アサルトリリィ~円環の赫星~   作:ですティニー

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前回のあらすじ:前フリ夜会話とモユツーの逆襲と「!!ああっと!!」二連と。
どうにも最初にイベスト読んだ時から、あっさり全滅より一人突き飛ばされて残される方が色々美味しいよなー。と思っていたなどと供述しており…そうなると、一番味がするのってこの子よね。

著作は隙間産業と前フリを多々仕込むスタイルが故に、お前に意味を与えてやる──仕事の時間だ(一般通過ハンドラー感)


そして残される者たち

「っ……結梨ちゃん!!」

 

「え……?」

 

 誰かに突き飛ばされた──そのことに結梨が気付いたのは、藍にその身体を受け止められてから。

 

 でも誰が……直前に自分を呼んだ声は梨璃のそれだ。じゃあなんで……その答えは、振り向けば嫌という程分かってしまう。

 

「みんな!?」

 

「ダメ、まきこまれる」

 

 砂浜を突き破って出てきたヒュージの物と思われる触手、それに梨璃が胴体を締められながら持ち上げられているのが見え、足場が不安定になっていたせいか残りの一柳隊の一年生全員も、何か行動を起こすより前に捕まっていた。

 だというのに何故藍は邪魔をするのか……違う。彼女は梨璃が、一番外側にいた結梨をこちらに突き飛ばした意図や鶴紗の『ファンタズム』を受けて実行したという理由を知らずとも、その結果から意味を理解しているだけだ。だから結梨まで巻き込まれないよう、受け止めた勢いのまま後ろに跳んだ、それだけのこと。

 

「あは、は……よかっ……」

 

「梨璃ーーーッ!!」

 

 明らかに苦しそうな様子の梨璃は、無理して笑いかけようとしての言葉も言い切れず、ヒュージに何かをされたのか不意にガクリと頭を下げたまま意識を失ってしまったようで、何人かまだ抵抗を試みていた一柳隊の仲間たち共々、必死に手を伸ばす結梨の目の前で、地の底に引き摺り込まれてしまう。

 

「なんで、なんで……っ!」

 

「くっ……藍、結梨さんを何処か安全なところへ!」

 

「まかせて!」

 

 落ち込む暇も与えないとばかりに、三人を狙い入れ替わりに地面から現れる追加の触手の群れを一葉が一人で引き付けている横で、藍は砂をかきむしるようにしながら慟哭する結梨を抱え、一足飛びで戦域を離脱する。

 それは梨璃たちを見捨てるようで嫌なはずなのに、今の結梨は不思議と抵抗する気にはなれなかった。

 

◆◆◆

 

「……っつー。どこ打ったってレベルじゃないなこれ」

 

「あ、起きた」

 

「おっはようございまーす……って状況でもないかぁ」

 

 身体のあちこちが訴える痛みに目を覚ますと、そこは廃墟の真っ只中。突然の攻撃に梅だけは突き飛ばせたものの、色々急だったし高度も元々下がっていたのもあって、CHARMケースだけは回収出来ても装備の展開や諸々は間に合わず、空中に放り出された後防御フィールドを張ったまま、座っていたシートごと瓦礫の山へダイブを決めていたようだ。

 そんな私を覗き込んでいるのは瑤と恋花。梅たち残りの面々がいないことから、半々で別れた感じかこれ。

 

「あー、どれくらい伸びてた?」

 

「ほんの数分かな。流石デュエル世代、頑丈さが違う」

 

「いや、そこ関係あるかー?」

 

 呆れる恋花に言われずとも、多分関係ないと思う。今も昔もやられる時は、存外あっさりなもんだし……しかしどうしたもんか、折角の空の足が潰されたわけだけども。

 

「とりあえず操縦士さんは千香瑠が助けてたみたいだし、一柳隊(そっち)の二年二人も一緒に飛び降りてたから、あのまま墜落したガンシップ共々ぺしゃんこになったーって人はいないと思いますけど」

 

「万一そうなら、ゾッとしない」

 

