いや、いつぞやのコラボがいつの間にか全員ガチで百合ヶ丘になったしで、つい。
いつの間にやら第二部も一周年過ぎてますってよ奥さん、なお時間進行は一ヶ月ちょっとな模様…秋、わりとフリータイムなようでどうなのやら。
それと、前にあんなこと言ったからお察しの通り、こっちもやるでってイベントもまた…結果誰かさんが超ハードスケジュールになってる?いつものことだよ、ペイター君。
「で、ファミレスか」
「仕方ないでしょ。こんなご時世だから小さい頃行ってたようなお店も大体閉まってるし、生き残るのはこういう大手だってさ」
百合ヶ丘に入って今年で6年目、それだけ経てば街も細かいところは大分様変わりしている。家の周りも、それ以外も。
なんて少し思い出に浸っていると、テーブルの向かい側に座る梅はメニューを手にウンウン唸っている。
「んー、流石に百合ヶ丘の学食でもないとブンチャーやフォーはないか」
「それ、ベトナムの料理だっけ?」
むしろ百合ヶ丘では出てくるの? ってなるけど、まあ他の国からわざわざ来てる生徒も多い以上、その辺りはかなり手広くやっているらしい。
なんでか樟美ちゃんが『あるよ』って返しと共に、言われた品をカウンターからスッと出してくるイメージが浮かんだのは、ただの思考のノイズとして。
「うん、どっちも麺料理だゾ。仕方ないから冷麺にでもするか」
「ポテト食べる?」
「食べるー」
じゃあ大盛りの方で、梅のは夏用なのだろうメニューのそれを指差してるから、私のと合わせてタッチパッドに番号を入力して──
「ドリンクバーは?」
「付けるー」
なら二人ともセットドリンクバーで、まあデザートは欲しくなったらでいいか。注文完了、っと。
「で、飲み物私が取ってくるけど、最初はオレンジでいい?」
「ポテトが先だろーし、任せるゾ」
はいはい、ならドリンクバーに行って……お、ランチタイムはスープバー無料だっけかここ。ならトレーにこっちも二人分乗せて、お水も、まあいるよね。
「お待たせー。こっちはコンソメスープだってさ」
「あー、ランチタイムだからか?」
そういうこと。とお互いの席の前に諸々を置いていると、猫っぽい顔(?)の配膳ロボが、私たちの座るテーブルへウィーンと。
「なんだなんだ、鶴紗の喜びそうなやつが来たゾ」
どういう認識よ。なんてのはさておいて、そのロボが振り向けば一番上の段に、お皿に山盛りなフライドポテトが乗っているのだから受け取って、本体のボタンを押せば配膳ロボは厨房の方へ去っていく。
「で、お箸いる?」
「おいおい、こういうのは素手が一番だろ?」
分かる。ということで梅にはテーブルに備え付けなお手拭きだけ渡して、一緒に乗ってた器に入ってるバーベキューソースに先端を浸けたポテトをカリカリと。
「うーん。やっぱこれから始めないとね」
「そういや雪華サマは何頼んだんだ? またカレーか?」
「いや、そうしたくはあったけど、ここのカレーって辛いのしかないからさぁ。ま、来れば分かるよ、来ればね」
サプライズだなんてつもりはないけど、来る前に明かすのもなんだかつまらないし?
