アサルトリリィ~円環の赫星~   作:ですティニー

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前回のあらすじ:密会とちょっと前倒しと巻き込まれ訓練と。
さて、ここもやりたかったエリアそのなんぼか。でも例によって読み返してみると疑問符が多々、これも瞬々必生のサガか…故に根回しはしっかりしとかんとね?


ラブレターは突然に

 結局日が暮れた頃に、鶴紗ちゃん連れで帰ってきた梅が即座に祀さんに連行されてったというオチはともかく、その時鶴紗ちゃんから聞いた『戦闘中、()()()()()()()狙撃の後、何度か地面の下から爆発でも起きたような振動がした』という報告は、即ち目的地な実験場か何かが烏丸──というより例の部隊に襲撃されたということなんだろう。

 

「多分、前後の流れ的にヘルヴォルの誰かが実験にでも付き合わさせられてたんだろうけど……ま、そこは今から聞けばいいか」

 

 そんな私はいつも通りに遅めなお風呂上がりに、寮の自室で『連絡網』のアプリを立ち上げているところだけど、夕飯後にチラリと見てみれば『音声通話可能にしときましたよー』と霊奈さんらしきメッセージが入っていたからと、今夜は都合の合ったメンバーだけで試しをしようというのが今の状況。

 

『で、こっちは今指定されたネカフェだけど、皆は?』

 

 いざ繋いでみれば、エレンスゲ校内での通話は流石にまだ厳しいからと瑤と揃って個別に指定のあったらしい恋花が確認を取ってるとこだったから、入室のアイサツついでに返そうか。

 

「元より寮だと一人でーす。てか、そういう意味だと楓さん大丈夫なん?」

 

『結梨さんならいつも通り先にグッスリと眠っておられますわ。それと、葵は先程出撃が入ったから今日は無理そうだとか』

 

 そう語る楓さんはなんかソファに腰掛けて一人グラスを傾けてそうな雰囲気、中身は多分昼間梨璃ちゃんに貰ったラムネ辺り?

 

『こっちも今ロネスネスは出てるから、代わりに椛とだよ』

 

『よろしくお願いいたします』

 

 なんて今夜の特別ゲストな感じで椛さんが挨拶していると、続け様の入室音が。

 

『お、お待たせしました!』

 

『いやいや、ちょうど集まり具合の確認中だったしへーきへーき。結局、紅巴も姫歌たちの部屋からだっけ?』

 

『うん、だからぼくもいるよー』

 

『まったく……ただの雑談って訳じゃないのよ? とりあえずマシュマロでも食べてなさい』

 

『あーん。むぐむぐ』

 

 なんて恋花の確認に返す灯莉ちゃんが姫歌ちゃんに餌付けされていると、事前に聞いてる中では最後の入室者が。

 

『え、えっと、今幸恵さんは忙しくしてるので、ルド女はわたしだけです』

 

 確か、幸恵は最近自主結成レギオンを作ろうとしてはいるけど、ルド女なんて上層部がイコールでゲヘナなのもあって、色々と難航してるんだっけ。

 

「ん、とりあえず揃ったね。で、ヘルヴォルは誰がやられたのさ?」

 

『毎度の藍ですよ。ったく、ラボの連中も折角のコーディネートをまた台無しにしてくれちゃって……前回はウチのリーダーの仕業だけど』

 

 ああうん、その『前回』で一葉ちゃんや千香瑠に着せてたような気合い入ったのを、藍ちゃんにも用意してたっていうのは辛うじて残ってた小物からも察せられてたけど、休日だからとおめかししてたのに急な呼び出しとか、これだからゲヘナは。

 

「ま、そこはしっかり爆発オチになったみたいだけどさ。姉さんたちの手で」

 

『毎度思うけど、フットワーク軽すぎないあの社長さん? こないだも、国からの通達が出てすぐ生徒会にあの依頼届いてたみたいだし』

 

 楪の呆れ半分な反応も、結局あの一件自体が炙り出しのトドメみたいなところはあったし、これまでの話からも政府内は『消された』面々以外を軒並み掌握済みだったからこそ、それだけ早く動かせたんだろう。

 

「今日は私と会うから、半分オフだったってのもあるだろうけどね。トドメにウチの子からのタレコミもあったし」

 

『うん、鶴紗さんが藍のこと助けてくれたって聞いてる』

 

 それが上手く行ったからこそ、後から動いた姉さんたちも、迎えに行った梅も間に合ったんだ。だからこれは、鶴紗ちゃんの勝ち取った確かな未来というだけ。

 

「で、来週私らレギオンで東京行くから、また何か起きるとしたらそのタイミングだとは思うんだけど」

 

