気紛れ進行でいたら数ヶ月遅れになりましたけど、ようやくこの日を迎えられた…作中で後半年、やりきれるかなぁ。なお開幕はまだ誕生日前。
それと、元々上げだした日的には今日で著作は四周年なので、こんな時間ですわ。
「でさー、そういえばだけど雪華姉、明日誕生日でしょ?」
少し遅めの晩御飯を、ライブステージに人を持ってかれて結構空いていた海の家的なところで食べていると、向かい側に座るあやちゃんから言われたのはそんな話。
「そうなのですか? おめでとうございます!」
「いや、何時間か気が早いって」
となると初耳な一葉ちゃんには隣の席から祝われるけど、性格的に前日に知っても当日で届くような何かを用意しそうだなあと思えるから、別に自分からはアピールしてないだけ。
……レギオン内は、どうせ二水ちゃん経由で一人残らず筒抜けだろうから、今更として。
「てか、さっき自分で手ぶらアピールしてたじゃん」
「ふっふっふー、そういうところは意外と雪華姉も甘いようで」
どういうところよ。と後ろからヘッショしてきそうな妹台詞はともかく、あやちゃんは制服の首元から腕を突っ込むと、中から何かを取り出してくる。
「いや、ポケットじゃないんかい」
「中のが落ちないでしょー、はい」
年頃の女の子がそれでいいのかとは言いたくなるし言ったけど、ともかくラッピングの袋の中から更に紙袋なんて二重に包まれていたのは──
「指輪……の玩具でしょうか?」
「うん、雪華姉これ探してたんでしょー」
「あー、小さい頃の話よく覚えてたね?」
といっても私が百合ヶ丘に入る少し前だから、五年ちょっとくらい前だけども。
何にせよ、私の趣味に親の影響が強いってことは、当然こういった〈グッズ〉も父さんが子供の頃のそれなのだから、私が今更に集めようにも生産なんてとっくに終了してる絶版ものだらけで、
だからこの指輪も、四色ある内最初の赤だけがない……なんてことをあやちゃんが遊びに来た時にボヤいたりもしたけど、わざわざ毎年探しててくれたのか。
「ま、プレゼント考えてるところにちょうど売ってたってだけなんだけど」
「……あはは、まあでもありがとうね」
たまたまでも覚えててくれたんだから、お礼を言いながら左手の人差し指に指輪をはめて、バイザー状のパーツを下ろす。
「仮面、ですか?」
「お、いい感覚してるね一葉ちゃん」
言われてサッと左手を指輪を見せ付けるように掲げ、右手は手の甲を見せながら横に真っ直ぐなポーズを決めてみせるけど、流石に数十年前の作品ともなればまあ反応もイマイチで、この場で分かるのは一緒に見てたあやちゃんくらいか。
「チェンジ ナーウ」
「なんでボスの方よ?」
そんなあやちゃんはベルトの音声を真似てるけど、劇場版の黒幕もこっち系だったし、多分その認識でいいはず。味方にも同じのいたろって? 折角作った量産型の使い回……ゲフンゲフン。
◆◆◆
そして水着コンテストも終えて現地解散の後、百合ヶ丘まで戻って色々済ませていたらもうとっくに消灯時間は過ぎてたぞと、形だけでも寮のベッドに寝転んではみるものの、どうにも眠気はこない。
「梨璃ちゃんじゃないけど、疲れたって以上にエネルギーというか何かを貰ったのかねぇ?」
だとすれば、アイドルリリィひめひめ恐るべし──勿論ガールズバンドの子たちとか、他の出演者や裏方の皆あってのステージだったとしても、そうなるよう纏めた、ミチシルベとしての力ね。
「……ん?」
なんて寝れないながらに、頭の後ろで腕を組みしみじみと思い出していたら、ドアの方から鍵を差し込まれた感じの音が。
待った、姉さんたちが卒業してから、誰かに合鍵を渡した記憶なんて……いや、勝手に作りそうな輩になら心当たりはあるけど。なら狸寝入りに限ると、ドアを開けられる前に布団を被って壁の方を向き、全力で寝たフリ。
「よしっ」
(……結梨ちゃん?)