そのまま適当にポテトを摘まみつつ、今度は梅がドリンクバーに向かって戻って来た頃、再びにゃーんと走行してくる配膳ロボから、料理を取る。
「お、来た来た」
「それ……オムライスか?」
「にビーフシチューかけたやつ。ほら、上に乗ってるお肉、煮込み用のじゃん?」
「ふーん」と興味あるのかないのかな様子で、スッと二塊乗ってる内の片方が梅の箸に取られて口に運ばれるけど、それならこっちも同じように──
「ほい、あーん」
「……あむ」
させてもらおうと思っていたら、最初から交換のつもりだったのか梅が自分の分から蒸し鶏を取って、こっちに向けてくるからそのままパクリと……
「ごまだれー」
「まあ、その味で頼んだからナ。にしてもこれって、なんかデートみたいだゾ」
「……今更そんな仲かよ、私たちがさ」
もしそんな関係だったなら、きっとシュッツエンゲルになってたのは私と梅で、その下に結梨ちゃんってノルンの形になってたでしょうに。
「ま、それもそっか。このくらいは友達と楽しくやってるだけだよナ」
「楽しんでくれてるならよかったよ。私のお世話係、母さんに押し付けられたようなもんでしょうに」
「いやいや、梅はそーゆーポジションだろ? レギオンでもそれ以外でも」
──だから心配なんだよ。
とはいえ、自分でわざわざ『そんな』だって言ってる時点で、指摘してもそうだろとしか言わないんだろうけど……なにより、自分で自分を枠にはめてるって意味じゃ、私も同じ側だし。
だから、それ以上の問答は諦めて、素直にスプーンを手に取る。うん、旨い。
◆◆◆
で、食後のデザートはどうするかと確認してみたら、曰く何かアテがあるらしいとのことなので、レジでお金を払って外に出て、先に待っていた梅の案内に付いていくと──
「公園?」
「おう、さっき面白そうなのが見えたからナ!」
公園の中に店舗レベルのお店があるっていうのは、自然公園とかの広いところでもないとあんまり聞かないし、当然街中の普通サイズの公園じゃその時点で『面白そうなの』のジャンルは大分絞られるけど、はてさて。
「お、クレープの移動販売。そういや今はこの辺りって時期か」
こういう車って本屋さんとかスーパーとかの、駐車場の片隅にポンっと停まってるイメージがあるけど、人の集まる場所ってなるとそういうお店もだけど、公園こそ定番も定番だ。
なんて納得していると、私が財布を出す前に梅は自分のをヒラヒラと見せ付けてくる。
「今度は流石に自分で出すゾ?」
「へいへい。なら私は先に頼んどくから、メニュー見といてねー」
特に拘りがあるって訳でもないけど、さっきのファミレスでデザート系のページ見てたせいか、今はイチゴの口なんだよねぇ。
「「すいませーん、イチゴクレープひとつくださ……ん?」」
またなんかベタな感じに誰かと被ったな……と隣を見れば、三度目となればもう大分見慣れた感じな相模の制服姿──まあ葵ちゃんだった。
「あれ、先輩もお休み?」
「まあね。百合ヶ丘もようやく落ち着けて来たし、少しずつ消化してかないとってところ」
先月なんてほとんど休暇の使い時がなかった……のはぶっちゃけ途中でぶっ倒れてた私の問題か。メカヒュージが暴走させられた時、レギオン内でも一年組の半分はお休み取ってたし。
「とりあえず改めて、イチゴクレープふたつお願いしまーす」
「1200円でーす」
ともかく車内の店員さんにお金を渡すかってなれば、葵ちゃんは自分の分だと100円と500円を手渡してくるから、私も同じだけの小銭を出してまとめてトレーに乗せて、代わりに呼び出し用のブザー(?)を受け取ろうか。
「お、こないだぶりだナ。楓のカノジョさん?」
そうして後ろに引っ込んでベンチに座っていれば、入れ替わりな梅も注文を終えてブザー片手に寄ってくる。
「あ、梅様も一緒なんだ?」
「勝手に付いてきたっていうか、ね。てか、楪といいどういう覚え方よ……」
「んー? わざわざフラフラしてる楓に浮気だーなんて言うってことは、そういうことなんだろ? 中学の時、一緒に住んでたとかふーみんに聞いたし」
相変わらず便利ね、二水ちゃん情報。まあ、直接かSNS上かはともかくとして……ん? なんで今、二水ちゃんが東京の海を泳いで逃げ去るイメージが浮かんだ? 何かの情報を掴まれたのだろう、被害者役は純で。
「で、梅は何頼んだのさ?」
