またしばらく単独行動な、東京送りマークトゥ。
今後のフリも兼ねて、やっておきたいこともやっておかないといけないことも多々…まあ、旅行感覚で楽しみますわ。
「さて、このお店って話だけど」
月も明けて8月の東京は新宿、メールにあったあれこれを確かめながらドーナツ屋さんへ入ってはみたけど、少し早かったのか知ってる顔は誰もいない。なら先に慣らしでもしておこうかと、イートイン用のメニューを眺めていると肩をツンツンとされるから、振り向いてみるとそこには──
「ん?」
「やっほー、雪華先輩。一番乗り?」
──同じく鎌倉組だからと他より早く来てたのか、葵ちゃんがいた。つまるところ、いつぞやの下北沢での面々にこないだのお礼がてら会えないかと確認を取ってみて、各々の都合が付いたのが今日ということ。
とはいえ、流石に全員が全員時間を合わせられた訳じゃないから、御台場と神庭には後から直で向かうことになるけども。
「まあね、折角だしなんか頼んで待ってようかなーって。それと、こないだはありがとね」
「いやいや~。じゃ、お礼に何か奢ってもらおっかなー?」
うーん、遠慮がない。まあ、一人一個くらいなら元より覚悟の上だけども……って、迷いなく麺料理頼んだね?
◆◆◆
「ドーナツ♪ドーナツ♪」
「こらこら、店ん中で走らないの。あれ、センパイ先に来てました?」
「好きに食べてるから気にしないでー」
とりあえず私も軽くつまめる物を頼んで待っていたら、やって来たのは藍ちゃんを先頭にヘルヴォルと、外で会ったのかルド女組も一緒のようで……って。
「あれ、
「ええ、折角の機会だからと」
「わ、わたしの方は、ちょっと心配掛けすぎたので……」
おおん。同じシュベスターと言っても、姉と妹の力関係は対照的と……まあ押し掛けられた側な以上、普段の佳世じゃ押し負けるか。なんて納得していると、妹側の二人が前に出てくる。
「改めて、岸本・ルチア・来夢です!」
「
「私はエレンス「はーい一葉は大人しくー。皆もさっさと頼んじゃいなよ」
いや、なんで便乗しようとしたし一葉ちゃん。やっぱりなんか色々ズレてるよねぇ、あの子。
◆◆◆
「で、揃ったところで挨拶がてら、皆こないだは姉さんからの無茶振りに悪かったね、改めてありがと」
とりあえず全員注文は済んだならと、席についたところで切り出せば返事は一葉ちゃんから。
「いえ、夢結様にもお話ししましたが渡りに船と言いますか。あのままではまともに動けもしないところでしたので」
「ウチのガーデンってばケチでさぁ、そっちのシルトを捕まえろーって言う癖に、そのための足も手段も一切用意しないもんで」
なんともまあ……てか、あの時はまだシュッツエンゲルについては頼まれてもいない段階だったけど、まあ今がそうだからわざわざ否定するでもないか。
「でも、お元気そうでよかったです。一葉ちゃんたちが見付けた時は、随分ボロボロだったと聞いたので……」
「というより、ウケ狙い?」
「いや、確かに写真見せられても我ながらそういう有り様だったなーとは思うけど」
純粋に心配してくれてた千香瑠はともかく、瑤はそんな人をボケ担当みたいな扱いするでない。しても問題ないって信頼と受け取れるかも、まだ微妙なラインだし。
「ふふ、相変わらずみたいですね」
「既にその認識だっていうの、結構不服なんだけど?」
挙げ句幸恵からもそんな扱いという。おかしい、シモキタの時はそこまでやらかしてはなかったはず……いや、夢結から何か聞いたか? まあそんなことはいいかとドーナツを取ろうとして、手元のは食べ切ってたと指は空振り。
「ありゃ……ん?」
「はい、あげる」
ああ、どうも。と藍ちゃんがチョコのクルーラーを持たせてくれたから受け取ると、出所なのだろう彼女の隣の恋花は、頬杖をついてなんとも言えない顔をしている。
「きにしないで、恋花今ダイエット中だから」
