アサルトリリィ~円環の赫星~   作:ですティニー

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前回のあらすじ:リリティカルなサマーと傭兵の魂が抑えられてないと周りからの見え方とうぅっ……千香瑠ママぁ……と。
だって燃え残った全てに火を点けるアレが工廠科で流行ってるって、二川も言ってたから…

さらっと二年目分も予約してますけど、あからさまに時空の歪んでる三年目はともかく、こっちは同じ年でもギリ行けるかなぁと。なんか陸にも島にも恋花様いないの、そういうことなんだろーし。


祭りの間と、それぞれの繋がりとって話

 翌日、プチ旅行組は今日の夕方には帰って来るって話だしと、残りのメンバーで集まりラウンジで屯っていたら、とてとてと駆けてくる音がする。

 

「ただいま戻りましたー」

 

「お帰りー、楽しかった?」

 

 梨璃ちゃんを先頭に結構な荷物を持った四人が寄ってくれば、まず結梨ちゃんから感想が。

 

「うん、キュルルとも仲良くなれた!」

 

「……誰さん?」

 

 一緒にいたのは恋花と千香瑠が抜けてのヘルヴォルから三人だったはずなのに、いきなり横文字の知らない名前が出てきたぞ……という部分は、慌てて割り込んできた梨璃ちゃんがフォローに。

 

「え、えっと、野生のリスさんを藍ちゃんがそう呼びだしてて、わたしたちもそのまま?」

 

「はいはい、光景はなんとなく浮かぶけど」

 

 藍ちゃんは戦闘中こそ『ルナティックトランサー』をバリバリ使って大暴れしているけど、普段の言動は年齢というより見た目相応──というのは、何度か会っただけでも一目瞭然なのだから、そこら辺の動物と仲良くしてる、なんてのはいっそのこと自然なんだろう。

 

「他には、何があったの?」

 

「マグロ!」

 

「マ、マグロ……?」

 

 ご賞味ください。

 

 もとい、その間に雨嘉ちゃんも結梨ちゃんに休暇中のことを聞いていたけど、返事にはクエスチョンマークを浮かべているから、やっぱり梨璃ちゃんに確認を。

 

「どういうこと?」

 

「楓さんがマグロを丸々持ってきてて、その場で解体してくれたんです!」

 

 お、おん? 流石お嬢様、やることのスケールがとんでも……いや、でもこういう機会にマグロを出すなんて発想が出てくるのは、むしろ企画仲間の恋歌な気がしないでもない。本人食べれてないけど。

 

「まあマグロは置いといて、梨璃ちゃん的にはヘルヴォルの皆、どうだった?」

 

 今回の目的のひとつはそこなのだからと、梨璃ちゃんに聞いてみれば答えは言葉を探るように。

 

「うーん、一葉さんはこの前助けてもらった時のキリッとした感じから『クールで格好いい人なのかな?』って思ってたし、海でもジェットスキー……水上バイク? とにかくそんなのにも乗ってたから、やっぱりそうなのかなー、だったんですけど」

 

「けど?」

 

「さっきのリスさんが出てきた時にびっくりしたりもしてたから、結構可愛いところもあるんだなーって」

 

 『格好いい女がドジやるから可愛いってさ』──が誰の言葉だったかはさておき、一見クールなようですぐ熱くなるし、わりと抜けてる部分も多い。

 なんて、私から見た一葉ちゃん評と梨璃ちゃんの感じた部分は被るところも多いし、私の方は夢結っぽいとも言ったけど、今となってはヘルヴォルのわちゃわちゃ感から、もう少し可愛げの強い感じになるかな?

 

「続いて瑤」

 

「えーと、第一印象は一葉さんと似てたんですけど、結構可愛い物が好きみたいで、思ってたより親しみやすい?」

 

 私の聞いた挨拶でも、口数が少ないなりにぬいぐるみ好きなんてアピールはしっかりしてたし、リスなんて小動物はまあストライクゾーンど真ん中だろうね、うん。

 

「はいラストに藍ちゃん」

 

「結梨ちゃんと似た事情が……とは聞いてたんですけど、二人ですぐに仲良くなってたし、皆の妹って感じかなぁ。あ、でも藍ちゃんって普段はフワフワしてても、戦闘になるとルナティックトランサーで凄いから、そういう意味でもなんだか慣れてるような?」

