アサルトリリィ~円環の赫星~   作:ですティニー

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前回のあらすじ:三者三様の『繋がり』と全校(残ってるだけ)ノインヴェルトラ○ザムライザーとアイキャッチまでと。
で、百合の間に挟まらないよう(重要)に後方先輩面してたら自動的にヒロイン枠が決まっていた。な、何が起きたか分からないが以下略。
ひとまずはここで一区切り…数十話ほどお付き合い頂き、ありがとうございました。
わざわざ第二部の存在を匂わせてるんで、今後も時々やりたいことをやるとは思いますが、完結表記にした通りペースは大分不安定になるかなぁと?今年入ってからずっとそうと言われればまあ。


終わりに捧げる物/BOUQUET─ブーケ─

 半ば事故みたいな形とはいえ、この場にいたほとんどのリリィの力を束ねた一撃に、ギガント級三体分『程度』ではとてもじゃないけど耐えられる訳がなく、本体に風穴を開けられたヒュージは落下し後ろに倒れ……って、この位置だとまた爆発に巻き込まれ──

 

『雪華様、これを!』

 

「シャルルマーニュ……借りるよ汐里ちゃん!」

 

 そんなタイミングで、固定のためのテーピングを引き千切りながら後方から汐里ちゃんが投げ飛ばしてくるのは、グランギニョル社の誇る第1世代、かの大帝の護符の名を冠し至高の守りを誇るCHARM。私の真後ろに刺さったそれを引き抜き、コアに右手の指輪をかざしながらそのまま夢結と梨璃ちゃんの前へ。

 

─円環の御手─

 

「「雪華様!?」」

 

「動かないでよ二人とも、範囲相当絞るからさ!」

 

 シャルルマーニュ、エネルギーカートリッジ全弾ロード。ライザーのフィールドジェネレーターもリミッター解除の最大パワー……ここまでやるんだ、〈完全防御結界〉の名に偽りが無いのなら、やってみせろよ!

 

 ──そして、私たちの視界は紅蓮の炎に埋まった。

 

◆◆◆

 

「そうはならんやろ」

 

 結局防御に使ったCHARMのオーバーヒートと引き換えに、あの場をなんとか生き延びた私たちだったけど……それはともかくとして、なんかあのヒュージを撃破した爆発で温泉を掘り当てましたとさ。

 でもってさっきまでの戦闘の余波で今学院の施設はわりとボロボロだとかで、なんでかそこを簡易の露天風呂にして居残り組で全学年一緒に入ってますってさ。

 

いや、確かに連中落ちて来た時相当深くまで埋まってたたみたいだけど、そうはならんやろ? なに、露骨なテコ入れ? 急な温泉回? こんなのそこでキョドって叫んでる二水ちゃんじゃなくても、混乱するしかないでしょーが!?」

 

「なっとるやろがい。ともかくヒュージの突入やら例の謎結界の影響やらなんやらで、今は監視網も麻痺しておるから覗かれる心配もないと百由様も言うておったし、たまには学年関係なく揃って羽根を伸ばすのもよかろう」

 

「だナー。そもそもちゃっかり着替えて浸かってから言っても既に遅いゾ、雪華サマ」

 

 なんかもう勢いのまま、考えを口に出してたら周りにいるミリアムちゃんや梅にも呆れられるけど、にしたってこれはさぁ。

 

「それメテオる時に近く通ってたの物理的にぶっ壊しただけでは? てかそのモユサマーに説教確定なんですけどあたしは? それにミリアムちゃんも私共々大体学年関係ない空き時間に入ってる組でしょうが! あと梅は順応速いなおい!」

 

 色々一息にツッコミ入れたけど、まさかこの人数でのノインヴェルト2ループで、ほぼ全部のCHARMぶっ壊すとは思わんじゃん?

