繰り返しになりますが、メインストーリーは顔合わせの最初しか取り扱いません。こっちで前提を破壊し過ぎたってのもありますが…一番は公式の後付け祭りに付いていけてないところは?
なんて言ってはいますけど、原作がガバガバな作品程二次創作で色々やれるとは十年以上前の今は亡き掲示板で安価SS書いてた頃からの持論なので、遊べるとこは遊ばせて貰うで、AL。
「おっはよー」
「おう、おはようなのじゃ。こんな朝早くにご足労すまぬのう」
朝から工廠科の地下はミリアムちゃんの工房へ呼び出されてみれば、いつぞやの
「で、最近この面々でなんかしてるなーと思ったのがこれと」
ともかく入るなり渡された手甲型のアーマーを付けて指の部分をガチャガチャ動かしていると、アーマーとコードで繋がった端末をカタカタさせながらミリアムちゃんが答えてくれるようで。
「うむ、少し手こずって隊服の方が先に届いたのは誤算じゃったが、こっちもこっちでもうすぐ完成なのじゃよ」
「がんばった!」
曰くこの面子に百由がいないのは『いくらお姉様になってくれたとて、わしと百由様とではアーセナルとしての実績も実力も天と地程の差がある。だから、これは百由様に頼らずわしらだけでやることに意味があるのじゃ』とからしいけど、契った前後でお互いの関係が変わるなんて感じにどうにも覚えのない私としては、百由のシルトになったからと張り切ってるミリアムちゃんの様子は、どこか微笑ましく見える。
あと、これにかまけてたのが昨日、結梨ちゃん以外の三人を猫の集会所巡りの時に見掛けなかった理由らしい。楓さんのようなツテも二水ちゃんのような知識もない結梨ちゃんはあくまでお手伝いさん程度だから、体のこともあるしでお休みを貰ってたとか。
「んで、専用の衣装はもう仕上がってると。数は……まあ四人分よね」
ハンガーに掛けられてる紺色をベースにした上下一体なワンピース型のそれは、ノースリーブのと袖ありで二着ずつ。
半々ってことはとりあえず試して問題なさそうなら、後は隊服みたく個人の要望次第ってとこかね? 確かミリアムちゃんは隊服でもそうしてたんだし、こっちでもノースリーブ側だろうとして。
「じゃあ、実戦前に私が触って変なクセ付けたりしたら、あんまりよくないんじゃない?」
「何をおっしゃいますか、我が隊で一番こういった装備に慣れてらっしゃる雪華様で問題が出るようなら、まだ誰が使ってもダメな状態ということですわ」
「あれ、『雪華に壊されないようなら大丈夫』ーとかじゃもごごご」
楓さんの建前に結梨ちゃんがツッコミを入れる途中「あはは……」と誤魔化し笑いの二水ちゃんに横から口を塞がれてるのなら、まあ偽りのない本音はそっちとして、別にそんな扱いは今更のことだしなぁと気にせず続ける。や、いきなり後頭部に不意討ちアーセナルハンマードーン☆に比べたらね?
「はは……で、異常はなさそう?」
「おう、想定通りちゃんとマギは通っておるし、稼働域も問題なし。これなら今日の午後にでも早速投入可能じゃな」
ともかく昨日の時点で大枠は済んでいて、後は個々人に合わせた細かい調整だから午前中の空き時間にでも終わりそうだと、アーマーを回収しながらミリアムちゃんはホクホク顔だ。
結局
「んじゃ、あたしはちょっと走ってから朝食べてくるけど、皆も根詰めすぎない程度にね?」
「はーい、ありがとうございました!」
二水ちゃんの元気な返しを背に工房を出ると、一瞬だけ視界に入ってすぐ引っ込んだのは、見慣れた眼鏡姿の──
「──百由?」
心配で見てた……にしては工房がお隣さんなんだから、わざわざドアに引っ掛かりながら眺める必要もないだろうし、今となってはシュッツエンゲルでもあるんだし堂々と『やあやあ調子はどうかね我が妹よ~』って感じに遠慮なく突入すりゃいいだろうに。
それとも擬似姉妹契約を結んで心境に変化があったのは、シルト側だけじゃないって? なんにせよ「頑張れお姉様」以外に外野の私から送れるエールもないんだけどもと、そこまで気にも留めず、到着したエレベーターのボタンを押して地上へ上がる。
◆◆◆
その後は特に問題なくお昼までを終えていつものようにCHARMも回収したはいいけど、ライザーの方は普段装備していたリボルバー式の四連装マルチランチャーが品切れなのか、右のシールド裏のハードポイントには、本体から少しはみ出るくらいの長さな四連レーザーガトリングが二門備え付けられていた。前にこれ使ったの姉さんたちが在学中の頃だし、結構久しぶりになるかな?