 

 あー、梨璃ちゃん的には藍ちゃんって夢結と結梨ちゃんを足して割った感覚になるのか、二重のポジション的に。

 

「ま、残りの二人も間に合えば月末の方で会えるだろうし、恋花へのお礼もその時にね?」

 

「はいっ!」

 

◆◆◆

 

 数日後──東京は神庭女子の正門前。結構な荷物を背負って同行者を待つ姫歌に、近寄る人影が一人。

 

「あれー、どしたのひめひめ朝からそんな重装備で?」

 

「よくぞ聞いてくれたわね彩文! 実は「定盛が神琳のおっかけするって言うからー、これから海に行くんだ☆」……今、横から全部言われたんだけど」

 

 つまりは、そういうことらしい。

 

 言われてまじまじと眺めてみれば、普段はツインテールに結んでいる姫歌の髪も、泳ぐのに邪魔にならないためか、乱入してきた灯莉のようなお団子ヘアーに纏めているのだから、彩文にも気合いは感じ取れる。

 

「あー、そういや雪華姉んとこのレギオンにも『アイドルリリィ』な子いるんだっけ」

 

「ええ! 神琳さんみたいなスターリリィの撮影現場を見学出来れば、ひめかももっと輝けるアイドルを目指せるはずなのよ!」

 

「定盛はもう十分輝いてると思うけどねー」

 

 そうだとしてもアイドルの道に終わりなどないと、例えその瞬間は満足しても姫歌は常にその先を求め続けているからこそ、そろそろアイドルリリィ部が学園側に認められそうなくらいには行けているのだろうとは、今更言葉にするまでも……

 

 というより、生徒会の手伝いに入ることも多い彩文としては、部を設立するための申請書が秋日の抱える、とても三人では捌ききれない量な書類のどこかに挟まってるだけな気がしないでもないのだが。

 

(今度お呼ばれしたら、それとなーく探しちゃおっかなー)

 

 彩文がちょっとした宝探し気分でいると、二人の引率なのだろう叶星が、校舎の方からやってくる。外出届を出した足だろうとは、彼女も先にいた二人と同じように色々と荷物を持っていることから、彩文にも察せた。

 

「二人とも、お待たせ……って、彩文ちゃんも行くの?」

 

「いやいや、アタシはたまたま居合わせた一般リリィですからー」

 

 叶星の勘違いを訂正する彩文の言葉の中に、初めて会った時の雪華と同じような言い回しがあったから、グラン・エプレの三人も改めて二人は従姉妹なのだと納得したところで、彩文はヒラヒラと手を振りながら校舎の方へ去っていく。

 

◇◇◇

 

 夕暮れ、半端に開けられた窓より入る風と明かりに照らされながら、重ねられたモノが離された。

 

「今の……?」

 

 てへ。と照れ隠しのようなポーズをして離れる彼女は、そのままベッドの方へ去っていくと定位置な下の段にぽすんと座る。

 

 本気だったか、と聞かれると否だろう。彼女との関係なんて単なるルームメイト……ただ、それだけだった。

 だから、所詮は学生同士のじゃれ合い。した後に『実はお姉様ともしたことがなかった』なんて言われても、私は半信半疑で……それでも、あれが最期の記憶になるんなら、あの子ともう一度キスしたかったな。

 

 ──なんて、窓から外を眺めて黄昏れる『過去の私』を他人事のように眺めている以上、今度もまた夢でしかなく、これは二年前の新館にいた頃の話で、この前夢に見た、あの子が出先で死んだと聞かされてから数日経った辺りの様子。

 それにしても、いくら夢だからって何故か自分をこうして眺める形なんだから、もっと早くに気付けるもんだと思うんだけども。

 

◇◇◇

 

「……我ながら未練たらしいよね、まったく」

 

 ベッドの上で上半身だけ起こして零すのは、そんな言葉。

 中等部からの付き合いだった私のルームメイト、あの子はとっくに……なんて言うには二年が長いのか短いのか。少なくとも、まだ一緒にいた時間の方が長いのだから、過去にするには早いのかもしれない。

 

「……分かってる。まだあたしは生きてるし、死ねない理由も増えた。だから、そっちに行くのは大分かかるだろうけど、その時はまた──」

 

