ようやくの大一番のはずだけど、立ち回りはわりと普段通りな気がしないでもないっす。これがうちの子スタイル。
で、こんなCHARM持たせたからには『コレ』をやらせないといけない気がしたので、します…そこだぁぁぁぁぁぁぁ!!(二度目のGN合唱団)
ちらっとゲストもいますけど、流石に一瞬だから説明は前回の出番に丸投げ。
「CHARMが使えない?」
先頭の一団の一人として小高い丘に着いた頃、ケータイに入った着信に出てみれば、二水ちゃんから伝えられるのはそんな話。
『はい、状況からあのヒュージが落ちてきてからの現象だと思うんですが……そちらは?』
「──って、ことだけど。史房さん?」
この辺りにいるのは教職員や三年が主だった面々で、当然その中には生徒会長の一人、茶色の髪をローポニーに纏めたレギオン統括の〈ブリュンヒルデ〉たる彼女もいるが、ガッカリしたようにCHARMを下ろして首を横に振っていることから、答えは聞くまでもなさそうではある。
「わたしの方もダメですね。あのヒュージの調査を含めて、百由さんを呼んではいますが……」
「ふーむ……ん? やれたけど」
「『ええっ!?』」
隣と電話先からの驚きはともかく、物は試しだと百由から返ってきていた普段使いのコアをライザーに嵌め込んだ結果、特に問題なく起動した感覚が伝わって来るなら……まあ、私がやるしかないってことか。
「ともかく行けそうなんで、後輩たち連れ戻して来ますわ」
「あ、ちょっと雪華さん!?」
「あれ、雪華様使えてるじゃん。どういうことなんです?」
そのまま史房さんの制止の声も百由からの疑問も聞き流して、斜面を滑るように下りながらCHARMと
「今から向こう行くけど、梨璃ちゃんは?」
『さっき遠くに跳んで行くのが見えたので、恐らく夢結様を探すよりヒュージの対応を……』
「オーケイ。夢結のことも気になるけど、リリィとしては先にやっこさんを叩かないとってのは同意だね」
『……というか、雪華様はなんともないんですか?』
二水ちゃんに聞かれたからと、改めて調子を確かめてみれば、素直に良好だとは言えない感じではある。
「なくは、ないかな? 今も少し頭痛いけど……まあビット使う時に比べたらマシだとは。そろそろ切るよ」
そのまま通話を終えケータイをしまうと、斜面の終わりで跳び上がりながら、ヒュージのメテオアタックにより一面焼け野原となった一帯を見渡す。
(やれやれ……梨璃ちゃんのピンチに駆け付ける白馬の王子様なら、他に適任がいるでしょうに)
とはいえ今はその
◆◆◆
「……っ。呼んでる、何が……」
フラフラと、覚束無い足取りで進んでいた夢結は百合ヶ丘の校舎に入った辺りでハッとなるが、同時に地響きと共に揺られ、思わず壁に寄り掛かる。
「くぅ……CHARMは、ない?」
避難の途中から記憶に妙な空白があることから、この何かに呼ばれるような感覚に飲まれている内にケースごと失くしてしまったようで、他に何か使えるCHARMはないかと考え──ふと、衝撃で落としてしまっていたのか、雪華から返されたばかりな美鈴の認識票が目に入った。
「お姉様……? もしかして、あそこにまだ」
連鎖的に繋がった答えに、迷っている暇はないと認識票を拾って、壁を伝うように夢結は歩き出す。状況が分からないなりに、やれることはやらねばならなかったから。
◆◆◆
夢結がそうしている頃、彼女を探そうと梨璃が飛び出した矢先、開けた所に落ちていったヒュージの情報と、他の皆がCHARMを使えないという話を伝える電話先の楓は梨璃へ無理せず戻るよう訴えていたが、それではお姉様を──皆のことも守れない。
「……ごめんね」
『梨璃さ──』
これまでいつも他の誰かに助けられてばかりだったから、一人で何が出来るかなんて分からない。それでも、ヒュージに近付いた影響なのか勝手に通話が切れてしまった以上もう戻れないし、自分しか戦えないのならそうするつもりなど初めからなかった。
(大きい……)