ともかく、幻想を振り切って聞いてはみても、頭の後ろで腕を組みながらするりとかわされる。
「んー? それは出来てからのお楽しみだゾ」
「さっきのお返しかよ」
こっちに関しても先に仕掛けたのは私なのだから、まあ気持ちは分かるけども。
それから話したのは、今度も最近の楓さんはどうだーとか、葵ちゃんの方は向こうの先輩によくタカられてて、先月なんて誕生日だからと三食全部奢らされたーとか、そのくせ駄菓子一個くれたことを延々引っ張られるとか……多分、その先輩ってあの時の赤いのよね。
「そっちもそっちで楽しそうだナー」
「別にそこは否定しないですけど……奢らされるついでに新しいお店発掘したりもできますけどー」
「っていうとなに、葵ちゃんってば結構グルメさん?」
「まあねー、そこは自慢してもいいかな?」
曰く葵ちゃんは『一生の食事の回数は限られてるから一食も無駄にしたくない』、的なポリシーを持っているそうな。だから普段から美味しいものをネットで探してみたり、休みの日には新たな発見を求めてこうして出掛けてるとか。
「それで今日も、色々回ってみようかなーって鎌倉まで出てみたら、そこでおふたりにバッタリと。雪華先輩って実家この近くだっけ?」
「ん? まあそうだけど……これも二水ちゃんか。いい加減アカウントか本人かを、四六時中誰かが監視しとかないといかんのかねぇ?」
実際家から出てるんだからそこは間違いないけども、話した覚えのないことを知られてるっていうのは、見る側としては結構遭遇していても、自分がその立場になるとなんとも慣れない話だことで。
で、監視の人員は……日羽梨に頼めばなんやかんや最後には引き受けてはくれそうだけど、ストッパーとしての役目は、絶対に果たせないかなぁ。あの子二水ちゃんにだけは露骨に毒舌が甘々になっちゃってるし、それも本人は無自覚に。
「っと、鳴ったか。じゃあ取ってくるねー」
「よろしくー」
なんて脱線はしてたけど、私たちの方のブザーが鳴った音に現実に引き戻されるから、思考も勝手に打ち切られる。
◆◆◆
「で、梅のは……梨?」
「フフン、これでも一柳隊の一員だからナ!」
いや、梨の字はどっちにせよ名前の方でしょうが。というツッコミは手元のクレープごと飲み込んで、遅れて梅が受け取って来たクレープをまじまじと見てみれば、真ん中にでーんと梨が乗っていて、周りには追加のトッピングなのだろうイチゴや、クローバー……型のチョコ? か何かが彩っている。緑だし抹茶味なのかなぁ、チョコの詰め合わせで見るような。
ともかくそのまま眺めていると、梅はクレープを大きく一齧りして、笑顔を咲かせている。
「はむっ……うーん♪やっぱりフルーツに生クリームだし、ハズレるってことはないゾ!」
まあ、梨のケーキも時期によってはケーキ屋さんで見るしね。どっちかっていうと、リンゴ共々タルトに使われてるようなイメージだけど。
「んー、人がやってるの見てるとトッピング付けたくなるのよねー」
「わかるー。けどわたしはこれから結構寄る予定だしなぁ、もう一個は流石に」
横目で葵ちゃんの方を見れば、スマホでメモでも確認しているのだろう様子が。けどチラリと見えた画面に、見覚えのある名前があればいつものノリで口に出る。
「……あれ、樟美ちゃんのオススメ?」
「あー、この間メールで教わったところで」
曰く、こうして食べ歩きをする中、たまたま寄ったお店で樟美ちゃんと知り合ったとかなんとか。確かにあの子料理好きだし、出先で食べた味を再現とかしてそうだなぁとは、言われてみれば思い浮かぶ。
「むぐむぐ、やっぱ世間って思ったより狭いよナー」
「そりゃあそうだけど、ほっぺにクリーム付いてるってば」
喋りながら食べるからそうなる。と梅の右頬に付いてた分を、『自由にお取りください』と置いてあったのを人数分確保していた紙ナプキンで拭いていると、横から面白がってる視線が突き刺さるのを感じてしまう。
「で、やっぱり今日はデートです?」
「あのねぇ、梅が下の学年で一番仲良い相手ってのは否定しないけど、シュッツエンゲルだなんだってのだけが、関係性の全てじゃあないでしょうが」
「おぉー。流石は三年生、深いナ」
浅いよ、ゲヘナの行き当たりばったりで杜撰の極みな机上の空論よりも浅いよ。もう浮き輪に乗ってスマホ弄りながら、海面にぷかぷか浮いてのんびり波に揺られてるレベルだよ。
