相変わらず変なポジションで関わろうとしてるから、謎目線で踏み込み切れない輩。
今回は状況が状況だからと、突入前からメンバーを半分に分けて、こっちの担当は私と楓さん、二水ちゃん、ミリアムちゃん、結梨ちゃんの五人という形になっていた。
「散りなさい!」
「おちろーっ!」
ともかく楓さんと結梨ちゃん、同室コンビの射撃で切り込むスペースは出来たけど、今回私たちの目的はヒュージではないのだから、ここは元々の出撃担当に任せていいかと近くのリリィに視線を向ければ、CHARMを掲げて答えが返ってくる。
「話は聞いてるわ。あの子が迷い込んだんでしょ? こっちは任せて!」
「ごめん、後で何か埋め合わせは」
そのまま固まってヒュージの群れを抜ける最中も、周りから支援射撃が来てるのだから、厄介ごとにもやる気は満々のようで。まあそれも、莉芬ちゃんの歳上に好かれそうな末っ子気質が故なんだろうけど。
「やれやれ、もうすっかり人気者だね、あの子も」
「でも、なんか寂しそうだった」
ふむ、さっきの訓練も結梨ちゃんはやれる限りでフォローしようと走り回っていたし、莉芬ちゃんへの感情は後輩扱いにシフトした感じ?
そこでひとりでに飲み込めたシルトの成長を喜ぶべきなのか、頼られなかったことを寂しがるべきなのかは、まだ新米シュッツエンゲルな私ではなんとも。
「さて、ここからはあまり固まっていても仕方ありませんわ。予定通り各自散開、ただし無理だけはしないように」
「うむ、さっさと莉芬を捕まえて休ませねばな。あれだけ疲れておったのじゃ、いつ倒れてもおかしくなかろう」
ミリアムちゃんに言われずとも、私たちが来る前のウォーミングアップも込みで、大体三時間くらいずっと走って跳んでと忙しなかった莉芬ちゃんが、このまま戦場に飛び込むだなんてのは、流石に無茶が過ぎる。
「二水ちゃんも、あんまり焦らないようにね」
「は、はい……!」
うーん、どうにも不安は拭えない……とはいえ、あまり時間もかけてられないから散らばるの自体は賛成だし、気を付けろってのは自分にもか。
◆◆◆
「……あはは。なにやってんだろ、あたし」
訓練場を飛び出した。までは口論の結果として言い訳出来ただろうが、その勢いのまま勝手に戦場に向かっただなんて、自分から怒られる理由を増やしにいっているだけ……などというのは少し落ち着けば分かるが、どちらの時も理屈で体は動いてくれなかったのだから、戦闘エリアとなった廃墟の中、莉芬の口からは自嘲の言葉が零れていた。
(でも、それでもあたしにはこのやり方しか……今更、他のやり方なんて……っ!)
思考の海に沈みきる前に、耳障りな羽音が聞こえたと気持ちを切り替えた莉芬がアステリオンを構えると同時、複数のハチ型ヒュージが物陰から飛び出して来る。
「ああっもう、こんな時にブンブンブンブンうっさいなぁ!」
スモール級でさえヒュージの大きさはメートル単位なのだから、当然元の虫とは羽音の大きさも比べ物にならず、そんな意図があるはずない、と分かっていてもこんなタイミングで不快感を煽られれば、どうにも莉芬の語気も強まってしまう。
◆◆◆
「……ん? あれは」
今更私が言うのもあれだけど、マギの足場を使っての空戦というのは、言うまでもなく非常に目立ちまくるのだから、周りからは見付けやすい。マギの光とか以前に、近くの建物より高く跳んでしまえば、隠してくれる遮蔽物もなくなるのだから。
だからこうして、手頃な瓦礫の上に登ってみれば、莉芬ちゃんを見付けるの自体は早かった。当然、周りからヒュージが集まっている様子も一緒に。
「こちら黒紅、お姫様はエリア……2と5の間かな、これは。大分目立っちゃってるね」
索敵スキルのない私でこれだ、不要とは思っても一応の取り決めとして、こちら側の司令塔な楓さんにはマップデータを見ながらの確認を。
『先程二水さんからも同様の連絡がありましたわ。恐らくあちら側の方が到着は早いと思われますが……』
「了解、まとめて面倒見とくよ。向こうのチームによろしく」
