好きなところを切り取って混ぜて、基本そんなスタイルですわ。ここから数話は、うちの子掘りとどこかで見たような見てないようなお話と…つまりは連続でタグの意味。
走る──走る──走る──止まったら死ぬ。でも止まらなくてもこれは死ぬんじゃないかと思うくらいに、あたしの心臓は早鐘を打っている。
単なる演習のはずがなんで自分たちの番に限ってこんなことになったのか、理不尽な世界を呪うくらいは許してよ。
「……ちっ」
またヒュージ、しかも三体。種別はファング種だったかのスモール級だからって正面突破するには数の差がある、そんな訳で抱えるグングニルのグリップを握り締めると迂回しようと踵を返し──
「っ、マズっ!」
落ちてる木の枝を踏んだ音なんて古典的な、けど間違いなく致命的な失態にヒュージが一斉にこっちを向き、その瞬間躊躇う暇も無いと飛び出したあたしは内一体をCHARMの刃で貫いた。ひとつ!
「ああもう、なんでこうなるかなぁ!」
ランスモードとも呼称されるグングニルのブレードモードによる
そのまま他のヒュージからの攻撃にはその亡骸を盾にしながらCHARMを引き抜き、倒したヒュージを前に蹴飛ばしてから跳躍、今度は上から別のヒュージにCHARMの刃を突き立てるとそのまま横に引き裂く。ふたつ!
「んぐっ……なろっ!!」
その隙に右肩を最後の一体からのレーザーが掠めるけど、構わずグングニルをシューティングモードへ切り替え、お返しだとレーザーの弾幕を飛び掛かって来るヒュージに叩き込み撃ち落とすとその隙に接近、再度のブレードモードで縦一閃。みっつ!
「っはぁ……毎度これじゃ割りに、合わない!」
そもそも救援を呼ぶために訓練の班を離れたっていうのに、なんでこう待ち構えてるかのように行く先々にヒュージがいるのか。
本当は演習場の近くじゃなくて、校舎の側に〈ケイブ〉──ヒュージが移動に使う異次元ゲートが発生したんじゃないのと疑いたくなるけど、そんな思考も払うようにグングニルを振ってヒュージの血を散らすとすぐに近くの茂みに隠れる。今の戦闘音で近くのヒュージが集まって来たらアウト、流石にあたしだけじゃこれ以上の数は捌けない。
「……いない、いても気付いてない。そうだってことにしよう」
しばらく様子を見て、あたしは茂みから抜け出し学院へ向けて再び駆け出す。ここまで酷いと最悪誰も生き残れないかもなんて、あんまりしたくない考えを抱きながら。
──そして、その様子を何故か俯瞰的に見ている『私』を自覚したから、これは夢なのだ。というどこか他人事のような感情が顔を覗かせる。
であればこの後の展開もはっきり覚えている訳で、学院にもう少しでたどり着くかどうかなタイミングに──
◇◇◇
「はぁ……」
見慣れた天井、しかし寝覚めは最悪。それを見られる相手がいないだけマシなんだろうけど、話を聞いてもらって気を晴らすなんてことも出来ないのだから、どっちがいいのやら。
そう、私は寮の部屋では一人である。ここ百合ヶ丘では基本的にガーデンから同学年二人一組で部屋が割り当てられるのだが、今年は三年生の旧館住まいは奇数であり、他にいくつかある寮から移るつもりの生徒もいなかった以上必然的に一人余りが出てしまう。それが私だった、というだけの話。
「シャワーでも浴びよ……」
悪夢と言うのならまあ悪夢になるのだろう、あまりよろしくない類いの記憶を夢に見たからか寝汗でパジャマがピッタリと肌に張り付いて鬱陶しい、着替えやタオル等を雑に引っ掴むと部屋を出て近くのシャワールームを目指すことにする。
◆◆◆
たどり着いた脱衣場で脱いだ衣服をまとめて籠に突っ込むと、一応誰かが後から入ってくるかもしれないと湯浴み着も手に取っておく。
流石にシャワー中は外すにせよ、『個室までの短い間であっても年頃の乙女が無闇に肌を曝す物ではない』とは誰に言われた言葉だったか。まあ先客はいなさそうだから、行きは持つだけにしておくけど。
「ふはぁー……」
そうして適当に入った個室で湯浴み着を壁のフックに掛けておいてシャワーから流れる熱湯を頭から被り、足元までそう起伏のない体を垂れて行くのを全身で感じる……いや、だから楓さんとかが年下なのに規格外なだけで、別に私もなくはないからね?