「いや、そんな最期は確かにゴメンだけど、ねっ!」

 

 会話の中勢いを付けて跳ねるように起き上がると、遠目に見える黒煙がふたつ。

 

「……待って、なんでふたつ?」

 

「えっ……うわマジか、海岸の方でも煙出てるじゃん」

 

「ということは……多分あっちが、一葉たちの乗ってたガンシップ」

 

 こうしてミイラ取りがミイラになったのだから、先にいた方もむべなるかな。

 しかし目印が出来たのはいっそありがたい。アールヴヘイムの二人が付いている以上もしもということもそうそうないだろうけど、通信も繋がらない敵地で孤立してしまえば、どんなリリィとていずれはマギなり体力なりが尽きて倒れるのみ。そうなる前に、一人でも多く合流はしておくべきだろう。

 

「よし、っと……あれ、カービンどこ行ったよ?」

 

「あそこに、ひとつは刺さってる」

 

「マジかー、遂に戦闘すらせず一機ロストかぁ」

 

 改めて装備を確認していると、今回持ち込んでいた二機のグングニル・カービンの内片方を、不意討ち食らったとはいえ戦闘前に何処かへ落っことすという謎の新記録を樹立してしまったが、最悪専用機のライザーとブレイザーさえ無事ならなんとでもなるはずだと、あまり気にしないことにして装備を展開する……というのは、端から見るとまあ酷いようで、我ながら白々しい言い種に恋花はジト目をこっちに向けてくる。

 

「CHARMって一機一機に相当な金かかってるはずなんだけど、なーんでこう毎度扱いが雑かなぁこの人は」

 

「壊すか失くすかなら、後者のがまだ可愛いでしょ。別に後から見付ければいいだけなんだし」

 

 まあ、いつも話題になる件の迎撃戦から一年以上は経っていても大して復興が進んでないこの荒れ果てた場所で、そんな余裕があるのかは知らないけど。あるいは直そうとした側から狙ったようにヒュージが出てきて壊されてるとか? どっちにしろ、ひどい有り様ですに違いはないけども。

 

「しかし数分寝てたっていうけど、ヒュージが出たりは?」

 

「してないかな。いっそ不気味なくらいに静か」

 

「その分他のとこに行ってると考えたら、あんま喜んでも……うわっ、噂してたら出て来た!?」

 

 そんな話の途中で唐突に湧いて出るワイバーンみたいな。とはいえ恋花の言う通りに現れたヒュージは、種別こそ雑多でもスモール級がほとんどで、それより上のは空飛ぶリッパー種のミドル級が、精々二体程度。

 なら速攻だと肩越しに前へ向けたブレイザーのシールドからソードライフルを近くにいたファング種のスモール級へ射出し、引き抜くついでで横に斬り裂く。

 

「ともかく近くにケイブがあるなら叩く、ないならまずは海沿いに皆を探す。異論は?」

 

「「なし!」」

 

「頼もしい返事だことで。じゃあはぐれリリィ三人組、ミッション再開!」

 

 その号令に二人は左右に分かれて攻めてくれるので、私は正面から行かせてもらおうか。別に、それしか能がないワケでもないけどさ。

 

◆◆◆

 

 こちらは撃墜されたガンシップから飛び降りてすぐ、梅に操縦士の避難を任せて残る二人で戦闘に突入はしたものの、危なげなく……と言うには少しトラブルはあったが、その結果を含めなんとか切り抜けられはしたとなった後、不意に口ごもり理由も告げきれぬまま一人廃墟の中に向かった千香瑠の戻りが遅いと、夢結が覗き込めば──

 

「夢結、さん……?」

 

 何故か絶望したような様子で震える千香瑠の手から溢れ落ちるのは、夢結からすればあまり見覚えがないタイプの見た目な、錠剤のシート。中身が半分ほどまばらに空になっていることから、服用したばかりなのだろうそれが目に入ると、状況の怪しさから彼女にゆっくりと近寄りながら、問い詰めるように聞いてしまう。

 