これで少し遅れたなりに状況は把握した。ならモニターごとマップを消せば、後は行くだけ……結局私は、口より体を動かす方が得意なんだしと、いちにのさんでスラスターを全開にして跳び上がる。
◆◆◆
「しまっ……!?」
先に合流していた二水に無理を言って応戦しつつ、周辺から集まるヒュージの注意を引いているのも承知の上で何度目かの空中戦を仕掛けようとした莉芬だったが、360°全てを常に警戒するには今の彼女では冷静さが足りず、足場を蹴って方向転換した瞬間を狙って複数のヒュージから同時に針のような射撃を放たれては、回避も防御も間に合わない──はずだった。
「莉芬さぁぁぁん!」
「二水ちゃん!?」
それは奇しくも少し前の雨嘉が神琳に対してやったように、ほとんど体当たり同然に飛び付いて来た二水共々落ちるように射線から外れたおかげになるが、地面に落下しながらぼんやりと鶴紗や結梨からそんなことを聞いたなと思い出す二水も、驚いたまま彼女に覆い被さられる形になった莉芬も、次の行動を取るには一拍遅れてしまう。
「あいたた……」
「そんな、あたしを庇って……っ。ダメ、あたしはいいから二水ちゃんは逃げて!」
二水の背後から、別のヒュージが今度も複数で狙っている。自分は仕方がなくとも、せめて巻き込んだ二水だけはと莉芬が腕で押し退けたところで、今更間に合わな──
─天の秤目─
(ああ、そうだった。あたしがピンチの時はいつも、いつもこうして姉様たちが助けてくれてたんだっけ)
「ふーみん! 莉芬!」
自分たちを狙っていたヒュージが、綺麗なくらい身体の中心を撃ち抜かれて撃破されていくのを眺めながら、聞こえた姉の声に安心感や別の何かで、莉芬の緊張は解け、二水を逃がそうと込めていた身体の力も抜けていく。
「身を低くしてて……今、助ける!」
「ゆー、姉……」
「あらあら、蜂の巣をつついたよう。これは駆除のし甲斐がありますね」
「なら蜂は蜂らしく、いよいよもって死ぬがよい。ってね!」
それぞれ冗談を言う余裕を見せながら、雨嘉の後ろからやってくる神琳と、莉芬たちの前へ上から降ってくる雪華、他にも一柳隊の各々がヒュージを攻撃しながら集まって来れば、後は早いもの。
「莉芬たちの近くにいるヒュージは全てわたしが撃ち落とす。だから、皆は包囲して殲滅を……っ」
「次、ミドル級含む群れが2時の方向!」
「わしに任せろ!」
─フェイズトランセンデンス─
雨嘉に防衛は任せていいと、楓が増援の襲来を告げれば、その方向をミリアムがレアスキルを解き放ち、即座に薙ぎ払う。
「梅、こっちに!」
「おう!」
反対側から来たヒュージ郡は、更に後ろから並んで駆け抜ける夢結と梅が、内側から撃ち落としていた。
「二水ちゃん、莉芬ちゃん、大丈夫?」
「う、うん……」
そして梨璃が二人の無事を確かめに来れば、彼女の隣に護衛のように控えていた鶴紗が前に出て雪華に並び、ヒュージの進行を食い止めている。
◆◆◆
『悪い、結構抜けちゃった! こうなるんなら意地張らず『助っ人』頼めばよかったかなぁ』
「了解。ま、自衛くらいはなんとかするよ、無理言ったのはこっちだしね」
先程すれ違った通信相手のぼやきは、近頃フリーランスの中でも売り出し中なリリィが結構いるからにはなるけど、当然その手の子を雇えばそっちに報酬を割く必要があるわけで、考えなしに頼んで弾薬費やらCHARMや装備の修理費諸々で赤字になりました。なんてなったら笑えないしね。
「さて、後ろは考えなくていい。左右は食い荒らしてくれてる……となれば」
「真正面に集中しろ、ですか」
鶴紗ちゃんに頷いてはみる通り、幸い数は問題ない程度には──
「雪華ー!」
「うん、いいところに来た」
そこで最後の一人、結梨ちゃんが私たちの担当になるヒュージを挟む形でやって来たなら、少し試したいことがあるから提案を。
「鶴紗ちゃん、ソードビット飛ばしたら一斉砲撃、合わせてくれる?」
「了解……!」
左手のブリューナクをシューティングモードに切り替えながら、右手にソードライフルを指揮棒か何かのように構え、タイミングを計って……今!
