アサルトリリィ~円環の赫星~   作:ですティニー

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前回のあらすじ:体が闘争を求めてそうな入りとOPネタと背中は押しとけとフラグが少々と。
わざわざ最後にあんな前フリしたんだ、説明は不要でしょうや。朋友のブルーストライク、開催──
やっぱり今回も頼れる二川本。

ところで、なんで中の人ネタ八割な某DJとのコラボがやけに資料価値高いんです?(
実際に梨璃と似てるのは向こうの副会長だけどナ!


佐世保の港で

 さて、哨戒の方は多少ヒュージに遭遇したとはいえ特に問題になるようなこともなく、控室に戻ると感想戦のような振り返りのような話をしている途中、急な学院からの呼び出しに隊長の梨璃ちゃんと副隊長の夢結が部屋を出ることに。

 

「ねー雪華、梨璃と夢結どうしたの?」

 

「ま、隊長格の呼び出しってことはまた出撃案件ってとこだろうけど、受勲して外に出せるようになったからってここぞとばかりにコキ使ってくれるなぁ」

 

 二人を見送ってしばらく、ソファの背もたれ側からもたれてきた結梨ちゃんからの疑問には、ぼやきとしてもそこまで本気ではない返しに。

 元々二水ちゃんの縁かタブレット程度は使えていたとはいえ、レギオン単位で学園支給のケータイがスマホへ順繰りに更新されることになったり、梅の誕生日の件で色々融通してもらえたりと相応の待遇にはなっているのだから、その分は働きますかってところはあるし。

 

 ──てか、スマホについてはこの人数一気にってのは結構な異例みたいだし、用途的にやっぱり送り出す前提になってない? まあ、あたしは私用のケータイが元から中身的にはそっちに見劣りしてなかったりで、別方向に謎なんだけども。霊奈さん何か弄ってた?

 

「んー、にしてもこのタイミングか。なんか嫌な予感がするね」

 

「何かあるの?」

 

 脱線も程々に呟けば聞こえる距離な結梨ちゃんには反応されるけど、まあ当然この子は朝のニュースなんて見てないか。仮に同室の楓さんが見てたとしても適当に聞き流してるだろうし、新聞も言わずもがな。

 

「うん。ちょっと気になる話が「あいたっ……」んん?」

 

 聞こえた悲鳴に入り口の方で何かあったのか、と見てみれば控室を出ようとしてた雨嘉ちゃんがちょうど帰ってきた梨璃ちゃんの開けたドアにおでこをぶつけたみたいで、両手で痛そうに額を押さえている様子が。

 

「わわっ!? ごめん雨嘉ちゃん、大丈夫?」

 

「う、うん……平気」

 

 いや、神琳ちゃんもすぐ後ろにいるから部屋に戻ろうとしてたんだろうけど、仮に二人だけの世界を作っていたにしても、私でも何かあるって分かるような状況で帰るか普通?

 あるいは、神琳ちゃんが普段より無表情というか糸目っぽく見えるから、そっちの二人の間でも何かあったのかもしれないけど。それはそれで同室なんだし、二重の意味で気まずくない?

 

「ともかく、間に合ったようならよかったわ」

 

「で、なんだったんだ?」

 

「あ、はい! 今日じゃなくて明日にはなるんですけど、九州への外征任務が」

 

 梅の確認に梨璃ちゃんから夢結が引き継ぐ内容としては、近頃東シナ海から九州に向けて大規模なヒュージの群れが押し寄せている、って大体思い浮かべていたニュースの内容。

 あと、こっちは霊奈さんから今度福岡行くからって『着く前に落ちてなきゃあいいんですけど』とか愚痴るようなメッセージが一昨日くらいにあったし?