そりゃあそういう『分かりやすい』煌びやかな制度に皆少なからず憧れだなんだがあるのは分かるけど、結局は人と人との間ですることなんだから全員が全員契れて卒業なんてこともないし、仮に契れてもそういう関係になれる相手は制度の都合上数人止まりなんだから、そうでない普通の関係性のが遥かに多いのなんて、当たり前のこと。
「さてと、自販機で何か買ってくるけど、オーダーは?」
「おまかせでー」
「熱くないならいいゾー」
はいはい。なら私が一番最初に食べ終えたし、通りがかりに見えたやつがあったしで行きますか。
◆◆◆
無難にスポーツドリンクでもと、ボタンを押してガシャコンと取り口に落ちてきたペットボトルをみっつ抱えて戻れば、クレープを食べ終えた葵ちゃんが私たちの荷物に興味を持っていて、梅が自分のドールを箱に入れたまま見せている。
「あー、ドールかぁ」
「どしたの? 葵ちゃんのは買ってなかったと思うけど」
「あはは。いやー、高校デビューのプレゼントがもしかしたら楓のそれになってたかもー、なんて話がね」
曰く葵ちゃんのお父さんが少し前進学祝いのプレゼント選びに鎌倉の街に出た時、店員さんにお勧めされたのが、よりによって百合ヶ丘の生徒をモデルにした──ということだったそうで。実際は違ったからこそ、笑い話に出来てるんだろうけど。
「それはそうと、雪華先輩のドールを見掛けた記憶ないって、やっぱりそういう?」
渡したスポーツドリンクを一口飲んで、一旦蓋を閉めながらの問いには、肩を竦めながら返す。
「ま、お断りされてるんだろーね、会社の方で」
私どころか、姉さんや他の先輩たちのドールも一切出ていない理由なんて、近頃の烏丸の動きを見ていれば、いっそ分かりやすい。
政府公認になったお抱えの部隊にすら、ご丁寧に全員素性を隠させているんだ。その前身な烏丸隊に対しても、裏でそれなり以上の工作はしていたのだろう。
「じゃ、そろそろ行こっか。梅も寄りたいとこあるんでしょ?」
「おう、あくまで下見だけどナ」
ともかくそんな話はいいと、少し強引に話題を変えれば、葵ちゃんが手を挙げている。
「わたしが分かるとこなら、ついでに案内しましょうか?」
「大丈夫大丈夫、調べれば出てくるからナ」
葵ちゃんの提案に梅がスマホで地図を開けば、経路は確かに載っていた。とはいえこの手のナビってわりと目的地付近とか変なとこで途切れがちだから、やっぱり自分で確認するのが一番確実というか。
「あー、あのお店ね。雪華先輩とです?」
「いやいや、本人いるのに下見も何もないだろ? レギオンに猫好きなやつがいてナ、そいつと行く予定だゾ!」
猫? ペットショップか何か……にしては葵ちゃんが店名だけ見て分かったのが、よく分からん。
「ふーん? 梅様も随分浮気者ですねー」
「おう、梅は皆のことが大好きだからナ!」
──そういうところだよ。
とは葵ちゃんの前だし飲み込むけど、そもそも鶴紗ちゃんは別に『本命』という訳でもない、ただの仲のいい相手の一人でしか……というのもあくまで外からの話だ、指摘としては微妙に弱いし、それにこれ以上は、誰に対しても失礼な言い方にしかならない。
……本命が誰かなんて、梅とそれなりに付き合いがあれば、誰から見ても丸分かりだろうとしても。
◆◆◆
ともかく葵ちゃんと別れて、少し歩けば目的地には着くけど……
「カフェ?」
「それもただのカフェじゃないゾ? 猫カフェだ!」
猫カフェ。いや、流石にそんなものがあるってくらいの知識はあるけど、イマイチイメージが沸かないところはある。そりゃあそういうお店の子なら人慣れはしてるだろうから、多少鶴紗ちゃんがガチガチになろうと大丈夫ではあるんだろうけども。
「ふーん、だからデートの下見にって?」
「『そんなんじゃない』って言ったのは雪華サマだろー? レギオンメンバーと仲良くやってる、それだけだって」
まあね。だからこれはただの気紛れで、別に深い意味なんてない。踏み込むつもりなら、もっと考えて言葉を選んでる。
「さて、そろそろいい時間だし、帰ろっか」
「んー、まあ帰りの時間もあるしナ」
◆◆◆
さて、家に帰った頃にはもう夕方だったから、そのまま晩御飯を食べたらすぐにお風呂と、実家だなぁって気楽さ。
……いや、別にガーデンでも移動距離とかの問題抜きにすれば、そこまで変わらないような気はするけど、やっぱりそこは家だからなのかなぁ?
