ところで前回の日中パート、イベントの方だと雨嘉が担当なしのままステージ当日までユクエフメイになってんですよね。えぇ…
いやまあ、逆にその場に一人もいないヘルヴォルの名前を出す叶星様(前回触れたジャンプ!メモリア)とか、参加してないイベントの回想させられる梨璃(かえふみしか参加してないしおりん参戦イベントの振り返り担当にされる)とか、もっとおかしいのなんていくらでもありますけどあのアプリ。
「あ、梨璃ちゃんそっちの取って」
「はい! それにしても、ちょっと意外かもです」
三日目になる今日は朝からペンションのキッチンを借りて、私と梨璃ちゃん、瑤と千香瑠の四人でステージの設営に来てくれてる人たちへの差し入れを用意している訳だけど、梨璃ちゃんが零した言葉の理由は、主に調理を担当しているのが千香瑠と私だから。
「ま、百合ヶ丘入ってからはそこまでやる機会もなかったけどさ、昔から親が忙しい時には私が簡単なやつ作ったりはしてたし……よし、とりあえずこれ入れといて」
「はーい」
私の方は軽くつまめるものってなると日本人らしくおにぎりで、ヘルヴォル側はサンドイッチ。全体の流れとしては私と千香瑠が具を用意して、握ったり挟んで切ったりは梨璃ちゃんと瑤に任せて、って感じ。
「こっちは終わりましたから、先にドリンクの用意もしておきますね」
「了解、具材はこんなもんかね。ボウル貸して、残りは私も握るよ」
「はーい」
まあ、この役を買って出たのは単純にスタッフさんたちへの労いって面もあるけど、今日は昼以降私たちはあんまり協力出来ないからってところもある。
◇◇◇
「せんせー、ちょっと船か何か回せませんかー?」
『なんですか、急に変な呼び方して? まあいいですけど』
◇◇◇
昨夜、そんな最低限の説明すらしてない段階でも、頼った霊奈さんには了承を貰ってはいたけど、流石に行方不明な皆を探しに行くと伝えれば、翌朝には着くとのちゃんとした返事も。
つまりは、それで私と梨璃ちゃん、ヘルヴォルの二人が朝から捜索に抜けるから、その前にガッツリとやれることをやっておきましょうということ。ヒュージと交戦になる可能性が高いと考えたら、最低限ノインヴェルトをやれるだけは欲しかったから、人数は霊奈さんを合わせて五人になるようにして。
「はいはーい、差し入れですよーっと」
「おーっ、せっちゃんせんぱいに千香瑠さまたちもー」
ともかく設営の陣頭指揮を執っていた灯莉ちゃんに声を掛ければ、トテトテと寄って来ると梨璃ちゃんの持ってるバスケットを覗き込んでいる。
「これ、せっちゃんせんぱいが?」
「ん? まああたしはほとんど具の用意で、握ったのは大体梨璃ちゃんだけど」
「ほうほうほう~、あむっ」
灯莉ちゃんは説明も聞いているのかいないのか、ラップに包まれたおにぎりをひとつ取ると、食べれるくらいに開けつつパクリと。いや、食べやすくってそんな大きくはしてないけど、おにぎりを一口かい。
ちなみに違いがちゃんと分かるよう、具ごとに色違いのシールは張ってあるけど、今のはシャケね。
「うん♪定盛の程じゃないけどおいしーね! みんなー、美少女の手作りごはんが届いたよ~」
「「おおおおおおーっ!!」」
野太い声。まあステージ設営ってなると大分力仕事だろうから、男性中心なのも当たり前といえばそうだけど、多分企画サイドの方だろうスーツ姿の人といい、女性もまちまちいる。
で、灯莉ちゃんやその比較は惚気ってことなんだろうか? 姫歌ちゃん、新潟出身ってことは実家からお米送って来てたりするのかねぇ?
