前回最後のとこは、借りたはずなのに二川があれ以降もしょっちゅう着回してる以上、そうなってないとおかしいので…というのも込み。
タイトル出してる分はお察し下さいだけど、それ以外もちょくちょくメモリアネタは拾ってますよシリーズもあるよ!
さて、今日から休暇だと百合ヶ丘を出て電車に乗り、鎌倉市内で降りれば、何故か駅の入り口に見覚えのある顔が私服姿でいた。
「なんだ、雪華サマまだ制服なのか?」
「別に帰ってからでいいでしょうが……」
先回り、というより同じ電車に乗ってたか?
なんて当たり前のように待ち構えていた梅の姿をまじまじと見てみれば、ベレー帽を被り鞄を背負ってたりと見るからに余所行きな感じだし、ショートパンツの横側に付けているのが半袖の青い上着の影から見える、シルバーのアクセサリーは……亀? なんか好きって話は、いつだったか聞いたような気がするけど。
「それに、実家がなんかお店やってんだろ? 折角だし挨拶がてら、ナ」
「ったく、冷やかしは勘弁ですよっと」
もう完全についてくる気満々のようで、夢結じゃないけど私に追い返す権利なんてないのだから、でかい荷物が増えたということにしておこう。
◆◆◆
駅から少し歩いて、通りからひとつ奥に入った道、そんな場所に一階を丸々店舗に使っている私の家はある。
「ただいまー」
「いらっしゃ……ってなんだ、雪華か」
入ってみれば店内のカウンターからこっちを見てくるのは、少し白髪が増えたようだけど、私と同じ黒い髪をした、家族の茶色い瞳。
「『なんだ』ってなによ、折角一人娘が帰ってきたってのに」
「そうは言うけどなぁ。帰るって電話もなかったし、百合ヶ丘なんだから夏休みってわけでもないんだろ?」
「そりゃあ、レギオン内の休暇回しだけど。急ぎの用事は月頭に終わらせてるから、暇だし帰るかなぁって」
いやまあ、改めて理由をまとめてみると「なんだ」と言われて仕方ない気がしないでもないけど、私が頭を押さえてる横を梅が遠慮なく抜けて行くから、父さんの興味もそっちに移る。
「で、一緒に帰って来たってことは、その子がひとつ飛ばしのシルトかい?」
「いんや、ただの二年の後輩。結梨ちゃんは先に海行っちゃったし」
まあ、海に行くってだけならまた後に控えてはいるけども、現段階ではこういう言い方になってしまう。
「おいおい、『ただの』じゃなくて『レギオンの』だろ? 先月誕生日プレゼント二重にくれたくせに、今更水くさいゾ」
「へー、雪華にそんな甲斐性があったなんてねぇ。最高学年らしく、ちゃんとお姉さんしてるってことか」
「そんなんじゃないってば。あたしがどうこうっていうより、こいつらが目離せないってだけ」
カウンター越しでなければ、そのまま父さんに頭を撫でられてたろうなって空気で話されて、少し反発気味になっているのだから、結局まだまだ私も子供だとしか言えない。
「おっと、そういえばまだ名乗ってなかったね。雪華の父の
「雪華サマの後輩の吉村・Thi・梅だゾ! よろしく……お願いします?」
「ははっ、敬語なんていいさ。こういうお店をやっていると、子供たちからため口で話されるのなんて慣れっこだからね」
で、ウチがどういうお店かっていうと、古い玩具に本やゲーム、CDやBDなんかのまあサブカル絡み全般というか、そんなのを両親が昔のツテを頼ったり時々遠くに出たりして集めて売っている、所謂中古屋の類いになる。勿論買い取りもやってはいるけど、こんなご時世だからか、そっちはレアケース。
