賑やかな方が好きなので、レギオンごと来てもらいましたって話。
で、この回ですがラスバレ始めたばかりの頃に何時の間にか追加された深夜ボイス漁ってたら、不意に爆殺されてなんか変な方に飛んで行きました。
ちなみに自分も梅様と誕生日同じだったりします。だからと気になって、色々設定調べてたもんだからここまで刺さったとも?
その後は特に何があるでもなく、東京組を見送り学園に戻っていつも通り学年別の入浴時間を過ぎてからな、遅いお風呂を終えた夜中。
「ふぁ……」
一度部屋に戻ってもなんか暇だしで、適当に誰かいないかと欠伸混じりに寮の談話室まで降りてみたところ、先にいたのはソファに丸まっているのが一名。どことなく大陸の方の雰囲気な、日本じゃあまり見ない感じの服を着ているのは──
「……梅?」
「……子供はもう寝る時間だゾ……お姉ちゃんが子守唄を歌ってやるから……ベッドに……」
誰かに、それも年下を相手にするような様子の寝言が途中で途切れたと思えば、そのままハッと顔を上げた梅は「寝惚けてたみたいだな」と、どこか寂しそうに呟くと入り口に立ち尽くす私にも気付かず二度寝するのだから、本人としては寝言の理由なのだろう夢を含め、いつものことだったのだろう。
「……っ」
私としては単なる気紛れに談話室へ顔を出しただけで、こんなものを聞くつもりなんて微塵もなかった。
けどあんな姿を見せられて見て見ぬフリが出来るほど冷たい人間のつもりはなかったし、普段散々小さいとからかっていた梅の姿が、寝ながら身体を丸めているせいもあってより一層小さく見えて、ひとつ違いとはいえやっぱり年下なんだと考えてしまうと、自然に体は動いてしまう。
「ん……」
「大丈夫、どこにも行かないから」
「そっか……なら、安心だな……」
はたして起きても覚えているかも怪しいこんなことに意味があるのかは分からないが、また同じような夢でも見てるのかここにいない『誰か』へ向け虚空に伸ばされた梅の手を取って、安心させるよう優しい声音でそんなことを言っていた。
梅の過去というか背景というかは、軽い噂だけなら聞いたことはあった。そりゃあいくら世界有数のガーデンである百合ヶ丘とはいえ、わざわざ国外から来た生徒なんて誰しも、何かしらの事情はあるもんだろう。
もっとも家族絡みだとかなんとかの憶測混じりで、事実は分からず終いだったけど……寝言とはいえ普段使わないような『お姉ちゃん』という一人称を、どこか寂しそうに言っていたということは──
──けど梅は結梨より他の誰かの
次いで思い出すのはシュッツエンゲルになる時に、結梨ちゃんの零したそんな言葉……つまり、梅には実際に血の繋がった
あぁ、だからこいつはいつも放っておいたら何処かへ行きそうな子の側にいたのか。あるいは『その子』の後を追いかねない自分を、誰かに繋ぎ止めていて欲しかったから?
