消耗も考えるとここらで『補給手段』を確保するのも悪くはないから、慣らしをするというのなら大歓迎である。
「ありがとう、じゃあ……」
声掛けをして、梨璃はグングニルを片手に空いている手を胸の前へ運び、顔を俯かせながら目を閉じ、周囲のマギを感じ取る姿勢へ。この手法が一部のリリィたちの間で俗に〈お祈り〉などと呼ばれる通り、梨璃の想いはたったひとつの願いに向けてひたむきに──
「ミリアムー!」
「おっと、のんびり眺めてもおられんか! 二水、雨嘉、任せたぞ!」
上級生たちのように片手間でやれる程慣れているならともかく、普通はマギスフィアを保持しながらの戦闘行為というのは、取り落としてのロストの危険性も高くあまり勧められたものではない。だから結梨からのパスを受け取りにミリアムが少し前に出れば、彼女が元いた位置には二水が代わりに入る。
「来た……!」
「……っ」
親玉だろう特型は、あれからも何度か挑発目的で跳び上がる梅に砲撃の無駄撃ちをさせられたからか、すぐに動ける様子ではない。
とはいえ雨嘉が気付いた道の左右の建物を越えて現れるテンタクル種のミドル級は、残り少ないメカヒュージであることから、群れとしてノインヴェルト戦術へそれなりに危機感を抱いてはいるようだ。
(やらなくちゃやらなくちゃやらなくちゃやらなくちゃ……!)
加えてTZの方にもいくつかヒュージが向かって来ているし、AZや後方の二人は囮のような立場なのだから言わずもがな。
だからここで梨璃とミリアムを守れるのは、自身と雨嘉のみ。雨嘉の方は既にメカヒュージが簡単には降りられないよう見上げながら発砲しているのだから、後は二水が覚悟を決めるだけ。
「……やる!」
今朝からの自主練で、メカヒュージの行動パターンは二水も体である程度覚え込まされている。あの特型がその辺りのシステム面を弄れるようなタイプであったなら困るところだが、幸いこれまでの戦闘でも触手以外の部分に違和感のある動きはなかった、ならそこにさえ気を付ければ、後はただの答え合わせ。
飛び降りて来るメカヒュージへ銃口を向けて引き金を引き、レーザーで弾幕を張ればメカヒュージも迎撃に反応してか、少し離れた位置へ降り──
「や、やぁっ!」
──るのは見えているから、踏み込んだ二水は着地の隙へグングニルを振るい、まずは厄介な触手をまとめて斬り落とす。
とはいえ、メカヒュージも元は訓練用だろうとただのサンドバッグにあらず反撃に脚の刃を突き出して来るが、それも元々の行動パターンからは外れていないのだから見え見えの反撃程度、いくら二水もここまでの強行軍で消耗していようとCHARMで逸らすくらいは問題ない。
「…………っ!」
後は耐えれば、自然とメカヒュージ本体の方から寄ってきてくれるのだから、タイミングを見計らい横薙ぎに一閃。振り向いた向こう側でも雨嘉が危なげなくメカヒュージを射抜いているから、ひとまずの問題は……
「う……くっ……」
過ぎた、と思いたかったが、ここに来て二水の身体が無理の代償を訴えてくる。グングニルを持つ腕が重い……いや、腕だけじゃなく全身が倦怠感を……つまり、マギが残り少ないということ。
(ダメ……ここで倒れたら、また迷惑を……)
「二水ちゃん!」
「梨璃、さん……」
フラつく身体を梨璃に支えられて、なんとかと踏ん張ってはみたものの、これではノインヴェルトにはとても加われない。だから夢結か梅のどちらかに変わってもらうよう伝えるべく、二水が口を開こうとするより前に、梨璃の言葉がスルリと入ってくる。
「大丈夫、やってみるから……皆、行くよ!」
─カリスマ─
これまで何度も感じてきた、梨璃から広がる暖かい感覚。確かな意思の下で行使されたレアスキルは今までの中でもひときわ力強く、スッと身体がマギで満たされるのに合わせて、二水の姿勢もしっかりとしたものに。
「……ちゃ、ちゃんとできた、よね?」
「ふふっ」
しかし、やる前の口振りと過去一番の出来映えとは反対にやはり内心の不安は大きかったようで、梨璃はしきりに他のメンバーの様子をキョロキョロと眺めて確認しているのだから、変わらないなぁと二水も笑みを溢す。
「えっと、二水ちゃんは?」
「はい、もうへっちゃらです!」
そのまま声に出しての確認もされれば、CHARMを両手でしっかり持って構えるのを、答えとしてしっかり見せ付ける。
「よし、ならこのままフィニッシュまで一気に行くぞぉ!」
ミリアムが気合いを入れながら駆け出すのに続けば、前に見えるTZ組も既に辺りのヒュージは片付けているのも自然と目に入っ……たところで、今更ながら重大なことが二水の脳裏に過った。
(あれ、ひーふーみーよー……しち、はち?)
