アサルトリリィ~円環の赫星~   作:ですティニー

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前回のあらすじ:食べたりと出くわしたりと爆撃されたりと目撃されたり。
多分最後まですれ違う翼。してないと・J・が可哀想な人になるから、そのための答えはこれや!


計算違いのフェスティバルって話

「……大丈夫かしら」

 

 半数以上が外出中で、一柳隊で残っているメンバーの中で唯一の上級生となってしまった夢結であるが、その心はここにあらずといった有り様だった。具体的には、少し進む度に梨璃のことを気にしているように立ち止まる程に。

 

「そんなに心配なら、二水たちだけじゃなくて先輩たちにも楓のこと言えばよかったのに」

 

「ふふ、梅様たちは休暇中ですから。この前楓さんにああ言った手前、素直には頼りにくいのでしょう」

 

 巡回の先頭がそんな有り様では鶴紗も色々と言いたくはなるが、神琳の解説がそのものズバリそうな夢結の雰囲気に、「あぁ……」と納得するしかない。

 

 ──そもそも、何故こうなっているかというと夢結が今月の休暇を月末の予定と合わせキッチリ使い切っていたからで、自分と梨璃の分を半日確保してお祭りへ向かった、楓のスケジュール管理に出し抜かれた形になる。

 故にせめてもの抵抗として、多少休暇を余らせていた二水やミリアムを監視役として同行するよう頼んで(威圧して)いたのだが、同じく余っていた楓と同室の結梨は検査で今日も待機……のはずが、もう結果が出たようで、CHARMを片手にこちらへ駆けてくる姿が見えた。

 

「もう終わったの……?」

 

「うん、だから手伝いにきた!」

 

 特に誰に止められたでもないなら、わざわざ結果を確認する必要はないだろうが、軽く言葉を交わした後雨嘉の横を抜けた結梨は夢結の元へ。

 

「……夢結?」

 

「いえ、なんでもないわ。なんでも」

 

 となれば様子のおかしい夢結を見て首を傾げることになるが、末妹に心配はかけまいと強がってしまうのは、立場故の意地なのかどうか。

 

「この時間なら、急げはお祭りには間に合うかもね」

 

「お祭り?」

 

 そこで「見ちゃいられない」とでも言いたげな態度で鶴紗が話題を振れば、結梨が食い付いたのを見て後ろから援護射撃が。

 

「そうですね、夏らしく屋台で色々と食べ歩き。なんていうのもいいかもしれません」

 

「えと、最後に花火もある、って二水が言ってたよ」

 

「屋台……? 花火……?」

 

 単語単語の意味は分からずとも、神琳と雨嘉がどこか楽しそうに語るのを受けて結梨が繰り返しているのを見れば、誘導完了だと鶴紗へ目配せを。

 

「まだ結梨を一人で外になんて出せませんし、引率は必要ですよね。夢結様?」

 

「え、ええ……けれど」

 

「先日、二水さんが訓練上がりの足で東京の紅巴さんを訪ねたと聞きます。それならば、県外に出ない分こちらの方も問題ないかと」

 

 勿論、報告の都合もありレギオン全員でとは流石にいかないだろうが、巡回任務ならよほどのことがなければ司令塔の片割れな神琳と数人いれば十分だろう。だから、鶴紗や雨嘉もこうして同じ方向へ話を運んでくれている。

 

「……分かったわ。でも、そのためには」

 

「あ、ヒュージ!」

 

「まあ、だからこそ警戒にって話だしね」

 

 百合ヶ丘の近場では珍しい、四足獣型のファング種。その目撃情報があったが故にこうして出ている訳で、当然見付けた以上撃破は必須。

 

「では、お互いに数も少ないことですし細かい戦術は抜きで、わたくしと雨嘉さんで支援します。みなさんは突撃を」

 

「了解したわ。行きましょう!」

 

「…………」

 

 周りを理由にすれば、さっきまで悩んでいたのがまるで嘘のよう。まだ自分のためには積極的に動けない夢結を面倒くさいと言うべきか、誰かのためになら動けるのをリリィとしての美徳と言うべきか……

 どちらにせよ、今鶴紗のやるべきことは二人を送り出すため、手早くヒュージを片付けるだけだと、ティルフィングを握る手にいつも以上に力を込める。

 

◆◆◆

 