 

「いや、にしたってわざわざ百合ヶ丘にまで話持って来る? 九州から関東って日本半分くらいよ?」

 

 確かに百合ヶ丘は全体としては外征に積極的なガーデンではあるし、近頃慌ただしかったとはいえ1レギオンを貸してくれとなる分にはおかしくなくても、距離的には何か変に感じる。

 

「理由として考えられるのは、百合ヶ丘の受け持っていたネストがひとつ無くなったからかもしれない……とは聞いていますが、生徒会の方も今回の要請には疑問の方が強いみたいです」

 

 そう言ってくるのなら、まだひとつ残っているぞと断る理由にもなってしまう訳で。それでアールヴヘイムやサングリーズルみたいな高ランクレギオンでなく、受勲したてなウチっていうのがここしばらく大きな戦闘が続く中で出せるギリギリのライン、って感じがする。

 

「そこまで平和ボケしてんのかねぇ、今のご時世で。大体こっちでも報道されてるくらいなんだし、いい加減危機感持って動いてくれないと、着いた頃には火の海で降りる場所もありませんでしたとか、流石の私も勘弁よ?」

 

「…………?」

 

 おっと梨璃ちゃん、夢結と一緒に聞きに行ったわりには、微妙に状況飲み込めてないな? ってそこの梅も、口笛吹きながら目を逸らすでない。

 

「んー、こうなった事情、二水ちゃんとよくて楓さんくらいしか分かってなさそうじゃない?」

 

「あの……皆、ニュース、見ているわよね……?」

 

 ダメだこりゃと額を指で叩けば、夢結からの問いに全体的になんとも言えない空気が漂う中、天を突く腕が一本。

 

「最後の星座占いなら!」

 

「結梨、今はそういう話はしてないから」

 

 なんてどこかズレた返しには鶴紗ちゃんが手を降ろさせながらツッコミを入れてくれてるとはいえ、こうして真面目な話となると入り口の同室コンビも現実に戻ってきたみたいで、神琳ちゃんも普段通りの様子で話に入ってくる。

 

「確か、新佐世保港のことですよね。ニュースで見る限りでは、特に救援が必要な状況ではなさそうでしたが」

 

「ええ。実際前回の襲撃は、現地のリリィと防衛軍とで十分対処出来たみたいね」

 

 私が見た感じも、インタビューを受けたリリィはレポーターさんのマイクを引ったくる勢いで応える余裕があるくらいには楽勝だったようで、リリィにも軍にも、当然街にも特に被害らしい被害はなさそうだった。

 

 けど、陥落しているお隣の地方な中四国と違って九州はネストの討伐が進んでいて国内でも比較的落ち着いてしまっているが故に、結構な頻度で他所に戦力を回す立場になってしまい、そんな状況でひっきりなしにヒュージが来るようじゃ、タイミング次第では自前の戦力だけでは対処が難しくなる恐れがある──というのが、今回わざわざ関東まで救援を飛ばしたってことみたいだけど。

 

「どうなのそれ? 現場の人間としてはそもそもの戦力配分が間違ってるんじゃないか、って感想になるんだけど。これじゃ私たちが助けたところで、現地のガーデンや軍のお偉いさんが陣取りの基本から勉強し直さなきゃ、その内あっさり落ちるでしょ」

 

 いくら政府が録に機能せず、ガーデンにしろ軍にしろ扱いを半ば放り投げてるせいで上の方の連携がほとんど取れていないにしても、戦力をあちこちに分散させたから守りの手が足りませんでございますです。なんて、流石に基礎の段階で失格でしょと言いたくもなる。

 

「ええ。出発が明日なのも、そもそもこの件を受けるかどうかすらわたしたちの判断に任せられているから、というのもありますが」

 

「そりゃあそうでしょうよ」

 

 折角解放した土地を空き家にしてまた取られましたー、なんて徒労に付き合う義理なぞ、流石の百合ヶ丘にもなかろうて。

 

「ま、その辺りはおじさまにチクっとけばいいとして……どうしたもんかねぇ」

 

 幸いにして、絶賛立て直し中な政府側に何かを伝えられるコネはあるから、その点は少しでも改善を期待するしかない。けど、徒労だなんてバッサリ両断した以上、この案件は別に応じずともいいのではないか? という思考がどうしても過ってしまう。

 

「先方も今すぐどうにかなるような状況ではないとしても、終わりが見えない以上少しでもいいから戦力が欲しい、ということらしいわ」

 