 誰が聞いてる訳でもないし、ここは旧館で、中高でそれぞれあの子と過ごした寮ですらない。それでも、もうどんな声だったかも思い出せなくなっている相手に、言い訳染みたものをしてしまうのは、未練としか言えないだろう。

 けど、私が『逝く』のが早かったとしても遅かったとしても、あの子は──(ゆい)は仕方なさそうに迎えてくれるだろうなとは、何をどこまで忘れようと揺るがないとは、思っていたい。

 

◆◆◆

 

「あ、雪華様! おはよう……ございます?」

 

「ん、おはよ」

 

 今月はこのタイミングか……と朝からどうにもな気分のまま、とはいえ顔を出さないとそれはそれでダメだろうなと、ゆっくりめに控室へたどり着けば、道中何故か増えに増えた荷物に、とてとてと入り口まで出迎えてくれた梨璃ちゃんは驚いている。

 

「わぁ。どうしたんですか、そんなにいっぱい?」

 

「あー、まあそんな複雑な事情があるでもないけどさ」

 

◇◇◇

 

 最初は、掲示板の前で何人かの生徒に囲まれていた祀さん。

 

 様子からして相談を受けていたのだろうか、なんてチラリと見ていたら祀さんは周りの子たちに断りを入れると、こちらに寄ってきて──

 

「雪華様、大丈夫ですか?」

 

「パッと見でそう言われるって、相当酷い顔してるんだろーなとは思うよ」

 

 ──開口一番そんなことを言われた以上、誤魔化せるような状態ではないと。

 

「ええ……今日は無理そうでしたら、レギオンには私の方から」

 

「休んだら余計に心配されるでしょ、あの子たちには」

 

 だから、それまでには普段通りとは言わずとも、最低限取り繕えるようにはしておきたいけど……なんてわざわざ口にする前に、差し出されるのはまだ開けてもいないのだろうと見て分かる、ペットボトルの緑茶。

 

「……自分で飲む用だったんでしょ、悪いよ」

 

「そう思うのでしたら、せめて夢結たちにはそんな顔で会わないであげてください」

 

 そこまで酷いのかね。と近くの窓を見てみれば……確かに、これは魂が抜けてそうだ。いや、二水ちゃんとか紅巴ちゃんとか的な意味でなく。ええい佳世までついでに昇天するな!

 

「了解しましたよ、っと」

 

 ならまあ、友人からの好意を無碍にするのも野暮なのだから、素直に受け取ろうか。

 

◇◇◇

 

「そういえば、雪華様も案外祀との関わりがあるようですね」

 

「ま、入り口は夢結繋がりだったけど、なんか同盟とか抜きにしても、色々と縁がね」

 

 夢結には意外そうにされるけど、結局人と人の繋がりっていうのは、そういうものの連続なんだろうとは思う。

 

◇◇◇

 

 で、貰ったお茶をちびちび飲みながら歩いていると、次は天葉と依奈に見付かった。

 

「うわ、どうしたんです?」

 

 祀さんに言われて、あれから少しは直そうとしていたけど、今度は意識して取り繕おうとしてるのがバレバレなようで、依奈には露骨に引かれるし、天葉には何かを察されたような具合。

 

「まあ、そういう日もありますよね」

 

「見ての通りなんだろうけど、一応ノーコメントを回答にさせてもらうよ」

 

「一目でバレてるのに、そんなことする意味あります?」

 

 自分でもあるなんて思ってない言い方だから、依奈にはバッサリされるけど、代わりと言わんばかりに差し出されるのは……きのことたけのこのスナック菓子がまとめて入ってるやつを、袋ごと。

 

「……いいの?」

 

「どうせソラにいっつもたけのこだけ食べられるから、ついでです」

 

 理由になってるような、なってないような感じだけど、わざわざこっちで買ってる以上依奈も同類だろうから……なんだ?