「いや、流石に射的で委員長スタイルは無理でしょ」

 

 自分の番が来たからと二回分の代金を払って、コルク銃をダラリと二挺持ちしてはみても、それで両手が塞がってたらそもそも弾を詰める段階に入れないし、一々どっちか置いてやるのも手間だしであくまで開幕のパフォーマンスだと、片方はあやちゃんに向けて放る。

 

「っとと。で、何欲しいの?」

 

「いや、好きなの撃っていいよ?」

 

 そもそも特に何が欲しいでもなく、ただ雰囲気を味わいたくて並んだんだから、とりあえず適当な箱を狙って一射。命中はするけど──

 

「む、浅いか」

 

「おぉー、流石に本職は違うねぇ」

 

 お店のおじさんには腰のCHARMを見てるからか茶化されるけど、多分重りで調整してるから、この感じじゃ手持ちの弾半分使ってようやく落ちるくらいなんだろうなと雰囲気で察していると、隣のあやちゃんは普通に外しているのにユウちゃんに呆れられていた。

 

「いや、この距離は当てないとダメでしょ」

 

「えー、普段はバスター薙ぎ払い専門なアタシになにを」

 

 なんか前に私も似たようなこと言った記憶はあるけど、あれは長距離の話であってこの程度の距離ならむしろ大得意なんで、あやちゃんとは違うんだよ。とは言っておく。

 

「じゃあそこまで言うんなら、ユウがやってみてよ。はい弾」

 

「まったく……それっ!」

 

 そして狙うのはいかにもすぐ落とせそうなカードゲームのパック、まあ小さいなりに無難なとこよね。

 

「はい。この前同じの買ってたよね?」

 

「お、サンキュー。少しは気が利くようになってきたじゃーん?」

 

 照れ隠しなのかあやちゃんが肘鉄食らってるのを横目に、こっちは二発三発と連続で目標に当てて……よし。

 

「おっと、四発で取られるとはなぁ」

 

「これでも最終学年ですから、場数だけは踏んでますよっと」

 

 落としたのはプラモデルだけど、まあ別に珍しいやつでも……いや、1/144とはいえかなり古い型って意味では、結構なレアもんか?

 

「やれやれ、覚えのある顔がいると思ったら、随分とはしゃいでおられますのね?」

 

「ん?」

 

 そういやさっきから梅が静かだなと思っていたら、見覚えのある顔を見付けて連れて来てたようで、相変わらずツンツンした声が耳朶を打つ。

 

◆◆◆

 

 あれからとりあえず二人で残弾を撃ち切って、そこそこな戦果を抱えて射的の屋台から離れれば、改めて梅の連れてきた『双子』と向き合う。

 

「一応今月ぶりかな、そっちも息抜きに?」

 

「見ての通りですわ。燈を撒くのに、少し手間取りましたが」

 

「最後は一年生の集まりに呼び出させる、なんて手も使っていたものね」

 

 なるほど、この前聞いた『お茶会』メンバーだっけか、変態オッドアイの彼女も。

 ということで、船田姉妹がお揃いな浴衣姿でわざわざ東京から来ていたんだけど、梅と接点は……あるか?

 

「で、そっちが噂のカレーの人?」

 

「あら、あなたもご所望ならおひとついかがかしら?」

 

 なんでインスタントなのだろうそれが、そこら辺の露店でも当たり前のように売ってるのかはともかく、激辛なんてわざわざ銘打たれてるのは流石にノーサンキューだと、あやちゃんも反射的に首をブンブン振ってるのに、そんな反応を受けてるにしてはやけに機嫌がいいな純?

 

「てか、梅はなんでまたこの二人を」

 

「んー、船田姉妹っていったら蛍んとこのレギオンの隊長さんたちだろ。そんな相手を見ちゃったら、ナ?」

 

 はいはい、迎撃戦の戦友んとこってことね。いや、にしたって迎撃戦の話をされたら純は……あれ、代わらず上機嫌だな? 初対面の時の反応は楪が言ってたから、ってのもあるのだろうか。

 

「ふふっ、流石の純も仲間の戦友を袖にするような性格はしていませんわ」

 

 まあ迎撃戦の戦友ってことは、命を預け預けられた仲だ。自分たちがガーデンを離れていた最中の大事件に仲間を救ってくれた相手にまで、そこまでつんけんはしないと。そう語る初も初でお祭りの空気に当てられてか、機嫌は全体的に良さそうだ。