なんてどうでもいいことを考えて夢のことを追いやろうとするが、こういう物は意識して退けようとすると逆に強く残ってしまうもので、ならば物理だと壁に左手をつきながら空いている手で頭を叩く。
「……っあぁ!」
「朝から荒れてますね」
「……まあ、ね」
そうやって思考の渦に飲まれていると、シャワーの音も相まって誰かが入って来たことにも声を掛けられるまで気付かずにこんなことをしていたのだから、少しバツが悪そうに返すしかない。
仕切りもあって首から上しか見えない隣の個室の彼女は青みがかった黒髪に紫の瞳……とだけ切り取ると夢結になってしまうけど、にしては髪は幾分か短いし、髪の青みは逆に深い。それに顔付きや声もどちらかと言えばキリッとしている夢結と比べるまでもなく大分柔らかくて、雰囲気は全く違うタイプだった。
「えーと、確か二年の
「ええ、三年生の黒紅雪華様。それと、わたしにもソラやユユたちと同じように接してもらっても構いませんよ?」
そんな風に親しみを込めて
「ん、まあ最初だけだよ。私がさっきみたいなのは」
「みたいですね、『距離感の難しい人だ』なんてよく言われてますから」
そこでクスリと笑われるけど、それについてはわざとやってる部分もあるのだから別に否定するようなことでもない。
「それにしてもこの時間にシャワーって、そっちは朝練上がり?」
「はい。雪華様は、そういうご様子ではなさそうですが」
「ちょっと夢見が悪くてね、無理矢理流してリフレッシュ……とは行かないもんだけど」
お手上げです。とポーズで示すが一人でウダウダと抱え込むより、雑談相手がいる方が気も紛れるのは間違いないだろう。
「そういう時は趣味に頼るのも手では? 知らない内にストレスを溜めていて、気付いた時にはもう……なんてこともありますから」
「やってはいるつもりなんだけどなぁ、それでも不意に来るもんだから中々……」
しかし今日は夢で変に起こされたからまだ時間に余裕はあるはずだし、朝を軽く済ませるなら始業前に少しはそっちに使えるか。ゲームに熱中して遅刻しないようタイマーだけは付けとかないといけないんだろうとは、肝に銘じておいて。
「ま、ありがとね。午後は訓練あるし、そこまで気抜きすぎてもあれだけど」
「いえ、その分今日はよろしくお願いしますね?」
ああ、そういえば今日の訓練は全学年混ぜこぜだったか。こんな言い方をされたからには彼女も同じ班なんだろうけど、詳しいメンバーも後で目を通しておかないと。
「やれる限りはね。じゃあ私はお先に、ごきげんよう」
「はい、ごきげんよう」
ともかく思い立ったが吉日、湯浴み着を羽織ってそそくさと個室を出て脱衣場へ戻ると、ザッと身体を拭いてから部屋着代わりのジャージを着て一旦自室へ。
確かゼリー飲料の備えはまだあったはずだしと備え付けの冷蔵庫を漁って取り出すと、蓋を取って口に咥えながらコントローラー中央のボタンを押し、テレビに繋いだままなゲームを起動させる。
──なお、タイマー通りに部屋を出たものの制服に着替えるのを忘れていたのに寮を出た後に気付いてとんぼ返りして、結局ギリギリで教室に飛び込む羽目になった模様。あれぇー?