 そうならないように、せめて学年ごとに分けてぶっぱなせーって提案したのも、これじゃ全部台無しだよ……計画ずらした元凶出てこい、この手でぶっこr──もう光の中に完結してたわ。

 

 そんな風に脳内でセルフツッコミをしていたところに目の前をバタ足で横切るのは、入浴中だからと普段二本のおさげの下半分を三つ編みにして、肩越しに垂らしてと結構な手間が掛かってた髪をほどいている結梨ちゃん。

 

「すい~、すい~、すい~、すい~。ざぶんざぶ~ん」

 

「結梨、楓じゃないんだからこんな時に泳がないの」

 

「ちょっと鶴紗さん? どさくさに紛れて乙女の秘密を暴露しないで下さいまし?」

 

 いや、普段のお風呂の時間んなことやってんのかい、自由だな一年。なんて呆れていると、それに補足するようにちゃぷちゃぷと寄ってくるのは二水ちゃん。

 

「あ、ちなみに楓さんはお風呂で泳ぐ場合大体犬かきなので、結梨ちゃんとはちょっと違いますねー」

 

「ちびっこ1号まで!?」

 

 そういう問題なのかなぁ? そもそもお風呂で泳ぐな、とはほとんど身内なんだし今更か。

 

「お姉様、痛みますか?」

 

「……代わりにあなたを守れたのだから、このくらいなんてことないわ」

 

「お姉様……はうっ!?」

 

 そしてそんな回りの喧騒など知ったことではないと、二人きりの世界を満喫しているシュッツエンゲルが一組。

 案の定無茶の代償に手首をやってたらしい夢結のことを心配してたくせに、浸かった時どこかしらの傷口に染みたのか梨璃ちゃんの方こそビクッとしちゃってるけど。まあ、その後は夢結の肩に頭をこてんと乗せてご満悦なのだから、多分大丈夫そうとして。

 

「で、あっちの〈結梨様〉はもう水入らずだと、お湯には浸かってるけど」

 

「そういう意味ではないじゃろ。というか雪華様はこんな時にまでわしらと一緒とは、同じ学年になんかこういい感じの相手はおらんのかー?」

 

「んんっ。ミリアムちゃんに分かる!? 仲良くなった同期が皆して死ぬか一身上の都合だとか任務中の負傷だとかで次々百合ヶ丘去ってって、レギオンの先輩たちと梅や百由絡みくらいしかまともな付き合いなかった去年のあたしの悲しみ?」

 

 死別だって別に美鈴や先輩たちだけのことじゃあない。私らの世代は今よりもっと無茶をする必要があったし、無茶を許容してしまうやつらばっかりだったのだから。

 なんてぶちまけると、納得がいったのか呆れてるのか、謎な反応を二水ちゃんに返される。

 

「あー、若菜様たちとの微妙そうな距離感や、普段三年生の先輩方とほとんど話してない真相は、やっぱりそういう感じでしたか……」

 

「お、おう。大変じゃったのう」

 

「つまんない嫉妬しようにも、もう雪華サマもこの輪の中だからナ? 今さらぼっち自慢しようにも遅すぎるゾー」

 

「だーれがんなこと自慢するものかよ!」

 

 何に効くのかも分からぬ温泉の効能でリラックスでもしてんのか色々タガが外れて、先輩としてのポーズだなんだの一切をかなぐり捨てて久方ぶりに人前で感情をドストレートに吐き出し続けていると、不意に誰かに頭を撫でられていた。

 その犯人は、拾われたばかりの頃のように長い髪をだらーっと垂らしている──

 

「今はわたしたちがいる、心配すんな雪華」

 

「いや結梨ちゃん、ここで子供扱いしないでよ。逆に虚しくなる」

 

 なんで文句無しの最年少に一応の最年長が慰められてんですか? おかしいと思いませんか?