指折り数えた数字は、二水より前にマギスフィアを受け取った人数。しかし気付いたところで今になって止められる訳がなく、後ろを見ても囮を務める梅の降りようとしている廃ビルの屋上にヒュージが集まるからと、夢結も彼女のフォローに付きっきりなのだから、二年生のどちらかに交代してくれと懇願するのも既にアウト。
「何をボーッとしておりますの? さっさと行きますわよ!」
「へっ……うわぁ!?」
そこでわざわざ並ぶまで速度を落としてから、二水の背中を押しながら並走する形を取った楓に急かされては、思考の海を潜るのもここまでとされるのだが。
「で、でも楓さん!」
「デモも一揆もありませんわ。この手の特型ヒュージは逃したら再度の補足は困難というのは、わたくしが言うまでもないことでしょう?」
だからこそ横浜の時のようにラージ級相手にノインヴェルトという状況になっているし、特型を逃がすということは、どこかしらのネストに接触されれば同型の蔓延を招く──とこれまでひたすらに詰め込んだ二水の知識は訴えてくる。
加えてこのヒュージが気付いているかまでは分からないが、ここからなら海に抜けさえすれば後は妨害もなく由比ヶ浜ネストに一直線……ネストのマギに反応する可能性を考えれば、撤退先として自然に選ばれる確率は非常に高く、討ち果たすのは今しかない。
「それに、ここまで来れたのは二水の力あってのことじゃ、トドメも譲ってやる!!」
「ちっ、流石に潜ろうとするか!」
振り向いたミリアムがマギスフィアを投げ渡して来ると同時、俯瞰視野では先頭の雪華が慌てて横っ飛びに裏通りを飛び出しながら特型ヒュージへ両手のグングニル・カービンよりありったけの弾丸をお見舞いするのが見えるから、敢えて二水はマギスフィアをスルーしてその横を駆け抜ける。
「お、おい二水!?」
「ミリアムさんはいつもの頼みます! それと、楓さん!」
「お任せあれ!」
当然そんな真似をされればミリアムも上擦った声を上げて困惑するしかないが、それもいつものとはなんぞやに上書き──いや、二水が振り向かず楓に言葉を飛ばしながらもミリアムへ向けて一目散に突っ込んで来るのなら、やれと求められることが何なのか理解出来てしまった。どこぞの先輩の作った『前例』のせいで。
二水がそんな先輩たちや特型の様子を、路地裏だったのだろうこの位置からでも把握できるのは鷹の目をレアスキルに持つが故。つまり、普通に
「これをいつものと言われるのも、大分心外なんじゃが……のう!」
─フェイズトランセンデンス─
「…………!」
「二水さん!」
『フェイズトランセンデンス』を発動し滾る力のまま、ニョルニールへ飛び乗る二水をミリアムが勢いよく空へ放れば、その頂点目掛け楓がジョワユーズでマギスフィアを弾き、二水がグングニルを伸ばせばスッと銃口の先へ納まる。
(……っ、狙われてる)
生物というより無機物な雰囲気の強いレーザーレイ種のヒュージ相手に目線で行動を読む、というのは難しいが、雪華の攻撃も意に介していなかったヒュージが潜ろうとするのを止めたのは何か別のアクションを起こすのだと分かるから、せめて相討ちにとグングニルを構え直す二水は、不意に浮遊感が途切れるのに気付く。
「これって……?」
「二水、とべぇー!」
雪華のやり口を真似たのだろう、マギ障壁の遠隔配置による擬似的な足場の生成。それを成した結梨が声を上げれば、二水も釣られて足に力を入れ、少し遅れて放たれた特型ヒュージがなけなしのマギを絞り出したのだろう一撃は、砲撃と呼ぶには少々心許ない細さ故に二水の靴裏を掠めるのみに終わる。
そうなれば飛行型のヒュージもいない空には跳び上がった勢いのまま、マギスフィアを輝かせる二水ただ一人だけ、もう邪魔は入らない。なら後は引き金を──
「お願い、当たってっ!」
引いたなら、後はそのままマギスフィアが飛び、当たるべきところへ……
(あ……れ……?)
