※BOUQUET作中(2052年?)は令和換算で34年です、これで話は終わりだ…
あと、そろそろ本格的に介入・改編度合いが増して来るので人を選ぶよなぁと。設定段階でグレーゾーン突っ走ってる子ですが、よければ見守ってやってくださいませ…
ちなみにこの世界の二水ちゃん、大分二川Twitter成分多めでは()
放課後の射撃訓練所、先程までCHARMの銃声が響いていたそこのベンチに、訓練用の模擬弾を撃ち切った後な二人のリリィが座っていた。
「で、何をそんなに焦ってるんだ?」
「……わたしは、ちゃんと梨璃を守り導いて行けているのかしら」
その片方、梅の渡す缶コーヒーを受け取りながら、もう片方である夢結は先程射撃間隔の短さから梅に見抜かれた内心の不安を吐露する。
「そうだナー、梨璃はわたしから見ても毎日凄く嬉しそうだゾ?」
「ええ、それは分かっているのだけれど……」
誰に何を言われるまでもなく、先日の戦闘で真にシュッツエンゲルとなれてからの梨璃は夢結と一緒にいる間は四六時中ベッタリである。その辺にいる百合ヶ丘の一般的なシュッツエンゲルと比べても、甘々な程に。
だからこそ、自分はそんな梨璃からの好意に甘えているだけなのではないか、彼女を導く良き
「とは言うけど、空いた時間にはお茶して訓練もしっかり見てやってるんだろ? それ以外ってなると、んー……」
「そうよね、わたしのやれることなんてそれくらい「そうだ!」……梅?」
何かいい閃きがあったのか、隣で急に立ち上がる梅の姿に夢結が目を丸くしていると、顔を寄せてきた梅はある案を耳打ちしてくる。
「……っていうのはどうだ?」
「……なるほど。確かにそれなら、どちらに転んでも梨璃にはいい経験になるわね」
「だろ? それに『あの子』のことも、これなら直接的な解決にはならなくても、何かの糸口になるかもしれないしナ!」
あの子──梨璃にとってはクラスメイトで、夢結にとっては知り合いの知り合いになる一年生、安藤鶴紗。
夢結としてはそう話したことのない相手にはなるものの、時折梨璃が話題にすることから気にならないと言えば嘘になるが──梨璃に対してのことといい、こうして周りの心配などしていられる余裕のある自分に、彼女自身まだ慣れていなかった。
「そうね、梨璃のことだから彼女にも声は掛けるでしょうし……でも」
「『梅の手柄を横取りするみたいで嫌だ』って? 顔に書いてあるゾ」
「……ええ。散々悩みを聞いてもらっておいて何を今更、とは自分でも思うわ」
それでもこれ以上無償の施しを受けるには、今まで梅に限らず周囲に借りを作りすぎていると夢結自身自覚はある。
「なら、今度の出撃の時ヒュージのトドメを一体でもいいから梅に譲ってくれ。それでおあいこだゾ」
「……ありがとう、梅」
梅の性格から本来ならこの程度お安いご用だと済ませたかったのだろうが、ヒュージ一体分の撃破報酬では妥協とも言えない程度にせよ少しは夢結の感じる負担を減らそうとしてくれたのだと分かるから、お礼の言葉は自然と夢結の口から出ていた。
「……へぇ。なるほど、
「どうしてそこで、彼女の名前が?」
「いや、こっちの話だゾ? それよりいいのか、可愛いシルトが待ってるんだろ」
急に自身のルームメイトの名前を出されて不思議そうに返す夢結だが、梅に言われて自分の携帯で時間を確認すると、確かにそろそろ梨璃と放課後のティータイムを約束していた時間だ。
梨璃はいつものラウンジのテーブルで先に待っているだろうし、彼女のお姉様として遅刻はしたくない。
「そうね……それじゃあ梅、また後で」
「おう、夕飯か入浴時間にでもナ!」
特に約束と呼べる程のことではないが、お互い中等部時代からの付き合いで大体の行動パターンは分かっているのだ、示し合わせずともどちらも同じようなタイミングになるのは、今更のことだった。
そして訓練所を後にする夢結の足取りは、ここに来た時と比べて幾分か軽くなったように見えて梅が嬉しそうに頬を緩めていると、夢結とすれ違いながらいつものようにCHARMをいくつも携えた雪華が入ってくる。
「ねえ梅、何かいいことあったの夢結と?」
「そうだナー、元気なのはいいことだゾ!」
「まーた分からんことを……」
とはいえ雪華からしてもそれに何か文句がある訳はないのだから、そのまま的にCHARMを向け、ここに来た目的を果たすのみだった。
◆◆◆
「ん? 開いてますよー」
そのしばらく後、今日はもう予定もないし後は寮の部屋で一人適当に過ごしていよう──なんて気分でいたらドアをノックする音が聞こえたので、相手が誰かも確かめず遊んでいた折り畳み式のゲーム機を閉じながら適当に返事をする。いや、
「し、失礼しまーす」
「どうしたのさ、またいつもの三人で」
すなわち梨璃ちゃん楓さん二水ちゃんの、なんだかんだそれぞれで有名になりだしてきた一年生トリオだ。