一人で考えたところで答えは分からないし、確かめる度胸も私にはない。だから結局、梅の頭を撫でて常日頃から『皆のことが大好きだ』と言う彼女の眠りが、少しでも安らかであることを祈るしか……
なんて柄にもなく歳上ぶろうとしたからだろうか、わざわざ向こうの寮から知り合いへ会いに来たのだろう、お風呂上がりのラフな格好の鶴紗ちゃんに、談話室の入り口から目撃されてしまったのは。
「あ、雪華様……と、梅様?」
「しーっ。子供はもう寝る時間だってさ」
「いや、高校生にもなってそんなこと……」
わざとらしく人差し指を口の前に持って行く、なんてジェスチャーも、続く鶴紗ちゃんの言葉の前に最低限の雰囲気すら作れない。
「……泣いてるん、です?」
そうなのか。と指摘されて、初めて自分の頬を流れるそれを自覚する。
これは普段太陽のような明るさで、自分の涙さえも蒸発させて他人には見せない意地っ張りな誰かさんの、その裏側に触れた代償だろうか……なんて考えながら、目を袖で擦る。
「あくびしたのよあくび。とりあえず私はこいつ送ってくから、鶴紗ちゃんも夜更かしはほどほどにね。じゃあごきげんよう」
「あ、はい……ごきげんよう」
どこか釈然としてない鶴紗ちゃんを置いて、眠り姫を抱え梅の部屋を目指す。
せめて私が彼女を届けて帰るまで起きてくれるなよとは、単なるワガママだろうか。
「……嘘が下手なのよ、うちの先輩たちは」
だからまあ、後ろから聞こえた呆れ声にも、今は反応しないのを答えとしよう。
◆◆◆
「……朝か」
あれから梅を部屋に運んだあと、私自身もまた自室に戻ると部屋着のままベッドへ飛び込み、夢の世界に旅立っていたようだ。
しかし、起きてみても気力というかなんというか、そういうものがなんにもない。
幸い今日は日曜日だし、出撃当番も別のレギオンなのだからこのまま当分寝ていようか。なんて考えに行き着き、隊の皆に今日は出れそうにないと伝えるべく枕元に置いておいたはずのケータイを探していると、代わりに誰かの気配を感じる。
「探し物はこいつか?」
「……流石に風紀委員ですの案件じゃないかなぁ、梅?」
「鍵も閉めずに寝てるのが悪いんだゾー」
人のケータイを指で摘まんでプラプラと揺らしながら「返して欲しければいつもの集会所な」と意図の分からない台詞を吐いて立ち去るその姿は、昨晩の寝惚けていた時の弱々しいものと違って、普段の彼女そのものな掴み所のないマイペースな猫のようなそれだった。
「いや何の集会所なのか」
そもそも梅がそういう真面目な集まりへ普段から出てる訳もないのだから、例えにも使った猫の方かと寝起きの頭でもなんとか納得し、観念して制服に袖を通すことにする。
◆◆◆
「梅様? 今日は来てないですけど」
んで適当にそこら辺の猫ちゃんを餌付けしてから後を追ってたどり着いた先、そこで今回は上手く行ったのか猫に囲まれて御満悦でいた鶴紗ちゃんを捕まえても、見ての通りな空振り。
そもそもいつものがどこのことなのかも、私にはさっぱり分からんのだから仕方ない。
「ええいあんにゃろ、どこ行きやがった……」
「……とりあえず、わたしが教わった場所くらいなら教えられます」
適当にそこら辺の小石を蹴りながらぼやいていると、メモ紙に大まかな位置を書いて渡してくれる鶴紗ちゃん。普通に地が出てることに触れないでいてくれたのは、彼女なりの気遣いなんだろう。
「ん、ありがと。後で猫缶奢るね」
「いや、別にわたしが食べる訳じゃないですから。それに、そろそろ柚子が頼んでくれてたのが届く頃ですし」
でも、イメージ的になんかこう自分で味見してから……なんて言ったらそこらの猫投げ付けられるか直々に引っ掻かれるかだし、やめとくか。
「はぁ……はい、わたしです」
だから私が離れた途端、これ見よがしに溜め息を吐いたあと鶴紗ちゃんが誰かへ電話しているのも盗み聞きはよくないよねと、足早に書かれた目的地へと急ぐ。
◆◆◆
「にゃにゃにゃ、にゃにゃにゃぁにゃ……あっ」
「あら、ごきげんよう雪華様」
「うん、ごきげんよう二人とも。何、どういうの?」
さっきのところから一番近い猫の集会所へ行くと、今度は雨嘉ちゃんと神琳さんが猫に囲まれていた。
いや、確かに雨嘉ちゃんって普段からケータイにお手製な猫のストラップ付けてるくらいだし、普通に猫好きそうだけど。てか、実家で飼ってるとか前に言ってたっけ?