「おおん、苦労してんねぇ」
「あー、ノーコメン「そうなのですか? それにしては昨日も訓練の後、ラーメン屋さんを三軒は回ったとの情報が……いたたっ、痛いです恋花様!」
本人は気まずそうに視線を逸らしたというのに、一葉ちゃんから色々暴露されてはたまらんとポカポカ殴って、無言の抗議。
「む~……このっ、このっ!」
とかやっていたら気になるのは、向かい側の席で小さな丸型ドーナツの盛り合わせを前に、イチゴチョコのコーティングのせいか中々ピックが刺さらないと、四苦八苦している幸恵の様子。
なんか今にも二刀流して『円環の御手!』とか叫びだしそうな必死さに皆の視線が集まっていると、横からスッと出てきた別のピックが、ドーナツを刺して持ち上げている。
「あっ……」
「お、お姉様。あーん?」
思い付きでやってはみたものの、結構注目されてるなと後から気付いたのか、来夢ちゃんは大分照れちゃってるけど、幸恵も幸恵でかなり顔は真っ赤に……あ、食べた。
「……あ、ありがとう、来夢」
「え、えへへ」
なんかもうお互い恥ずかしさやらなにやらでモジモジしてるけど……この光景、撮ったら二水ちゃん辺りに言い値で売れないかな? いや、これから行くし紅巴ちゃんか、いっそ御台場の子でも適当に捕まえて──
「雪華先輩。人として越えちゃ行けないラインって、あると思うんだ」
「……それ、リリィオタクの結構な割合が手遅れじゃね?」
──とはいえ、葵ちゃんに先読みされてスマホを取り出そうとした手が抑えられた以上、ほんの気の迷いで終わるんだけど。
「お姉様」
「……わっ、わわわ分かってますよ!」
ついでに佳世の方もシュベスターに見咎められて同じような有り様だから、私の矛先逸らしに否定の言葉もないという。
「ま、皆も変わらずで何よりってとこかな?」
「はい! まあ、風当たりの方も……っ!」
さて、一葉ちゃんの言葉を遮るように響くサイレン。これは……と現地なルド女組に目線を送れば、流石というか気持ちを切り替えた幸恵が真っ先に頷いてくれるのだから、ヒュージが出現したというのに違いないだろう。
「ならそっちはテンプルレギオンの指名待ちがあるでしょ、こっちで先に対応する!」
有事に備えてルド女組もCHARMケースこそ持ち歩いていても、指名があればギガント級の対応に集まらないといけない以上、こんなところで引き留める訳にもね。
「ですが……」
「お気になさらず! 勝手な縄張り荒らしは、エレンスゲのお家芸ですので!」
「おーい、そういうとこも変えてくんじゃないんかリーダー?」
恋花のツッコミはともかく、使える物は悪評だろうと使えばいいとは私としても同意だから、ここは『わるいガーデンのエレンスゲ』に使われてやるとしましょうか。
「それじゃあヘルヴォルの同盟レギオンの一員として、エレンスゲに街が荒らされないよう監視させてもらうとするかな」
「じゃあわたしは、エレンスゲの提携ガーデン所属としてで?」
これで全員一応の建前は用意したし、幸恵も納得はしてくれたようで。それでもルド女の所属として、伝えないといけないことはあると口を開く。
「分かりました……ただ、近頃ルド女の守備範囲に現れるヒュージには、明らかにゲヘナの思惑が見え隠れしています。十二分に気を付けて」
「それなら慣れてるよ、不本意なことにね。どうせヘルヴォルもでしょ?」
「……そう、ですね。なのでいつものように、全て倒して突き進むのみです!」
「だってさ?」
まあ、ガーデンの顔でもあるトップレギオンでありながらそのガーデンの方針に逆らうだなんて色々と半端な立場なんだから、有形無形の嫌がらせなんてしょっちゅうだろうしねぇ。
「それでは、お任せします。行きましょう皆!」
「「はい!」」
そのままルド女組はガーデンに戻ってもらうから、お店の方にはこっちから説明しといて、お仕事と行きますか!