 いかんね。思考までダメになってきてるから、これ以上ボロが出るより先に退散するか。

 

◇◇◇

 

「依奈様が『どっちも派』なのは風の噂に知っていましたが、雪華様は?」

 

「え? 最後までチョコたっぷりだもん」

 

 そして現れる第三勢力に、メモを片手に聞いてきた二水ちゃんは「お約束だなぁ」と苦笑い。

 

◇◇◇

 

 そして今度は、出会い頭というかこっちが気付くより先に、横に立たれて口に棒付きキャンディなんかを突っ込まれれば、誰かは即座に分かる。

 

「ん……コーラ味。好きなんだっけ?」

 

「だからこうしてるんでしょ? うえっ、朝からそんな顔でどうしたんです」

 

「……あたしは、なんとなく分かる気がします」

 

 聖は私の顔を覗き込んで、少し驚きながらもいつもの調子で接してくれてるけど、汐里ちゃんの方は……今の私と同じように、夢見の悪い日は結構あるのだろう。

 

「うん、まあそういうことだから。いつからだったか、月一で不定期にこうなるもんで」

 

「そういう不安定な時は、シルトが一番よく効くって知ってます?」

 

 なんて言いうが早いか、さらりと汐里ちゃんの後ろに回って抱き寄せてみせるのだから、聖に限っては慣れるくらいやってきているのだろう……当然、癒しが必要な時に限らず。

 

「いやー、うちはそういう系じゃないからなぁ」

 

 確かに私とて、シルトな結梨ちゃんのことは好きではある。

 けどそれは世の一般的なシュッツエンゲルみたいに恋愛的な感情ではなく、強いて言うなら家族愛、ないし友愛とかの延長レベルだから、流石にシルト吸いやそれより先のR指定入るような感じは、ちょっとどころでなく似合わないなんて、誰に言われずとも分かっていた。

 

「そう? でも雪華様みたいなタイプ程、試してみたら病み付きになると思うのよねー」

 

「シルトを怪しい薬みたいに言うんじゃないのよ……」

 

「あ、あはは……」

 

 まあ、あの美鈴でさえその魅力には抗えなかったのだから、強ちその例えでも間違っちゃいないんだろうけど……なお、その美鈴のシルトだった夢結のシルト絡みの近況として、梨璃ちゃんの頭頂部からいい匂いがしたそうで。やけに言い回しがアレだな?

 

◇◇◇

 

「そ、その……お姉様に勉強を見ていただいていた時に、上げた頭がお姉様のお顔に当たっちゃって」

 

「状況だけ見ればベタな展開かもしれないけど、それでそんな感想が出てくるってのは……」

 

 私がその続きを言う前に、夢結は特に弁解もなくプイッと顔を逸らしているけど、横顔を見ても真っ赤になってるのが隠せていないことから、迂闊な発言をしたとは思っているようで。

 

◇◇◇

 

 そして、次の亜羅椰ちゃんは何か言うより前に、何故か持っていた鳩サブレを箱ごと押し付けてくる。

 

「いや、どういうのよ?」

 

「ふふ、わたしたちの間柄は、気の利いた言葉より物を交わらせるものだと思いましたので」

 

 確かに、年度頭の初回以外も何度か、訓練の班分けが同じだったり放課後の自主練の場所が被ったりしたり、あるいは直接乗り込んで来たとかで亜羅椰ちゃんから手合わせを挑まれれば、毎回受けてはいたけども。

 

「だからって無言で押し付けられるのも、なんか違うでしょうに」

 

「では、少し買い過ぎた分の処理をお願いした。ということで」

 

 うーむ、これがいっそ他の子にやってるみたいな露骨にモーションをかけてる感じなら、対応もしやすいんだろうけど。

 しかし本当に用事はそれだけだったのか、軽い挨拶を残して亜羅椰ちゃんは去っていくのだから、これ以上何をということもなく。

 

◇◇◇

 

「でも、亜羅椰って時々食べ物くれたり優しいよ? 二人で話してたら、よく楓が横から入ってくるけど」

 

「あー……マジかぁ」

 

 亜羅椰ちゃんが誰かと契ってる相手だろうと遠慮なんてしない。とはノルンにまでなってる樟美ちゃんや、もうさっさとゴールしろな壱ちゃんに手を出そうとしてるもんだから今更だけど、いざ実際に自分のシルトが狙われたとなっては、なんとも言えなくて頭を押さえるしかない。

 

「まったく、こういう形で閑さんの苦労が分かるとは思いませんでしたわ」

 

 とりあえず何度も守護ってくれてるらしい楓さんには、グッジョブと空いた手でサムズアップを送るけど、同室セコムの排除対象なのにセコム側の気持ちが分かるとは、これいかに。

 

◇◇◇

 

 そして最後……から二番目だけど、まあ今意味があるのは多分最後になるのは──

 

「冬佳ー、雪華様の荷物持ってて」

 