「で、何食べてんのさ」
「おだんご」
見た感じみたらし。父さん辺りに餌付けされたか……? ってなるけど、お皿ごとだし多分私の分もまとめてか。
ともかく髪をタオルで拭きながら部屋に戻って、落ち着いた頃におだんごをモグモグしていると、不意に振動が。
「ん? こんな時間に誰よ……」
ともかく着信だとスマホを取れば、画面に表示されている名前は──『一柳結梨』。
わざわざ学院離れてる私になんて、何があったのやら。
「もしもし、どしたん?」
『なんか、楓が二水抱いてる』
おう、開口一番核爆弾を投下するでない。こないだのあやちゃんといい流行ってんの、こういうの?
「……なんて?」
『楓が、二水を抱いて寝てる』
アッハイ。特に聞き間違いということもなく、邪魔するのも悪いからってベッドの上に二人を残して部屋を出たけど、どうしたものかと廊下に立ち尽くしている。なんてのが、今の向こうの状況らしい。
「まあ、レギオンの誰かの部屋行くしかないんじゃない?」
『わかった、じゃあ梨璃の部屋で寝るね』
とりあえず話が決まれば、最後に「おやすみ」とお互いに言って切るけど、なんだこの展開……?
「誰からだったんだ?」
「結梨ちゃん……なんだけど、なにがなんだか」
いやまあ、葵ちゃんとの関係や夢結狙いから即座に梨璃ちゃんに乗り換えたことも考えると、多分楓さん的にはこの程度浮気の内にすら入らないんだろうけど……なんで急に二水ちゃんを部屋に連れ込んだのやら、しかも今は同室相手だっているのに。
「んー、それ結梨が言ってたのか?」
ともかくそんな内容も梅に伝えはするけど、色々引っ掛かりがありそうな反応。
「まあ、そうだけど」
「多分、本当にただ一緒に寝てるだけなんじゃないか?」
いや、結梨ちゃんの何も分かってなさそうな言い方からして、言われてみればそうなんだろうけど、その理由が分からんから混乱してるというか……抱き枕代わりなら、それこそ結梨ちゃんなり、最悪あのモンちゃんなりでも務まるでしょうに。
◆◆◆
「それで、こっちの寮に来たと」
「うん」
新館は梨璃と閑の部屋、随分と遅い時間にドアが叩かれたと、読んでいた雑誌を閉じて閑が出れば、部屋着姿でモンちゃん(電源は落ちている)を抱えて外にいた結梨に事情を聞いたところ、彼女の雪華にしたのと同じただ情景だけをかいつまんだ言い方に、なんとも言えない顔で額を押さえる羽目になっていた。
「あれ、結梨ちゃん?」
「梨璃ー、おじゃまするねー」
「……梨璃さん。今日はベッドが狭くなるけれど、いいかしら?」
ともかく中の梨璃にも気付かれたし、これ以上詳しいことは聞き出せそうにないのなら、もう迎え入れる以外の選択肢はないと観念するしかない。
(それにしても、何故二水さんを……?)