◆◆◆
「店内の避難、完了しました!」
「もうだれもいないよー」
少しして、逃げ遅れがいないかの確認を終えた一葉ちゃんと藍ちゃんがドーナツ屋さんから出てくれば、改めて戦闘開始となる訳だけど。
「ん、お疲れ。この辺りも大体終わったみたいだけど、どうにもヘンなのが出てるとかなんとか」
「あー、多分それ政府直轄の強化リリィ部隊ってやつっしょ? 都内のガーデンにはこの前試験運用が始まったーなんて通達あったんで、一応後で鎌倉組にも共有しとこうかなぁとは」
恋花もウソ臭いと感じてるのが丸出しなように、政府なんて言っても今のグダグダっぷりから専属のリリィ部隊なんぞ、組織する余裕も引き受けてもらえる信頼もなさそうだし、どうせ防衛絡みのほとんどを丸投げされてる烏丸の直属みたいなもんなんだろうけど。
「なるほどねぇ。通信に混ざって仮面やらマントがどうこうって聞こえたし、案の定姉さんたちの趣味か……」
「姉さんって、あの時メールくれた社長さん?」
葵ちゃんの問いには「今はそうなるね」と頭を押さえながらの肯定を返していると、千香瑠と瑤がそれぞれから見た評価を。
「卒業後も雪華様のことを気に掛けてくださっていますし、いいお姉様だとは思いますけど」
「うん。あれだけ動きが早いのも、元から気にしてなきゃ無理だろうし」
別にその点は否定しないけども、身内としてやり口を知ってるだけに、国のお墨付きで動かせる部隊なんぞを手に入れてやることなんて、大体分かってしまうというか。
「まあ、それでゲヘナをボコボコにしてくれるんなら、こっちの手間も減るんだろうけど……って、それはいいか。葵ちゃん、反応回して」
「了解、っと!」
ヘッドセットのバイザーを下ろしながら言えば意図は伝わったようで、葵ちゃんが頭に着けているヒュージサーチャーをイヤホンでも弄るように指でトントンと叩けば、届いたヒュージの反応をヘルヴォルの方のスマホに中継する。
「お、きたきた。まーたハイテクなもん使ってますねー、流石第4世代」
専用のそれには当然及ばないにせよ、携帯端末に入れるタイプのサーチャーもあるにはあるから、それを葵ちゃんのとヘッドセット経由でリンクさせた、というのが今やったこと。
そして、わざわざ付属品だけ持ってきたなんてこともないから、今回はライザーに加えて修理の終わったブレイザーも持ち出している訳で、一葉ちゃんなんかはまじまじと見つめている。
「これが第4世代型のCHARM……普段から使っている専用機とは同系列のようですが」
「センパイセンパイ、第4世代ってんなら、こないだ海で使ったとかなあの福岡ファンネルないんです?」
言い方。とはいえ結構前にゲーセンで暴れてたって考えると、まあ頻繁に寄ってそうな恋花からの雑な呼び名もやむなしか。
しかしそこがもう知られてるのか……まあこっちも二水ちゃんからリリィオタクネットワーク経由か、今だと同盟レギオンとしての連絡路も? なんにせよ、整備中なのを抜きにしても色々とこんな時に持ち出せるような代物でもないから、言葉は濁りまくるけど。
「いや、あれ街中で使うには明らかにオーバースペック過ぎるし、そもそもあんなつっかえるもん背負って電車乗れる?」
「……あー、そりゃ二重の意味で無理か」
例えどういう風に持ち運んだとしても、あんなサイズじゃ少し動かすだけで他の乗客に当たるか窓ぶち抜くかな未来しか見えないし、CHARMに使用されている素材──俗に〈エーデルメタル〉と呼ばれる貴金属はマギを通すことで重量が軽減される特性があるらしいけど、ストライカーはその上でもやけにズッシリときたし、だからあの時も最初っから独立行動させてたというだけの話。
で、当然そんな物を飛ばせるスラスターもそれを叶える高出力から来る破壊力も、どれも街中で気軽に使えるような物じゃあないワケで。いや、リミッターかけてる上であの殲滅っぷりでしょ? んなもん都内でぶちかましたら、辺り一面火の海でどっちが被害出してるか分からなくなるでしょーが。対艦装備よ対艦?