そもそも二人の馴れ初めは、母さんが百合ヶ丘卒業後まだCHARMは使えるからと、国内のメーカーで新型装備のテストリリィなんかをしていた頃、先にそこに勤めていた父さんと出会ったなんて、社内恋愛の類いだったとか。
出会って数年して、スキラー数値も落ちてマギを扱える限界が来た母さんが会社を辞めるついでに、父さんからのプロポーズを受けて一緒に退社なんて形になって、少し経って生活が落ち着いた辺りで「こういうのに憧れてた」なんて父さんが言い出して今のお店を始めた……らしい。
なーんか、どこかしらと言わず飛ばしたり脚色はされてそうだけど、父さんが私に話している時、一緒に聞いてた母さんも特に否定はしなかったから、大まかな流れは一応その通りなんだろう。
ともかく、そんな風にある日ポツンと出来た、最早骨董品レベルに古いスタイルのお店。親御さんたちは懐かしむように、子供たちは物珍しそうにと、なんだかんだ今日まで続けられてるくらいには儲けはあるようで。
「とりあえず、荷物置いて来るから。梅のもあたしの部屋でいい?」
「ん? あー……好きにしてくれていいゾ」
この微妙そうな間は、遠慮というよりは予定になかった感じかね? 日数は私と同じなんだし、宿探しだなんだで忙しくするよりはマシでしょうに。
「んじゃ、後で店番入るからねー」
「そっちは休みなんだし、ゆっくりしてくれていいんだけどなぁ」
息抜きになるんだよ、こうして家の手伝いするっていうのも。なんてことをわざわざ口にするのも照れ臭いし、そそくさとカウンターの奥に入って、ついてきてる梅に顔だけ振り向く。
「あ、靴はここで脱いでね。ま、今更分かってるだろうけど」
「土足厳禁、だろ? で、スリッパはどれ使えばいいんだ?」
えーと、父さんのはこれで、私のはこっちだから……まだ朝って呼べる時間だし、母さん上にいるよね? なら──
「多分これ。違ったら私のせいにしといて」
「んじゃ、お邪魔するゾ!」
◆◆◆
一階を丸々店舗に使っている以上、当然ながら生活スペースは全部上の階で、二階に上がってすぐ左手のリビングに、当然といえば当然として、先月ぶりの姿が。
「ただいまー」
「お帰りー。なに、そういう時期だった?」
この見透かされてるような感じ……というより、実際は“ような”じゃなくて、母さんからすれば親と元リリィ、ふたつの目線から私の帰ってきた『理由』なんてお見通しなんだろうけど。
「……まだ見て分かる有り様かなぁ?」
「んー、一応普段通りっぽくは見えるけどナー」
梅に聞けばそうでも、自分では分からんものだから、どうなんだろうね。
「ということで、お邪魔してまーす」
「いらっしゃい。まあ雪華の部屋なんて何もないとこだけど、ゆっくりしていきなさいな」
おや、なんか顔見知りっぽい反応だけど、どこにそんなタイミングが……
「あー、この前梅ちゃんに雪華の病室聞いたのさ」
「いや、だとしたら私も梅と一緒に食べてたんだし、母さんが先に着く訳……ってまさか」
流石に母さんはもう40半ばとかそんなもんで、今更
となると、あの時私の病室は二階だったことを思い出して、窓から入ったな……とジト目を送ると、机に付いた手の上に顎を乗せながらのドヤ顔を返されるから、肯定ってことでいいんだろう。
「いやー、まさか場所教えた途端開いてた窓に飛び付くなんて思わなかったゾ。流石は親子だナ!」
「誉めてないでしょ絶対……」
まあ私もそれくらいのショートカット、やるかやらないかで言えばやる側だから文句も言えんけど……ともかく、遊んでても仕方ないし、そろそろ行こう。
「じゃ、着替えてからお手伝い行ってくるね」