ただ、それを二水が確かめるより少し早く、早朝よりずっと身体を酷使してきたが故な瞼の重さに、彼女は耐えられなかった。
◆◆◆
「ま、そうなるよねぇ」
もう大分日も傾いてるのに、朝からほとんど動きっぱなしだったんだ。その上でフィニッシュまで持たせただけ大したもんだと、光に飲まれた特型ヒュージの末路を見届けると、お人形さんのようにふわりと降ってくる二水ちゃんを、楓さんが空中で受け止めているのを見上げてみる。
「状況終了……って、これ誤用なんだっけ?」
「確か、そういうのって訓練とか実戦以外の場合じゃなかったか?」
いつの間にこっちまで来ていたのか、梅に補足を入れられるけど、まあ親玉がやられた以上残りのヒュージの方は問題にならないだろう。
「で、わざわざ来たってことは、あたしになんか用?」
「んー? まあ雪華サマがまた無茶してないか心配ってのもあるけど、ほい」
なんて気の抜けた声で投げ渡して来るのは、夢結に貸したままだったはずなのをさっき梅が使っていた、私のアンカーガンの片割れ。
「使用感は?」
「いいとは思うんだけど、今からスタイルを切り替えるにはちょっと遅かったかナー?」
私がこれをもらったのは、確か高等部上がって──というより、姉さんに連れられて烏丸隊に入ってすぐだから、レアスキル未覚醒なのもあってこれといった戦闘スタイル的なものがまだ特にないタイミングではあった。だから、既に自分らしいやり方の見付かっている梅としては、たまの気分変え程度以上に使うのは感覚がズレかねんと。
「ん、ちょっと待って。多分百由から」
なんてまとめていると通信が入るから、梅に断ってから出てみる。
「はいもしもし、こっちは一応終わったよ」
『確かにノイズもないし、そうみたいですねー』
ともかくこっちの報告はそこまでやることもなく、精々が暴走したメカヒュージの全機撃破─を伝えたら百由は明らかに動揺してて、何かを派手に落っことした音が聞こえたけど─くらいで、向こうも真と弥宏の引き継いでいた調査は少なくともあの特型の同族は確認されなかったという結果とくれば、まあ今回の騒動はこれで終わりでいいんだろう。皆もまばらに集まって来てるから、残党狩りも終えてるとして。
『とにかく、今から急いで向かうんで、あとちょっとお願いします』
「へいへい。んじゃ、百由への引き継ぎはこっちでやっとくから、早く二水ちゃん休ませたげて」
「二水さんのことより、雪華様も病み上がりなのでは?」
通話を切って一応の年長者として責任持とうとしたら、楓さんには二水ちゃんを背負ったままジト目を投げられるけど、そんな中天を突く腕が一本。
「じゃあ、わたしが雪華のこと見ておく!」
「いや、結梨ちゃんも結梨ちゃんであんまり無理は……」
なんて誰が残るかで少しわちゃわちゃすることにはなったけど、二水ちゃんだけでなくミリアムちゃんもフェイズトランセンデンスの反動でぶっ倒れてるし、万一のために百由の用意した装備一式持ちが一人くらいは残った方がいいだろうとの結論になって、百由が呼びつけた面々と一緒にやってくるまでの現場保全という名の見張りは、私と結梨ちゃんとで務めることに。
◆◆◆
そんな訳で他の皆を見送った後辺りを見渡せるよう適当な建物の屋上に登ってみれば、結梨ちゃんがとことこと寄ってきて一言。
「ねえ雪華。わたし、今度はちゃんとリリィらしくやれた?」