校舎の向こう側に見えるだけでその感想になる、地面から浮かび上がるヒュージの巨体は、元となったヒュージの数に合わせてか腕が三つあってそれぞれが独立して浮いている真っ赤なやじろべえ……などと例えてしまえば気の抜けた感じになるが、その腕──というよりアームと呼ぶべきだろう部位は鋭い角錐の形をしているのだから、貫かれでもすれば人の身体などひとたまりもないだろうというのは分かる。
勿論、CHARMで受け止めるのも質量差から相当危険なのだろうが、逸らすのに専念すればまだ即死は避けられるだろうと思いたい。
「……一柳梨璃、行きます!」
ともかく考えれば考えるだけ、ドツボにハマって不安しか増さないのは分かったから、梨璃は気合いを入れるように名乗りを上げ、校舎の屋上を伝ってその向こう側から迫るヒュージへ向かう。
「うわっ!?」
しかし最後に正門を跳び越えて少ししたところで、ヒュージから光弾の壁、と呼べる量の攻撃が来たと頭を下げながら地面に滑り込めば、百合ヶ丘の校舎への流れ弾は本物の光の壁が遮り、無傷とはいかずとも被害は抑えられている。
(あ、そっか。校舎には防壁があるってお姉様も)
彼女の実家がそういう分野に明るいことから他のリリィよりは詳しくなっていた、なんていつだったか夢結に聞いた話から、これならよっぽど近寄られない限り校舎の方は致命的な破壊は避けられそうだと、立ち上がった梨璃は更に近寄ると見上げるようにヒュージと向き合う。
「えっと……こらー、そこのヒュージ!」
とにかく注意を引かなければ……そう考えて出た言葉はなんだか年下の子を叱るような気の抜けた口調になってはしまったが、ギロリと睨まれるような“圧”は感じたからその点は達成出来たはずだと、ダメ押しにシューティングモードのグングニルを構えて射撃を行うが、どうにも効き目は見られない。
「──動かないでよ、当たると痛いから!」
その時図上から聞こえた声と同時、再度のヒュージ本体からの弾幕を遮るように撃ち下ろされるレーザーの雨あられ、そして立て続けに飛来するアームのひとつをトンファーのように構えたソードガンの二刀で弾きながら目の前へ舞い降りてくる姿は、梨璃が予想だにしていなかった援軍のそれだった。
「せ、雪華様!? なんで……」
「あー、この状況で私たちだけがCHARMを使えてる理由なら、考えられる可能性はいくつかあるけど……頭ガンガンするから、後でいい?」
確かに梨璃へ振り向く雪華の顔色はよく見ると分かる程度にだが悪いようで、普段なら持てるだけ持って来ましたな数がある予備のCHARMもなく、装備はスカートアーマーを欠いていて背中側のみなバトルクロスに、専用機のオーバーライザー一式だけという、二重の意味で本調子では無さそうな様子である。
──けれど一人じゃない、仲間がいるんだという事実は、時間稼ぎに終わっても後に繋げられればそれでいいとさえ思っていたこの状況において、梨璃に確かな勇気と希望をくれていた。
◆◆◆
格好付ける余裕もないくらい頭に響く妙な感覚も、体質の問題なのか不明のやつを含むサブスキルのどれかがレジストしてくれているのか、さして行動に影響が出はしない程度に留まっているけど、それでもノイズであることには違いない。
例えるならASMRだっつってんのに耳元で叫ばれてるくらいには、なんかこうガンガン来るけど」
「いや、それって普通耳壊れるんじゃ……」
「ん、声に出てたか。大丈夫大丈夫、あくまで例えだし、鼓膜破壊ファンタズムに比べたら無きに等しいから」
本当になんてことをしてくれたんだ、あの某ヤベーやつめ……なんて関係ない話はともかく、軽く上に放り投げたソードガンをそれぞれ順手に持ち替えると、左手に持つそれの切っ先をヒュージへ向けて宣誓を。
「さてと、生憎今日はライザー以外の持ち合わせもないし、遊びは抜きで行こうか」
「はい! ……って、普段は遊びでCHARM壊してたんですか?」
「いや、別にそういう訳でもないんだけどさぁ。全力でブン回した結果だったり、敵の攻撃で持ってかれたとかだったり……と、
その号令で特に示し会わせた訳でもないが私は左に、梨璃ちゃんは右にそれぞれ跳んでもろともに潰さんと迫っていたアームを避ける。
前回のビットならさっきのでついでに爆散してたろうに、大きさもあって今度は随分と堅い。やっぱりタチが悪いね、最近のここら一帯のヒュージは。