まあ楓さんは元々有名人だからともかく、残り二人も二水ちゃんがことあるごとに梨璃ちゃんを夢結とセットでネタにしまくって、例の〈週刊リリィ新聞〉が入学一月余りで既に学院内で見掛ければしばらく生徒間で話題になるほどの地位を築いている物だから、外部入学がなにするものぞと言わんばかりの大躍進である。
で、そんな三人がこんな時間に何用だろうか? なんて疑問を抱いていると、おずおずと手を挙げながら梨璃ちゃんが質問を投げてくる。
「その、雪華様って今レギオンとかには」
「入ってないけど。なになに、勧誘?」
レギオン、度々話題にはしていたけど古代ローマにおける軍団──を語源とするガーデン内で結成されるリリィの戦闘単位のことだ。その人数としては近年生まれた〈ノインヴェルト戦術〉という九人一組で行う特殊な攻撃パターンのこともあり、基本的にはそれ以上の数が好ましいとされているとか。
まあそっちの方に関してはメンバーの実力次第で多少数を減らしてもいいんだけど、それでもいくら少数精鋭としても限界は五人くらいらしいし、そもヒュージネスト──アルトラ級と呼称される最大級のヒュージの作るヒュージの巣の直線上に陣取るよう校舎を移した都合上、人材を世界中から山ほどかき集めているここ百合ヶ丘じゃあ、普通そこまで切迫することもないんだけども。
「はい! その、お姉様のレギオンに」
「夢結の……にしては、本人いないけど?」
曰く梨璃ちゃんが先程お茶会中に突然夢結から「レギオンを作りなさい」と言われたので、その場にいた二水ちゃんといつの間にか普通に混ざってきた楓さん含む四人までは、トントン拍子で決まったようだ。
けど、その先は誘ってみたクラスメイトがことごとく既に所属レギオンが決まっていたり、取り付く島もなかったりとで難航しているそうな。
「それにしても、夢結のレギオンね……」
初代アールヴヘイムの解散後、どこのレギオンにも属さず『孤高のリリィ』だなんて呼ばれていた夢結がそんなことを言い出すだなんて、はたして如何なる心境の変化があったのか。
あるいは、孤高を気取っていても決して孤独ではなかった、あの子の周りからの入れ知恵なのやら……なんて思い浮かべるのは、八重歯を覗かせた良い笑顔で「ゾ!」とサムズアップしてくる、緑のツーサイドアップ。となると、さっきの上機嫌はこういうことか?
「ま、中等部からの有望な子なんて一月もあればもう大体どこかしらのレギオンに獲られてるでしょ。それこそ他所から組とはいえ楓さんが余ってたの、私としては意外なんだけど?」
「梨璃さんと一緒に誘われたのならお受けしていたでしょうが、生憎どなたもわたくし一人にしか声を掛けてこなかったので」
さいですか。そのくせ梨璃ちゃんと夢結とのシュッツエンゲルだーってのは全力で後押ししてたらしいし、楓さんって案外と一途に尽くすタイプなのやら?
それともシュッツエンゲルはあくまで姉妹関係だからノーカンですわよ理論なのか……いや、後者はほぼイコールでカップリング・モード扱いされる百合ヶ丘の風潮からしてないだろう。
実際二水ちゃんも新聞じゃ夢結×梨璃って感じに結んでたし、それ故に近頃は二人セットで〈
「まあ断る理由もないしいいっちゃいいけど、一応私三年生だからね? 3月にはいなくなるから人数は気持ち多めにしといた方が、来年もまた新入生争奪戦に首突っ込む羽目にならなくてもよくなるとは、先に言っとくよ」
新規結成、あるいは編成変えをしたレギオンが一・二年に主要メンバーが偏りがちなのは、私見だけどそういう理由だと思う。慣れたメンバーのままなるべく長く戦える方が、結果として都合が良いというのもあるんだろうけど。
他にも三年には早い子になるとリリィとして前線にいられる限界が近いだとか、学生らしく進路の問題だとか色々あるけど、幸いにして私は在学中ならば前者は余裕があるらしいし後者も最悪の場合頼るアテはある、故にそっちは断る理由にはならない訳だ。
「らい、ねん……?」
「いや梨璃ちゃん、いくら夢結に作れとしか言われてないからって作りましたはい終わり! がレギオンじゃないからね!?」
そんな先のことなんて考えてませんでした、って反応されても……まあいざ残された側になるとそれを面倒に思って所属していたレギオンの自然消滅を受け入れた私に言えたことかは、胸の中にしまっておこう。
「ともかく雪華様確保です、っと。そうなると明日からは一年の他のクラスから探してみますか?」
「そうだねー、椿組は大体当たって砕けちゃったし」
「でしたら工廠科からも一人くらいは欲しいところですわね。戦場でCHARMのメンテナンスをできる方がいるだけで、かなり安定感が違いますもの」
ふむ、いきなりさあ走ってと言われたわりには二水ちゃんのメモの進み具合といい、結構ちゃんと動いてるんだなと。
まあスタートダッシュには少し出遅れたこの時期に集めろって時点で、半分以上無茶振りなんだろうとは思うけど。
「それなら一人いい子がいると思うけど。皆も知らない仲じゃないと思うし」
「本当ですか!?」
でもこうして加入が決まった以上私だって関係者なんだし、これくらいはしていいよね?