しかし、聞こえた侵入者の声は予想していた百由とかのアーセナル連中でなく、一番こういうことと無縁そうな……いや、工房寄った時にでも渡されたか?
そもグングニルが専用どころじゃない魔改造されまくってるってことや、近頃百由の謎なサマー仕様をよく持たされてるの見るに、機会はやたらと多そうだし。
「よいしょ、よいしょっ」
ともかく入ってきた結梨ちゃんが何かゴソゴソしているけど、今更布団退けて顔を見せるのもなんか気まずいし、この子なら特に変なこともしないかと、いい加減日も回ったろう時間だし寝たフリを本物にしようか……
◆◆◆
「……なに?」
「雪華、お誕生日おめでとう!」
いやまあ、昨日の今日だし9月1日──つまりは私の誕生日なことを忘れてるつもりはないけど、ベッドとベッドの間でプレゼントに埋もれてるシルトに寝起きから祝われると、どう反応したものやら。
「というか、そんなにいっぱいどうしたのよ?」
「なんか、雪華の部屋に行くって言ったらみんながくれた」
この場合の『みんな』は寮から寮までの間に出会った面々として、そんな埋もれる程知り合いは……いや、わりといるか?
近頃はレギオンぐるみの付き合いも増えて来たし、そこや百由経由も考えると、細々とした縁は増えてきてるはず。
「それは分かったけど、一晩中起きてたの?」
「多分? 雪華がいつ起きるかわからないし」
えぇ……いくら日曜だからって昨日あれだけはしゃいだのにオールまでって、これが若さか……いや、私だって今日から十八歳だけど、ガチの年齢一桁じゃんこの子?
「とりあえず、そろそろ出てきたら?」
「うん、しょ」
で、いざ立ち上がってプレゼントの山を抜け出せば、今度はポンポンを両手に持ったチアガール姿って、朝からツッコミどころしかないのは本当になに?
「いや、そんな服持ってなかったでしょ???」
「うん、だから依奈に借りたの」
なんでまたそんなとこに……そういえば、二水ちゃん情報によれば確かあの子コスプレ趣味だっけか。しかも自分が着るんじゃなく、他の子に着せてご満悦するタイプの。
「あー、とりあえず私は着替えるけど」
「じゃあプレゼントはわたしが片付ける!」
うん、抜け出る時にちょっと崩れたからそれはそうなんだけど……誕生日ってこういうもんだったかなぁ?
◆◆◆
「雪華様、お誕生日おめでとうございます。ふふっ、朝から仲むつまじいですね」
「ありがと……いや、渡した覚えのない合鍵持ってたり、伝えた覚えのない誕生日知られてたりで、誰の仕業やらなんだけどね」
さて、なんかやけに引っ付いて放してくれないぞとそのまま朝ごはんも一緒な訳なんだけど、結梨ちゃんがチア衣装のままなのにすれ違う誰もツッコミ入れないどころか、対面の席に座ってくる祀さんすらノータッチなのはなんなのか。たかが趣味で、依奈がそこまで根回しする?