「あ、えと、その……」
「──見なかったことにした方が、いい流れ?」
「はい、そのように」
今更な確認ではあるが、司令塔の指示には素直に従うとしよう。
「ん、りょーかい。ねぇ、ところで梅ここに来なかった?」
「え、梅様……? その、わたしたちは鶴紗にここを教わっただけで……」
「ここもだめ、か」
経緯については、まあ鶴紗ちゃんって神琳さんはともかく、雨嘉ちゃんにはそれなりに懐いてるからなぁ。いや、誰が相手でも猫っ可愛がりさえしなきゃ、あそこまで反抗もしないだろうけど。
だけど神琳さんってば身内判定出したあとの距離感バグってる組筆頭だから、相変わらずお風呂の時間に絡み過ぎては反撃されてるとかなんとか。梨璃ちゃんの身体を色んな意味で狙ってるらしい楓さんといい、戦場かよ一年の入浴時は。
──ちなみに最近の楓さんは梨璃ちゃんをドコと言わず余さず洗ったあとは、結梨ちゃんと仲良く浴槽を泳いでるそうな。外堀埋め? 「既成事実既成事実……」と脳破壊されながら呻いていたのは、いったいいつのことだったか。
「ところで雪華様、前々からひとつ気になっていたことがあるのですが」
「なにかな神琳さ「それです!!」うわあっ!?」
思った側からズイッと顔寄せて来ないでくれるかな? 雨嘉ちゃんもびっくりして、背景に宇宙でも出てるような顔になって撫でてた猫落としてるじゃん。
「何故雪華様は、わたくしや楓さんにだけそのようなよそよそしい呼び方なのです? レギオン内でも二年生のおふたりは勿論、雨嘉さんや他の一年生の方々には違いますのに」
「いや、あたしがそう呼ぶの基本尊敬の意味だからね? そりゃあ生徒会組とか三姫様とかにもそうだけど、別に距離感とかじゃ「いいえ、距離感を感じているのはわたくしの方なのです!」
お、おう……え、なんかあたし神琳さんの地雷踏んだ? 圧がすっっっごいんですけど。
「わたくしが有名人だから──とおっしゃるのならばその対象は夢結様や梅様、雨嘉さんだって十分含まれるはずです!」
「いや、二年二人は美鈴の縁もあって初代アールヴヘイムで有名になる前から知ってたし、それに雨嘉ちゃんは……上に
いかん、勢いに飲まれて言い訳も苦しくなってる。大体きょうだいのことを言うなら、妹さんもいる以上雨嘉ちゃんとて立派なお姉さんのはずだろうに。
にしても、普段周りのガヤガヤをあらあらうふふ~と楽しんでるだけかと思いきや、伊達に個性派揃いの一柳隊の一員ではないということなのか……そもそも競技会の前、嬉々として雨嘉ちゃんのこと襲ってたわ。イノチー的な意味でなく、コスプレさせるためだけど。
あるいは生え抜きかつ知名度も高いくせに、5月までレギオンに入らずフリーでいたのも、彼女のこういう不意に押しの強いところが──
「雪華様?」
変なこと考えてたのを顔色から読まれたのかズイッと更に詰め寄られ、後ずさろうにも近くの木まで追い詰められて、流石にこれは一人じゃどうにもならんぞと雨嘉ちゃんの方へ目線で救援要請を送るが、顔の前で重ねられる掌が答えだった。増援は認められないらしい。
「ごめんなさい。今日は鶴紗に教わってないところへ逃げられたから、さっきから神琳ちょっと機嫌悪くて……」
「ちょっとで済むかなぁこれ!?」
「そういうわけで、わたくしは今ご機嫌斜めなのです。お覚悟を」
なんの覚悟が必要なのか。いやまあ本人が嫌だって呼び方を続けるのもあれだし……しゃーない。
「えっと、雨嘉ちゃんとお揃いがいいの? それとも梅みたくあだ名とか付けて「勿論、雨嘉さんとお揃いで」
話してる途中なのに『お揃い』の部分に反応したのか、きっぱりと言い切られる。了解ですわよ。
「ん、わかったよ。これでいい、神琳ちゃん?」
「ありがとうございます。ふふ、お騒がせしました」
呼び方ひとつで先程までの威圧感は収まり、こんなあっさり機嫌がよくなるし人の心ってのは良くわからん。いっそ訓練用のドローンなり砕いてる方が、気が楽か……八つ当たりで備品を壊すなって? うん。
「で、もう用事ないんなら行くよ?」
「はい、ご武運を」
そんな祈られるような状況なんだろうか……いや、他人の領域に踏み込もうとするのは、普通それだけの覚悟を求められるのかもしれないが。
◆◆◆
「にゃにゃにゃにゃにゃにゃ~、梨璃だにゃ~♪」
「猫缶食べるかにゃ~? いしししししし~……あ、雪華」
「え?」
さて、お次は猫を挟んでごろごろにゃーにゃーしてた梨璃ちゃんと結梨ちゃんの二柳コンビで……これ、鶴紗ちゃんに教わった場所でってのもあって私と梅のどっちがターゲットなのかは知らないけど、やっぱり先回りされてない?
