最後の『二人』はあくまでサブキャラなんでそこまで食い込みはしませんけど、毎度の無から出すよりはコツコツとシリーズ…今回もその手合い結構あるけどナ!
ともかく年明けて結構してようやくの百合ヶ丘、の前に…?
あのまま百合ヶ丘へ直帰かというとそうでもなくて、途中で電車を降りて鎌倉の市街の中それなりの荷物を二水ちゃんと二人抱えている。
「これで全部? それにしても、色々買い込んだねぇ」
「あはは、どうしても人数が多くなると、お茶請けとかの消費も早くなりますからね……」
特にワケ有りコンビは経歴からかやけに食べる量が多いし、コーヒーだ紅茶だも各々減ってたら買い足してるにせよ、まとめてやれるタイミングだったから私も荷物持ちをさせられてる訳で。
「ちょっと、そこのあなた!」
「は、はいっ!」
とと。なんか気の強そうな声がしたと思えば、二水ちゃんがこっちに荷物預けてその子へ応対しているのなら、荷物持ちは荷物持ちらしくしていようか。
「あ、改めて、なんでしょうか?」
「その制服、百合ヶ丘女学院の生徒よね?」
まあ、有名だし制服で分かるよね。と荷物の影からチラリと眺めてみれば、こっちもこっちでその制服……ヘイムスクリングラねぇ。縁は微妙にありはするけど、どれもかすり程度。
ともかくあれよあれよの間に、挨拶ついでに二水ちゃんがその紫髪の子を百合ヶ丘まで案内する。なんて話を取り付けられてるのを眺めていると、向こうも私に気付くから軽く会釈を。
「えっと……ねえ二水ちゃん、そこの人は先輩?」
「あ、はい。三年生の黒紅雪華様です」
「ふーん、なるほどなるほど。三年ってことは多分ゆー姉の言ってた『参考にはなるけど参考にしちゃダメなタイプ』の──」
『ゆー姉』ねぇ。なるほど言われてみれば雰囲気は……髪色含め全然違うな? 何はともあれ、案内のお礼代わりなのか荷物は半分持ってくれたから、勢いはともかく根は良い子ではあるとして。この感じ、連絡はしとくべきかねぇ?
◆◆◆
「お待たせしました。ところで、話の子は?」
「んー、もう行っちゃったかなぁ」
あの後例の子が全力で逆方向に走って行ったりと多少のトラブルはあったものの、追い付いた二水ちゃんが案内すれば素直に従ってくれたので、私もその後をトコトコとついていって、百合ヶ丘の校門をくぐって少し待てば、連絡相手な祀さんがやってくる。
「とりあえず確認するけど、向こうのガーデンから何か聞いてます?」
「ヘイムスクリングラの、ということでしたが。先程彼女のお姉さんの方から連絡はあったそうです、短期留学生、という形にしておいて欲しいとか」
うーん、言い回しに何か苦労の跡が見受けられる。少し見ただけでもいかにもな末っ子気質だったし、何かの弾みで飛び出したのに後から理由付けをしたような具合。
「となると、まあ雨嘉ちゃんのいる
「先方も是非そうしてもらえれば、と。私たちの方で預かるよりは、トラブルもなさそうですし」
だよねぇ。生徒会を巻き込んでの大事にするより、身内の問題なんだから身内で片付けてくれってのは自然な流れだ。どうせ感じ的に雨嘉ちゃん目当てではありそうだし。
「了解、なら一旦控室の様子見てきますわ。あの調子じゃ手続きすっ飛ばして突入してそうだし」
「ふふ、お手数をお掛けします」
なんか去り際に祀さんにはこういう役回りも板について来たとでも言いたげに微笑まれるけど、唯一の最上級生なりに後輩やシルトに恥ずかしくないよう立ち回ろうとすると、どうしてもこうなるんだってば。
◆◆◆
その後工廠科に寄っていつものようにCHARMの押し付けと交換を終えて控室に入れば、例の子は部屋の真ん中でいかにも『本日の主役!』という風に佇んでいる。