となると試し撃ちしとくかなぁと、ここから近くの射撃場はどこだったか……なんて記憶を探っていたら、自動ドアが開いて誰かが入ってくる。
「おや、今度も奇遇だねお二人さん」
「またですか……いや、うちの面々も大概だけど。結局いつもこうなるのよねぇ……」
「なにー?」
人の顔を見るなり頭を抱えている弥宙ちゃんと、その後ろからピョコッと顔を出す辰姫ちゃん──まあつまりは、今度も置かれてたのは二人の行きつけの整備室でしたという話。だってここが配置的に一番便利だし?
なにはともあれ二人とも結構な量のCHARMを持ってるし、個人の工房じゃ窮屈だからと持ち出したのなら、アーセナルの子たちはまだまだ落ち着けないようで。
「はい」
そのままガックリと肩を落としている弥宙ちゃんの横をトコトコ抜けてくると、両手を合わせてお皿のようにしてこっちに向けてくる辰姫ちゃん。
「えっと?」
「今日、辰姫の誕生日だから?」
「あ、そうなの? おめでと。なんかあったかな……」
いや、だからって急にねだられても……まあ、別にレギオン外でも知り合いの誕生日にプレゼント送るくらいなら今月誕生日だった日羽梨とか祀さんとかにもしてるし、弥宙ちゃんと二人してアールヴヘイムのCHARM整備の手伝いついでに、時々百由の方の作業にも付き合わされてるなんて話も前に聞いたし、間接的にとはいえお世話にはなってる以上何かしらあげてもいいけどさ。
なんて鞄を漁ると、おやつに買っておいたスナック菓子が一箱。海の生き物の形してるのが色々入ってる、うすしお味のやつ。
「んーと、これくらいかなぁ?」
「おー、いいセンスしてる」
なんか知らないけどお気に召したようで、辰姫ちゃんはそのまま開けてポリポリとつまんでいると、弥宙ちゃんから補足が。
「あー、この子釣りとか趣味だから、そのまま魚とかも好きなんで」
「まあ、辰姫たちって黒ずくめの連中にヘンな薬飲まされてナニカサレタようなもんだし? その分関係ないとこは満喫しないと損でしょ」
中々にアウトスレスレなことを辰姫ちゃんが言ってるけど、ある意味ではそれが真理なんだろうね。ゲヘナのアホどもが目の前に出てきたら一切の容赦なんてしてやる必要はなくても、常日頃から連中のことを考えてやる義理もないというか……まだそんな考えができるラインにいるから、姉さんも私のことは卒業後の戦いに巻き込みたくなかったんだろうし。
「うん、ま、それくらいが今の世の中じゃ健全なのかもね。んじゃ私はこの後出るからさ、先に慣らし終えとかないと」
「はいはい、精々また百由様にメガネ光らせられないようにしといた方がいいですよー?」
いやまあ、そこまで行かずに済むラインは日に日に上がっていると思いたいけど……信頼でなく、慣れというか呆れ方面で。
(……ん?)