 

「……彩文」

 

「あーはいはい。雪華姉ー、アタシたちは適当に回ってくるから、後はセンパイがたでごゆっくりー」

 

 なんて言うと、あやちゃんはユウちゃんの手を引いて人の間を抜けていく。ふむ、気を遣わせたかな? 私たちにじゃなくて、あの子に。

 

「……今のが例の一年生ですの?」

 

「多分ね、ウチの従姉妹の同室ちゃん。なんて一人だけだし」

 

 そしてまあ、ユウちゃんの露骨な『人を避ける動き』に、あの連絡網の中で話を聞いている純としては、名前を知らずともどういう立場かは察せられるというか。

 

 それはそうと、これで梅以外全員CHARMを持ってる組になるけど、純と初は傘でも手提げ袋に入れて持ち運ぶ風に、それぞれ普段とは違う機体を携えている。

 機種は、初の方は私と同じでグングニル・カービン、まあ東京こそ一番の配備先だしなぁ。そして純の方は、ダインスレイフのマークスマン型か? なんとも珍しいものを。私もまだ使ったことないってのに、あのギコギコ。

 

◆◆◆

 

「……予定では、後2エリアね」

 

 日が暮れだした、ということは時期的にもうかなり時間が経っているのだろうが、これまでに親玉らしき個体を発見していないことから、まだ気は抜けないと夢結は地図をしまい、ブリューナクを握り直す。

 

「向こうもそろそろ賑わう時間でしょうか?」

 

「梨璃、昔は迷子センターのヌシだなんて呼ばれてたみたいだし、大丈夫かな……?」

 

 何気ない神琳の呟きに、二水たちも人波に揉まれながらでは楓を抑え切れないだろうなとイメージできてしまう以上、振り回されている最中にはぐれてしまう。なんてことは故意か不注意かで起きかねないだろうから、雨嘉は不安気だ。

 

「ヌシって?」

 

 そこで馴染みのない言葉が聞こえたと、結梨が振り向いてくるなら、少しだけ考えて鶴紗は返す。

 

「ボスとか親分とか、そういう使われ方になるかな」

 

「じゃあ梨璃は、一柳隊のヌシ?」

 

 意味としては間違っていないのだろうが、言い回しにおいては色々と変になるのだから、鶴紗がどう伝えたものかと悩んでいると、夢結が何者かの放ったレーザーをブリューナクで防いでいるのが見えた。

 

「夢結様!」

 

「平気よ。それよりもこの個体……」

 

 八体程のスモール級を伴った、それらより一回りも二回りも大きな同型のヒュージ。いかにもなボスのお出ましかとリリィたちがそれぞれ身構える中、少し気の抜けた声がする。

 

「つまり、あれもヌシ?」

 

「まあ、そうなるけど」

 

 結梨に中央のヒュージを指差しながら確認されれば、今度も否定は出来ない鶴紗だが、神琳にどう動くべきか……確かめる前に、夢結が飛び掛かってきたスモール級を一体斬り捨てていた。

 

「悪いけれど、今のわたしは容赦ないわよ……消えなさいっ!」

 

 そう告げる間にも二体を立て続けに縦に横にと引き裂くのだから、どうにもシルトと引き裂かれたストレスが限界を迎えていたようだとは、見ていれば分かる。

 

「……それでも、援護は必要だよね」

 

「ええ。他の地区を担当していたレギオンからは空振りだったと報告が上がっているようなので、こちらが本命だったようです」

 

 ならば後は簡単だ。もう前衛になる六体を片付け、ボス個体とその側近へ向かう夢結を少しでも早く送り出すために、四人も左右に分かれ取り巻きのヒュージを引き剥がそうと動き出す。

 

◆◆◆

 

「よかったの?」

 

「んー、何が?」

 

 雪華たちから離れ、目についたいちご飴を買って手渡していると、「人に疲れた」なんて言いながら引っ込んだユウと入れ替わっていた『神薙』からの問い掛けに、彩文は首を傾げる。

 

「その、お姉さんと別々になっちゃって。もし、わたしたちに気を遣わせちゃったんなら……」

 

