予定以上に話数が伸びる…戦闘回は毎回こうなってる気がするな?(n敗)
リアルは新年度になりましたが、作中はまだまだ8月途中…そろそろ季節イベント渋滞エリアに。とはいえ開始時点の分だけでも全部に介入は色々と無理があるんで、毎度の取捨選択っ。
(訓練のつもりで準備してたけど、仕方ない……よね。緊急なんだし)
今回も、警報の鐘を聞くが早いかまた莉芬は一人で戦場に飛び込んでいた。昨日の今日なのだから、せめて二水には声を掛けるべきだったのではなかったのかなんて葛藤も、非常時だという理由で蓋をして。
「でも、ここはあたししか間に合ってないし、今更帰ろうってのも無理だよね!」
何より、今自分の後ろには民間人の居住区があるのだ。中等部生だろうとリリィの一人として、そんなところをヒュージに襲わせる訳にはいかない。周囲から戦闘の音はまばらに聞こえるが、まだどれもそれなり以上に遠いのだから。
「……って、分かっちゃいたけど、前より数多いなぁっ!」
莉芬がハチ型の群れの前に飛び出し、地面を滑るようにしながら先頭の三体をまとめて射貫いてはみても、コピペなんじゃないかと文句を言いたくなるくらい、次も同じように三体のハチ型ヒュージが寄ってくる。
「これで、どう!」
そのヒュージたちからの射撃は、アステリオンをブレードモードにして身体に当たるコースのものだけを切り払い、お返しだと近くの一体を建物の壁を蹴って取り付いた勢いで突き刺し、押し込む形で地面に叩き落とす。
「っ、また増えた! 弱いくせにゾロゾロと」
六体中四体は速攻で倒したとしても、残りの二体が体当たりを仕掛けて来たのを莉芬が跳び退いて避けた時には、更に四体現れてもう元の数に戻っている。
「……みんながいればなぁ」
これがレギオンでなら、あるいは姉たちのどちらかがいてくれたなら、どれだけのヒュージが来ようと、大した苦労もなく一蹴出来ただろう。それこそ元気に軽口を叩く余裕もあるだろうなと、容易くイメージ出来る程に。
「……っ!」
だが、ここは極東の地で、莉芬本来の所属は欧州のヘイムスクリングラ。彼女の仲間は当然一人の例外もなくスウェーデンにいるし、何より今はそこから逃げてきたような立場だ、気の迷いは即座に頭を振って追い出して、立ち向かうべき現実と向き合う。
「……あたしはエース。ヘイムスクリングラ期待の超新星、王莉芬! あたしがやらなきゃ誰がやる!」
どこか自分で自分に言い聞かせ、鼓舞するように告げた言葉のまま、アステリオンを構え直し突撃しようとした莉芬だが、そこへ手を引きながら割り込む声がひとつ。
「待ってくださいっ!!」
◆◆◆
遠く聞こえた爆音に、誰に確認するでもなく「またあの人か」と少し足を止めてヒュージが雪華のだろう砲撃に吹き飛ばされているのを眺めると、移動を再開しながら梅がチラリと夢結の方を見て話を振る。
「にしても、各自の判断で出撃だなんて、まるで神庭みたいだナ」
「そうね。けれどこちらには周りを任せられる東京御三家も、トップレギオンであるグラン・エプレもいないからこそこうなっているのだから、結果的に、と言うべきかしら」
こんなバタバタとした出撃になっている一番の理由は、やはり先月の激戦続きで多くのレギオンにおいてCHARMの損耗率が跳ね上がって、工廠科がフル稼働でも全てのCHARMを直しきるより、その間の出撃で次の修理待ちの列が出来る方が早い。だなんて状態をまだ抜け出せていないから。
だから今日の出撃担当も平時より待機数が減ってしまい、彼女らが他のエリアに現れたヒュージの対応をしている間に、他の地域からやってきたと思われるハチ型の群れが縄張りを広げようとしているとくれば、どうしても動ける者から出るだなんて慌ただしいことにもなる。
