アサルトリリィ~円環の赫星~   作:ですティニー

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前回のあらすじ:昔の夢と小説の挿し絵参照シーンとヤマナシ、ヒダリデウテヤ(意訳)
似たようなシチュエーションも、役者とタイミングが違えばどうのこうの。ハプニング?あるよ。


リリィたちのエチュード

「……で、本音はどういう感じなんですか?」

 

「ふふ、まだシルトの一人も持ったことがないと分からないかしら?」

 

 うちの班の二年生がそれぞれ一年生三人ずつを連れてチームを作っているのを眺めながら、吉阪先生へここまでの大事にした理由を聞いたはいいが、なんとも分からない言い方で濁される。

 

「『彼女』も卒業する時色々頼んで回ってたわよ? 『三年になったあとあいつがぼっちになってるみたいなら、学院からいい感じなレギオンでも宛てがってやってください』って」

 

 名前を出されずともその相手が誰かなんてのは分かりきっているから、今になってそんなことを……と少し視線を逸らす。

 

「別に、レギオンに入るのは確定してるからいいじゃないですか。私はもう三年だし、スタメンは下級生の皆に譲るつもりですけど」

 

「そんなだからよ。ともかく話を戻すけど、気になる子の前では誰でも格好つけたいでしょう?」

 

 あの人の過保護はともかく、私のやり口なんて外から見れば『そんな』扱いか。とはいえ気になる子ねぇ……茜側は彼女のシルトである月詩ちゃんやもう夢結がいる梨璃ちゃんは勿論、汐里ちゃんもこの前百由の工房へいつも通りに壊したCHARMを持ち込んで来た時には『お姉様』同伴だったし、全員既に誰かのシルトではある。

 では日羽梨側はというと、ミリアムちゃんはとっくに百由が唾付けているようなもんだし、楓さんも気は多くとも本命は梨璃ちゃんまっしぐら……となると。

 

「……二水ちゃん?」

 

「あら、意外に早くたどり着くじゃない」

 

 しかし日羽梨と二水ちゃんが話す姿なんて今日まで見た記憶がないし、二水ちゃんの反応も顔見知り相手というより、有名人がいきなりやってきたことにびっくりして思考が止まる的なそれだしで……

 

「んん?」

 

「そこまでは分からないか。じゃあ二川さんの補欠合格になった部分が、戦術理解だとしたら?」

 

「そういうこと……? ていうか、そんな内容を私みたいな一生徒に明かしちゃっていいんですかねー、先生?」

 

「彼女と同じレギオンになるんでしょう? それに黒紅さんが誰にも言わなきゃこのことは誰も知らない、秘密は秘密のままよ」

 

 ともあれ彼女の興味のきっかけらしいところは理解した、自称世界一の戦術家さんとしては外部入学にして下級生一の新入生なんて気になって仕方がないと。

 それがほんの軽い冗談へ引くに引けなくなる理由になるというのは、イマイチ引っ掛からないけど。

 

◆◆◆

 

「なんか、また凄いことになってるなぁ」

 

 あれよあれよの間に日羽梨が「この三人貰うわよ」と楓、二水、ミリアムの三人を選んだので自動的に一年生の残り三人は茜のチームとなる訳だが、梨璃としては全然流れに付いていけていないでいると、隣の汐里から励ますような声を掛けられる。

 

「でも、お姉様の前でいい格好見せるチャンスじゃないですか?」

 

「あはは……わたしじゃ汐里さんたちの足を引っ張らないので精一杯だよ」

 

「そうかなー? 梨璃ちゃんゲームだとここぞって時の思い切り凄いし、それで夢結様もゲットしたんでしょ?」

 

 月詩のなんともな例えには事実ではあるので否定することもないが、それはそれとして色々あったのだと梨璃も微妙そうな顔のままである。

 

「あ、うん……けど、無茶しすぎだって皆には後で何度も注意されちゃったし」

 

「大丈夫大丈夫! わたしも部屋はちゃんと片付けなさいってよく言われるけど、なんだかんだ皆優しいから最後には手伝ってくれるもん!」

 

「そこは散らかさないようにするところでは?」

 

「ふふ」

 

「ぐぬぬ、よもや訓練ですら梨璃さんと引き裂かれるだなんて……」

 

 こちらのチームの一年生の賑やかな様子に、半ば押し付けられた形とはいえ梨璃を中央に仲は良さそうだと満足気に見守る茜と、いきなり愛しの梨璃さんと引き裂かれた(本人視点)な楓とで正反対な反応なのは、まあ性格の問題か。