◆◆◆
スタートこそ躓いたがそれ以外は無事に午前の講義を終えて昼休みの学食、当然百合ヶ丘に通うリリィは食べ盛りの学生だらけなのだから、今日もここは大盛況である。
「さて、座る場所あるかこれ?」
そんな中私は午後の確認をしていたら少し出遅れてしまい、席を確保出来ずに昼食の乗ったトレーを手にどうしたもんかと佇んでいた。
決して多くはない知り合いを頼ろうにも、基本レギオンメンバーなりシュッツエンゲルなりシルトなりと一緒か、そもそもこっちに来てないかだろうし、はてさて。
「あれ、雪華様?」
「ん?」
なんて悩んでいるところへ自分を呼ぶ声に振り向くと、そこには四人がけのテーブルにいつもの三人で座る梨璃ちゃんたち。ちょうどよく頼れる知り合い兼レギオンメンバー予定がいたと、未だに実感はないけども。
「梨璃ちゃん、悪いけどそこ座っていい? 見ての通りいっぱいでさ」
「はい、いいですよ!」
「夢結様たちも忙しそうでしたし、午後の訓練の件ですの?」
「ま、そんなところ」
楓さんからの質問への返事も軽めに済ませて、今はそのためにもしっかり食べておかねばと先程まで誰か座っていたのか半端に椅子のズレている二水ちゃんの隣へ座ると、私のトレーに乗っている昼食に選んだメニューに反応される。
「あ、雪華様もカツカレーなんですね?」
「ふふーん、ただのカツカレーと思うなかれ。あむっ……なんとチキンカツ!」
なんて得意気に齧った断面を見せると、二水ちゃんも同じようにスプーンでカツだけを掬って一口。
「はむ。甘いですよ雪華様、わたしはビフカツにチーズカレーです!」
「むっ、やるねぇ」
「……なんの勝負ですの?」
トッピングの数なら多分私の負け、単純な量なら今日は大盛りにしてる私の勝ち。まあどうでもいいけどとそこは気にせず、スプーンで指しながら向かい側の梨璃ちゃんへ話題を振る。
「で、勝負と言えば昨日のあれ結局どうなったの?」
「えっと、雨嘉ちゃんの勝ち。みたいです」
「みたい?」
例の勝負の内容とはバッティングセンターか何かのように神琳さんの元へ長距離狙撃で正確に銃弾を撃ち込め。なんて例え訓練用の弾だろうと色々無茶な物だったらしいが、それをアステリオンの装填数いっぱいの10回、雨嘉ちゃんがやりきったからにはひとまずそうなるらしい。
「でも、神琳さんも凄かったんですよ! 毎回撃たれた弾をアステリオンで綺麗に切り払ってて、最後にはいつもの丸い盾型CHARMの、えっと……」
そこで「なんだっけ?」と言葉に詰まる梨璃ちゃんを見かねて……というよりオタク特有の語りたがりな性分で二水ちゃんが話に乗ってくる。
「『
「うんそうそう、分かったよ二水ちゃん。とにかく、そのマソレリックにCHARMを持ち変えてこうバシーンと銃弾を打ち返してたんです! 神琳さんもそれを咄嗟にアステリオンをブレイドモードに切り替えて受けた雨嘉ちゃんも、凄い迫力だったなぁ~」
二水ちゃんの説明を途中で遮りつつ言い切った梨璃ちゃんはその時の二人の様子を思い出しているのか、夢結に対して程じゃないにせよ少しうっとりとしている。
しかしその部分は私としては少しばかり気になる内容なので、自分の世界を展開する二人は置いておいて斜め向かいの楓さんに話を振る。
「CHARMでバシーンって、やっぱり噂のアレ?」
「まあ、でしょうね。テスタメント持ちのために編み出された『ジャストガード』、瞬間的にマギの障壁をCHARMへ展開することによる防御法……確か、発案者は二年生の渡邉茜様でしたか」
テスタメント──他のスキルの範囲・対象を拡大するレアスキルであるそれには無視出来ないデメリットがあり、マギのリソースの大半をスキルに割くため発動中は使用者本人の防御能力が著しく落ちてしまう。
それ故残された少量のマギであろうと的確に扱いピンポイントな防御を行うことでその欠点を補う技、それがジャストガードになる。私自身テスタメントのサブスキルに当たる『約束の領域』を持っていることもあって、やれるかはともかく話を聞き齧ってはいたけど、結局CHARMの性能頼みになりがちなんだよなぁ。