「あー、理由なら大体さっき言った通りだよ? 知り合いの知り合いって一番距離感困るしー、それなら二人と一緒のが気楽じゃん?」

 

 加えて、多分その内気付かれそうな雪華はともかく、他の先輩たちに神薙とユウのことを一から説明するのが面倒だったというのもあるが、そこは完全に自分の問題だから話す必要はない。

 

「ま、そういうことだから二人もお祭りは初めてでしょ? アタシたちが日本のワビサビを教えてしんぜよ~」

 

「……『たち』?」

 

 はて、彩文も自分たちと同じ特殊な事情があったかと、今度は神薙が首を傾げていたら、スッと伸びた彩文の手は誰かを捕まえていた。

 

「う、うひゃあっ!?」

 

「二水ちゃんゲットーっと」

 

 ご丁寧に浴衣どころか頭の横のお面まで先日と同じなのだ、人波の隙間からチラリと見えただけでも彩文には十分。故にいきなり腕を掴まれて驚く彼女には悪いが、少し付き合ってもらうことにする。

 

「ヤッホー、ということでよろしく♪」

 

「ど、どういうことなんですか……?」

 

 この間の仕返し─にしては最終的に自分から飛び込んでいたが─のように、巻き込んだまま説明もせず役割を押し付ける彩文に二水も言葉に困るが、隣で申し訳なさそうにしている神薙に気付くと、一定の理解は得た。

 

「……な、なるほど」

 

「ごめんね、彩文が強引に」

 

 一応、ソウルメイトな紅巴から彩文の同室相手がクラスメイトだー、くらいは聞いている二水だが、雪華や『連絡網』の面々程、彼女たちの直接的な事情は知らない。

 けれどリリィオタクのネットワーク上には、神庭はゲヘナ周りの争いにおいて中立の立場故に、訳ありの強化リリィ出の生徒はそこそこいるとの情報があるのだから、過剰に遠慮している様子もあって、神薙がその一人だとは察せられる。

 

「いえ、そういうことならばお任せください! 不肖二川二水、お祭りの楽しみ方というのでしたら……あれ?」

 

 さて、そもそも自分は何故夢結に任された楓の監視という役目を放り投げて、こんなところにいるのか?

 ということを思い出してはみても、今更『有名人を探しているのでまた後程』などと言えるはずもなく、何よりその船田姉妹(有名人)から逃げて来たようなのがこちらの二人なのだから、仮に言えたところで無駄骨なのだが。

 

「何をやっとるんじゃ二水……」

 

 なお、そんな彼女を呆れて眺めるミリアムも、甘いものの屋台が集まっている辺りに誘導され楓と梨璃を二人きりにしてしまっているので、客観的には同じくやらかしている側な模様。

 

◆◆◆

 

「…………まあ、いいでしょう」

 

「ん?」

 

 少し人混みから離れて話していた途中、急に純が他所を見ていたと思ったら、何故か懐から暗器か何かのように取り出していた簪を何もせずしまうと、無言でギラついていた空気も納めている。

 

「今度も低俗なパパラッチのような真似をするようならともかく、友人同士お祭りを楽しもうというのなら、わたくしが首を突っ込む必要もないですわ」

 

 パパラッチ……そう言われて該当するのは大体一人(二川二水)だけど、まあ過去にやらかした案件のひとつなんだろうし、わざわざ突っつく必要もないかと話題を変えようか。

 

「ああそうだ。来月にはレギオンで御台場行くかもだから、時間が合えばよろしくね」

 

「ああ、確かアールヴヘイムやエレンスゲ絡みでしたか? また酔狂なことで」

 

 酔狂。どうにも近頃の依奈の様子からして何かしら企んでそうではあるから、それに手を貸すなんて。という意味だろうか?