「ん? まあ、今回は何か文句をつけろって言われても逆に困るけど」
ちゃんとした部隊単位での戦闘が初ながらに、楓さんや神琳さんと一緒な配置になっていたのもあって無茶な事はしないよう動きはある程度コントロールされていただろうし、それを抜きにしても周りの子のフォローに入ってみせるくらいには結梨ちゃんも余裕もあったように見えるから、合格ですって感じではある。
「……そっか、よかった」
結局のところ、先行組に違いはない結梨ちゃんも無理をしてなかった訳でもないのか、ぺたんと座り込むとそのまま屋上の手すりに背中を預けていた。
「疲れてたんなら、皆と一緒に帰ってよかったのに」
「ううん、そうじゃなくて……んー、リリィって大変だね?」
返される言葉に私としては何を今更、って感じではあるけど、結梨ちゃん的には改めてというより初めて実感した感想、なのかな? この前は戦闘終わったら、そのまま気を失ってた訳だし。
「そりゃあねぇ、痛いし疲れるし汚れるし、なんでリリィになっちゃったかなぁ……なんて、皆が通る道よ?」
「あれ? 雪華、前にリリィになったのは興味あって~みたいなこと言ってなかったっけ?」
「んー……ま、そうなんだけどさ? 憧れるのと楽に手が届くかは、また別の話なワケで」
大分傾いてきた夕焼け空の太陽に手をかざしてみると、下から伸びて来た結梨ちゃんの手に腕を掴まれる。
「でも、結梨には雪華の手は届いたよ?」
「……私だけじゃないよ。あの時はただ、梨璃ちゃんたちが必死に伸ばしてくれた手を、あそこまで繋げてあげただけ」
なんて照れ隠しを言ってはみても、それは他ならぬ私が梨璃ちゃんたちに説いてみた『
「……そっか、私はもうとっくに手に入れてたのかな」
憧れた物語のゴールと同じような言葉を呟いて、私がここにいた証、リリィとして生きた証を、少しでも残せたのなら、なんとなくでもここまで歩いて来た価値は、あったと思いたい。
そう結論つけると背負っていたCHARMケースを横に降ろしながら、結梨ちゃんの隣に座ってぽんぽんと頭を撫でて、今更に自分へ素直になれたのも、一柳隊の皆と過ごす内に……なのかなとぼんやり考える。
「ふぁ……すぅ……」
「もう寝てるし。一応引き継ぎまでは緊張切らしたくないんだけどなぁ」
まあ百由のことだからメカヒュージ(の残骸)の回収もあるしで急ぎはするだろうけど、こてんと頭を私の膝に預けてくる結梨ちゃんを見てやれやれと……ん、でも足音が聞こえるなら……まあ、いいかな……
◆◆◆
「で、着いてみたらこの調子と」
「おー、案外寝顔は可愛いのね」
百由が率いる調査と回収を兼ねた寄せ集め部隊──工房を訪れたついでだと捕まった聖や汐里を始め、他にも声を掛けれるだけレギオンも学年も学科も関係なく集められた、そんな面々がたどり着いた頃には雪華と結梨がそこら辺の屋上で並んで眠っていた。というのが、二人して百由に写真を取られそうになっている現状。
「せんぱーい、とりあえず回収とサンプリング始めときますよー!」
「はいはい、よろしく~。いやー、貸しは作っといて損はないわよねぇ」
「あの子たち駆り出されるの何度目だっけ? そろそろ借りのが多くなりそうだけど」
そそくさと作業に入る工廠科の一年生たちも、学科の違う聖でさえ見覚えがあるレベルになると元の貸しがどれだけ大きかったのか、あるいはもうミリアムのように事ある毎に呼ばれるのが当たり前になっているのかと色々気になりはするが、百由のようなタイプに貸しを作ったのがまず問題かと、これ以上藪をつつくことはしなかった。
