アサルトリリィ~円環の赫星~   作:ですティニー

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前回のあらすじ:祭りとTFG仕様双子と迷子の迷子のミリアムちゃんと。
こっち側は戦闘ないなら装備を趣味で選んでもいいと思った。などと供述しており…そんなこんなでやり残しのメモリアストーリー的リザルトを終えたら、ようやく雪華も海行きですってよ奥さん。

なお、水着のイメージは某スクワッドで一人だけ初回未実装だった彼女がベースっす。


スタートアワーバカンス!って話

 もう9時も過ぎたことだし後輩たちも大体百合ヶ丘に戻ったから、私は着替えや荷物を取りに家に帰る訳だけど、当然梅もこっちに色々置いてるから、最後まで一緒だ。

 

「ただいまー」

 

 この時間だとお店の方はもう閉めてるし、裏口に回ってから二階に上がるけど、リビングにいたのは父さん一人。グラスも出してるし、あやちゃんたちに任せてたお土産を夜食に摘まんでいるんだろう。

 

「やあお帰り雪華、戻るのは今夜中だったかな?」

 

「ん? まあ別に明日朝一でもいいと言えばいいけど、母さんはお風呂?」

 

 父さんはもうパジャマだし、時間的にそんな感じだろう。というか話してたら、後ろから足音するし。

 

「どうせ雪華は最後でしょ? 梅ちゃん先入っていいからねー」

 

「はーい。んじゃ、そういうことだからお先だゾー」

 

 そのまま母さんは自分の部屋に戻るし、梅は入れ違いにお風呂へ……となると、父さんと一対一の状況を作られてるような感覚。まあ、丁度いいと言えばいいんだけども。

 

「で、どれ残せばいい?」

 

「ん? ああ。一本ずつは食べたから、いるだけ食べていいよ」

 

 私がお土産だって渡してたのは、お祭りで買っておいた焼き鳥。とりあえず残ってた種類から二本ずつ選んだから、適当にねぎまでいいかな。

 

「……まあ、母さんには話したことだけどさ」

 

 そのまま対面の椅子に座りながら、あんまり逃げても仕方ないしで、話は私の方から切り出す。

 

「多分、というか今更だろうけど、あれくらいの無茶はあたしがリリィでいる内は、辞められないし止められない。あたしたちの選んだリリィって生き方って、そういうもんだろうから」

 

「僕は、いつも待ってる側だったよ」

 

 手元の空き缶を見るに、チューハイと氷の入ったグラスをカランと鳴らしての、父さんの話はそんな切り出し方。

 

「妹たちがリリィになったんだから、せめてあの子たちの力になりたいとCHARMメーカーに入って、そこで出会った華も、やっぱりそういう無茶をする子だった」

 

「……なんとなく、イメージは出来るかな」

 

 雪おばさんも軍を抜けるのに相当危ない橋を渡ったみたいだし、影響されてるだろうあやちゃんを小さい頃から見ていれば、雪音さんも現役時代がどうだったかなんてのも分かりやすい。そして母さんも、私たちの世代より遥かに不安定な時期を戦い抜いたんだから、当然そういう手合いなんだろう。

 

「だから、って訳じゃないけど、雪華が無茶ばかりするっていうのを止めるつもりはないよ。こうして時々帰って来てくれるなら、僕はそれでいい」

 

「そういうもん?」

 

 少しは怒られたっていいと思ってた分拍子抜けというか、なんか私にだけ旨すぎるというか……

 

「まあ、いくら僕が心配しても、誰も言うことを聞いてくれなかった。ってところもあるけどね」

 

 ……違う、これ大分怒ってるわ。私だけじゃなくて、家族全般に。

 

「ごめんって。でも私より無茶する子ばっかりだから、その子たち助けようってなると、どうしてもこうなるんだってば」

 

 こういう言い訳も既に何度目かだけど、私が無茶をする時なんて基本的に誰かのためなんだから、他に言い様もない。

 そしてそれは、周りから見れば余計に分かりやすいんだろうから、父さんも諦めたような返しになっている。

 