 あるいは、いくらトップレギオンと同盟を結んだとはいえ、敵対勢力なエレンスゲにむざむざ足を運ぶ予定なことか……どちらにせよ、そう言われたら事実でしかないんだけども。

 

「ま、一応姉さんたちにも話は通してるから、目は光らせといてくれるでしょ」

 

「例の連絡網といい、もうゲヘナとどちらが悪の秘密結社だか分かりませんわね」

 

 そこも、正直あんまり否定は出来ないから困る。とはいえあくまでも烏丸はゲヘナ相手にのみその力を振るっているのだから、欲望のまま無差別に世界をめちゃくちゃにしているゲヘナよりは、大分理性的だと思ってもらうしかないとして。

 

「ん、あれミリアムか?」

 

「おう、やっぱり梅様たちもここじゃったか」

 

 呼ばれて寄ってくる浴衣姿のミリアムちゃんは、なんか甘そうな物を手当たり次第に買いました。なんて溢れんばかりに抱えてる有り様で、普段はなっがいツインテールにしている髪も、左側に垂らすでっかい三つ編みにしていた。

 

「んむ? そっちの二人は確か……」

 

「ミリアム──ああ、あの百由のシルト、だったかしら?」

 

 ここの縁は逆にシンプルというか、お姉様(百由)が純たちロネスネスへレギオン単位でCHARMを提供したという、シルトになる前からのお手伝いさんなミリアムちゃんとしても、他人事ではない話。

 

「おう、ミリアム・ヒルデガルド・v・グロピウスじゃ。して、百由様のCHARMの調子はどうなのかのう?」

 

「流石は〈聖学工房の魔術師〉真島百由の作品、と言わせてもらいますわ。ふふ、シルトというのならあなたも関わっていたのでしょう? お礼を言わせていただいても?」

 

 まあ、当時からミリアムちゃんと百由は事実婚みたいな状態ではあったし、時期的には仕上げ程度にせよ多少なり調整に携わってはいたんだろうから、初のお礼も的外れではないだろう。

 なんかアールヴヘイムが新潟に行く前も、百由に夜通し付き合って翌朝そっちの工房で床に突っ伏してたのが発見されたらしいし。

 

◆◆◆

 

 ともあれお祭りの通りに戻れば人も増え、少し混みだしてきたしで、あんまり大人数で固まるのもあれだからと船田姉妹と別れれば、今更にミリアムちゃんへ確認を。

 

「で、ウチは従姉妹の子とその同室な子が一緒だったけど、そっちは百由とでも来てたの?」

 

「んむ? いや、梨璃と楓、二水との四人でじゃが……あっ」

 

 まあ、メンツとしては年度始めからのいつものな組み合わせだけど、途中で何かハッとした感じになるのはなんなのか。

 

「どうせアレだろ? 楓が梨璃にヘンなことしないようにーって夢結から言われてたのに、監視も忘れてお祭りを楽しんでたとか」

 

「うっ、うぐぐ……違うのじゃ、これは楓の罠なのじゃ……わしの好みのものばかり持ってきおって……」

 

 とりあえず梅にあっさりとバレたのが理由として、ミリアムちゃんの懺悔は面白いから聞いていよう。

 

「そもそも! 二水にもあの船田姉妹がおるなどと……嘘ではなかったのう」

 

 さっき挨拶したところでしょうに。まあ二水ちゃんの方はそうやって釣られたんだろうけど、しっかりその場にいる相手だけをネタにしてる辺り、やっぱり楓さんって無駄に正々堂々としてるな……

 

「んで、どうすんだ? このままじゃ任務失敗って報告するしかないゾ?」

 

「ふっふっふっ、そこは抜かりないぞい梅様!」

 

 そこでミリアムちゃんは自信満々に何かよく分からない端末を取り出すけど……レーダー?

 

「発信機って、また贅沢に使うナー」

 

「これでも夢結様に頼まれたからのう、手は抜けん。梨璃の位置は……こっちじゃな、どうせ楓も一緒なら……二水、こちらミリアム、見えるか?」

 

 その端末は発信機の受信だけでなく無線も兼ねているようで、二水ちゃんは……いた。返事代わりに手を振ってきてるけど、近くに見えたしあやちゃんたちと一緒かな?

 

「で、梨璃と楓は……お、さっきの射的のとこにいるゾ?」

 

「位置的に、こっちとは逆走してる感じかなぁ?」

 

 とはいえもう既に楓さんの様子がおかしいというか、コルク銃を構えて狙いを定めながら少し口が開いちゃってる梨璃ちゃんに見とれているのか、「ぐへへ」な感じに固まっている。

 

「さて、判決は?」

 

「まだ手は出しておらんからセーフじゃろ。というより、この程度であーだこーだ言っておったら、楓の周りなんぞ年がら年中防犯ブザー鳴りっぱなしになるぞい」

 