 いやあたしの誕生日9月だから、数字だけなら4月生まれの夢結には並ばれてるけど? 今月な梅にもそろそろ並ばれるけど? てか梅の方ぶっちゃけ来週だな? またプレゼント用意しとかないと……

 

「あの、雪華様?」

 

「ん?」

 

 なんて色々考えながら不貞腐れてますよーと鼻までお湯に沈めてブクブクしていると、いつの間にか夢結の隣から私の目の前まで、梨璃ちゃんがふよふよと来ていた。

 

「どしたの梨璃ちゃん。あそこの神琳さんと雨嘉ちゃんみたく、夢結に引っ付いてイノチー感じてなくていいの?」

 

「い、命……?」

 

 湯船から上がり、吹き渡る風を感じている二人の方を指差してからこうデデデッ、デデデッ、デデデンって感じに腕を振ってアピールするが、イマイチ伝わりが薄い。しまった、こっちの時空じゃ振り付け違ったか──なんの話よ?

 

「その、ちょっと頼みたいことがありまして」

 

「夢結ー、そうらしいけどこれ梨璃ちゃん貰って「あ げ ま せ ん」アッハイ」

 

 とりあえず対面として許可は貰っとくかと冗談を投げておくと、食い気味に返しが飛んでくる。

 いや、その急なワンセコンドルナトラ芸はなんなん? こういう時に限っては色もすぐ元に戻るみたいだけど、それだけでも近くにいたアールヴヘイムの子たちだーいぶ身構えてたし。え、これが初めてじゃなくて前科持ち? なにしてんのよ……

 

「これくらいは今の夢結なら挨拶みたいなもんだろ。慣れないと疲れるだけだゾ?」

 

「挨拶で空中鋭角軌道されちゃたまらんでしょ……」

 

 姉さんで見慣れているにしても、高ランクの『ルナティックトランサー』持ちの重力に囚われないとも称されるそれを、夢結の沸点があまりにも低いからと気軽に乱発されかねんってなるとね。

 

「ああごめん、話逸れたか。で、なんの話?」

 

「はい、結梨ちゃんのことなんですけど」

 

「んー?」

 

 話題にされてる本人すらよく分かってなさそうだけど、梨璃ちゃんが結梨ちゃんと二人、ペコリと頭を下げながら頼み込んで来るのは──

 

◆◆◆

 

 それから数日後──

 

『わたしはいつもいつもちゃーむをこわすへぼへぼりりぃです』

 

 と書かれた札を首から下げて、百由の工房の床に正座させられている、この死んだ目をしたリリィとはいったい誰でしょう……いや私なんだけど。

 

「くそ、なんでこんな時に限って同じくいつも通り壊してる汐里ちゃんは免除なのよ!」

 

「その汐里ちゃんのを片方壊したのは、他ならぬ雪華様でしょうに」

 

 それはそう。なもんだから反論も出来ずにいる私へ、更に百由は眼鏡をクイッと上げて光らせながら追い討ちを掛けてくる。

 

「それに、そもそも同時三平行ノインヴェルト戦術ー……とかバカな真似始めたのは、いったいどこの誰だったかしら~?」

 

「……………………結梨ちゃん?」

 

 視線も目線も逸らしに逸らしてな苦し紛れの責任転嫁も、当然この場にいるのは全員あの場にいた当事者な以上通るはずもない訳で、反射的に立ち上がったミリアムちゃんに怒鳴られる。

 

「おぬしおぬしおぬし! 責任押し付けるにしても、一番よりにもよってな相手を選びおったなぁ!?」

 

「諸悪の根元は他でもないあなたですよねー、せ・つ・か・さ・ま? お陰で百合ヶ丘女学院工廠科のアーセナル一同、連日連夜徹夜なんですからねー? フ、フフ、フフフフフフ~」

 

「も、百由様が壊れた~……」

 

 というよりまだ元気なミリアムちゃんがレアなくらい、先日の合同ノインヴェルト戦術による参加者のCHARM壊滅が工廠科に残した爪痕は大きいのだ。

 

 ──そもそもの話、近場に現れたヒュージの群れへの対応のため多数の主力レギオンが参加している大規模な作戦が行われている中、なんで私たちが学院に待機していたかといえば、出撃帰りのレギオンは基本的に本人たちの休息やCHARMのメンテナンスなどで当然即座に再出撃などできない状況になる訳で、その間に何かしら緊急の案件が発生したけど、百合ヶ丘の誰も動けませんでした。