ちなみに何の偶然か、三人揃って朝の定食はおかずに焼き鮭を選んでた。骨は取られてるから、日本のスタイルに慣れてない子でも食べやすいやつ。
「候補の相手が多くて分からなくなる程、雪華様も縁に恵まれているということですよ」
「うん。そこは否定しないけどさぁ、なーんか狐に摘ままれてる気分」
釈然としないまま定食の味噌汁をすすって、急に結梨ちゃんがこんなサービス全開になった理由を考えても、本人が言うように私の誕生日だって以外に……いや、それにかこつけて衣装を用意した依奈や、悪ノリ全部で便乗しかねない同じレギオンの亜羅椰ちゃん辺りに、何か吹き込まれたか? ある程度の無茶振りなら、何も考えず頷きそうだし。となれば──
「えっと、ところでアールヴヘイムなんだけど」
「今日は出撃が入っているので、夕方まで帰らないはずですね」
うぇい、護身は完成済みですかそうですか。仕方ない、とりあえずあっちの部屋行って服だけでも戻させよう。
「了解、なら帰ってきたら問い詰めるとして……ごちそうさま」
「ごちそうさま」
お、ちゃんと結梨ちゃんも手を合わせてる。すっかり馴染んで来たなぁと感心しつつ、まずトレーを返して、それから新館だ。
◆◆◆
「お邪魔するよー」
ともかく、鍵は家主の片割れがいる以上当然あるしと部屋に入ってみれば、返事がないなと中を見渡してみても楓さんがいない。ご飯は遅めだったから、向こうが先に食べてるはずだけど。
「まあいいか、とりあえず──」
「ん、ふぁ……」
──振り向けばオール明けに朝食べた後だしで、結梨ちゃんは大きな欠伸をしてかなり眠そうだから、制服よりは部屋着かな、うん。
「ほら、借り物で寝る訳にもいかないんだし、まず脱いで」
「んー……」
半分寝てるのもあって素直に聞いてはくれるけど、動きも大分ゆっくりだから適宜私が手を貸すことに。こういうところはまだまだ子供だよねぇ。
「はい、ベッドだよー」
「ん……」
そのまま着替え終える頃には、もうただ立っているだけで頭も身体もフラフラだから、抵抗もなく寝かせられる。
「……、……、……」
後は布団を被せて寝かしつける段階だけど、もうこの豪華過ぎるベッドなら放っておいてもグッスリだろうし、子守唄なんてガラでもないから、トン、トン、トンと一定のリズムで布団の上から手を当てていれば、無意識に私の空いてる手を握っていた結梨ちゃんの手がほどかれたし、直ぐに夢の世界へ旅立ったようで。
「さて、どうするかな」
どうせ予定も特にないし、この時間ならお昼過ぎくらいには起きるだろうから、そのまま遅めの昼食を学食にとんぼ返りでいいか。
◆◆◆
「あら、案の定こうなりましたのね」
「ま、流石にオールはまだ早かったってことでしょ」
そしてベッドの横に椅子を持ってきて、適当にスマホを弄っていれば、もう一人の家主サマのお帰りな訳なんだけど……
「で、いつの間にこっちに参加してんのよ」
「ふふっ、先に誰がいたかを考えれば、経路は自ずと見えると思いますが?」
ともかく私用のケータイから移した『連絡網』のメンバーを見ていたら、いつの間にか楓さんが加わっているな? と気付いたからって本人に確認を取れば、先月の恋花や姫歌ちゃんとの打ち合わせに『これ使う?』と葵ちゃんに勧められて、何故か元締めな姉さん側も即刻OKを出していたという話が。
「いや、別に私がどうこう言っても仕方ないけどさ、あんま面白い話する場でもないからね?」
「ええ。だからこそ、というところもありますが」
まあ、どの道楓さんは実家が関わっていた以上今更無関係を装える程薄情でもないし、こうして結梨ちゃんの同室相手を引き受けてもくれたのだから、その後の面倒も最後までしっかり見るつもりなんだろうけど。
それに、私より楓さんの方が情報のアンテナ広いのは事実だしなぁ。始まりな鶴紗ちゃんの時にしても、結局私は手段を用意したに過ぎないし。
「んぅ……あさ……?」
「ほとんどお昼かなぁ」
なんて近くで話していたからか、予想より早めに結梨ちゃんが目覚めれば、目を擦りながら楓さんに気付く。
「かえで……? おかえりー」