「別に開けたばっかりで忙しい時間でもないんだし、久しぶりの家なんだからゆっくりしていきなよ」
夫婦して同じようなことを言ってるけど、こっちの答えも変わらないのだから、察してくれとそのまま奥の部屋へ。
◆◆◆
「ここが雪華サマの部屋かぁ、なんか普通だナ」
「そう? 普通の子ならもっと色々飾ってるもんだと思うけど」
感想を言いながら梅がさらっと椅子に座る勉強机も小学校の頃のだし、他には棚とタンス、テレビにベッドがある程度で、年に数度帰るくらいだからと特におしゃれにしてるでもなく、そんな部屋だ。
一応プラモはいくつか飾ってるけど、女の子っぽいかなんて聞くまでもないし。
「よし、っと」
ともかく上は無地のシャツとお気に入りな黒いジャケットに、下は青のスラックス、そして最後に高一の時姉さんから誕生日に貰った、ブランドのロゴだけが入ったシンプルなタグネックレスを首にかける。
お店番するんならあんまり派手にする必要もないし、こんなもんでしょ。
「おー、ってやっぱりパンツスタイルなんだナ?」
椅子でクルクル回ってた梅からの、着替え終わった私を見ての感想はそこになるけど、好きなんだしいいじゃん。大体、梅も今はショーパンだろーに。
「去年までの隊服で慣れてるってのもあるけど、店番でスカートもなんか違うでしょ?」
「そういうもんかー?」
そういうもん。
「てか、今更だけど梅はCHARM置いてきたの?」
「そりゃあ休みだからナー、いっつもフル装備な雪華サマとは違うって」
「いや、流石に私も今日は少なめだけど」
ケースも機構が複雑なもんだからと、自分じゃ手出せないしで百由に回してるから、持ってきてるのも鞄に入る程度なサイズのグングニル・カービンがふたつと、大分こじんまりしてはいる。それでもビームサーベル(ヲタ仕様)みたく、グリップ周りははみ出てたけど。
「ま、一応コアは持ってきてるから、なんかあったら借りるゾ」
「へいへい、何事もないのが一番だけどさ」
懐からチラリと見せて即しまう様子に、信頼されてるとは受け取っておくけど、それもどっちかと言えばCHARMを整備している百由の腕前の方が、比重の強い気がしないでもない。
◆◆◆
「お待たせー」
「ああ雪華、ちょうどよかった」
ともかくお店の方に降りると、父さんがそんなことを言って……なるほどね。
「あ、雪華じゃん」
「リリィクビにでもなったー?」
「でもまだ指輪してるし、おやすみなんじゃないの?」
「奥の人だれー?」
「皆、相変わらず元気だねー」
つまりは、近所の子たちが遊びに来ていたということ。今日は休日だからか、小学生かその手前くらいの面々。
お店の手伝いなんて言っても、それこそ小学校上がりたての頃なんかはレジなんて任せて貰えるはずもなく、私のやれることなんて実演販売じゃないけど、実際に玩具なりゲームなりでお客さんと遊んでみせることだったのだから、それが今でも続いている結果、たまに帰ればこうして囲まれるのもよくあることだった。
「で、そこのはうちのレギオンの子ね。サッカーで言うとMF仲間ってところ」
「いや、確かに今レギオンの人数十一人だけど、それはなんか違うんじゃないか?」
まあ、そこを言い出すと
「それはそうと、雪華サマの後輩な梅だゾ!」
梅が軽く挨拶するのを待って、手を叩いて皆ちゅうもーく。
「さて、こんな時間から来たってことは、全員『チャレンジ』狙いなんでしょ? かかってきなよ」
◆◆◆
「え、なんでやられた? 雪華これやってないって言ってたろー!」
「ははーん、情報が古いのよ情報が!」