 ……なんて洒落にもならない事態を避けるためであり、彼女たちが帰って来たらその待機組も全員CHARM壊してますじゃあ、お話にならない。

 

 確かにあの後百由の“仕込み”で、最近の戦いで消耗し『主』の位置が特定されるまでに至った最寄りの由比ヶ浜ネストこそ消滅したけど、百合ヶ丘の守備地域には変わらずもうひとつヒュージネストがあるし、近くにネストがなくともケイブからどこからともなく現れるのがヒュージなので、結局一切の油断はできない。むしろ由比ヶ浜ネストの勢力圏だった空白地帯に、新たに巣を作ろうと別の群れが押し寄せる可能性だってあるのだから。

 

 一応ユニーク機持ちの一部は気を遣ってメーカー側に修理を頼んだみたいだけど、それでもほとんどのリリィは量産機使いであり、あの時出払っていた外征組の使わなかった分も合わせてある程度の予備機こそ残ってはいるにせよ、また何かあった後に今度こそ学院内の実働CHARM数/ZEROという事態にならないよう、ただひたすらに修理&修理&修理のここ数日というわけですはい。

 

 ちなみに私がここに幽閉されてるのは「この状況ですぐCHARM壊す人なんて出せるか!」ってことらしいってよ。

 

じゃあ汐里ちゃんはいいのかよ、CHARMを夢を作る某企業(財団B)のおもちゃかなんか扱いだぞ! 人に言わせりゃあ、あたしゃあ手当たり次第に選んでは捨てるスナック感覚らしいけどさ!」

 

「誰に向かって言っとるんじゃ……ほれ、梨璃たちからの差し入れのラムネでも飲んで落ち着け」

 

──ごきゅ、ごきゅ、ごきゅ、ぷはっ

 

「ふぃー、凄く落ち着いた。あ、そういや今更だけどミリアムちゃん、百由とのシュッツエンゲル結成、おめでとさん」

 

 お礼に不意討ちを返すと、ミリアムちゃんも頬を赤くしながらバッと振り向いてくるのだから、初々しいというか。

 

「なっ、なんじゃ藪から棒に? ……ああ、そういえばあの時、雪華様の姿見当たらんかったのう。折角のわしらの晴れ舞台というに、どこほっつき歩いとったんじゃ?」

 

「そろそろ時間だなー、って行こうとしたら三年のアーセナル連中に捕まって、そのままラムネとかエナドリをダース単位でキメながら、CHARMの修理手伝わされてた。んで二徹くらいで皆ぶっ倒れたからと抜け出したら、フラフラなのを百由に捕まってーいまここ」

 

「お、おう……まあ自業自得じゃろ」

 

 そんなに引かなくても……で、自業自得と言えば、リリィ新聞で百由とミリアムちゃんの擬似姉妹契約をついでのように扱い、夢結と梨璃ちゃんシュッツエンゲルの帰還を大々的に取り上げていた二水ちゃんも大概だと思う。

 

 いや、文面だけならそう問題なさそうだけど……何がアレかって? うん、その話になるとまた少し日付を戻す必要が──

 

◇◇◇

 

 由比ヶ丘の沖合いにあったはずな、天までそびえ立つ竜の巣か何かのようなモヤモヤ──ヒュージネストがそこに存在したことの証は、もうどこにも見えなくなっていた。

 それは、件のダインスレイフに百由お手製のプログラムを仕込んだのを使って、由比ヶ浜ネストをそこに巣くうアルトラ級ごと崩壊させるという作戦を、夢結と梨璃ちゃんが無事成功させたことに他ならない……んだけど、肝心の二人が、それから丸一日経ってもまだ見付かっていない。海水を空洞化させて作られていたヒュージネストが消えた影響で、周辺の海流が不安定になって二人の漂着先が分からない、っていうのが一番の原因とされているようだけど。

 

「で、このドタバタの中無理を言って飛び出すだけの理由があったんですの?」

 

「うん。なんとなくだけど、梨璃と夢結はこの近くにいる」

 