で、整備室を出たところでまた誰かの視線を感じたと見てみれば、クリーム色の髪がサッと物陰に消える。
「またぁ?」
あの白い隊服、どのレギオンだっけ? というかどっち狙い──なんて考えて思い出すのは、弥宙ちゃんには二水ちゃん曰く「レギオン内にいい感じの先輩がいる」ってこと。
そんな言い方じゃあ今のアールヴヘイムの上級生ってシュッツエンゲルどころかノルンになってるのまでいるんだから、フリーなのは実質乃彩一人だし名指しも同然では? というのはまあ、二水ちゃんだからってことで。例え友人だろうと、ネタになるのなら下着姿の写真を平然として載せるような鬼の編集長サマだし。
となると、今の子は今日誕生日な辰姫ちゃん目当てかね? まあ馬に蹴られる趣味もなし、とっくにシュッツエンゲルになってる私はさっさと目的の場所へ行くとしよう。
◆◆◆
『雪華様、次の曲がり角の先にもう一体、ミドル級です!』
「はいはい、マッハで蜂の巣にしてやんよ!」
夕暮れの少し古びた住宅街、『鷹の目』を使う二水ちゃんからの観測報告を聞きながらアステリオンを背中に回し、入れ替わりにサブアームから外したシールドを両手に構えると、左のシールドで身体を守りつつ角を曲がり、右のシールドはレーザーガトリングを展開させて前に向け突撃。
視界に入るミドル級は四足のファング種故に動きは素早いけど、左右が建物で塞がれている以上登る隙など見せられないと正面から突っ込んでくるだけなら、左のシールドで突撃に合わせヒュージをカチ上げて、ガラ空きになる胴体へガトリングを突き付ける。
「遅い!」
いつぞやのように突き刺して、とまでいかなくとも至近距離からのレーザーの雨がヒュージを叩き、怯んだ隙に左のシールドを胴体目掛けて刺しビームソードを発振させ振り下ろしてからX字に斬り上げ、マントで身体を覆いながら後ろに跳んで離脱。
今ので分かるように、初めて会った時結梨ちゃんに貸した当時の隊服のマントを私は再び纏っている訳なんけど、その下の衣装は烏丸時代のスーツのようなそれじゃなくて、一柳隊としての新しいものになっているのを着地してマントを翻しながら眺めて、改めて実感する。
「雪華様ー!」
道の向こうでこっちに手を振る梨璃ちゃんのが基本タイプになる隊服〈アラウンドザウィロー〉──『柳のそば』なんて訳し方をすれば梨璃ちゃんの頑張りで集まったこのメンバーに相応しいなと、しみじみ実感する銘を与えられたこの衣装は、百合ヶ丘らしく黒がベースカラーではあってもアールヴヘイムやサングリーズルみたいに標準制服をデザインのベースにしている組とは違って、青空のようなパフスリーブの上着に二重スカートなワンピース型の本体、白のグローブに専用のシューズと大分様変わりしている。
ちなみに胸元のリボンの有無やソックスなんかが個人の趣味で結構変えてるポイントで、私の場合はソックスを黒地のものにしてスパッツと被らないよう皆のより短めに、そしてマントやアーマーの都合で、上着やリボンはなしのスタイルに。
他のメンバーで大きな違いは楓さんも上着なしだったり、ミリアムちゃんや雨嘉ちゃんが上着なしは同じでも本体をノースリーブタイプにしてたりか。とはいえその片方なミリアムちゃんは、タイミングの都合で他の三人共々今日はそっちを着てはいないんだけども。よくよく思えば作っていたアーマーに合わせた衣装──〈ブリリアントスピカ〉だったかにも、隊服をデザインの参考にしてる感じはあったかな?