まあ、私が寮でやってるやつも、このアーケード版に比べたらバージョンがいくつも古いんだけども。
ともかく、わざわざやるからにはただ遊ぶだけじゃつまらないと、私に勝ったら一品だけ一割引き。なんて父さんが言い出したのはいつからだったか……そんなチャレンジの対象に今回選んだのは、ヒュージの影響で閉鎖せざるを得なくなったゲーセンから筐体を1セット譲り受けたとかな、アニメとか色々を原作にしたアーケードのロボゲーだ。
こないだ恋花も私のビットの元ネタだろう機体の方を知ってたみたいだし、中々に知名度は高いやつ。
で、バージョンが違うとは言ったけど、私の愛機に関してはむしろ新しい方なこっちでは大幅に強化されている訳で、有志による攻略wikiでチラチラ確認しながらでもなんとかなる! 原作側の初代主人公だって、取説っぽいの読みながら動かしてたし。
「ねーねー、梅もやろうよ。順番待ちで暇だし」
「いいけど、梅はこれやったことないからナー?」
そして私が一人目を片付けてる間に後ろの方の子に誘われた梅も、とりあえずwiki開いたままのスマホを渡せば、なんかそれ見ながら機体選んで、私よりチラ見の頻度多くてもあっさり勝ってるんだから、やはり由緒正しき……とか言ったら、真面目にプレイしてる皆から場外乱闘の申し込み待ったなしだと思うから、心に秘めておこう。
一応、複雑なコマンドが必要な機体がほとんどいなくて、『ええいこのスイッチだ!』で技の出るゲーム性のおかげってとこもあるだろうし。
◆◆◆
その後も特に苦戦もなく、泣きの『もう一回』を申し込まれても大人気ないくらい年下相手に無双している雪華だが、横から眺める梅にそんな事実を指摘されたところで「だってあたし今月いっぱいは未成年だしー」と妙に上機嫌なのだから、息抜きになってるならいいかと、それ以上追及はしないであげることにする。
「うーん、やっぱりお姉ちゃんの言う通りそんな簡単じゃないなぁ」
「そのお姉ちゃん、今は何してるんだ?」
「今年からリリィしてる!」
なるほど、確かにそれなら帰省もたまに程度だろう。
勿論他の子たちの家族も同じとは限らないし、店内の時計を見ればまだ10時前といったところ。ここは個人経営故に早いとしても、普通のお店もそろそろ開店時間だろうし、もう少しすればお客さんも増える頃か? なんて梅が考えていると、カウンターの方から呼ぶ声が。
「ああ、二人とも。母さんがご飯作ったから、後は僕に任せて上がっていいよ」
「……朝にしては遅いし、昼にしては早くない?」
「一人娘が急に帰ってきたから、張り切っちゃったんだろうね」
そこを言われると弱いから、ほとんど手伝いになってない段階でも終わりと言われれば終わりかと雪華が受け入れれば、「またねー」と子供たちに手を振りながら上の階へ向かう。なお、何故か初対面な梅の方が人気そうなことには、心底納得していない様子で。
◆◆◆
「それにしても、随分とご機嫌なんだナ?」
「別に、実家でまで肩肘張る必要もないでしょ」
「ま、それもそーか」
階段をまた上がりながらそんな会話をするけど、わざわざこんな言い方になる辺り、普段はどうかっていうのを白状してるに等しい。まあ、今更梅に隠せるようなものでもないけど。
◆◆◆
「あ、ケチャップ取ってー」
「ほい」
で、こんな半端な時間にご飯ってなるけど、故にざっくりした物というか、よくある切れ目の入った……品名に『ロール』って書いてるしロールパンでいいのかな、を使ったホットドッグ。
細かいところは家庭によって違うだろうけど、ウチのは軽く味を付けたキャベツを炒めたやつと、スクランブルエッグ、そしてソーセージをオーブンで軽く焼いたパンに挟んで、ケチャップとマスタードをかければ出来上がりっと。
