なんで時々東京組齧ってるかは、同盟の件含め本命の時にどこの誰とも知れないパッと出にしたくなくて…ってところがあったりなかったり。人それを、繋がりという。
そして、途中体調ついでにペースも乱れたりしましたが、これにて年内ラスト更新。今年も一年お疲れ様でしたー。
「で、このままついてくるのね」
「あはは、なんだか流れで?」
結局二水ちゃんも紅巴ちゃんのついでに回収してグラン・エプレの控室に向かう訳だけど、それはそれとして、あやちゃんに確認しておきたいことが。
「ところでさ、あやちゃんと姫歌ちゃんたちがクラスメイトだーってのは前にも聞いてたけど、知り合ったきっかけってそれだけ?」
「んー? それを話すと新学期前、お母さんの命日に一度実家帰ってた辺りからになるけど」
いや、神庭の三人に話してるかはともかく、二水ちゃんはそこら辺知らないだろうに遠慮ないね? というのも父さんと雪叔母さんの真ん中、あやちゃんのお母さんな
その時はもう私も百合ヶ丘に通っていたし、中等部の寮で話を聞いてから急いで外出届を書くことになったけど……でも、かなりのお母さんっ子だったあやちゃんがこうもさらりと言えるのは、あれから成長したってことなのか、それとも私が相手だからか。
うーん、どうにも一々そういうとこ気にするようになってるなぁ」
「なんの話?」
「いや、こっちの話」
いつものように心の声が零れるのはともかく、姫歌ちゃんたちが立ち止まったのなら、目的地には着いたということで。
「で、では、どうぞ」
「三名様ご案内~☆」
「一応百合ヶ丘の人は二人でしょうに……」
灯莉ちゃんの謎なノリはともかく、紅巴ちゃんがガチガチに緊張しながらドアを開けてくれてるし、ではお邪魔します。
「…………?」
さて、部屋に踏み出したのは私だけで、二水ちゃんはヘンな電波でも受信したのか紅巴ちゃんと揃って固まってるし、あやちゃんも何か『視えた』のか額に手をあてて「あーはいはい」って顔してる理由は……
「叶星、そのまま」
「えっ、高嶺ちゃ……」
ソファに並んで座っていたグラン・エプレ二年の二人が、ほとんどシルエットが重なるくらい密着している様子。窓から注ぐ夕日のせいもあってか、高嶺に顔を近付けられている叶星の方は頬をやけに紅潮させて見え──
「よし、どっか他所行きますか」
「わー、びっくりするくらいの現実逃避」
「たかなほセンパイのアレ、刺激強すぎるからねー」
いや、灯莉ちゃんもあやちゃんも慣れてるからいいだろうけど、いきなりあんなの見せられたら、もう何も見なかったことにして部屋を出て、ドアをそっと閉じるしかないでしょ? 私にはあの空間に突っ込んで呑気に挨拶出来る度胸はないし、馬に蹴られに行く趣味もないからね?
「その、隙あらば……いや隙がなくても無理矢理作ってよくああしてるのがあのおふたりなので、すみません」
「まあ、別に姫歌ちゃんの責任とまでは言わないけど……なんかあの二人がトップレギオンに任命されてるの、そういう責任ある立場と後輩を括りつけてないと、すぐ世界に二人きりになるからな気がしてきた」
本当にパッと見ての感想になるけど、姫歌ちゃんがそのまま頭を抱えて「うぐぐぐ……」となってしまっているのを見るに、後輩としても否定しきれないようで。
「あの二人は置いといて、雪華姉今日どうするのー?」
「え? まあダメそうならもう帰ってもいいけど……二水ちゃんもフリーズしてるし」
正確には紅巴ちゃん共々あまりにも濃密な尊みの波動にやられたのか、廊下にドサリと倒れたまま魂抜けてる感じ……尊みの波動ってナニ?