勿論同じクラス・レギオンの仲間として、二人がそれなり以上に親しいのは閑とて知っているが、わざわざこんな遅くに部屋に連れ込んで何を……
戦術談義? あるいは趣味の話? それとも……なんてドアを開けたまま考え込んでいると、梨璃に顔を覗き込まれていたのに気付く。
「閑さん?」
「……いえ、なんでもないわ。結梨さんは楓さんが忙しいみたいだから、泊まりに来たらしいの」
とりあえず真相は分からないし、多分結梨自身にもよく分かっていないとなれば、梨璃には角の立たない理由を伝えるしかない。
「そっかぁ。楓さんも大変なんだねー」
「なんか張り切ってた!」
(となると、また何か出掛ける計画を……いやでも、そっちなら相手は二水さんでなく、東京の同盟レギオンの人たちとだったはず……)
しかしこれ以上考えるには閑の手元にある情報が不足しているし、何か動きがあれば分かるかと、今は自分でも無理があると分かった上で己の頭を納得させる。
◆◆◆
「ん、むぅ……」
朝……じゃないな、時計を見ればもう11時って、もうお昼前だ。当然梅が寝ていた来客用の布団もとっくに片付けられているしで、久しぶりの実家で気が緩んでるのかなと起きようとすると、廊下の方から駆けるような足音が。
「おっはよー! ってあれ、今起きた?」
「見ての通り。着替えるから……いや、先に朝の残りでも食べるか?」
まあ案の定というか、部屋のドアをバタンと開けながら入ってきたのはあやちゃんで、後ろで所在なさげに前髪を弄っているのが話に聞く同室ちゃんなんだろう。
「あー、それならさっきユウと二人でいただきましたー☆」
「おい」
「いやだって華おばさんのオムレツ美味しいしー」
「おい」
よりによってオムレツだったのか……ただのオムレツでそんなガッカリするなって? いや、母さんのやるフワフワさは自分でやっても中々出せないもんだからさぁ。
まあ、結局それは自業自得なんだけども。こうなったら顔洗ってうがいして、もうお昼からお祭りに突入するしかないな? そうすれば、朝ごはん抜きもスパイスのひとつだ……とでも思わんとやってられん!
「ま、二人とも浴衣の着付けなんて慣れてないでしょ? 先に始めといて、戻ったら手伝うよ」
「……お手数をお掛けします」
ふむ、ユウちゃんだったかはまだ人付き合いもそんなに慣れてなさそうな感じ……まあ、話に聞く経歴的にその辺りは仕方ないか。
◆◆◆
「あ~れ~」
──で、何故かあやちゃんに悪代官のよくやる帯を引っ張るやつをされて、私だけ二回も巻く羽目になったけど、ともかく着替え終われば出掛ける前、リビングにいる母さんに顔を見せておく。
「馬子にも衣装とはよく言うけど、似合ってるじゃない」
いやまあ、普段からオシャレに気を遣ってない自覚はあるけども、たまに帰ってきた娘に向けた言葉かよ。
「えー、アタシは結構意識してるつもりなんですけどー?」
「……ノーコメントで」
そう言うあやちゃんの浴衣はアジサイ柄で、ユウちゃんの方は……アサガオかな? 曰く『ユウが学校で育ててたの話したら選んでくれたんだー』とかなんとか。私のは? 菊だよ、
「よ、大分遅かったナ?」
で、ここまで見掛けなかった以上梅はとっくに用意を終えてたんだろうけど、階段のところで待ち構えていたのは、見慣れない格好をして。
「チャイナドレ……じゃなくてチーパオ?」
「彩文が新しく知った言葉を使いたいのはともかく、似てるだけじゃないかな?」
さて、あやちゃんが間違えたのも仕方ないとは思うくらい、梅の服の雰囲気は大陸の方というかそんな具合だけど、チャイナドレスにしては露出がないというか、スリットこそ入っていても下にちゃんと長ズボン的なのは履いてるというか。
「あー、これはアオザイっていってナ。ベトナムの服だゾ」
「えっと、ハーフなんでしたっけ?」
ん、挨拶は終えてるならなんで今更格好に……いや、梅は多分お風呂の方で着替えたな?