「ええ、ただいまですわ。といっても今からお昼にでもと、一旦戻っただけですが」
「おひる……わちゃしも……」
まだあんまり呂律も回ってないけど、モゾモゾと布団から抜け出すからにはやる気というか食い気は十分なようで、折角だし今度は楓さんのお手並み拝見と行こうか。
「お暇でしたら、制服くらい取って頂いても罰は当たらないのでは?」
なお、結局見てるだけは許されなかったけど、寝惚け姫を起こしながら着替えさせるのはもう結構手慣れてたとさ。
◆◆◆
流れで今度は楓さんも一緒にお昼となった訳だけど、私の頼んだやつを締めに入れば、どうにも微妙そうな反応が。
「……なんなんですの、それ?」
「カツカレーうどん定食」
前にゲームで聞いたやつをなんとなく学食で頼んでみたら、本当に出てきてマジか……ってなった代物だけど、私はカレーうどんにトンカツを乗せたやつに、麺を食べ終えたところでライスを投入するスタイルで食べる主義。
「カレー?」
「まあ、出汁で割ってるから大分食べやすいとは思うけど、もうご飯も入れてるし」
そも私が食べれるくらいだから、元から結構甘口寄りにはして貰ってるんだけど。なんて話してる途中、横から伸びてきたスプーンにひとすくい持ってかれる。
「あむっ」
「で、このまま私は時間までシルトと仲良くでいいわけ? そっちとしても」
「あら、どうなさるかはご自由ですわよ?」
いや、そうは言っても結梨ちゃんが寝てしまったのは誤算だとして、わざわざ深夜に私の部屋にプレゼント持ってきた段階から、色々と仕込みが始まってそうな気配は……
「……あっ」
「どうしたの?」
「いや、そういえばプレゼント積むだけ積んで、中身確認出来てないなぁって」
というか、いくら結梨ちゃんが小柄かつ座ってたとはいえ、人一人が首から下埋まるくらいには、私ってプレゼント貰えてたんだな……レギオン含む身内でそこそこ稼げてるとしても、なんか実感があまりない。烏丸隊の頃は、誰もそこまでの心の余裕なんてなかったし。
「うん、時間潰せる言い訳は出来たから、そっちは気にしないでって伝えといて」
「はいはい、承りましたわ」
我ながらやり取りがわざとらしいけど、誕生日パーティーなんて梨璃ちゃんに梅にと、レギオン内じゃ恒例になりつつあるんだから、もう暗黙の了解ということにしておいて。
◆◆◆
「……え、こんな来てるの?」
夕方頃、時間だからといざ結梨ちゃんに手を引かれてラウンジまで連れてこられると、規模がとんでもないことになってるな?
軽く見ても同盟レギオンなエイルはともかく、アールヴヘイムやサングリーズルも結構な割合いるみたいだし。一年は私の知り合い以外に、クラスメイトも呼んだか?
「あ、雪華様来ましたよー」
まあ、本日の主役到着ってなるとそうまじまじと眺めてる時間もないまま、駆けて来た梨璃ちゃんを合わせた二柳に左右を挟まれて窓際へ。
「ほい、挨拶挨拶」
「おう。ってマイク投げるんじゃないのよ!」
そうして配置された途端、梅が当然のようにマイクを投げ飛ばして来るから、受け取った後スイッチを入れて……どうしろと。
「あー、夏休み明けの校長先生の長話みたいなのは趣味じゃないし、とりあえず私の誕生日会に集まってくれてありがとうと、うちのレギオンの子たちに誘われた組は楽しんで行ってね?」
「はいジュース」
今度は梅が近くのテーブルから取ってきたグラスに入ったオレンジジュースを渡されるなら、さっさと始めろってことか。
「じゃあ、かんぱーい!」
「「いえー!」」
で、始まったと思えばスッと横に避けてた梅に次は背中を押されて、何かが蓋に隠されてるテーブルまで連れてかれるけど──流石にこれが何かなんて、言われなくても分かる。
「いっせーの」
「せっ!」
多分さっき下がったついでに持って来たのだろう梨璃ちゃんと結梨ちゃんが、タイミングを合わせて蓋を上げれば、その下にあったのは思った通りのバースデーケーキで、ガトーショコラにイチゴのトッピング。
「あれか、私のカラーにって?」
「えへへ、レギオンの一年生で頑張って作りました!」