◆◆◆
「お、お邪魔しまーす」
「なんじゃおぬしらか、大したもてなしもできんがゆっくりしていくとよいぞ」
工廠科の地下にある、とある工房──まあ出迎えたそこの主の喋り方で分かる通り、ミリアムちゃんのなんだけど。
彼女も高等部からの新人リリィだし、来日してすぐらしい入学式前から既に百由の助手か何かみたいな扱いをされていたこともあって、どこかのレギオンに拾われたなんて話も聞いたことがないしでちょうどいいだろう。
「ふむ、梨璃のレギオンにわしをとな?」
「はい! ダメ、かな……?」
「いや、夢結様と同じレギオンに入れるというのならわしとしてはむしろ願ったり叶ったりじゃが? それに、おぬしもおるというのなら尚更ちょうどよい。
そんなミリアムちゃんは作業用にかけていたゴーグルを上げながら実に満足そうに微笑んでいるので、成功ということでいいのだろう。
「あと、これはここだけの話なんじゃが、わしはいつか夢結様専用のCHARMを作りたいと思っておってのう。シルトの梨璃からも口添えをしてもらえるとありがたいんじゃが?」
「え、えーっと……?」
なんだか変な方向へ話が逸れてきたと、横目で梨璃ちゃんが助けを求めて来るのなら、一応の先輩としては応えてあげるが世の情けか。
「そもそも、ミリアムちゃんは自分のを完成させるのが先でしょうに」
彼女の愛機の名前がミョルニールでなく『二』ョルニールなのも、未完成故に線を一本抜いているからだ。なんて話を百由から聞いたのだから、未だにミになってないっていうのはすなわちそういうことなのだろう。
「そ、それはそうなのじゃが、次の目標くらいはあってもよかろう?」
「まったく、二兎を追う者は……あー、どっちだっけ?」
「元は一兎をも得ずですが……やっぱり、雪華様も“こっち側”ですか?」
そう言って左手を腰に寄せながら半端に開いた右手の人差し指で『天』を指す二水ちゃん……なるほど、そっちこそ“イケける口”か。
「……どれ好き? あたしはクワガタ」
「やっぱりバッタの兄弟ですねー」
ほう、王道のモチーフであるが故にこの中ではまた異端でもある。良き趣味をお持ちで……何の話だって? 分かる人には分かる話、ついて来れるならー。
「何を意気投合しているのかは知りませんが、これでちびっこ2号もゲットーっと」
「……あー、やっぱりわしが2号なんじゃな。まだまだ成長期じゃというに好き勝手言いおって」
そうは言うが、実際楓さんがこの中だと一番デカイのだから仕方ないところはある。身長だけでなくどことは言わないけど、どことは言わないけど。
……あ、あたしはステータスだし、なくはないし。なんだあのギガント級のタップタップは、良いもの食ってるからなのか? それとも環境か? 血筋か? あぁっ!?