「「いただきます」」
梅も私がやるのを見ながら同じようにしてるけど、母さんが自分用に買ってるチリソースをかけているのを見て、隣の椅子からちょいちょいとつついてくる。
「あれも旨いのか?」
「さあ? あたしゃあ味覚は父さん側なのか、昔っから辛いのはダメだからねぇ」
だからいつも、母さんが自分のだけ専用に辛くしてるのを、見た目からしてすごいなぁと二人して眺めているだけ。
小さい頃に何かで試そうとした時も、横から伸ばした箸を他ならぬ母さんに止められたし、結構な辛さなんだなとは察せるくらい。
「それで、休みは何日よ?」
「今回は二日、明日のお祭りでも見て帰ろうかなって。まだ月末に大きいのがあるからね」
それがレギオン丸ごとってなるから、色々調整が必要になった訳だけど。月頭の東京行きの時、結局私も朝一で帰らないといけなかったのもそういうところ。
「で、どうせ梅もお祭り行くつもりだったんでしょ?」
「あー、まあナ」
ならもうウチに泊まってったんでいいでしょと、母さんの方を見れば言葉は不要なようで、即座に頷きが返ってくる。
「んじゃそういうことで、ごちそうさま。片付けたらまた店番「入らなくていいってば」え?」
さっきのなんて四人分を二周とはいえ、CPUは暗黙の了解で回避指示出して遠ざけてたタイマンだから20分くらいしかかかってないのに、それだけで終わりっていうのは流石にこっちが物足りない。
「言いたいことは大体分かるけど、折角のお休みならそれっぽいことしなさいっての。はい梅ちゃん」
「アイアイマム!」
いや、なんで海軍式よ……とかツッコミを入れる前に、梅に首根っこひっ掴まれて部屋まで引き摺られるから、「ぐえー」とわざとらしいリアクションを残すのみ。
◆◆◆
「ったく、そんなに気ぃ遣われる程かねぇ」
「いつまでも心配ってことだろ? いい親御さんだナ」
「そこは否定しないけども、やっぱり心配されっぱなしなのは、なんか歯痒いっていうかさ」
結局父さんは何も触れてこなかったから、この前のこと言いそびれちゃったし。
ともかく、今日はもう家の手伝いはいいって二人とも聞かないし、明日も花火の前には放り出されかねないって考えると、今度は先に自分から出とくべきなのかねぇ? あやちゃんもあの口振りだとウチに寄るだろうから、その時にでも一緒にかな。
そんな訳で、鎌倉市内を特にあてもなくフラついている訳だけど、急に梅が何かのお店のショーケースに釘付けになったのか、その前で立ち止まっている。
「……わたし?」
「ん? ──ああ、アサルトリリィか」
何度も話に出してはいるアクションドールが、有名どころのリリィを立体化してるってなると、当然初代アールヴヘイム組も該当する訳で。
私の記憶している限りじゃ夢結と梅、天葉と依奈のが出ていたはず……というか、目の前じゃそれぞれセットで並べられてるし。
それにしても、当時の上級生がいない辺りに色々と解散周りの事情が伺えそうだけど、違う段にいるのは東京から御台場の椛さんと楪、純に初。当代のアールヴヘイムから樟美ちゃんと壱ちゃん。それに──
「お、楓さんと葵ちゃんまで。トリグラフでお揃いだねぇ」
「ふーん。噂には聞いたことあったけど、また凄い出来だゾ」
この組み合わせってなると当然メルクリウス時代を意識しているのか、制服もそっちのを着せられてるし。確か世界一取った影響か当時のチームメイトのドールも出てるって話だし、そこから持ってきたのかねぇ?