なんて状況分析も程々に、何かに気付いた様子で空に目線をやった後、梅が立ち止まる。
「おっと、お客さんだゾ夢結、二重の意味でナ」
二重。そうなると目の前のヒュージに限らず備えておいた方がよさそうだと、タンキエムを構え直す彼女に倣って夢結もブリューナクを構えれば、ビームによる砲撃が二方向から三本、二人の前方に現れたヒュージの群れを襲っていた。
「ん?」
「今のは……」
空からのはもう慣れてしまったから分かると視線を向ければ、雪華がストライカービットの上に魔女が箒に横向きで乗っているような状態でこちらへ『降ってくる』最中、立ち乗りに姿勢を変えたと思えばビットの先端から伸ばしたビームソードで、進路上のヒュージを轢いていく様子から一目瞭然。
しかし梅としても前と上の意味で二重だったのだろうから、夢結の方にも後ろからの分には心当たりが……
「……なるほど」
いや、顔を見れば一目瞭然だ。遠目にもハッキリとドヤっているのが分かる金色の長すぎない髪に、その隣で仕方なさそうにしている相棒とペアルックな改造制服、そして手にするのは砲撃後の排熱を行っているグラムとくれば、該当するのは一組しかいない。
「え、なんや夢結その『うわっ、来たよ…』的な反応。折角うちが援護したげたのに~!」
「日頃の行いじゃないかなあ」
「はぁ……」
そうと気付いた途端ため息を吐いている夢結も、不満そうに関西訛りで文句を言う彼女とその『相棒』を嫌っている訳ではなく、この反応はただ「喧しい知り合いが来た」類いのそれだった。例えるならば、近所で名物になっているおば──
「って、誰が世話焼き大好きなおばちゃんやねん!」
「ハハ、相変わらず元気そうだナ!」
彼女の一人で虚空にずびしとコッテコテのツッコミを入れるような、そういう過分に騒がしいところこそが夢結の苦手な部分なのだろうと、お互いの隣な二人も分かってはいたが、そういうやり取りが眺める分には楽しいのも、また事実ではあった。
「和んでるとこ悪いけど、さっさと片付けて他に行くよ!」
とはいえここは戦場だ、旧友と談笑していられるような余裕があったのも、雪華が先んじてヒュージの群れに突っ込んでソードとシールドを連結させたライザーから伸ばしたビームソードの回転斬りから、逆回転しながらバスターキャノンの照射に切り替えたりと相変わらずの調子で暴れていたからにはなるのだから、その本人から直接急かされては、異論など出せやしないのが二年生たちだった。
◆◆◆
「って、二水ちゃんその服……?」
今度も二水は来るだろう──いや、『来てくれる』だろうなと期待のような物はほんのりと莉芬も持っていたが、そういえば貸したままだったなと今更に思い出した自分の着替え、つまりはヘイムスクリングラ中等部の制服姿で現れるのは、その斜め上を行っていた。
「あ、やっぱり勝手に着るのはダメだったでしょうか……こ、今度こそちゃんと洗ってお返ししますので!」
「いや、そんなに気に入ったんなら、もう二水ちゃんにあげてもいいかなー? コスプレ好きなんでしょ、レプリカじゃないマジモンとか、同じシュミの子に自慢出来るじゃん」
「あ、あはは……」
昨夜、他ならぬ目の前の莉芬相手に話した内容にあった、趣味のひとつを理由として挙げられては二水もそれ以上返せる言葉もなく、この話はこれまでになる。
「と、ともかく! ここの群れは囮で、ヒュージの本隊は別にいます! 現在位置は──」
─鷹の目─
「……っ!」
二水がレアスキルを発動したと見れば、何を言われるまでもなく莉芬はアステリオンをシューティングモードへ戻し、実弾とレーザーとを切り替えながら速度の違う弾幕を張り、ヒュージを追い払う。
(見付け、た……!)