「よっ!」
なんてのはともかく気軽に挨拶してみても、ギギギとぎこちなく振り向く梨璃ちゃんは顔を真っ赤にしていた。
「い、いいいいい……いつから見てたんですかーーーっ!?」
「んー、『梨璃だにゃ~♪』辺り?」
「うん、ちょうどそれくらいに『どうしろってんだこれ』って匂いがした」
そこをいつもの感覚で見抜いてたから、結梨ちゃんは声を掛ける前から私と分かってた訳か。
「で、毎度の話になるけど梅ここに来なかった?」
「来たよー。けどなんか『邪魔するのも悪いな』ってどっか行った」
「多分、あっちはこの間暴走したメカヒュージに襲われた辺りだと思うんですけど」
ふむ、梨璃ちゃんの指す方向かつ旧市街の付近にあるのは……二ヶ所ね、大分絞り込めただろうか。
「……あの、雪華様!」
「ん、何か相談なら聞くけど」
「梅様と、何かあったんですか?」
何か……まあ何かはあったと言えるのだろうか。鶴紗ちゃんが皆にどれくらい話してるかは知らないけど、私があいつを探しているという情報だけでも、理由がなければわざわざそんなことはしないと思われるくらいには。
「まあ、色々とね」
「あ、もしかして最初に会った時みたいに、プライベートなお話でした?」
そのまま去ろうとするが、梨璃ちゃんの言葉につい足を止めてしまうと、先程の梨璃ちゃんのようにゆっくり振り向くしかない。
「……そんな分かりやすい、あたしって?」
「図星って匂い」
「結梨ちゃんステイ。ややこしくはならんけど、それ死体蹴り」
なんてシルトからの容赦ない追撃に項垂れていると、ピンと手を挙げた結梨ちゃんの影に顔を上げる。
「じゃあ雪華、わたしからもひとついい?」
「はいはい、どうぞ」
「結局雪華って、あの時なんであんなに怒ってたの?」
あの時──まあ、結梨ちゃんがヒュージに特攻まがいの突撃を仕掛けた時か。確かにあの後も結局お説教どころか、若干自虐的な自分語りに逸れてたところを百由に連行されてそんなに言えてなかったけど……そもそも、私なんかにそこまで言える資格があったのだろうか。
「んー? これって……二水や雨嘉がよく『わたしなんかー』ってなってる時の匂い?」
「え? ま、まさかそんな雪華様に限って」
「どういう意味かは聞かないし、そういうイメージな自覚もあるけど……この場は、結梨ちゃんが正解とだけ」
先に暴かれても元々特に隠すつもりもないし、なんならこうして聞かれた以上は話すつもりだからさ。その権利は、梨璃ちゃんにもレギオンの隊長として等しくあるはずだし。
「といっても、二年以上の子だと大体皆知ってるような話なんだけど──」
語った内容自体は、梅に以前話したのと変わらない『ある噂』の真相について。強いて言うなら、その墓標代わりのダインスレイフを直後の戦闘で壊した──という部分が増えた程度の違い。
「前に二水ちゃんが言ってたのって、その時の……?」
「あのルンペルなんとか君、そんな前からいたんだ」
まあ、そのオリジナルであるヒュージにまで遡ると新学期前には捕獲されてたし、逃げ出したのを梨璃ちゃんが夢結や楓さんと討伐しに行ったり色々とあったんだけど、そこはどうでもいいか。
「ともかく、一番の始まりとしてはそれかな。救われた身で言うのもあれだけど、やっぱり目の前で……ってのは精神的にクるからさ」
「だから夢結も、『生きて帰って皆の心を守りなさい』って?」
「そういうことでしょ? あの子も大概こっち側だし」
美鈴の件以外にも、あの子たちの世代は一年の頃にクラス単位でかなり酷い被害が出ていたはずだ。だから、どうしたって残された側として心の傷は残ってしまう。それとどう向き合うかは、個人の問題。
「それが分かったんなら、私からはもう言うことはないよ」
「……うん。いのち、だいじに」
結梨ちゃんは頷きながら確かめるように呟いてくれるんなら、すぐに繰り返しはしないと信じていいんだろう。
とりあえずはこれで用事も済んだろうと、ヒラヒラと手を振りながら次の場所へ。
◆◆◆
「その子、こないだの?」