「改めて、あたしはヘイムスクリングラ中等部の
挨拶は元気でよろしい。けど身内なはずの雨嘉ちゃんが引っ張られるように腕を組まれながらもどこか困惑している感じなのは、やっぱり関係各所には黙って飛び出して来たな? って疑惑が強まってしまう。
「莉芬ちゃん、ヘイムスクリングラってスウェーデン、なんだよね? 向こうってどんな感じなの?」
「えへへ、えっとね──」
「むーっ」
とにかく国外からの来訪者、というのは嫌でも話題の中心になっているようで、梨璃ちゃんを始め一年組が囲んで色々と聞いたりしているようだけど、そんな中微妙そうな顔をしているのは雨嘉ちゃん以外にもう一人いた。
「むーーっ」
「そんなほっぺた膨らましてどうしたのよ?」
「ぷふっ」
とりあえず隣に座りながら、輪にも加わらずソファでむすっとしてた結梨ちゃんの頬を指で突っついて息を吐き出させるけど、梨璃ちゃんと二水ちゃんが校内の案内だと莉芬ちゃんに「レッツゴー!」と手を引っ張られて部屋を出て行くと、またしても何かに抗議するように頬を膨らませる。
「むーーーっ」
「な、なんじゃ……今日の結梨は妙にご機嫌斜めじゃな?」
ふーむ、状況的に梨璃ちゃんを莉芬ちゃんに取られてるみたいで面白くない、のだろうか? ギョッとしているミリアムちゃんはともかく、夢結の方を見れば腕を組んで「やれやれ」という感じだから、これも成長の機会だと言いたげだけど。
「ま、いきなりかわいい猫が教室に迷い混んだようなもんだろ? そりゃあ皆気になって仕方ないよナ」
「人の妹をそういう風に言います?」
ツッコミしてる鶴紗ちゃんには悪いけど、結局のところ一番は梅の言ってる理屈ではあるんだろう。私は経験上どうしても色々気になって、いきなり裏から探ってしまったけど。
「その、妹が騒がしくして……すみません」
「いえ、騒がしい妹には慣れているもの」
それが一柳のどっちを指しているのかはともかく、雨嘉ちゃんからの謝罪に対する夢結の余裕そうな態度を見たからか、またしても隣からは変な空気が。
「むーーーーっぐ」
短い間に色々あったせいもあって、拾った頃に比べたら大分落ち着けたかと思ってたけど、やっぱりまだ生まれて数ヶ月なんだなぁと実感しながら、結梨ちゃんのお口にはテーブルの上からマカロンを投入。
「んぐ、んぐ……残りも!」
そうしたらどうやら自棄食いという答えになったようで、今度はお皿ごとかっさらっていく。
「おおう、豪快に行くねぇ」
「そういう意味では、向こうも向こうで同じかもしれないゾー?」
同じ? ……ああ、確かに。何があったにせよいざ遠い異国の地まで姉を訪ねてやって来たら、その横に知らない誰かが四六時中張り付いています。なんてのは実の妹としては面白くないだろうけども、当の神琳ちゃんはどこ吹く風だと、莉芬ちゃんがいてもいなくても変わらず雨嘉ちゃんの隣をずっとキープしていた。
「それにしても、ああして年下の方の相手をしているのを見ていると、やはり梨璃さんの潜在的お姉さん力は相当なものだと実感しますわね」
「おい楓、おぬし今度は梨璃をお姉様なぞと呼び出さぬじゃろうな? よもや同室狙いを諦めて、遂に留年を……」
こっちはこっちで変な方に話が進んでるし、確かに、外からの風は波乱を呼んでくれてるみたいで。
◆◆◆
「……今度はどういう状況よ?」
しばらくして、遅れて追って行った雨嘉ちゃんと神琳ちゃん含め中々帰ってこないなと、面子も大体半分になった控室を出て休日の校内を探してみれば、見付かったのは姉妹の制服ペアルックに混ざる神琳ちゃんという、莉芬ちゃんからしたらまたしても面白くなさそうな光景。