「分かってる。分かってるから、余計にもどかしいんだよ」

 

「……後半年、あたしはちゃんと帰って来るからさ」

 

 だからまあ、私に約束出来るのなんてそれぐらいで、そのまた先なんてまだ何も分からない。

 

「そこは信じてる……だから、ほら」

 

「これ……少し早い誕生日プレゼントだって?」

 

◆◆◆

 

「青い空、白い雲、ひろがる海原。いやはや、夏だねぇ」

 

 数日後──遂に本番だと水着姿で柵に肘をついて、再開したばかりらしい海水浴場の、海の上に並ぶコテージをその間の通路から眺めつつ、サングラスを上げてみるといかにもって空気で、気分も上がる。

 なんて雰囲気に浸っていたら、同じく水着な梅に脇腹をつつかれる訳なんだけど、変に前のファスナーをへそ上くらいまで下げちゃって、誰にアピールする気なのやら。一応その下にはちゃんとビキニを着けてはいるから、楪スタイルじゃあないけど。

 

「で、本当にこっちに残るのか?」

 

「ま、沖に出て釣りってのも悪くはないけど、あたしは砂浜のが好みかなぁ」

 

 それに、この前みたく梅と夢結が一緒だっていうのなら、あんまり邪魔をしたくない気持ちはあるし。

 ……まあ、元々釣りに行くと言い出したのは楓さんだし、二水ちゃんやミリアムちゃん、鶴紗ちゃんに結梨ちゃんも行くって聞いてるから、別に二人っきりの船上デートって訳でもないんだけども。

 

「で、調子はどう?」

 

 話しながら手すりに腕をついて通路の下を覗いてみれば、コテージの階段を降りた先に横付けされていた水上バイクに二人乗りする、一葉ちゃんと藍ちゃんの姿が。

 

「あ、雪華様。梅様も」

 

「やっほー」

 

「話には聞いてたけど、本当に乗れるんだねぇ」

 

「手慰み、程度ではありますが、一通りの乗り物のマニュアルには目を通しています!」

 

 それはペーパードライバーの類いなんじゃないかなぁと思ったけど、梨璃ちゃん報告だと前にこれはちゃんと乗り回せてたようだから、理論派と言ってあげるべきだろうか?

 

「それはそうと、高校生とっ捕まえてスク水って、軽く罰ゲームじゃね?」

 

 一葉ちゃんがそうなら、本人のセンスの問題でまだ自業自得なんだろうけど、彼女に後ろからしがみついている藍ちゃんがってなると、小学校高学年くらいの低身長も合わさって、なんか保護者サイドの暴走って見え方。

 

「で、ですが恋花様が選んだような水着は、藍にはまだ早いと言いますか……」

 

「らんは、がっこうでなれてるからこれでいいよ?」

 

 それはそれでどうなんだと言いたくなるけど、藍ちゃんの腕にポツポツとアクセサリーが付けられてるのが、せめてもの抵抗の跡なのだろうか?

 大体そう言う一葉ちゃんも、本人が絶対に選ばなさそうなオシャレなの着てるし、恋花も相当プランニングに苦労したのは、見て取れる。

 

 ──てか、藍ちゃんには着せないくせに、自分は恋花が選んだのだろう水着を着てるっていうのが、少し突っつけば何か面白い話になりそうな雰囲気が。

 

「ま、藍ちゃんも乗せてるんだし、あんまり空回りしないようにね?」

 

「はい! では、我々は一足先に出発しますので、また後程!」

 

「またねー」

 

 ともかくこっちは二人きりで海上デートだなぁと見送れば、お次は梅の方にお呼びが掛かる。

 

「梅、そろそろ出るわよ」

 

「はいはい。んじゃ、こっちもまた後でナ」

 

「おう、大漁を!」

 

◆◆◆

 

 梅たちの乗った結構大きめなボートを見送って、一人じゃやることもないしでさっき見掛けた自販機で何か買おうかと通路を戻れば、スマホで支払いを済ませたところに足音が。

 

「あっ、雪華様」

 

「お見送りの帰りですか?」

 