「向こうは片付いたみたいだけど、状況は?」
『残りは一体、そちらの道へ出たところへ雨嘉さんが狙撃で足止めします。トドメは頼みました』
「了解、っと」
神琳ちゃんからの簡潔な通信に振り向くと、牽制射撃に追い込まれたところで三本の脚の内ひとつを撃ち抜かれる、テンタクル種のミドル級の姿が。それならばと両手のシールドをその場に突き刺して、軽く跳躍。
「これ以上壊したくないからさ、そろそろ消えろ!」
テストとして先に出ていたアーマー製作組のおかげでヒュージの発見が早かったことから、住民の避難は終わっていても帰って来る場所はなるべく綺麗な方がいいだろうと、遠隔でシールドのフィールドジェネレーターを起動させると道を塞ぎ、ヒュージの動きが止まった瞬間空中で逆立ちのような格好になりながら左手でアステリオンを引き抜き右手のアンカーをヒュージの真後ろへ打ち込んで、引っぱられるがまま落下の勢いも合わせ頭上から串刺しにする。
「ミッションコンプリート、ってね」
刃をズラして傷口を広げるように斬り上げながらアンカーを基点に宙返り、沈黙したヒュージの背後に着地して今回は終わりかな。
「なんだ、随分余裕そうだナ?」
「元からあたしはこういうタイプでしょーが、近頃はあんまやってる暇なかっただけで」
どうにもここ数ヶ月、由比ヶ浜ネストからの大物やゲヘナ絡みの案件でバタバタし過ぎていたんだから、そういうのとは無縁な時くらい、普段の自分らしくいたいでしょ? とCHARMを肩に担ぎながらやって来た梅へ振り向きながら肩を竦めるのを答えにしていると、もう一人その後ろからてちてちと寄ってくる。
「ねーねー雪華、似合ってる?」
私と梅の間まできてその場でクルリと回ってみせる結梨ちゃんの格好は、当然製作組の一人だから手甲型のアーマーに合わせて誂えた紺色のそれ。どうやら結梨ちゃんはノースリーブ側の一人だったようで、黒のアームカバーに覆われた肘の少し上から肩口まで綺麗な肌が見えて……傷物には、しないで済んだかな? なんて今の状況にはズレたことを考えていると、梅に肘で脇腹を小突かれた。
「どこ見てんだ?」
「……いや、護れたんだなぁって改めて噛み締めてただけ」
シュッツエンゲルになる前だったとはいえ、あのギガント級との戦いでは何度も自分の身体ごと盾にしたんだ。気にしないでいられるなら、初めからそんな戦い方なんぞしていない。
「で、どう?」
「ん、似合ってるよ」
ともかく再度首を傾げながら訪ねられれば、着飾る必要のない返事を。
「うん、じゃあ梨璃たちにも見せてくる!」
けど、そのまま結梨ちゃんは「梨璃ー! 夢結ー!」と二人の方へ駆けて行くのだから、まだ
「ま、そういうとこも含めて可愛がれってことかね?」
「夢結たちとは別の意味で大変そうだナ、『お姉様』?」
さあ、どうだかね? 元より梨璃ちゃんから任された形だ、追い抜こうだなんて考えてもいないけども。
◆◆◆
ところで、戦闘が終わった時点で夏の夕暮れ時だったということは、それから帰って検査だなんだとしていたらもう9時過ぎと大分遅くなってしまっている訳で。当然夕食のタイミングは逃していると少し気分を変えてラウンジにトレーを持っていって冷麺を啜っていたら、通路の方でやけに大きなカートでコンテナらしき物を運ぶ百由の背中に、見覚えのある姿が乗っているのが見えたと声を掛けてみる。
「いや、やけに器用な真似してんね?」
「あ、雪華様。ちょうど良かった、引き取ってくれます?」
そう言って背中を向けてくれば、百由に背負われている結梨ちゃんの体は機材か何か用なのだろう大型のベルトで✕印に括られていて、バックルが背中側にあるから止めるのはともかく、百由も自分では外し辛いと。
「ほいほい、悪いねウチのシルトなのに」
「……いや、ぐろっぴの
まあ、どうせ例の装備のデータを纏めるか使用後の調整なりメンテなりで結梨ちゃんも製作メンバーとして同席してたら、戦闘後の疲れから寝ちゃったとかだろうし、その件に直接関わってる訳でもないシュッツエンゲルとしては、シルト同士の問題にどうこう言うことでもないか。
ともかく話の流れは分かったならと箸を置いて小走りに駆け寄ると、ベルトを外し百由の背中から我がシルトを回収、お姫さまだっこで抱えておく。
「で、そっちは手伝わなくても大丈夫?」
「え、ええ。この後別のに載せ替えるんで、そこまでなら、なんとか……それに、流石のわたしも結梨さんまでは巻き込めないし……」