てか、三体融合とかどうせ負けフラグなんだからさぁ──なんて各方面に失礼なことを考えていると、向こうで梨璃ちゃんが声を張り上げている。
「な、何か作戦は!?」
「特にない、っていうかなんなら連れ戻すつもりで飛び出して来たし、その上向こうは推定ギガント級特型三体分! 他の皆はCHARM使えない以上、真っ向から倒そうとして倒せるもんじゃない……けどさ!」
返事ついでにヒュージの周りを旋回するように走りながらソードガンやシールドから実弾・レーザー問わず乱射するけど、リフレクター持ちでないのかあるいは張るまでもない攻撃と見なされているのか、それすらも判断出来ない程度のダメージしか入らない。
「最近のここら辺のヒュージは大体一点特化、二人がかりならやってやれないことはないでしょ!」
それを行動で示すように、駆け出してからヒュージの周りを大体半周した辺りで右のソードガンとシールドを連結、敵のアームが私の飛び退いた跡に刺さったのを確認し、邪魔が入らないと確信したタイミングでバスターキャノンの一撃を叩き込むが、それでも表面を軽く削るだけに留まる。
「ちっ、まだ浅いか。なら今度はダブルで「きゃああっ!?」あ、やばっ」
今こちらに来ていたアームは一本、つまり残り二本は梨璃ちゃんの方に行ってる訳で、グングニルひとつしかCHARMを持たない梨璃ちゃんじゃよしんば一本目を逸らせとしても、連続で飛来した場合の二本目に対応出来るかというと……まあ。
「……ん?」
そう不調を言い訳に出来ない己の失策を呪う暇もなく、視界の隅を駆けるのは学院側から目にも止まらぬ速度で迫る、黒白の残影。あのシルエットは──
「お姉様!?」
「……夢結?」
「──ッッ!!」
その正体は言わずもがな、いつぶりかの『ルナティックトランサー』に飲まれた、白髪赤眼状態な夢結。はたして彼女が梨璃ちゃんを守るようにヒュージのアームを弾き飛ばしながら割って入ったのは、意識した行動なのか否か。
しかし夢結がCHARMを使えるのなら、私の仮説がひとつ崩れるんだけど……いや、あれってこの前回収したダインスレイフじゃん。
確かあのCHARMは、いつぞやの百由曰くコアの最後の契約者が『あいつ』になっていたはず……そこで脳裏に走るのは、ダインスレイフが
「何がなんだかさっぱりわからんけど……そこにいるんだね、美鈴?」
理屈は分からないけど、少し懐かしい雰囲気が夢結を後ろから優しく抱き締めているような、そんな感覚がした……とにかく、咄嗟の考察なんぞそんなもんでいい。細かい事実より、今ここにあることが私たちの真実だ。
ともかく、ルナティックトランサーを全開にしながらも梨璃ちゃんを守る動きをしてみせた夢結だが、それでもたった一人でギガント級を倒せるなら誰も苦労しちゃいないと、感傷に浸るのも程々にソードガンを組み替えてナギナタにし、急に突っ込んできた夢結一人に集中して押し寄せんとするアームの内ひとつへ、スラスターと『インビジブルワン』の加速を合わせヒュージの背後から脇を抜けるように突撃し、側面へCHARMをぶつけて弾く。
「っ、やっぱり堅いなぁ!」
その間に夢結はふたつ目には飛び乗り足場とすることで対処し、最後のアームはダインスレイフで敢えて受け、斜めに逸らして凌ぎきって……やっぱり、ルナティックトランサーで暴走しているにしては、やけに対応が理性的だ。
しかしそこで視界の端に映るのは、ヒュージ本体が夢結を狙うようにエネルギーをチャージしている様子──
「梨璃ちゃん! じゃじゃ馬の相手は任せた!」
「は、はいっ!」
ならばとシールドと防御フィールドを前面に集中しての体当たりで夢結を後ろから追おうとするアームをまとめて吹き飛ばせば、梨璃ちゃんはその隙間を抜けるように跳んで、夢結の元へ。
「今!」
「お姉様、離れてください!」
「──!!」
そのままヒュージにはシールドからの牽制射撃を送って気を引けば、その隙に梨璃ちゃんが夢結とCHARMを空中でぶつけ合い、その反動で互いにヒュージの射線から逃れたのを確認した瞬間、何か波動のような物が広がって、体を縛る圧も大分楽になる。これは、いつぞやのような共鳴現象?