「ねーねー、ヒュージ動きだしたみたいだよ?」
とはいえ画面とにらめっこしていた藍ちゃんに現実に引き戻されれば、気持ちを切り替えるしかないか。
「おっと。世間話も程々にして、どうする一葉?」
やっぱり序列的にもそういう立場なのか、恋花からの確認に一葉ちゃんが少しの間悩む素振りを見せる。
「そうですね……出現したヒュージは大きくふたつの群れになっているようですから、恋花様は雪華様と葵さんと共にこちらを。残りのメンバーでもう片方を対処します」
「りょーかい、んじゃ行きますか」
つまり、私たちはこの先の交差点で別れることになると。特に異論もないようなら、時間もないし行きましょうか。
◆◆◆
「で、飯島小隊長、散開して各個に応戦。くらいでいい?」
「なんです、その呼び方? ま、この程度の群れなら特に作戦らしい作戦もいらないっしょ。一応、葵はなーんか嫌な予感したらテレパスよろしく」
規模の小さな方を任されて、こっちの方が人数も少ないってことは、さっさと終わらせて合流するまでを望まれてるんだろうし、葵ちゃんが頷くのを横目にブレイザーのシールドからソードライフルを引き抜くと、軽く振って具合を確かめる。
「さて、ならさっさと片付けますかね! 二人は援護よろしく、巻き込まれたくなかったらさ!」
別に虫の居所が悪いなんてことはないけど、姉さんが本格的に動く準備を終えたのなら、東京で暴れれば少しくらいは手伝いになるだろうか? なんて元シルト的な考えで突撃すれば、一番手前のヒュージが反応するより早く両断し、次いで飛び出して来たテンタクル種のスモール級は目のような部分をソードライフルの柄で殴って──
「行ってこい、ソードビット!」
呼び掛けながらソード側のコアを右手で叩けば、シールド先端の二基が怯んだままなヒュージの脚を切り裂き、動けなくなったところを蹴飛ばすと左のライザーから引き抜いたソードガンを投擲、串刺しにしてトドメを差す。
「……っと!」
とはいえこうも突っ込めば注意も引く訳で、反撃のレーザーの雨はビットからのバリアで防ぐと、ヒュージの亡骸に刺したままなソードガンへアンカーを射出、引き抜くついでに振り回して近くの数体を両断していると、後ろから声が。
「センパーイ、その子たちそのままで!」
「いっけぇぇぇっ!」
チラリと見てみれば斜めに展開していたバリアを踏んで恋花と葵ちゃんが跳び上がって、恋花がブルンツヴィークを薙ぐように連射してヒュージをまとめて足止めしたところを、葵ちゃんがトリグラフの二挺拳銃で撃破していく。
「張り切ってるねぇ。ならこっちも!」
振り回したソードガンが戻ってきたところへもう片方を連結させ、シューティングモードのようにグリップを曲げた状態でレーザーブレードを発振、二本のクロー状にして突撃して昆虫タイプのヒュージを二体まとめて刺し、横から迫る別の個体には追加で出したソードビットで──
「──ん?」
さて、『約束の領域』は控えておきたいから二基だけ追加するつもりが、残りの四基全部飛び出したというのは……馴染んで来たってことなのやら。
ともかく使えるならそれでいいと周囲にビットを展開すれば、二人も時々掴んだりワイヤーでぶら下がったりと、各々活用している。
「んー、やっぱこういうのあると戦術の幅が広がるとは思うのよね」
「それは同感。けど、先輩みたいにやれるの他に何人います?」