なんか後半は顔を逸らしながらボソボソで聞き取り辛いけど、百由でも気まずいことはあるんだろうしと深く追及はしない。
「と、とにかく! そっちもそっちで荷物運んどかないといけないんじゃないです?」
「ん? あー、そういや結梨ちゃんの引っ越し今日だっけ」
レギオン内の一年で同じく一人暮らしだったと押し付けられる形になったらしい家主さん曰く『荷物は昨日の内にわたくしも手伝って必要な分を纏めておきましたわ』とのことなので、後は鍵だけと結梨ちゃんの制服を漁れば……ふたつともポケットの中。ならまずは特別寮で、そっから新館か。
「ま、こっちはぼちぼちやるから、そっちも無理しない程度にね? もう独り身じゃないんだし」
「分かってますって、じゃあごきげんよう~♪」
ふむ、ガラガラとカートを押してな去り際は普段より意識してテンションを上げてるように見えたから、百由にも大分無理させてるのかなぁと今更直しようもない癖に少しだけ申し訳なくなりつつ、まあその辺りのケアもシルトの役目かとミリアムちゃんへ心の中でエールを送る。
「んぅ……なにそれ?」
席に戻って残りを食べていると、匂いに釣られたのか寝惚け眼を擦りながら対面のソファーに寝かせてた結梨ちゃんが起き上がるから、無言でトレーごと押してそっち側に。
「ラーメン?」
「の、冷たい版みたいなもんかなぁ」
具材とかスープとかの違い以外に、麺も微妙に別物だったような気がしないでもないけど、まあそこまで変わらんでしょ。ちなみに私は最初に具もスープも何もかもガッツリ混ぜるスタイル、こうでなきゃね。
「~~~~~~~っ!!」
「あ、酸っぱかった?」
ともかくまずはスープからなタイプだったのか、ラーメンのノリで器を持ってグイッと行った結梨ちゃんは口を✳にして声にならない悲鳴を上げている。まあお酢とかレモンとか結構一気に来るしなぁ、慣れてないとちとキツいか。
「な、なにこれ~!」
「夏はこういうさっぱりとしたのがいいんだけどねー、ほい」
まあ初めてならこんなもんかと、苦情への返答に帰ってから自販機で買ってた天然水のペットボトル(当然未開封)と適当に掴んだ飴を鞄から出して、トレーの横まで転がす。
「む~~~!」
そんなもので誤魔化されないぞと態度で示していても体は正直なもので、水で口直ししてから飴の包みを開けて舐めていれば、口の中に広がったのだろう甘さに結梨ちゃんの表情は柔らかくなっている。いちごみるくの甘さを舐めるでな……いや、別に噛み砕けという話でなくてね?
「もう二個!」
外から聞こえるくらいの勢いでガリっといったのをそのまま飲み込んでの要求には、一個じゃないんだと笑いながらもほいと放り投げて、私はトレーごと回収した冷麺の残りをズズズと。
◆◆◆
「あれ、雪華様? なんでこっちの寮に……ああ」
「そういうこと。ちょっとお願いね」
今日はやけに乱高下する日なのか、私が食べ終えて食堂に返して来る間にソファーでまたカクンカクンと舟を漕いでいた結梨ちゃんを背負って特別寮の廊下を歩いていると、部屋の近くで鶴紗ちゃんに見付かったならそのまま結梨ちゃんを預けて、こっちは荷物を取りに。
「ん……まったく」
「よいしょっと。あ、鍵どこに返せばいいっけ?」
「そのままでいいみたい、です。特別寮の役目から、出戻りじゃないけどまた来たくなることは多いって聞くんで」
あー、そういや天葉と樟美ちゃんも別々の寮に別れてからもよくこっちでヨロシクしてるって聞くし、わりと融通は利くと。
なんて段ボールをふたつ重ねで抱えながら部屋から出ると、少し屈んで膝で底を受けながら片手を離して再度鍵を閉めておく。これでこっちの用事は済んだし、次は引っ越し先──楓さんの無駄に広い部屋へ。
◆◆◆
「で、これは?」
「『モンちゃん充電中』だって……モンちゃん?」
さて、まだ作業中なのか新館で久しぶりに入った楓さんの部屋に家主はおらず、代わりに充電器なのだろう台座に鎮座していたのは、ペンギン──型のロボット。
道中で起きていた結梨ちゃんが近寄って覗き込んでいる張り紙を残してあることから、帰りが間に合わなくても状況を伝える手段を用意しているのは、流石は楓さんというか。
「サポートロボット、そういえば楓が実家から持ってきてたとか話してたけど……この子だったんだ」
鶴紗ちゃん曰くこの子は寮の中を徘徊してるのをこっちに遊びに来た時に何度か見掛けはしてたけど、楓さんのだったとは今知ったとかなんとか。確かに前皆で部屋に集まった時もいなかったけど……自由過ぎない?