というか他に風の噂で聞く対策が『どんな攻撃も当たらなきゃいいのさ』とか『何故かスキル発動中は敵の攻撃が勝手に逸れる』とか『攻撃なんて受けた上で立っていればいい』とか、それは他人が簡単に真似出来るのか? なんて代物だらけなので、現実的な案となると単純な技量のみの勝負になるこれしかないとも言う。
それにしても、ここでさっきの彼女の名前が出てくるなんて私も乙女座らしく少しセンチメンタリズムな運命を感じずにはいられないなと、今朝の会話を思い出す。
……っと、こうして話しているのならもうひとつ確認しておきたいこともあるので、梨璃ちゃんにはそろそろ現実に戻って来てもらおうか。
「ところで梨璃ちゃん。ついでになっちゃうけど、あれから鶴紗ちゃんとは何かあった?」
「あ、はい。実はさっきまでそこにいたんですけど……」
曰く今は私の座っている席に鶴紗ちゃんが座っていたところへ三人で相席して、先日のお礼とか何やらで少し話しはしたものの、食べ終わったら彼女はそそくさと立ち去ったらしい。
というのも普段から休み時間に教室で捕まえようにもすぐフラッと何処かへ行ったり、あるいはそもそも教室に来ていなかったりで、あれから今日まで中々その機会もなかったとか。
「ふーん、何も言わずに飛び込んで来たしで一匹狼系かと思ったら、大体その通りと」
「あはは、しかもお礼には『当番だったから』って結構素っ気なかったですし……」
二水ちゃんが少し似せて真似したように、出ろって言われりゃ出て討つだけ。究極的にはリリィのやることなどそこに尽きるのだが、そういう内容を鶴紗ちゃんのような立場の子が言ったのなら、少し感じ方も変わってしまう。
「雪華様?」
「ん、顔に出ちゃってたか。なんでもない、って言っても嘘くさいよね」
とはいえ私としても彼女への対応は決めかねている。事情も深い部分までは知らないし、どこまで踏み込むかの線引きを見誤ると……
(……ん?)
そこまで考えて、彼女の事情へ踏み入る前提で進めている自分に気付いて一体全体誰の影響なんだかと、今も向かい側の席で四つ葉のクローバーの髪飾りに結ばれてピョコピョコと揺れるピンクのサイドテールをチラリと眺めると、そろそろ時間も怪しいし食事に集中する。
◆◆◆
午後の訓練、といっても全校生徒がまとめてCHARMを振り回せるスペースも中々ないのだから場所も振り分けもまちまちになるのだけど、今日私たちが使うことになるのは学院のグラウンド。
広さだけなら室内の多い訓練所より間違いなく上だし、周りにいくつか集まりが見えることから場合によっては班ごとに競わされることもありそうだなと、一応の監督役になる教導官の方を見ながら考える。
「今日は
確か今は梨璃ちゃんたちのクラスの担任だったかと、記憶を辿っているとその梨璃ちゃんたちが先程と同じく見慣れたトリオでぞろぞろとやってくるのが見えたので、今日の班長らしく声を掛けて集めようか。
「はいはい、うちの班はこっちねー」
「はーい。雪華様、今日はよろしくお願いしますね!」
「よろしくねー。私以外にも何人か上級生混ざるけど、そろそろ来るとは」
なんて言いながらグラウンドの時計を見ると開始の十五分前、揃うにはちょうどいい時間ではある。
「あっ、梨璃ちゃんだ。おーい!」
「ん?」
そんな時こっちへ、というか梨璃ちゃんに手を振りながら駆け寄ってくるのは、大分お馴染みになってきたアールヴヘイムのすっごいアホ毛とサイドテールが特徴な──班分けの名簿にあった名前の中であんまり覚えのない一年生、
「知り合いなの?」
「はい! 趣味の方でちょっと」
「いやー、梨璃ちゃんってば結構強いんですよ?」
とは言うけど二人とも趣味で武道か何かをやっている風には見えないし、対戦系のゲームか何かだろうか?