「知り合いだと、それこそ本人以外はパッと出てこないかなぁ」
私自身普段の戦法の延長な感覚で扱えているもんだから、その普段が色々規格外だという自覚もある以上、普及させるには問題しかないだろうて。
◆◆◆
さて、そのまま順調にヒュージを駆逐し残党を追い立てていると、広くて長い階段の上の方に出たと思えば、その中腹で先にいた誰かが戦ってるのが見える。
「あれ、あそこにいんのこないだの猫耳一年生じゃん」
「で、誰かを庇ってる感じ?」
二人の感想とこれまでの情報と、何かしらのスキルでヒュージからの砲撃でも防いだのか周囲が不自然に焼け焦げている中、必死にグングニル・カービンを振るう彼女の後ろにいる、CHARMを杖代わりに俯くリリィの様子……ハマってしまったピースの具合から、どうにも見過ごせない自分にため息をひとつ。
「はぁ……ここで見捨てるのも寝覚めが悪いか」
「はいはい。一応知らない相手でもないですし!」
そのまま彼女たちの周りのヒュージを上から一斉射撃で片付ければ、予期せぬ援軍に揃って見上げてくる。
「あ、あなたたちは……」
「悪運は、まだ尽きてなかったようね……」
「んん? よく見たらあんた転校してった美岳じゃん。え、そういうこと?」
戸田さんと一緒にいる、具合の悪そうな空色ポニテの上級生……私たちの知る情報を繋ぎ合わせれば、彼女の不調の理由は察せてしまうけど、恋花の反応はそれだけじゃないし、相手の方も苦しそうに返す。
「飯島恋花か……笑うなら笑いなさい。これが、あっさりとガーデンを乗り換えた裏切り者の姿よ」
「いや、別にそこら辺はいいけどさ、それがなんでまた強化されてんのよ?」
ガーデンを変えるのが裏切りになるのなら、家の都合とはいえかなりのガーデンを渡り歩いている、ここな葵ちゃんはどうなるのやら。ってのはともかく、どうやら元エレンスゲらしい被験者の子の調子の悪さは、身体だけの問題でもなさそうで。
「……あぁ、もう持ち歩いてなかったか」
それが強化の副作用なら、と懐を探って『薬』がないことに、
「戸田さん、まだ動けるようならそこの子をこの間の公園に連れてってあげなさい。どうせまた烏丸がテント張ってるだろうし、強化実験の被害者だって話せば、ガーデンのアホどもに見せるよりはマシでしょ」
「…………はい。美岳様、こちらに」
「すまない……」
この前喧嘩別れになった気まずさは見せず、ただ上級生として淡々と告げれば向こうも逆らうことはなく、庇っていた彼女に肩を貸すとトボトボと去っていく。
「……で、今の誰?」
道中のヒュージは片付けて来たし大丈夫だろうとそのまま二人を見送ると、恋花の方を見て一応の確認を。
「元エレンスゲ二年で序列8位だった、
「あー、つまりさっきの人が、この前佳世ちゃんの言ってた?」
「だろうね。ホントあいつも運がないっていうか」
今年度からの転校ってなると、当然見事にイルマからの日葵とはダダ被りで、そっちがルド女唯一なテンプルレギオンのリーダーの枠に納まっている以上、彼女は校内での立場が特になく都合がいいと、適当なタイミングで強化実験のターゲットにされた……ってところかね。誰が悪いかってーと十割が十割ゲヘナなんだろうけど、酷い交通事故もあったもんで。
「さて、これで今度こそこっちは片付いたでしょ。そろそろ合流しに……っと?」
「あー、なんか懐かしいかも」