なるほど、結梨ちゃんに私を拘束させてた一番の理由はこれだったと。いや、にしたって昨日帰ってからじゃほとんど時間なかったろうに。
「では今からロウソクに火を点けますので、少々お待ちを」
そこで神琳ちゃんが着火用ライター─キャンプとかで使うような、かなり長いやつね─を持ってくるのは若干ミスマッチなようで、そんな感想を吹き飛ばすように雨嘉ちゃんと二人で掲げて点けようとしてるのは、分かりやすくツッコミ待ちなのか。
「しぇ、神琳……?」
「あら、ついなんとなくで。後はお任せしますね」
とはいえ先にさりげなく巻き込まれた雨嘉ちゃんの方が正気に戻るものだから、名残惜しそうに離れるだけに終わるけど。
「人のケーキでなにやってんのよ……」
「ふふ、雨嘉さんにはお味噌汁ではダメでしたので」
「味噌汁……? ああ、『毎日お味噌汁を作ってください』とか、そういうプロポーズまがいの」
そりゃあ神琳ちゃんはもう日本来て長いだろうけど、まだ来日数ヶ月な雨嘉ちゃんには、そんな日本語特有の小洒落た言い回しなんて通じなくて当然でしょうに。
なお、何の気なしにOKを出した後、発言の意図が気になった雨嘉ちゃんが通りすがりの二水ちゃんを捕まえて確認した結果、その日神琳ちゃんが部屋に帰ってから寝るまでずっと、目を逸らしながら真っ赤になってて可愛かったとか。お、おん。
「まったく、人の誕生日会だろうと遠慮がないねぇ?」
「ええ、身内の集まりの延長線上のようなものですから」
私の、でなく各々の知り合いまで呼んでる以上、そこはそうなんだろうけども。
てか、それでも結構招待受けてくれたんだなと、私のパーティーなのか皆のパーティーなのか分からなくなりつつも、ロウソクに火を点け終えた雨嘉ちゃんが離れれば、また私の番。
「ふー……ってうわあ!?」
一息に火を消した途端、食事用のとはいえナイフが顔の横を通りすぎるのは、流石に心臓に悪いでしょうが。と避けながら横を見れば、切り分けたケーキをお皿に乗せて差し出されるんだから、言葉に困る。
「ん、ありがと。って言うのもなんか違う気がするんだけど?」
「いやー、急かされたもんだから仕方なく」
食べる用のフォークは「どうぞ」と何事もなさそうに神琳ちゃんがサッと渡してくれるから、下手人──百由へ文句混じりに呟きながらケーキを一口いけば、主賓が食べたからオッケーと言わんばかりに、その影からミリアムちゃんが出てきてケーキを自分の皿へ。
「……ずっと待ってたって?」
「ミーさんは味見も一番多かったですから」
「~♪」
つまり、大分甘めになってると。別に私は辛いの苦手なだけで、チョコ系のビターさは多少なら大丈夫なんだけどなぁ……単にお子様舌と思われてるだけか?
なんて美味しそうにケーキを頬張るミリアムちゃんを眺めつつ、一旦テーブルに置いておいたオレンジジュースをゴクリ。
◆◆◆
で、挨拶回りじゃないけど、とりあえず一通り顔を出しとくべきかなと思えば、まずは端のテーブルへ。
「にしても、まさか生徒会長が二人も来てくれるなんてねぇ」
「流石のわたしも、クラスメイトの誕生日会だと誘われれば断りはしませんよ」
レギオン同士が同盟を組んでて、訓練とか抜きでも顔を会わせることの多い祀さんはともかく、史房さんまで来てくれたのはそういう理由らしいけど……そこの部分をレギオン内で話した記憶もないのに、その文句で誘われてるのはどうせ二水ちゃん情報。
で、彼女を誘うような理由がある相手としたら──
「贖罪か何かのつもりだったら、あの子はそんなの気にしてない、とは言っておきますよ」
「あの件については、所詮ただのポーズですから。本気にされても困ります」
「烏丸からの手紙の内容も、二人が離れた後で夢結も含めて共有しておきました」
そりゃあそうか。真面目過ぎて気にし過ぎてないかだけ気になってたけど、裏の事情を知ってるなら茶番にもなりゃしない。
「ならいいよ、別に何が起きたでもないしね」
「では改めて、お誕生日おめでとうございます」
「ん」
史房さんへの返事代わりにグラス同士を軽く合わせて鳴らせば、隣の祀さんにも同じようにして他を回ろうか。思った以上に盛況だし。
◆◆◆
「へー、生徒会が先なんですねー?」