「うん、まあそんなところ」

 

 落ちてきた桃のジュースを取りながら、次にどうぞと横に退いて振り向けば、そこにいるのは声の通りな雨嘉ちゃんと神琳ちゃん。

 二人は水着でも黒の無地で飾り気のない私と違って、ちゃんと柄やフリル付きだし髪は海用に結び方から変えてるしで、上着を羽織るにしたって雨嘉ちゃんはそのままバサリでなく、腰の辺りでキュッと結んでいるのにどうにもセンスの違いを感じなくはないけど、まあ私のはデカすぎてブカブカだから、どうせ泳ぐとなったら邪魔にしかならんしと脱ぐんだからそこはいいか。

 

 ……なんでそんなのにしたのかって? や、これ烏丸隊の頃に姉さんたちに貰ったやつだから、折角の機会だし、ね?

 

「ふむ、一葉さんも聞き及ぶ以上の腕前ですね」

 

「こないだも乗り回してたって、梨璃ちゃん言ってたしね。で、前の話と言えば、神琳ちゃんたちの方はどうだったの? 姫歌ちゃんたちがカチコミに来たー。程度にしか聞けてないけど」

 

 ともかく結構な数を買ってて抱える神琳ちゃんに釣られて、海の向こうで楓さんの調達したボートの真横を一葉ちゃんたちの水上バイクが通り過ぎるのを眺めながら聞いてみれば、返事は微笑みと共に。

 

「そうですね、到着してすぐにいきなりトビウオ型のヒュージが現れた時は少し驚きもしましたが……飛び入りでひめひめが駆け付けてくれましたので、まだ普段通りに動けたとは思います」

 

「となると、わりと海の方ではポピュラーなタイプだったのかねぇ?」

 

 更に進んだ話を聞けば、今度の群れのボスも流石に姿形は違えど、同じクラッシャー種と来た。

 大陸側と太平洋側、前とは方向が完全に逆なのに『ファンバオ』の時と似たタイプだらけだなんて、神琳ちゃんとしても色々考えてはしまったんだろうけど、なんともベストタイミングな到着だったようで。

 

「あら。ふふ、噂をすれば、でしょうか?」

 

「ん? ああ、向こうも着いたか」

 

 このリゾートには同盟組の内ヘルヴォルが一番先に着いていて、その次が私たちだった。となると最後になるのは、当然神庭からグラン・エプレ。

 

「や、とりあえずこれで来れる子は全員かな?」

 

 コテージに繋がる始点、テラスのようになっている辺りに待っていた瑤の周りに集まるのは、私たち以外に梨璃ちゃんが合流していたグラン・エプレの四人と、少し照れたように遅れて来る千香瑠。とりあえず人数分確保していたようで、神琳ちゃんと雨嘉ちゃんが各々にペットボトルを配ってるけど──

 

「つまりは、あれも恋花のセンス?」

 

「うん、『大胆にして可憐……攻めるべきところは攻める珠玉の逸品』──って自画自賛してた」

 

 実際全体的に落ち着いた感じで、千香瑠の雰囲気に合ってはいるし、言いたくなる気持ちは分からんでもないけど、試着には付き合ったろうとしても実地で拝めないってのはなんともだ。

 

「さ、流石は〈エレンスゲのおしゃれ番長〉飯島恋花様。おみそれ致しました……!」

 

「まーたあの子はワケの分かんない称号を自称して……ん?」

 

 紅巴ちゃんの謎な感動はともかく、その隣からこっちをじーっと眺めていた姫歌ちゃんと目が合ったと思えば、口笛を吹きながら露骨に視線を逸らされる。

 

「いや、なによ?」

 

「せっちゃんせんぱいまで神琳側じゃなくてー、安心してるんでしょ、定盛?」

 

「んん?」

 

 いや、所属的には思いっきり神琳ちゃんと同じ側だが。というツッコミは、神琳ちゃんと千香瑠の周りをクルクルと回り出した灯莉ちゃんの台詞が答えというか。

 

「ボンッ☆キュッ☆ボーン☆」

 

「……?」

 