 私の意見はどっちとも言えない──と見れば他のメンバーの意見も聞こうと、状況の飲み込めていない面々にも分かりやすく夢結が説明をすれば、お貴族組を先頭に次々と意見が。

 

「ふぅむ、確かに異常な規模の群れともなれば、何かしら裏で起きてそうではあるが」

 

「問題は、こんな杜撰な運用ではわたくしたちが加勢してその場しのぎをしたところで、百合ヶ丘に帰った頃には無事陥落。となっている恐れがあることですわね」

 

「うーん、そうなると適度な緊張状態を維持するために、ここは断るべきなんですかね? いやでも、群れの根元を先に叩ければ……」

 

 その中で二水ちゃんの途中から独り言のようになっている部分を聞くと、海からのヒュージで少し前のことを思い出したのか、結梨ちゃんが乗っかるように首を傾げている。

 

「んー、じゃあまた海の上走ればいいの?」

 

「結梨ちゃん、それ今はもう出来ないって言われたよね……?」

 

「梅様も、悪いお手本にしかならないんですぐにやろうとしないように」

 

「お、それフリか? 任せろ鶴紗。一回やってみたら雨嘉乗せても案外余裕だったから、今度は二人くらいはやれそうだゾ!」

 

 結梨ちゃんと梅の発言には梨璃ちゃんと鶴紗ちゃんが咎めるような空気になったりで、私の方にもどことなく流れ弾を感じなくはないけど、周りが一気に騒がしくなる中、何かが引っ掛かったようにしていた神琳ちゃんの顔を雨嘉ちゃんが心配そうに覗き込んでいると、不意に手を挙げての発言が。

 

「……行きましょう」

 

「神琳……?」

 

 曰く「頼られた以上断る理由はありませんが、怪しいと言うのならば周りの判断には従います」──なんて口振りのわりにどこかヒリ付いた雰囲気を見せられては、見詰められる梨璃ちゃんを始め無碍に出来るような仲間はいない。

 

「うん。わたしは神琳さんの意見に賛成だけど、皆はどうかな?」

 

 そうして梨璃ちゃんが確認するように部屋を見回せば、真っ先に鶴紗ちゃんが頷く。

 

「そうだね、わたしも助けられるようなら助けに行きたい。皆がわたしにしてくれたみたいに」

 

「ま、ヒュージとの戦いで絶対に安全なんてこともないしナ。梅もいつでもいいゾ!」

 

「楓ー、九州って遠かったよね。モンちゃんにお土産とかいる?」

 

「ピクニックではありませんのよ? まあ余裕があれば、ということで」

 

 いざそうと決まれば反対意見もなく、何かあればこっちでなんとかするしかない……なんて丸投げされるのも、最早いつものことかと私も半ば諦め気味に納得していると、何故か梨璃ちゃんが気恥ずかしそうに頬を掻いているのを二水ちゃんに気付かれたようで、ハテナを浮かべられていた。

 

「梨璃さん?」

 

「その、九州に行くのが楽しみ──なんて言ったらやっぱり子供っぽいかなーって。あ、あはは……」

 

 ふむ、結梨ちゃんが楓さんに窘められてるのを見て、ってとこだろうか? まあ私も佐世保に行くんなら折角だし佐世保バーガーでも食べて帰るかーなんて考えてるから、あんまり人のことは言えないとして。

 

◆◆◆

 

 翌日、私たちは百合ヶ丘を離れて九州は長崎県、佐世保市の新佐世保港にいるけど、経路が断絶していると陸路は当然使えないのだから今月やたらと縁のあるガンシップに乗り到着した時には、既に港はお客さんで大盛況だった。

 

「やれやれ。『いらっしゃいませー!』って気分でもないけど!」

 

 事前の配置や分担の確認は行きの機内で済ませておいたから、開けていて狙いやすい場所を取ると迷わずブリューナクとアステリオンをシューティングモードで両手に構え、トビウオのようなヒュージがフヨフヨと海上に浮いているのを次々撃ち落としていると、隣でグングニルを手に同じように迎撃している結梨ちゃんからは、露骨に不満そうな声が。