で、サポートロボットとはなんぞやってなるけど、まあ大体某国民的アニメの青いあれから道具とポケット抜いたようなもんって感覚でいいと思う。行動に関しては持ち主のそれから学習して、なんて聞いたから結構なAIを積んでるんだろうけど、身内で持ってる人もいなかったし、そういうのはからっきしなんで私もよくは分からんとだけ。
「で、部屋はどう使うとか聞いてる?」
「えっと、服はここに入れていいって」
といってもまだ結梨ちゃんは制服と隊服ぐらいしか持ってないし、さっきのスピカはミリアムちゃんの工房に置いてるとなると結局貰った形になるアーセナリーローズ込みでもお高そうな衣装棚のスペースも大して取らず、私物らしいのも誰かに貰ったのかアクセサリー類の小物が少々と、一箱分は学校用の鞄に詰めてもいいかなくらいではあったんだけど。
ふーむ、この子のシュッツエンゲルとしては一度街にでも連れ出して色々買ってあげるべきなのかねぇ……? ちなみに食品類は、引っ越しに備えて綺麗さっぱりお腹の中だそうです。
「それにしても、作業そんなにかかってたの?」
「うーん、キリのいいとこまでは行ってたはずなんだけど……あれ、百由が来てからどうなったんだっけ?」
私の思考が逸れている内に整理を終えていた二人の様子は、鶴紗ちゃんへの質問に詰まっている感じ。
「百由ならさっき結梨ちゃん背負ってたけど、どしたん?」
「なんか、百由がヘンな匂いのお茶わたしたちに淹れてくれて……んー?」
え、ヘンな匂いのお茶ってまさか……いやそんな、探偵漫画かなんかじゃあるまいし、一服盛るなんてベタな展開。
てか、百由が“そういうコト”をしたのはともかく、それでシルトを回収せず、結梨ちゃんだけっていうのが腑に落ちない。ここしばらくミリアムちゃんが作業詰めだった寂しさから暴走したんなら、周りを(物理的に)片付けて擬似姉妹水入らずを作れた以上──
「え、まさかあの中に突っ込んでた?」
「何があったんです?」
「いや、シュッツエンゲル心って複雑だよねーって」
まあ、新米シュッツエンゲルなのは私も同じな以上他人の姉妹関係に口を挟めるでもないし、流石に百由もシルト相手に問題になるようなことはしないと……しないと……
「うーん、冬佳みたいなオチにはならないといいけど」
「とーかがどうかしたの?」
「ま、直接の関係はないかな、直接の」
そもそもあれは事故だったし、意図的にナニかするってことも無いだろうけど。
◆◆◆
「で、ミリアムちゃんどころか他の二人もいないと」
翌朝、気になって様子を見に行ったら結局楓さんは帰って来なかったらしく、作業仲間として合鍵を貰ってた結梨ちゃんを連れてミリアムちゃんの工房に行っても、この通りもぬけの殻という訳で。ご丁寧にスピカも三着消えてるし……
「カップも、まあ残してる訳ないよね。しかし三人だけ……?」
一緒にバトルクロスを含む戦闘服一式を作っていた、というなら結梨ちゃんも同罪じゃ……いや、確かに百由としては政府がやらかす前に結梨ちゃんの立場をちゃんと用意出来なかった、って引け目はあるだろうけどさ。あれは誰がどう見ても、連中があまりにも後先考えず強引に事を進め過ぎただけだろうに。
「はむ……」
なんて工房内を物色していると、結梨ちゃんが紙袋を手にパンらしきものをモグモグしている姿に二度見する。
「何食べてるの???」
「なんかモンちゃんが部屋出る前にくれた」
そう言って袋から出して見せてくれるのは、フランスパンっぽいやつのスライスと、プラスチックの容器に入れられた何種類かのジャム。容器のサイズ的に、すくって食べろと? ロボだろうと出来た従者だことで。
「まあ、軽くつまむ分にはいいんだろうけど、しかしこの感じじゃ百由の方ももぬけの殻だろうし……ん?」