「えっ……失礼します?」

 

 段ボールを数段積んだカートをそれぞれ押しながら通りすがったと思えば、その片方な百由にパシられた冬佳によりこれまで渡されてた諸々を回収され手の空いた私に、百由側のカートから一番上の箱が押し付けられる。

 

「これ、ぐろっぴの分だから配達よろしくお願いしますねー」

 

「……え、この流れで?」

 

 いや、冬佳をパシって私もパシるって考えると、百由視点では自然かもしれないし、私も別に百由に慰めの言葉なんかを期待してた訳でもないけど。

 

「ん? 一応あの子が払ったやつだし、誰もいない工房に置いとくのも、なんか味気ないでしょー?」

 

「その……百由がいきなりすみません」

 

 なんて呆けてる間にも百由は普段と変わらずな調子なもんだから、冬佳の方は申し訳なさそうに縮こまってるけど、とっくに慣れてるよ、この感じにも。

 

「はいはい、同じレギオンの先輩として、これくらいは引き受けますよっと」

 

 これまでの分を箱の上に返してもらいながら、今更ながら結構な荷物になったなと確かめて、ガラガラとカートを押して去っていく二人を見送る……パッと見同じような箱だし、あれ全部エナドリなのかなぁ。

 

◇◇◇

 

「で、あの量のエナドリ全部一人でって正気?」

 

「いや、流石の百由様とて即座に飲み切るわけではないが……そうならんよう、わしもお邪魔した時にちょくちょく頂いておる」

 

 それはそれでシュッツエンゲル共倒れになりそうだけど、死因がエナドリのオーバードーズなんてのが笑えないのは、わざわざ指摘するまでもなかったようで。

 

「ところで、話に出てないそれはなんなんだ?」

 

「んー、配達組その2というか」

 

「それ、前に鶴紗ちゃんが持ってるの見たような……?」

 

 梅に指摘されて梨璃ちゃんが気付くように、実際鶴紗ちゃん宛てなんだけども、生憎とご本人は現在休暇中である。

 というのも、神琳ちゃんが『リリィトピックス』という雑誌の依頼を受けていて、その内容が水着を着ての休暇の様子を撮って欲しい──ということで、ちょうど雨嘉ちゃんを含む三人に休暇の順番が回っていたのもあって、昨日からこの前楓さんたちが旅行をセッティングしていた、例の海岸へ出掛けていた。

 

「くんくん……柚子?」

 

 なんておさらいをしていると、結梨ちゃんにそのブツ─まあただの猫缶なんだけど─を嗅がれて、元の持ち主も当てられるという。

 

「いや、正解だけどどういう探知よ」

 

 で、そんな風に鶴紗ちゃんが空けているのは同室の彼女も分かっていたから、道中ですれ違った時に控室に置く分を持っていって欲しいと、柚子ちゃんに頼まれた訳で。

 

 なら自分もついていけばよかったんじゃないかって思うけど、フリーランスはフリーランスなりに色々やることがあるそうな。そんなだから鶴紗ちゃんも、この前「あんなこと」を頼んで来たのかねぇ……?

 

「それで、鶴紗たちが帰ってきたら次はふーみんだろ?」

 

「え? あ、はい。そうなりますね」

 

「まーた紅巴ちゃんとこ行くんだっけ?」

 

 曰くこの間の二水ちゃんは私みたいな事前に休暇を取っていた訳でなく、放課後の外出な日帰り強行軍のつもりだったらしいけど、結局紅巴ちゃんはほとんど昇天しててあまり話を聞けなかったから、今度こそ改めてだとかなんとか。

 

「で、その次、というか最後が梅たちか。雪華サマはどーするんだ?」

 

「ん、あたし? そうだなぁ、たまには家に顔見せとこうかなとは思ってるけど。母さんはこの前来てたからともかく、父さんにも心配かけたろうし、直接会っときたいからね」

 

 とはいえ別に数年ぶりとかそういうこともなく、中等部時代から年に何度も帰ってはいるけど、今年度は色々忙しかったからまだだし、ちょうどいいかなって。

 

「そういう梅はどうするのよ?」

 

「んー? わたしはベトナムに帰るには数日じゃなぁ、まあ適当にゴロゴロしとくゾ」

 

 つまりは、いつも通りだと。そうこう話していたら荷物を置いてるだけで始業の時間が近付けば、各々解散という形に。

 