 

「雪華ー、直接斬りに行っていい?」

 

「オススメはしないかなぁ。下手に海に飛び込んで足場出したりなんてしたら、マギに反応して何が出てくるか分かんないし」

 

 確かにこのヒュージたちのボーッと浮いてるだけのような感じは一見隙だらけに見えるだろうけど、群れ単位でそうだというのはわざわざ向こうから攻めてきたにしてはどうにも引っ掛かるから、私としては口を酸っぱくせざるを得ない。

 

「むーっ、何もしてこないから別にいいでしょ?」

 

「だからこそ、油断して突っ込んだところであの時みたいに不意を突かれて襲われたら、結梨ちゃんもたまらんでしょーが」

 

「うっ……それもそっか」

 

 よろしい。痛い目から学べるのなら、まだいくらでもやり直せる証、少しはシュッツエンゲルらしいことができただろうかと思考がズレていると、海から聞こえて来るのは──

 

「あっ、ぷ……だ、誰か助けてー!!」

 

 ──まだ幼さを残した、子供の悲鳴。逃げる途中に、慌てて足でも滑らせたか? なんて分析している間に、一人飛び出す結梨ちゃん。

 

「雪華、わたしが行く!」

 

「あ、ちょっと!?」

 

 今回の戦闘での私たちの役目は、三人ずつ三組に別れた他九人のフォローで、こういうアクシデントに率先して動くのは間違っちゃいないんだけど、あっちの方担当な神琳ちゃんたちは浅いところだったからと既に子供を助けようと海に飛び込んでいるのが見えるし、楓さんたちのチームも気付いて援護に動こうとしてるしで、あんまり一ヵ所に集まるのもよくないんじゃ?

 

「っと、その分こっちが頑張らないとなぁ!」

 

「おう、さっさと片付けるゾ!」

 

「へ、ちょっと梅?」

 

 ともかく一気に大半のメンバーが抜けた穴を埋めるために『約束の領域』で『円環の御手』を拡大し、念のため持ち込んでいたライザーを追加で起動させての一斉射撃をヒュージの群れに叩き付けていると、今度は梅が横を抜けて海の上を駆けていく。

 

「ああもう、そろそろ陸に残ってる人数のが少なくならないかなぁ!?」

 

 とはいえ梅と組んでたはずな夢結と梨璃ちゃんもこちらに駆けてきているし、案の定海に入った神琳ちゃんたちに反応したのか周辺のヒュージが集まってきて囲まれかけてる以上、やっぱり誘うような動きは油断させる罠か何かだったんだろうけど。

 

「おっ、りゃあぁぁ!!」

 

「ま、梅様凄いです!」

 

「まったく、いつぞやの結梨に負けじと……ということもないのでしょうけれど。雪華様、こちらに合流をお願いします」

 

 そのまま梅が海の上だろうと変わらぬスピードで駆け抜け、CHARMを振るって神琳ちゃんたちに近寄ろうとするヒュージを蹴散らすのだから、ゆるりとした動きのまま陸地への進撃を続けている分へのインベーダーゲームは、こっちで引き継ぐべきか。

 

「はいはい、名古屋撃ちとかやってる余裕はないけど!」

 

◆◆◆

 

「うぅ、なんか生臭くなったような気がするゾ……」

 

「わざわざ昨日の『押すなよ』をやるからでしょーが」

 

 いくら水に沈む前に足を進めればいいなんてニンジャ染みた真似をしても、というかそんなことをしたら当然海水も勢いよく跳ねまくる以上、さもありなんというか。

 そんなボケなのかうっかりなのか判断に困る梅の嘆きにツッコミを入れる余裕があるように、あれ以降特にトラブルらしいトラブルもなく、ヒュージは全滅し海に落ちてた子も軍人さんたちに引き渡して、避難所へ送り届けられた──って結果だけを見れば拍子抜けなくらい、あっさりと戦闘は終わった。

 

「けど、動きの怪しいヒュージがこの規模で何度も何度も、ってのはやっぱりおかしいよねぇ」

 

「そうですね。そもそも小型のヒュージだけでここまで規則的な群れが形成されている、というのがまず──」

 

 夢結にぼやけば、言いたいことは即座に理解してくれる。だというのに、現地の軍司令部からの通達は『終わったから帰ってよし』とはねぇ。

 ここまで酷いと平和ボケどころか、異常を異常と判断することすら出来ないのは流石に無能呼ばわりを避けられんぞと。今回の件の親玉を引きずり出すために、まずあんたらから犠牲になるかい?