その間にひとつ、ふたつ、みっつと、周辺の寂れた建物の間を天より覗き見ていた二水の視界に、見るからにサイズは大きく形状も他のハチ型と異なる、女王蜂とでも呼ぶべき個体が一際数の多い群れを引き連れている様子が入り込めば、目線でも向きを合わせてから鷹の目を解く。
「見えました! 3ブロック先のビル街に、特殊な個体がいます!」
「つまり、そいつが女王様ってこと?」
「恐らく! この統率の取れた動きも、群れのボスあってのことです。わたしの読みが正しければ、あの個体を倒せば──」
そこから先は、言われずとも分かる。急に上からの指示がなくなれば、途端に全体が機能しなくなる……なんてことは、上下関係が強固
「……分かった。あたしが突っ込むよ!」
「いえ、あの群れを一気に突破して撃破となるといくら莉芬さんでも厳しいと思いますし、わたしも雨嘉さん程上手く援護出来る自信はありません」
それは、そうなのだろうとは莉芬にも分かる。雨嘉と二水とではリリィとしての強みも違うのだから、当然姉と組んだ時のようにはいかない。
だから、自分も普段より積極的に前に出ないと。なんてぼんやりと考えてはいたが、二水の告げる作戦は──
「なので、わたしが射線を通します! 莉芬さんはその隙を突いて狙い撃ってくださいっ」
「う、うん……うん?」
二水の勢いに飲まれて莉芬も一度は頷いてはみたものの、一拍置いて理解してみると、『マジか』と驚くしかなかった。
「は……はぁぁっ!? まあ、確かにあたしのCHARMもゆー姉と同じアステリオンだけどさ……いやでも、この距離とかそれこそゆー姉でもなきゃ無理だって!」
しかし、二水を先に行かせるため途中で分かれた雨嘉たちは、今は他の場所で違う群れの相手をしている……なんてことを聞かされれば、元より一人で守りきるつもりだったのが二人に増えただけ。という現実がそれ以上は変わらないのだと、莉芬も受け入れるしかない。
それが伝わったと見れば、二水はグングニルを構え宣誓するように告げる。
「だから、ここはわたしたち……莉芬さんとわたしで守るんです! とりゃぁぁぁっ!」
「二水……ちゃん……?」
──なんで、なんでそんなに張り切っているの?
その答えはこの場で出せなくとも、莉芬にも『自分のために無理をさせている』ということだけは二水がらしくもない声を上げて、辺りを漂うヒュージへ射撃を開始したことから分かった。
「邪魔はさせません! おりゃぁぁぁっ!」
続いて気合いに負けず的確に、二水が莉芬と遠目に見える群れとの間に浮かぶヒュージを撃ち抜けば、少しして莉芬の目にも他と比べてやけに豪華というか、分かりやすくボスっぽい個体が映る。
「っ……いた!」
しかし、ここに来てもどうにも踏ん切りが付かないというか、莉芬はアステリオンをブレードモードにしたまま立ち尽くして、目の前で奮戦する二水に、ポツリと問い掛ける。
「……二水ちゃんはできると思う? あたしがゆー姉みたいに──」
「できますっ!! だってあなたは王莉芬なんですからっ!!」
顔だけ振り向きながらの答えは、勢いだけでまるで理由になっていないし、当然出会って一週間ちょっとな間柄で、さらりと出てくるような言葉でもない。
「……ははっ、なにそれ」
けれど、不思議と彼女の言葉を受け入れている自分に気付けば、もう迷いなんてなくなっていた。
「うん、でもそんな風に言われたら……やるっきゃないじゃん!」
─ファンタズム─
気合いを入れるようにグルンと派手にアステリオンを回し、シューティングモードに切り替えながらレアスキルを発動すれば、莉芬の意識は無数の未来の狭間へ飛び込む。