「…………くっ」
「雪華様、何突然敗北感を漂わせてますの?」
ふふふ、持たざる者の気持ちは、持ちすぎた者には未来永劫分からぬのだ……
◆◆◆
「うーむ」
翌日の放課後、いつもの射撃訓練場へ向かう道すがら珍しく一人でいた梨璃ちゃんと目的地が同じだからとそのまま一緒に向かっての、この状況。
アステリオンに装填した訓練用の模擬弾十発全てを撃ち終え、結果は私にしては良い感じな具合ではあるのだが……
「流石にヒヒイロカネのCHARM、悪くない機体ではあるけど……やっぱりレンジが合わんね」
なるほど精密射撃の苦手な私でもこの命中率なら確かに近頃人気なのも頷ける。しかし少し中距離以遠に適正射程が寄り過ぎているし、それ故シューティングモードも普段使いのと比べるといささか長く感じてしまう。
とはいえ近接形態がふたつあるのは魅力的だし、そちらをメインとしての運用がベターだろうか。
「けどこないだダインフレイフ・カービンぶっ壊したの自分からだしなぁ。また同じの頼むのも厚かましいし……何がいいと思う、梨璃ちゃん?」
「ふぇ? え、えーっと……お姉様も使ってるブリューナク、とか?」
隣で撃っていた梨璃ちゃんに深く考えもせず流れで話題を振ったが、なるほど攻撃特化のブリューナクならば手持ちCHARMでガンガン攻める私のスタイルとしてはアリではある。
正式採用も既にされているし、いくら高級機といえど第2世代CHARMならば新年度前から毎度申請が通らんと嘆いている第3世代CHARMより可能性は高いか。
──まあ梨璃ちゃんの言うように夢結と同じだから、というより生前の美鈴も最後の方はその機体を使っていたからと、多少なりと無意識に避けていたフシはあるのだろうけど。しかしこの前ようやくの墓参りも済ませたのだし、いい加減気にする必要もないか。
「確かにそっちもありか。百合ヶ丘なら予備パーツも多めに確保してるだろうし、後で申請しとくかなぁ」
「なんとなくだったんですけど、本当にいいんですか?」
「CHARMの性格としてはダインフレイフ系列同様のアタック型だから、後釜としては適切じゃない? ところで、そっちの調子はどうなのさ」
それでもやっぱり性に合うのはばら蒔く系のこっちだなぁと、グングニル・カービンに持ち替えながら聞くのは勿論自主練の……ではなくレギオンメンバーの勧誘の方である。昨日私とミリアムちゃんが入ったとはいえ、それでもまだ最低三人は必要なのだから。
しかしそれを聞かれると何か良いことがあったのか、嬉しそうにサイドテールをぴょこんとさせながら梨璃ちゃんが報告してくる。
「あ、今日も一人決まりましたよ! ほら、覚えてますか? 前に手伝ってくれた郭神琳さん!」
「あー、あれからも何度か担当日被ってたしそりゃフリーランスかー……あれ? 昨日、確か同じクラスの子はほとんど当たって砕けたって言ってなかった?」
「実はまだ残ってた数人の内の一人で、わたしたちがレギオンメンバー探しをしてるって噂を聞いて、神琳さんの方から申し出てくれたんです!」
そりゃまたなんとも。しかし神琳さんは確か見慣れない丸盾型の専用機なのだろうCHARM持ちだったはずだし、レアスキルも覚醒者がまだ少なくどのレギオンも欲しがっている広域化のスキル『テスタメント』だ。
それに彼女は中等部時代から雑誌の取材を受ける程注目されているリリィの一人で、下手しなくても楓さん並に余っているのが不思議な……楓さん? まさか、彼女も誰かと一緒じゃないとお断りなパターン?
「ねえ梨璃ちゃん、その時神琳さんって誰かと一緒にいなかった?」
「はい、前と同じで王雨嘉さんが。寮の部屋も一緒だし仲が良いんですねー」
「ふーん?」
王雨嘉──確かにそれはあの時のメンバーの一人だし、言われてみると神琳さんの隣によくいる気がする子の名前だ。けど彼女とてノーマークとするには惜しい人材のような?
あれ以降何度か戦場を共にした時も後ろから的確な援護射撃があったのを覚えているし、これが同じCHARMでの射撃かと驚いた程だ。
「なら、その子は誘わなかったの?」
「えっと、わたしも考えはしたんですけど……口にする前に付き添いだーって断られちゃって」
そんな風にたはは、と頭を掻く梨璃ちゃん。うーん? 前提が崩れたなぁ。あるいはこっちも神琳さんの片想い……流石にそこまで楓さんと同じだって決め付けるのは、二人に対して失礼か。
「おや?」
「あっ……」
そう悩んでいると、誰かが来たような足音に現実へ引き戻される。というより今の声は……
「あ、雨嘉さんだ!」
入り口に立ち尽くすのは梨璃ちゃんに呼ばれた通りな黒髪の彼女、噂をすればなんとやらというか。
「ごきげんよう。ちょうどあなたの話してたところ、っていうのは迷惑かな?」
「ご、ごきげんよう……いえ、わたしは……」
うーむ手応えが悪い。この間の感じといい、人付き合いが苦手なタイプなんだろうか? 戦闘中なら寡黙なスナイパーとして解釈すれば頼もしいが、普段からそうだと肩も凝りそうなのに。
「あっ、そうだ! 雨嘉さん、レギオンに入るのは無理でも、一緒に訓練するくらいならいいよね?」
「え? う、うん……それくらいなら、別に」
とはいえ一度フラれてもガンガン行くのが梨璃ちゃんだ、少したじたじながらも彼女からOKを引き出すのは流石と言うべきか。
「なら今は一応同じ機体使ってる身だし、参考にさせてもらおうかな?」
「そ、そんな……わたしなんかが先輩の参考になんて、とても……」
あーいや、これ二水ちゃんとかと同じ感じ? やけに自己評価低い系。一応百合ヶ丘って入れるだけでも世界レベルのエリートになるはずなんだけども、皆感覚麻痺してない?