「ふふ。莉芬さんが雨嘉さんの向こうでの制服を持ってきていてくださったのですが、雨嘉さんったら一人だけ着るのは恥ずかしい。だなんて仰るものですから」
「だーかーらー、それならあたしがいるでしょって!」
うーん、案の定莉芬ちゃんもムキになっちゃってるし、分かってやってるやつだこれ。
「ま、まあまあ……雨嘉さんと一番お似合いなのは莉芬さんですから」
「む~っ……ん?」
そこで宥めに入った二水ちゃんを見るや、上から下までまじまじと眺めて、最後に自分と見比べて頷く莉芬ちゃん。
「……よし。二水ちゃん、ちょっと付き合って!」
「へ? いや、あの、莉芬さ──」
「早く!」
腕を取って、有無を言わさず連行される二水ちゃんだけど、まあ流れ的にそういうことなんだろう。負けず嫌い。
「ところであの子中等部って話だけど、なんで二水ちゃんはちゃん付けされてんの?」
「えと、莉芬ってば最初ふーみんのこと同じ中等部生だと思ってたみたいで……」
あー、まあ身長は負けてるし態度の小ささもあってそうも見えるか。いや、でも百合ヶ丘は中高で制服違う……にしたって黒ずくめには変わりないし、ヘイムスクリングラほど差はないと言われたら、否定は出来ないか。
「あれ、莉芬ちゃんどこ行くの~?」
「……ところで、そのスリットはやっぱりヘイムスクリングラ式なの?」
置いてかれてキョロキョロしてる梨璃ちゃんを眺めながら、なんでか莉芬ちゃんも同じようにスカートへスリット入れてたのが見えたのをお姉ちゃんに聞いてみれば、返事は「ノ、ノーコメントで」と視線を逸らされながら。まあ、動きやすそうではあると思うよ、うん。
◆◆◆
とりあえず様子を見に行くのは雨嘉ちゃんたちに任せて、梨璃ちゃんを連れて控室に戻ったタイミングに、聞き慣れた鐘の音が響く。
「えっと、今日は確か……」
「わたしたちの担当ね。行きましょう、皆」
そういう訳なので各々CHARMをチェックしていると、今更ながらの確認をするのは梅。
「って、ふーみんたちはどうすんだ?」
「それについてだけど、どうやら莉芬さんが警報を聞いた途端、最低限の確認だけをして二水さんを連れて飛び出してしまったらしいわ」
伝えるだけ伝えると、梨璃ちゃんの背中を押すようにしながら部屋を出る夢結。うーん弾丸娘、とはいえそれなら話は早いか。二水ちゃんにヒュージの出現エリアのデータを送っておけば、一応問題はないとして……
「ほら結梨、ヒュージ出たからいつまでも拗ねてないで」
「すねてないもんっ」
鶴紗ちゃんに手を引かれて仕方なさそうに部屋を出るのを見るに、どうにも調子の狂ってる結梨ちゃんを他の皆に任せて出たの、失敗だったか? いやでも、あんまり過保護になってもなぁ。
「おーい雪華様ー、置いてくぞい」
「はいはい、今行く!」
◆◆◆
「ようやく少しはシュッツエンゲルらしくなってきたって?」
外に出て、ヒュージの規模を探るため上級生だけで先行していたら、スキルの都合上夢結が一段遅れる形になっていると、隣を駆ける梅から茶々を入れられる。
「どうなんだろうねぇ。素直に相談してくれたんなら『そりゃあ嫉妬だよ』って言えるんだけど、あの子ってばそれすら初めてでしょ? なら夢結みたく、流れに任せてみるのがいいのかなぁとも思うじゃん」
「自分の気持ちに折り合い付けるのに、ちゃんとした答えなんてないからナー」
だから自分なりのやり方で飲み込めるようになってから、初めて手助けした方が結梨ちゃんのためじゃないか? というのも結局は『私の答え』でしかない。
「二人とも、話はそこまでに。来るわ」