 

「どうせおぬしが選ばれることはないのじゃから、このくらいでカッカするでない」

 

「あはは……」

 

 一方二水がミリアムのように楓へのツッコミ側に回る余裕がないのも、それこそ上級生で一番気になっている相手と同じ班になっただけでなく、まさかその中での勝負で彼女直々にメンバーとして選ばれるだなんて状況に思考が追い付いていないというところがあったが、その元凶な日羽梨は先生にルールを確認しているのだから、遠目にチラチラと眺めることしかできない。

 

「二水よ、もしやおぬしもあれか。梨璃みたいなパターンかのう?」

 

「へ? 梨璃さん?」

 

「……いや、こりゃ余計に重症じゃな」

 

 本人に自覚なし、しかし気にしているのはバレバレ。まあここまで露骨なら先輩の方から気付くじゃろうと、ミリアムも人の関係性どうこうに下手な口出しをする程野暮ではないと視線は違う方へ。

 

「なんでこうなったかなぁ」

 

 その先では頭を押さえながら事態を見守るしかない形になる雪華と、この勝負を他の班も見ておくようにとのお達しから近くに来ていた梅と夢結がいた。

 

「なんかまた面白いことやってんナ?」

 

「それにしても模擬ヒュージ相手のタイムアタックとは、普段のCHARMを使って直接手合わせをするのと比べたら随分と平和的ですね」

 

「いや、どっちにしても私が言い出したことじゃないからね!?」

 

 とはいえ夢結からの皮肉とも言えない程率直過ぎる感想には、雪華自身常に挑まれる側としても断った試しがない以上返せる言葉などそれくらいしかないのだが。

 

「ったく、あたしゃあ上級生だぞと」

 

「アハハ。ところで、折角だし梨璃に応援のひとつでもしてやったらどうだ、お姉様?」

 

「そうね……こう、かしら」

 

 梅に言われるまま、というよりやろうとしていたことと一致したからとそのままぎこちない笑みながら梨璃に向けて控えめに手を振る夢結だが、その様子を見た梨璃のサイドテールが見間違えようもなくピンと高く跳ね上がったことから、効果は抜群のようである。

 

「……お姉様が、応援してくださってる!」

 

「ふふ、これは下手なことはできませんね?」

 

「よーし、わたしも負けないよ~! 見ててねあかねぇっ!!」

 

 ちなみに梨璃たちがこんなに騒いでいるが先にやるのは日羽梨のチームで、今は四人集まって開始前のミーティングをしていた。

 

「改めてルールを確認するわね、模擬ヒュージの数は日羽梨たちの人数に合わせて四体、内一体が飛行型。模擬ヒュージ全てにある程度のダメージを与えて機能停止させるか、時間切れになれば終了よ」

 

 日羽梨の指差す先には既に待機中の模擬ヒュージ、ドローンのような飛行型と筒上の胴体に足の生えたファング種をモデルにした地上用、どちらも備えている機銃の中身は訓練用のゴム弾のためリリィであるなら怪我の心配はしなくていいそうだが、対するリリィ側は流れ弾や跳弾の許されない状況を想定して今回CHARMのシューティングモードの使用は禁じられている。

 

「となると飛行型の方は跳び付くしかないと?」

 

「あるいは地上の模擬ヒュージをふっ飛ばして叩き落とすか、じゃな」

 

「ミリアムさん、一応学校の備品なんですからそんな粗末に扱うのは……」

 

「別にやり方はカバーを付けたブレードモードしか使うな以外は何も言われてないから、やれるものなら、ね」

 

 「ありなんだ……」とガーデン側の懐が広いのか大雑把なのか分からない感想を抱いたのは二水だけではなく、チーム全体になんとも言えない空気が漂うが、吉阪の吹いたホイッスルの音で揃って現実に引き戻される。

 

「はいはい、実戦じゃ敵は待ってくれないわよ?」

 

「先生の言う通りじゃな。わしから行くぞー!」

 

「ちょっとミリアムさん? あなた今回はチーム戦って趣旨を分かって……」

 

 いの一番に駆け出したミリアムと、それを追う楓。確かにミリアムの言う通りではあると思うが、それと自分も咄嗟に動けるかは別問題で、残された二水は立ち尽くしキョロキョロと狼狽えていた。

 

「えーと、えーと……」

 

「二水さん、あの二人はそのままやらせていいわ」

 