『そりゃあ同盟レギオン同士の活動としてガーデンに話通しちゃってるし、上の連中にも筒抜けだろうけど……言い出しっぺがあの〈プランセス〉って、マジっすか?』

 

「勿論、サジマジバーツよ」

 

『なんでそんなレトロなゲームの例えなんですか……?』

 

 それを分かる姫歌ちゃんも物好き側な気がするけど、戦術的理解のためにSRPGを嗜んでる子は、結構いるのかどうか。私のはただの趣味だけど。

 

『っていうと、アールヴヘイムの依奈か。治や(あずさ)と同じ部隊だったよね?』

 

『ええ、第3部隊のはずですわ』

 

『つまり、千香瑠さんがいた部隊の隊長でもありますよね?』

 

 今日は純もいないからと、鬼の居ぬ間に楪が懐かしそうに迎撃戦の話をすれば、椛さんや佳世も乗ってくるけど、そこまで進めば色々見えてくるようで、続くのは何処か納得したような楓さんの声。

 

『ああ、ですから雪華様は近頃依奈様や天葉様とよく会って何か企んでいたと』

 

「人聞きが悪いなぁ。あたしゃあ善意の協力者だよ、善意の」

 

 そもそも依奈たちにこうして頼られたのも、これまでの縁があってのことだし、だからとっくに姉さんたちにも話は通ってる。

 ──というかそうでもないと、まだいつ状況も分からぬゲヘナどもに狙われるか分かったもんじゃない結梨ちゃんを連れて、東京になんぞ行けますかっての。

 

「それで、日程の方はこのまま行けば10日か11日、来週の火曜か水曜ね」

 

『あー、水曜だとセインツ(ウチ)もロネスネスも時間によっちゃ出てるか。流石にエレンスゲ寄ってからだし、午前中ってこともないでしょ?』

 

「一応大元の目的は合同訓練と、ついでにエレンスゲを案内してもらうかって部分だし、遅いとおやつ時とかになるかなぁ」

 

 その準備やら移動やらの所用時間を考えたら、台場に行くからって校舎に直接ご挨拶なんて暇はなさそうだ。

 

「ま、そんな訳だから二人もいくら同盟レギオンとはいえ、こっちの都合に付き合わせちゃって悪いね」

 

『いやまあ、それ自体はいいんすけどねー。ウチのリーダーなんか、めっちゃ乗り気だし』

 

『でも、一葉がああなってる時は大体足元がお留守。その分こっちで気を付けないと』

 

 そこはまあ、前回の調子のままじゃ今度は行く場所も行く場所なもんで、何か失くしましたじゃ済まないぞと。

 

「で、ついでに近況報告とかあれば聞くけど?」

 

『うーん、ルド女はある意味ではいつも通りといいますか……も、勿論、悪い意味で』

 

 つまり、相変わらず誰かを狙ってヒュージをけしかけたりが日常茶飯事、ってことね。近頃の有り様から、そんな調子のままじゃそろそろ粛清リストに入りかねんだろうに、そこまで考えが回らんのやら……

 あるいは、ルドビックラボはおじさまが表面上甘い顔をしてるのを信じきっていて、姉さんたちはあくまで親のやり方に逆らう跳ねっ返り扱いなのかどうか。ゲヘナがここまで実験のことがバレていても、リリィのことをたかが子供と舐め腐っているのなら、後者のが可能性は高いか?

 

『エレンスゲは、あのアールヴヘイムからのご指名ってことで一部が浮き足立ってる感じはあるけど、それ以上になーんか雲行きが怪しくなってるっていうか』

 

「っていうと?」

 

 今日の下請けが爆破されました、って件が伝わったにしては恋花の言い方が少し遠回しだから、とりあえず続きを促してみる。

 

『どうせコードネームかなんかなんでしょうけど、『バイザー』ってやつが主導の組織再編で、少なくともエレンスゲのゲヘナはしっちゃかめっちゃかにされてるそうで』

 

 バイザー……っていっても身に付ける方でなく、多分たまに見る『スーパーバイザー』とかの類いかね? 今そっちの意味検索したら、監督者とかだって出たし。

 

『で、そのいかにも管理職でーすさんがなんだって?』

 

『ラボ寄りの連中は廊下やら食堂やら、ところ構わず誰かにそいつの悪口を聞かせたいって感じにブツブツ愚痴ってて、逆に校長寄りの面々はやりやすくなったーとか、そんな具合っすけどね』

 

 ふむ、つまりは反過激派ってところか? でも別に校長派閥と直に接触してるでもないんなら、そんな単純な話じゃあ──なーんかそのやり口、今日聞いたばっかりな気がして仕方ないけど、つまり次の狙いはラボ同士でなく、別れた派閥の片方にだけ肩入れしての、内側からの崩壊か。