「……千香瑠さん。その薬は、いったいどこで貰ったの?」

 

「エレンスゲの、医務室ですが……?」

 

 それを飲んだ途端に、千香瑠の様子がおかしくなった……つまりは、そういうことなのか。

 世のため人のためなどと嘯いておいて、翻意を持つリリィには医療上必要とされるのだろう薬にすら、平然と何かを盛る。それがエレンスゲの……否、その内部のゲヘナ過激派のやり方なのかと夢結はどうしようもない感情が自身の内側に渦巻くのを感じるが、今はまだ抑えておく。

 

 ここでそんなものを千香瑠にぶつけても仕方のないことだし、幸い証拠が手元にあるのなら、後で百由辺りに分析してもらえばいい……その結果依奈の要望通りにするのが一番の解決になるのだとすれば、千香瑠の異常な様子を見た自分の口添えも、必要になるだろうから。

 

「分かったわ、けれど今はその薬にはそれ以上触れないでおきましょう。明らかに、普通じゃない」

 

「でも、これがないと……私は……」

 

 先程の、辛いことを思い出させてしまったというのに逆にこちらが励まされるような態度と比べずとも、明らかに彼女らしくない。と見て分かる状態で千香瑠が落ちた薬に手を伸ばそうとするのは、踏み込んだ夢結が彼女の手を掴み、首を横に振る。

 

「だとしてもよ。それはあなたを──あるいはヘルヴォルを内側から壊すために、ゲヘナが仕込んだ『毒』としか思えない。わたしを同盟相手と信じてくれるのなら、ここは任せて頂戴」

 

 仮に千香瑠の元から抱えていた精神的な不安が表層化したにしても、タイミングが露骨過ぎた。これが墜落直後ならば、まだ分かる。百合ヶ丘の操縦士を助ける際に千香瑠が残り、結果としてヘルヴォルの仲間と分断されてしまったのだから。

 戦闘直後でも、まだ分からなくはない。何故か『本気を出せない』が故に苦戦していた千香瑠の姿を見て、夢結が苦言を呈した結果お互い甲州撤退戦の夜に大切な人を亡くしていたと、意図せぬ身の上話をすることにもなったが……しかし、それでも彼女は年度始めまでの夢結とは違って、仲間のお陰で完全に『光』を見失ってなどいなかったのだから、一旦落ち着いたはずのタイミングで怪しい薬を飲んだ途端にこれでは、疑うなと言うことにこそ無理しかない。

 

 そんなことは口とは裏腹に頭では理解しているのだろうから、夢結が薬を拾い懐にしまうのを、千香瑠も止めることは出来ない……もし、自分のせいで仲間に危険が振り掛かるようならと、極端にネガティブに寄った今の思考では、そんな可能性を否定出来ないから。

 

「……ごめんなさい、少し卑怯な言い方だったかもしれないわ」

 

「いえ、ありがとうございます……多分、今の私には、こういう言い方の方が効くみたいですから」

 

 夢結に言われて少しは客観的に自分を見れたのなら、やはり今の状態は、何か外的な要因で歪められているのだろうと、千香瑠とて嫌でも分かってしまう。

 ならば荒療治でも、引き戻そうとしてくれた夢結には感謝こそすれど、恨み節をぶつける理由はなかった。

 

「操縦士さんは安全そうなとこに連れてったけど、何かあったのか?」

 

「いえ、休憩していただけよ」

 

「すみません。少し、気分が悪くて」

 

 そこで梅が廃墟の中に入ってくるが、今の内容を話しても心配ごとが増えるだけだと、夢結が目配せしてくる時には千香瑠の方も口裏を合わせて振る舞う余裕は、なんとか取り戻せていた。

 

……様……お姉……お姉……様……!』

 

「っ、梨璃!?」

 

 しかし、そこでインカムから途切れ途切れに聞こえたシルトの声に、今度は夢結の方が冷静ではいられなくなってしまうのだが。

 

◆◆◆

 

(ちゃんと伝えられた、かな……?)