なんにせよ、ヒュージもそれに吹き飛ばされて派手に倒れたのはありがたい。仕切り直しにはちょうどいいと少し離れた岩影に隠れ、使えるようになったと謎に確信を持ってインカムを押さえながら、後方でどうせ見てるだろう面々に通信を繋ぐ。
「で、現状どうなのさ百由?」
『あのヒュージが展開していると思われるマギ封じの結界らしき反応は縮小しただけ、完全に消えてはいないから援軍には期待されても……ていうか、なんで雪華様たちは戦えてるんです!?』
「んー、素人意見もいいとこだけど……〈血の契約〉が鍵じゃないかな?」
それがさっき梨璃ちゃんに対し後でと言った、思い至った可能性のひとつ。
今では略式とされている──しかしかつてはそちらが主流だった、リリィの血に通うマギを直接覚えさせることで、コアと契約する方法。
まず今私の使っているコアは、『あの時』ブレイザーに装着していた普段使いなメインのマギクリスタルコアで、梨璃ちゃんの方も、初起動の時夢結の手解きを受けながらそれをやって契約したなんて話を前に聞いたから、こういう結論に至った訳で。
『まさか、夢結のダインスレイフの最後の契約者が美鈴様に変わっていたのも……?』
「刺された時に意図せずなのか、その後も戦うためにわざわざやったのかまでは、流石に謎だけどね……」
加えて会話に入ってきた祀さんの疑問への私なりの回答が、夢結のダインスレイフも今この場で扱えている理由の予想。
三者三様、経緯も形も違えど『血』でリリィという存在とより深く繋がったCHARMだからこそ、ヒュージからの干渉を跳ね除けて戦えている──そんな夢見がちな仮説。
とはいえ自覚している通り色々穴だらけなのだから、こんな答えじゃ通信向こうの百由もかなり不満そうではある。
『いや、だからってそれじゃ美鈴様ならともかく、夢結が今戦えてる理由には……』
「そこはほら、美鈴からの
私たち三人の中で唯一『カリスマ』や『聖域転換』といった浄化系のスキルを持たないどころか、正反対に向けて突っ走るルナティックトランサー持ちの夢結がそれを発動しながらこうも動けたことの理由など、繋がるところがもうそこしかないのだから。
『愛って……それはよろしいんですけど、これからどうなさるおつもりで?』
「感じる嫌な空気が大分楽になったから聞くけど、そっちもCHARMを起動出来るくらいにはなってるよね?」
『そりゃあ、まあ。だけどさっきも言いましたけど、あくまであのヒュージから離れてるからの話で、結局直接戦闘できる距離まで近付けるのはそっちにいる三人だけ……』
なるほど、これで聞きたいことはあとひとつ、それを確認すればやりたいことの前提条件は整う。シモキタ帰りの荒業──そして、電撃の刻んだ
「百由、話は変わるけど今すぐ使えるノインヴェルトのバレット、いくつある!?」
『へ? えーと、今は結構な数のレギオンが出払ってるし……残ってる面々の支給状況と使用履歴を照合して……そっちの隊のがまだあるようなら三発、それが全部ですけど!』
「オーケーオーケー、ド派手に幕を開けようじゃないか……梨璃ちゃんっ!」
『うわっ!? な、なんですか雪華様?』
夢結と話していたのか、それともバラバラに隠れていたのかまでは知らないが突然通信を繋がれてあわあわしている梨璃ちゃんには悪いけど、ここはどうしても付き合ってもらうよ。
「この通信が聞こえる百合ヶ丘のリリィ各員に通達。これよりわたくしLGラーズグリーズ所属の三年生、黒紅雪華はレギオンの垣根を越えた合同の三連ノインヴェルト戦術を……いやいっそ対抗にするか? ともかくそれを提案いたします! フィニッシュショットはそれぞれ、私と夢結と梨璃ちゃんで!」
『『は?』』
そのためにガーデンに残っていた全員に聞こえるよう周波数を合わせながら、少し気取った風に口調も……途中まで整えたそれで宣言する。
当然インカムの向こう側からは困惑の声しか聞こえないけど、なんてことはない、いつぞや下北沢での面々とやった同時ノインヴェルト戦術に、新潟は佐渡島でアールヴヘイムが柳都の仲間たちと決行したと聞く複数レギオンでマギスフィアを回すそれを混ぜ合わせて、更に大規模でやっちまえ。単にそれだけの話。
規格外の相手には規格外の戦術を──そのベースのひとつはヒュージ最大の等級であるアルトラ級すら滅したのだから、あくまでもギガント級の範疇に収まっている今回のヒュージに通用しない道理はない。
『た、確かにここ最近のヒュージは何かしらノインヴェルト戦術への対抗策を仕込んできていますし、最初から三段構えというのも分からなくはないですが……』
『いや、だからといってこの人数でやる必要性はどこにもないじゃろうが!?』