 

『そこ、どうなんだろうなぁ』

 

『ほほう、御台場は違うと?』

 

『いや、こっちは直接聞いた訳じゃないんだけど、生徒会の一年が保健室行った時、ちょうど「上の方が変わって色々とゴタゴタしてる」って感じの愚痴を保険の先生がしてたって話が』

 

 さて、そこで楪が投げてくる話題は反ゲヘナな御台場だと不自然なようで、その『保険の先生』とやらがゲヘナ関係者なら、エレンスゲの方と状況は一致するということ。

 ──そも、迎撃戦だなんて分かりやすい『仕込み』が過去にあった以上、反ゲヘナを掲げているからこそ、御台場の中が一枚岩だなんて夢を見てもいられないんだから、獅子身中の虫なのはほぼほぼクロと見てよさそうだけども。

 

『でもそれだけじゃ、いつも通り政府がグダってるだけとも取れるからさぁ、他所の話聞くまで言うか迷ってたんだけど』

 

『でしたら、念のため見知った方にはしばらく一人で保健室に入らないよう伝えておくべきでしょうか?』

 

 とはいえ、椛さんも控えめな対応に済ませようとしているのといい、通っている生徒からすれば「顔馴染みな先生を疑え」だなんていきなり言われても、どうしたって見え方にフィルターがかかるだろうし、ここはあくまで可能性のひとつとしておこうか。どうせこれも姉さんたちが見てるというか聞いてるんなら、それだけ聞き出せれば十分。

 

『で、ついでにこっちの近況ってなるとさっきの出動予定とも繋がってるんだけど、ここ一月ほど変なヒュージが出てるみたいでさぁ』

 

『う、噂は神庭でも流れています。なんでもサーチャーにすら反応がないのに、現地での目撃情報だけはあることから『迎撃戦の幽霊』だとか『ゴーストヒュージ』だとか……』

 

 ほむ、紅巴ちゃんのはいつものリリィオタクのネットワークだろうとして、幽霊ねぇ……

 

『つ、つまり、その場所も……?』

 

『ええ、目撃の報告は迎撃戦の跡地に集中しています。あの辺りは依然として復興も進んでおりませんし、それにしては目撃数に比べて被害の方は少なくて……ガーデンの上層部もあまり噂を本気にしてないようなのです』

 

 そうして私が考えていると、姫歌ちゃんの疑問には椛さんが答え、今度はこっちに振ってくる。

 

『それに、まだあの戦いの跡が色濃く残っているのが、雪華様たちの選んだ理由なのでしょう?』

 

「まあ、ね。私は当時東京ってなると幕張側の準備中にちょっと通りすがったくらいだけど、折角当事者な天葉たちが案内してくれるんだから、色々聞きながらってのも後輩たちには勉強になるでしょ?」

 

 あれ、そういえばその部分は当日のサプライズだって天葉は言ってた気がするけど……まあいいか、細かいタイミングまでは言ってないし、楓さんだけなら──

 

『……では、わたくしは当日梨璃さんと一緒に驚かさせていただきますわ』

 

「悪いね。流石に御台場に筋通さない訳にもいかないからって、ここでも話進めてたからさ」

 

 そんなトラブルも体よく梨璃ちゃんの隣を取る理由にしてくるのだから、本当に誤差でいいだろう。

 

『それで、神庭の方は……えっと、彩文からは『雪華姉に聞いた方が早い』とか丸投げされてましたけど?』

 

「あー、まあこないだ寄った時、ちょっと生徒会のお手伝いをね」

 

 あやちゃんめ、どこまで話していいか分からんからって、随分といい加減な……とはいえ、ここまで無責任に投げられた以上、最低限藤乃辺りの許可は得てるだろうから、どこまで話すかは私次第か。

 

「けど、本当に詳しいところを知ってそうな、元から戦闘してたクエレブレから大した話を聞けたでもないから、ゲヘナが何か企んでたとこにカチコミされて、横浜で見たような特型を出してきたのをしばき倒した~、以上のことは言えないんだけど」

 

『横浜の……確か『クロコ』と呼ばれるタイプでしたわね』

 

 楓さんも後から調べたのか識別名まで知ってるようだけど、恐らくより詳しいのは、いつぞやの『海老名くん』同様ガーデン側にデータのありそうな恋花。

 

『あー、最近こっちで結構見るリジェネ持ちのやつか。んで、クエレブレねぇ……そりゃ、あいつらが動いてたからには間違いなくクロなんだろうけど』

 

『クロコだけに?』

 