 ああうん、そういう話ね。確かに神琳ちゃんも千香瑠も大概だし、梨璃ちゃんも灯莉ちゃんも一年にしてはある方だ、そして雨嘉ちゃんや瑤、叶星は言わずもがなと……まあ、そんな中に放り込まれて、サイズ格差を気にするなとは言わんけども。

 ……え、紅巴ちゃん? 姫歌ちゃんが安心して隣に置いてる時点でまあ、それが答えというか。

 

「えっと、その……あんまり見られると、恥ずかしいです」

 

「大丈夫、母性では千香瑠が最強」

 

──お母さん……? 千香瑠が? うわっ!

 

 なんて虹の彼方に吹っ飛ばされそうなリアクションはともかく─そもそもあの『うわっ!』は、シートにちゃんと座れてなかったから事故っただけだし─大体集まったと見れば、叶星が変な方に傾いた話題を変えようと咳払いをして切り出す。

 

「こほん。これで、残ってるのは全員かしら?」

 

「さっき一葉ちゃんと藍ちゃんが海に繰り出すのは見送ったし、ウチの残りは釣りに出ちゃったからね」

 

 まあ、大元の目的なコンテストにお呼ばれしたのは神琳ちゃんだけだし、他の面々は自由にしていいって感じではあるんだけども。

 

「そして恋花は、お星さまに」

 

「お薬も切れたから、今日また病院で診てもらうとは言っていたけれど……心配だわ」

 

 瑤の謎なボケはスルーされて、千香瑠が事実を教えてくれるけども、なんか恋花はそのまま病室のベッドに叩き込まれてそうな様子が、ありありと浮かんで仕方ない。風邪がどうとかでなく、もっとこう別な理由で。

 

「でも、高嶺様も急な用事で来れないだなんて……」

 

 そして最後の一人がいない理由は、来る途中で聞いていたのだろう梨璃ちゃんから。

 

「寂しくない……なんて言ったら嘘になるけれど、高嶺ちゃんは今、私たちのために一人残って頑張ってくれてるんだもの。折角の縁なのだから、梨璃さんも一緒に楽しみましょう?」

 

「…………」

 

 まあ、どうにも上手く行かないのはどこも同じだ。今更どうこう言っても仕方ない……と割り切ってはいても、紅巴ちゃんはどうにも気になる様子。

 

「さてと、じゃあそろそろビーチに行きましょうか。けど、いくら休暇といっても、羽目を外しすぎないようにね?」

 

「「はーい!」」

 

 とはいえ、叶星が一年の皆に向けて引率担当っぽく告げれば、周りに遅れないくらいには取り繕えてるみたいだけど。

 

「ふふっ、元気でよろしい。さあ、私たちの休暇〈バカンス〉を始めましょう!」

 

◆◆◆

 

 いざ開幕となったものの、まずはパラソルなりを置くかと準備していたら──

 

「みーんなー! たいへんたいへんたいへん~!」

 

「あれ、灯莉ちゃんと紅巴ちゃん先に泳ぎに行ったんじゃなかったの?」

 

「そ、そうなんですが……」

 

「ヒュージだよヒュージー! 向こうの浜辺に出たんだって!」

 

 ──その第一歩の前からこれというのは、なんとも言えない。

 

「えぇ……だってこの前の二回も、海行ったらヒュージ出たんでしょ?」

 

 当事者な梨璃ちゃんと神琳ちゃんに確認するように聞いてみれば、思い出しながらの返答が。

 

「えーと、わたしたちの時は、廃棄されてた建物の中に巣があったみたいで……」

 

「わたくしたちの時は、今思えば梨璃さんたちが倒した群れの縄張りが空いたのを見て、だったのでしょうね」

 

 本当に色々と迷惑な……というのは皆同じなようで、伝えるだけ伝えて泊まっているペンションの方へ駆け抜けて行った灯莉ちゃんも、CHARMを両手に窓から飛び降りてくる。

 

「まったくー、イルイルの時といいタイミングの悪いヒュージだなぁ。そうだ! スイカ代わりに叩いて割って、花火の代わりに打ち上げてやる~☆」

 