「は、はい!」

 

「うぉぉぉっ!!」

 

 二水が日羽梨に落ち着かされている間にも、一人勢いよく飛び込み模擬ヒュージの脳天目掛けニョルニールを振り下ろすミリアムだが、その切っ先は敢えなく空を切る。

 

「むう?」

 

「はいそこ」

 

 何故そうなったかといえば模擬ヒュージが飛び跳ねて攻撃を避けたからに他ならないが、それは追い付いた楓からすれば絶好の隙になり、着地に合わせ流れるようにジョワユーズを振るい二度三度切りつけてからの突きで距離を取り、追撃のシューティングモード──

 

「は今回厳禁でしたわね。ではミリアムさん、トドメをどうぞ」

 

「お、おう。でりゃあ!」

 

 ともかくミリアムの一撃でまずは一体が規定以上のダメージにより機能停止し、早くも一体撃破となると彼女も何かを掴んだのか嬉しそうに楓の方を向く。

 

「なるほどのう、わしが作った隙をおぬしが広げ、そこを撃破! これが仲間との連携という物じゃな?」

 

「まあ、そういうことにしておいて差し上げますわ」

 

 ミリアム相手には一から十まで口で説明するより、こうして実際にやってみせた方が覚えるだろうというのは今更だ。

 何せ彼女自身がよく語る話として、小さい頃からCHARMをバラしては元通り組み立てていた。なんてネタがあるのだからと楓が肩を竦めていると、残る三体の模擬ヒュージが突出していた二人目掛けてゴム弾を撃ってくるので、ミリアムと揃って飛び退いてそれを回避。

 

「おっと」

 

「ぬわぁ!?」

 

 その際少し派手に避け過ぎてバランスを崩すミリアムが倒れないよう支えながら、楓は残る二人の方へ視線を向ける。

 

「日羽梨様、飛行型はそちらにお任せしても?」

 

「構わないわ。行くわよ二水さん!」

 

「は、はい!」

 

 二水の先を行く日羽梨は頭のリボンを軽く触って整えると、パッと手首をスナップさせてからCHARMを振るう。その際ロックか何か外れるような音が聞こえたかと思うと、日羽梨のCHARM──ティルフィングの刀身が本体を離れ宙を舞う。

 

「えぇーっ!?」

 

「射撃はしていないわ、問題ないでしょう?」

 

 ティルフィングのCHARMとしての特徴は大型故の攻撃面だけにあらず、刀身パーツが分離可能なことから合体時は大型のCHARM、分離時は小型のCHARMとしての特性を併せ持つことができるというのはあるが、そのギミックの豪快過ぎる使い方に二水が驚いているとプロトタイプ時代から同型機を愛用している汐里は何故か「その手があったか」と逆に関心している。

 ともかくリリィの膂力で以て射出されたかのような勢いで飛ぶ刀身が飛行型へ直撃すると、バランスを崩し見るからに高度を落としていた。

 

「今!」

 

「はい、てやっ!」

 

 つまりはやってみせろと、そう言われたからには二水は落ちてくる飛行型へマギを込めた跳躍で距離を詰めるとすれ違い様にグングニルを一閃、そのまま飛行型は地上まで落ちて再度浮かび上がる様子もないことから、無事撃破判定になったのだろう。

 

「や、やった!」

 

「気を抜かない。『それ』よろしく」

 

「へ? うわぁ!?」

 

 よろしくと言われても何を、と思えば空中にあったのは模擬ヒュージだけでなく日羽梨によって飛ばされたティルフィングの刀身──攻撃型故に他のCHARMと比較しても分厚いT型のそれがちょうど二水の進む先にあり、峰の側から受け止める形になる。

 

「さてと」

 

 それを見届ける間に楓とミリアムも残る二体の内片方へ先程と同じようにミリアムが仕掛け楓が崩しているのなら、残りの一体は日羽梨が対応するべきだろうと、模擬ヒュージが彼女の方を向こうとした瞬間には懐に飛び込み、ショートブレードを横一閃。

 

「やぁぁぁぁっ!」

 

 そのまま大振りに振り回し、勢いを付け逆袈裟に切り上げる。流石に分離状態では撃破判定には至らないが、崩れたならそれで十分。

 

「二水さん!」

「ミリアムさん!」

 

「はい!」

「おう!」

 

 それぞれ組んでいた相手に呼ばれ、その意味は言われずとも分かると二水とミリアムが左右から挟み込むように追撃を掛け、これにて楓が撃破し腰掛けているのを含めて四体全てが機能停止。