『やかましい』

 

 なんて瑤と漫才のようなやり取りをしていても、警報が二人の回線越しに聞こえれば、即座に空気を切り替えている。

 

『ごめん。一葉からだわ』

 

『こっちは、千香瑠から』

 

 そこで二人が通話のために退室すれば、少しして揃って『出撃の呼び出しだった』とチャット欄にメッセージが。

 

「ま、東京は今が一番大変な時期だろうからねぇ。いつの世も、変革期には破壊と混乱が付きまとうものだし」

 

『こっちの幽霊もその類いだって? まあ、なるべく当日までに片付くよう頑張ってはみるけどさぁ』

 

 とはいえ、幽霊だなんて呼ばれてる通りセンサー類への反応すらない以上、現状本当にヒュージの仕業なのかすら定かじゃないし、何をどうしたら終わりかも分かってないんだ、楪の言い種がかなり曖昧になるのも仕方ない。

 

「んじゃ時間もいいし、他に何もなければ今日はここまでかな?」

 

 で、そう仕切ってみれば元から抜けも多いからと特に異論もなく、ここでお開きと。

 

◆◆◆

 

「わ、わたしの『MOYU2』が~」

 

「なにその逆襲しそうな名前?」

 

 週末の屋内訓練場、なんか百由が仮想戦闘プログラムの新型を用意したからと試してはみたけども、思ったより手応えがなかった──というよりもこっちの面子が強すぎた結果、ほぼほぼ何もさせずに瞬殺となってしまった。

 

 そも最初は梨璃ちゃんが百由に巻き込まれてた天葉と二人、隊長同士で挑んでいたら流れ弾で夢結が新型の相手をさせられるなんてのを眺めていたんだけど、なんでか最終的に事前に挑まされていた三人に私と梅、依奈の見学組も合わせた六人で最高難易度に挑戦……とはなったんだけど、まあ流石に初代アールヴヘイムから四人もいたら、CPU操作のヒュージなんて余裕のオーバーキルというか。

 

「にしても、依奈は随分張り切ってるねぇ。そろそろあの日も近いから?」

 

 分離させたトリグラフを回して腰アーマーのホルダーに戻していれば、依奈が貸していたダインスレイフを返しに来たならと、CHARM選びといい今日はやたら攻めに積極的だった理由を聞いてみる。

 

「ええ、あの子にまで不甲斐ない所は見せてられませんから」

 

「……さっきの、ラブレターとやらの話?」

 

 ラブレター。まあ熱意としてはそんなレベルなんだろうけど、実態は夢結の言い方が疑問系なように、そこまで甘酸っぱい感じじゃないというか……状況的に何が悪いかなんてはっきりとしてるだけに、既に共犯者な私からはなんとも言えない。

 

「勿論。夢結も自分には無関係って顔してるけど、油断してたら急におアツイのが来るんじゃない?」

 

「今更、わたしにそんなことをする人がいるのかしら」

 

 この場合はいつもの卑屈な理由だけでなく、シュッツエンゲルを上とも下とも結んだ経験のある夢結に、今になってツバ付けようって物好きがいるのか?

 ……なんて意味なんだろうけど、生憎依奈が指している相手は、『上』でも『下』でもないし、とっくの昔に首ったけなのだからそれこそ今更だと暗に示すように、こっちも援護射撃をしてみよう。

 

「それを言うなら、天葉なんてノルンに同室の依奈までいるのにモテモテじゃん?」

 

「いやー、それ程でもありますけど、あたしはちゃんと皆大事にしてますよ?」

 

「さ、流石は天葉様です!」

 

 事実だからって凄い自信。で、感動してる梨璃ちゃんもご同類なモテモテ族なんで、むしろ背中から刺されないためには、これくらい堂々としてた方がいいんだろうか?

 

「…………」

 

 そして、今日の梅はいやに大人しいなってなるけど、流石にここで指摘するのは野暮かねとさっき二人で話をしてた依奈に視線を向ければ、目を閉じて首を振られるのが答え──やれやれ。

 

◆◆◆

 

 ──というのが数日前、細かな日程が決まる直前のやり取りにはなるけど、そんなことを当日な11日、東京へ向かうガンシップの機内で思い出していると、窓からエレンスゲの校舎な六本木のスゴイタカイビルが見えてくる。

 

「……なんて?」

 

 そうなれば当然、ガーデン近くの発着場も見えてくる訳だけど、そこで待ってたヘルヴォルの面々がわざわざ横断幕まで広げていたのは、ちょっと予想の斜め上な歓迎具合というか。

 

「アハハ! 『Welcome to エレンスゲ』だってさ」

 

「いや、最後だけカタカナかい」

 