というか、制服もこうして見るとカスタムどころか完全に別物では? いやでもスカートのベースは……うわ、よく見たら丈もスリットもエグい……なんてじろじろ見るのも失礼かと、咳払いをして話に戻る。
「コホン、人には得手不得手があるからさ。ほら、私の撃った的見てよ? 同じアステリオン使って何発か中央から外してるし」
そもそも私は普段が弾幕ばら蒔いてから近寄ってさらにオラァなスタイルなので、狙い撃ちはこの間のように相手が大型の場合でもないと接敵前の嗜み程度。
なんて考えていると私のやり口を真似たのか、それとも無意識に乗っただけかは分からないが、梨璃ちゃんも同じように続く。
「じ、実はわたしも結構……時々的からも外れちゃって」
「わ、分かった……見てて」
うーむ、梨璃ちゃんがおねだり上手なのか私が下手なのか、あるいは同学年かふたつ上かの距離感の違いか。
ともかく乗り気にはなってくれたようで、雨嘉ちゃんは背負うケースから取り出したアステリオンを慣れた様子で構えている。
「──っ!」
聞こえた銃声は十発、全て的の真ん中付近を撃ち抜いていた。ホント凄いな、ブレもほとんど見られないし。
「はぁー……え、今のレアスキル使ってないよね?」
「うん……わたし、これくらいしか取り柄ないし」
そう感心している梨璃ちゃんにどこか自虐的に返す雨嘉ちゃん、別に一点特化が悪いとは誰も言わないと思うけど。
「ところで雨嘉ちゃん」
「は、はい……?」
「やっぱりレギオンの件、厳しい感じ?」
それはそうと梨璃ちゃんが言う前に断られたというのなら、とりあえず一度くらい当たって砕け散れの精神でチャレンジしてみた訳だけど……雨嘉ちゃんからの反応はイエスでもノーでもなく、どうしたものか分からない感じに視線を逸らし、微妙そうな顔で固まっていた。
(ちょっと梨璃ちゃん、なんか話と反応違うんだけど?)
(えっと、実は付き添いっていうのは神琳さんが言ってただけなので……)
んん? 梨璃ちゃんにこそこそ話を振るとまた謎な方向に話が……これはあれなのか、百合ヶ丘特有の面倒くさい人間関係のあれこれというやつなのか。
「あっ、そうだ!」
「……梨璃ちゃん?」
そこで何を思い付いたのか、梨璃ちゃんはピコンと電球が頭の上に出てそうな仕草をすると、てちてちと後ろの棚に向け駆けていく。
「えっと……あった!」
そのまま自分の鞄を抱え漁りながら戻ってくると、梨璃ちゃんはその中からある物を出してくる。その青っぽい半透明な瓶は──
「ラムネ? こんな時代にまた珍しい」
「わたしも初めは驚いたんですけど、学院の近くに自販機があって! ということで、おふたりともどうぞ!」
「あ、ありがとう……?」
「んー、いただきます?」
急なそれの登場に雨嘉ちゃんも私もリアクションに困るが、とりあえずお礼だけはしっかりと言っておこう。
「…………えっと、これってどうすれば?」
「あ、雨嘉さんラムネは初めて? ちょっと見てて!」
貰ったはいいが何が何やらと困惑する雨嘉ちゃんの反応に、梨璃ちゃんは鞄から更にもう一本ラムネを取り出すと慣れた様子で封を剥がしキャップを分解して、ベンチに瓶を置くと飲み口にキャップの出っ張りを当てると掌に体重を乗せて押し込んで「ぽしゅっ」と空気の抜ける音を立てながら詮を開けていた。
「はぁー、こなれたもんだねぇ?」
「えへへ♪昔から好きで、故郷じゃよく飲んでたんです!」
一口だけ飲んだ梨璃ちゃんが嬉しそうに話すものだから、雨嘉ちゃんも興味を引かれたようで見よう見まねで開けようとする。
「こ、こう……かな?」
「うん、そうそう……あ、そのままちょっとの間離さないで……よし!」
そんな二人の様子を眺めてるだけなのもあれなので、私も適当なとこに瓶を置いて……うわ、少し零れた。
「ぐぬぬ、しばらくぶりだとこれだよ」
「あはは……慣れてるからって流れでやると、たまになっちゃいますよね」
まったくだよと頷いて、垂れた部分をタオルで拭きながらグイッと一杯。うーん私はまた弾ける、これであと10周か16周は走れそう──何を?