「行けぇ!」
私たちの砲撃にヒュージが散った瞬間、その内側を飛び交うビットを見た結梨ちゃんと視線を合わせれば。頷いてくれた彼女の手に一基飛び込ませる。
「てゃぁっ!」
◆◆◆
(あれは、さっきの訓練の……?)
もっと言えば少し前の6月、ギガント級との戦いにおいて梅が一瞬借りていたように、ブレイザーのソードビットは元より手持ちでの使用も想定されて設計されている。とは鶴紗も詳しくは説明されずとも、見て分かっていた。
とはいえそれ以降は雪華がビット操作に慣れたのもあって、ビットはビットらしく飛ばして運用する本来の形に留まっていたが、ブリューナクを腰のアーマーの後ろへ納めた彼女が先程の訓練で見せたように投擲武器としてビットをヒュージに向けて放てば、結梨もそれに倣った後近くのヒュージの羽根を切り裂いて降りて来ていた一基を掴み、グングニルと共にヒュージへ突き刺す。
「結梨ちゃん、こっちに!」
「うん!」
雪華が近くのヒュージを数匹ソードライフルで撃ち落とし、高度を下げたヒュージの上に乗って斬り次のヒュージの上へ跳び移りながらソードビットを一基、また一基と連結させているのを見た結梨が手元にある最後の一基を投げ渡せば、一直線に
「鶴紗、一体そっちに行ったゾ!」
「っ、はい!」
羽虫型と見れば羽根から狙うのといい、一気に片付ける手際の良さといい、雪華も普段の態度はともかく、ちゃんとする時はちゃんとしているんだなと鶴紗が少し見直していると、梅たちの追い込んだヒュージ──こちらも片方の羽根が途中から焼け落ちている辺り、夢結か梅のCHARMから一撃受けたのだろう個体も、鶴紗がティルフィングから放つ砲撃で撃ち抜いてトドメを差せば、この辺りは終わりだろうか。
◆◆◆
「よし。やれそうね、これは」
「今の、なんだったの?」
近頃、どうにもビットをビットとして『だけ』使うのだと何かが足りないと、さっきの訓練でも微妙に感じていたもんだから、途中結梨ちゃんに奪われたのを込みで何かやれそうだと、そう感じたのは間違いではなかったなと思っていても、説明もなくなにがなにやらのまま合わせてくれて結梨ちゃんとしては、着地した私の横で首を傾げるしかないようで。
「んー、まあシュッツエンゲルらしく連携攻撃? ただ、もうちょい細かいところは詰めてかないとね」
今のは本当にただのアドリブにアドリブで合わせて貰っただけだから、フォーメーションの類いと呼ぶにはまだまだ未完成。
まあ誘導が上手く行ったのはヒュージがビットに反応してくれたのもあるとして、やっぱり自由に飛び回れる
「わたしは仲間を傷つける人は許さない。たとえ、血の繋がった妹だろうと……絶対に」
「……雨嘉?」
とはいえ、このまま皆無事だったから結果オーライ、なんて甘い話もない訳で。
まあ、勝手に飛び出した自分だけならまだしも、二水ちゃんまで巻き込んで囲まれましたなんて、そこはしっかり叱らないといけないよねと、今回も結梨ちゃんはややこしくしないようステイだと肩をがっしり。
「あっ、莉芬さん!? 待ってくださーい!」
「ん……なんだろ、この感じ」
「難しいんだよね、こういうの」
厳しい言い方をしても、別に嫌ってる訳じゃない。だけどやったことのけじめはちゃんと付けないといけないんだから、何も言い返せずに駆け出した莉芬ちゃんを二水ちゃんが追い掛けたとしても、雨嘉ちゃんはそのまま見送っている。
「ふぅ、とりあえず撤収しよっか。お疲れ様」
「……いえ、改めて妹がすみませんでした」
「いいよ。今のにちゃんと言えるのも、一柳隊じゃもう少ないからさ」
何せ半数以上が独断専行の前科持ちだ、今更『若さ故の過ち』だなんて、偉そうに言えた義理でもない。
◆◆◆
『え、えっとー。今夜は莉芬さんをわたしの部屋に泊めることになったので……その、ご心配なくっ!』
「うん……ありがとう、二水。莉芬をよろしくね」
あの後本来の出撃担当な面々に現場は任せて、戦闘後の検査を終えて控室に戻った頃には大分日が傾いていたけど、そこには当然先に戻ったはずな二人の姿はなかった。
代わりに、少しして雨嘉ちゃんに二水ちゃんからの連絡が入った時の会話から、今夜の宿の心配はないと。
「ふむ、二水ちゃんにまで会わせる顔がない。なんてなってないなら、まだ大丈夫そうかね」