 まあそれはそう、一応の行動としては眺めてるだけのノータッチだし、いくらでも言い訳の通るライン。

 

「ともかく、これは一年生の問題じゃからな。先輩がたはごゆるりとじゃ」

 

「じゃ、後はよろしくー」

 

「楽しむことも忘れずに、だゾ?」

 

 どうせお互いに納まる相手はちゃんといるんだ、私からしたら楓さんの行動も今更目くじらを立てるまでもないというか、一瞬この場で葵ちゃんに通報しても面白いかなーとは浮かんでも、後日告げ口でいいかってなるくらいには、役得を許していいと思っている。

 

◆◆◆

 

「あれー? 雪華姉離れちゃったよ」

 

「あはは。まあ梅様も雪華様も、ちゃんとした休暇中ですから……」

 

 そんな二人に滑り込みも滑り込みで、なおかつ主目的が監視な自分たちに付き合わせるのは忍びない。とは二水としてもミリアムと共通した感覚ではあるから、その点は特に問題はない、ないのだが……

 

「確か、そっちの隊長さんってお姉様がいるって話じゃあ……?」

 

「あーはい。なんなら楓さんの方も、中学時代からそういういい感じのお相手がいるんですけど……こういう人なんです」

 

 神薙が引きながらに確認してくるように、ヤケクソ気味に景品を獲得した楓が梨璃に交代し、当て方のレクチャーでもしようと密着してのボディタッチをやっていたのが、次第に手取り足取りで済まなくなってきたのは、タイミングが悪すぎた。

 ともあれどこか諦めたような説明の後駆け出そうとした二水だが、小柄な彼女では花火の時間も近くなり密度の増えた人波にいきなり飛び込むのは、少しどころでなく無茶だったようで、即座に流れに呑まれてしまう。

 

「ちょ、ちょっと通してくださ……わぷっ!?」

 

「「お、溺れてる……」」

 

 人に流される二水を見て、同室コンビがどうしたものかとなっている間も、楓の指は姿勢を整えるために添えていた梨璃の背中から、わざわざ見えるように髪型を変えさせていたうなじへと、這うように進んでいく。

 

「ひゃぅん、くすぐったいよう~」

 

「うふふ、ですがこれでよく狙えるでしょう?」

 

 事実それはその場しのぎの適当な嘘ではなく、慣れないコルク銃での射撃も段々と思った通りの的に当てられるくらいには、梨璃の狙いも安定してはいた。

 

『お、おい二水、応答せんか二水!』

 

「隊長、二川准尉は名誉の負傷を遂げました。残念ですが……」

 

『お、おう。そのノリ、おぬしが雪華様の従姉妹、でいいのか?』

 

 なんか二水が置いてったからと無線には彩文が代わりに出れば、フィーリングだけ過ぎる返しにこっちが雪華の身内かとミリアムも当たりを付ける。

 

「そーゆーコト。とりあえずあの変態さん止めたんでいいの?」

 

『そうじゃな、流石にライン越えは見過ごせぬ、突入じゃー!』

 

 とはいえこのまま特攻しても二水の二の舞だと、彩文が悩むのは一瞬、未来は視えているはずなのだから──

 

─ファンタズム─

 

「こっち!」

 

 神薙の手を引いて、人と人の隙間を縫うように駆けながら、目を回している二水も回収。思うように進めず慌てるミリアムの方にもテレパスを送れば、合流は射的屋の前で楓と彼女に絡まれる梨璃を挟んで。

 

「あ、ありがとうございます……」

 

「た、助かったのじゃ……」

 

「……こういうことにレアスキル使ってていいのかなぁ」

 

 神薙のツッコミはごもっともだが、最速で最短を求めるのなら手抜きなどもってのほかというのが彩文の信条なのだから、使えるものはなんでも使え。で済んでしまう。

 

「うふふ。さあ梨璃さん、わたくしたちの愛のノインヴェルトで入刀を!」

 

「ふ、二人じゃノインヴェルトはできないよ~」

 

 しかしその間も、楓は意味の分からない戯言を唱えながら梨璃へグイグイと絡んで行くのだから、もうラインも何もあったものではない。

 

「19:39……現行犯逮捕なのじゃ~!」

 

◆◆◆

 

「なんか楽しそうだけど、いいのか?」

 

「ん? 別に。帰るところがはっきりしてる子は、いくら寄り道しても迷わんでしょ」

 