 

「いや、おぬしはなーにくつろいどるんじゃ」

 

「あら、もう終わったのだからよろしいじゃないですの」

 

「よろしくはないでしょう、ヌーベルさん? グロピウスさん、各機のチェックと再起動をお願いするわね」

 

 吉阪からの要請に「あい分かった」とアーセナルとしての腕前を見せようとやる気なミリアムと対照的に、叱られた楓はご機嫌斜めに模擬ヒュージから降りる。

 

「ふぅ、あの先生担任なのにわたくしにばかり厳しくありません?」

 

「おぬしの素行の問題じゃろうが……」

 

 いくら成績だけは良くともそれ以外に問題ありなら、教師としてその点はしっかりと注意するのは当たり前だろう。なんて正論で済むならお嬢様はいらないとばかりにミリアムからのそれも気にせず横を通りすぎると、楓は当然の如く梨璃の方へ。

 

「わたくしの華麗な活躍、見てくださいましたか梨璃さぁーーーん!」

 

「わわっ!?」

 

「即興にしては及第点、ってところかしらね」

 

 梨璃に抱き付きながらの自慢も、日羽梨としては自分と編入試験トップの楓がいるのならこんなものだろうと騒ぐ程でもないという風だが、梨璃さんパワー充電中な楓のまるで聞いていない様子にやれやれと首を振ると、そのまま近くの二水へ向き直る。

 

「あ、あのっ、ひばっ……」

 

「お疲れ様二水さん、悪くなかったわよ」

 

 一見素っ気ないかもしれないが、毒舌家と知られる日羽梨の口から出たのだとすればそれは結構な誉め言葉であると自身の知識と照らし合わせ、感激なのか恐縮なのかで二水の頭が無事機能停止したところへ、模擬ヒュージのチェックを終えたミリアムが通りがかった。

 

「二水、わしらの番は終わったというにこんなところで突っ立って何しとるんじゃ?」

 

「はぁー…………………………………」

 

「ダメじゃこりゃ。ともかく先生、全機問題なく使えるぞい」

 

「そう、なら次はそっちのチームね。準備をして頂戴」

 

 吉阪が向こうへ告げるのを聞きながら、動かぬなら仕方ないと二水を背中側から押してミリアムも見学側に回り、次は茜チームの番となる。

 

「あぅ、いざ皆の見た後だと緊張するなぁ……」

 

「心配なさらずとも、梨璃さんにはこのわたくしが付い「おぬしもこっちじゃぞー」ああん、梨璃さ~ん」

 

 グイグイ物理的に絡んで来る楓も容赦など一切ないミリアムによって梨璃から剥がされ、ズリズリと引き摺られていくのを梨璃が眺めていると、CHARMを持って隣に立つ汐里の様子が目に入る。

 

「あれ、汐里さんその手どうしたんです?」

 

 彼女や同じチームになった月詩が『円環の御手』をレアスキルに持つのは梨璃も知っていたし、左右の違いこそあれどCHARMの構成も二人してティルフィングにシャルルマーニュ──グランギニョル社の機体だと楓が以前雪華が壊したそれを持っていた際に解説していた防御型CHARMと似通っているが、一番の違いを挙げるなら汐里は左手のシャルルマーニュを幾重にも施したテーピングにより完全に手へ固定していた。そのことを聞かれると、返事は存外すぐに。

 

「昔ちょっとあって、あたしの左手は感覚がほとんどないんです。だからこうやって何かで補助しないと、CHARMもしっかり持てなくて」

 

「ちょっと……?」

 

 前はテーピングでなく手甲タイプのバトルクロスを試していた。と続けられても軽い怪我程度で手の感覚を失うなんてこともないのだろうが、汐里本人がそこまで空気を重くしたくないのもなんとなく伝わったので、梨璃もそれ以上深くは聞かなかった。

 

「おーい二人ともー、多分そろそろ始まるよー?」

 

「あっ、はーい!」

 

 話していた二人より少し前に茜と立っていた月詩にブンブンと手を振りながら呼ばれ、四人揃ったところで見計らったようにホイッスルの音が。

 

「とっつげき~!!」

 

「い、行きます!」

 

 今回、趣味での繋がりとはいえお互い勝手が分かっているだろうと梨璃は月詩と組むように言われていたが、その後ろを駆けていて気になったことがひとつ。

 

(やっぱり、最初の一機がやられるまで撃ってこない?)