「っ、あれが史上二番目の早さで覚醒した『ファンタズム』……!」
ちなみに、史上最速なのは同じクラスの樟美さんです──などと誰に向けてかも分からない解説は置いておいて、莉芬がその手に望む未来を手繰り寄せるまでの刹那くらいは、自分にも稼げると二水もCHARMを構え直して、手近なヒュージへ牽制射撃を続ける。
◆◆◆
「なあ梅、さっきからヒュージ増える一方やないか?」
「まあ、そのつもりで暴れてたからナー」
最初の群れを片付けて、一年の皆が好きに動けるよう、フリーなヒュージの群れを見付けては軽くちょっかいを出し、廃墟と居住区の大体真ん中辺りまでを駆け抜けてはみたけど、当然その結果として私たちの四方八方からは、ヒュージが集まってしまっている訳で。
そうなれば夢結や梅だけでやく、アールヴヘイム専属でないながらにグラムを渡される程の腕前な助っ人二人──真と弥宏がいても、流石に殲滅が間に合わない。
「雪華様、無策でこんなことをした訳ではないとは思いますが、何か手は?」
「勿論。ちょっと下がり気味に動いて、ヒュージを前の方に固めてくれれば、後はこの子でなんとかするよ」
夢結からの当然の疑問には、斜めに背負っているストライカーをコンコンと拳で叩いてみれば、この前その威力は見て知っているからか、納得はしてくれる。
「なるほど……弥宏、悪いけれどもう少し無茶に付き合って貰うわ」
「大丈夫、それなら去年で十分慣れてるから!」
「だから、これくらいはやれるでしょう?」
暗に自分の事を指しているのだろう言い種にも、今となっては笑えはせずとも軽く受け流せる程度には、夢結も余裕が持て出したのやら。
なんて先輩面も程々に、チャージを開始したストライカーを腰だめに構えながら、バックステップにライザーのスラスターを合わせて、一気に後退。
「そういうことだから、前の二人はそのまま誘導よろしく!」
「うへぇ、人使いの荒い先輩やで」
「それだけ信頼されてるってことだろ?」
◆◆◆
(思い出せ……ゆー姉から習った技を。見通せ、ヒュージたちの動きを……未来をつかめ──)
視えた。なんて口にする間も惜しいと、二水の攻撃により乱れた隊列、その空白部分をヒュージ側が埋めようと動くのならば、それにより出来た新たな隙間を突くのみだと、軽やかなステップでポジショニングした莉芬の狙撃が、女王と思われる個体へ吸い込まれるように数度着弾する。
「……い、よっしゃー!」
「す、すごいです……いくらファンタズムといっても、あれだけの数のヒュージの動きを読み切るなんて……!」
とはいえ、感動してばかりもいられない。突然本陣を攻撃されたとあれば、女王蜂もその配下のヒュージも二人を最優先に狙って動くのは当然だし、元より今のはそう仕向けるための攻撃だったのだから。
「っ……後ろからも!?」
その時、羽音に反応して二水が振り向けば、増援のヒュージからの射撃が見えたと慌てて莉芬の隣まで跳んで下がる。
「まあ、女王様をキズモノにされたってなったら、そりゃあ怒るよね」
この調子なら侵攻中の群れも、反転してこちらに向かってくるだろうと思いたいが……いや、羽音が前後のみならず全方位から聞こえてき出した以上、予想のみならず現実の物にはなっているのだろう。
「ここまではわたしの読み通り……読み通り、なんですけど」
「うん、これからどうしよっか?」
居住区が全戦力で襲われる事態は避けられたとして、今度はその分の群れが自分たちに向かって来たのを、たった二人でなんとか出来るだろうか? という問題が──
「うわ!? なになに?」
「この砲撃は……」
そこで背後から迫っていたヒュージ、その一部が真紅の閃光に飲まれて消えたのを見て二水が思い出すのは、先日の海の上での戦い。