「いや、史房さんはクラスメイトとして来てくれたんだってば」
次に向かった先の、シュッツエンゲルで来てた聖からの言葉がからかい全部なのは、ジト目を含めた態度を見れば一目瞭然。ならそんなやつは置いといて、先に汐里ちゃんとグラスを合わせる。
「お誕生日おめでとうございます! 雪華様、プレゼントはどうでした?」
「うん、よくあんなの見付かったね?」
汐里ちゃん、というより聖と連名になってたプレゼントは前々から探していたあるロボのプラモで、鎧武者のような出で立ちにCHARM的な武器やサブアームもあって、中々素敵性能も高いやつ。当然、例によって相当古い作品のそれ。
「実はですね、お姉様の昔の伝手で見付かったんです!」
「そういうことなんで、もっと感謝してくれていいんですよー?」
「いやまあ、感謝は十分してるけど。だからプレゼントくれた面々には、ちゃんと顔見せとかないといけないでしょ?」
という訳で、聖ともグラスを合わせて……もう中身少ないなと、二人のいたテーブルから今度はグレープジュースの入ったグラスをもらっておこう。
……なんか、妙に本格的なんだよなぁこの辺り。誰の仕込みなんだか。
◆◆◆
「むぐむぐ……あ、雪華様」
「いや、満喫してんね?」
今更だけど、ビュッフェ形式の立食パーティー的な空気でやってはいても、テーブルは元からラウンジで使ってるやつなんだから、天葉のやってるように椅子に座って食べることも出来はするけども、それにしてもどこぞの赤い大尉(わんこ)みたく自由にドカ盛りしてて、遠慮が欠片もない。
「まったく、ソラってば樟美が厨房入ってるって聞いた途端これだもの」
「アハハ、そりゃあシュッツエンゲルとして負けられないよナ?」
近くで程よい量を取って呆れてる依奈のぼやきに混ざって来た梅の言い回しへの、食べることの勝ち負けって何よ? なんて疑問への答えは、そんな梅の視線の先に。
「「…………」」
「なるほど?」
そこでも結構な量を取って、座って食べている同室コンビが一組──どちらかというと鶴紗ちゃんが黙々と食べているところへ、柚子ちゃんがせっせと用意してる感じだけど、自分の分も確保して隙を見て口にしては目を丸くしているのだから、樟美ちゃんの〈料理長〉なんて肩書きも流石というか。
「てか、依奈は人のシルトに何吹き込んだのさ?」
「似合ってたんだからいいじゃないですか」
何はともあれ依奈を捕まえたならと聞いてみても、事実陳列の話題逸らしで誤魔化される。いやまあ、そこは否定しないけども……
「で、ついでっちゃなんだけど今週は向こうの方の都合がついたから、そっちのは悪いけど来週以降今月中になるとは」
とりあえず私も何か摘まむかと、ローストビーフのサラダでも取りながら依奈に伝えれば、予想はついてたのかそこまで残念がってはいない反応。
「構いません。元よりこっちが頼んでいる側ですし、少なくともレギオンはあの子の味方でいてくれるみたいだもの」
「お、なんだなんだ、悪巧みの話か?」
まあ、結局依奈の目的も聞かされた以上悪巧みと言えば悪巧みなんだけど、正直私たちよりよっぽどヤバいだろう姉さんの企みの準備が整う前に、一時的にでも保護できればってところはなきにしもあらず。レギオン単位が理想だけども、どうなることやら。
「あ、それとお誕生日おめでとうございます」
「そんなついでみたいに言われてもねぇ……」
笑顔でモグモグしながらって、喋るか食べるかどっちかにしなさい。なんてのはシルトへの愛の前では些細なこととして、姉の姉側はどうなんだろうなぁ……なんて一瞬思いはしても、少し離れたところから天葉の笑顔を眺めてる若菜の満足そうな様子を見るに『ソラちゃんが幸せなら一番』と惚気しか言われなさそうだから、そっとしておこう。
◆◆◆
さて、厨房にも手が回ってると聞いたからには、確認しに行きたくなるもので。主賓がパーティー抜け出すのはどうかって話は、まあ梅の前例もあるし、そも神琳ちゃんが言ってたように身内の騒ぎ場みたいなもんだから、少しならセーフってことで。
「それで、わざわざこちらに来たと」