 

 向こう側でも同じように汐里が先行し茜が続く形になっているが、前衛の二人と対面する地上用はともかく、空中で今のところやることのない飛行型や後ろのもう一機まで攻撃準備に入る気配もない。コントロール自体は吉阪が担当しているのなら、恐らく狙ってのこと。となると先程の展開から──

 

「月詩さん、上から来る!」

 

「へ? おおっと!」

 

 最初に接敵した一機を月詩が防御用とされるシャルルマーニュをも攻撃に回す二刀流で瞬く間に仕留めた瞬間を狙った上空の飛行型からの射撃、それは梨璃が事前に警告したことにより月詩が横っ跳びに避け、グラウンドに突き刺さるのみに終わる。

 向こうも茜が汐里と後方に残る模擬ヒュージとの間に割り込み、愛機の『ブルンツヴィーク』に纏わせたマギで弾を弾いていたことから梨璃と同じように判断していたようで、横目でこちらをチラリと見て称賛の言葉を。

 

「よく見ていたわね梨璃さん」

 

「えっと、さっきも楓さんたちが一機倒した途端に攻撃が始まっていたので、そういう風になってるのかなと!」

 

 これは訓練だ。リリィ側が射撃を禁じられているように他の条件も同じように整えられているはずで、梨璃がそこに気付けたのも先に行われたそれがあってこそだろう。

 

「やっぱり梨璃ちゃんも十分凄いじゃん! このままお願い」

 

「このまま?」

 

 月詩からの言葉の意味はよく分からないが、何故か彼女は左手に持つシャルルマーニュの側面を梨璃に向けている。

 

「乗って、飛ばすから!」

 

「……な、なるほど!」

 

 多分ゲームの連携技か何かの真似なのだろう、ともかく信じて飛び乗ろうとすると、梨璃の両足が踏み締めるのはCHARMではなく淡く輝くマギの光の膜。

 

「え、これって完全防御結界って「いっけーーー! 梨璃ちゃんロケットだぁ~!」うわぁ!?」

 

 『完全防御結界』──嘘か誠かヒュージの攻撃どころかリリィが振るうCHARMの一撃であろうと難なく受け止めるとされる、シャルルマーニュより展開されるそれに乗せられ空高く打ち出された梨璃は、少し高い位置にいる飛行型の模擬ヒュージを確かめるとグングニルを大上段に構え、下を潜り抜ける瞬間に思い切り振り下ろした。

 

「や、やぁぁぁぁっ!!」

 

 そのまま地上への落下に移る梨璃にはちゃんとした結果こそ分からないが、グングニル越しの手応えは確かにあったし見上げている月詩もはしゃいでいることから、問題なく一撃で撃破判定にはなったのだろう。

 

「よっし、こっちもこのまま終わらせるよー!!」

 

「ふふ、月詩さんも中々思い切ったことしますね」

 

「そうね、それがあの子の強みだもの」

 

 言葉を交わしながらも地上の三人は円環の御手の二人をトップに後詰めを茜が勤める形となり、残る一機へ同時攻撃を──

 

「とぉりゃあ!!」

「たあぁっ!!」

 

 掛けたのはよかったのだが、二人の使うCHARMは共にティルフィングのこれまた同じくT型であり、分厚いそれをリリィとして力の限り振るうのだから、刃にカバーをしていようとそれは鈍器として相当な威力になる、それが二人分。

 

「あ」

 

 だから危なっかしくも怪我なく着地した梨璃の見た光景が、二人のティルフィングにより見事に粉砕された模擬ヒュージというのは、ある意味では必然であったのかもしれない。

 

「お、おぬしら何しとるんじゃあ!?」

 

「「ご、ごめんなさーーーい!!」」

 

 ミリアムの絶叫に全力で謝る下手人二人と、別の班で今回の試合を眺めていた汐里のシュッツエンゲル──谷口(たにぐち)(ひじり)が吉阪に頭を下げている光景が、この一件のなんとも言えない幕引きとなった。

 

◆◆◆

 

「……ってことがさっきあってさぁ」

 

「アハハハ! いやー急にぐろっぴたちが慌てて工廠科になんかの残骸運んで来たと思ったら」

 

「笑い事ではないぞい、壊した二人が修理を手伝うだけで済んだからよかったものを」

 