「ふーん、じゃあ今日泊まってく? ユウなら用事でいないし」
「あぁ、こないだ起こしちゃった同室の子。検査とかそこら辺?」
さらっとその子が強化リリィ前提で話しちゃったけど、その経路はあやちゃんからじゃないもんだから、当然本人には首を傾げられる訳で。
「うぇ? まあそうだけど、ユウの事情雪華姉に話したっけ」
「……ごめん彩文、それあたしたちから。その、前に言ってた下北沢の件で」
一応部外者なあやちゃんにどこまで話したものかで、姫歌ちゃんの謝罪もフワッとしてしまってるけど、それで大体察したのか、気にはしてない様子。
「ふーん? まあゲヘナ絡みって色々アレだとはユウたちからも聞いてるけど、皆大変だねー」
「でなきゃそもそもあたしが今日東京に来てないっていうのが、なんともだけどさ」
縁の元なシモキタの戦いすらどうせ初期配置と増援合わせて二十割ゲヘナの仕込みだろうし、ヒトってのは共通の敵がいるからこそ纏まるってのは、古来から変わらないというか。
だからこそ姉さんたちも、世界をゲヘナとそれ以外とで二分してやる、なんて誰の目にも分かりやすい構図を作ろうとしてるんだろうし。
「さてと、ならアタシは雪華姉連れてくから、土岐ちゃんはー……ダメそう?」
「なうろーでぃん☆」
あやちゃんに聞かれた灯莉ちゃんが揺さぶっても、二人して動作を停止したままなら、オタクコンビは置いてくしかないか。
「どっちにしろ、二水さんが起きてどこに泊まるか聞いてからになるとは思うけど」
「まあ、それはそう。急なお泊まりで不在とか、日羽梨がショックで崩れ落ちそうだけど」
「ひば……ふみ……」
いや、そこは反応するのね紅巴ちゃん? 最早無意識レベルにまでオタク魂が刻まれてるのか……
ちなみに、あの二人が何をしていたのかはこの後突撃した灯莉ちゃんが聞いたところ、叶星のほっぺに付いたクリームを高嶺が舐めようとしていたとのことで、ついでに隣で聞いてた起きたばかりのリリィオタク二人は死んだ。イノチー(尊)
◆◆◆
「で、見た感じ寮にって訳じゃなさそうだけど、何処行くの?」
「ん? とりあえず先に二人ほどお泊まりしますよーって生徒会に話通しとかないと」
ああ、そこら辺案外しっかりしてるのね。まあなんか姫歌ちゃんがあやちゃん時々生徒会のお手伝いしてるって言ってたし、そういう立場なら適当はやれないか。
「ほーん? 少し見ない内に立派になっちゃって、お姉さん嬉しいよ」
「雪華姉、なんか悪い物でも食べた?」
失敬な、こちとらガーデンに帰れば一応お姉様だぞ。なんていつもの自分ですら語るに落ちてる返しはともかく、プレートも見えたし生徒会室についたならとりあえずノックしてみよう。
「はい、どうぞ」
返事が来たならとドアを開けた私の横をスルリと抜けたあやちゃんは、奥の机の前まで迷わず突入して──
「センパイセンパイ。もう書類出してるし、今日雪華姉泊めていいですよねー?」
おい。さっきの感心はなんだったのか、という呆れは紫の髪を左で高めのサイドポニーにしている会長さんも同じようで、机の向こうで頭を押さえている。
「確かに記入だけはされていたけれど、従姉妹の人の判はないし、見るからに今来たところでしょう?」
「はい雪華姉」
おおう、強引だねぇ。まあどうせやらなきゃいけないんだからとあやちゃんにされるがまま右手を引かれ、指輪を書類にかざして判を押すと、流石に不憫だと空いた手を顔の前に立ててお詫びを。
「すいませんね、この子昔っからこんな調子なんで」
「何度か手伝って貰っている内に、少しは慣れましたけれど……あ、挨拶が遅れました。この神庭女子藝術高校の生徒会長、二年の本間秋日です」
「そこに書いてる通りだけど、改めて百合ヶ丘女学院三年、そしてこっちの神代彩文の従姉妹な黒紅雪華です。よろしく?」
実のところ恋花とあやちゃん、共通の知り合いのせいで名乗らずともお互い知ってはいたんだろうけど、一応礼儀としてね?