「灯莉ー、それは分かったからあたしのデュランダ……ってそのまま突っ込むなーっ!?」

 

 渡す時間すら惜しいと駆けて行くのは、普段の灯莉ちゃんの言動からして姫歌ちゃんへのからかい半分、ヒュージを早く叩きたいお気持ち半分ってところだろうか? またなんか知らない名前が出てるのは、後で聞いてみる楽しみにしておいて。

 

「しょうがない……叶星、二人はこっちで面倒見るから、残りの指揮よろしく」

 

「了解です! 皆、まずはCHARMを取りに……って雪華様は?」

 

 二人を追おうにも、パッと見今の私は普段の重装備はどこにもなく、上着のポケットに空のペットボトルを突っ込んでいるだけの、非武装状態だ。

 けど、これだけブカブカってことは、内側のスペースも有効活用しないと! ……とは、仕立てた霊奈さんの言葉だけど。

 

「問題ないよ、『烏丸(ウチ)』の装備はさ。さあ、やろうかライザー!」

 

 例えるならメイドがスカートを摘まむように、魅せるような動きを意識して膝下まである上着の下側を少し持ち上げながら脳内で指示を出せば、ロックが外れ二枚のシールドが砂浜へ突き刺さるように落ちる途中、その裏からソードガンをまとめて引き抜く。

 

「なるほど、海賊戦法……!」

 

「か、海賊ってそういうものだったかしら?」

 

 瑤は以前も同じジャンルのネタが通じた恋花越しなのかモチーフは伝わったみたいだけど、本来はマント(型装甲)の下に味方に渡す銃器なりを山程仕込んでたから、微妙に数が足りてない。他のCHARMでやるとなると、流石にグングニル・カービンくらいが関の山か?

 

「ともかく、そういうことだから先行くね!」

 

◆◆◆

 

 件の浜辺に着けば、リゾートのお客さんの避難は済んでいて灯莉ちゃんがヒュージをバンバン撃ちまくってるけど、相変わらずの飛び跳ねスタイルなものだから、姫歌ちゃんは遠くから無手で眺める羽目になっていた。

 

「ちょっと、そろそろひめかにもやらせなさいよー!」

 

「そうだったそうだった~。はい定盛ー♪ぱ~す!」

 

 そもそも灯莉ちゃんは『円環の御手』持ちじゃない以上、CHARMをふたつ持ってても仕方ないのだから、思い出したかのように重石にしかなってなかったデュランダルを投げ渡して来るのは、まあいい。

 

「あ」

「灯莉ぃ~!?」

 

 けど、毎度のアクロバティックな動きの途中、空中で逆さになりながら放るものだから、流石に完全に狙い違わずとはならない訳で。

 結果を言えばすっぽ抜けたとはいかないまでも、姫歌ちゃんが取るより先に、手前のヒュージにぶつかりそうな投球コース。

 

「ま、仕方ないよね」

 

 ならやることは決まっている、軌道はこんなもんなら──

 

「ここか!」

 

 ソードガンの片方を砂浜に突き刺しながら駆け出して姫歌ちゃんを飛び越せば、後ろから飛来するライザーのシールドを踏み台にヒュージも追い抜き、交通事故になる前にデュランダルを掴めば、そのコアへ右手の指輪をかざす。

 

─円環の御手─

 

「いっけぇぇぇっ!」

 

 両手のCHARMがシューティングモードに移行したのを確かめて、もう一枚のシールドを目の前に置いて蹴り、バク宙ついでに乱射して空中のヒュージ──やっぱり今度もトビウオ型のそれを数体叩き落とし、追い抜いた個体が振り向く隙にソードガンから光の散弾を浴びせ、動きを止めてからデュランダルの接射でトドメ。

 

「おぉ~、流石せっちゃんせんぱい☆」

 

「言う程一緒に戦ったことあったかしら。ともかく、灯莉がご迷惑……を?」

 