「で、見てみる?」
「流石に本人へのお土産にはならさなそうだけど、面白そうだナ!」
いやまあ、夢結が自分のドール貰っても「どうしろと?」な顔して困惑する未来しか視えないけども。
でも、楓さん辺りなら自分のドールを買って梨璃ちゃんに送りそうだなぁと、嫌なイメージは浮かぶから困る。用事でしばらく出掛ける時に『これをわたくしと思って……』なんて言いながら。
……モンちゃんだと何かしらよろしくない物を仕込みかねないと、閑さんにガードされるだろうって理由で。
◆◆◆
で、店内に入れば「うわあご本人!?」と店員さんが
「んで、またなんか面白そうなのがあったけど」
「ウエハースかぁ、どういうのなんです?」
しばらく店内を見ていたら、梅が指差す商品のパッケージに、なんか見たような顔がいたりするから店員さんを捕まえてみれば、曰く「リリィの青春の1ページを切り抜いたメモリアカードが付属していまーす!」とのことで、このバージョンは東京のガーデン所属なリリィのそれが入ってるとか。
「だから叶星や一葉ちゃん、純に日葵ねぇ」
「椛に御巴留もいるナー」
つまるところ、御三家や目立ち所のリーダーが載ってるってことで、結構期待は持てそうだけど……
「とりあえず、ひとつずつくださいな。で、すぐ開けるのって大丈夫ですか?」
「規則としてはダメですけど、あっちの作業スペースが暗黙の了解で飲食見逃しエリアになってますねー」
なんとも理解があるというか。ともかくレジで会計を済ませれば、まばらに人がいる奥の作業机のひとつに、梅と向かい合って座る。
「ん、先に食べるのか?」
「あたしはケーキのイチゴは残すタイプなのよっと、あむ」
まあ、ウエハース自体はよくある間にチョコを挟んだそれ以上でも以下でもなく、サイズも値段相応だしサクサクと食べ終えれば、袋に残っているメモリアとやらを拝ませてもらおうか。
こっちから見えるのはちょうど裏面だし、そこに書いてあるタイトルか何かは──
「──〈都会の空を舞う天使〉ねぇ。お、灯莉ちゃんか」
不思議と縁が……というにはレギオン同士が同盟を結んだんだし、あやちゃん越しの縁もあるからこれから何度でも会う機会はあるんだろうけど、そのあやちゃんに送られた雑誌に載ってた時と同じ、グラン・エプレの隊服『フローラルクインテット』姿な灯莉ちゃんの戦闘中なのだろう様子が、表側を向けたメモリアには映っていた。
「へー、あの時救援に来てくれた子か。やっぱり普段からこういうアクロバティックな感じなのか?」
「まー、そうね。私の足場使ってド派手なこともしてたからなぁ」
覗き込んでくる梅に言われて思い出せば、シモキタでも大分縦横無尽に飛び跳ねまくってたし、なんならこのメモリアの構図のようにビルのガラスが割れ破片の飛び散る中、宙を舞ってみせたりもしていたらしいんだから、派手に動いてヒュージの気を引いてみせるなんてのは、グラン・エプレの戦闘においてはしょっちゅうなんだろう。
「で、そっちは?」
「ふふーん、〈ヘルヴォルの戦乙女〉。千香瑠のメモリアだゾ!」
「なんで自慢気なのよ……」
さて、ちゃんと眺めてみれば千香瑠も隊服姿で、受け取って読んでみた裏面の解説の通りなら『エレンスゲオーダー』という名前の、トップレギオンとしての正装。
こっちのロケーションは、所々が損壊している建物の外周な通路で、千香瑠が片手で柵を掴みゲイボルグをその名の通り投げようと振りかぶっている、見るからにアグレッシブな灯莉ちゃんとはまた違う躍動感があって、なるほど店員さんも解説に力が入るわけだ。
「てか、千香瑠と妙に仲良さそうだけど、あの子迎撃戦じゃ依奈や茜の部隊じゃなかったっけ?」
「いやいや、そもそもわたしたちが御台場行ったのって、元はヒュージと戦いにって訳じゃないからナ?」
ああ、そういえば最初はノインヴェルトの交流会とかなんとかって話だったっけ。現地の御台場どころか百合ヶ丘からのメンバーがやたらと多かったのも、そういうところ。
勿論、参加者にすらイメージが完全に直後の
……なんて時にヒュージの襲撃─どうにもタイミングがあからさま過ぎなんだけど、まあ今更誰が疑うまでもなく人為的な
「ま、でないと夢結と幸恵の仲もおかしいしねぇ」
「流石にあんな規模の戦闘中に、訓練の真似事までやってらんないゾ。残りの日程でやれる限りは、ってところ」