で、そのあやちゃんはというと机の前、つまり振り向いた先のソファに座って作業中だった、ノースリーブな以外も色々と弄ってる改造制服な子に絡んでいる。
流石は神庭、半袖にアームカバーな秋日さんは夏服だろうとしても、生徒会でも服装が自由だ。
「やっほーすずちゃん、調子どう?」
「…………わ、悪くはない、です」
おん、明らかにあやちゃんの押しに負けてる感じだこれ。シルバーグレーの髪色といい見るからに儚げで大人しそうな子だし、フォロー入れるべきかどうか。
「あの子、迷惑になってないです?」
「まあ、悪い子じゃないのは分かっているのですが……
「い、いえ。ちょうど書類の整理も終わったところですから……」
ほむ、鈴夢ちゃんとやらに対する保護者感から、なんか秋日さんが苦労してる理由の一端が見えたような気がする。
そりゃあ、個性の塊が群れ成して殴ってくるようなガーデンに一人こんな純粋そうな子がいるなんて、いつ毒牙にかかっちゃうか気が気じゃないよね、うん。
「とはいえ仕事の邪魔するのも悪いし、いこっかあやちゃん」
「はーい。じゃあ秋日センパーイ、多分また似たような申請来ると思うんで?」
「あー、そっちはウチのレギオンの後輩なんで、また迷惑掛けます」
もうなんか平謝りになりかけてるけど、秋日さんも気にしないでくれて──
「これくらいなら、神庭では日常茶飯事にもならないので……本当にイベントごとに、いや何も無い時でもしょっちゅう何かしら起きるのよね……特に藤乃が絡むと、毎回酷いのなんの……あんなの、普通の神経してたらやれる訳ないでしょ……」
「あ、秋日様……?」
──いや、途中から秋日さん胃の辺り押さえながら大分遠い目しちゃって、鈴夢ちゃんもあたふたしてるから、こっちもそっとしておいた方がよさそうで。
ならその理由の一端なあやちゃんを連れて、そそくさと退散しよう。
「なんか、大変そうだね」
「まあねー。ウチの生徒会って人手全然足りてないから、アタシたち以外にたかなほセンパイたちもしょっちゅうヘルプ入ってるみたいだし」
ふむ、自由な子が多いから、あんまり生徒会役員とかの堅苦しい役割は避けられてるんだろうか?
「にしたって、都内の学校の生徒会なんて二人きりじゃ絶対回らんでしょ」
「え? 三人だよ。あー、いしちゃんセンパイいなかったってことは、今日はもう向こうかなー」
流石にもう一人いるのね。いや、その上でも三人は辛くない?
ウチのガーデンなら会長だけでそれくらいだし、さっき寄った御台場だってレギオン兼任ってことはその数倍は確定の、当然セインツが外に出てる時のためにそれ以外の役員も何人かはいるだろうしで。
「一応昔の縁で声掛けてる子はいたみたいだけど、向こうのガーデンがネスト絡みで忙しいから、転入遅れてるんだってさ」
「その子来ても四人じゃキツいでしょうに。御台場みたくトップレギオンにも兼任……させていいのかなぁ?」
紅巴ちゃんは真面目にやろうとするだろうけど、たかなほがイチャつき始めたら揃って機能不全なのが見えてるし、姫歌ちゃんも灯莉ちゃんのフォローに付きっきりになると考えると……あれ、盛大に何も変わらん。
「うーん。でも普通生徒会っていったら、やっぱり最低でもレギオン作れるくらいは欲しくない? それで会議っぽく机囲んでずらーってさ」
「そっち基準だとー、大体九人ね。秋日センパイも、ホントはそれくらいいるんじゃないかなー? 現実は二・三人が面倒見きれる限界なんだろーけど」
んん? いや、いくら生徒会長だからって、そんな逐一役員の面倒見なくてもいいんじゃないの?