 そんな訓練のあんまりなオチに爆笑する百由と未だ頭を抱えるミリアムちゃんと、それを眺める私。訓練終わりに百由の工房に行くとちょうどミリアムちゃんもいたしで、先程の訓練のよく分からんまま終わった流れを話してこうなった訳だけど。

 その時工房の自動ドアの開く音がして、入ってくるのはそろそろ見慣れてきたオッドアイの彼女。

 

「失礼いたします」

 

「あら神琳ちゃん、引き渡し先ならもうここにいるわよ?」

 

「ん……百由って後輩のことちゃん付けするタイプだっけ?」

 

 むしろ遠慮なく呼び捨てしてそうなイメージが強いが、真面目な場面だとさん付けくらいはしてたかと記憶を探っていると、百由自身の反応もまたなんとも言えない。

 

「あれ、わたし今ちゃん付けしてました? どうにも誰をどう呼んでたか時々曖昧になるのよねー」

 

「えぇ……研究に脳のリソース使いすぎて、日常生活にすら支障出てるんじゃないのそれ」

 

「まあ、起きたら作業中の寝落ちでしたなんてしょっちゅうですしー?」

 

 何故か自慢気だけど誰も誉めちゃいないし、今は百由のことはどうでもいい。ともかく軌道修正だと話を戻す前に、勝手知ったると言わんばかりなミリアムちゃんがそこら辺のCHARMの中から目当てのそれを取ってくると、神琳さんの元へ。

 

「ほれ、さっきも軽く見ておいたが特に問題はなかろう」

 

「あら、ありがとうございますミリアムさん。では雪華様」

 

「ん、わざわざ悪いね」

 

「いえ、こちらの都合ですから」

 

 という訳で無事貸していたアステリオンも返って来たので、残るグングニル・カービンたちはこのままここに置いといて百由に預けるとしよう。

 

「セッティングはいつも通りで?」

 

「少し連射間隔短めで、そういう使い方ばっかりになりそうだし」

 

「りょうかーい」

 

 伝えることは伝えたと雑多に置かれた修理待ちなCHARMの中にグングニル・カービンをふたつ混ぜるとそこにもうひとつ、神琳さんのマソレリックも加わる。

 

「あれ、そっちもメンテ?」

 

「はい、ちょうどいいタイミングでしたので」

 

 何だかんだ言ってCHARMとは最新技術の塊、立派に精密機器なのだから主に使うブレード部分、射撃機構、変形機構の他に色々と定期的なメンテナンスは欠かせない物だらけだし、それ故にアーセナルという存在がいるのだから任せておかないとね……しょっちゅうCHARMを壊すお前が言うな? はい。

 なんてのはともかく横に並んだ神琳さんの目は、私が手に提げる購買のビニール袋──猫缶やら猫用のおやつの入っているそれに向いていた。

 

「あら、雪華様もあの噂にご興味が?」

 

「ま、珍しいっちゃ珍しいからね、たまに覗くくらいはしてるよ。神琳さんも好きなの?」

 

「というよりは鶴紗目当てで、じゃろうな」

 

 ん、何故にそこで鶴紗ちゃんの名前が? そりゃあ神琳さんもクラスメイト同士ではあるだろうけど。

 

「どういうこと?」

 

「たまに一年の入浴時間に入ると、神琳が鶴紗に構いすぎては反撃されておる姿が見えるのじゃ」

 

 反撃て。などと色々ツッコミどころはあるが、一番はそのいきさつが無遠慮に構っては頭突きされたり、グイグイ行っては鬱陶しがられて顔にボディソープをプッシュされたりと、なんというか小さい子供がじゃれているだけだなぁとなる内容をやっているのが、パッと見知的で大人しそうな神琳さんである、というのがなんとも。

 

「なので、鶴紗さんのお好きだという猫さんを愛でている最中であれば、わたくしもそう邪険に扱われないと思いまして」

 

「いや、そもそもやり方が間違ってるんじゃない?」

 

 流れてくる噂話を聞くに神琳さんも大概“お嬢様”な育ちではあるのだろうが、これはそれ故の常識外れな言動なのか、お近づきの印をミスって躍起になっているだけなのか。てかそこの好み情報は……二水ちゃんか、多分。

 

「はは、何事も程々にね。じゃあそういう訳だから」

 

「ええ、鶴紗さんにお会いしたらよろしくお願いいたします」

 

 何をよろしくしろと言うのか。とはいえこれ以上長居しても陽が落ちるだけだと、百由の工房を出ると近くのエレベーターへ乗り、地上へ向かう。

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