『あはははははっ! まーた面白いこと言いだすんだナ、雪華サマは!』
隊内部からの反応すらバラバラだけど、結局どこまで行っても私たちの切り札はノインヴェルト戦術なんだ。なら、ここまで派手にしたってバチは当たるまい。
なんて好き勝手が当然生徒たちだけで決められるはずもなく、鶴の一言と言わんばかりに通信に入ってくるのは、現状ここ百合ヶ丘の実質的なトップとも言える、低く艶のある男性の声──
『雪華君、勝算はあるのかね?』
「理事長代行。以前私は東京での戦いで見知らぬリリィ、見知らぬレギオン同士の組み合わせでありながらも乱戦の最中ノインヴェルト戦術を平行かつ連続で決行し、二度に分けてとはいえ都合四発分も完走させました。それは多少形は違えど新潟でのアールヴヘイムも同じですし、世界最高峰のガーデンたるここ百合ヶ丘の仲間たちとだからこそ、必ずあのヒュージを駆逐できると私は信じています」
流石に百合ヶ丘のトップ─の身内だけど─相手じゃ、大分着飾った言い方にはなる。でも少なくともこれは私個人としての偽りない本心だし、このヒュージは皆の力で倒したい……否、皆の力でなければダメなんだという不思議な確信がある。
それを静かに告げれば、通信の先から聞こえるのは色々な感情が混ざったようなため息と、少しの間。
『……………………そうか。そこまで言うのならば、後は生徒たちの判断に委ねよう』
「ありがとうございます、代行」
まあ凄く、ものすごーく遺憾そうではあるけども、ともかくこれで第一関門はクリア。
そうなると、ああ言われた以上次の壁はちょうど三人とも残っているはずな、史房さんたち生徒会長の承に『えっと……ノインヴェルト戦術、だっけ? それってこれを撃つんだよね、楓?』
『へっ? ちょ、ちょっと結梨さん!? なんであなたが梨璃さんの持っているはずの、ノインヴェルト戦術用の特殊弾を!?」
『梨璃が訓練所出る前に「お守り代わりにこれ持ってて」ってくれたから。ねえ雪華、やっちゃっていいんだよねー?』
……ふむ? 日本特有のお役所仕事でたらい回しにされるのもめんどくさいし、もういいか。
「おうよ、やっちまえ結梨ちゃん」
『オッケー!』
『いや結梨、オッケーじゃなくてまっていきなりわたしに銃口向けないでせめてちゃんとマギを込めてからにし……あああっ! もうどうにでもなれぇ!!』
珍しく慌てている鶴紗ちゃんの様子から、通信の向こうでは随分愉快なことになったみたいだ。いやはや、こういう時話の早い子たちで助かるよ。
「さて、やりますか」
「いや、やりますか。じゃないですが」
「結梨ちゃんになんてことさせてるんですか、雪華様!」
流石に今のは悪ふざけが過ぎたのか、立ち上がったところを〈結梨様〉もとい夢結と梨璃ちゃんの二人に挟まれる。とはいえ他にどうしろってんだよ、あの状況で。
「いやだってさぁ、もう事後承諾でいいかなーって」
「いいかなーではありません! そもそも雪華様は、時々やることがいきなり過ぎるんです!」
なんて詰め寄ってくる夢結の剣幕とは対称的に、インカムの向こうからは天葉の無意識に零れたのだろう声がする。
『そっか……そうよね。この感じ、佐渡島の──ファーヴニルを討伐したあの時と……それだけじゃなくてもっと前、迎撃戦の最後とも同じ……なら、多分今度も行ける気がする!』
『ちょ、ちょっとソラ! あたしたちにも分かるように説明しなさいよ!?』
『ごめん、上手く言えないけどあたしを……ううん、皆の力を信じて。二年生、ノインヴェルト戦術開始!』
依奈の困惑具合と、何かしらの確信を得たのだろう天葉の様子から、これで二発目も始動した。後はもう一発持ってるらしい誰かさんが乗ってくれるかだけど……こんな時こそ〈教えて二水ちゃん!〉
「ヘイ二水ちゃん、結局どうなってんの?」
『は、はい! 梅様は天葉様がスタートしたのに合わせて「夢結へのパス役は譲らないゾ!」って真っ先に飛び出して……あ、最後の一発もいつの間にか三年生の誰かから始まってるみたいです。会長さんたち頭抱えてますけど』
「ま、皆敵を前にしてただ逃げ出すなんて腹に据えかねてたんでしょ。そこに発散の機会が来たならそりゃあ──ね?」
私たちリリィはうら若き乙女であろうとも、心持ちは既に戦士なのだ、それが学校を捨て敵に背を向けてただ逃亡するだけなぞ、プライドとか色々な物が許さないはず。だからこそ、私は今から全力でブン殴るぞと宣言した。
手段が合理的かどうかじゃない、皆あいつをぶっ飛ばして差し上げたいだろう? それ故私が勝手に始めたそれにも、こうして乗っかってくれたという訳で。しかし乗ってくれた三年、ね……今誰が残ってる? アールヴヘイムがいるんなら、綺更辺りがくすねたか?