確かに、鈴夢ちゃんは保護者モード入るのも分かる小動物感だったけども。神庭での寮の部屋分けがどうなってるか知らないけど、それこそ同室で朝から晩まで甲斐甲斐しくお世話してそうなくらいに。
「いや、説明しろってなると難しいんだけどさー……とりあえず、ご飯行く?」
「急に話変わったね。外出届は?」
「んー、事後承諾でもいいんじゃないかなー? 行くのあそこだし」
よく分からん。けど通いだしてそこそこ経つあやちゃんが問題ないって言うなら、多分そうなんだろう。
◆◆◆
さて、途中再起動してた二水ちゃんも拾って三人で外食ってなる訳なんだけど……神庭の校舎を出て荻窪を歩いていると、目に入るのは微妙に見覚えあるような街並み。いつ誰と来たっけなぁ。
「二水ちゃん……は分からんよね。一緒に東京来るの自体初めてだし」
「は、はい。どういうところなんですか、彩文さん?」
「もうそろそろ見えてくる頃だけどー……お、あったあった」
あやちゃんの駆け出す先にあるお店の、暖簾に書いてある店名だろうものは……
「……〈ふじの食堂〉?」
「そ、生徒会の残り一人なセンパイが個人でやってるお店。美味しいよー」
や、『先輩が』って何さ? 確かにリリィって色々な資格とかの条件は緩和されたりしてるらしいけど、それでも大丈夫なの?
「今宵も 戦いに疲れた花びら達が
心とお腹を満たすためにやって来る
ここは百合の花咲く 食の聖域──♪」
「な、なんて?」
あやちゃんがキャッチコピー的な何かを歌ってるけど、急にどしたん? と首を傾げる私の横で、何故か二水ちゃんは合点が行った風に顎に手を当てている。
「ふじの……それに今の謳い文句……もしかして……」
「あー、とりあえず有名な子がしてる。ってこと?」
「じゃない? センパイ幕張でブイブイ言わせてたって話だし」
お、おん。神庭の生徒会、幕張……なーんか既に嫌な予感しかしないけど、まあ入り口を塞いでるのもよくないし、さっさと入ろうか。
◆◆◆
ふむ、店内はカウンター席のみでそこまで広くはないにせよ、壁には手書きなのだろうメニューの札もあったりと、昔ながらな感じで雰囲気は悪くない。けど──
「いらっしゃいませー!」
「あー……あぁー……」
──来客と見るやトントンと小気味良く包丁を鳴らしていた手を止め、満面の笑みで迎えて来る店主が問題だった。
見間違いであって欲しいと今日何度目かの現実逃避をしようにも、茶色の長髪に青系のインナーカラーを入れ、かなり大胆に改造されて鎖骨辺りから襟までの間の布が取っ払われて肩出しどころじゃない神庭の制服、そして
「ふふ、お久しぶりです。今日はお姉様とご一緒じゃないんですね?」
「実家の社長にもなってんだし分かってるでしょうが、姉さんならとっくに卒業してるって……ああそうだよ、この前叶星と恋花が『生徒会の藤乃』って話をしてたよねぇ。なんでその時繋がらなかったのよ……」
来夢ちゃんに初対面でいきなり心配される羽目になった、妙な悪寒の正体がこれだ。
そして連鎖的に分かるのは、秋日さんがやけに胃痛凄そうになっているのと、進行形で苦労していても生徒会の人数を迂闊に増やせない理由。
「藤乃……もしかして、二年生の