 で、所々に書かれてるたい焼きのマークは……好物らしい藍ちゃんが書いたのか、彼女に頼まれて作ったりもするとかな、千香瑠なのか。

 いや、今回は『裏』の事情を考えると、そこまで千香瑠はノリノリになれる訳が──

 

「──っと。そろそろ降りるから皆窓にかじりついてばっかいないで、ちゃんと席に戻ってね」

 

「あ、はーい!」

 

「……助かります」

 

 なんて皆がヘルヴォルの歓迎にキャッキャと騒ぎ出した結果、いつ着陸に備えるよう言い出すか、タイミングを失っていた操縦士さんの哀愁が前から漂っていたから、一応の年長者らしく取り仕切ってはみるけども。

 

◆◆◆

 

「おいでませ!」

 

 いや、どういうの? と突っ込む間も無いまま、私たちがガンシップから降りたところへ一葉ちゃんの第一声の後、五人揃って満面の笑顔で「ようこそエレンスゲへ!」なんて言われればアッハイ。としか言えないけど、早速何人かずつで固まって話し始めてるなら、そのまま何も言えずに一人後ろの方で立ち尽くすしかない。

 

「……ほら、やっぱり引かれてるじゃん。だからあたしはもっとこう、やり方ってもんがあるでしょーって」

 

「でも、恋花も掴みが一番とは言ってた」

 

「ま、歓迎の気持ちは伝わったと思うよ、皆にもね」

 

 とはいえ恋花も最初だけは勢いで押し切っても、後からどんどん後悔したような感じになっていれば、労りたくもなるというか。

 

「千香瑠、お久しぶりね」

 

「……隊長」

 

「んで、あっちはもう仕掛けてきますか」

 

「悪いけど、本命は最初からそうみたいだからね」

 

 なんて話していれば早速依奈は本命──千香瑠にアタックを仕掛けているけど、私としては別に彼女だけである必要はないと思っている訳で。

 

「それで、物は相談だけど、千香瑠一人じゃなくてレギオン丸ごとこっちに来るって方が、色々後腐れもなくていいんじゃない?」

 

「……まーたいきなりぶっちゃけますね」

 

 そうは言うけど、私から見ればエレンスゲもルド女も、もういつ烏丸に沈められるか分からない泥舟だ。後はきっかけさえあれば、別にどっちが先でも驚きはしない……むしろ校長派閥さえ残せばいいだけ、エレンスゲの方が後始末含め簡単まである。

 

 だから依奈が千香瑠を導火線に火が付いたも同然なエレンスゲから離したいというのなら、ついでに私はレギオンごとでアプローチをかけてみるってだけ。とはいえ最初から手応えに期待なんてしてないし、恋花が一度瞑った目を開くまでの時間で、大体答えは察せられた。

 

「多分、秋日みたくそうした方が賢い。なんてのは流石のあたしでも分かるし、外から見たら何をバカなことをって言われても仕方ない……でも、あたしだって色々あったし、今は『あのバカ』に賭けちゃったもんで、簡単に一抜けたーなんてできないんすわ」

 

「……恋花」

 

 安心したような瑤の反応から、色々の部分はもう自分一人で抱えてる訳でもなさそうなら、私がどうこう言えるでもないか。

 

「ん、了解。でも一時的な避難くらいは合宿でもなんでもでっち上げて受け入れさせるし、相談だっていつでも乗るからね」

 

「ま、でっち上げなくても、ノリと勢いで勝手に計画しかねないのがウチのリーダー様なんで」

 

 それはそう。まあ、所詮はついでだ。友人だって相手が他のガーデンへ避難して尚残った理由があるのなら、こっちの思い付きがそれより強い想いだなんて口が裂けても言えないし……必要なら、私がその理由を『物理的に』取り除いたっていいなんて考えも、今の立場では過ぎたものだ。

 

◆◆◆

 

「って、なーんでまたこのタイプなのさ」

 

 で、ヘルヴォルによるエレンスゲ校内の(どうせ他所様に見せて問題ないと上に許可された部分だけだろうけど)案内が終わり、天葉と依奈が一年の皆を連れてサプライズの迎撃戦跡地へ向かった後、遅れて百由が到着したと見るや早速なんか悪代官みたいなやり取りをした恋花に、雰囲気からして特別そうな訓練室へ連れ込まれたはいいものの、出てきた仮想プログラムのヒュージ──クラッシャー種なそれの姿を見て、即座にツッコミが入るのは……こっちの事情か。

 

「あら、これ『鶴紗ちゃん助けに行った時のヒュージ』だー、とは前にテストしてもらった梨璃さんに聞いたけど、エレンスゲでも何かあったかしら?」

 