「……懐かれて、しまったみたいで」
廃墟エリアの一角、入ってすぐの集会所へたどり着いてみれば、そこでは夢結が膝の上を金色の毛をした──多分梨璃ちゃんとシュッツエンゲル揃って縁のある、いつぞやぶりの猫に占領されていた。
「ふむ、一応猫缶くらいはあるけど、あげてみる?」
「そうですね、頂きます」
ほい。と私が放ったのを夢結が受け取り、開けたのを膝の上の猫へ与えているのを眺めて、とりあえずもう聞き出した方が早いだろと。
「なぁ~お」
「で、これは鶴紗ちゃんにチクられたってことでいいのかな?」
相変わらず図太いというか、遠慮もなく食べるだけ食べて満足そうに鳴く猫をこやつめと少し雑に撫でながら、夢結に確認してみれば答えは大体表情で分かる。
「……ええ。梅と、何かあったのですか?」
「まあ、それはあいつを捕まえてから言うよ」
シュッツエンゲル揃って、普段と違ってこういうのに限って鋭いんだから。とはいえ、夢結にこそ梅はああいう『弱い』部分は絶対に見せてないだろうし、大分暈した説明にしかならない未来しか見えないけど。流石のあたしも、そこまで鬼じゃあない。
「で、ここもハズレってなると、私が聞いたのは後一ヶ所になるんだけど」
「では、行きましょうか」
あ、その子抱えたまま行くんだ? まあ、猫に妙に好かれる梅を探すんなら、一人くらい案内役がいた方がいいんだろうけど。
◆◆◆
「……やっぱり、ここだったんですね」
「お? まさかこんなに早く見付かるとは思ってなかったゾ」
廃墟の隅、海の側にある建物の二階、半ばまで床の崩れたそこで寝転んでいた梅の元へたどり着いたのは、鶴紗一人。
ここまで来る途中辺りが騒がしいような気がしていたから、あのセンパイから色々飛び火したのだろうとは梅も察していたが、肝心の彼女自身がいない上に、鶴紗が梅を見付けても誰かへ連絡する素振りも見せないのはなんなのか。
「結局、何があったんですか?」
「んー? 昨夜梅が寝惚けてたのを、雪華サマに部屋まで運んでもらったってだけだゾ」
何事もなかったかのように梅が告げる内容は、鶴紗の視点でもその認識で嘘はない──けれど、梅を運ぶ雪華の様子はそれ『だけ』ではなかったのだから、どう切り出そうか悩んで、この前雪華にも聞いたようなことが口をついて出る。
「わたしたちが、頼りないからですか?」
「違う違う、これは梅が百合ヶ丘に来るよりずーっと前のことだからナ。そんなこといきなり話されても困るだろ?」
時期のことだけでその中身には一切触れていないが、それ故梅はあまり他人に触れられたくないような部分を夢に見ていたのだと、昨夜の状況から察すれば、鶴紗とて納得の方が強くなってしまう。確かに自分の過去も、誰かに話して面白いようなものではないが……
「……じゃあ、側にいるだけなら、いいですか? 一人ぼっちに、ならないように」
「まあ、いいけど。急にどうしたんだ?」
「別に、何がってことも……ただ、隣にいさせてください。わたしも、そうしてくれるだけで気が楽になるんだって、皆に教えてもらったから……」
などと言いながらスッと鶴紗は隣に寄ってくるが、これは梨璃たちが……そして梅自身も彼女に対してそうして来たから、今度は自分が! と鶴紗なりに張り切ってみたということなのだろうか。
そう理解すると、確かにこれは自分の撒いた種ではあるし、本当にこの後輩は可愛らしいなと、梅の手は自然と鶴紗の頭へ──
「んー……ちょっと屈んでくれないか?」
「はぁ……」
──伸ばそうとしたものの、近寄ってくれていても梅が寝転んでいるせいもあって微妙に届かないのだから、なんとも締まらないことになってしまうが。
「し、仕方ないだろ! 鶴紗のが背高いんだし……」
「それ、今あんまり関係ないですよね?」
実際二人の間には一応の身長差があるにはあるが、数値的にはわずか2センチと誤差の範疇だし、梅が寝ている以上どっちの背が高いとかは鶴紗が言うように意味のない話だろう。
「で、雪華サマに黙ってるのはこないだの仕返しか?」