なんてのはさておき、ワッと寄ってきて混雑するようなら、とりあえず呼び込みをする売り子さんみたいに声掛けを。
「お手拭きや飲み物もあるんで、空いてるところからどうぞー」
「ちゃーんと人数分ありますから、なくなったりしませんよー」
なんなら叶星や紅巴ちゃんは巡回に出てるし、姫歌ちゃんたちも打ち合わせやらで姿は見えないから、余るくらいではあるし。
「じゃあぼくはー、ジャムサンド♪」
「流石千香瑠のサンドイッチ、凄い人気」
「じゅ、順番なだけですから……」
実際梨璃ちゃんが持ってるおにぎりの方も順調に減ってはいるし、瑤のドリンク類もぼちぼち。私? お手拭きと念のための割り箸とか爪楊枝担当。
「で、これが見回り組ので、こっちが打ち合わせ組の分ね」
ともかく、身内の分は食べ終わった灯莉ちゃんにバスケットごとまとめて渡しておけば、改めてな確認が。
「うん。せんぱいたちは一葉たち探しに行くんだっけ?」
「流石にこれだけ力入ってるステージに、あの子たちだけ除け者なんてのも可哀想だしね」
だからまあ、挨拶も程々に霊奈さんが船を回してくれるって浜辺の方へ向かうことに。
◆◆◆
「えぇ……」
いやまあ、帰りで人数数倍になるからあんまり小さいのでも困るけど、昨日の今日で小型のフェリーくらいのサイズを持ち出すとは思わんじゃん? てか、こんな規模のをすぐに用意出来たって……横浜のドックは余裕で押さえてそうだなぁ。
「こほん。とりあえず差し入れ用意してあるから、一旦戻って食べといてよ」
「ええ、ご相伴に預かっておくわ」
「紅巴さんも、しっかり食べてね!」
「は、はい!」
何はともあれ、朝から見回りとくればまだあんまり食べられてなさそうだし、グラン・エプレの二人には梨璃ちゃんと二人で伝えるところを伝えておいて、早速乗り込もうか。
「なんだろう、あれ?」
「何かの乗り物でしょうか」
で、乗り込んですぐヘルヴォルの二人が気にしているのは、甲板の上でカバーをかけられている何か。まあ探索用の足に積んだんだろうとして、持ち込んだ本人に確認する方が早いでしょう。
◆◆◆
「やあやあいらっしゃいですよー」
「……なんか浮かれてません?」
烏丸の社員さんに案内された船室で、当たり前のように霊奈さんも紅白のワンピースタイプな水着姿というのは、挨拶も置いておいてそんな感想にはなるけど、こっちも水着のまま乗ってはいるんだから、あんまり人のことも言えないか。
「ま、またよろしくお願いします!」
「梨璃ちゃんはお久しぶりですけど、エレンスゲのお二人はちゃんと話すのお初ですかね? 鳥船霊奈、雪華ちゃんの先輩ですよー」
「うん、そんな雰囲気」
それはどういう意味かね瑤さんや。なんて聞くだけ火傷するのは見えてるから、さっさと本題に。
「で、あっちに積んでたのってなんです?」
「ふむ、では早速お披露目といきましょうか!」
◆◆◆
「おぉー……あれ?」
甲板に戻っていざ御開帳。とはなるものの、梨璃ちゃんの反応はなんとも言えない感じだから、代わりに聞いてみる。
「また趣味に走ってません?」
「まさか、流石にお仕事案件ですよー? この新型〈LAC〉ちゃんの慣らしも、陸じゃあ限界がありましたし」
「『キャバリア』ねぇ。使えるんです、これ?」
LAC──〈リリィズアーマードキャバリア〉その名の通りリリィ用の搭乗式パワードスーツで、メーカーや機種毎の細かな違いはあれど、基本として数mはある重機程のサイズとかなり大型。また、CHARMによる武装も可能で、当然全身を覆う装甲により並の戦闘服やバトルクロスより遥かに守りが強固なことから、市民の避難誘導なんかには十分使えるとか。
まあ、あくまでも間接的なCHARM使用のせいかその状態ではノインヴェルト戦術へ参加することが出来ないのもあって、ラージ級やギガント級とヒュージの等級が進んでいったせいで、結局戦場の主役にはなり損ねてる訳なんだけど。
その上通常のCHARMですら平均して一機で戦車並みの値が張るということは、同じ技術を使った搭乗式の機動兵器などその製造・運用のために掛かるコストなんて比べるまでもなくバカ高いという、決して無視できない問題もあって今でも百合ヶ丘を始めいくつかのガーデンに配備されてはいても、その用途は研究・実験目的が大半で、一部の例外的なガーデンを除き実戦で見掛ける機会はほとんどない。