 一年の皆が騒がしくしているのは少し離れてても聞こえるけど、流石に周りの迷惑かなとは思っても、まだ謝れば済むラインでしょう。

 

「それよりそろそろ場所確保しときたいし、梅の方はなんか摘まめるもんでも買ってきてよ」

 

「りょーかい、向こうもまたなんかやってるしナ」

 

 なんか? と梨璃ちゃんたちの方を見れば、射的屋さんで見たようなペンギンのぬいぐるみを抱いた女の子を、楓さんが肩車していた。

 

「流石にそこら辺で拾った……とかはないだろうし迷子の子、かなぁ?」

 

「楓も梨璃さえ絡まなければマトモだからナー」

 

 まあ、気付いた以上見過ごすというのも寝覚めが悪いし、通り掛かりに誰かを探してそうな人を探すくらいはしとくべきかね?

 

◆◆◆

 

「ふう、これで間に合いそうかな」

 

 スマホで時間を確認すれば、もうそろそろ花火が始まる時間。当然『ここで見てくださいよー』という場所は最初からある程度決まっているから、今いる広場は人でごった返してはいるけど、なんとかスペースは確保している。

 

「雪華ー」

 

「ん?」

 

 そこで私を呼ぶ声があるのはいい、けどそれがここにいないはずの相手というのに、振り向こうとする前にその誰かが腰にぽすんとぶつかる。

 

「は、走ると危ないですよー」

 

「いや、どういう取り合わせよ?」

 

 状況としては二水ちゃんと梅が人数分のかき氷を手に、結梨ちゃんと夢結を案内してきた、ということだろうけど、まず後ろ二人がここにいるのは何故なのか。

 

「ほいミルク味」

 

「サンキュー。で、夢結は結梨ちゃんのワガママに付き合ってあげた感じ?」

 

「というよりは、神琳さんたちに結梨の監督役を任された形になります」

 

 早速食べながら聞いてみれば、夢結を送り出す理由にはこの子が最適だった訳だ。そのわりには梨璃ちゃんたちと一緒だった面子の内、二水ちゃんしかいないのは変な感じだけど。

 

「それはそうと、梨璃たちはどうしたんだ?」

 

「えっ? いやあ、その、迷子の子の親御さんを探してる最中に……あっ」

 

 そこで梅に聞かれた二水ちゃんが何か忘れてたことを思い出した驚き方をしていると、彼女からかき氷を受け取る結梨ちゃんに顔を覗かれる。

 

「どうした二水?」

 

「す、すみません! ミリアムさん置いて来ちゃったので、迎えに行ってきます!」

 

 なんて言いきるが早いか、自分の分のかき氷まで結梨ちゃんに押し付けて、二水ちゃんは来た道を全力で戻って行く。

 

「なーにがなんなんだか」

 

「雪華ー、食べていい?」

 

 まあ、走る間に溶けるからって置いてったんだし、後から返せってのも無理だろうけど、ふたつあるからってひとつ目を一気に掻き込もうとした結梨ちゃんは、途中で顔を痛そうに歪める羽目に。

 

「んっ、うぅ……なに、これ……?」

 

「あーもう、冷たいの一気にかっこむからぁ」

 

「アイスクリーム頭痛は、額を冷やせば症状が和らぐと聞きますが」

 

 夢結が冷静に豆知識を出してくれるならまあ、私のかき氷の器でも当てて冷やそうか。なんてことをやっていると、何かが打ち上がる音の後、夜空に花が咲いた。

 

「んー、やっぱり現地で見ると音が響くねぇ」

 

「きれい……」

 

 ドン、ドンと花火が上がるごとに身体に響くこの感じも、また醍醐味なのかなと色とりどりなそれらを見上げていると、少し遅れてあやちゃんたちもこっちを見付けてやってくる。

 

「あ、いたいたー。ってなんか人数増えてる?」

 

「結局、こっちには八人来てるのかな? ま、なんか半分いないけど」

 

◆◆◆

 

 そして、花火も終わればお祭りもお開きが近い訳で、来てすぐ花火を見ていた夢結や結梨ちゃんは、お店を何も回れてないのは少し勿体無い。

 

「なら、ここからは二手に別れるか? ふーみんも結局戻ってこないし」

 