「……やれやれ、こっちも新顔かい!」
とはいえ悩むのは後でも出来る。今は出現したケイブから出てくる飛行型ヒュージ、それもこの辺りじゃ見慣れない虫っぽいタイプの相手をしてからだ。
◆◆◆
「ふむ、このパーツ割りは昆虫辺りがベースかのう」
「うーん、ハチ……じゃないかなぁ?」
その頃、別方面のヒュージの対応に向かった一年生組の残りは、飛んでくるヒュージの部位から元となったものの推測を立てていたが、交戦距離に入ったと見れば楓からの指示が飛ぶ。
「鶴紗さんと結梨さんは前衛を、わたくしたちが支援しますわ!」
「了解」
「わかった!」
上級生と下級生、それぞれ三人ずつ抜けていて今の人数は五人。相手が小型のヒュージばかりとはいえ飛行型ならば無理に攻めることもなく、防衛ラインを構築して前衛の二人に釣られたところを各個撃破──
今回のヒュージが見慣れないタイプな以上、様子見も兼ねて初動はこんなところだろうか。
◆◆◆
「はい、まずはひとつ!」
ブレイザーは昨日散々使い倒したから、代わりに持ち出したブリューナクで飛び付きついでに小型ヒュージを切り裂き、既にツインバスターの構えでいたライザーを向けて、ケイブごと辺りのヒュージを薙ぎ払う。
「あと何個!」
「こちらでもひとつ撃破しました」
「こっちは二個終わったゾ!」
なら、とりあえず担当なエリア内のは残りひとつ、かね。さっさと終わらせて合流しときたいところではあるけど……ん?
「通信?」
◆◆◆
「……今!」
「たぁぁーっ!」
姉妹してCHARMはアステリオン、しかし戦闘スタイルはしっかりと構えて狙う雨嘉と対照的に、スピードを活かし遠近織り交ぜたのが莉芬のもの。
だがお互いそうと分かっていれば、莉芬が向かった先にいたヒュージの刃のようになっている腕を雨嘉が撃ち抜いて怯ませた隙に、懐へ飛び込んだ莉芬の連撃によって仕留めるという形にもなる。
「おぉー、これが本物の姉妹同士の連携……凄いです~!」
「ふふ、まさしく阿吽の呼吸というところでしょうか」
二水が莉芬に自分の予備を押し付けられて、ヘイムスクリングラの制服ペアルックが中高分合わせて二組と妙な格好になってはしまったものの、そのせいもあってか昔を自然と意識して妹との連携もあの頃と変わらず、あるいはお互いの成長もあり更にやりやすさは増していたと、雨嘉も珍しく手応えを感じているところに、急に通信が入る。
『ヒュージの増援です! 手の空いた方はすぐにうわわっ』
「梨璃……!?」
自分たちに対してでなく、今回の出撃担当全員へ向けたのだろう梨璃からの広域通信は途中でヒュージに攻撃でもされたのか、半端なところで切れてしまう。
「梨璃さんたちの担当エリアはこの先ですが……確かに周辺からヒュージが集まっています!」
不足した情報は二水が『鷹の目』で見て補足してくれるが、紛れもなくトラブルであるとしても、スッと横に並んでくれた『朋友』の顔を見れば、雨嘉は自分でも不思議なくらい落ち着けていた。ならば次にすべきことも、すぐに浮かぶ。
「莉芬、今の聞いてた?」
「うんっ!」
こちらの四人は全員ポジションとしては後ろ寄りにはなるが、それでも切り込み役が必要になれば躊躇いなく飛び込めるのが莉芬だと、雨嘉は向こうの中等部にいた頃、そして今も見ていた。
「莉芬だけなら間に合う、先に行ってて!」
「オッケー。ゆー姉たちが着く前にちゃちゃっと終わらせちゃうね!」
だから梨璃たちへの救援に一番速く駆け付けられるのは、姉としての贔屓目抜きでも彼女以外あり得ない……急な来日に何かあったのだろうと不安がないと言えば嘘になるが、それ以上に家族として莉芬を信じているから、大事な仲間を任せられる。