 

「このまま帰ったら、週明けの朝刊の見出しは

『九州大炎上

 軍は予兆を察知出来なかったのか』かなぁ」

 

「笑えない冗談ですわね。とはいえこれが現実となれば、妥当な末路と言う他ありませんが」

 

「わたくしも同意見です。いくら九州内部のネストが討滅されているとはいえ、この有り様では護る者としての意識が欠落しているとしか言えません」

 

 出発前から危惧してた通りとなってしまえば呆れる他ない楓さんと、昨日からやけにピリピリしている神琳ちゃんの言い方には大分批判の色が強いけど、まあ仕方ないか。

 事実、ここで戦闘行為を行っていたのは外様なはずの一柳隊(ウチ)だけで、他所を担当していたのかさっきの子を軍が回収しに来たのだって戦闘が終わってしばらくしてと、上層部だけでなく現場もこの様である。結局リリィだけがやる気だったのなら、そのリリィが他所に飛ばされた以上残るのは──

 

「うおっ、なんだ?」

 

 そこで隣の梅が驚く様子に思考の海から引き上げられてみれば、多分さっきの子を助けた話を聞いていたのか神琳ちゃんたちの方にいたのは軍服姿の男性──結構な装飾の見られる帽子の感じからして、どこかの艦長さん辺りか。

 

「肩書き通りの重役出勤ですね、キャプテン?」

 

「お、おい雪華サマ!?」

 

 初対面の相手にいきなりの喧嘩腰は梅には驚かれても、艦長さんの方は分かっていた。とでも言いたげな感じに目を閉じ頷きながら受け止めている。

 

「いやはや、そちらのオッドアイのお嬢さんといい、中々に手厳しい。しかし、どのような理屈を捏ねようが、我々が市民の危機を前にまともな動きを取れなかったのは変わらないからね」

 

 だから言い訳もしないと……どうにも、私というより元烏丸隊全体の傾向として、見知らぬ大人なんぞほとんど敵も同然だって構えてしまうけど、視線を冷たくした段階で割り込みが。

 

「くしゅん!」

 

「……あー、とりあえずシャワーだけでもいいんで借りられます?」

 

「はは、勿論だとも。折角駆け付けてくれた救援に風邪を引かせて帰らせましたなど、軍人だなんだ以前に人としての問題だ」

 

 まあ、これ以上何かをあげつらうにしても私の憂さ晴らしにしかならないし、くしゃみをした結梨ちゃん以外だと、先に飛び込んでいた神琳ちゃんチームの中で雨嘉ちゃんもわりと具合は良くなさそうだしで、ご厚意は素直に受けておこう。

 

◆◆◆

 

「で、その結果こうなりましたと」

 

「じゃーん♪」

 

 案内された艦の甲板で待っていると、中から水落ち組が出て来て私たちの前に真っ先に駆けて来た結梨ちゃんが、艦長さんに貰ったという式典用の衣装を見せようと駆けてくれば、いつぞやのようにクルリと一回転して、普段と違って高めのポニテに結んだ髪を翻す。最近衣装チェンジが多いからって、こういうの慣れてきてない?