「……そんなんじゃないです」
口ではどう言おうと鶴紗は目を逸らしているのだから、梅から見て『雪華のよくやる』主目的ではないという程度の隠し方に見えておかしさでまた少し頬が緩むが、どうにも最近雪華の行動に振り回されっぱなしの鶴紗としては
「そういや、ルームメイトの子も雪華サマにはお世話になったんだろ? だったらそこから攻めたらどうだ」
「なんで柚子が、あの子こそ関係……いや、そうですね、たまには誰かを頼ってみます」
ゲヘナ時代からの妙に長い付き合いになってしまっている箱入りなルームメイトも、少し元気を取り戻した今でも鶴紗相手以外には自分から何をするということもあまりないのだから、折角出来た縁は広げてあげた方がいいとは思っていたし、それで頼るという形になれば少しは雪華へのモヤも晴れるかと、鶴紗もここは素直に従うことにする。
「鶴紗がこんな素直なんて、なんかいいことでもあったか?」
「……その、今日は猫に囲まれるくらいには、上手く行ったんで」
それに驚く梅からの指摘への返事すら素直過ぎるが、確かにそれなら上機嫌にもなるかと、鶴紗が微妙な距離感のせいで警戒心MAXからの猫パンチでペシペシ撃退されがちなのを何度か見ていた梅としては、納得しかなかったからまた笑顔を溢す。
◆◆◆
「ふみゃ~」
鶴紗が自身の知る候補の
「……いませんね」
「あれ、見落としとかないよね……いや、あいつのことだし、途中でどっか行ったか?」
「確かに、梅なら気分で移動したなんて……あら、梨璃から?」
辺りをキョロキョロと見渡していると夢結の携帯が着信音を鳴らすなら、残りの面々にも情報は共有されているのだから何か進展があったのだろうかと、雪華も待ってみる。
「もしもし……えっ? ええ、構わないけれど。雪華様、代わるようにと」
「なに、そっちで見付けたって感じ?」
それならそれで別に構わないと、渡される携帯を雪華が「もしもし」と受け取れば、電話先の梨璃からは『こっちも代わりますねー』と変な返事が。
「……?」
『残念だけどタイムアップだ。わたしの勝ち、ってことでいいよナ?』
そして代わりに出てくるのは今回の元凶、と言ってしまうには雪華としても寝言を聞いてしまった後ろめたさから微妙な躊躇いがあるが……しかしそれでも勝手に人の物を盗っておいてこの物言いでは、文句のひとつも出てくる。
「あのねぇ、勝手に聞いたのは悪いと思ってるけど、ここまでされる謂れはないでしょーが」
『うん、だから勝敗とか関係なく返すってば。それに、もうこんな時間だけど皆のこと手伝わなくていいのか?』
手伝い、と聞いて雪華が思い出すのは、
「本日の主役だから、こんな好き勝手やったって? もうプレゼントこの子にやるぞ」
「んなぁ?」
我関せずな猫を夢結から引ったくりながら、梅にも鳴き声が聞こえるようケータイに近付けてみせるが、猫にも梅にも効き目はないようだ……
◆◆◆
「で、主賓はいっちょまえに着飾ってると」
「いいや? 梅だけじゃないゾ、ほれ」
しばらくして、ラウンジを貸し切っていざ梅の誕生日会だなんてことになるけど、本日の主役は始まったと思えばいきなりグラス片手にこっちに来てポケットから取り出した私のケータイを投げ返してから、反対側を指差していた。
「んー、
「呼んではいないかなぁ」
百合ヶ丘には一定の戦果を上げたレギオンへ〈聖白百合勲章〉という物が授与され、外征レギオンへ正式に登録される。という制度があるけど、その際にレギオン制服の製作権利ともうひとつ、特別仕様の制服が渡されたりもする。
標準制服をベースにしてはいても胸元のリボンが違ったり、お腹周りのボタンが金色で派手だったりと、まあ如何にもってスペシャルなそれを今着ているのは、目の前の梅と指差す先でケーキをモグモグ頬張っている結梨ちゃんと、多分あの子に何かしら聞かれてそのままの流れで一緒に着たのだろう、照れくさそうにその隣で頬を掻いている二水ちゃんの三人。お祝いの席だからキッチリした方がいいとか、そんな感じ?