 そんな中二人の発見を待つだけの立場だったはずな私たちは、今は百合ヶ丘所有のガンシップ──夢結と梨璃ちゃんが行きに使ったのと同じ機体に乗って、空の旅と洒落込んでいる。

 こうなった理由というのも、検査途中に抜け出したのか朝早くに私の部屋まで入院着のまま乗り込んできた結梨ちゃんの訴える、物凄く感覚的な証言なんだけど……確かめるように聞き返す楓さん以外も、全体的に懐疑的ではある。

 

「んー、結梨ちゃんって匂いのあれ以外にそんな能力あったっけ?」

 

「迎撃戦での貞花様のように、命の危機に瀕して何かしらの力に目覚める──というのはリリィの間でも少なくない話ですが……うーん?」

 

 そんな訳で二水ちゃんの知識と照らし合わせてみても、これはまた何か違いそうだとなる訳で。こうなれば直接確認だと、雨嘉ちゃんが結梨ちゃんに隣から問い掛けている。

 

「結梨。そういう感覚がするようになったのって、いったい何時から?」

 

「んーーー……雪華と海に落ちてから?」

 

「いや、私は落ちたんじゃなくて、自分から潜ったんだからね?」

 

 訂正するところは訂正するとして、そこの前後となると──いかん、あのことは今はいい。そういう()()()()()()も無関係じゃないかもしれないけど、もっとそれらしい理由を考えろ。

 

「もしかして、ブレイザーを一緒に使ったから?」

 

「確か、マギクリスタルコアに二人の血が付いて、おかしな状態になったんじゃったか?」

 

 ミリアムちゃんもうちの隊のアーセナルとしてそこら辺の話は百由から聞いていたようで、頷くと改めての確認を兼ねて説明を。

 

「うん。コアに私たち二人の血がついたせいか、二人分のルーンが点滅する意味不明な状態になってね……」

 

 思えばそういうこともあったのだから、結梨ちゃんも私のコアを使えば、あの戦闘に乱入出来たりしたんだろうか?

 そうなると今度は私がコア盗られて戦えなくなるし、どっちにせよ今となっては確かめようがない話にはなるけど……予備もまとめてこの前のメカヒュージ騒ぎで整備送りだったしなぁ。

 

「そりゃあ、第4世代CHARMは使い手の適性に大きく依存する造りなのじゃから、逆に使ったリリィ側にも何かしらの作用を起こしはするんじゃろうが……」

 

「そもそも、そこら辺のバックファイアが冬佳のやられた原因だしねぇ」

 

 結局専門家でもないのだから、その辺りの概要以上には進めないか。あるいは、『私と多重契約した』からかもしれないけど……流石にそれは、多少と言わず自惚れが入ってるか。

 

「二人を感じる……もっと海に寄せて!」

 

 なんて考えてると、いつの間にか操縦席の方に行った結梨ちゃんが肩を揺すりながら結構な無茶振りをしてるけど、操縦席側の窓を見てみれば、進行方向の先に──

 

「雨嘉ちゃん、なんか見えたんだけど、ちょっとあそこ見てくれる?」

 

「え、はい──《天の秤目》」

 

 指差す先にレアスキルを向けて貰えば『約束の領域』で借りて私も見てみると、蒼い海のど真ん中に黒い点が。

 

「あれ、制服の……操縦士さん、もっと寄せて!」

 

「も、もう近くに着水した方が早いですよね!?」

 

 結梨ちゃんに物理的に絡まれてる上、反対側から私にまで急かされてはたまらないと悲鳴にも似た返事が飛んでくるけど、まあそれで後はアンカーで引き寄せればいいんだから問題はないか。

 

◇◇◇

 

 で、そのまま無事拾えたのはいいけど、二水ちゃんはなんで制服の救命機能使った後で、二着を合わせて球状に夢結と梨璃ちゃんを覆っていたそれの中から出てきた下着姿な写真を新聞に載せたし。そしてなんでそれを認可した、二人のルームメイトがいるはずの生徒会。

 ……え、もしかして見たかったの? 祀さんも閑さんも? いやそんな、まさかねぇ。それとも、ルームメイトとして散々見てるからこれくらいなら……って感覚が麻痺してる、とか? せめて後者であって欲しいとは、二人の知り合いとして信じたいけど。

 

 なおその新聞を見た夢結は、いつぞや〈結梨様〉としてリリィ新聞の一面を飾っていた時同様またしても即ルナトラったけど、何故か二水ちゃんはそれから無事逃げおおせたという話で。これは遂に彼女も私たち同様、『インビジブルワン』のスキルにでも目覚めたのかしら?