 

「〈衣食足りて礼節を知る〉……ってこれはなんか違うか」

 

「んー、ならそこんとこも教えてやったらどうだ、お姉様?」

 

 やかましい。と独り身だからって気楽な梅からの茶化しには脇腹への肘を返すとして、海に飛び込んでいた他の三人──鶴紗ちゃん、神琳ちゃん、雨嘉ちゃんもまた同じような雰囲気の、けど細かい意匠は微妙に違う衣装に着替えている。

 

 黒地でシックな感じは百合ヶ丘的には見慣れた具合だし、頭の装飾品が同室コンビがお揃いな小さいベレー帽を斜めで、ワケありコンビが大きめなリボンとセット気味なのも悪くない。となると、結梨ちゃんの髪は鶴紗ちゃんにでも結んでもらったのかね?

 それはそれとして、雨嘉ちゃんのはノースリーブなのはともかく胸元が結構空いてたり、大分趣味っぽいのはなんなのか。眺めてたらそこに今更気付いたのか雨嘉ちゃんは腕でガードしながら恥ずかしそうにしているし、大丈夫か軍のデザイン担当?

 

「しぇ、神琳……?」

 

 なんて変な心配をしていると、神琳ちゃんが先程から梨璃ちゃんたちと談笑していた艦長さんに詰め寄っているのに気付いて、今度はハラハラしながら見守っている。

 

「なるほど、確かにわたくしたち一柳隊はつい先日外征レギオンとして登録されたばかり、まだそういった面での心構えは足りないのかもしれません。ですが、この(ふね)を、多くの乗組員の命を預かる立場のあなたがそれではいけないのではないでしょうか?」

 

 まあ、これに関しては「今日は天気もいいし観光でもして帰りたまえ」なんて呑気に話してた艦長さんの問題ではある。ただでさえ上の方から早く帰れも同然な扱いをされた上で、現場すらもう終わった風に思っているのなら、私たちが帰ればもう九州は終わりだろうと思うのは仕方ないか。

 

「神琳、怖い匂いしてる……」

 

「お、おい神琳、それは言いすぎではないか? そりゃあわしも百由様に土産のひとつやふたつ、選んで帰ってやろうかとは思っておったが……」

 

「わたくしは何か、間違ったことを言っていますか?」

 

 実際私も思っていたことではあるし、一度ならずヒュージには痛い目を見てるはずなのにこの楽観的な考えでは「もう救えない」とまで言いかねないけど、仲間にまで攻撃的になってる今の神琳ちゃんの様子は、あまり良い方向ではない。

 

「レギオンメンバーの無礼をお許しください」

 

 そう感じたのは夢結も同じようだったから、それからもズバズバと物を言う神琳ちゃんと艦長さんの間に割り込むと、深々と頭を下げていた。なら、こっちの担当は私かと彼女の横に向かうと、ストップだと肩に手を伸ばす。

 

「神琳ちゃんも、今はそこまでにしておきなよ。これ以上どうなろうと、あくまでそれは現地の人たちの責任だ。私たちは後から泣き付かれた時に、全力で罵ってやればいいでしょ」

 

「…………」

 

「……いや、ぐうの音も出ないとはまさにこのことだな。どこまでやれるかは分からんが、出来る限りの働きかけはしてみよう」

 

 こっちの態度はともかく、痛いところを突かれたとは艦長さんも理解しているようで「だが、折角ここまで来てくれたのだから、観光をして貰いたいという気持ちは本当だよ」と何処か寂しそうに告げると、通信機を取り出しながら艦内へ戻っていく。

 

「やれやれ……でもまあ、神琳ちゃんが言わなければ私がもっとボロクソに言ってただろうけどさ。少し、らしくないんじゃない?」

 

「確かに、雪華様の方がそういうキャラではありますね」

 

 うーむ、軽口のような本音を投げてみても、返しはやっぱり本調子とは言い難い。何か覚えがありそうな感じだけど、百合ヶ丘でこういうパターンはあったかどうか……

 

「神琳、何か知ってるの?」

 

「そうですね。わたくし一人で抱えるくらいなら、皆さんにも共有しておくべきなのでしょう……最悪の事態に、なる前に」

 

◆◆◆

 

「まったく、どうにも嫌な流れだ!」

 