「ま、いっそ届いたばっかな隊服でもいいかなーとは思ったんだけど、結局夢結と雪華サマ帰ってきたのギリギリで、着替えてる暇なんてなかっただろ?」
「誰のせいよ、誰の」
そもそも、聖白百合勲章の最低条件はギガント級ヒュージの撃破以上の功績で、その点でいえば都合三体撃破している一柳隊はとっくに満たしてはいたけども、最初はアールヴヘイムとの協同だったし、二体目三体目は前後の状況が滅茶苦茶だったこと─そもそも三体目は参加者が多すぎて、これは誰の功績になるのか? という問題が─もあり、結局正式な授与は隊長副隊長二人の帰還後、ガーデン全体が落ち着けてからと大分開いていた。
だから、デザイン自体はとっくに上がっていたというのが、受勲からレギオン制服──俗に言う隊服が届くまでがやけに早いカラクリ。仕上がりの方も、さっき軽く見せて貰った感じオーダー通りではあったかな? ともかく、今回は控室でなくラウンジを借りられたのも、レギオンとして上げた成果によってそれをやれる立場が出来たからということ。
「アハハ。んじゃ梅は寂しそうにしてる夢結のとこにでも行ってくるゾ」
「ったく……」
去り行く梅の背中を見詰めて、元より夢結がフリーになるまでの時間潰しだろうに──とは、流石に誕生日だから言わないでおいてやるか。なんてため息を吐いていると、持つグラスにカチンと何かが当たった音がする。
「……お疲れ、様でした」
「で、どこまで仕込みだったのよ?」
それを仕掛けて来たのは鶴紗ちゃんで、少し歯切れの悪そうな感じからある程度今日の状況がコントロールされてたのは察せたから、前置きもなしに聞いておく。
「わたしと『先輩』だけが知ってるのをひとつ残して、他は皆に」
つまり、梅を探すのは私を含む他の面子が空振りになるか、鶴紗ちゃんが空振りかの二択状態に絞り込まれてて、負けたのが私たちと……まあ別にいいけどさ、特に何か実害があったでもなし。
「ま、何か話したかったことでもあったんでしょ? 梅のやつ、多分そっち方向じゃ私のこと頼っちゃくれないからさ」
「え……?」
「別に嫌いだって訳じゃない。ただ私じゃ妙に付き合い長くなっちゃったから、お互いプライベートな部分にはあんまり振れない程度の遠慮が出来ちゃってね……結局今日も、意気込みだけしても実行は出来ずよ」
リリィなんて生き方をしている以上、誰だって辛いことや悲しいことを抱えて生きているのだから、無闇に掘り返すよりは本人が向き合い乗り越える覚悟をした時に、側で力になってあげられればいい……この前の墓標代わりのダインスレイフの件は、状況が状況だしその場で無理矢理覚悟を決めたけど。
「……分かりました」
「うん、聞き分けのいい子は好きだよ、私は?」
なんて言いながら鶴紗ちゃんの頭を撫でていたら、「あーっ」と咎めるような言い方で指を指されている現実に引き戻される。
「雪華、浮気してる」
「いや、そんな言葉誰に教わったのよ?」
この程度でアウトとか、結構厳しいなうちのシルト? いや本人のやけに近い距離感の具合からそうなるのかもしれないけど。主犯は誰だ……などと探すまでもなく、結梨ちゃんの隣でそっぽを向きながらジュースを飲んでいる二水ちゃんか、これも。
(……ん?)