 

 ちょうど通信妨害の切れ間だったのか、他の誰にかけても通じなかった通信が、唯一お姉様にだけ通じたなんてロマンチックだな。などといった感動は表に出さず、今の状態──砂浜から現れたヒュージの物と思われる触手にまとめて拐われ、今回のケイブのボスと思われる大型ヒュージの上に囚われてしまったこと、それに……

 

「あ、結梨ちゃんだけは逃がせたって話せなかった」

 

 結局通信がノイズまみれに戻る前に全ては伝え切れなかったものの、お姉様たちならそれでもやるべきことは分かってくれる、そう信じているから、絶望はしない。

 

「だから、今は皆を……!」

 

 気合いを入れ直した梨璃は、グングニルをシューティングモードで構えたまま、ヒュージの上と思われるエリアを警戒しつつ歩いていく。

 

◆◆◆

 

「……うっ」

 

 同じ頃、鶴紗が目を覚ますとその理由が向かい側にあるのは、姦しさから嫌でも伝わってくる。

 

「まったく、なんなんですのこの触手は!? さっきから変なところばかり、んぅ……あっ」

 

「……元気そうで何よりだけど、今は頭に響くから、少し静かにして」

 

 状況は、囚われた時と変わらない……いや、楓が騒いでる通り、吊られているような状態で身体のあちこちに触手が絡み付いているのだから、より悪化しているか。

 

「あら、お目覚めですのね」

 

「こっちは動かせそうにない……そっちは?」

 

「こちらもダメですわ。せめてブレードモードでしたら、内側から引き裂けたものを……!」

 

 鶴紗のティルフィングは分離も変形も出来ないようシューティングモードのままガチガチに縛られていて、銃口も胴体に向けられている徹底ぶり。加えて楓のジョワユーズも、構造上広がっていた部分を縛られては、どうにもならない。

 

「それにこの触手の感じ……気持ち悪い……」

 

「ええ、まったくですわ……!」

 

 言葉に出来ない感覚として、触れた部分からマギを吸われている。というのもそうだし、どうにも触手表面のぬめりから来る、生理的な気持ち悪さが拭えない。幸い、ヒュージはマギによって変化したという性質上、元がどうあれ交配という形では増えないことから、気を失っていた間に乙女の大事な部分へナニをされた……ということはないのが、せめてもの救いだろうが。

 

「さて、そうなるとわたくしの出番と思いますが」

 

「……神琳さん? いたんならいたと、とっとと名乗り出てくださいな」

 

 だからといって何もしないのもあれだと二人がもがいていると、下の方から声がして見下ろしてみれば、分かりやすくマソレリックを回転させブレードを出し入れする変形をさせながら、神琳が佇んでいた。彼女の制服にも触手に絡まれた跡は見受けられたが、CHARMの構造上脱出は二人より容易だったのだとは、見れば伝わる。

 

「ありがとう、助かっ……」

 

 ともかくフリーならば話は早いと、早速鶴紗を捕らえていた触手の手前側を神琳が切り裂けば、鶴紗もゆっくりと降りてお礼を言う──途中で足を踏み外し、神琳の方へもたれ掛かるように落ちることに。

 

「う、くっ……」

 

「大丈夫ですか、鶴紗さん?」

 

 答えは返ってこずとも、ティルフィングも持っていられないと取り落とし、神琳が受け止めて尚フラフラな様子を見れば、調子が悪そうということだけは伝わった。

 

「普段は気になることもありませんが、鶴紗さんは強化リリィですもの。ヒュージ側のマギによる悪影響を受けやすいはずですわ」

 

「なるほど……ではわたくしはこのまま鶴紗さんを介抱していますので、楓さんはしばしお待ちを」

 

「いや、先に助けてくださいまし!?」

 

「勿論、冗談です」

 

 場を和ませようにも、こんなところでウインクをされてもと、恨みったらしく楓が見詰めてくれば、鶴紗が覚束ない手付きで拾ったティルフィングを杖代わりにして、楓に抗議を。

 