 ザッと砂を踏み締めて着地して、右手のソードガンを砂浜に刺してた方と連結させながら、姫歌ちゃんに振り向いて私の取った行動には理解が追い付かずフリーズされるけど、まあノリで押し切ろうか。

 

「姫、温めておきました」

 

「いや、それ履き物を人肌で温めたーってやつで、砲身が熱されてるとかそういう話じゃなかったですよね!?」

 

 つまりは、跪きながら騎士が剣を主君へ預けるような、そんな構えでデュランダルを掲げてた訳なんだけど、姫歌ちゃんからのツッコミのキレが心地よくて、なるほど灯莉ちゃんのイジリが止まらない訳だと実感。

 

「というか、そのシールドってそんな使い方してましたっけ……?」

 

「いや、こんな炎天下で素肌にアーマー着けるとか、根性焼きも同然じゃん?」

 

 そしてそんなコントをしている間は灯莉ちゃんしか戦ってないかというとそうでもなく、私もライザーのシールドを飛ばして迎撃程度はしていた。

 ついでに、姫歌ちゃん越しに残りの皆がペンションの方から駆けてくるのは見えるから、遊びは終わりにするとして、そろそろ膝も熱いし。

 

◆◆◆

 

「せいっ!」

 

 そのまま先に向かっていた雪華たちが灯莉を追う形での前衛となれば、昔から慣れたものだと左右から連続して来るヒュージを切り払うと、分離させたソードガンにレーザーブレードを発振させながらグルグルと回し、前方の群れに突っ込めば、彼女の進路上やそこに近寄ったヒュージは一気に薙ぎ倒される。

 

「…………?」

 

 そこへ突入した後から追い付いてきたシールドにソードガンをガンマンが拳銃でやるように回しながら納め、グリップとビームソードを展開させたそれに持ち替える時に見えた雪華の表情が妙に楽しそうに見えたことに、援護射撃を送りながら一瞬疑問を浮かべる叶星だったが、幸いにしてその様子に気付いた梨璃は、彼女への答えを持っていた。

 

「えっと、雪華様のことですけど、灯莉ちゃんたちに合わせて無理してる、ってことはないと思います」

 

「梨璃さん?」

 

「雪華様の専用機って、大分趣味に寄っちゃってるといいますか……だから、専用機だけ持っちゃってる雪華様って、結構よくああやってはしゃいじゃうというか、そういう時があるんです」

 

 最初は横浜で改修後のライザーを受け取り、テストをしていた時。次は夢結へブリューナクを貸した後、結果としてライザーで空を舞った時。そしてその次は競技会でブレイザーの御披露目だと、夢結たち相手に大立ち回りを演じていた時。

 どれも雪華自身が意識しているかはともかく、普段より動きも派手めで、本人のテンションも高いように見えたとは、梨璃の記憶に残っている。

 

「結構、ちゃんと見てるんだね?」

 

「あはは……わたしはレギオンの隊長だけど、指揮とか事務的なあれこれとか、そういうことはからっきしで号令とハンコを押す係みたいになっちゃってますから、その分こういうところはきちんとしないとなーって」

 

 故に感心したような瑤の言葉には、謙遜というか事実をただ並べる返しになってしまうが、任せるべきところを任せられるのもリーダーとして持つべき能力だと、本人たちの初陣での奇行による惨状もあって最初は後輩たちに任せるという選択を持てなかった叶星としては、眩しいような微笑ましいような感じになる。

 

 ……いや、改めて振り返っても、やはりトップレギオンというより、子守りか何かを任されたような初出撃ではあったのだが。ピュイー!