……なんて代物なんだけど、アーセナルになるような子の結構な割合は、霊奈さんのような機械弄りが好きで好きでたまらないタイプの人種な訳で、そんな人が実際に動いて戦えるロボットがあるよ。なんて言われたら、まあこうなるよねと。
「……車?」
「皆大好きトランスフォーム! な可変タイプですよー」
ともかく、かけられていたカバーを剥がされた下にあったのは、瑤が呟くようにビークル状態の機体。確かに操縦席周りは普通の車というより、大分LACのコックピット寄りだけども。
「……乗るんです?」
「まさか。私はこっちの仕切りがありますから」
つまり、またもや私がモルモットにされると。おかしい、霊奈さんはもう卒業したはず……いやまあ、姉さんの会社に転がり込んでる時点で、結局身内から身内に飛んでっただけなんだけども。
「え、雪華様これ乗れるんですか?」
で、当然パッと見の姿が車か何かだから、免許とかそういう意味で大丈夫なのかと、梨璃ちゃんには不思議がられる訳で。
確かに私はまだ自動車の免許だと一日アウトなんだけど、そこはリリィだしで多少誤魔化し……ていいのかなぁ? 最低限の確認はしておかないとダメか。
「まー、一応キャバリアのライセンスは取ってるけど……どうなんです?」
「戦闘中はそっち持ってるならで誤魔化していいとして、普段もビークルモードで公道を走らせないならセーフとは言われてますねー」
急な車両型に法整備が怪しいからって、それでいいんだろうか。とはいえ乗っていいんならまあいいかと、早速乗り込んでみようか。
「んーと、キーは?」
「物理的には刺しっぱですし、パスワード的には私の誕生日で」
聞いて探してみればなるほど刺さりっぱなしだけど、パスワードは──
「──え、二桁?」
「ちゃんと0付けてくださいねー」
はいはい、そうなると0505をコンソールに入力して……起動した。
「で、変形は……これか。まずハッチ閉じて、っと」
霊奈さんにしては珍しくシートに置いてあったマニュアルを読みながら操作すれば、ハッチが閉じて車体として折り畳まれていた手足が伸び、車輪は背負うように背部へ回り、モニターの表示も車両型から人型へ。スッと直立してるっぽいし、どっちかと言えば一般的なパワードスーツらしく、ずんぐりスタイルの多いLACとしては珍しいか?
「案外本格的?」
「ですが、人型で海の上を……?」
「その辺りはご心配なく、最新式のホバータイプですから!」
つまりは毎度のこととして、『浮け』ても『飛べ』はしないと、まあジャンプからの短時間ホバリング程度なら、出力次第で行けるんだろうけども。
とはいえ特にアテがあるでもないのに飛び出しても仕方ないし、一度LACを片膝立ちにさせてから、ハッチを開けて降りとこうか。にしても、こうして改めて見上げてみると、全体的なシルエットは人型でも試作機らしく全体的に灰色なのや、いかにもロボでーすって主張している皿頭がそれっぽい。
「それはそうと、目的地ってどの辺りです?」
「遭難したとなれば、辺りにいくつかある無人島を当たることになるかなと」
そこで海図、という程じゃないけど簡単なマップを見せられながらの説明になれば、ある程度予定を組み立てられはする。
「じゃあ、ここら辺になったら私出ますわ。こっちの島からこういう感じに見て回るんで、何かあったら連絡を」
「はいはい。じゃあ船の方はこっち側の島を回るので、分かれるポイントに着くまでは各自休憩しといてくださいねー」
「「はい!」」
こっちで話を纏めれば、素直な子ばっかりだから後はサクサクだ。とりあえず武装装着用のハードポイントにライザーを取り付けとけば、LACに乗りながらヒュージに遭遇しても大丈夫として。
◆◆◆
「それで、こう何度もヒュージが襲来するということは、この島か近くに巣のような物があるのだと思いますが」
「由比ヶ浜ネストの残党が流れ着いたとか、距離的にもありそうだしナー」
この島に来る理由になった分を含め、もう何度目かのヒュージの襲撃を凌いだ漂流組だが、数日かけて拠点の規模こそそれなりの物になろうと、所詮は有り合わせでしかないのが無人島生活の限界で、守りに入ったところで本格的に攻められては保つ訳がない。