◆◆◆
「ん? なんか急に攻撃が止んだゾ」
「あっちって確か、群れのボスがおるかもーって言われてた方やろ?」
無視されるにしても梅たちも半端な攻撃をしてはいなかったのだから、追撃を止め反対側を向き動き出したとなると、ヒュージに緊急の何かがあったのではないか、とは後ろの三人にも分かる。
「この状況で、ヒュージが後退を……?」
「となると、誰かがボス個体を攻撃したって……あー、まさかね」
そうなると、一柳隊の面々が思い浮かべるのは今レギオンの預かりになっている、末っ子の姿。
「ともかく、これで誘導の手間も省けた! 雪華様!」
「オーライ! 出力リミッター解除、ターゲット確認……全部有効範囲内!」
弥宏に返事を返しながら、せり出すように延びる追加の砲身を確かめ、チャージも臨界だと砲口のスパークする具合から判断し、目に映る範囲のヒュージは全て、バイザーのモニターで確認する有効射程に──
「マキシマムレベル、シュート!」
第一射。反転し始めたヒュージたちの中心を撃ち抜き、一気に群れを半壊させる。
「まだまだぁ!」
第二射。横薙ぎに照射し、足を止めたりこちらに向き直そうとしていた分を一掃。
この時点でビット側にオーバーヒートの警告が出るが、黙らせる手段ならあると雪華は手動操作用のボタンに拳を叩き付け、強引に次の一手を。
「強制冷却──ラスト、ド派手に吹っ飛べ!!」
第三射。最大出力を越えたオーバードライブで、薙ぎ払いの外まで離れていた残りのヒュージを背後から焼き尽くす。
その余波が二水と莉芬の見た閃光になる訳だが、当然有効射程どころか認識外のエリアにまで届く無茶を通した以上、強制冷却用のカートリッジを吐き出した後のストライカービットは何処と言わずエラーを起こしていると、ため息と共にヘッドセットのバイザーを上げながらストライカーの機能も完全に停止させ、サブアーム越しに背中側へ。
「とりあえず、これで一応のお役目は果たせたってことで」
「……年々とんでもなさに拍車がかかってません?」
雪華の活躍……というには些か派手過ぎる噂を聞いていても、第4世代CHARMを用いての戦いを直接見るのは初めてな助っ人二人にすれば、弥宏はなんとも言えない空気になるし、真は「たーまやー」と綺麗に掃除された空を見上げていた。
◆◆◆
「と、とにかく今のはあの先輩ってこと?」
「はい! なので包囲され直される前に!」
一方の莉芬側も、驚きも収まれば囲いに風穴の空いた状況というのはありがたいのだから、二水に倣って牽制を送りながら後退を始める。
「ねぇ二水ちゃん、なんでまた来てくれたの? だってあたし、今日も一人で勝手に飛び出して……」
その途中、少しヒュージたちを引き離せたところで莉芬が自嘲気味に零した言葉も、二水からすれば今更気にするようなことでもないようで、返事はあっけらかんとしたもの。
「え? わたし約束しましたよね、莉芬さんのお手伝いをするって。だから、これくらい当然です!」
「……そっか。ありがとね、二水ちゃん」
しかし、そこで二人の前に女王蜂のヒュージが配下を引き連れ空から先回りしてくれば、下がれるのもここまでかと気合いを入れ直す。
◆◆◆
「ああもう……どいて!」
状況は芳しくない。というのが女王蜂と対峙してしばらく、完全に囲まれるのだけは避けようとヒュージの層が薄いところを抜けようとしても、その度に違う部隊を差し向けられる形で徐々に包囲されていると、嫌でも実感させられながらな二水の分析になる。
だというのに未だ袋のネズミにならずに済んでいるのは、あくまでも莉芬の実力あってのもの。ならば、彼女だけならあるいは一人で突破することも……