 

「うっ……」

 

「なるほど! 一柳隊の結束の秘訣は、そうした繋がりの強さにあるのですね!」

 

「ええ、『白井隊』でなく『一柳隊』だからこそ、わたくしたちはこうしていられるのだとは常々」

 

 終いには幻聴までしてきたぞと、頭を押さえ少し遠い目になっている叶星を他所に、紅巴への返しで神琳に一度夢結へ隊長の座を譲ろうとしたことを遠回しに掘り返されては、梨璃も「あぇ……」と照れやら恥ずかしさやらが混ざった鳴き声を上げてしまい、隊長組が揃って機能不全気味。

 

「ん……そっち、狙えますか?」

 

「ええ、任せて」

 

 とはいえ、雨嘉や千香瑠は彼女たちがそんな風になっている中も冷静に支援をしているなら、梨璃も頭を振って気を取り直す。

 

「と、ともかく! 雪華様も先輩だーとかそんなのより前に、まだわたしたちと同じ学生で……だから、時々普段と違ってたとしても、それも全部おんなじ雪華様なんです」

 

「あっ……ふふ、そうね、わたしたちはまだ高校生だもの。忘れてるつもりはないけれど、余裕がある時は、もっとはしゃいでもいいのよね」

 

 梨璃としては随分と前に感じたことを改めて誰かに伝えたことになるが、同じく復帰した叶星の反応からして、恐らく問題はなかったのだろう。

 

「さて、残りのヒュージはおおよそ三分割された形になりますが、叶星様?」

 

「ええ! 紅巴ちゃんと雨嘉さんは私と来て、右翼のヒュージを片付けるわよ!」

 

「では、梨璃さんと瑤様、千香瑠様はわたくしと左翼へ。手早く終わらせましょう」

 

 そして正面は今更確認の必要もなく、灯莉を先頭に切り込んだままの三人が大暴れしているのだから、神琳と叶星が簡単にまとめれば、五人もそれぞれ頷いて担当に向かう。

 

◆◆◆

 

 さて、なんだかんだ各隊のメンバーがバラバラとはいえ、揃えてみれば1レギオンが組めるくらいには人数がいたのだから、ヒュージの討伐自体は問題なく終わったけど……倒せたかどうこうでなく、ヒュージが出た。という事実の方が問題な訳で。

 

「安心安全なリゾートってつもりで再開したはずが、いきなりヒュージが出ましたじゃねぇ」

 

 まあ、そのわりには施設的にはまだお店が開いてるかどうかはまちまちだったり、なんとか夏ギリギリに間に合いましたって具合なのは、近場のネストがひとつ潰れたばかりとはいえ、このご時世色々と仕方ないんだろうけど。

 一応、この辺りは距離的に百合ヶ丘の守備範囲内ではあるから、最悪の場合はシュバルツグレイルなりレギンレイヴなりに応援を頼むことになるかもとして。いや、今日の担当ってローエングリンだっけ?

 

「うーん、ケイブの反応はないみたいですし、群れからはぐれただけ、だったんでしょうか?」

 

「そこはまだ、分からないかな。でも、警戒はしておかないと」

 

 なんて梨璃ちゃんの疑問に答える瑤の方も、情報が足りないと緊張が解けてない感じ、そこら辺の判断は難しいよねぇ。

 

「雪華様、少しお話が」

 

「ん、そこは大丈夫。休暇中だからって、こればっかりは職業柄ね」

 

 だから灯莉ちゃんたちがヒュージ発見の報告をしてくれたという親子連れと話しているのを眺めつつ、ある程度叶星と見回りの打ち合わせはしておくけど、細かいところは瑤や千香瑠(ヘルヴォル側)とも詰めておいた方がいいだろう。

 

「ところで、雪華様は出ないの?」

 

「なんの話よ、まず?」

 

 噂をすれば、と瑤から不意に話を振られるけど、生憎そっちの話は途中から波の音と同列にしか聞こえてないし、説明を求めるしか。

 

「水着コンテスト。皆、やる気みたいだから」

 

「いえ、その、私は……」

 

 ふむ、これは流れで断れず千香瑠も出場させられるって感じか。瑤のキラーンとしたドヤ顔を見るに。

 で、水着コンテストとはなんぞやと聞かれてもまあその通りというか、神琳ちゃんがそれの審査員としてお呼ばれしたから、一柳隊として、そして結果として東京の同盟レギオンも巻き込んでのこんな形になったというか。

 

「で、誰が出るつもりなの? こういうところでやるやつなら、参加者は当日殴り込み大歓迎だろーとして」

 

「勿論ぼくたちからはー、さーだもりっ☆」

 

「ひめひめ!」

 

 まあ、でしょうね。何かと意識してる神琳ちゃんが審査員だなんて、姫歌ちゃんが黙ってる理由を探す方が難しい。強いて言うなら、参加者側じゃないから~、とか?