街頭のモニターが急に点いた。と思えばなんかいい感じの音楽が流れ出して、葵ちゃんが覚えのある反応をしているのなら、恋花が肩をつつく。
「葵、コレ知ってんの?」
「多分ギガント級出ました。これ、テンプルレギオンの指名掛かる時の曲なんで」
お、おう。またなんか変なとこに力を入れて……なんて呆れていると、ルド女のリリィが戦っている様子がモニターに写し出されている中、女性の声が響く。
『新たに現れたケイブより、ギガント級の出現が確認された。ギガント級は現在都庁方面へ向け進行中につき、テンプルレギオンの選出を行う』
恐らく教員の誰かなのだろう大人の声の後、カメラが切り替わったのかモニターに写るのはどこかの交差点。
『一之宮・ミカエラ・日葵』
「ま、雰囲気だけはあるよね」
そう洗礼名込みのフルネームで呼ばれた隊長の日葵に始まり、次々とテンプルレギオンに指名されたリリィが切り抜かれるようにライトアップされつつモニターに映れば、慣れた様子で本人たちも軽い決めポーズを取ってから駆け出している。
「──ちかーいーをーみらーいにかーえるー」
なんてモニターを眺めていると、隣から曲に合わせて歌声が聞こえたと見てみれば、つられたのか葵ちゃんが少し手振りを付けてリズムを取りながら歌っていた。
「あー、やっぱイケるんだ?」
「まあ、少しの間とはいえルド女に通ってたし? この指名の雰囲気に憧れがあったーってとこもあるかなぁ」
確かにこう大々的にやってくれるっていうのなら、ガーデンの裏側を知らなければ素直に憧れることも出来たろうけど。
「とりあえず、この調子ならこっちはもういいか。一葉ちゃんたちの方は?」
「向こうも大体片付いたみたいっすわ。邪魔にならない程度に、そこら辺の掃討に入るとか」
連絡を取っていた恋花に確認しての返答も、まあ無難なとこだろうね。ノインヴェルトは任せていいってなると、助っ人のやれることなんてそれくらいか。
◆◆◆
「みなさん、ご無事で!」
「そっちも問題なさそうね」
都庁前の駅近くで残りの四人と合流すれば、ギガント級に先んじて結構な数のヒュージが押し寄せていた。
「こんどもヒュージがいっぱいだー!」
「藍、あんまり突っ込み過ぎない!」
それを見て開幕『ルナティックトランサー』全開な藍ちゃんがウキウキで突っ込めば、一葉ちゃんが最低限の注意はしても折り込み済みだと、ヘルヴォルが支援の火砲を走らせているとすれば──
「さて、前衛に『矛』だけってのも危なっかしい。『盾』も行きますかね!」
「らーん、センパイも突っ込むからぶつかんなよー?」
なんて恋花が茶化すように言えば「わかったー!」とモンドラゴンをブンブン振りながら元気な返事をするなら、三枚のシールドのスラスターからの噴射で少し地面から浮くと、背後に出した足場へ宙返りの動きで足を付け──飛び込む!
「さあて、一気に暴れようか!」
「おー」
気合いがあるのか抜けてるのかな掛け声と共に、クルクルとCHARMを回しながら藍ちゃんがヒュージを叩き潰しているなら、こっちは少しフォロー気味に動こうかと、周囲のヒュージの内、横や藍ちゃんの通った跡へソードとシールドから射撃を送る。
「──ん? なるほど!」
そうしているところへ届いた『ビジョン』に振り向けば、瑤と千香瑠がそれぞれCHARMをシューティングモードに展開しての砲撃体勢で、残りの三人はそれと同時に飛び込めるように構えて……とくれば!