「だから……頭に響くって……」

 

「では、お覚悟を」

 

「わたくしは藁ではないんですのよ!?」

 

 なお、何故か神琳の構えが居合いっぽいものだから、楓の方は真っ二つに叩き斬られる幻覚を見る羽目になったのだが。雨嘉と同じクラスの亜羅椰じゃあるまいし、神琳のお熱な彼女にまで手を出した覚えはないというに……

 これで先週またもや来日していた莉芬がまだいたのなら、「やっちゃえー!」と神琳を応援してたような気がして仕方ない。

 

◆◆◆

 

「おちついた?」

 

「……ううん」

 

 ひとまず中破したガンシップの影まで藍に連れられた結梨だが、自分を庇った梨璃や他の仲間たちを目の前でヒュージに連れ去られて落ち着いていられる訳もなく、さりとて今自分に何ができるかも分からないまま体育座りになって、暗い瞳のまま感情の行き先を失っていた。

 

「結梨、ないてる?」

 

「泣いて……?」

 

 一柳隊の仲間たちが自分の無茶を咎めながら、何度か例えに誰かがそうなるぞと言っているのを聞いたし、実際にそうなっているのを見たこともある結梨だが、自分がそうだと言われたのはこれが初めてで、頬を伝うものに今自分の胸中で渦巻く感情がその理由なのかと理解する。

 

「あの時、みんなを置いてヒュージに挑んだわたしを見て、梨璃たちもこんな気持ちだったのかな?」

 

「うーん、らんはあの時おるすばんだったからよくわかんないけど、ヘルヴォルに入ったばかりのころはすぐ一人でつっこむからって、らんも一葉たちにしんぱいかけてたみたい」

 

 つまりは彼女も初めは無茶をしていた、結梨の同類だったと。しかし、今の藍はいつぞや流された無人島でも先程も、仲間からの指示にはちゃんと従っている。

 何が彼女を変えたのか、二人は似たような感じだと前に恋花や梨璃に言われたこともあり、その切っ掛けが気になって結梨は自然と藍に訪ねていた。

 

「ねぇ、藍はどうしてそうなれたの?」

 

「そうって? らんはらんのままだよ。あ、ただヘルヴォルのみんなといるのは楽しいから……だからみんなといる場所を、そしてみんなを守りたいんなら、そのためにたたかうんだって、こないだ鶴紗に言われけど。それだけ」

 

「それだけ、かぁ」

 

 確かに結梨も梨璃たちと、一柳隊のみんなといられるのは楽しい。何度も戦いの中で失いかけた絆だからこそ、より一層大切にしたくなる。

 藍たちもそうだった──のかは少し話しただけだとそこまで分からないが、ここで助けられっぱなしというのも良くない。少し間違えてる気もするが、前に誰かが『リリィは助け合いでしょ?』と言ってたのだから。

 

 ──勿論間違って覚えているのだが、それを指摘できる同じ『映画』を一緒に見ていた二水や、実際そんな風に劇中の台詞を好き勝手に弄った物言いをよくする、勘違いの元凶なシュッツエンゲル(どこぞの雪華)は、生憎この場にはいなかった。

 

「うん、分かった。とりあえず戻って一葉を助けよう、そしてどうすればいいかはわかんないけど、梨璃たちもわたしたちで絶対に助ける!」

 

「おー!」

 

 そうと決まれば、行動に移すまでの思い切りは非常に早いのがこの2レギオンの末っ子二人。立ち上がり傍らに置いてあったCHARMを手に取ると地面に円を描いて足にマギを込め、特大のジャンプを行えば、先程までいた海沿いのエリアまでひとっ飛び。

 

「はぁっ!」

 

 次第に二人の視界に入る一葉の様子は、地の裂け目から次々と現れる触手相手に多少海側へ押し込まれてはいたが、その気合いに陰りはなく、ブルトガングを振るい果敢に立ち向かっている。

 

「高出力モードに切り替えて……よし。一葉、しゃがんで!」

 

「結梨さん? はい!」

 

