アサルトリリィ~円環の赫星~   作:ですティニー

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前回のあらすじ:バラバラの戦いとフライングの余り物と触手と。
どうにもあのメモリアのシーン、前後の流れや演出との違和感を拭いたくて、以前ヒュージだけ切り取ったイベントとミックス!
途中触れた本来は時系列的に直後のイベントと順番入れ換えたのも、この辺りが原因なとこは。

そんなこんなで結構詰め込もうと思えば詰め込めるな…と毎度の文字数膨れる有り様ですわ。


少女たちの戦場

「瑤、とどめだよ! フォーメーションうさぎさ……あっ」

 

「……どうぞ?」

 

「あー、えっと」

 

「了解、フォーメーションうさぎさん。ギュインギュインのズドドドドドドで行こう」

 

 現れたヒュージを突破していって、海沿いまで出たからとこれ以上邪魔をされる前に捜索に入りたい。なんて気持ちが逸ったのか、人前でヘルヴォル特有の戦術を分かりやすくまとめたらしいお子ちゃまワードが出てしまった恋花が躊躇っていると、瑤が助け船というかヒュージもろともトドメを刺している。

 

「いやー、話に聞いただけじゃ一年二人に合わせてるだけなのかなーって思ってたけど、ちゃんとレギオンで染み付いてるのね」

 

「くっ、あたしとしたことが完全に油断してた……絶対染まるもんかって思ってたのになぁ」

 

「ふふ、うん。染まっちゃったね」

 

 仲がよろしいのは結構として、こっち側の煙は……向こうからか。

 

「にしても、ホント迎撃戦みたくなっちゃったなぁ」

 

「多分、参加してた皆は余計そう思ってるだろうね」

 

 恋花のぼやきに乗ってはみるけど、つまり姉さんがわざわざ忠告してきた通りどうせ今回も大人の欲望20割な下らない茶番なんだろうとして、だからこそ黙って殺されてやる義理もない。後始末は姉さんたちがしてくれるんなら、現場はこっちで終わらせるだけだ。

 なんて決意を固めていると、不意に恋花が振り向いて問い掛けてくるのは、依奈が千香瑠を百合ヶ丘へ引き抜こうとしているところを見たからな内容。

 

「……ねぇ、千香瑠は、百合ヶ丘に行った方が幸せなのかな」

 

「どうにも言えないかな。私はあくまで一時的な避難ならエレンスゲよりはマシだけど、長期的には大差ないと思ってるよ」

 

 そうバッサリ言いきれば、瑤も遠慮がちに混ざってくる。

 

「それって、鶴紗さんや……」

 

「そ、ついでにウチの先輩たちも、ガーデンが本当の意味で守ってくれてたのなら、在学中にゲヘナの呼び出しで死ぬことなんてなかったはずだしね。だから私は……烏丸隊(私たち)は百合ヶ丘が絶対に安全だなんて嘘だけは、絶対に言えない」

 

 今でこそ政府を烏丸が実質的に支配したから、経路が限られて昔よりはマシだろうと、一度芽生えた不信感は、ある日なんの理由もなくパッと消えたりなんてしてはくれない。

 それに姉さんたちだって、今でも後からの始末を付けるのが限界だと言われたばかりな以上、その前に手遅れになる可能性は、まだ捨ててはいけないのだから。

 

「一応、一人でも来てくれるって言うんなら姉さんの部下をパシらせてでも個別にガードさせるから、ガーデンじゃなくて私を信じて。とは言わせてね」

 

 だから依奈も、今回ばっかりは『アールヴヘイムの〈プランセス〉』なんて立場を最大限に利用するつもりだろうし、それでも否と言われたなら、それも選択だってだけ。

 

◆◆◆

 

「うぐっ……!?」

 

 恐らく、どちらかの襲撃の折に潜んでいたと思われるヒュージの触手、それが音もなく砂浜の下から忍び寄っていたと、休憩を取っていた一葉が気付けたのは、胴と腕を縛られ持ち上げられたと気付いた時。

 

「「一葉!?」」

 

「私は、いいから……二人は……逃げ……」

 

 先程袖を引き千切るように一瞬触れられただけでも、嫌な虚脱感に襲われたのだ。こうして特に胴体へキツく触手が巻き付いたのだから、より多くのマギが身体から一気に抜かれていく感覚を前に、即座に気を失っていないだけ一葉はまだ持ちこたえられている方なのだろう。