 その後、どうせ素直に帰るつもりもないのだからと近くの展望台に登って〈九十九島〉─といっても実際はその倍以上の数な島からなる、有名な観光スポット─を眺めたりしていたら、落ち着く間もなく軍から新しいヒュージの群れが襲来したとの知らせを受けて、新佐世保港へとんぼ返りする羽目に……なっただけならまだしも、あれから神琳ちゃんの様子がまた悪い感じになっている。

 雨嘉ちゃんに何かを話そうとしてのタイミングでヒュージが来た、というだけじゃなくて、下手にキャリアの長いリリィの陥りがちな空気感を漂わせていたから。

 

「雪華様、そっちに行きました!」

 

「分かってる!」

 

 今度は空飛ぶタコのようなヒュージ、それも最初の群れと比較するまでもなく大分攻撃的なやつだったから、当然遊撃隊な私たちも忙しい。ツインバスターキャノンの照射で複数体まとめて薙ぎ払って、冷却を待つのも惜しいと一旦シールドごとパージ、ブリューナクの砲撃で進行を止めたところへアステリオンの弾丸を叩き込んで──

 

「雪華、こっちは終わったよ!」

 

 その間に梨璃ちゃんたちの方に回ってた結梨ちゃんが帰って来たなら、ブレードを展開させたアステリオンにアンカーを絡ませて、近くの一体へ投擲、突き刺さったのを確認してから振り回して隣のヒュージへぶつけ、シルトには視線で指示を出す。

 

「落ちちゃえー!」

 

 アンカー越しに引っ張りアステリオンをヒュージから引き抜くと同時、結梨ちゃんの専用グングニルからの射撃がまとめられたヒュージを撃ち抜く。これで粗方片付いたかと見渡してみれば、上陸しかけの個体が夢結と梨璃ちゃんに撃破されるのが見えたから、かなりギリギリだったようで走り回っていた結梨ちゃんは大の字に倒れ込んでいた。

 

「なんかさっきと全然違うから疲れた~」

 

「こりゃ、タイミング良かったのか悪かったのか分かんないね」

 

 ヒュージの本格的な進攻に居合わせてしまったと取るべきか、その前に来れて間に合ったと取るべきか、どっちにしろ面倒には違いないなと「こんなところで寝ないの」なんて嗜めながら結梨ちゃんの腕を引っ張って起こしていると、神琳ちゃんがどこか観念した様子で寄って来るなら、こっちも気持ちを切り替える。

 

「さっきから何か知ってるって感じだったけど、話してくれるってこと?」

 

「はい。それでは参りましょうか」

 

◆◆◆

 

 軍にも話は通しておいた方がいいと、艦長さんに聞いてみれば「私は君たちを気に入っているからね」と快く艦内の会議室か何かなのだろう長いテーブルの置かれた部屋を貸してくれたから、それぞれ席に着くと私から見て反対側の真ん中に座った神琳ちゃんが、思い出と傷へ同時に触れるような、懐かしさと痛ましさを混ぜた様子で語り出す。

 

「この新佐世保港へヒュージが立て続けに押し寄せる様子は、わたくしの故郷が襲われた時と同じ状況なのです」

 

「神琳の、こきょう?」

 

「台北市のことだナ。でもあそこは……」

 

 聞かれた梅が私と挟む位置な結梨ちゃんへの答えに詰まる通り、台北市は既に陥落している。だからそれを話すのは、神琳ちゃんにとっては故郷が再び焼かれるような、そしてそれに何も出来なかった当時の自分の無力さを思い知らされるような気分になるだろうに、真っ直ぐ向き合って続けてくれる。

 

 ──百合ヶ丘に幼稚舎、つまりは小学生の頃から通っていたように早くにご両親に連れられて日本へ来ていた神琳ちゃんは、三人いたお兄さんの内一場下の浩宇(はおゆー)さんと特に仲が良かったようで、古風に海を隔てて文通なんかをしていたらしい。

 数年前になる当時は人類側の装備もヒュージの規模も今より大人しく─というよりここ二・三年の伸びがどちらも異常なだけで、どうにも作為的なんだけど─リリィ抜きでも戦局は比較的落ち着いていたとか。