私がやるのは基本一人用のシミュレーションやRPGばかりなので詳しくは知らない世界ではあるけど、リリィとしての反射速度や動体視力でその手の物をやったら読み合いとかが凄いことになりそうだとはなんとなく察せられる。
まあ、そっち系に興味がないこともないし今度実家から何かしら送ってもらうか。
「ふふ、そんなにはしゃがないのつくし」
「ほらほら、あかねぇもはやくー!」
「あかねぇ?」
そんな風に彼女の後ろからやってくる茜への月詩ちゃんの、いくら同じレギオンとはいえ先輩の二年生相手にしては気安過ぎる呼び方に疑問符を浮かべていると、「待ってましたぁ!」と言わんばかりの勢いでご本人から解説があるそうだ。
「わたしとあかねぇは幼なじみでシュッツエンゲルっ、だからこんなに仲良しなんでーす!」
「へぇ、なるほ「知ってます知ってます! 田中壱さん、江川樟美さん、
「そのとーーーり! そして我こそがそのアールヴヘイムの一番槍、高須賀月詩ちゃんなるぞ~っ!!」
ついでにいつぞやのアーセナルコンビのフルネームを知ったりもあったけど、腕を組みむふーっと自慢げな月詩ちゃん自身より興奮した様子で語る二水ちゃんで、とりあえずそこの経緯はよーーーく分かった。
「ふふ、相変わらずですね彼女」
なんてわちゃわちゃしているところへやってきたもう一人、二本の三つ編みおさげの子には楓さんが対応している。
「あら、ごきげんよう汐里さん。そういえば今日はあなたも同じ班でしたわね」
「ええ、ごきげんよう楓さん。今日はよろしくお願いしますね」
そんな彼女は私以上のCHARMブレイカーとして日々工廠科生徒からの要注意度の上昇している〈不動剱の姫〉、六角汐里ちゃん。確か彼女も一年椿組だったはずだから、クラスメイトとして二水ちゃんのオタク状態にも慣れた物なのだろう。
「さて、これで後はー」
「ふう、少し熱が入ると時間を忘れていかんのう」
言えば来る法則かなんなのか、次にやってくるのはいつもの古風な口調通りにミリアムちゃん。時間ギリギリまで自分の工房で何かしらの作業でもしていたのか、若干くたびれている。
ここまで来ると少し人選に作為的な物を感じるけど、他のレギオンメンバー予定である二年生の夢結は向こうで梅と一緒に他の子の面倒を見てるし、神琳さんと雨嘉ちゃんはさっき屋内の訓練所の方に揃って向かっていたのを見掛けたからたまたまだろうとして、これであと一人。
「ねぇ二水ちゃん、最後の一人ってどんな人なの? この二年生の「
「おおう、二水は今日も絶好調じゃな!」
ミリアムちゃんにまで言われる通り、残る彼女のことを聞こうと近寄る梨璃ちゃんへ食い気味に二水ちゃんのリリィオタクスイッチが再度入る。
「戦術家として世界屈指の実力で、モダンなそれを駆使しながらB型兵装を使いこなす人呼んで〈サングリーズルの魔術師〉! レアスキルは指揮官タイプのリリィとして当然の『レジスタ』ですが、レアスキル『Z』のような現象も起こせるとされるため史上初の“Zのサブスキル”覚醒者ではないのかと噂されています!」
レジスタ──周辺のマギ純度、いわゆるマギインテンシティの向上や味方のCHARMのコアへのマギエナジーの供給による戦力増強、更には『鷹の目』のサブスキル相当な俯瞰視野の力やら他にも多数の能力を併せ持つ複合スキル。
この系統のスキルを持つリリィのいないレギオンはレギオンではないとまで言われる現代戦術の要、指揮と統制を司るレアスキルで、うちのメンバーの場合は楓さんが該当者。