 

「う……この……っ!」

 

 だが触手により腕を頂点に吊られるような形になっていて、もうCHARMも満足に握っていられない。しかしここでブルトガングを手放してしまえば、続け様に現れる触手たちから藍や結梨を逃がすための注意すら引けなく──

 

「一葉、動かないでよ!」

 

 そこで通信妨害を受けてるはずなのに、もがこうとした一葉の耳に届いたのは慣れ親しんだ先輩の声。つまりもうそんなものが関係ない程の距離にいるということで、ハッと顔を上げれば、視界の隅に上から閃く光。

 

「ヘルヴォル舐めんなぁーっ!」

 

「恋花、様……?」

 

 元から彼女の言葉なのだから、恋花が叫ぶそれは一葉の心に染み込むように響き、ブルンツヴィークから放つ光は身体を捕らえる触手の内、胴体を縛り付ける物を藍たちを襲おうとしている物と合わせ、まとめて焼き払ってくれる。

 

「やれやれ、出遅れちゃったか!」

 

「雪華!」

 

 そして残る触手を、飛び交うソードビットが抵抗も許さず刈り取れば一葉も解放され、駆け寄ってきた瑤の腕の中に。

 

「一葉、大丈夫?」

 

「あ、ありがとうございます。瑤様……」

 

「ぐえっ」

 

 しかし、当然CHARMを持ったままな瑤では一人が精一杯で、もう一人受け止められるべきな恋花は『フェイズトランセンデンス』が切れた勢いのまま、受け身も取れず砂浜へ全身でダイブ。

 別にそこまで痛くはないものの、動けないながらに顔を向けて再開を喜ぶシュッツエンゲルやレギオンの仲間たちを見ていると、どことない敗北感に襲われていた。

 

◆◆◆

 

「おーい! 天葉ー、依奈ー!」

 

 少し経ち、天葉と依奈がレーザーレイ種のヒュージを刺激して出てきた触手や、それとの戦闘音を聞き付けて集まってきた周囲のヒュージを片付けた頃、手を振って駆けてくる結梨の姿を見れば、ようやく一人目だと天葉も安堵の息を吐く。

 

「ふぅ。結梨さん、大丈夫だった?」

 

「ううん、あんまり大丈夫じゃない!」

 

「そんな元気に言うことかしら……?」

 

 とはいえ依奈が呆れている暇もないと、結梨に手を引っ張られて行くのなら、天葉も後に続くのみ。

 

 そのまま連れられた先は、砂浜の手前の物陰で一葉と恋花が瑤に介抱されているのを、雪華と藍が見守っているなんて光景。

 

「あ、雪華様。状況は?」

 

「んー、恋花たちはまあ見ての通りとして、夢結と梅、千香瑠はガンシップが落とされた時にはぐれちゃったし、一柳隊(ウチ)の一年は結梨ちゃん以外全滅。多分、前後の状況からあのいかにもってボスヒュージに拉致られたかな」

 

「……新潟で見た、『ドレインズ』のようなタイプかしら」

 

 恋花はフェイズトランセンデンス使用後の枯渇状態なのは一目瞭然として、一葉の疲弊具合にも見覚えのあった依奈の呟きに、返されるのは首肯。

 

「多分ね。一葉ちゃんもマギ吸われてグロッキーみたいだし、梨璃ちゃんたちも捕まった時似たような有り様だったって……それは?」

 

 返事の途中、雪華も依奈が持っている物の内ふたつに気付くと、質問には聞かれた分だろうそれらを掲げて応じる。

 

「CHARMの方は丁度落ちてきたんで、また借りてます。どうせ持て余してるくらいだからいいでしょう? で、こっちは緊急時用の信号弾を取って来ました。合流の目印にもなるし、御台場なり近場のガーデンも、これに気付いて人を回してくれるといいんだけ、どっと」

 

 話しながら、依奈が筒の下から伸びていた紐を引けば信号弾が打ち上がり、空に光点が咲く。

 

「わーい! 花火だー!」

 

「講習は受けていましたが、日中でも目立ちますね……」

 

「だから、その分早く見付けてくれればいいんだけど……」

 

 そこでヘルヴォル一年生の感想に雪華が補足していると、対面に立つ天葉からの報告が。

 

「それで雪華様、あたしたちの見付けたケイブは、既にもぬけの殻でした」

 