となれば、司会のような立場を勤める二水が何も言わずとも次の行動は決まっていると、拳を握りながら立ち上がった一葉が告げる。
「人数は十分ですし、土台も固まったならそろそろ打って出る頃合いだとは思っていました!」
「梨璃たちが探しに来てくれるとしても、先に掃除はしておきたいしね」
そこで付け加える鶴紗が梨璃の名を呼ぶ時、少し気まずそうに拠点の方から視線を逸らしたのに気付いたのは梅と結梨くらいだろうが、隣から「しーっ」と指を口の前に立てられれば、結梨もこの場で触れてはダメだとは分かるようになってきていたから、特に話は逸れずに進む。
「なら二水さんとミリアムさんは、念のためここに残っていて頂戴。向こうは船か何かで来るでしょうから、こちらから合図を送るためにも」
「ふむ、了解じゃ」
「そのために物見やぐらも作りましたからね!」
梅が出発前に梨璃へ色々言っていた以外にも、夢結が梨璃へ手紙を残していたなどもあるが、沖釣りとは無関係な一葉たちのこともあれば流石に上級生を中心にもう動いてくれているはず。という信頼があったから、そこの分担にも異論は出ない。
「そういえば、CHARMの反応? とかで分かるんじゃないっけ?」
「あら、その辺りももう覚えておりますのね」
そうなれば各々CHARMのチェックなりの準備となるが、いざCHARMを見て思い出したような結梨の疑問には、感心する楓に代わり上から頭を逆さに覗かせてくるミリアムが答える。
「まあ、ここが街中とか人で賑わうリゾート地ならそうじゃろうな」
確かにCHARM、というよりはマギクリスタルコアの反応でリリィの位置を探知することも可能ではあるが、何もない無人島となるとその辺りの送受信を行える中継地点自体が存在しないのだから、結局はある程度接近しないとレーダーなりにも引っ掛からないだろうとミリアムが語れば、疑問を投げていた結梨も「なるほどー」と納得して準備に戻っていく。
◆◆◆
予定ポイントに着いたからとLACで甲板から海に飛び出してしばらく、海上を駆け抜けてたどり着いた島の浜辺に見覚えのある物が見えて、近くに機体を止めてから通信機のスイッチを入れる。
「こちら雪華、応答願いまーす」
『はいはい、何か見付かりましたか?』
ともあれすぐさま反応があるなら、単刀直入に報告を。
「一葉ちゃんたちの乗ってた水上バイクが漂着してましたわ。キーは刺しっぱだし、攻撃を受けたような痕跡もないからただ流されただけ、って感じですけど」
つまりはまあ、どこかに停めたはいいけど繋ぎ忘れて波に流された。なんてところだろうけど、一葉ちゃんがやるかやらないかでいえば……やりそうって感想になるのがまた。
『……一葉ちゃん、またそういううっかりを』
『でも、そういう抜けてるところが愛嬌』
後で聞いた話だけど、最初にレギオンメンバーとして二年の三人を指名した直後の顔合わせでも、一人遅刻して慌てて廊下を走って来たりと、一葉ちゃんは一見真面目そうでも時々どうにもやらかすところがある、というのは身内ですら共通認識のようで。
『さて、その位置となると流された元は……こっちかこっちの島ですね。私たちはこちらから回ります、雪華ちゃんは』
「了解、なら私は余りの方で……それはそうと、この機体武装少な過ぎませんか?」
ハードポイントが肩と腕にそれぞれと最低限なのはともかく、固定武装は腕部の内臓式パルス兵器だけて……
『仕方ないところはあるんですよねぇ、その子は可変機構とホバーのテストが主な役割ですから、あんまり高出力な装備も積めなくて』
「ったく、これだから試作機ってのは……てか、どのパルスですこれ?」
『鬼パルスと着/剣』
うす。超連射のビーム弾っぽい何かと、必殺のエネルギーブレードっすか。後者は最初から全クリまでお世話になったけど、前者はまだ戦ったことすらないな……あ、これゲームの話ね。
◆◆◆
「平和じゃのう」
「そうなのも夢結様たちが当たりを引いたから、ってところはありますが……あれ?」
物見やぐらの上で、『鷹の目』を使っていると隣のミリアムにも瞳の色で分かる二水が何かを見付けたように首を傾げれば、俯瞰視野に集中して貰おうと声を掛ける。
「ふむ、どっちからじゃ?」
「えーと、10時の方向から何かが海の上を」
「10時の……じゃな。なんか来るぞい」