「ふふ、そういうところはしっかりと『お姉さん』なのですね。雨嘉さんも」
「か、からかわないで……」
「と、とにかくわたしたちも急ぎましょう!」
少し緩んだ空気を引き締め直し、近場のヒュージを片付けると、三人も梨璃たちが担当していたエリアへ駆け出して、莉芬の後に続く。
◆◆◆
『簡潔に言いますわ、ヒュージの増援が急に押し寄せてきましたので、念のため雪華様だけでもこちらに来られませんか?』
「そりゃあ、残りのケイブ潰すだけなら二人に任せて行ってもいいけど、さ!」
梨璃の通信で伝えられなかった分を補足する楓に返事を返しながら、雪華がライザーとブリューナクの一斉射撃で道を開けば、空いた空間を梅と夢結が駆け抜ける。
「だったらこのまま突っ込むゾ、夢結!」
「ええ! なので雪華様は梨璃たちの方へ」
「……まったく、ここは任せたよ」
確かに残りのケイブに切り込むにはより身軽な梅の方が適切で、もうこっちの火力は余剰だと雪華自身分かるから、振り向いてライザーのスラスターを起動、廃墟の間を縫うように跳んで行く。
「それっ!」
任し任された以上わざわざ雪華を見送ることもせず、最後のケイブへ一直線に突入した梅が真下へ滑り込みながらタンキエムによる砲撃を放てば、間のヒュージ数体もろとも撃ち抜かれる形で撃破は完了するが、縄張りを広げようとしたところだったヒュージは怒り心頭だとでも言わんばかりに、生き残りが梅と彼女の後ろから追い付いた夢結を取り囲んでいた。
「うひゃあ、こいつら見た目だけじゃなくて行動まで虫っぽいナ」
「なら、CHARMは殺虫剤代わりかしら」
場を和ませる冗談なのか素なのか、夢結の性格から判別しづらいコメントには梅も苦笑いだけを返して、そのまま背中を預ける形に。
◆◆◆
さて、緊急っぽい雰囲気ではあったものの、途中を他所からの救援に任せながら急いで駆け付けた時には大体片付いてたというのは、少し拍子抜け。
「状況は?」
「取り越し苦労だったのか、勢いも最初以外それ程でもありませんでした。なので、莉芬さん一人の援軍で事足りましたわ」
確認の片手間にそれぞれ残ったヒュージを撃ち落とせば、特に警戒もなく楓さんがジョワユーズをシューティングモードから閉じて下げているのだから、本当に終わりのようで。
そうなると慌てて救援要請を飛ばしてしまった形になる、梨璃ちゃんの方は……「あたしがいっちばーん!」とノリノリな莉芬ちゃんと元気にハイタッチしてるから、特に気にしていないならまあいいか。
「むーっ」
とはいえ知らない子と梨璃ちゃんがそういう調子なのは、やはりお気に召さないのが一人。
「ウチのお姫様はまだこの調子と」
「莉芬がちょうど人手が欲しいタイミングで来たのを、梨璃も大歓迎してましたから」
しれっと語る鶴紗ちゃんも特に気にしてないように、梨璃ちゃんは元から
「はいはい。別に梨璃さんは誰か一人のものでもないのですから、いい加減慣れなさいな」
「とても楓の口から出たとは思えん台詞じゃな……」
だからといって恨めしそうにしても今更梨璃ちゃんの性分は変わらんぞと、撤収準備に入るようにと結梨ちゃんは楓さんに抱えられて行くけど、まあミリアムちゃんの呟きが見てる面々の総意として。
「……あれ、もう終わってる?」
「おう。流石は雨嘉の妹じゃな、わしの見せ場も持っていきお……っておぬしら、なんじゃその格好は!?」
あ、そういえば雨嘉ちゃんたちが向こうの制服に着替えてたの、皆に話すタイミングなかったっけか。ミリアムちゃんに倣って振り向けば、飛び出した莉芬ちゃんを追いかけたせいで、着替え直す暇もなかったらしい様子が目に入る。