 

「そうなると、ウチからは雨嘉ちゃん?」

 

「…………はい」

 

 うん、こっちもこっちで凄く遺憾そう。幸い今回はいつぞやの性癖ごちゃまぜ巫女服でなく、常識的な範囲の水着ではあっても、身内のお祭り騒ぎと違って知らない人たちの前だから、緊張や恥ずかしさは遥かに上なんだろーけど。

 

「せ、雪華様っ!」

 

「おん?」

 

 さて、そのタイミングで声を張り上げるのは紅巴ちゃん。よく分からんけど、ご指名とあらば答えようか。

 

「はい、一年の土岐紅巴さん」

 

「あのっ、雨嘉さんが優勝したというコス「わーーーーっ!」

 

 うんまあ、あんなのが知れ渡るとか黒歴史まっしぐらだろうから、本人としてはいらぬ拡散は止めたくなるよね。でも雨嘉ちゃんが割り込む前まででなんの話がしたいかは伝わったみたいだから、スッと紅巴ちゃんの横へ滑り込んだ神琳ちゃんが、スマホの画面を彼女に見せている。

 というか、そもそも私は本番の時は『ゴミ係』に忙しくて現場にいなかったし、初めから写真出せるのは後輩の誰かになるんだけども。

 

「しぇ、神、琳……?」

 

「ごめんなさい。いざ聞かれてしまうと、わたくしもかわいらしい雨嘉さんを自慢したくなってしまいまして」

 

 で、いきなり売り飛ばされた側になる雨嘉ちゃんは、ショックのあまり顔から血の気引いちゃってるし。

 

「こ、これは……二人とも!」

 

「おー、わんわんなのににゃんにゃんだ~♪」

 

「くっ、この前も思い知らされたけど、まさか雨嘉さんがこれほどの逸材だったなんて……!」

 

 それはそうと、紅巴ちゃんの方は姫歌ちゃんたちを手招きで呼んでやいのやいのしてるから、手応えありなようで。

 

「──とまあ、こんな感じ」

 

「なんで瑤が自慢気なのよ?」

 

 再度ドヤってるところ悪いけど、私は元よりそういうのには興味ないし、パス以外の返事はない。

 

「でも、結構気合い入ってる」

 

「サングラスは父さんからだし、上着やネックレスは姉さんたちから。で、それらを取っ払ったらこの普通の水着で、どうあの子らに立ち向かえと?」

 

 あの夜手渡された、私が海に行くからって母さんと二人で選んだらしい黒い丸型のサングラスを、ネックレスを突っ込んだポケットに引っ掛けて上着を脱げば、飾り気のない無地で装飾もないような水着しか残らない。私はこれがいいんだよとしても、コンテスト向きかってのは、ね?

 

「……結構、鍛えられてる」

 

「そりゃあこれでもリリィ六年目だからね、嫌でも引き締まりますっての」

 

 とはいえ無駄なところどころか、付いてもいいところにすらあんまり肉が付いてない身体なんて、水着コンテストで見せても仕方ないでしょうに。

 

「あのー?」

 

 ……って、なんで瑤はボディタッチに遠慮が無いのか。いや別にこの程度拒否するつもりもないけどさぁ、流石に直でお腹触られるのは、ちょっとくすぐったいぞ。

 

「…………」

 

「梨璃ちゃんも触る?」

 

 なんてじゃれていると少しボーッとしているのが見えたから、冗談全部でそんなことを言ってみれば、返事はなんとも。

 

「へ? いえ、そういうのじゃなくて……お姉様たち、今頃何釣ってるのかなぁと」

 

◆◆◆

 

「なー夢結、ここどこだ?」

 

「……わたしが聞きたいわよ」

 

 なお、夢結たちが無人島へ漂着してしまっていることは、まだ梨璃たちには二日程は知れない話になる。

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