「雪華様? 話の途中なのですけれど。そもそも、百合ヶ丘のリリィたるもの「ほら、まずは二年生からだゾ! 受け取れ夢結!」梅っ!? ああもう皆してっ!!」
なんて考えていると夢結からのお説教もそこそこに、叫べば声も直接聞こえる距離まで跳んで来ていた梅からのパスがこちらに向かって来て、仕方なく受け取ろうと夢結はダインスレイフを構える。
──が、その時ヒュージのアームのひとつが九つの
「また9!? ……ってことは!」
そのままパスに割り込んだビットのひとつはマギスフィアをヒュージの近くまで持ち去り、九基で組み上げた円陣の中を回しヒュージ色にマギスフィアを染め上げていく。
「やっぱりマギスフィアを……って梨璃ちゃん!?」
「梨璃! あなたは一年生の分が……いえ、そもそも雪華様の妄言だけど!」
それを見た梨璃ちゃんが反射的に飛び込んだのを、さりげなく失礼なことを言いながら追い掛ける夢結。なんか最近皆からの扱い酷くない? いや、わりと4月の頃からこんなもんか。
「離脱なさい梨璃! 無理に学年に拘らず、後はわたしたちがやるわ! あなたは──」
「ええ!? おふたりの無茶を見てきたから、代わりにこうしてるのに……」
私が肩を落としている間にも、夢結が梨璃ちゃんを追ってヒュージの周りに浮かぶビットの上を蹴るようにして駆け、合流したと思えば聞こえてくるのは最早痴話喧嘩としか思えないような、戦闘中にしては随分と気の抜けた言い合い。
「それは……無茶と分かっているのなら、あなただけでも真似せず反面教師にでもしなさい! シュッツエンゲルなのよわたしは! 良いことも悪いことも、ちゃんとあなたに教えられませんでしたじゃあ済まされない立場なのよ!!」
「だったら、お姉様こそ一人で無茶するのはやめて下さい! じゃないとわたしも、安心して後ろにいられませんから!!」
二人を囲もうとするヒュージのビットを空中で背中合わせになりながらその勢いで回っての射撃で迎撃し、動きが鈍ったのを確認すると梨璃ちゃんは再度夢結を置いて一番近くを飛んでいた個体の上を跳び、マギスフィアを追う。
「なっ!? 本当にあなたはいつもいつも……いつも、誰かのために一生懸命で、自分のことは二の次で……そんな梨璃にだから……わたしも、皆も」
とはいえなんか日頃の鬱憤をぶつけ合いながらも、いっそすっきりとした様子で暴れる二人を眺めているだけではいれないなと、気を取り直してインビジブルワンとシールドのスラスターを合わせた瞬時加速で飛び出し、ビットの上を同じように時に駆け時に跳びながら、先を行く梨璃ちゃんの後ろを追っていた夢結に並ぶと、よく見ると髪の色は元に戻っているのに、その目だけが変わらずマギの光に赤く染まっていたのに気付く。
「てか、夢結の目赤いまま? 色合いだけなら私とお揃いじゃん」
だからとソードガンの刀身を鏡代わりとして夢結にも見えるようにすると、驚きに目が見開かれた。
「……確かに。でもどうして」
「あの子の、おかげじゃないかな?」
そう言って、私たちの視線は揃ってビット数個分は先を行く梨璃ちゃんへ。
放っておいたら何をするか分からない子が、なんなのかよく分からない
「そうでしょうか? どこの悪いお手本代表な先輩に影響されたのやら、シュッツエンゲルなわたしの言うこともあまり聞いてくれない、困ったシルトですけれ、どっ!」
「おうおう言うようになったじゃんか“お姉様”ぁ! あとアレは、あの子の生まれながらの性分だと思うんだけど、さっ!」
なーんか今日の夢結がやけに感情的なの、もしかしなくてもルナトラの影響そっち方向に出てたりしない? 普段の爆発するか沈みきるかまでずーっと溜め込みがちなのよりかは、遥かに好ましいけど。
そんな他愛ないことを考えながら、足場にしたビットを行き掛けの駄賃として二人で八つ当たりついでに至近距離で砲撃を叩き込むか、あるいは前転ついでにCHARMを叩き付けるかで次々と粉砕しながら突き進むと、最後のひとつの上で梨璃ちゃんがマギスフィアに追い付き、グングニルの切っ先で触れているのが見え──
「え、なにこれ!?」
「梨璃っ!」