「藍ちゃん、視えてたとは思うけど全速前進!」
「あははははっ! わーーーい!」
言われる前から藍ちゃんも突っ込んで行ってるから、聞こえているのかいないのか。どっちにしろやることは変わらないと、ソードガンは連結を解きながら放り投げシールドの先端で受けるように、ソードライフルは直で連結させて、こっちは三連装。
「今です!」
一葉ちゃんの号令に従っての一斉砲撃で、ヒュージは藍ちゃんの影になる道路の真ん中以外は綺麗に薙ぎ払われ、空いた道を一葉ちゃんと恋花、葵ちゃんが駆け抜けて藍ちゃんと合流するなら、こっちはこのままバックブーストで後ろの二人に混ざろうか。
「これで、なんとか間に合いそうかね?」
「そうですね。ギガント級の反応から、一息つくくらいの時間は確保できそうです」
千香瑠の返しとバイザーに映るデータを合わせれば、まあ息を整える暇くらいはあるかと一旦ヘッドセットを外しておこうか。
「ふぅ……」
「大分、お疲れ?」
そうしていると瑤に気遣われるけど、ビットの方は多少楽にはなったっぽいとして、ライザーの方が修理ついでにブレイザーにも使われてる新型パーツに所々取り替えたりで、結構パワーが上がっているところはあるけど。後は単純にシールドの枚数が増えて、スラスター移動が多くなった辺りも?
まあ、素直に『インビジブルワン』でも合わせりゃいいんだろうけど、正直そこまですると費用対効果がなぁ……
「ま、慣らして行くしかないってことで。どうせ後半年ちょっとの付き合いだしさ」
「あまりそういう感じはしませんが、雪華様は今年が最後の年でしたね」
うん、よく言われる。最高学年らしくないのは、雰囲気なのか落ち着きの無さなのか……諸々全部?
「やれやれ……っと、おでましかい! 皆、一旦下がって、まずは私たちで「それには及ばないわ」おっ?」
そこで巨大な影が見えたならとヘッドセットを付け直し、再度ビットを展開しようとしたタイミングで聞こえたのは、後ろからのピシャリとした声。さっきの放送のおかげで誰が来たかなんて一から十まで分かっているけども、声を掛けられた以上はと振り向いてみれば、そこにいるのはテンプルレギオンに指名された各々。
日葵を先頭にズラリと並ぶ様子は、なるほど彼女がイルマ出身というのがよく分かる、規律だった雰囲気だ。
「今までヒュージの進行を食い止めてくれたのには、感謝します。けれどここからは私たちの仕事なので」
どこか事務的な、しかし必要な言葉を受け取っていると、下がってきた一葉ちゃんが元気よく返事を。
「いえ、いつぞやはルド女から流れて来たラージ級を仕損じてしまったので、そのお詫びということにしておいてください!」
「ああ、そういえばそんなこともあったわね。けどあの時はこちらこそ、人数が足りていなかったとはいえ不手際だったわ。ごめんなさい」
さて、何か縁があったのかルド女とエレンスゲでしか通じなさそうな話が始まったぞと、分かりそうな相手……と目についた幸恵をチョイチョイと招いて、ひそひそ話。
(これ、なんの話?)
(ええと、イースターの後この間の金銀のラージ級の同型が出た時、テンプルレギオンの指名があった内の数人がそっちで戦っていたので、手が足りず本隊の方でいくつかヒュージを取り逃がすことに……)
(で、その内の何体かがエレンスゲというか六本木の方に行っちゃったと)
ああ、つまり4月でまだお互い不馴れな上に、色々トラブってたタイミングだったと。
「ともかく雑魚はこっちで面倒見る、ギガント級は任せたよ」
「らいむー、気を付けてね」
「うん、藍ちゃんも頑張って!」
ん、今藍ちゃんと来夢ちゃんが軽く手を合わせた時、何か感じたような……なんなら来夢ちゃん自身も、不思議そうに掌を眺めてるし。
「えっ、今の……」
「来夢?」
「あ、なんでもないです!」
幸恵の方は来夢ちゃんが不思議がってる様子に気付いたみたいだけど、あの二人に何かある……? 『ルナティックトランサー』持ちと『カリスマ』持ちってだけなら、簡単な話ではあるけども。