「あ、じゃあアタシらは先にお暇しまーす。そろそろ東京戻らないとなんで」

 

 まあ、そこは県内か否かで仕方ない。どうせ荷物置いてるからウチには寄るだろうし、親へのお土産は二人に渡しといて……と。

 

「ならこっちはシュッツエンゲルで回るからさ、後はお好きに」

 

「おう。結梨は折角だし、お姉様とのデート楽しむんだゾー」

 

「うん!」

 

 そう言う梅こそ、夢結と二人きりなんだから──とは梨璃ちゃんたちを探すって部分もあるから口にはしないとして、ならお邪魔虫は去りますかと、あやちゃんたちに続いて広場を去る。

 

「さて、お祭りといえば食べ歩きだ、どれにする?」

 

「これ!」

 

 りんご飴、また結構難しいの選ぶねぇ。とはいえ見るだけでも美味しそうなのは分かるから、少し店員さんに聞いてみる。

 

「紙皿とかあります?」

 

「おっ、お客さん通ですねー」

 

 言えばどう食べるつもりなのかも伝わったようで、知り合いらしい隣のお店の人に、店じまいするなら包丁を借りていいかも聞いてくれた。

 

「なにするの?」

 

「まあ見てて。確かこうやって……っと!」

 

 そのまま齧るつもりでいた結梨ちゃんには不思議そうにされるけど、芯の辺りを避けて周りを切り落とす感じでやれば、思ったよりはいい感じになったのを包丁に乗せて紙皿に移す。

 

「これで、よし。ありがとうございました」

 

「いいっていいって」

 

 気のいい人だなとお手拭き用にウェットティッシュまで貰って、切る時にりんご飴を抑えていた手を吹いてから、紙皿を結梨ちゃんへ。

 

「おぉー」

 

「普通に食べるとベタつくからさ。本当は冷蔵庫で冷やした方がいいって聞くけど、まあこれもお祭り的ってことで」

 

 しかも隣のお店の人が余ってたからと爪楊枝までくれたし、至れり尽くせりだなぁと結梨ちゃんがシャリシャリ食べているのを眺めていると、向かい側から見覚えのある顔が。

 

「いえ、夢結様に会ったり色々あって遅くなっただけで、べ、別に忘れてたとかそういうのでは……」

 

「どーせわしは迷子の迷子のミリアムちゃんじゃよ……誰も迎えに来んのも仕方ないのじゃ」

 

 犬のお巡りさん──でなく二水ちゃんがいかにも拗ねてます。って空気のミリアムちゃんを追い掛けているのが目に入れば、こっちに気付かないままツーンとしてやってきたミリアムちゃんの口に、結梨ちゃんが爪楊枝に刺さったりんご飴を放り込む。

 

「ミリアム、これ美味しいぞー?」

 

「んむ……おう、結梨も来ておったのか」

 

 夢結が来た。という時点である程度その背景は浮かんでいたのか、ミリアムちゃんもいきなり何かを口に放り込まれた以外そこまで驚いてはいないけど、私としては先に確認しておきたいことが。

 

「で、迷子の話してたけど、楓さんの担いでた子、どうなったの?」

 

 流石に探してるのを放って楽しんでます。なんてことはないんだろうけど、広場に行く途中見掛けたお母さんらしき人に「あっちの方です」と言った手前、案内まではと遠慮がちに断られても結果は聞いておかないとモヤモヤが残る。

 

「無事見付かったらしいぞい、その間わしは迷子センターのヌシ2号にさせられたがの!」

 

「ミリアムもヌシ?」

 

 まあ、子供たちの遊び相手とかなんだろうけど、ミリアムちゃん自身もちんまいもんだから係の人に迷子扱いされたとか、そんな感じだろう。

 

「いや、ですからそれはもう楓さんと梨璃さんを二人きりにしても大丈夫かなと離れようとしたところに夢結様が……あっ」

 

「ま、そんなとこだろうとは思ってたけど」

 

 つまりは任務放棄を察せられない内に、夢結を遠ざけたかったと。ともかく言い訳の結果自爆した二水ちゃんも、私同様なんだかんだ楓さんのことは信じてたってことで。

 そうして、終わりかけなお祭りを四人で巡りながら、夏の夜は過ぎていく──




新衣装
解放

黒紅雪華/星花の浴衣
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