しかしヒュージのマギに汚染されすぎたマギスフィアは、触れた側から梨璃ちゃんのグングニルすら侵食しようとしていて、それを見た夢結がルナティックトランサーの出力を上げたのか更に加速して強引に割り込み、ダインスレイフでその刀身を半ばで両断することでシルトを守護する。
「っ……!」
「お姉様!」
だがその瞬間、痛みを堪えるように顔を歪める夢結を梨璃ちゃんが気にしたのもあって二人は空中で無防備になったなら、当然そこへはヒュージから光弾の弾幕が雨と降り注ぐ訳で。
「やらせるワケないでしょうが!」
勿論梨璃ちゃんと夢結を纏めて飲み込もうとするなんて目論見は、私が二人の前に飛び込みつつ防御フィールドを全開にして遮断することで妨害する。けど──
「雪華様!」
「ちぃっ……!」
しかしまあこう三人して固められちゃあ、どこか痛めたのかCHARMを持つ手を押さえている夢結のことがなくとも、マギスフィアまでは面倒見きれないか。
「まったく、あの人は毎度めちゃくちゃばっかりして……」
なんてどうしたものかと思っていると、弧を描いて飛んでいくマギスフィアを追う私たちの視界の中に飛び込んできたのは、この曇天にあっても陰りなく煌めく
「行くよ樟美!」
「今度こそ一緒に……はい、天葉姉様!」
梨璃ちゃんのグングニルを折ったことにより明後日の方向へ飛んで行ってしまったヒュージのマギに汚染されているマギスフィアは、そんな天葉とそのシルトの樟美ちゃんが、誰かから予備のそれを借りたのだろう以前とは違う色のグラムと、応急措置の後か一部のパーツの色が変わっているグングニルとで揃って受け止める。
新潟と先月末の戦闘と、ずっとシュッツエンゲルの無茶を見ているだけだった樟美ちゃんが、今回ばかりは天葉と並んで空を舞っているのは……彼女なりの決意の現れなのかな。
「「はぁぁぁぁぁっ!!」」
「ああもう、乃彩じゃないけどこんなめちゃくちゃ、もう二度とごめんだったのに……」
ともかく天葉と樟美ちゃんが全力で投げ飛ばしたマギスフィアは、二人を追って来た依奈が跳び付いて中継を引き受ける。
「う、くっ……皆、この重さは新潟の時以上よ。死ぬ気で繋ぎなさい!!」
「……え、これあたしが帰って来た時に話してたことがフラグだったとか、そういうパターンじゃないですようわっ!? んのっ、いっけぇ!」
数秒の中継だけでも相当辛そうに、大きくバランスを崩しながらも依奈から乃彩へ、そこから更にアールヴヘイムの面々へ次々とパスを回することによりマギスフィアは急速的に浄化されていく。その流れるような連携は、流石再び伝説を作ったレギオン。
──で、それはいいけど困るのは梨璃ちゃんのCHARMがまたしても壊れ、受け手の実質いなくなった一年の分。生憎今回は諸々の都合で貸せるCHARMもないし……で、あるならばと、インカムに向け叫ぶ。
「作戦変更! 残りふたつは私がまとめて受け持つ!」
『いっくよー雪華!』
『もう、どうなっても知りませんからね!』
私が全開にしたスラスターで飛び上がり上空に出した足場の上に着地し、結梨ちゃんと史房さんからそれぞれ投げ渡されるマギスフィアを連結させ左右に広げたバスターキャノンで受け取ると、上から見えるのは件のマギスフィアが2代アールヴヘイムの総員から残るリリィたち──百由、汐里ちゃん、紗癒さんたち、生徒会三役、他にも出撃中なレギオンのローテーションから外れていた待機組、更には無所属の新人だろうと覚悟を決め参加した何人ものリリィたちの間を渡って、浄化と共にさらなるマギを込められていく。
ヒュージが妨害しようと放つ攻撃すら置き去りにするそれはさながら、山の中を駆け抜ける流星の軌跡──その次なる行き先は、専用機なのだろう二連装な銃身を備える大盾型CHARMを携えた、
「……鶴紗まで、繋ぐ!」
「いっけえええええええっ!!」
そうして柚子ちゃんからマギスフィアを受け取ったクラスメイトな閑さんが柄にもなく大声を上げながら託すのは、彼女らのルームメイトのレギオンであるLGラーズグリーズ──通称、一柳隊。
「ふふっ……ならここは先輩として、レギオンの仲間として! その道を切り開く!!」
後輩たちの活躍に気分を良くしていると、今この場においては二発のマギスフィアを抱える私を最大の驚異と見なしたのか、目の前に迫り来るはヒュージ本体から放たれた特大の熱線。だけど恐怖はない、この暖かさと共に戦う限り!