「懐かしいですねぇ、あれ程歯応えのあるヒュージも中々いませんでしたから~。ふふ、ふふふ……」
で、私がやけに嫌な思い出扱いしているのは去年の秋、レギオンの用事で東京へ来ていた時姉さんに連れられてこの店に入ったら、運が悪いことに注文前にヒュージ出現の警報がして、食事前の運動にヒュージを駆逐してやろうと出たはいいものの、たどり着いた頃にはヒュージの群れはほとんど撃破されていた──
まではいいんだけど、その倒され方が執拗に身体の部位をもがれていたり、折れた電柱にわざわざ突き刺されていたりと、まあやけに趣味的というかグロテスクだったというか。
そしてその時も、彼女は自身のCHARMで串刺しにして磔のようにトドメを刺したヒュージを前に、前髪で出来た影の下ハイライトの消えた瞳を不気味に揺らめかせていた。ちょうど、今と同じように。
「てか、あの時はお手伝いさん止まりで、店主さんは違ったでしょ?」
「ええ、元は知り合いのお店でしたので。ですが今は引退されたのもあって、晴れて正式に譲り受けたわたくしのお店ですよ~」
まあ、一から全部自分でやりましたー。よりは無理はないんだろうけども……なんて頭を抱えていると、あやちゃんの方も私がこんな対応している理由は分かったようで。
「あー、雪華姉もいしちゃんセンパイのシュミ見た感じ?」
「そりゃあね……誰に迷惑かけるでもないんなら、他人の趣味にあんまりどうこう言うつもりもないけどさぁ」
散々ヒュージを滅殺してきておいて、今更グロNGだなんてピュアなことを言うような細い神経でもないけど、そういうのをエンジョイしてるところをいきなり見せられたら、ちょっと困る。
「じょ、情報は確かみたいですね……つまり、『あっち』の方も?」
「見ての通り、かなー」
知識と合ってはいても、実際に見た圧にはたじたじな二水ちゃんへの答えは、あやちゃんの視線の先が藤乃の『左耳』の方へ向いていること。
そりゃあ秋日さんも鈴夢ちゃんへやけに過保護にもなるわ、隙を見せたら喰われるぞ。亜羅椰ちゃん的方向で。
(そういう意味だと、あやちゃん大丈夫なん?)
(んー、ウチはセコム強いからねー。今のところはなんとか)
セコム。まあ都内だしセキュリティ的な面も良いんだろうけど、この場合楓さんに対しての閑さんみたいな、同室バリア的な使われ方だろうか? なんてこそこそ話をしていると、見事な営業スマイルで藤乃が訪ねてくる。
「さて、挨拶はこの程度にして、ご注文は?」
「……実際、前来た時も味は良かったんだよなぁ」
「うん、まあそこは保証するよー。そこはね」
店主に色々引っ掛かりはあるけど、仕事はしっかりしてるのが分かるだけになんとも。
ちなみにあやちゃんからの補足によれば、このお店は都内のリリィの間で密かに流行り始めてるせいか、生徒会の残りのメンバー(主に生徒会長)も時々手伝いに来たりと、地域貢献かなんか扱いで許されてはいるらしい。てかさっきのヘルプって言い方からして、叶星やあやちゃんたちも時々入ってるなこれ?
「んで、メニューが……『純の激辛カレー』?」
なんかいきなり思ったよりヤバイのが、というかまた方向性の違うのが出てきたな……何故にこんなところで純の名前が?