 

「いや、あの時は結梨に事情隠して引っ張ってもらってただけらしいんじゃが。それで夢結様も強引な手段に出れず、みすみす逃がすしかなかったと」

 

「んなオチかい」

 

 ──ついでに話題に出た結梨ちゃんだけど、致命的な後遺症も残らなかったと週に何度かに落ち着いた検査さえ欠かさなければ、もう普段通りの生活を送れる程には回復しているし、特別寮に入っていた『事情』も片付いた以上、寮の方も他の一年の皆と同じ新館に移ることを検討されているとかなんとか。

 まあ、この前のメカヒュージ絡みの騒動や、件のノインヴェルト祭りに混ざったことでそれが予定より少し遅れたのは、コラテラルダメージということにしておいて。

 

「で、契ったのはいいけどさ。それ、どっちから言い出したのよ?」

 

 脱線も程々に話を戻すと、正気に戻った百由が作業用のゴーグルを上げながら片手を挙げている。

 

「わたしからですよー。なんだかんだぐろっぴと一緒に作業すると色々捗りますし、なんか理事長代行みたいな喋り方聞いてると落ち着くし、周りからもあんま驚かれなかったしで、案外お似合いだったのかしら?」

 

 まあ、ミリアムちゃんの訪問頻度もその内容もとっくに通い妻レベルになってたんだし、周囲からなんて秒読み(はよちぎれ)組扱いではあったんだろうけど、喋り方て……代行ってもう大分いい歳のイケボなおじさまだが? 個人の感覚によっちゃお爺ちゃんレベルの。

 

「そ、そんなことより、結梨といえば梨璃に頼まれたあの話はどうするんじゃ? 同じレギオンなんじゃから、今更気兼ねしておるというわけでもあるまいに」

 

「あー、うん。いや、そうだけど、さぁ」

 

 照れ隠しなのか誤魔化すように割り込んでくるミリアムちゃんが引き合いに出すのは、この間の裸の付き合い……一応湯浴み着着用だったけど。

 ともかくいきなり梨璃ちゃんに言われた、あの話のことを持ち出されては、はたしてもう三年生な私で本当にいいんだろうかと、歯切れも悪くなる訳で。

 

 まあ、別に上とも下ともシュッツエンゲルの契りを結んだことのあるリリィなんて、それこそ身近に数人いるわけだけどもと、結局姉さんから卒業する時に返されたせいでサブのタグは元通りな認識票のチェーンを持って、目の前に垂らす。

 

「そういう時期、なのかね」

 

 責任を取れ。という話ならあの時海の中で“私の方が危ないから”って『唇』奪っちゃったこともあるし、下手に足掻いても仕方ない、か。

 

◆◆◆

 

 そうして翌日、私が年貢の納め時かと観念して署名と判をした誓約書の提出により、百合ヶ丘に新たなシュッツエンゲルが誕生することになる。

 

「ふふ。親戚の子の結婚式に参列する気分って、こんな感じなのかしら」

 

「神琳、まだそのネタ言ってる。それに結婚式じゃなくて、シュッツエンゲルの結成式、だよね……あれ、でも教会使っちゃってるし、似たようなもの、なのかな?」

 

 百由とミリアムちゃんのそれからそう間を置かずに出来た、一柳隊絡みのシュッツエンゲル。その結成を一目見ようと集まるのは、前の方で二人きりの世界を構築してイチャイチャする神琳さんと雨嘉ちゃんを初め、見たような見てないような顔の皆々様。