噂だと師弟関係と言える程に、今の幸恵の戦い方は夢結が教えた。なんて言われてるけど、戦闘中にそんな暇があれば誰も苦労しちゃいない……それに、怪我の功名じゃないけど背中を預け合った仲間とならば、より実践的な訓練になっただろうし。
「さて、流石にこれだけで帰るのも忍びないし、なんか買って行きますか」
「ハハ、だナ!」
◆◆◆
「で、結局それ誰なんだ?」
「んー、確か最近依奈が気になるってユニットのキャラ」
結局梅は自分のドールを買っていたけど、私が買ったのは自分で組み換えるタイプなカスタムリリィ用の色々と、梅に聞かれたアクスタがひとつ。
アニメだかアプリゲームだかの作中ユニットのボーカルで、好きな作品のOP曲をカバーしてたり、歌声がいいよねと私もそこそこお気に入りだから、なんとなく目に付いたからと買ってみた黒髪ロングの子。
「依奈? 梅にはどっちかと言えば夢結っぽく……んー?」
「いや、夢結よりは私の髪色のが近いでしょーが」
それを言うなら梅や鶴紗ちゃん、月詩ちゃんと後一人で……なんだ? なんでこの組み合わせが浮かんだ? しかも月詩ちゃんのイメージ、なんでか半透明だし。
◆◆◆
「どうだ、似合ってるか?」
次に寄ったのは服屋さんになるけど、試着室のカーテンを開けた梅のシャツは白とグレーのボーダーから普通の白へ、ジャケットは青の半袖から黒の長袖へ、下はショーパンから薄桃のスカートに替えていて、ソックスも縞々なのは普段と変わらずとも色はスカートに合わせてと、大分オシャレしてるなぁって感想にはなる。
「うん、いいんじゃない?」
「そういうありきたりな反応が一番困るんだけどナー」
「やかましい。素材がいいんだから、よっぽど変にしなきゃこうなるでしょうが」
そこでストレートに誉めても、別に何が出るような関係でもなく、着替え直して買う分を籠に詰めて出てきた梅は、次は合わせるバッグを物色していた。
「やっぱり小さいやつがいいか?」
「いつ使うかにもよるでしょ。あたしだと、最低限グングニル・カービンくらいは入れられた方がってなるけど」
なんて言ってるけど、着替えついでにCHARMも家に置いてるから、多少はそういう気分も抜けてきてるんだろうなとは、今更に気付く。
「別にそういうつもりもないしナー、これでいいか」
財布とケータイくらいは入りそうな、肩掛けの小さなやつを手に取ると、そのまま梅はレジ……へ行く前に、途中にある小物売り場の方へ。
「ま、冷やかしもあれだし私も何か買っとくかな」
◆◆◆
とは言っても、特に何かピンと来たでもないから、無難に普段から使うようなシャツを二着と味気ない結果になって、先に会計を終えた梅が待つ入り口に向かえば、買い物袋とは別に何かを持っているのに気付く。
「梅の方は追加で何買ったのよ」
「んー、じゃあちょっと目瞑っててくれ」
なんじゃそりゃ、とは思うけど折角だし言われる通りにすれば、前髪に何か触れるような……
「……ヘアピン?」
「いや、雪華サマじゃ梅みたいにリボン着けるには短いだろ?」
「だからって、なんでわざわざ」
貰ったネックレスはしてても服装は全体的に無地だし、飾り気がないと言われればその通りだけど。
いや、ネックレス? これを貰ったのって……
「……誕生日プレゼントの先払いだって?」
「いや、そっちはそっちで用意してるから、これの分だゾ」
そこで振り向いて鞄の開け口の辺りを見せてくれば、ファスナーのタブに私が誕生日にあげたブレスレットを通している。
「まーたオシャレなことしてんねー?」
「だろ?」
ま、何にせよ気に入ってくれたならいいかと、近くの試着室の鏡を見れば、左側に流れている分の前髪を纏めるように二本、群青色のヘアピンが留められていた。
「サファイアカラー、だってさ」
「誕生石返し?」
父さんも同じ月生まれだから、9月の誕生石のひとつがそうだっていつか聞いたなと記憶に引っ掛かれば、「うえっ」と微妙そうな返事。
「直球だと流石にバレるかーって二重に遠回しにしたのに、なんで分かるんだ?」
「いや、先に仕掛けたのあたしだしー?」
とはいえ、そういう形で返してくれるんなら、プレゼントした甲斐もあるってもので。時計を見ればちょうどいい時間だし、お昼を奢ってあげようか。