「まあ、あれくらいならはしかのようなものじゃろう」
ミリアムちゃんの言う通りではある、リリィなんて子供がスーパーヒーローみたいな力を持ったような立場な以上、どこかで一人でやれる限界って現実を知るタイミングは必要な訳で。そして一度一人ではどうにもならないと分かれば、そうそう繰り返すこともない。
「そうなると、ますます私には向いてないねぇ」
「雪華サマなんてずっとはしかみたいなもんだからナ」
「あん?」
否定するしないはともかく、そろそろ私もキレるぞな梅からの扱いに文句を言う前に、ケータイの着信があればとりあえず確認を。
「……ん?」
そしてそれは、雨嘉ちゃんの方も同じだったようで、互いにメールを見れば──
◆◆◆
「うん。どっちもいいみたい、です」
「……そんなに確認いるの?」
新館は二水の寮室、彼女のルームメイトは任務で数日出てることになっていたからと、莉芬が転がり込むことになった訳だが、先程無理な戦闘に付き合わせた負い目もあってか、謝罪からこれまで以上に打ち解けるのに、さほど時間は掛からなかった。
しかし、部屋での夕食後莉芬に乞われて雨嘉を初め一柳隊の仲間のことを話す中で、どうしても二水の一存では決められなかったのは、色々と事情が特殊な結梨のこと。
(もし結梨ちゃんに直接聞いても、絶対二つ返事で了承しちゃうからなぁ)
だから二人の姉──即ち莉芬の実姉な雨嘉と結梨の
雪華の方は少し返信が遅れたり内容も『一応』と付けていたりどこか引っ掛かりがありそうではあったが、任された、とあれば手抜きはできない。
「ところで莉芬さんって、ニュースとか見ます?」
「んー、瑞希姉様に最低限確認するようには言われてるけど、外国のまではあんまりかなー」
その顛末から、結梨の一件は政府のスキャンダルとしてネタに餓えていたマスコミがこぞって飛び付き日本国内で大々的に報じられ、梨璃も結果としては不当に巻き込まれた形になると、彼女の家にも国からの謝罪が送られるようなことにもなっていたが、その後の烏丸の対応からして、他国ではどうなのかというところはあった。
しかし、雪華が軽く零した程度では莉芬が察せなかったことからも、少なくとも彼女は詳細を知らないだろうと、結梨を拾うことになる前、正式な結成前の一柳隊として鶴紗を助けに向かった辺りは今は飛ばして、その帰りに彼女を拾ってからギガント級の戦いから生還するまでのことを、かいつまんで話す。
「自分だって大変なのに、さっきはあたしのことも気にしてくれて……あー、大体分かって来たかも」
その辺りを知ったのもあってか、莉芬がそうと知らず零した言葉が雪華から自分に向けたそれと似ていたのも、あまり偶然ではなかったのかもしれない。
「……?」
「いやー、ね? ゆー姉が前に雪華様のこと『リリィの味方』だーって言ってたんだけど、そりゃあ自分のシルトにこんな事情があったらなーって」
確かに雪華は、世界とか大人なんてものは大嫌いだと事あるごとに口にも態度にも出すし、以前宣誓した「守りたい世界」も『リリィとして』なんて前置きの通りに、かなり限定されている。
「うーん、おふたりが契ったのはその次の次になる大きな戦闘を終えてからですし、雪華様がそうなったのって、実はわたしたちが入学するより大分前と言いますか……」
「そうなの?」
とはいえそのきっかけへの莉芬の認識は、強めた理由のひとつではあっても始まりではないから、シュッツエンゲルになった順序も含め二水としては訂正する他ないが……やはりこの話題も、結梨の件同様デリケートではあるのだから、言い方には困ってしまう。
故に今度も勝手に伝えていいものかと、再度雪華にメールを送れば『本人が聞きたいって言うんなら、姉さんたち絡みは今更別にいいけど』と承諾されるのだから、結局解説は自分の役目かと観念する他なかった。
「では、まず雪華様が去年まで所属していたレギオンのことから──」
二水が説明したのは烏丸隊、LGシグルーンの成り立ちやその活動内容、多くの殉職者がゲヘナの手によるものだということ……それ故に、零夜と霊奈は卒業後も真なる敵であるゲヘナと、会社ぐるみで戦い続けていること。自分たちのような悲劇が、二度と繰り返されないために。