「……美味しい」
「でしょ?」
私だけ変な方に思考が飛んでる内にも二人は並んでベンチに座り仲良くラムネを飲んでいるのだから、お近づきの印としては上手く行ったようで。まあ梨璃ちゃんはそこら辺計算して動くような子じゃないだろうけど。
「それで、レギオンのことやっぱりダメかな?」
「……分からない。わたし、故郷から逃げるように日本に来ちゃったから、周りの期待も、自分で自分に期待するのにも……本当のわたしは、まだなんでもないし」
そんな風に梨璃ちゃんへ胸の内を吐き出す雨嘉ちゃんの言葉は、初対面の時二水ちゃんがいつものように反応していた様子から有名な子だというのは間違いないと思っていたが、それ故に抱える悩みという物だろうか。
「あーっ!」
「え?」
「ん?」
そのまま重くなりそうだった場の空気を吹き飛ばしたのは、何を見付けたのか雨嘉ちゃんの鞄を指差しながら急に声を上げた梨璃ちゃん。特に変な物が付いてるとかはないと思うけど……
「ねえねえ、この猫のストラップどこで買ったの? すっごく可愛いね!」
「あ、それは……」
実際のところは雨嘉ちゃんの鞄そのものというより、そのポケットに入っているケータイに付けてあった猫のストラップが外に垂れているのが梨璃ちゃんには気になったようで、今はそれに顔を寄せてまじまじと見つめている。
「買ったというか、作った物……だから、お店というより」
「そうなの? でも本当にどこかで売ってそうなくらいよく出来てるから、勝手にそう思っちゃった!」
「……全然、なんでもなくはないんじゃない?」
別にリリィとしてどうこうという話ではなくて、一人の女の子としてのポイントかもしれない。でも少なくとも今こうして梨璃ちゃんの心を惹いてみせたそれは、決して無意味な物ではないはずだから。
「……そう、かもしれませんね」
「ううん、絶対にそうだよ! だからもう一度聞かせて、雨嘉
そこで梨璃ちゃんから雨嘉ちゃんへの呼び方が変わったのは、寡黙で少し近寄りがたい子と思っていたらその本音の先にちゃんと女の子らしいところを見付けた親近感からなのか、あるいは彼女ともっと深い関係へ踏み出したいという気持ちの現れなのか。
どちらにしてもこれはもう逃げられないぞと、私は壁にもたれながら腕を組んで「諦めた方がいいよ」な表情を梨璃ちゃんの後ろでしておく。
「そうだね……よかったら、わたしを一柳さんの……ううん、梨璃のレギオンに入れて、もらえるかな?」
「うん! それじゃ、お姉様たちに報告しに行かなきゃだね、行こう雨嘉ちゃん!」
「え、うわわ……!」
そのまま雨嘉ちゃんが梨璃ちゃんに手を引かれ、されるがままに訓練所を後にするのを手を振って見送ると、壁に背中を預けたままアステリオンを構えて一射。人に見られれば行儀が悪いとか色々言われるんだろうけど、生憎今は一人なんでね。
「先生に見付かれば、作法がなっていないなどと注意されますよ?」
なんて油断していると、凛とした声が私しかいないはずの訓練所に響く。
「……いつからそこに?」
「そうですね、雪華様が梨璃さんとCHARMの話をされていた時には」
大分前からじゃん……なんて呆れつつ梨璃ちゃんたちの出ていった方と反対側の入り口から入って来た子を見れば、それはいつの間にやら同じレギオン予定になるらしいオッドアイの一年生──郭神琳さん。
「あなたのルームメイトさんなら、もう行っちゃったけど?」
「みたいですわね。梨璃さんの押しの強さは、わたくしの想像以上でしたし」
「……なんで、彼女と一緒に入らなかったの?」
神琳さんは何事もないように話しているけど、もし本当にそうならレギオンへの加入を申し出たという時に自分だけでなく、無理矢理にだろうと雨嘉ちゃんのことも売り込めばよかったはずだ。
戦場ですれ違う分にはなんの問題もなさそうな同室の二人だが、はたしてその内情はどんなものなのか。同じレギオンになるというのなら、是非とも聞かせて欲しいところだけど。
「では、雪華様から見て、雨嘉さんはどのような子でした?」
「……実力のわりに、自信のない子。あるいは『逃げてきた』って言うからには誰かからそうして勝手な評価をされるのに、疲れてる?」
「彼女、しょっちゅう家族に電話しているのにその家族の話になると『他は優秀だけど……』ってすぐ自分はダメダメだ、なんて言うんです」