「で、案の定二水ちゃんも着せられてたと」
「あはは、莉芬さんの着替えを一着……」
「どう? 似合ってるでしょー」
ということは中等部のになる訳だけど、まだ一年だしむしろサイズ的には問題なかったようで。
「なんだ、皆結構元気そうだナ?」
「一応、私も行き掛けに道中のは結構蹴散らして来たけど、大体はあの子だってさ」
莉芬ちゃんがアステリオンをブンブンと振って雨嘉ちゃんにアピールしているのを指差せば、遅れて合流してきた梅にも状況は伝わったけど、それはそうと頭の後ろで手を組むと私の方を流し見てくる。
「ふーん、ケイブ壊し切った後は夢結と囲まれてたから、どれだけ抜けたか分かんなかったけど、そこは雪華サマのやることだ」
「やかましい、あの数全部通してたらこんなのんびりもしてられなかったでしょうに。それに、こっちも私だけじゃなかったから」
梨璃ちゃんの通信が広域になってたおかげか、他のレギオンも気を利かせて『助っ人』を寄越してくれたと話せば、梅にも思い当たる節があるのかその助っ人が誰とまでは言わずとも合点が行っていた。
「ん? あー、そういや今日『あの二人』別のレギオンに助っ人で入ってたんだっけ。お礼に今晩何か奢っとかないとナ」
「悪いけど、それはあたしが約束して──」
「あなたたち、昔を懐かしむな……とまでは言えないけれど、他のガーデンの制服を着たまま戦場に出るのは危険よ。何の連絡もなければ余計な混乱を招いたり、最悪誤射の恐れすらあるわ」
なんて駄弁っていると、後からやってきた夢結にも雨嘉ちゃんたちの格好が見付かる訳で、正論パンチに姉妹して萎縮しているのが見て取れる。
「さて、そろそろ助け船出してあげなきゃだゾ」
「だね。着替えるにもさっさと帰らないとだし」
◆◆◆
翌日、今日は午後のパトロールの担当だと今度はちゃんと話を通した上で莉芬ちゃんを連れて出ているけど、その途中ひとつ気になったことを確認。
「ところで、私微妙に莉芬ちゃんに近寄れ切れてない気がするのは気のせいかな?」
「……え?」
お相手は勿論、莉芬ちゃんのお姉さんな雨嘉ちゃん。初対面の時点で明らかに『姉から余計なこと聞いてます』なんてコトを言われたのだから、その経路には少し物申すくらいの資格はあるでしょう。
「あっ、あたしイロモノはノーサンキューだから」
「なんですって!?」
「なんじゃとー!?」
そんな時前から聞こえたやり取りに、雨嘉ちゃんが露骨に視線を逸らしたものだから、もう問い詰めるまでもないというか……とはいえ言いたいことがあるようなら、聞いてはあげようか。
「ち、違うんです……確かにためになる部分も多いけど、もし莉芬が雪華様の戦い方を参考にしちゃったら、それはきっとあの子のためにならないから……」
「ま、言いたいことは分かるよ。あたしが今更変えるつもりはなくても、他人に自分のやり方を真似しろとは言えんからね」
元は無理も無茶も突撃で黙らせてた
仮にそれが性に合うからと真似したとして、絶対的に先を行ってくれる『誰か』のいない状態でそれをやったらどうなるか……なんて、わざわざ語るまでもない。なら妹にそうなって欲しくないと思っているのは、雨嘉ちゃんも立派なお姉さんだって証。
「だから今日は初代アールヴヘイムの夢結様や梅様に、あたしの戦い方いっぱいお見せしちゃいまーす!」
「おー、また元気な後輩が増えたゾ」
「そういうタイプなら、もう間に合っているけれど」
夢結の言い種が誰を指しているのか、わりと該当者は多いけどこのタイミングだとぐぬぬ顔を加速させている楓さんが一番だろうか?