知識として知っているだけ、にしてはやけに実感のある二水の語りが終わると、莉芬は目を丸くしていて、誉めているのか驚いているのか半々な様子で言葉を送る。
「なんか、二水ちゃんってなんでも知ってるよねー」
「なんでもは知りませんよ、ご本人が明かされている話だけです」
このことを二水が知っているのも、霊奈たちが
他人が聞けば神の視点を持っていそうとまで言われる二水の情報も、結局は人から人に伝え聞いた物を必死にまとめ上げただけに過ぎない……その規模が、リリィオタク特有のネットワークのせいか莫大であるだけで。
「それで自分はなんでもない一般リリィでーすって顔してるんだから、なんか大変そう」
「……? そうですか? 確かに苦労はしてますけど、それは自分では努力と言えるものだと思っているんですが」
この場合、莉芬の言う「大変そう」は二水に対して、というよりその周りの……例えば近頃トレードマークのリボンがしょっちゅうシナシナになっていて、手癖なスナップのキレに至ってはフラフラで見る影もない有り様な
「こほん。と、ともかく、雪華様が〈リリィの味方〉になったとするなら、それは高等部に上がってから烏丸隊として時折ゲヘナと戦う中で、『世界』という大きな枠組みを信じきれなくなったから。という部分が大きいかと」
「でも、今は社長さんなそのお姉様みたく『世界をぶっ壊す!』までは行ってないんだよね?」
「そこは、多分雪華様と零夜様の優しさの向きが違うから……なんだと思います」
本当に大切だからこそ自分の手で守ろうとする雪華と、本当に大切だからこそ危険なことをする自分からは遠ざけようとする零夜、どっちが正しいかなんて部外者の二水には判別出来ずとも、二人がお互いを大事に想っていることだけは、確かだと信じたい。
「なるほどなぁ。で、他のメンバーのことは大体聞いたからさ、次は二水ちゃんのこと教えてよ!」
「えぇ、わ、わたしですか?」
「うん、兄弟は三人、ってのはさっき言ってたよねー? お兄さん二人と弟さん一人で、『二』水ちゃんなのに長女で三番目」
少女たちの夜は長い──なんてことは分かっていたが、その話題が自分である、ということにはまだまだ慣れそうにない二水だった。
◆◆◆
「え、またこいつ使えって?」
「傾向的に、そろそろ様子見が終わる頃だと思うのよねー」
翌日、朝から百由に地下の工房まで呼び出されたと思えば、いきなりドスンとお出しされるのはサイズでお察しなストライカービット。そりゃあもう結構経ってるから、修理も終わってるとして……ちょうど確認しておきたいこともあったし、ついでに済ませとくか。
「それはいいけどさ、ちょっと聞きたいことあるんだけど──」
「はいはい、なんです? ──あー、適性は問題ないと思いますけど、なんでまた?」
耳打ちをした内容は、端末をカタカタして出たデータを見ながら答えてくれるなら、今はそれでいい。
「いや、あの子メインのCHARMすら予備パーツを共食いのでっち上げじゃん? そんなもんだから周りより修理の間隔短いし」
「あー、仮に直すの間に合わなくても、その『素』なら勝手もそんなに変わらないだろってとこです?」
「それもあるし、
わざわざこんなことをしているのも、さっき同じエレベーターに乗って工廠科まで降りてきた結梨ちゃんが隣の、ミリアムちゃんの工房へグングニルを預けてたからにはなるんだけど、どうにも嫌な予感がしたから、もののついでというか。
「流石のわたしも、いきなりビット解禁まではやれませんよー?」
「剣と盾だけ使えりゃ、とりあえずは十分でしょ」
これで話は済んだと、置くものは置きながらストライカーを回収して帰ろうとするけど、それはそうとこの前恋花に言ったような悩みは、室内な以上つきまとう訳で。
「これ、流石にエレベーター乗るの無理よね?」
砲身を抱えて半端に外に出した状態で振り向けば、百由も顎に手を当ててなんとも言えない具合。
「あー、資材とかの搬入用のがここを出て左? いや、右だったかしら?」
「……地図、どこの階段だっけなぁ」
もう工廠科通いも大分慣れてはいるけど、エレベーターからここ二つの工房までが基本ルートだし、霊奈さんが現役な頃もわりとこの近くだったしで、流石に用事がないエリアまではね?