遠目かつ見覚えのないものとなれば、ミリアムも『なんか』としか言い様がないが、その速度にも慣れれば、二水の方は俯瞰視野のピントを合わせられる。
「……LAC、でしょうか? 両肩に雪華様のCHARMを取り付けてますし」
「となると、また烏丸の仕業なのかのう?」
もう驚かないくらい慣れた反応の通りなのだが、とりあえずそろそろ通信圏内に入ったかとミリアムが繋ごうとしてみれば、先んじてCHARMのコアからコール音が。
『あーあー、なんか建ってるけど生存者は?』
「やはり雪華様か、一応全員無事じゃよ。駆け付けてくれたヘルヴォルの二人も巻き添えなのを、無事と呼べるのならじゃが」
「あ、あはは……」
事実簡単に避けられたはずの二次遭難が起きてしまっている以上、二水も苦笑いで同意するしかないが、救助というより援軍が来たのなら活かさない手はないと、話に割り込む。
「それよりも雪華様! 今夢結様たちがこの辺り一帯を縄張りとしているヒュージの本隊と交戦中なので、その機体で援護願います!」
『了解。こっちもそいつらには迷惑してるんでね、ケジメは付けさせてもらおうか!』
その後、加速した雪華の機体が持っていた何か──一葉たちの乗っていたのだろう水上バイクと二水たちにも察せたものを浜辺に落とすと、二人のいる拠点の裏を抜けていく。
◆◆◆
「せぇっ!」
その頃ヒュージと交戦中の面々は、山の麓で巣を作っていると思われるエリアを発見していたが、最前線の夢結が孤立気味と見れば一葉が鋭く声を飛ばす。
「夢結様、突出しているので一度後退を! 藍、援護できる?」
「ええ!」
「うん!」
目の前のヒュージを切り払いながら夢結が後ろへ跳べば、彼女の着地点にいるヒュージへ藍が射撃を送り、その反動のまま後ろに下がったモンドラゴンをブレードモードへ切り替えながら跳び、前方宙返りの勢いのままCHARMを叩き付けトドメを刺せば、その横へ夢結が降りる形に。
「流石ね、このまま一度皆のところへ……っ!」
──殺気。そう感じて夢結が藍を片腕に抱えて跳べば、二人のいた位置の上空に現れるケイブと、そこから降り注ぐヒュージの触手。
「なるほど、あれが親玉ということかしら」
「らんがやる!」
などと張りきっても今は空中かつ夢結に抱えられている状態なのだから、普段のような攻勢は望めず、続いて現れた本体へ向け軽く射撃を送る程度に。
「ラージ級! 大分大きいゾ夢結!」
「分かっているわ、それに」
今はもう、夢結も一人だけで戦っているつもりはないのだから、梅に応えながら藍を降ろす隙に自分たちを狙って飛んできた熱線への対処を、仲間に任せるということも出来る。
「させない!」
フォローにと駆け付けた残りの面子から、一人先に飛び出した結梨が二人の前で自身を覆うように翡翠色な球状のバリアを張れば、その色と形とに見覚えのある鶴紗が反応を。
「今の、柚子?」
「ゆず……ゆずりは?」
確かにいつぞや世話になった彼女が親しい相手にはそう呼ばれているらしい。とは鶴紗も二水辺りから聞いたことはあるが、藍の勘違いには一葉から訂正が入る。
「藍、そもそも楪様のレアスキルは『テスタメント』だったでしょ」
「あ、そうだった。じゃあだれのこと?」
「その、わたしのルームメイト。あの子が『ヘリオスフィア』を使う時も、よく自分の周りに球状でバリアを展開してたから。でも……」
彼女が戦っている姿など、この場にいる中で知っているのは鶴紗だけのはず。近頃はフリーランスとして色々飛び回っているとは寮の部屋で話していたが、活動範囲が百合ヶ丘の外までとなると余計に結梨が目にする機会なんて──
「ま、亜羅椰と同格の『フェイズトランセンデンス』も使えてたってことは、そいつがレアスキルを使ってるのを見たことあるか、なんてあんまり関係ないんじゃないか?」
「その名前は、アールヴヘイムの……一体どういう関係なのですか?」
『結梨のレアスキル』絡みに梅が補足をすれば、聞こえた有名人の名に一葉も疑問を投げ掛けるのだが、それに答える結梨の同室相手たる楓の様子は、何処かうんざりしたように。
「別に、ただ亜羅椰さんが見境なく食い散らかそうとしている中の一人に、たまたま結梨さんが選ばれただけですわ。まったく、あの方と来たら梨璃さんに手を出そうとしたのに飽き足らず……」
「「???」」