(でも、莉芬さんがそんな指示に従うはずありませんし、わたしもそんなことを言ってしまったら、一柳隊のリリィだなんて胸を張れません)
それに、雨嘉が自分を先に行かせてくれたのは、妹のことも任されたのに他ならない。その期待を裏切ることだけは、二水には出来なかった。
「……あくっ!?」
「二水ちゃん!? このっ……!」
などと色々と思考を巡らせる中、ヒュージからの射撃が一発、二水の頬を掠めた。
幸い防御結界は抜かれていないし、衝撃に驚いた程度ではある。しかしそのフォローに回ろうとした莉芬も、防ぎ切れず腕に被弾してしまい、反撃で目の前のヒュージを倒せはしても、状況は少しずつ悪くなって……
「だ、大丈夫ですか?」
「うん、傷にはなってないかな……!」
お互いのダメージが思ったより少ないのも、戦場のマギ濃度が高くなっている──つまりはそれだけのヒュージが集まっているからこそになるのだが、当然敵が増えれば増えるだけ逃げ切れなくなる時も近いと、状況は大分不利に傾き始めていた。
「今はなんとか囲まれずに済んでいますが、敵は組織的な動きで段々わたしたちへの包囲を狭めて来ています。このままではいずれ……」
「……さすがだね」
「はい。ボス個体に率いられた群れ、というだけなら先日のメカヒュージの一件が近いですが、あちらはあくまで特型が現地のヒュージを呼び寄せるための、いわば中継役に制御を奪ったメカヒュージを利用した形です。元より同じ種族のみで構成された、しっかりと上下関係の定まっている群れというのが、こんなに厄介だなんて」
つらつらと分析の言葉を続けているから、莉芬の言葉も聞いているのかどうかな形だけな返事の後、一応昨夜莉芬の聞き出した話の中にもあった、本人は謙遜してそうと認めないだろうが二水のお手柄になる戦いのことを引用しているのを見て、莉芬はおかしそうに笑みを溢す。
「あはは、違う違う。二水ちゃんもちゃんと、百合ヶ丘のリリィなんだなーって」
「へ? どうしたんですか急に」
まだ中等部な自分と違って、ちゃんとしたリリィだと、頼っていい『先輩』なのだと二水のことを認識したなら、後は簡単だ。
「二水ちゃん、指示をちょうだい。あたし、二水ちゃんの指示に従うから! 二人で一緒にここを切り抜けて、ゆー姉と──っ!」
しかし、伝えたいことを言い切る前、二水が新手のヒュージに狙われている。と気付けば、咄嗟に割り込みはするが防ぎ切れなかった数発の攻撃が、莉芬の身体を掠める。
「くっ!?」
「莉芬さん!」
──防御を抜かれた。だがこの程度ならかすり傷だ、まだ戦える、まだ守れる……はずなのに、どうにも身体が重い。
「はぁ……はぁ……っ!」
昨日無茶をした代償なのか、いつぞやの嘘が本当になったかのようで、反撃のためにアステリオンを構えるのすら、嫌に遅く感じる。
(ゆー姉……お願い──)
やはり今度も、自分はいいから二水のことは助けて欲しいという莉芬の願いは、またしても見覚えのある制服姿が叶えてくれる。
「っ、ゆー姉…………?」
いや、高等部の制服なのはともかく、自分の姉はここまで髪が長くなかったはずだし、持っているCHARMも違う。盾型のCHARMとなると、一柳隊には二人……
「ふふっ、雨嘉さんでなくてごめんなさいね。ですが──もう疲れてしまったのですか? 若きヘイムスクリングラのエースさん」
「な……っ!?」
煽り……というには物腰が柔ら過ぎるし、そもそも莉芬としては彼女が姉の隣にいること自体、どうにも納得のいかないところはあるが、助けられたのは事実だしと驚く以外何も言えずにいると、二水がその乱入してきたとんでもないやつの名前を呼ぶのを聞いて、ひとまず正気に戻る。