◆◆◆
入れ替えの形で押し付けられたブレイザーの調整も、修理が必要な程損耗はしてなさそうだしとコアの部分から取り掛かった百由だったが、鼻歌混じりにキーボードを叩いている最中、ヒュージ出現の警報が聞こえ少し意識を割く。
「なになにー? 『出れるリリィから出撃するように』……ねぇ」
片手間に開いた端末のウィンドウで確認すれば、近頃よく襲来していたハチ型ヒュージが多数出現、その規模から本格的な攻勢に出たと思われ──
などとその下にも色々書いてはいるが、生憎百由の仕事は別にあるし、何より雪華も必要になるのが分かっているからブレイザーを置いていったのだ。隣から騒がしくなった気配はするし、当然出て数歩でこちらにたどり着くのだから、もうドアのセンサーは反応している。
「百由、CHARMある?」
「そうくると思ったお姉様から、とっておきのを預かってるわよー」
そうして自動ドアが空く途中の隙間からするりと入って来た結梨に、百由は作業中でーすな態度のまま視線で示していると、続いて入ってくる自身のシルトはどこか訝しげでいた。
「確かに最新型には違いあるまいが、どこまで使えるのじゃ?」
ミリアムとてシュッツエンゲルになる前からの手伝いで、第4世代CHARMに触れることは何度もあったから、百由が何を言わずとも突貫作業では結梨に100%のスペックでの運用は不可能だとは分かる。
とはいえ目の前にあるブレイザーは
「それはこれからの頑張り次第ねー。ちゃちゃっと仕上げるわよ、ぐろっぴ?」
「うむ、40秒で支度と行くぞ!」
なお、状況から弄れるのはシステム面だけだったとはいえ、実際には1分ちょっとかかったので「ミリアムが嘘ついた」と結梨の率直な一言が、ダイレクトに突き刺さることになったとか。
◆◆◆
「なるほどねぇ、結構広がっちゃってるか」
戦闘エリアが近いならと、ストライカーのグリップを掴み、ライザーとの二段ブーストで早速手頃なビルの屋上まで登ってみれば、主戦場な廃墟の方から私の後ろにある居住区の間に広くヒュージは展開していて、直進する群れと迂回する群れ、他にも何かを守るように奥の方で巡回している群れと、ハチがモデルらしく随分と統率が取れているようで。
「ま、今度はこっちを試しますかね」
ストライカービットの主砲であるロングレンジバスターキャノンは、仕様書にもあった通り実弾での砲撃も可能なように設計されている。
とはいえふたつ用意されていた専用マガジンの中身は通常のCHARMで使われているようなサイズの銃弾でなく、大型の砲弾っていうのがまた。
「他所の支社が作ってこれって、烏丸の開発チーム全体が霊奈さんの同類って訳じゃないんだろうけど……」
なんてことは今はいいとして、ライザーの先端裏ハードポイント、普段はランチャーやガトリングを付けていたそこに左右一個ずつな片方を取ってストライカーに装着すると、バイザーを下ろし片膝立ちで大まかに狙いをつけながら、見えた姿に通信を繋ぐ。
「楓さん。そっちに二連で砲撃するから、巻き込まれないよう気を付けて」
『砲撃……佐世保でのあれですの? 梨璃さん、鶴紗さん。雪華様がまた何かやらかすらしいので、あまり前に出ないように』
『嫌な予感がする……梨璃、わたしの後ろに』
『う、うん!』
楓さんが呆れ混じりに指示を出せば、そういう方向での信頼ばっかりは確かなようで、三人は私の狙った群れを遠巻きに近寄らせないような戦い方に切り替えたみたいだけど、それで勢いが削がれたのなら……トリガー!
「……うへぁ」
意識の外からの砲撃がハチ型ヒュージに着弾すると、ド派手な爆発に数匹まとめて飲まれる有り様に。
いやまあ、見慣れたノインヴェルトとは比較するまでもなく規模は小さいけど、マギでなく火薬が主になっての爆炎は、結構な距離があっても迫力があるというか。
「とりあえず、誰も巻き込まれてないよね?」
『試し撃ちにしては豪快過ぎません?』
通信越しに苦情を入れつつも、ヒュージがこっちに気を引かれた隙を見逃さないのが楓さんなのだから、あっちは任せてよさそうだ。
「で、今どの辺りが怪しい?」
『夢結様と梅様の向かわれた辺りが、侵攻している群れが一番多いかと』
「了解。じゃ、そっちは頼んだよ」
なら通信を切ってから少しビルの屋上を乗り継いで……全スラスター最大パワー、飛ぶというより斜めに落ちるような感覚で、見慣れた緑髪が駆ける先を目指して突っ込む。