 専用グングニルの射撃モードを切り替え、一葉が投げ掛けられた言葉に従ったのを確かめながら、砂浜に降り立った結梨はトリガーを引く。

 

「これでも、食らえーっ!」

 

 一葉に群がる触手の群れに向け放たれる最大出力のレーザー砲撃、それを撃ちっ放しにして結梨が右から左へ一気に薙ぎ払えば、群れの半数ほどは吹き飛ばせた。

 

「つぎはらん!」

 

─ルナティックトランサー─

 

 続けて彼女の横を飛ぶように駆けていくのは、発動したレアスキルの影響によるマギの残光を瞳から引き、狂気に身を委ねながらもいつものようにモンドラゴンを器用に両手でクルクルと回してみせる藍の姿。

 

「かーずはっ、早くやろっ!」

 

「藍、前に出過ぎないでね! この触手、触れるとマギを吸われるから!」

 

 一葉の制服の二の腕辺りが破れ、その下に痣の出来ている様子から一撃受けた上での感想がそれらしいが、その前に倒せばいいと言わんばかりに藍がモンドラゴンを振り回しながら突っ込み、二人が後ろから援護射撃を送れば、三人がかりの攻撃を前にヒュージのものだろう触手は次々と撃破されて行き、そう時間も掛からず駆逐は完了した。

 

「あれー、もうおわり?」

 

「気を抜かないで。また出て来るかもしれない」

 

「わかった!」

 

 二度あることはなんとやら、一葉の言葉に三人で背中合わせになり周囲を警戒するが、最初に出てきた時のような地面の揺れる感覚もなく、ひと息つく余裕くらいはありそうだ。

 

「ふぅ……それにしても、一柳隊のみなさんはいったい何処へ」

 

「あ、くっ……なにか……来る!」

 

 その時、言い様のない嫌な感覚に襲われた結梨が頭を押さえていると、触手が現れた時とは比べ物にならない地揺れに、三人はバランスを崩す。

 

「「うわわっ!?」」

「あ、あれは……?」

 

 それぞれにCHARMを地面に突き刺し、倒れないよう堪える三人が見たのは、海の向こうが不自然に盛り上がり、何かが浮上している様子だった。

 

◆◆◆

 

「……あれ?」

 

「どうしたのよソラ……って、それ」

 

 一方こちらは一年生組を先に行かせた後、たどり着いたケイブが既にもぬけの殻になる程溢れ出ていたヒュージの群れの一部と交戦していたのが落ち着き、小休止していたアールヴヘイムの二人。

 先程仲間たちが乗っていたであろう百合ヶ丘のガンシップを撃墜した何者かの存在に、周囲を警戒していた天葉が何かに気付いた声を上げれば、丁度近くにあった緊急時用のセーフハウスの類いを家捜し終えた依奈が彼女の視線を追い、そこにあったのは──

 

「グングニル・カービン? なんだってこんなところに」

 

「多分、方向からしてさっき撃墜されたガンシップに載ってたんだとは思うけど」

 

「……ってことは大方『あの人』のか。よっと」

 

 天葉の話を聞いた依奈は瓦礫の山に突き刺さっていたそれを引き抜くと、軽く調子を確かめるように振ってからそのコアに指輪をかざして、自身のマギを通す。

 

「それ、使えるの?」

 

「勿論。こういうイレギュラーな組み合わせこそ、あたしの『円環の御手(サークリットブレス)』の見せ所だし、ちょうど前例だって御台場(ここ)にいるしね」

 

 前例──かつてここで起きた御台場迎撃戦の最中、このレアスキルを自覚したからと、急な戦闘スタイルの変更を物ともせず最後まで戦い抜いたリリィだっているのだ。

 それに比べればレアスキルへの慣れもあって、きちんと整備されたCHARMが二振りあるだけマシだと、近頃アーセナルたち(弥宙と辰姫)に無茶をさせ過ぎて、出撃どころか訓練でも自分やレギオン内での同じ円環の御手使いである月詩のCHARMが片方足りていない。なんて事態によく陥っているのもあり、依奈に文句はない。