しかし、生憎とヘルヴォルの一年生二人はその辺りの食った食われたの話とは一切無縁なタイプ故に、後半のブツブツとした愚痴にも全く意味が分からない風に首を傾げるのみだったが。
ともあれこれで合流は済んだと、残してきた二水とミリアム以外の七人でラージ級率いる群れとにらみ合いになったところで、残した二人からの通信が。
『夢結様、救援です!』
『今そっちに雪華様が向かっておる、新型機でな!』
「新型……?」
つまりは、また烏丸の妙なCHARMか。と夢結や鶴紗が身構えたところで、ラージ級──今度もまたクラッシャー種の個体へ激突するように現れるのが、LACにしては随分とスタイリッシュなそれなのだから、各々言葉に困っている中反応するのはレギオンの末っ子コンビ。
「あ、雪華だ」
「かずはー、ロボだよロボ」
「LACだよ。ちゃんと授業聞かなきゃダメでしょ?」
折角のロボに初手跳び蹴りなんてさせている姿に、間違いなく乗っているのは自分のシュッツエンゲルだと謎な確信を持って呟く結梨はともかく、藍の感想への一葉の嗜めるような言い方は少しズレてはいるが、ともあれその間にラージ級を吹き飛ばしながら着地した雪華のLACは、左腕部の武装から光刃を展開し、右腕やライザーから弾幕を張りながら突撃。
『でぇぇぇぇい!』
そのまま二度振るったパルスの刃でラージ級をX字に切り裂き、たまらず離れようとした所へ右腕を伸ばして数度殴り付け、怯ませた隙にマニピュレーターで捕まえると、両肩のライザーを離脱させ、左腕のハードポイントへ連結した状態で装着、ビームソードを展開してジョイント越しに回転させ、削り取るように連撃を叩き込む。
「ん?」
──が、このまま押し切れそうならと最低限邪魔が入らないよう梅たちが付近のヒュージを牽制している中、何故か雪華のLACは急に光刃を消し後退する。
◆◆◆
「おいおい、あれならあのまま倒せただろ?」
『あたしもやれるもんならそうしたかったんだけどねぇ。ダメだこりゃ、もう動かん』
LACの肩に乗りながら野次ってくる梅に中でレバガチャしながら返すけど、海上、そして島に上陸してからもホバーにライザーのスラスターも合わせた最大速度を出していて、いざ戦闘となれば開幕から負担も何も考えていない強引な格闘戦から入ったもんだから、無事試作・実験機段階なこの機体は限界を迎え、明らかにヤバそうな警告が出たからと下がった途端、棒立ちでシステムダウンしましたとさ。
この辺りも、色々設計を切り詰めた弊害なのかなぁ……え、そんなものを後先考えず無理矢理ブン回すな? ごもっとも。
「ま、ここまでボコりゃあケイブに戻る余力もないでしょ。まとめて消し飛ばすよ!」
とはいえLACも完全に壊れた訳でもなく、コックピット内は赤い非常灯に照らされていてもモニターは復旧までの時間表示くらいは点いてたから、後で歩いて戻るくらいは出来るとして、手動操作でハッチを開けて飛び出せば、追い掛けて飛翔するライザーをキャッチして皆の前に降りる。
「で、多分一葉ちゃん特殊弾持ってるよね?」
「はい! 念のため一発持ち込んでいます!」
「どこにあるの? みずぎのなか?」
藍ちゃん、流石に一葉ちゃんでもそれは……なんてツッコミを口にするより早く、ブルトガングのチャンバーから装填済みだった特殊弾が取り出される。
「いや、それはそれで暴発が怖くない?」
「当然その対策のため封は施してありますし、念のためこの休暇中一度もシューティングモードは使っていません!」
「確かに、言われてみればこの島で一葉さんが発砲していた覚えはありませんわね」
楓さんまで言うならそうなんだろうけど、なんでまたそんな縛りプレイを……と呆れているのは顔で分かったのか、言い訳というよりは強い確信を持った返しが。
「別に手を抜いていた、なんてつもりはありません。近頃は藍も千香瑠様たちの手解きで射撃の命中率も安定してきましたし、この島では一柳隊のみなさんもいましたから」
「もうCHARMなげなくてもあたるよー」
「あー、確かに初対面の時は思いっきりブン投げてたね……っと、雑談はここまでか」
ラージ級が浮かべるようになったなら、さっさと仕留めておきたい。となれば、少し通信を飛ばす。
「二水ちゃん、ノインヴェルトで付近のケイブごとまとめて爆破するってなったら、どこがいい?」