そうしていると、梅が相手しに行ったはずの夢結が辺りをキョロキョロと見回しているのが見えて、代わりに主役なはずの緑髪はどこにも見当たらない。となれば──
◆◆◆
あのまま鶴紗ちゃんに結梨ちゃんの相手は任せて、私もラウンジを抜け出して二階から外に出てみれば、テラスには先客が一人。
「誰も見てない時に抜け出したつもりなんだけど、よく分かったナ?」
「お約束でしょ? こういう時主役が抜け出して、一人夜空を眺めてるのなんて」
小説とかゲームとかの物語ではよくあることではあるけど、そうなるのは……大体心の内に何かしらの問題を抱えてのこと。とはいえ、日中で捕まえられなかった以上今更に梅のそれを掘り返すような気分でもないから、最初にレギオン内外問わずまとめられていたプレゼントとは別に用意していた包みを、梅に手渡す。
その包みを開けて、取り出した中身をなんだなんだと眺める梅から返ってくるのは「ほえー」という呟き。
「これ、ブレスレットか? 雪華サマにしちゃ随分と洒落たもんを」
「誕生石のパワーストーンブレスレット、だってさ。こういうのはあんまり詳しくはないけど、何種類も使ってるんならどれかしら効果はありそうだし?」
一応使われてる石の内ひとつの意味くらいは調べてみたけど「優しさのような強さ」とか「トラウマを取り除く」とか、なんとなく梅に合うような気がしたから……後者に関しては、買った時は去年のことのつもりでいたんだけども。
あとは、全体的な解説の方に今日生まれの傾向として「周りのことを大事にし過ぎる」的なことが書いてたのも、嫌に当てはまるなって気がして。
──なんてことを思い出したから、ということもないけど、伸ばした手の指の隙間から日付が悪く大分欠けてはいても、確かにそこにあると主張する月の明かりを眺めて、折角だしと思ったことを言葉にしてみる。
「大切が多いってのも、それはそれで大変よね」
「なんだ藪から棒に? それに、一番を決めれてない雪華サマがそんなこと言ってもなぁ」
確かに私はシュッツエンゲルすら毎回向こうに言われたからで、今のに至っては妥協に妥協が入ってのそれだ、梅の言いたいことは分かるけども。
「あたしみたいにそういうことから距離を置いてるやつだからこそ、見えてくるところもあるんでしょーが」
「わたしは、皆のことが大好きだっていうのも悪くないと思うけどナ」
「そりゃあ別に好きな相手は一人だけにしろ、とまでは言わんよ。でも、それが重石になるようなら本末転倒でしょっていうかさ」
百合ヶ丘がノルンだなんだと色々な『繋がり』を作っておけと推奨しているのだって、生き残るための理由を増やせってことだろうとしても、どんなものにせよ個人に背負える限界を越えてしまうようなら、それは単なる鎖になってしまう……だから、可能な限りは仲間と分かち合えってことなんだろうけども、言いたくないことはどうしたって、ね。
なんて口にしてもどうにもならないことへの答えに、梅は手すりに肘を付きながら、重ねた両手の上に顎を乗せて私と同じように月を見上げていた。
「……でも、気に掛けてくれてる相手がいるってだけで、その誰かにとってはありがたいもんらしいゾ」
「それって鶴紗ちゃんのこと? それとも夢結?」
「……そんな風に、思ってくれてるといいナ」
反応的に話していたのが前者で、梅的にそうだと嬉しいのが後者かね?
でも、今の夢結なら不器用ながらに感謝を伝えてくれそうではあるけど……いつも自然と隣にいるもんだから、タイミングを失っていそうでもある。やっぱり難しいね、人間関係ってのも。
「そんなに不安なら、直接確かめてみればいいのに」
「なんか厚かましいだろ、そういうのを自分から聞くのって?」
顔は笑っていても何処か寂しそうに返して来るなら、こいつも存外不器用側なのだろうか? 私に、そんなことが言えるのかという問題は置いておいて。
「おーい、おふたりともー?」
「そろそろ片付けるわよ」
まとまった、とも言えないが一応本音の一端くらいは引き出せたか、というところで開けっぱなしのドアの向こうから聞こえるのは、抜けた私たちを呼ぶ梨璃ちゃんと夢結の声。
「おっと、呼び出しか」
「そりゃあ本日の主役がいつの間にか抜け出したんだ、あたしだけ気付くってこともないでしょ」
色々抱えてようと、少なくとも一柳隊にいる間は梅も、そして私も去年よりは大分楽しくしているんだ。だからまあ、踏み込めなかったなりに近くで見守るくらいはやっておこうと、何事もなかったかのように中へ戻る梅の背中に続く。
──それはこれ以上腹を割った話になる前に、こうしてお開きとなったのにどこか安心していることへの、言い訳のような感じは否めないけど。