 しかしある日、奇妙なヒュージの話が手紙に書かれるようになった。それも、今日見たようなタイプと、その群れの親玉らしき個体の。

 

 あるいは、神琳ちゃんのお兄さんたちはもし自分たちが全滅しようと最低限外に情報を残そうとした……なんてのは、少し夢がないか。

 

「──その後。巨大な、龍のようなヒュージが実際に台北市を襲ったのを知ったのは、教導官からもう兄から手紙が届くことはない。と連絡を受けた時でした」

 

「神琳……」

 

 トビウオのような攻撃性の低いヒュージと、反対に攻撃的なタコのようなヒュージ、進攻を担当する種族が入れ替わったということは、ボスである龍のような個体の来るタイミングが近付いている証。

 

「だから、その準備をしてるところに、こっちから殴り込みをかけようって?」

 

「ええ。わたくしの調べた限りでは、あの龍のようなヒュージ──『ファンバオ』と呼ばれる個体は圧倒的な射程を持つレーザーを放てる代償か、その活動は周期的なものになっているようなのです」

 

 なるほど、過ぎた力にはリスクが伴うのはヒュージも変わらず、神琳ちゃんの故郷を焼いた龍の息吹は、そんな簡単に撃てるようなものではないと。

 

「つまり、完全に目覚めてからでは遅い……ですが、今すぐにその居場所を突き止め、先手を取ることができれば、あるいは──!」

 

「さもなければ、この九州も君の故郷と同じように、か」

 

「お願いします! 全てを失ってから……後悔しても遅いんです!」

 

「神琳、そこまで。艦長さんにも、わたしたちにもちゃんと神琳の想いは伝わってるから」

 

 どんどん熱が入ってくる神琳ちゃんの様子に、待ったを掛けるように腕を取って止めるのは隣に座っていた鶴紗ちゃん。そこで落ち着けはしたと、艦長さんがこちらに問い掛けてくる。

 

「この話は、他にもしているのかね?」

 

「防衛に関わるところには、一通り。ただし政府の方はご存知の通りまだ身内の不祥事の火消しに忙しいし、九州地方の方は……まあ『余裕がない』の一点張りですね」

 

 一応手応えのある返事もありはしたけど、あの人の遊び心なのか内容の不明瞭なそれを伝えるのもあれだからお手上げだと肩をすくめてみれば、艦長さんも分かっていたように深く頷いている。

 

「まあ、仕方のないことだろう。中国地方の奪還に向けた戦局は変わらず芳しくないと聞く、そんな状態で可能性の話に人手を減らせはしないさ」

 

 そうやって他所ばかりに目を向けているから、今こうなってしまってるんだろうにと言いたくなるけど、これは艦長さんでなくもっと上の問題だ。後から姉さん経由で、おじさまにチクってやればいいだけの話。

 

「でもここには梅たちと艦長がいる。じゃあ、誰かがなんとかしてやらないとナ?」

 

「ふっ、はっはっは! そうだな、このような時に率先して立ち上がらねばならないのが我々だ。いや、君たちと一緒にいると私まで若さをもらえている気がするよ」

 

 梅からの振りに上機嫌になった艦長さんがそのままの調子で神琳ちゃんと話すのが見えるから、私は隣の結梨ちゃんへ耳打ちを。

 

(結梨ちゃん、神琳ちゃんから目を離さないように)

 

(雪華?)

 

(今の話、ファンバオとかいう龍のヒュージがあの子のお兄さんたちのカタキだ、ってことでしょ? 今は落ち着いて見えても、対面した時にどうなることやら……復讐心ってのは、分かっててもどうしようもないものだからさ)

 

 誰かの敵討ちというのは、確信を得てからな夢結はともかく、感覚的な段階だった私でさえあの様だ。それに姉さんたちなんて、復讐のために今ある世界の枠組みを壊そうとさえしている──

 だから、わざわざ神琳ちゃんがファンバオの情報を集めてた目的にそれがないなんて、楽観的でいられるなら苦労はしないからね。私も注意はしておくけど、保険は増やしておくに越したことはない。

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