なんともまあ。繰り返しにはなるけど、百合ヶ丘は世界でもトップクラスの激戦区故に求められるリリィの質も高く、補欠合格の梨璃ちゃんや二水ちゃんでさえ、少し前まで戦いとは無縁の一般人だったとは思えない粒揃いだ。
その中にあってもどうせ自分なんて……と腐っているというのなら、同室相手として時に色々と言いたいこともあるのだろう。
「という訳ですので、少しそちらのCHARMをお借りしても?」
「ん? まあいいけど」
何か話の流れが飛んだ気はするけど、使いたいと言うのならまあいいかとアステリオンに装着していた〈マギクリスタルコア〉──CHARMをCHARMたらしめている根幹部分であり『コンピュータ制御された魔法の宝玉』だなんて呼ばれる、簡単に言えばマギ制御のあれこれをリリィに代わって行ってくれる物。
今時は指輪の方でも多少マギの扱いの補助はしてくれるものの、リリィがリリィらしく万全の力を発揮出来るのは、これに共鳴し扱えるからこそである。いつぞや少しだけ触れたCHARMとの契約も、CHARMそのものというよりこのコアと結んでいる訳で。
なんて説明になる通り極めて大事な代物ではあるけど、戦闘中破損したCHARMから咄嗟に無事なCHARMに切り替えたりなんてことが時折行われがちなように、やり方さえ分かっていればその着脱はかなりスムーズに行えるので、神琳さんもまた自身のCHARMから取り外したそれを私から受け取ったアステリオンに難なく取り付けていた。
「では失礼して」
そのまま神琳さんは的に向け何発か撃って調子を確かめると、近接モード二種にも切り替えて数度振り回し、納得したように一人頷いていた。
「それでは、用事が済み次第工廠科の方に異常がないかチェックしていただいた後、寮まで返却させてもらいますね」
「へ?」
借りるというのはこの場限りの話かと思ったら、どうやらそのまま出ていった神琳さんはアステリオンを何かに使うつもりらしい。
とはいえ私はいつも通り他にCHARMをいくつか持っているので、アステリオン一機くらいならまあいいかなところはあるんだけど。
◆◆◆
「で、これ何がどうなってんの?」
しかしまあ流石にこのまま何も分からんでは済まないなと、神雨さんは恐らく雨嘉ちゃんの後を追ったのだろうとラウンジへ向かうと、梨璃ちゃんが雨嘉ちゃんを連れて夢結に報告している所へ神琳さんが混ざり何かを話しているようなので、今はそれを先にいた他のメンバーと遠巻きに眺めている訳になる。
「ま、まさか神琳さんや雨嘉さんまでわたしたちのレギオンメンバーになるだなんて……げほっ」
「はいティッシュ。とはいえ何やらのっぴきならない状況のようですが」
「というかあれ、カラーリング的に雪華様のアステリオンじゃろ。盗られたのか?」
またしても鼻血を吹き出し楓さんに鼻栓されている二水ちゃんも今ばかりは頼れんとして、ミリアムちゃんはミリアムちゃんで視点が少し違う。
「いや、貸してって言われたからさ」
「おいおい、せめて用途くらい聞いて渡さんか……」
だって訓練の一環で借りるってだけかと……それがなんでまた殴り込みか何かみたいな状況なのかは知らないけども、わざわざ追加のCHARMまで持ち込んでお茶会も何もないだろうし。
「あれ、皆さん行っちゃいますよ?」
「……しゃーないか」
何が何やらにしても、一枚噛んでしまった以上知らないフリも出来ないかと、先に出ていった一年生三人はともかく、お茶会の後片付けをしてから追うのだろう夢結に挨拶を投げながら話を聞くことにする。
「ごきげんよう夢結。ところでこれはどういう状況よ?」
「ごきげんよう雪華様。といっても梨璃から雨嘉さんもレギオンに入ってもらえるという話を聞いていたら、そこへ神琳さんが現れてその場の流れで勝負をすることになったとしか……」
「流れって……」
曰く「急に雨嘉さんがやる気になったのなら、それ相応の物を見せてもらいたいのですが」なんて言いながら神琳さんがやって来ると、梨璃ちゃんが雨嘉ちゃんのストラップや射撃の腕の話を出したところ「ではそのように」と。どういうこっちゃ。
「それより雪華様。先程神琳さんの持っていたアステリオン、あれは確か雪華様の物だったように見えましたが?」