 

「確かそれって、御台場の蛍だっけ? 梅たちと同じ第5部隊だった、今はロネスネスの」

 

「そうそう。この状況にあの御台場が黙って見てるだけなんてあり得ないし、負けてられないでしょ?」

 

 そんな前例の彼女は、今はかの船田姉妹率いるレギオンにおいて活躍していることもあり、天葉と依奈にとっては迎撃戦に加えて『北伐』──〈電撃新潟奪還戦〉とふたつの大きな戦いでの戦友と呼べる間柄でもあるのだから、それなりの縁を感じている。

 なんて話をしている間にマギの通ったCHARMの起動を確かめると、元から持ち込んでいた左手のアステリオンと共に軽く振って、グングニル・カービンの調子を確認する依奈は満足そうな表情だった。

 

「よし、相変わらず百由はいい仕事してる!」

 

「とりあえずこのままって訳にもいかないし、まずは誰かと合流を……何!?」

 

 そこで天葉たちも一葉たち同様の異変に気付いて駆け出せば、瓦礫の山を抜けた先に見えるのは海面を裂くようにして現れる、塔というより山か城のような巨体──多少風貌は違えど、百合ヶ丘の生徒である二人には嫌な思い出しかない、レーザーレイ種の超大型ヒュージ。

 

「またこのタイプ……?」

 

「でも、なんだかこの前とは雰囲気が違うような……バスターキャノン展開、撃つよ!」

 

「ちょっ、ソラ!?」

 

 いきなりかと慌てる依奈を尻目に、グラムをシューティングモードに切り替え、少しのチャージの後砲撃を放つ天葉。だが彼女の嫌な予感は正しかったようで、彼方のヒュージへ直撃する寸前、聞き覚えのある金属音のような物と共に、その砲撃は光の壁に防がれた。

 

「また、『マギリフレクター』……?」

 

「おー、今のを防ぐなんてやるわねー」

 

「……なんでそんな呑気でいられるのよ」

 

 確かに不意討ち気味に放ったそれを防いだのは、敵ながらあっぱれ。と言えなくもないし、元から様子見の攻撃でしかなかったのなら落ち込めとも言えず、依奈の反応も微妙になってはしまうが、結果として初手から相手の手札をひとつ明かせたなら上々といったところだろうか。

 

「……っと、流石に見逃しちゃくれないか」

 

「ソラ、気が済んだんなら下がるわよ!」

 

 とはいえそんな風に挨拶代わりの砲撃をしたのなら、律儀にもあのヒュージが従えているのだろう、触手タイプのヒュージが地面から襲い来るというお返しが。

 

「こいつら、新潟で見たようなタイプの……まったく、色々と人の神経を逆撫でしてくれちゃって!」

 

「んー、これってやっぱり、雪華様の言ってたような感じなのかなぁ」

 

 明らかにリリィの捕縛を狙って迫る触手を、即席の二刀で切り払いながらも苛立ちを隠せない依奈と正反対に、横薙ぎの砲撃で触手をまとめて撃ち抜きながら、妙に気の抜けた反応になる天葉。

 

「あの人が? なんて言ってたのよ」

 

「いや、この前零夜様に呼び出されてお茶した時に『東京に行くんなら気を付けろー』って言われたとか、なんとか。あたしも行きの機内だけじゃ詳しいこと聞けた訳じゃないけど、〈プロフェッサー〉が怪しいんだって」

 

「まーた普遍的過ぎて対象を絞れないコードネームだこと、でぇっ!」

 

 直訳して『教授』などと抽象的過ぎる呼び名を警戒しろと言われても、まさかそんな如何にも研究職ですな裏方らしい呼ばれ方が、迂闊にもホイホイ前線に出てくるような相手に付けられるようなものでもなし。

 とはいえ、わざわざ迎撃戦のことを話したばかりでこういう話を聞かされると、双方の当事者たる依奈としてはどうしても作為的な物を感じずにはいられず、八つ当たりのようにその不安と苛立ちとを、両のCHARMに込めてヒュージにぶつけるのみだった。