 

「まったく、ここぞとばかりに冷やかすんじゃないっての」

 

 大体こういう大きな戦闘の後、そのままの勢いで何組かまとめて契りだすのなんて、この手の制度があるガーデンじゃあよくあることだろうに……近頃の知り合いで言うなら、幸恵たちルド女にそのパターンが多いんだとか佳世から聞いた。まあ、言ってた本人は出撃前に妹の方から凸られての契りらしいけど。

 なんて呆れながらも、まさか三年になってからこんな形で持つとは思わなかった、学年ひとつ飛びの小さなシルトの方を向いて、再三の確認を。

 

「で、重ね重ねなんだけど……本当に、私でいいの?」

 

「んー、最初は梨璃にしようとしたら『同学年じゃダメなんだよ』って言われたから?」

 

 いやまあ、確かにそうでもなきゃ結梨ちゃんは梨璃ちゃんのシルトになるのが自然な流れだろうし、なんなら同学年でのその代わり扱いされている同室のお願いをするのも手なんだろうけど……そうなると多分上と下を挟まれることになった梨璃ちゃんが、あんまりに幸せ過ぎてふにゃふにゃっと機能停止しそう。そしてついでに、楓さんもごふっと血反吐を吐いて止まるだろう。

 

 なればお互い親離れ子離れ、あと誰かさんの精神衛生上のため別の相手をあてがう……というのは間違ってはいないのだろうが、それが私でよかったのかとは、梨璃ちゃんにあの日色々説明をすっ飛ばされ、結梨ちゃんと揃って頭を下げながら「うちの子を頼みます!」されてからずっと思っている。

 

「同じレギオンだってんなら、それこそ梅でよかったんじゃない? 面倒見もいいんだし」

 

「確かにそれはわたしも梨璃も思ったから、雪華の前に頼んではみた」

 

「おいこら。さしものあたしも『もう消去法で……』扱いはそろそろ本気で泣くぞ?」

 

 なんて肩を落とす私には構わず、結梨ちゃんはその時の様子を思い出しながら続けていた。

 

「けど梅は結梨より他の誰かの()()()()()な方が嬉しいのかなって、そんな感じだったから、やめたの。それに──ううん、これは内緒だった」

 

「内緒……?」

 

 『別に本命がいる』……と言われたにしては、全体的に言い方が変。となると、結梨ちゃんがいつもの嗅覚で何かを感じ取ったのだろうか? ならちょうど目が合ったし、ご本人確認。

 

「で、それって誰なのさ?」

 

「さて、ナ。けど梅は、しばらくシルトを取るつもりはないって言ったろ?」

 

 なにさその頭の後ろに手を回しながらの余裕な態度は? こちとら四番手くらいの扱いだってのに。なんて不満が顔に出てたのか、二水ちゃんが人の囲いを抜けるとズイッとカメラを持って寄ってくる。

 

「大丈夫ですよ雪華様! 死地を共にしたリリィ同士のシュッツエンゲル結成は、それだけでもう話題性バッチリですので!」

 

「少しでもそう思ってるんなら、いつの間に撮ってたか知らないけど人が『つづく』してる写真はしまってほしいかなぁ!?」

 

 すなわち結梨ちゃんが私のシールドでカルネアデスの舟板だね。している、あの時そんな風になってたと聞いてたやつだ。マジでいつの間に撮りやがったよ? しかもこんな完璧なアングルで、これで何もかも終わりだ──じゃないが。

 

「流石にこれは使いませんよー? リリィ新聞に載せるのは、今からバッチリ撮らせて頂きますから!」

 

 鼻息も荒く良い笑顔でサムズアップしてくるのはいいけど、その裏で散々やらかしているのはまあ、今さら止めろって言っても既にリリィオタク界隈では一種の有名人となった二水ちゃんには無理な話だろう。

 そもそも夜な夜なSNSで胡乱な情報を発信しては、夢結以外のリリィたちにもちょこちょこライン越えなネタ拡散したのを追われてるって噂だし、そろそろ背中からダインスレイフなり刺されるのでは……え、「流石に身の危険を感じたら、鷹の目で周辺警戒しながら逃げてますよー」? そっかぁ。