ともかく空振りならここにいても仕方ないと何切か頂いてから工房を出れば、隣の百由の工房前に立ってるのが二人。
「あっれー? 今日とーかと行くって伝えてたはずなんだけどなぁ」
「やっぱりそっちもダメだった感じ?」
「あ、雪華様。ちょっと百由知りません?」
横から声を掛けたのに反応してな貞花からの質問には、当然知るはずもないので肩を竦めてお手上げのポーズ。結果あちゃーと額を押さえる貞花はともかく、その後ろの冬佳はなんか捨てられた猫みたいな顔してるんだけど……「とーかー」と呼びながら手を振ってるんだろう結梨ちゃんに返す振りも、相当弱々しいし。
「約束しててこれってことは、計画的な犯行じゃないってことか」
「犯行……?」
「シルト情報になるけど、昨夜ミリアムちゃんの工房で作業中、揃って百由にクスリ盛られたってさ」
聞かれて返せば余計に冬佳の顔が青くなるけど、他にどう言えと……ともかく突発的な行動なら、そんな遅くはならないだろうと伝えつつ貞花と二人で宥めれば、冬佳もなんとか持ち直したようで。まだ復帰したてだし、色々大変そうだなぁ。
◆◆◆
さて、その後工廠科の校舎を出たところに梨璃ちゃんから電話が入って結局ミリアムちゃんたち三人がいないことが確定して、百由の方も昨日から目撃情報は私が最後となると……どこに行ったのやらと他人事に考えながら午後の訓練終わりに寮まで帰ってみれば、二階のカフェテラスに見覚えのある衣装を着た姿。
「あれ……よっ、と」
「うわ、なんですその登場のしかた?」
ともかくアンカーを柵に打って跳び上がれば、茶化してくる百由を含め案の定な四人。なんでかスピカ着せられてる三人の内、ミリアムちゃんは百由の向かいでパフェ食べながらくつろいでるけど、離れた席に座る楓さんと二水ちゃんは何かを頼むでもなく疲れ果ててテーブルに頭を乗せている。
「んなことより、連絡もなしに何してたのよ?」
「そうですねぇ、シュッツエンゲルの絆を確かめてたってところかしら? ねーぐろっぴー」
「んぁ? お、おう……ま、まあそうなるのかのう?」
ふむ、これは百由が拉致った先でまたなんかめちゃくちゃなことして、ミリアムちゃんから恥ずかしい発言引き出したとか、そんな感じ? なら最初から直接聞けばいいのにとは、ひとつ下の世代特有の面倒くささなのやら。
「あれでゆうべは百由様のことボロボロに言ってたのですから、調子がいいと言いますか……」
「あはは、まあお似合いだっていうのには違いないかと……ほら、この写真とか」
そんな擬似姉妹のいざこざに巻き込まれた側として、凄く冷めた目で見ている楓さんはともかく、二水ちゃんの取り出す写真は……んん?
「なにそれ、着てるの初代アールヴヘイムの
「あー、ほらこないだぐろっぴに電話替わってもらったじゃないですか。その時の約束」
曰くその時ミリアムちゃんに取り付けたのが、写真で二人が着てる片側マント付きな衣装の調整に付き合ってとの約束で、勢いで結成式でもその格好のままブーケトスをやってたのがこの写真と……もしかしなくても結梨ちゃんが私との時にあれやったの、二人のを見てたから?
「まったく、変なとこばっかり影響されちゃって……で、楓さん、荷物は運んどいたから」
「ええ、帰って来た時にお会いした結梨さんから話は聞いておりますわ、お手数をお掛けしました」
ならいいか。あとは特に何があるでもないし、惚気話を続ける百由には構わず退散しようかね。
「えっ、雪華様、いつの間に……?」
ちなみに外から変な入り方をしたせいで、中で受付代わりをしていた樟美ちゃんには不思議そうな顔をされたけど。厨房の方でその料理の腕から『料理長』なんて呼ばれてるのは知ってたけど、こっちのお手伝いもしてるんだ?
新衣装
解放
黒紅雪華/アラウンドザウィロー