「あーそれ、確か御台場の有名人が作ったやつだっけ?」
「ですです。なんでもロネスネス隊長の船田純様が直々にプロデュースされたとかで、百合ヶ丘の学食にも納品されています」
「ふふ、ちなみにメニューの文字はその純さんと同じ御台場の生徒会長、月岡椛さんにお願いしました♪」
なんの繋がりでそんなことに……いや、存外二人とも任務帰りに息抜きがてら来てるのかもしれないけど。どの道私もあやちゃんも血筋なのか、辛いのは揃ってダメだ。他のメニューは……
「『ふじの定食』」
「ご飯とお味噌汁は固定として、主菜は日替わりの、今日は……近頃好評なエビフライなど如何でしょう?」
「『ふじのラーメン』」
「王道を行く醤油ベースのシンプルなラーメンです。あぁ、勿論トッピングは基本のチャーシューやワンタンを始め、ヤサイマシマシニンニクアブラカラメまで、ある程度まではサービスになりますのでご相談に応じて」
そのある程度を平然と越えた詠唱が空で出てくるってことは、しょっちゅう頼んでる子がいると……なんでか恋花のホクホクしてる顔が浮かんだけど、本当になんでか。台場ほどじゃないけど、六本木も荻窪からはそんな近くないが?
で、ここまでは言っちゃえば読めば大体の雰囲気は分かる部類、けど残りのメニューがねぇ。
「『ルナティックトランサーライス』」
「一部の方がレアスキル発動時に目が赤くなることにちなんで、真っ赤なクリームライスとなっております。この色を出すの、結構苦労したんですよ~?」
まあ、同じルナトラ持ちでも辰姫ちゃんや佳世がスタンダードとしても、夢結は暴走までセットなせいか髪色まで変わるし、藍ちゃんとかは単に残光引くくらいだし、船田姉妹はなんか全てが分かってきそうなグルグル目だったしで、不安定なスキルらしくそういう認識でいいんだろうけど。値段もこの中だと唯一の四桁行ってるだけあって、手間は確かに掛かってるとして。
「『テスタメントバーガー』」
「こちらはレアスキルの効果にちなんで、一口食べれば黒胡椒の香りが広がる照り焼きチキンバーガーです。肉厚で食べ応え抜群ですので、食べ盛りの学生さんにも大好評です♪」
ほむ。今日は移動多かった上戦闘にも首を突っ込んだからお腹は大分空いてるし、なんなら私も『テスタメント』のサブな『約束の領域』を持ってるしで、頼むならこれかなぁ。
「あたしはバーガーにするけど、二人は?」
「うーん、エビフライかハンバーガーか……被らないよう定食で!」
「じゃあアタシはルナトライスー」
「かしこまりました♪」
注文を受けて藤乃が一旦下がれば、少しして何かの袋を持って戻って来た。
「なにこれ?」
「期間限定メニューをご注文されたおふたりには、こちらのブロマイドカードをどうぞ。今月は『イルマ女子美術高校のリリィ特集』になっております♪」
今月は、なんて言うからにはこっちの内容も一定期間ごとに入れ替えてると。中々にリピーター作りに積極的だことで……って二水ちゃん?
「な、なんですとー!? ち、ちなみに期間限定なのは……」
「左側みっつですよ♪本当は食後にお出ししているんですが、一人だけ違うとなると、だまして悪いようなので特別に」
待ってましたとばかりに藤乃が告げれば、なんか二水ちゃんの方は色々な葛藤に教われている。
「う、うぐぐ……今更やめたバーガーとは言いづらい……かといって船田純様のメニューを妥協になどと恐れ多いし、風の噂を聞くにわたしには無理な辛さ……わ、わたしもルナティックトランサーライスで!」
「毎度あり~。ではお三方とも一枚ずつどうぞ」
値段的には定食とバーガー足してルナトライスなんだけど……まあ、何にせよ本人が満足したならいいだろうと、さっそく開けようか。どれどれ……ライトグリーンのローツインテ、って。
「お、あの時のライダーの子。この構え……やっぱり一号だよなぁ」
いつぞやの取材の時、掛け声にSEすら聞こえそうなくらい見事な『変身ポーズ』をかましていたその子をしみじみと眺めていると、案の定というか頼まずとも解説が入る。
「イルマ女子一年期待のサラブレッド、〈イルミンスールの巫女〉
おん、相変わらずね二水ちゃん。とはいえこの調子だと後二人も同じ感じになるだろうし、あやちゃんの方はっと……肩出し萌え袖、前髪の半分を上向けて止めてと、また趣味的な。
「あ、わくちゃんセンパイだー」
「え、そこも知り合いなの?」
「いやー、友達の友達の友達? 灯莉ちゃん→こずウェ→わくちゃんで」
こずウェ……そこでまた梢ちゃん? 人の縁の輪ってのは存外狭いもんなのか。残りのわくちゃん先輩も美術高校ってことは、また趣味繋がりなんだろうけど、さて二水ちゃん。
「イルマ四天王が一人、〈大樹の至宝〉
また至宝……やっぱり何かしらの傾向というか、マニュアル的なのがあるのかねぇ? 今度はハーフじゃなさそうだけど。
「おふたりとも運が良いですねー、従姉妹揃って有名どころを引き当てるなんて。さて、わたしのは……って!?」
二水ちゃんの興奮具合からそれは間違いないだろうとして、言ってる本人が引いたのは……制服こそ違っても、さっき見たような顔だな?