「つまり、拡散しきったか逆にどっかに集結してるって?」

 

「はい。多分、噂の幽霊ヒュージの方に……あれは?」

 

 などと予想を告げる前、海のヒュージの方に動きが──

 

◆◆◆

 

「親玉な『メガフロート』に通信妨害の『ゴースト』、当面の敵が二体ってはっきりしたのはいいけど……」

 

 これまでに集まった情報を百由が纏めていると、エレンスゲ女学園のラウンジに設営された、臨時の司令部──というよりほとんど百由とそのサポートをする教員たちの詰所となっていたそこへ、二人のリリィが訪ねて来るのを誰も止めている余裕などなかったようで、目的の相手を見付けたとその片方が声を掛けてくる。

 

「えっと、百合ヶ丘の真島百由さんでいいかしら?」

 

「あー、ごめんサインなら後で。今取り込み中……って、あら?」

 

 しかし断りついでにチラリと見た二人の制服が、こちらからアポイントメントを取っていたガーデンの赤いそれと気付けば、流す訳にもいかず。

 

◆◆◆

 

「あ、楓さん! 皆ー!」

 

「梨璃さ「「ストップです(じゃ)」」むがっ」

 

 こちらは巨大ヒュージ──御台場女学校により『メガフロート』との識別名を与えられたヒュージの上になるが、他のメンバーが梨璃を見付けた時には、彼女はヒュージの触手による壁のような物の前で立ち尽くしていた。

 

「梨璃、それは?」

 

「うーん、なんか周りと違うから通れるのかなーって思ったんだけど、斬っても撃ってもびくともしないや」

 

 楓は興奮していて話にならないだろうと、二水とミリアムとが取り押さえている横から鶴紗が代表して梨璃に聞いてみれば、グングニルの切っ先でツンツンとされるのが答えになるが、確かに脇道に逸れた時に現れる触手と違い、何本も何本も揃って束になっていると思われるこの壁はいかにも頑丈そうで、それ故に『正解』と思わされる。

 ……だからこそ、余計にヒュージでない何者かの意図が見えてしまうが、やはりそれは、まだ仲間たちには聞かせたくないと今は鶴紗の中で飲み込むしかない。

 

◆◆◆

 

 台場側からヒュージに向け飛んでいく光球と、それを狙って海から放たれる光。結果はまだ昼間の空に花火って形にはなったけど──

 

「──ノインヴェルト、セインツかロネスネスも動いたか!」

 

「でも、撃ち落とされたんじゃあ……」

 

 発射位置的には、結構こっち寄り。確かに恋花が唖然とするようにマギスフィア自体はヒュージ本体からの砲撃に撃ち落とされたけど、つまりそれはバリアじゃ防ぎきれないから迎撃した……なら、決して倒せない相手じゃあないってこと。

 

「で、どうする?」

 

「あたしたちが陽動をするんで、雪華様たちは御台場のレギオンへ状況説明を頼みます!」

 

 こうなると片方だけでは失敗したからって今度はもう片方と、ないし入れ替わりで出てきたコーストガードと同時に挑んで、そのまま討伐に成功しちゃった場合が怖い。

 あのサイズだから流石にノインヴェルト一発で跡形もなく消し飛ぶってこともないだろうけど、本体なコアがやられたからと全体が倒壊なり水没しだしたら、どこにいるかも分からない梨璃ちゃんたちがどうなるかなんて、言うまでもなく……なら、天葉たちに時間を稼いで貰っている内に、話を付けるのはこっちの役目か。

 

「オーライ。二人とも動ける? ここからは時間の勝負になるけど」

 

「んっ、く……いけます! ほら、恋花様も気合いで!」

 

「それでどうにかなるんなら、フェイズトランセンデンス持ちは苦労しないっての……!」

 

 とはいえ恋花も文句を言いながらも、自力で起き上がるくらいは出来たなら、ちょっと遅れ気味でも構わないか。

 

「じゃ、天葉と依奈はこの向こうから攻撃を。どっちが来てるにしても、ノインヴェルトしてたレギオンは二人の来た方にいるはずだから!」

 

「了解、流れ弾のひとつも寄越しませんからね!」

 

 話がまとまったならと二人はCHARMを掲げるのを返事に浜辺へ向かうなら、こっちも急ごうか!