「とりあえず、ヒュージの心配は今のところなさそうだし、二人はこっちの回収お願いねー」
「ま、どうせ他にやれることもないしね。ということでしおりん、クラスメイト同士でよろしく」
「分かりました、お姉様!」
こうして落ち着ける以上過剰に戦力は必要なさそうだと、話していたシュッツエンゲルに眠り姫たちを任せ、百由も下へ降りて作業に加わる。それを見送ると聖は雪華を、汐里は結梨をそれぞれ抱えて、ガーデンへと向かう。
◆◆◆
「で、さ。姉さんってコーヒー好きだったよね?」
さて、いつの間にか寝てたらその内に検査も済まされてたのか着替えた状態で部屋まで運ばれてたし、起きたらいい時間だったしで冷蔵庫から適当にペットボトルの麦茶を取り出して喉を潤してから、姉さんにケータイで連絡しての第一声がこれである。
『なんだよ、いきなりかけてきたと思ったら藪から棒に』
「いや、寮の部屋にお呼ばれしてた時、よく淹れて貰ってたなーって思い出してさ」
今思えば、不定期に開かれてた擬似姉妹でのお茶会も毎回のタイミングから私の調子を確かめにとか、そういう意図があったんだろうなとは思うけど、実際一息つけはしたから仮に心配を掛けた上でのそれだったとしたなら、確かな効果はあったのだろう。
『で? 豆でも送ってくれってか』
「うん、ま、そうなんだけど……自分用じゃなくて、ちょっと無理に付き合わせちゃった子にお詫びがてら送りたくてね」
特に隠す必要もないしで正直に答えると、電話の向こうからはやけに意外そうにされる。
『ん? らしくもねーな、そういうのは自分だけでいいって感じだったろ。俺も、お前も』
「それについてもそうなんだけど、色々ありすぎて、もう一人で全部やるのも違うかなぁって」
他人には散々周りを頼れと言っておいて、自分はどうなんだってのをこれ以上続けるのもそろそろアレだし、さりとて急に変えて上手く行くでもなしでこれなんだから、難しいところではある。
『はぁ……それを在学中に分かってくれてたら、俺たちも苦労してフォーメーション考えなくても済んだんだけどなぁ?』
「未だに直す気のない姉さんにだけは言われたくないかなぁ? あれの原因が半分私だとしても、もう半分は姉さんのせいでしょーが」
うちの隊のレギオンのフォーメーションとしては大分歪な、矢のように姉さんと私だけが突っ込む形はどこをどう見ても私たち擬似姉妹のワガママに他のメンバー全員を付き合わせてただけで、合理性なんてものはケイブの向こうに投げ捨てている、そんなレベルだった。だからその元凶の片割れにそんなことを言われても、ダブルトマホークブーメランにしかならんっての。
「ともかく、種類は任せるから近い内によろしく。じゃあおやすみ」
『……なあ、そろそろ俺の扱い軽k
なりすぎてるのは分かってる。けど元から擬似姉妹というよりただの友人同士の感じだったんだし、最後に認識票のタグまで回収してったんだからもう名実共にそういうことでいいでしょと、途中で切ったケータイを枕の横に放りながら、心の中で言い訳にもならないことを唱える。
「10時か……」
ついでに視界に入ったケータイの時計が示していたのは、いつも通りと言えばいつも通りの、大浴場へ行けば知り合いがまばらにいたりいなかったりな自由時間。ならまあ、支度をしようかな。