「さあ受けろ……これが、あたしたちの! 光だぁあああああッ!!」
咆哮と同時トリガーを引き、正面に向けたツインバスターキャノンからふたつのマギスフィア分のエネルギーを、この手で束ねて解き放つ。
拮抗は一瞬、深紅に染まった光の奔流は相手の砲撃をも巻き込み突き抜けて、ヒュージの真横に突き刺さる。
「外れた!?」
「いえ、よく見てくださいお姉様!」
そうとも。これは単なる砲撃じゃあない……皆の力と想いを重ねた、
「このまま薙ぎ払う!!」
そのままCHARMごと極大の光刃を振り回して、迎撃しようと突っ込んできた生き残りのアーム二本をまとめて粉砕し、ヒュージ本体にも逆袈裟の一閃。
リフレクターがあったのか元々のタフさかは知らないけど、これで倒せないというのだからなるほど強敵だ。だけど所詮私は前座、後は──
「梨璃さーん! わたくしの全てを、今あなたに委ねますわよー!」
楓さんのジョワユーズが──
「梨璃さんたちがわたしたちの最後の希望です! だから……わたしたちの力、お貸ししまーーーすっ!」
二水ちゃんのグングニルが──
「梨璃……終わらせてみせて!」
鶴紗ちゃんのティルフィングが──
「夢結、しっかりやるんだ……ゾーっ!」
梅のタンキエムが──
「こういう時、わたくしたちはどちらに呼び掛ければいいのかしら?」
神琳さんのマソレリックが──
「えっと、両方……?」
雨嘉ちゃんのアステリオンが──
「おいそこ! こんな時までイチャイチャしとるんじゃ、ないわーっ!」
ミリアムちゃんのニョルニールが──
「いっちゃえ梨璃! ハートの全部でッ!!」
そして結梨ちゃんのグングニルが──
今はその多くが出払っているとはいえ、百合ヶ丘の精鋭が連続してのパス回しに各々のCHARMを破損させながらも繋いだ特大のマギスフィアは、最後に一柳隊の仲間たちが重ね合ったCHARMを跳ねさせ、最前線の二人へ届けられる。
そこへまだ動かせたらしい最後のビットを割り込ませ再び奪おうとするヒュージだが、最早そんな物で皆の想いの詰まったマギスフィアを受け止めることは叶わず、短時間の保持すら出来ずに打ち砕かれた。
「ノインヴェルトはCHARMを著しく消耗させるんですのよ!」
「それを知らずに真似たのは迂闊だっうわあっ!?」
楓さんに便乗してヒュージを煽りながらもいつもの擬似空戦機動で先回りし、軌道修正として足場から跳び二人の側へマギスフィアを打ち返したまではよかったが、その反動でフィニッシュショットならぬフィニッシュソードの時点でとっくに限界を迎えていた両手のソードガンが、揃って爆発四散する。
咄嗟に防御フィールドを展開したから怪我はしなかったけど、やっぱりこう締まらないなぁ。
「はぁ、あの人はいつまでも緊張感のない……」
「あはは、それが雪華様ですから」
さっきまで自分たちも戦場とは思えない空気でいたくせに、なんて容赦のないシュッツエンゲルなんでしょ。
とはいえこれで多少想定とは違ったけど、私を含めこの場全てのリリィのマギは二人に集まった……後はもう、終わりの時だ。
「好き勝手言ってくれちゃってさ──これが正真正銘のフィニッシュショット、任せたよ」
「はい……梨璃、こっちに!」
「お姉様……分かりました!」
そのままシールドを背にして地面に墜落する形になった私の前で、刀身が展開しシューティングモードとなったダインスレイフでマギスフィアを受け、引き金に揃って指を添わせる一組のシュッツエンゲル。
その姿に百合ヶ丘の一同はおろか、敵対するヒュージさえも見惚れている──なんていうのは、少し考え過ぎだろうか。
「これで、最後よ!」
「これで最後です!」
同じような言葉を紡ぎながら、引き金を引くタイミングを完璧に合わせ放たれる極光。それにもはや何の抵抗も出来ず、ただ身体の中央を撃ち貫かれるヒュージ。それがこの戦いの結末。