 

◆◆◆

 

 鶴紗の容態も落ち着いたからと、改めて仲間を探そうと動き出した三人だが、遠目に外の見える状態からここが巨大なヒュージの背の上だと、夢結に伝えたような梨璃と同じ結論に至るのは早かった。

 

「それで、少し道を逸れたら触手の群れ……」

 

 ここから先は行き止まりだと、そういう風に何度か妨害はあれど、すぐに引き下がれば追ってはこない様子から、この辺りに自分たちを留めておきたいという『誰か』の意図が見え隠れする。

 

「なるほど、わたくしたちはマギ袋かなにか扱いということですか」

 

「だとしても、リリィを拐わねば本領を出せないヒュージなど効率が悪すぎますわ」

 

 そこで楓のぼやきを聞けばどうにもタイミングの良すぎる状況に『実験』の二文字が鶴紗の脳裏に過るが、今はそんなことよりも仲間を探すのが大事だと黙って歩を進めれば、見えてくる姿は三人。

 

「雨嘉さん!」

 

 その内の一人は言うが早いか神琳が駆け寄る通りで、彼女の左右に倒れているのは二水とミリアム。梨璃だけ姿が見えない……ということに不安はあらど、まずは見付けた三人の様子を確かめれば、意識はなくとも呼吸はしている様子から眠っているだけ、と分かる。

 

「これって……」

 

「急激にマギを吸われたショックで、防衛本能として眠っているだけでしょうか」

 

「ぎゃー!!」

 

「え、なに……?」

 

 もう三人からは吸い終わったのか、ここには触手の影もないはずなのにミリアムから突然悲鳴が上がれば、鶴紗は困惑よりも先に引いている。

 

「百由様、わしを被験者にするのはやめるのじゃーー!」

 

「一体なんの夢を見ているんですの?」

 

「……んあ? 夢じゃったわい」

 

 寝言にしては物騒が過ぎるが、少なくとも元気ではありそうだとミリアムがそのまま飛び起きれば、彼女の騒がしさに釣られて、雨嘉も上半身を起こしている。

 

「あれ……ここ、は……?」

 

「雨嘉さん、大丈夫ですか?」

 

「あ……うん。まだ頭がクラクラするけど、平気」

 

 彼女に神琳が肩を貸して立ち上がる手伝いをしていると、最後の二水もそろそろ起きそうな気配を……

 

ムニャムニャ……楓さん! それは犯罪で……はっ!? 夢……よかった……夢だった。流石に通報しなきゃって思いましたよ……」

 

「マジでなんの夢を見てるんですの!?」

 

 寝起き一番人の顔を見て失礼な……と言いきれないのが普段からの自業自得だろう。というのが他の面々の総意としても、ひとまずある程度の人数が集まったとなれば、状況の確認になる。

 

「まず、ヘルヴォルのおふたりは反対側を警戒しておられたので、無事だと思われます」

 

「結梨も、梨璃が二人の方に押してたから巻き込まれてない……はず」

 

 しかし、だとすれば梨璃もこのヒュージに囚われているはずで、自分たちが三人ずつ分けられていたのなら、彼女はこの先だろうか……と話がまとまれば、どの道順路を逸れることも許されない以上、このまま進むしかないだろう。

 

「うっ……また出た……ミミズの化け物……」

 

「まったく、ウルトラスーパーデラックスに気持ち悪いですわ!」

 

 そうして六人で進んでいると、急に辺りを触手に囲まれるが、身構える雨嘉や楓の反応はともかく、道を逸れた時と比べて数はさほどでもない。

 

「……でも、こっちは向こう程多くない」

 

「ならばわたくしたちが動けるようになったからと、またマギを奪いに来たのでしょう。迎撃を!」

 

 しかし神琳が号令を掛ければ、誰も動き自体に迷いはないのだから、梨璃を探す邪魔をしたものの末路など、言うまでもなく。

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