「先輩たちみたいに余計なこと言わず実力を見せてれば、素直に尊敬してもらえるのに」
「ま、まあそういうところもお二人の……面白いところ? ですから」
そうして真っ当にイロモノ扱いされたお貴族コンビに対しては、鶴紗ちゃんのぼやきに二水ちゃんもフォローはしきれない……というより、多分普段からネタにしてるから庇える言葉が出てこないとか、そういうパターン。
「うん、夢結はすごい!」
「そこは素直に喜ぶのね」
一日経てば多少は受け入れたのか、あるいは梨璃ちゃんでなく夢結なら元より梨璃ちゃんがべったりだから今更他の誰かが増えてもノーカンなのか。ともかく結梨ちゃんも今日はそこまで機嫌が悪くなさそうだし、昨日よりは楽に行けそうだ。
「大体、先輩だ後輩だってなると莉芬はまだ中等部だろ? 一年生からしても立派な後輩だゾ」
「本人があんな感じだし、実力的にももう年下扱いしてないんじゃない?」
それがいいのか悪いのかはともかく、二水ちゃんや梨璃ちゃんにも懐いてるからか、実姉の雨嘉ちゃん以外の一年組は莉芬ちゃんにわりと友人相手の距離感が強い。
「あまり緩み過ぎるのも、困ったものですが。昨日のようなことにもなりかねませんし」
「ま、そこは気を付けてくれとしか言えないでしょ?」
一応莉芬ちゃんも今日は許可が出るまで勝手に飛び出しはしなかったし、雨嘉ちゃんたちも普段通りの格好だ。
加えて昨日それなりに活躍したせいか、昼食前校内で人集りに飲まれるくらいには人気が出ていた、と二水ちゃんに聞いた話から、多少自尊心も満たされてるだろうと──
「よーっし、あたしが一番乗りだー!」
「……あれぇ?」
──とか言ってる側から、ケイブの反応に猫まっしぐらなんですけど? いや猫になってたのはこないだの雨嘉ちゃんだけど、多分莉芬ちゃんでも似合うでしょアレ。
「莉芬……っ!?」
「さて、どうしようかこれ」
念のための確認はするけど、まあ援護する以外の選択肢なんて初めからないのは分かってはいる。いつものことだと言えば、その通りだしね。
「仕方ありません、こうなった以上もういつものパターンですわね」
「……『いつもの』と言われる程、繰り返してしまっているのかしら」
「んー、夢結だけじゃないからそう言われちゃってるというか。まあ一柳隊全体でいつものことだゾ」
楓さんの投げやりな言い方で若干夢結に流れ弾行ってるけど、メンバーの過半数が独断専行の前科持ちだし、そろそろそれ前提で戦術パターンのどこかに組み込まれてそうなくらいなんだから、何を言っても今更だ。
「ヒュージの数はそんなでもないし、包囲殲滅の形でいい?」
「そうですわね。神琳さんと雨嘉さんは莉芬さんのフォローを最優先で構いません、こっちで帳尻は合わせますわ」
「っ。ごめん、楓……!」
「……さて、では急ぎましょうか」
ふむ、神琳ちゃんには何か気付きがあったような間があったけど、微妙に避けられ気味な私じゃあ莉芬ちゃんの問題をどうこうは出来そうもない、任せるとするかね。
◆◆◆
「お、いいのあるじゃん! もーらいっ!」
で、戦闘中ライザーでいつものようにマギの足場を展開していると、ちょうど良さげに莉芬ちゃんが空いてたひとつにヒョイと飛び乗ってくる訳なんだけど。
「あ、それ結梨が使おうとしてたのに……!」
「まあ、下がってくれたのならいいけどさ」
どうにも、莉芬ちゃんが来てから調子を狂わされてばっかりな結梨ちゃんとしては私絡みでも反応はしてくれるみたいだけど、一応指示に従って後退してくれてる形なのだから、意気揚々と突撃したわりにどこかアンバランス。
「一斉射撃、行きます!」
何にせよ、梨璃ちゃんの号令が下った以上は余所見もここまで。莉芬ちゃんもちゃんと足場の上でアステリオンをシューティングモードにしているのだから、私たちだけ遅れる訳にもいかない。
「楽なのは事実なんだけどねぇ、どうにも中々ベンチに下がれないのは良いのやら悪いのやら」
そろそろ結梨ちゃん含めても慣れて来た頃だと言いたいけど、トラブルが絶えない以上安心して抜けられるかってなると、また別の話になってしまう。
ともあれそこまで大きなケイブでもなかったし、囲んでしまえばヒュージの拡散も防げたのだから、まだパトロールは継続になる訳だけど……どうにも、気苦労の方も終わりそうにないか。