「いや、近頃なんでか東京でこのタイプやたらと出てくんのよ。多分そっちに横浜のやつ台無しにされたから、ってとこもあるんだろーけど」

 

 こないだはそこの部分までは話してないはずだけど、同じような考えに行き着く辺りゲヘナがあまりにも分かりやすいのやら、恋花の考え方が私に似てるのやらだけど、そこは別にどっちでもいいかと百由の自信満々な説明でも聞こう。

 

「ふふーん。似たようなタイプとの交戦経験があるからって、この『MOYU2改』をそんじょそこらのヒュージと同じにしてもらっちゃあ困るかな~?」

 

「この数日で、もう改良したというの……?」

 

「んー、ヘルヴォルが初見だってハッタリ込みな気もするけどナー」

 

 しかし百由とそこそこ付き合いの長い二人でさえ反応が真っ二つなのを見て、これ以上の言葉は不要と百由が持ち込んでいたHMDを装着すれば、仮想モデルのヒュージが『グポーン』と起動すると同時、訓練室内の風景が百合ヶ丘の近くで見るような、廃墟と森とが半端に混ざったような様子になれば、流石にそれなりのリアクションが。

 

「わっ。これも映像……? でも、壁の場所はそのまま」

 

 とはいっても瑤は壁際にいたものだから、即座に壁のあった所を手で探って少し夢のない感じになってしまったけど。

 

『そればっかりは物理的にどうしようもないのよねー。一応エリアアウトもそっちの負けになるようにしてるんで、注意してとしか言えないけど』

 

 まあ、いくらVRだARだと映像技術が進歩しても、室内である以上そこの問題はまだ、単純な技術だけでは突破できてない訳で。一応、簡単な地形の再現くらいなら、床や壁の稼働で擬似的にやれるけども。

 

『ま、仮にそうなったとしてもわたしの方は何度でも受けて立つわよ?』

 

「うわ、ホントに仮想ヒュージ操作してるんだ。百由さんの声だけじゃなくて、なんか動きもそれっぽく見えるし」

 

「そこまでは流石にプラシーボじゃない?」

 

 話題を戻せば、いつの間にか映像の向こうにでも姿を隠していた百由の声が、なんかゲームのボイスチャットみたいな感じでアバター代わりの仮想ヒュージから聞こえてるからと、恋花もなんか幻覚感じるくらいには入れ込み具合は伝わったようで。

 しかしまあ、訓練用のモデルに過ぎないヒュージじゃあ姿形なんて当然人間とはかけ離れてるんだから、単に百由の声でフィルター掛かってるだけでしょ。眼鏡もないし。

 

『さてさて、準備はよろしいかなー?』

 

「よろしくはないでしょうに。これ付けないと、百由からの攻撃はすり抜けて終わりだってば」

 

「はいはい、瑤はこっちお願いね」

 

「ん、了解」

 

 ともかく、このままではいくらスペックを盛っていようと単なる映像に過ぎないから、衝撃やら感触を再現するためのパッドをヘルヴォルの面々に渡してはみたけど、何故か恋花と瑤の二人は、それを千香瑠にだけペタペタと張り付けている。

 

「あの、二人とも……?」

 

「いや、ここは千香瑠にお任せしようかなーって」

 

 ふむ、そのままこの場にいない一葉ちゃんのことを持ち出したりでやたらと千香瑠を乗せようとしてるけど、こっちもこっちで状況を利用して、何か考えていたのやら……待って、鼻からスパゲッティってなに?

 

「……いいの? リーダーの人としての尊厳、勝手にベットされちゃってるけど」

 

「いや、良いか悪いかって聞かれたら、間違いなく悪いとは……流石のお子ちゃまナンバーワンな一葉でも、そこまでされる謂れはないっていうか」

 

「大丈夫。ほんとに言ってたから」

 

 いや、確かにギリギリ言いそうだとは思ってたけど……逆に何が大丈夫なんだろうか。当然恋花は頭抱えてるし。

 

「マジかぁ……そこまでだったかぁ……あたしらのリーダー、精神構造小学生だったかぁ……」

 

「うん、広範な戦術知識と高度な判断力を兼ね備えた学園一優秀なリリィで、精神構造は小学生」

 

 いや、だから瑤は毎回ドヤるタイミングおかしくない? とはいえ千香瑠の方は一葉ちゃんの尊厳が賭けられてるからとゲイボルグを手に、ズイッと前に出ちゃった以上今更無しで。とも言えない空気だし。

 

「これが、ヘルヴォルの日常なのかしら」

 

「いいレギオンなんじゃないか? 遠慮がないってとこが特に」

 