そしてレアスキルZ、あるいはラストレター──こちらはいかにも“魔法”的な効果というか、両手に収まる範囲の時間を“巻き戻せる”という物で、緊急時の負傷者や破損したCHARMへの瞬時の処置が可能なため多くのレギオンやガーデンが欲しがっているが、覚醒者の少ない稀少スキルに分類される上、件の彼女のサブスキルと思われるそれも自由自在に使える訳ではないと、中々上手くは行かないスキル。
B型兵装については……今はいいか。流石に先生が見ていて下級生も混ざる訓練で使うようなもんじゃないし、何より
で、そんな専門的なあれこれが並んでいるともうとりあえず二水ちゃんがここまで興奮する程のリリィである。としか伝わっていないのか、それに返す梨璃ちゃんの様子はなんとも言えない。
「えっと、なんか凄い人なんだね?」
「はい! また〈御台場迎撃戦〉においては市民を守るために死闘を繰り広げた〈栄光の第4部隊〉の一員でTZ──タクティカルゾーンの底を勤め、初代アールヴヘイム時代からの副司令塔としての確かな実績から〈コンダクター〉と称されるこちらの茜様とはレギオンは違えどTZの底としてどちらが上か日々競い合う、良きライバル関係としても有名です!」
「ふふーん、あかねぇもすっごーーーいリリィなんだよ~? ちなみにあかねぇは迎撃戦じゃ、依奈様と一緒に第3部隊っ!」
「そう言われると少し照れるわね」
なんて口では言っているが彼女とて初代アールヴヘイム、こういう話題はよく振られているのだろうなと茜の慣れた風な反応を見ていたら聞こえた足音に振り向くと、その最後の一人がやってきたと思えばそのまま私の横を通りすぎて、二水ちゃんの前まで進む。
「そこのあなた。二川二水さん、だったわよね?」
「へっ……や、山梨日羽梨様ぁ!?!?」
それこそ私や神琳さん、依奈や茜に対しても本人を目の前にひたすら熱弁していたろうに、件の若草色の髪を茜と同じく二本の房にして肩越しに垂らしている、頭上の大きなリボンが特徴的な彼女が来た途端、何故か二水ちゃんのテンパり具合は頂点に達した。
しかしそんな二水ちゃんの様子もお構い無しに、なおも彼女──山梨日羽梨はズイッと詰め寄って話を続ける。
「日羽梨のことを茜と比べてたみたいだけど、この日羽梨が! TZの底では世界で一番よ、誰にも負けないわ!」
「そうですか、ではわたしとの決着をつけないとですね。ふふ、なんちゃって」
売り言葉に買い言葉。というよりは気心の知れた相手同士の冗談なのだろう気軽さで日羽梨の宣言に乗っかった茜の言葉に、日羽梨はピクンと頭のリボンを跳ねさせるとそのまま振り向いて「ぐぬぬ」といった音の似合う表情になっている。
「いいわよ……そんなにお望みなら今ここで決着をつけてやるわ! 黒紅雪華様、一年生を三人お借りしても?」
「えっ? いや、うん。いいけど」
なんだ? そんなにムキになるような感じの流れには見えなかったけど……それこそ言った茜自身意外そうにしているし、汐里ちゃんも状況に付いて行けずこっちに寄ってくる。
「えっと、どうなるんですこれ?」
「いや、私に聞かれてもなぁ」
「へぇ、なんだか愉快なことになってるじゃない?」
「うわあ!?」
その上私の肩に手を起きながら吉阪先生まで話に混ざって来るのだから、もうどうしろというのか。
「ああ、気にしないでいいわよ。入学して一月ちょっと、少しは慣れて来た頃の新入生たちへのデモンストレーションには丁度いいもの。いっそ模擬ヒュージを使って……」
「あのー、一応私が班長ってことに」
「ええ、そしてこの場全体の監督者はこの私。何も問題はないでしょう、黒紅さん?」
そう言われると特に返せる言葉もなく、手を叩いて場を仕切り出す吉阪先生に、私もまた置いてきぼりとなる訳で。
ここはガーデン、リリィの学び舎──故にそれを教える立場の教導官もまた、一筋縄では行かない元リリィの方々が多いというか、なんというか。