『は、はい! 配置を見るに……この先にある森の辺りになるかと』
ふむ、そうなると今いる開けたエリアから少し奥にする必要があるけど……
「だったら突っ走るゾ!」
「はいはい、皆は先に回してて!」
まあ、梅が行動で示すように、ラージ級を群れごと連れてくのが早いか。
◆◆◆
封を解き、シューティングモードへ切り替えたブルトガングへ一葉が特殊弾を装填すれば、正常に機能し銃口の先にマギスフィアが形成される。
「シーリング解除、再装填、チャージ開始……藍っ!」
「わかった。ゆゆー、今夜はダブルルナトラでいくよ」
「いえ、わたしは普段レアスキルを使わないようにして……そもそもまだ日も高いわよ」
とはいえ夢結の返事を聞くまでもなく、藍は一葉がマギスフィアを放った先へ『ルナティックトランサー』を発動し突入しているのだから、どの道フォローは必要か。
「す、すみません夢結様! これでも年度頭に比べれば、藍も大分落ち着いてきたのですが……」
「このくらいなら構わないわ。その代わり、援護はお願い」
「はい!」
そうして夢結もシューティングモードのブリューナクから砲撃を放ちながら藍に続けば、一葉の隣へは楓がスルリとやってくる。
「さて、このまま大暴れにお任せするのも戦場がこんがらがり過ぎますし……一葉さん?」
「ええ、参ります!」
─レジスタ─
彼女からの目配せの意図を察し、揃ってCHARMの切っ先で地を指しながら
「あはははは! そーれ!」
「……確かに、わたしより安定しているみたいね」
この場にシルトの梨璃がいない以上、レアスキルの発動などとてもではないがやれたものではない夢結と違い、レギオン内の浄化系スキル持ちな二人がいない状態でも、藍はノインヴェルトでの役目を確かに遂行していて、ヒュージを蹴散らしてからな夢結へのパスも多少勢いはあっても、『レジスタ』により示されるコースに従っている以上、取るのに苦労する程ではない。
「おーい夢結、後ろに戻すから梅にくれー」
「ええ、回すわ!」
とはいえ感心も程々に、梅が飛び跳ねた頂点へマギスフィアを放てば、タンキエムで受け止めた後夢結とすれ違いながら着地し、来た道を戻っていく。
「おっと、ここで通行止めだ!」
「藍さん、同時に行くわよ」
「はーい」
その動きを追ってラージ級が振り向いたところへ雪華がソードガンを連結しナギナタで背後から斬りかかれば、合わせて夢結と藍も左右を斬り抜ける形で、ラージ級の背後へ。
◆◆◆
「てか、これ私がフィニッシュやる感じ?」
連撃の最後、レーザーブレードを出したナギナタを振り抜きながら後ろへ跳べば、ラージ級の注意もこっちに戻るけど、ルナトラコンビがもう回し終えてるのに、梅が後ろに下がったのってそういう流れなのかとは聞いてみたくなる。
「特に確認してはいませんが、こちらのCHARMの状況も鑑みるに、最後は雪華様が適任かと」
「……ああうん、そりゃあそうだろうけど」
一応こっちは荷物にある程度交換用のパーツはあったし、休憩中にも霊奈さんに見てもらっておいたけど、遭難組はミリアムちゃんこそいても整備に必要なあれこれなんぞ持ち込めてる訳もないのだから、最低限のチェックが限界だろうて。
「雪華ー」
「おっと、言ってたら出番か。雑魚は任せたよ!」
その間に梅から鶴紗ちゃんや楓さんに回って、結梨ちゃんが呼んでるということは、そろそろ決めろってことだ。
なんてラージ級の脇を抜けて合流しようとすれば、例のサマー仕様なグングニルを携えた結梨ちゃんに手を取られる。
「ん?」
「梨璃と夢結みたいにやる!」
えっと、どういう? と雑魚散らしに回ってくれた夢結に視線を向ければ、気まずそうになりながらも返してはくれた。
「その、4月の戦いのことを昨夜話して……」
「なるほど、了解了解」
つまりは、あの感じで直接ぶちこめってことね。ならこのまま……
「じゃあ跳ぼうか、マイシスター!」
「うん!」
手は繋いだまま、マギスフィアをCHARM同士で挟むようにしながら、ライザーのシールドを足場にしての多段ジャンプでラージ級の上を取れば、見上げての迎撃射撃を追い付いたライザーに弾かせつつ、足場を後ろに展開。
「「やぁぁぁぁっ!!」」
最後はその足場を二人で蹴って、槍のように構えたCHARMごとぶつけるダイレクトフィニッシュで決着といこうか!