◆◆◆

 

「どしたの二水ちゃん?」

 

 次の日の夜、グングニルを抱えて小走りでラウンジから出てくる二水ちゃんの姿が目に付くと、とりあえずで声を掛けてみる。

 

「あ、雪華様。これからミリアムさんの工房へ行こうかなーと」

 

 まあ、この時間でも相変わらず姉妹揃って何かしらの作業に籠りっきりではあるだろうけど、二水ちゃんの調子は、どうにも気合いが入りすぎていた。

 神琳ちゃんたちも特に大きな問題もなく帰って来たし、明日からしばらく東京、というか紅巴ちゃんのところへ行くと考えれば、その理由は分かりやすいけども。

 

「なに、遠足前に眠れない的な?」

 

「あはは……そういう部分も先程まではありましたけど、今はちょっと違います」

 

 ほむ、まあCHARMを抱えて工房になんて、整備目的以外にないだろうけど……東京でなんかあったかなぁとなると、該当する案件が多すぎて、逆に分からん。

 

「では、明日のためにもわたしはこれで! おやすみなさーい」

 

「おやすみー」

 

 何にせよ、やる気があるのはいいことだと二水ちゃんを見送れば、元気に駆けて行くんだから特に心配は不要かな?

 

◆◆◆

 

「……なにしてんの? 土岐ちゃんと二水ちゃん」

 

 翌日、神庭の寮を出ようとした彩文が気付いてしまったのは、寮の前の物陰に隠れて何かを待っていると思われる、紅巴と二水の姿。

 確か今日は『ソウル・フレンド』などと呼んでた集まりをする的な話は昨日クラスで聞いていたものの、その活動内容がこんな怪しいというのは、友人としていただけな──

 

「「……っ!」」

 

「へ? ちょまっ──」

 

 などと呆れていると、声を掛けた以上向こうからも気付かれた結果として、驚いた二人に隠れている場所へ引きずり込まれてしまう。

 

「彩文ー? ……いない。まったく、朝から落ち着きがないんだから」

 

(いや、アタシならここにいるってばユウーっ!?)

 

 しかもそのまま口を塞がれては、ルームメイトに何かを訴えることも出来ず、そのまま彼女が校舎、というより生徒会室へ向かうのを見送るしか出来ない。

 

「も、もがが……」

 

 リリィオタク組にどこと言わず押さえられながら、なにがなにやらと身動きも出来ずにいる彩文だが、少なくとも二人のピリッとした様子から、標的は出てきたようだ。

 

「忘れ物はないかしら、叶星?」

 

「もうっ。確認なら部屋を出る前にしたでしょう、高嶺ちゃん」

 

 ──なるほどたかなほセンパイ。

 なんて紅巴たちがこうも過剰に隠れようとする理由は察したものの、確か二人は今日からしばらく都外に用事で出掛ける、なんてことを彩文も灯莉に聞いていたから、これはもしや……なんて予感が過る。

 

「……ご、ごめんなさい。ビックリしちゃって」

 

「その、弾みで……すみません」

 

「いいよ、なーんか面白そうなことになってるしねー♪」

 

 ともかく先輩二人が離れたからと、解放され左右から頭を下げられているが、このまま見逃してしまうのも勿体無いと、彩文の脳内会議にて満場一致の予定変更が採決された。

 

◆◆◆

 

 その少し後、神庭の生徒会室にて、メールの着信音に秋日がスマホを見れば、このようなことが書いてあった。

 

『秋日センパイ、拉致られたから今日はヘルプ入れそうにありません。アタシの分もコキ使うついでに、外出・外泊許可はユウに代筆させといてくださいねー』

 

「……これは驚けばいいのかしら、嘆けばいいのかしら?」

 

「笑えば、いいと思いますよ♪」

 

 いくら近くにいたからといって、藤乃に聞いたのが間違いだったか……と分かりきっていた後悔に秋日は天を仰ぐと、恐らくその原因だろう、先程紅巴が慌てて出しに来た外出届を見やる。

 

「そういうこと、よね」

 

 グラン・エプレの今日の予定が、元より紅巴以外の四人全員が同室同士な二人ずつで出掛けるとは、前日までに提出された内容から知ってはいた。

 それが当日になって彼女も急に外出すると言い出し、叶星や高嶺のように外泊するとまで書いてある……となれば、恐らく同じように外泊の方も頼んで来ている彩文も、紅巴に続いて先輩二人を追い掛けたという具合だろうとは、秋日にも分かる。