「神琳さんっ!」
「な、なんであなたが……それにまたゆー姉の制服を!」
いの一番に言いたいことはやはりそこではあったが、二水がまた自分の予備を着ていた時点で予想は出来たかと、莉芬も今更に気付く。
「話は後です、少し頭を低くしていてください……!」
しかし神琳の方は何事もない調子で、昨日の雨嘉みたいなことを言うのだから、色々と文句があろうと今は飲み込むしかない。
「やぁぁぁぁっ!!」
「ヒュージの攻撃を……弾いてる……」
それも、普通のリリィがやるようなただCHARMで身体を庇うだけなんて簡単なものでなく、攻撃ひとつひとつに対し的確にマソレリックを振るい、着弾の瞬間防御のために張ったのだろうマギの光を花弁のように散らしながら、一切の無駄なく弾き返しているのを見せ付けられれば、莉芬も魅せられたように眺めるのみだった。
「神琳さん、背後です!」
「はい、お任せを」
続けて、二水からの警告に神琳は振り返りもせずCHARMを向けただけなのに、やはり同じように弾き返し、莉芬に続いて二水のことも自身の守備範囲へ引き寄せてみせるのだから、驚きも収まるどころか加速していく。
─天の秤目─
「っ、この音は……」
「ゆー姉だっ!」
だが聞き慣れたレアスキルの音、その直後に三人を囲んでいたヒュージが次々と撃ち落とされるのが見えれば、もう迷いも疲れも吹き飛んでしまうのだから、やっぱり自分は姉妹のことが大好きなのだと、莉芬は立ち上がりながら噛み締めていた。
◆◆◆
道中の雑魚は一網打尽にして、こっちもボスを叩きに行こうか……というタイミングで、居住区側に新たな反応が。
「ん、ケイブ反応?」
「なるほど、そっちが本命やったってわけやな」
「ボス自身が囮に、中々厄介なタイプね」
口振りのわりに、助っ人二人の調子は問題なさそうだ。ならと夢結の方を見れば、返事は首肯。
「梨璃たちの方は、今から群れのボスと交戦に入るようです」
「じゃあ、その後ろは梅たちが守ってやらないとナ!」
うちの一年全員が向かったのなら、人数は足りているはず。ならこっちは、このメンバーと遅れて出てきた面々とで対処しておこうか。
「後は上手くやりなよ、色々とね」
「ふーん、もう雪華様も大分『こっち側』みたいやねー」
さて、ね? 面倒見に関しては、元からの縁があって初めて動くかってレベルだ。『先輩面』だの『どこから目線』だの言われるのも、らしくないことをしてるからって自覚はあるけどさ。
◆◆◆
「あれ、雪華様?」
数日後──流石にもう日本にいられる期日も厳しいし、その理由もなくなったと、莉芬ちゃんがスウェーデンに帰ることになったからって最後に二水ちゃんにインタビューを受け、荷物を取りに控室を出たのを見送った後、私は一人新館の前に先回りして待ち伏せしていた。
「や、この前は大活躍だったみたいだね」
結果だけを言えば、ハチ型ヒュージを率いていたボス、女王蜂は莉芬ちゃんと一柳隊の一年、九人ジャストのノインヴェルト戦術で撃破され、フィニッシュを担当したのも莉芬ちゃんだったらしい。
とはいえ、本人としてはそうして作戦の軸にして貰えたのも、もう周りのサポートあってのことだって分かっている風だけど。
「それほどでもないですよ、一柳隊のみんなが……何よりゆー姉や二水『先輩』がいてくれたから、あたしはあたしらしく、自由に戦えた」
『先輩』ね、インタビュー終わりにいつの間にか切り替わっていた呼び方は、それだけの関係を築けたって証なんだろうけど、誰かさん的には複雑なんだろうなとは、気配で分かる。