「ぐぅ、もう何も否定出来ない自分がなんか嫌だわ……」

 

 とはいえ夢結たちの感想に肩を落としながらも、決して恋花は言葉程嫌そうな顔はしていないのが、そのまま答えではあるんだろう。

 

◆◆◆

 

 そのままいざ訓練開始だと、百由の操作する仮想ヒュージと千香瑠が一進一退の、どちらかといえば千香瑠側が状況をコントロールしているような攻防を続けていると、懐から振動が。

 

「……っとごめん、ちょっと電話」

 

 さて、通常回線ってことはそこまで重要な話でもないんだろうけど、相手が楪ってなるとね。

 

「もしもし、なんかあった?」

 

『あ、雪華様? そろそろ来るかなーって思って先回りしといたんだけど、そっちの一年と天葉たち、今何処に?』

 

 んん? なんかこっちもサプライズ仕掛けてるのはともかく、天葉と依奈がエレンスゲのガンシップを借りて連れてった以上、御台場の方でも分からないはずが……

 

「え、もうとっくに向かったし、空からだから渋滞とかもないはずだけど」

 

『そう? いや……連……もな……おかし…………』

 

「ん? ちょっと楪、電波悪いんじゃ……切れた?」

 

 途中から声も途切れ途切れで、天下の首都で回線不良とか冗談じゃ……なんて文句も、続く警報を前に飲み込むしかない。

 

◆◆◆

 

 状況を纏めると、御台場に対しての通信が完全に途絶し、その原因も直前に一瞬だけあった大規模なケイブ反応だろう。という憶測以外の何もかもが不明という、まさに緊急事態。

 

 そんな状態だから、現地でないエレンスゲの動きも相当悪く、一葉ちゃんと藍ちゃんの救出目的なヘルヴォルの出動に、同盟レギオンだからと私たちをギリギリ押し込めたのが限界で、ガンシップも二機目は貸せないから自前ので頼む。なんて伝えてくれた今日の担当だったろう教導官の苦労が見える。

 

「皆が乗ってったガンシップの、最後の反応の位置って分かります?」

 

 ともかく、いざ出ていいとなれば百合ヶ丘から乗ってきたガンシップに戻って、準備待ちの中でも出来ることをと操縦士さんに確認を。

 

「待ってください、今データの要請を……あ、百由さんからです」

 

『あーあー。雪華様、とりあえず貰えた分は今からそっちに回します、ぐろっぴたちのことは頼みましたよ?』

 

 貰えた分は、ね。現場の方はともかく、上は多分まだ対立する派閥同士でどう動くか揉めてる段階だろうし、エレンスゲからの援軍は見込めなさそうだと、さっきの教導官の頼みでラウンジに構えたらしい臨時の司令部にお呼ばれした百由から送られた、最後の座標データ等を眺めていれば、『準備』の終わった他の面々も乗り込んでくる。

 

「お待たせしました!」

 

「ちょうど良かったと思うよ。それで、例の衣装はどう?」

 

「んー、感触は悪くないゾ」

 

 準備、にしてもCHARMは元々訓練のために持ち出していたのだから、訓練室を出る前に百由の取り出した、御台場迎撃戦──というよりは本来の目的な交流会で使っていた衣装を、いい機会だと素材の段階から見直して改良したものを用意していたらしく、こっちに残っていた当時の参加者な夢結と梅、千香瑠にそれぞれ渡していたからになる。

 

「〈エレガントストライカー〉だっけか。こっちのストライカーがない分、頼りにさせてもらうよ」

 

 とはいえ、どうせ霊奈さんに回収されてなくてもわざわざあのデカイのを積んでまで持ってくるかどうか、と聞かれたら結局否だろう。なんてのはともかく、スカート周りの感じから百合ヶ丘の制服をベースにしつつも、エレガントなんて名前の通り、短めのマントのように後ろにひろがる白い上着で、印象はガラリと違う。

 

「ま、迎撃戦の方じゃゆっくり着替えてる暇なんてなかったからナ。皆揃って制服にマントないつものスタイルだったゾ」

 

「だから元々の予定の方で着てたんでしょ? それついでに、元チームメイトとしては向こうで仕切ってるだろう二人はどう動くと思う」

 

「そうですね……天葉ならば一年生たちにガンシップを確保させて、退路の維持を任せながら、自分たちでケイブへの道を切り開こうとすると思います」

 

「それに依奈も仕方なさそうに付き合うまでがセットだナ!」

 

 うん、そうなるだろうねとはなんとなく思う。初代アールヴヘイムとして甲州での後悔がある以上、全員で後退は多分選ばなさそうだし。

 