ともかく、そんな梅のアオザイとやらはヒマワリ柄で、普段から愛用しているリボンの色的にもお似合いではある。花言葉は……わざわざ言うのも野暮かな。
「じゃ、そんな訳で行ってくるから」
「はいはい、あやちゃんたちもいるんだから気を付けて」
「分かってるってば」
母さんの月並みな言い方には雑に返すけど、下に降りたら父さんにも同じようなこと言われるし、年長者としてしっかりしろ、ってことなのやら。
◆◆◆
「昨日もチラホラ準備中なのは見えてたけど、やっぱり本番になると違うナー」
街中でのお祭り、ということで道路の左右にずらーっと並ぶ屋台に屋台。食べ物系は当然として、お面屋さんにくじ引きや射的に金魚すくい、他にも色々と目移りするくらいで、本番は夜の花火としても既に結構な人混みになっていた。
「焼そばとたこ焼き、半分ずつでいいよねー?」
「……もう買って来たのかい?」
そして私たちがグルリと見渡している最中、チラチラと視界に映っていたあやちゃんの動きは早いもので、早速ふたつの屋台を回って来ている。
「ご機嫌取りだーって言ってたし、貢いでるねぇ」
「半分こって言ってるし、自分が食べたいの選んだだけじゃないか?」
まあ、そういう部分もあるだろうね、初手より王道ど真ん中だし。なら私は──
「よし、最初はお好み焼きかな」
粉ものに釣られて、って部分はなきにしもあらず。流石にパックサイズとはいえひとつ丸々ってのも後がつっかえてるし、こっちも梅に半分押し付けでいいやとお金を払って受け取ると、スッと横に滑り込んで来る梅の手には、既に発泡スチロールの器がふたつ。
「って、そっちももう買ってるのかよ」
「そりゃあ、色々楽しまなきゃ損だろ? ほい、半分こ」
他の人の邪魔にならないよう少し端に避けながら、お好み焼きを半分持っていった梅が、代わりに器のひとつを渡してくる。
「焼き豚卵飯、だっけ。こういう時結構見るやつ」
確か四国の方が発祥とかな、所謂B級グルメの類い。ご飯の上に目玉焼きと焼き豚を乗せて、その上からタレをかけた、こう雑に旨いってタイプの料理。
「で、残りは……うどん?」
「『本場の讃岐うどん』だってさ」
讃岐、ね。それに私の買ったお好み焼きも、所謂広島風のそれとなると……中四国かぁ。
「お、リリィちゃんには分かるかい?」
「リリィちゃん」
まあリリィの指輪はそのまましてるし、私は脇差か何かのようにグングニル・カービンを二本腰に帯刀しているから特に隠してもいないけど、屋台のおじさんからの謎な呼び方にはオウム返しになってしまう。
「ここの売り上げがチャリティーに使われるとか、そういう類いなんでしょう? なら従姉妹の子も一緒に来てるんで、美味しかったって話しときますよ」
「おう、毎度あり!」
隣接する二地方丸ごと陥落扱いだなんて、実態がどれほどなのかこの前九州への道すがら空から眺めただけじゃあよく分からないし、普段はそうして通ることすら無いのだから、こういう機会に少しは力になりたいなんて思うのも、変な話じゃないでしょう?
◆◆◆
(なんてことですの……)
そんな風にお祭りを楽しむ先輩二人の様子がたまたま視界の隅に入ってしまったと、慌てて梨璃の手を掴んで彼女らと反対側へ駆け出した楓だが、『レジスタ』の俯瞰視野のみを使い周囲を確認すれば、梅たちはこちらに気付いた様子はなく、同行者なのだろう二人と合流していて、こちらの
「か、楓さん?」
「い、いえ、あちらのお面屋さんが気になりまして……」
とはいえそんなことは梨璃には伝えられないのだから、咄嗟に言えるのは無難なことだけ。幸い梨璃の興味は引けた以上、そこまで痛む嘘にはならずに済んだのだろう。
「はぁ……はぁ……これじゃもう予定も何もないじゃないですか!」
そもそも、ここしばらく二水が楓の部屋に連行されていた理由が今日のために計画を擦り合わせるためだったのだから、当の本人にめちゃくちゃにされれば二水とて文句のひとつは出る。
……なお、その時間は結梨が眠ってからにしていたのだが、昨日に限っては楓がそのまま眠ってしまった結果、お手洗いに起きた彼女に二水を抱き枕代わりにしていたのが目撃されたのだが、幸いにして今日は検査の日なので、そもそも楓の障害にはなり得ない。
「ふむ、にしてもお面とはな。二水のチャーミィも意外ではあったが、本当に色々とあるんじゃな」
「ええ、あれなんかはミリアムさんがお好きなのではなくて?」
「んむ? おお、チャーミーリリィのお面まであるのか!?」
このように、ミリアムであれば好きなアニメを始め気を引ける物には事欠かない。故にいつでも引き剥がせるとして、残るは二水の方にはなるが──
(あら?)
そのままマルチタスクは司令塔の嗜み、とでも言わんばかりに雑談の傍ら探るように俯瞰視野を動かしてみれば、少しして屋台の一角に使えそうな『ネタ』は見付かった。
(行けますわよ……!)