 

 ただ、気になったのは届け出に来た時の叶星と高嶺の──どちらかと言えば高嶺の方の調子が、普段よりどこか落ち着かないように見えたこと。ならば叶星だけでなく後輩たちもついていけば、出先で何かあっても少しは……

 

「あ、あの……確か今日は、百合ヶ丘の方が訪ねて来てるって……」

 

「……状況的に、その子もついていってるわよね」

 

 そこで作業中だった鈴夢からの遠慮がちな報告に、また別の問題が出てきたぞとなるが、部屋のドアを開けてユウが入ってくれば、気持ちを切り替える。

 

「おはようございま……あれ、彩文先に来てませんでした?」

 

「おはようございます♪彩文さんならソウルフレンドと愛の逃避行に「さっき急な用事が入ったと、本人から連絡があったわ。悪いけれど同室相手として、代わりにこっちの書類へ記入をお願い」……ふふっ」

 

 いきなり何を言うか。な藤乃を遮りながら、簡潔に伝えるべきことを秋日が伝えれば、ユウとしては逆らう理由もないのだから、受け取った外出届へ言われた通りに記入をした後、肩を竦めながらぼやく。

 

「それにしても、僕に黙って消えるなんて薄情なルームメイトですよね」

 

「メールの文面からして、一応巻き込まれた形だとは思うから、帰ってきたらちゃんと話は聞いてあげるように」

 

「……はーい」

 

 正論ではある。とはいえ除け者にされたのが面白くないのは事実だから、頷きはするが返事は一拍置いてになってしまうのは、仕方ないことだろう。

 しかし見る相手によれば反抗的とも取れるユウの態度も、彼女らの抱える事情を知る生徒会の先輩たちからすれば、微笑ましい程度でしかないのだが。

 

◆◆◆

 

「で、そのままストーカーしたって?」

 

 二水ちゃんが休暇を取っていた間、紅巴ちゃんや二水ちゃんと一緒にたかなほのよそ行きについていった。なんてことをあやちゃんに電話で言われれば、なんでか虚空にキメ顔をした楓さんのイメージが浮かぶ。

 

『人聞きが悪いなー、後輩としてセンパイたちがホントに大丈夫か見守ってただけだってば』

 

 まあ三人は楓さんみたいな方向の下心で動いてはいないだろうとは分かるけど、二水ちゃんだけはなんか特ダネ目当てって明確な欲望を隠せてなさそうだとは、なんとなく想像出来てしまう。

 

『まー、結局すぐバレちゃったから、あんまり段ボールは出来てなかったんだろーけど』

 

「意味は分かるけど、どういう例えよそれ?」

 

 段ボール=潜伏なんて、伝わりはするけどなんでわざわざそんな言い方をしたし。

 

「それで、バレたって高嶺に見抜かれたとか?」

 

『んー、叶星センパイはともかく高嶺センパイの方は最初から分かってて見逃してくれてたけど、アタシは最終的に自分から飛び出したかなー?』

 

 曰く目的の村、『鯉登村(こいとむら)』への道中、少し前から一帯のエリアディフェンスが原因不明の機能停止を起こしていたからと、修理、ないし原因を探るために近場のガーデンから色々と人員が出ている中、本命のリリィに先んじて現地入りしていた〈マディック〉──リリィになれる50未満のスキラー数値ながらに武器を手に取る、ガーデン所属の少女たちが、ヒュージに遭遇し応戦していたものの、通常火器のみな最低限の装備だったようで苦戦していたころへ助太刀に入った叶星と高嶺を見て、あやちゃんも勢いで抜刀し突っ込んだとかなんとか。

 

『いや、だってあんなの見ちゃったら、体が勝手に動かなきゃ嘘でしょ?』

 

「そうねぇ、マディックの規格じゃ仮にフル装備だろうとミドル級すらキツいだろうし、見捨てるなんて寝覚めが悪い」

 

 一応、マディック向けにCHARM絡みの技術を使った、通常火器以上CHARM未満な装備こそ導入されてはいるけど、もし彼女たちがそれらの〈アンチヒュージウェポン〉の類いを携行していたとしても、スモール級はともかくそれより上はミドル級をなんとか倒せはするレベルなのだから、マギによる身体強化や防御結界の有無もあるし、真っ向からやらせるよりサポートに徹してもらうのが一番だろう。