「結構な人数になってたし、それだけの分を生徒で用意したって聞いたら、お礼くらい言わないとダメでしょ?」
意外にもそっちで全体の指揮を執ってたのは楓さんだけど、パーティー慣れって意味なら確かにかなりしてそうか。で、料理の方は樟美ちゃんが中心にやってるのは当然として──
「あ、二水ちゃんもこっちなんだ?」
「あはは、少しでも人手がいるならと」
まあ、キャンプ趣味なら手慣れてはいるよね。なんて少し三人で話していると、ピンクのエプロンを着けた樟美ちゃんが、大皿をふたつ持ってやってくる。
「つ、次はこれをお願いしま……雪華様?」
「ん、了解。天葉優先で持ってくよ、色々ありがとね」
内訳はハンバーグに餃子と、ガッツリ行ける感じだし、料理長へのお礼も済ませたならさっさと戻ろうか。
◆◆◆
「あ、雪華様いました!」
「抜け駆けで料理取って来たナー?」
「ずるい!」
「んお?」
なんか、ラウンジに戻った途端速攻で囲まれたんですけど? てか天葉は文句より早く箸を割り込ませて餃子を取るでない。見た感じタレの方は最初からあったみたいだから、貰ってきたのは早く減ったからって追加分なんだろうけども。
「まったく、パーティーの主役が我先にと抜け出してどうするのですか」
「いや、料理の方も皆が用意してくれてるって聞いたら、一度確認がてらお礼にね?」
夢結に嗜められたのに対する答えは、言い訳でもなくただの本心、というのは樟美ちゃんたちが用意してくれてるって話をしてた依奈に同意を求めれば一応頷いてくれたから、納得はしても呆れからの溜め息が返ってくるのみ。
「その代わりじゃないけど、追加の料理は貰って来たからさ。天葉はとっくに食べてるけど」
「じゃあハンバーグもーらい。おーいときねえー」
おう、こっちの隊長さんも遠慮ってもんがないね? なんかもう毎度の事になりつつある
「なら、もっと貰ってこよ「残念ながら、もう店じまいですわよ」
なんてまた抜け出そうとしていると、後ろから楓さんたち厨房組が作り終えた料理を各々手にしてやってくるから、言う通りのようで。
「厨房を借りられる時間も限界がありますもの、これで打ち止めです」
「ま、全員が天葉レベルでもないなら足りはするでしょ?」
言ってる側から席に戻った天葉の元に、樟美ちゃんはカートで駆け寄ってるし……カートで?
「ほら、パーティーの主役が入り口でぼさっとしてても仕方ありませんわよ」
「はいはい、後は誰が来てるかね」
◆◆◆
「……風?」
さて、慌ただしい空気のまま過ぎ去った誕生日パーティーを終え、部屋に戻ったら窓を開けた覚えもないのにそんな状態となれば、間違いなく誰かの──なんて答えは、開けっ放しな窓の中夜空をバックに佇む、黒ずくめのスーツ姿。
「やれやれ、お仕事抜け出して来た感じ?」
「今日連れてたのは霊奈だけだし、車の用意して待ってくれてるだろ」
お互い遠慮がないのはいいけど、その結果油断したら笑顔でノーガードの殴り合いみたいな感じになってる節あるからなぁ、この二人。
ともかく何かしらの包みを抱えた姉さんがこの日にわざわざ私の部屋に……なんて理由を聞く方が野暮だけど、すぐに放り投げてくるのをキャッチした頃にはもう降りる体勢なのは、ちょっと待てと言いたい。
「いや、もっとこうあるでしょ?」
「んあ? ああ……その……お誕生日、おめでとう」
「……ふーん?」
外を向いて小声になってはいても、普段のわざと粗野に振る舞っている感じとは違った言い方、あの日下北沢での電話越しに油断していた時に近い、素の姉さんをようやく私の前で出してくれた、ね。
当然、何も理由がないなんて思うにはどうにも付き合いが長過ぎたから、裏にある理由を勘繰ってしまう訳だけど──
「ま、いっか」
今日くらい、誕生日にデレてくれたで済ましてあげよう。なんて飛び降りるのを見送りながら思う辺り、私も結構浮かれてるのかな?
「『9月5日、朝8時にこの場所に』……って、はぁ」
などと甘えた空気も、誕生日プレゼントにしては味気の無い、犯行予告に怪盗が送ってくるようなカードが中身でしたなんてオチで、結局吹っ飛んでしまう訳だけど。