「んー、まあ貸してって頼まれたからつい。アステリオンといえば、雨嘉ちゃんもアステリオン使いだよね」
まさか、最初からこういう流れに持っていくつもりで? 専用機持ちだろうにわざわざ同じCHARMでなんて、無駄に律儀なのかハンデのつもりなのか。
そう判断に困っていると、二水ちゃんの看病はミリアムちゃんに任せた楓さんも会話に混ざってくる。
「勝負を、と仰いましたが……まさかあの方も『お手合わせ』の手合いだと?」
「やり方は任せてもらう、とは言っていたけれど……」
「いや二人してなにさ? 私は何も吹き込んでないからね?」
そんな風に揃って見詰められても。とはいえ亜羅椰ちゃんとの一件からしょっちゅうその類いを挑まれるようになったものだから、悪い手本という認識をされる分には何も否定はできないんだけど。
「ともかく、見てた感じ夢結も呼ばれてるんでしょ? ここは私たちが片付けとくから、早く行って来なさいな」
「ですが……いえ、ここはご好意に甘えさせていただきます」
「はいはい、後輩は素直なくらいでいいのよ。で、ついでに余ってるクッキー貰っていい?」
「ふふ、お好きにどうぞ」
お皿の上に残っていたそれを一枚摘まみながら少し食い意地の張ったことを言ったからか去り際に夢結には笑われるけど、そういう風になれたのが確かめられたのならまあ、それも悪くない。
「やれやれ……という訳だからそこの二人もどう?」
「ふっふっふっ。何かのためにと用意しておいたこやつが早速役に立つ時が来たのう」
なんて言いながらこっちに寄って来たミリアムちゃんが取り出したのは小さめのタッパー、その中にたっぷりと詰め込まれているのは真っ赤な──
「イチゴジャムじゃん。どしたのそんなに?」
「糖分補給のために普段から持ち歩いておるのじゃ! これをこうして……んむ、うみゃい♪」
うわ、そのままクッキーでジャムガッツリすくって食べた。見てるだけで胸焼けするなぁ……実際楓さんもジト目で呆れてるし。
「そんなおおざっぱな……虫歯になっても知りませんわよ?」
「歯磨きは朝昼晩欠かさずしておるわい。それにこれくらいせんと、リリィとアーセナルの両立は色々とカロリーが足らんのじゃよ」
「あぁー、分かります分かります。わたしも訓練に勉強に取材に新聞の執筆に……それに少し踏み込みすぎるとすぐ生徒会に発禁食らいますから、書き直しに差し替えも度々……」
なんて同意しながら二水ちゃんがかっ込んでいるのは、いつの間に頼んだのか用意したのかは知らないけど牛丼、しかもチーズをたっぷりと乗せたいわゆるチー牛だ。紅ショウガやタバスコはお好みで。
「おう、分かるか二水ぃ。その上近頃はエナドリキメて夜遅くまで作業することも増えて来たもんじゃから……」
「ですです。どうしてもあと少し、もうちょっと先まで……って中々止まらなくなっちゃいますよね!」
「そんなだからおふたりとも色々伸びないのでは?」
謎に徹夜トークでヒートアップするミリアムちゃんと二水ちゃんへ冷たい現実を楓さんが投げても、完全に二人だけの世界に入っているのか周りの反応などガン無視のノーリアクションである。
「ふぅ、やれやれですわね」
「とりあえずこれ、厨房に返したんでいいの?」
「特に私物もなさそうですし、それでよろしいかと」
夢結たちの使っていた諸々には百合ヶ丘の校章やユリの花の装飾があることから学院側のだとは見れば分かるけども、何度かその様子を見ている楓さんがそう言うなら万が一の間違いもなさそうだと、最後のクッキーを咥えながらお皿の上にカップやソーサーをまとめて積み上げるとそのまま返却口に向かう。
それを終えての寮までの帰り道、訓練所もないだろう方から遠く銃声が聞こえたのが、多分あの二人の勝負とやらなのだろう。
「あっちって確か、二人と初めて会った戦場……?」
すわなちこの間夢結が暴走した時の場所であり、雨嘉ちゃんたちと梨璃ちゃんが最初に話したのだろうそこを選んだのも、何か意味があるのか……
今から確認をしに行こうにも、何度か銃声がした後にそれとは違う大きな音が二度続け様に聞こえたのを最後に音は止んでいるのだから、どんな形の勝負であったにせよもう終わっているのは間違いない。
「さて、結果はどうなったのやら」
遅くとも神琳さんがCHARMを返しに来る時にでも確かめればいいかと、なるべく良い形での決着を祈っておこう。