 

『いやー、それにしても二水ちゃんは「ひとり一柳隊」なんて名乗り上げるし、土岐ちゃんは高嶺センパイに「説明してくれるかしら?」って言われたらマッハで土下座しちゃうしで、中々飽きないねー』

 

「どんな楽しみ方よ……」

 

 まあ、愉快な子たちって部分は否定しないけども。

 

「それはそうと、その村ってどんなだったの?」

 

『山の中だったからねー、自然に囲まれたTHE 日本の田舎! って感じ、近くで採れたって色々も美味しかったし。あとあと、たかなほセンパイたちが小さい頃村のお祭りに家族で来てたとかでー、村長さんと顔馴染みだったんだ』

 

 なるほど、確かにそんな思い出の地が危ないってなったら、東京を飛び出してまで駆け付ける訳だ。

 

「わざわざそんな話するってことは、ヒュージだけじゃなくてお祭りも見て帰ったんでしょ。何があったの?」

 

『エロコーン』

 

 ん、んんっ???

 

「は? え? なんて?」

 

『いやだからー、エーデルロイヤルコーン』

 

 さっきと言ってること違うが。なんてツッコミはポップしたメールの着信に意識を逸らされて叶わず、あやちゃんからみたいでとりあえず開いてみれば、なんか浴衣を着てチャーミィのお面を頭の横に着けてる二水ちゃんの隣で、ラリってる表情なゆるキャラのなり損ないみたいなやつのお面を抱えている、同じく浴衣姿なあやちゃんの写真が送られていた。

 

「……これ?」

 

『うん。この微妙なネタっぽさがいいよねーって聞いてみたけど、叶星センパイにはあんまりだったかなー』

 

 いやまあ、仮にも芸術系の学校に通ってる学生としては、こんな出オチ見せられてもコメントに困るだけだろうに。

 ──でも何故か、叶星だけはこのよく分からんキャラ……『コーン』って名前にあって、角もあるからユニコーンか何かのつもりだろうこれから逃げることが許されない気がしたのは、なんなんだろうか。

 

「流石に、こんなんだけが思い出じゃないでしょ?」

 

『まー、さっきも言ったけど山の幸? でいいのかな、がメインなご飯は美味しかったし、屋台回りながら色々お土産になりそーなのも買ったしー……あー、その後もまたヒュージ出たり、色々あったっけなぁ』

 

 ほむ、周辺地域のを片付けたからこそ安全だからってお祭りが開けたんだろうに、まだ生き残りがいたと。

 

『でねー、最後は高嶺センパイがタイマンでボスの化け狐みたいなヒュージ沈めちゃったりしてさー。やっぱり格が違うっていうか』

 

「ふーん? でも、そんな先輩たちと肩を並べて戦えたんなら、少しは自信になったんじゃない?」

 

『まあ、ね。というか、それより土岐ちゃんや二水ちゃんがセンパイ二人のイチャイチャに当てられて、しょっちゅう成仏してたりで大変だったけど』

 

 当然、そんなことになってる間は二人きりの世界だろうし、誰が面倒見ることになるかってーと……まあ。

 

『折角花火もキレーだったのに、二人ってばセンパイたちに釘付けだったんだから勿体ないよねー』

 

 ああうん、そりゃああの二人にとっては花火よりリリィ同士の絡みの方が、一夏の思い出としての価値は高いんだろーけど……

 

「花火っていえば、こっちもそんな時期だけど、あやちゃん帰ってこれそう?」

 

『勿論っ。なんか村を守ってくれたお礼だって、借りるだけだった浴衣もユウの分までもらえちゃったし、早速使いたいじゃん?』

 

 へぇ、おもてなしの料理を振る舞ってくれたことといい、随分と太っ腹だことで。あるいはそんな優しい村だからこそ、叶星たちの大切な思い出になったのやら。

 

『まー、一番は黙って置いてったことへのご機嫌取りってとこはあるけど』

 

「大変だねぇ、ワケ有り物件っていうのも」

 

 それを言うなら、シルトがワケ有りの塊な私も大概だけど、こっちはレギオンぐるみで面倒見てるんだから、負担って程でもない。

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