「となると、まずは最後の反応を追う感じ?」

 

「だね。皆との合流が先決」

 

「一葉ちゃん、藍ちゃん……」

 

 ヘルヴォル組が話をまとめてくれている内に、正式に出撃許可が降りたようでガンシップがハッチを閉じ離陸すれば、後は空路なのもあって御台場まではすぐだろう。

 

◆◆◆

 

 さて、いざ御台場上空に差し掛かると、案の定というか通信機器はイカれてしまうようで、どっちのガーデンにも連絡は通じない。

 

「これも、こないだ聞いた『幽霊』の仕業なのかねぇ」

 

「出る前にふーみんも言ってたナ、セインツやロネスネスでもまだ捉えられてない厄介なのが出てるって」

 

 御台場の手札はあと本校防衛の〈コーストガード〉だけだから、そこふたつ以上の戦力を回そうってなると、どうにも色々手間なんだろうね。

 一応、生徒会のセインツ以外の面々がロネスネスに続く自主結成レギオンを作ろうとはしてる……なんて話も楪から聞いてはいるけど、進行形ってことはまだ結成されてないってことだし、トップレギオン制のガーデンで1からのメンバー集めがどれだけ大変かなんて、ルド女の方で幸恵が今身をもって証明してしまって──

 

「っ、ヤバ……夢結!」

 

 高度を下げたってだけじゃない、明らかに攻撃を受けた揺れだってなれば、隣の席の梅を向かい側の夢結に投げ飛ばして、CHARMケースを回しゅ

 

◆◆◆

 

「雪華様!?」

 

 二度目の揺れで、側面の装甲がやられたのか開かれた穴にシートごと飲み込まれるようにして雪華が外に放り出されるが、直後に防御フィールドを全面に展開しているのは見えたから、最低限CHARMの起動は間に合ったようだ。

 

「悪い夢結、CHARM取ってくれ」

 

「え、ええ!」

 

 そうなると今度は脱出の必要がある訳だが、高度こそ大丈夫でもこのままでは分断されてしまう……というのがよろしくないのは口にせずとも分かるようで、雪華の飛ばされた穴に向かうのは恋花と瑤。

 

「ごめん、千香瑠は操縦士さん助けてから降りるみたいだし、後は二人に任せる」

 

「こっちは、わたしたちが……!」

 

「分かったわ、お願い」

 

 既にCHARMを携えている二人が、先に落ちた雪華を追うというのなら任せるべきで、こちらは出遅れるなりに一度操縦席に向かう千香瑠と合わせるべきだ。なんて思考はほとんど時間もなく済み、夢結が頷いたのを確かめると、返事を背に二人は飛び降りていく。

 

「おふたりとも、早く!」

 

「ええ、手伝うわ。梅!」

 

「おう、進路は……大丈夫そうだ!」

 

 操縦席からの操作で開いている後部ハッチから覗ける範囲に、少なくともヒュージの姿は見えないと梅が確かめていると、そろそろガンシップも限界そうだと傾いてきている。

 なればもう迷う時間も惜しいと、梅が先んじて飛び降りれば操縦士を左右から支えつつ、千香瑠と夢結も後に続く。

 

◆◆◆

 

 一方、一年生の方は夢結の予想通り天葉の指示でガンシップの確保に向かったものの、エレンスゲに借りていたそれは既にヒュージに襲われた後で、負傷した操縦士を近くのシェルターへ避難させた後、海沿いに戻ったところで見覚えのある影を空に見付けた。

 

「梨璃ー、あれってわたしたちの乗ってきたガンシップ?」

 

「うん! お姉様も梅様も、雪華様だって来てくれたんだよ結梨ちゃん!」

 

 こちらの物が飛べずとも、これなら退路の確保という目的は問題ない──そう梨璃が安心していると、()()()()()()がガンシップを穿つ。

 

「……えっ」

 

「砲撃、何処から!?」

 

 一葉がブルトガングを構え周囲を見渡してみても、『レジスタ』の俯瞰視野の力を使っても攻撃の出所が分からない。だからこそ警戒を厳にと藍にハンドサインを送れば、コクコクと頷き続いてくれる。

 

「雨嘉さん」

 

「うん、分かって……きゃっ!?」

 

 なれば反対側はこちらでと、一柳隊側も動こうとすれば、今度は急な地揺れが一年生たちを襲い、警戒どころではない。

 

「こ、今度はなんですかー!?」

 

「じ、地震ではなさそうじゃの!?」

 

「地面の下から……ッ!?」

 

─ファンタズム─

 

 二水とミリアムの慌て様を見て、逆に冷静になったと鶴紗が少し先の未来を『視』れば、その結果を送る先は──

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