「いっ、いいい、イルマ時代の一之宮日葵様ぁ!?? なんでこんな超絶レアなものまで」
「企業秘密です♪そしてお察しの通り、そのイルマ時代の日葵さんブロマイドはSSSレアの大当たりですよー。明日からリリィオタク仲間に自慢できますね?」
しかしまあ、こっちに茶々を入れながらも藤乃の手はしっかりと動いて調理や出す準備をしているのだから、伊達や酔狂で「
で、どいつもこいつも当然のように人の心を読むでない。
「まあ、私は何度か会ってはいるけど、改めて」
「一之宮日葵様、今はルド女に移られて一之宮・ミカエラ・日葵様は羽来様同様イルマ四天王の一人だったお方で、そのストイックで妥協のない姿は多くのリリィを惹き付け、今年度からルド女へ転校しても即座にトップレギオンの隊長を任されたのは多くの実績や実力に加え、複合スキルである『レジスタ』が持つ多数の効果を巧みに使った統率力を評価されてのことだと噂されています! そんな日葵様のレギオンとして目指す形は、夢結様やルド女の幸恵様たち迎撃戦第1部隊の仲間と感じたという『自由で華麗な戦い』の実現!」
なるほど、確かに昼間見たテンプルレギオンの戦いは日葵の指揮の下一見綺麗に統率されてはいても、その動き方は癖の強い面々の個性を抑えつけるようなものではなかった。
特にノインヴェルトの後半は、こころが脇道に逸れたり私が少々横槍を入れた上でも問題なく進行していたのだから、それこそが彼女らの戦いが一から十のマニュアル頼りではない、自由なものだという証。
「また、リリィオタクとしてはシュベスターである一年生の鳴海・クララ・優子さんとの関係も注目の部分で、学年屈指の実力者たる彼女との余計な言葉など不要な擬似姉妹の連げはぁっ…………」
あ、流石に三連続は二水ちゃんの喉に限界が来た。
「店員さんおみ……ラムネ?」
カウンターの向こうに置いてあった料理酒か何かと思っていた瓶のラベルには、よく見れば『ラムネ』と書いてあるのだからこれも商品なのだろうか?
「そちらは一杯100円ですよー」
「なら私たちはそっちでいい?」
「アタシも炭酸へーき、ってのは雪華姉には今更か」
だからよくそんなに見てられるねな把握具合はともかく、流石に二水ちゃんの有様に炭酸の追撃は不味かろうと水1ラムネ2で頼めば、すぐにグラスに注がれたそれらがカウンターの上へ。しかもどうやら二水ちゃんのは追加で置かれた湯飲みが生姜湯だったらしく、トラブルの対応まで完璧だ。
んー、本当にこの小器用さはなんなのか、円環の御手ってマルチタスク能力まで上がるっけ? 確かに戦闘中も色々考えることは多くなるけど。