 

「それに、結梨ちゃんの証言では浮かんでくる前におふたりはもう「わーっ!」もがががが……」

 

 二水ちゃんが余計なことを言いそうな口を塞ぎながら、この調子じゃ気ぃ抜いたら周りに言い触らしそうだし、結梨ちゃんにも色々言い聞かせないとな──なんて思っても、梨璃ちゃん辺りにはもうほっぺとかおでこにちょこちょこやってるだろうし、今更なとこはある気がする。

 

「はぁ……まったく、こんなんでいいんだか」

 

「ほら、せっかくのおめでたい席? なんだから雪華もわらってわらってー」

 

 言ってる言葉の意味もちゃんと分かっているか怪しい、色々な意味で生まれたてのシルトに腕を引かれると、いつの間にか撮影ポジションに下がっていた二水ちゃんが、今か今かとカメラを覗き込みながらプルプルしている。

 

 その後ろでは一柳隊の皆だったり、見知った顔の野次馬だったりが祝福してんのか茶化してんのか半々の様子だけど概ね笑顔で、そんな中一応の主役が呆れ顔なのも締まらないなと諦めたような笑みが溢れた一瞬を、シャッター音が切り取った。

 

 

 

 ──私たちリリィは常日頃からその身を戦場に置くが故、明日をも定かではない運命。

 

 だからこそ、時折どうしようもなく自分の隣に誰かを欲してしまうのだろうし、その誰かとの未来を守るため戦う姿は、また別の誰かの希望になれるんだろう。

 

「えーっと、最後はこれ投げればいいんだっけ?」

 

「待って結梨ちゃん。それ結婚式の話だから今やるのは違「てえーい☆」

 

 誰に聞いたのか、そんなことを言い出すと、私が止める間もなく結梨ちゃんの持つ花束は宙を舞い、皆の視線を釘付けにする。

 

「え、ええええっ!? まさかのここでブーケトスですかーーー!?」

 

「この場合、取った人はどうなるのかしら」

 

「んー。好きなやつと契ることになるか、同学年なら同室になるんじゃないか?」

 

 驚きながらもカメラはしっかりと回している二水ちゃんを他所に、二年二人は謎の余裕を見せて静観の姿勢。梅、ちょっと距離近くない?

 

「でしたら、わたくしたちには不要ね。雨嘉さん?」

 

「うん、そうだね。神琳……」

 

「……勝手に人を挟んで良い雰囲気にならないで。動けん」

 

 いい雰囲気過ぎて、言われるまでもなくな神琳さんと雨嘉ちゃんに挟まれた鶴紗ちゃんがブーケを取りたい理由は、果たして誰なのやら? なんて眺めていると、雄叫びを上げた楓さんが跳び上がっている。

 

「そこを動くんじゃありませんわよ、ちびっこ2号! うおりゃああああああ! ですわー!!」

 

「ぬわーっ! わしを踏み台にするでない楓ぇぇぇっ!」

 

「あ、あはは……なんか、うちの結梨ちゃんが騒がしくしちゃって、すみません」

 

 ホントに一柳隊は凸凹だらけの個性派揃いだ。よくこんなメンバーばっかり集まったなと、笑うしかないほどに……だからこそ、楽しいと思えるんだけどね。

 

 例えいつかは散り行く花だとしても、こうして人から人へと手渡される花束(ブーケ)のように、受け継ぎ残されていく物は確かにある。

 なら今だけでも、その中の一輪と咲き誇るのも悪くはない、か。そうでしょ……?

 

 

 

 だからこれは、儚くも美しく戦う、少女たちの物語──




第一部~Dreamers BOUQUET~ END

これにて本編完結、第二部はサイドエピソード的にイベントストーリーを拾うのが主軸になるかなぁと?既に前借りしてるのも多いですけど。

ちなみにブーケを取ったのは、通りすがりな二年の山梨さんだとかなんとか。
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