「それより! 雪華様はシルトにどーいう教え方してるんです? 結梨ちゃんってばあの時借りてた雪華様のCHARM、思いっきりブン投げてましたけど」
「え? いや、別にそういうつもりは……」
そもそも、結梨ちゃんの前でCHARM投げるなんてあんまり……やってるな? 盾の方を投げたのなら前に孤立した夢結と梨璃ちゃんを助ける時に、動かせなかったろうビットを『ならば手動で!』と投げたのなら、それこそ莉芬ちゃんの見てる前で。
「ま、私のことはともかく、用があったのは他にもいるみたいだし、出てきたら?」
「えっ?」
莉芬ちゃんが一度二水ちゃんの部屋に泊まっていた。なんてことは別に誰が広めた訳でもなく、その日の夕食時から自然と廊下や学食で話題に上がるくらいには、特に隠されてもいない。
だから近頃、誰かさんのことを気にしすぎてアンテナを広げている、隠れ切れていないリボン付きの誰かがこうして実際に確かめに来るのは、私としては不思議でもなんでもないというか。
「べ、別にその子に用事っていうより、その」
「素直に聞けばいいじゃん。『二水ちゃんとどういう関係なのか』って」
「うっ……で、どうなのよ」
そこまでバレてるなら誤魔化しも不要かと、柱の影から腕を組みながら現れた日羽梨が莉芬ちゃんに質問すれば、返事は満面の笑みと共に。
「レギオンとしてはあたしのライバルで、個人としては憧れの先輩です!」
「……そう」
「つまりは、そっちのルームメイトと似たようなもんってことでしょ?」
「それは……待った。茜と同室なこと、雪華様に話した覚えないんですけど?」
その出所なんて、まあ特に捻りもなく二水ちゃん情報というか。てかルームメイトであんなバチバチ……でもないか。あの時は単に二水ちゃんの前だから日羽梨もヒートアップしたってだけで、茜側は気楽に軽口を叩ける仲って空気だったし。確か、幼なじみだとも言ってたっけ?
「で、日羽梨様。二水先輩のこと色々聞きたいし、連絡先交換してもいいです?」
「え、ええ。それくらいはいいけど……ん?」
またしても、名乗った覚えもないのに名前を知られている……なんてことも、そもそもここに来た目的の時点で情報の出所が同じだろうと分かれば、日羽梨も諦めたようにため息を吐くしかないようで。
「はぁ……本当に、お互い大変な子に出会っちゃったものね」
「ふんふん──そうみたいですね!」
そして、ここまで来れば莉芬ちゃんにも日羽梨が二水ちゃんをどう思っているか……なんていうのも筒抜けで、悪戯な笑みを浮かべてケータイをしまっている。
「じゃ、今度こそ荷物取ってこないと飛行機間に合わないんで、また来ますね~!」
本当に間に合いそうになかったら、誰かしらが車くらい回してくれそうなもんだけど、引き留めるのも悪いしで寮に入る莉芬ちゃんは手を振って見送れば、隣の日羽梨からは微妙そうな呟きが。
「……そんな簡単に来れるようなものなのかしら?」
「いや、それがヘイムスクリングラって昔から日本と結構繋がりあるみたいでさ、ほら楓さんのお母さんの……
「また楓・J・ヌーベル……しかも、噂では向こうも百合ヶ丘みたいな擬似姉妹制度があるって……」
いや、それこそ百合ヶ丘は上下サンドなノルンを推奨してるんだから、よしんば莉芬ちゃんが二水ちゃんのシルト的ポジションになったとして、シュッツエンゲルは問題なく空いてると思うんだけど?
「ともかく、そういう訳だから先方とは『今後ともよろしく』的に話がまとまってるみたいでね。当然次からも、日本に来る時はウチの預かりって感じで」
「な、なるほど」
ちなみにその次が妙に近いしやけに多いのは、今の私たちには想像も出来ていない話。