◆◆◆
「けほけほっ」
「爆発前に離脱したのは確認したけれど……」
結局流れで最後まで藍のお世話担当になっていた夢結だが、爆煙が晴れるのを待って藍を抱えて隠れていた岩影から出れば、答えは空の上に。
「アハハ、もう慣れたもんだナ!」
「これが日常というのも、常識が怪しくなってしまいますが」
「……同感」
梅が見上げながら愉快そうに笑う通り、確かに雪華といえば他のリリィより大分空にいるイメージはあるが、それが当たり前になるのも何か嫌だとは、楓のぼやきに頷く鶴紗も共有できる悩みのようで。
ともあれ今回は結梨をお姫様だっこの形で抱えながら、ライザーのシールドをボード代わりに波乗りならぬ風乗りという具合だった。
◆◆◆
「ふぅ、やれば出来るもんだね」
「おー?」
やったことは単純で、マギスフィアが着弾して爆発するまでの間に連結状態のシールドを手元に呼び寄せ、防御フィールドを全開──後は爆風に飛ばされるままにしてから、ライザーのスラスターだけじゃ流石に二人は定員オーバーだしと、頃合いを見て今の体勢にした感じ。
「一気に降りるよ、舌噛まないでね!」
返事に口を閉じコクコクと頷いてくれたのを確認して、加速する先は直立不動のまま放置なLACのコックピット。シートに軽く飛び下りながら結梨ちゃんを膝の上に座らせれば、そのままの体勢で色々と操作してみるけど、なんとか行けそうだ。
「このロボで宇宙行くの?」
「うん?」
そんな風にシステムを再起動させていると、振り向いてくる結梨ちゃんが首を傾げながらよく分からないことを。
「ほら、やっぱりロボだよ」
「いや、だからリリィズアーマード……」
藍ちゃんの方もぶり返して来て、なんか変な空気になってきたな……と流し気味にLACが動かせるようになったのを確かめていると、迎えに来たのかミリアムちゃんが機体の肩に登ってきていた。
「お疲れ様じゃ。その、結梨のボケはなんじゃ……アニメとかゲームとかの影響でな」
「ああ……」
つまりは、ロボものってなるとその舞台は地球を飛び出て宇宙の彼方! ってのはよくある話で、リリィやらヒュージやらで現代のリアリティラインがわりとアレなもんだから、そこら辺と現実の区別がまだ曖昧ってことね。
「宇宙って、お空のさらに向こうだよね?」
「それはそうなんだけど、この機体じゃあ飛び出してはいけないかなぁ」
無理してかっ飛ばした結果システムフリーズするなんて有り様じゃあ、成層圏のその向こう側になんて届くはずもなく。とりあえず歩けはするから、なんか仮拠点的に作られてた建物のところへ戻ろうか。
◆◆◆
「おう雪華様、この辺りには鳴子を仕掛けておるから気を付けるのじゃぞ。この機体状況では、もうあのような機動は無理じゃろうて」
「またなんとも古風な……」
「みんなでがんばった!」
うん、手作り感溢れる拠点も悪くないとは思うよ。そも今の状況自体がアレだけど。
「あ、みなさーん! 迎えの船が来ましたよー!」
ともかく合図を受けてはLACに張られている紐を跨がせる、なんてことをしていれば少しして浜辺に建てられた拠点まで戻れたけど、二水ちゃんが上から叫ぶ内容からタイミングはよかったったようで。
「にしても、大分力入ってんねぇ。なんか看板みたいなのまで作っちゃって、何々……『梨璃さん大好き「ああああああ!!」どしたの夢結?」
「……ただの自己嫌悪です、お構い無く」
いや、どうせ楓さん辺りが暴走して『梨璃さん大好きですわー』とか刻んだんだろうとして、なんで夢結が急にルナトラった感じ……にしては軽い叫びを上げながらブリューナクでその看板を撃ち抜くなんてオチになるのか?
「むぐっ」
「ここは武士の情けという物じゃ」
多分何かを知ってたのだろう結梨ちゃんは、なんかもう毎度のこととしてミリアムちゃんにお口チャックさせられてるし、もうなんもわからーーーん。