 

◆◆◆

 

─ヘリオスフィア─

─縮地─

 

 千香瑠のバリアがヒュージの攻撃を防いでいる横から、梅が駆け抜け敵集団を蹴散らしたものの、正面を片付けても周りをヒュージに囲まれているという状況は、そこまで解決せず。

 

「これ、そういうことだよナ!?」

 

 梨璃たちが、迎撃戦跡地の中でも奥の方なこの辺りからでも見える程巨大なヒュージに捕らえられているとなれば、まとめて海の藻屑となるより先にその事を都内のガーデンに伝えるため、通信状態を元に戻さなければならない。

 故に通信妨害を行っているのがヒュージであるのならば、通信機越しのノイズが酷くなる方向にその発生源があるはずだと、それを追うように三人が向かった先で、ヒュージの群れに囲まれた──つまりは当たりを引いた結果が今の構図だと、振り下ろされるヒュージの脚を横に転がって躱しながら梅が確かめるような内容を口にすれば、夢結も千香瑠の横から迫るヒュージをブリューナクで弾きながら返す。

 

「これで違うというのなら、わたしたちの狙いはもう敵に筒抜けということよ!」

 

「そりゃ、そっか! じゃあ一気に突っ切るぞ二人とも!」

 

「っ、了解です!」

 

 どの道、正解にせよ外れにせよ、進んで確かめるしかない……退路など、もうないのだから。

 

「はあ……はあ……っ、敵は?」

 

「もう、追い掛けてはきませんね……」

 

 そうして暫く走れば、少なくとも後ろからの追っ手は見えなくなった。それが撒けたのか、追う必要がなくなったかの答えは、通信機のノイズの大きさからしてすぐそこなのだろう。

 

「それより千香瑠、大丈夫かその腕?」

 

「……いえ、かすり傷ですから」

 

 しかし、移動中何度か反射的に手で押さえていた様子は明らかにそんな軽度ではなさそうで、顔色も先程夢結が見た時よりはマシとはいえ、あまり良くはなさそうだ。

 

「……梅」

 

「おう。ちょっと失礼するゾ!」

 

 故に、何かを隠しているのは分かると夢結が目配せをすれば、梅が千香瑠の衣装、その右の袖をまくり上げる。

 

「うっ……」

 

「うーん。よくこれで戦えてたな、逆に感心するゾ」

 

 その下から露になる二の腕の辺りにあったのは、強く打ち付けたと思われる痣と、酷く擦りむいたような傷。確かにヒュージの攻撃で出来たにしては大分軽いが、これでは動かすだけでかなり痛むだろうとは、見て分かる。

 そして、これまでの戦闘中千香瑠はヒュージからの攻撃に被弾していない以上、その傷を負ったタイミングはひとつだけ。

 

「脱出の時ね。ごめんなさい、わたしがもっと早く気付いていれば……」

 

「いえ、私のミスですから……」

 

 とはいえ、彼女は操縦士を助けるために無茶をしたのだから、責められるようなことでもない。それに、通信機のノイズが更に強くなっているのだから、悔やんでいる暇も──

 

「っと、どうやら親玉の方から来てくれたみたいだゾ!」

 

 崩れたビルの影から現れるのは、ラージ級程の大きさをしたリッパー種と思われる、甲虫のように一対の顎を備えた飛行型ヒュージ。配下のように小型のヒュージを従えている様子から、梅が親玉と称したのも頷けるが、そんな風に考えている内に、先程まで追ってきていた数以上のヒュージが周囲から続々と集結してきているとなれば、流れはかなり悪い。

 

「どうする……? わたしだけならまだ抜けられるけど、それじゃあ夢結と千香瑠が……でも全員で突撃っていうのも、怪我人を抱えてじゃ分が悪すぎる……!」

 

「……突撃役なら、わたしが行くわ」

 

 梅がこの状況を打開しようと必死に考えてくれているのは、思わず零したのだろう声で分かる。なら今一番確実に、ヒュージに最大の打撃を与えられる手段を、夢結が躊躇う理由などなかった。

 

「冗談言うなよ。今の夢結じゃ梨璃もいないってのに……まさか?」

 

「ええ、そのまさかよ。『ルナティックトランサー』を使う」

 

 本当に、まるで迎撃戦の再現だと懐かしむには、二人とは当時の部隊が違うのが悔やまれる。

 尤も、あの時は最終的に戦闘も終わり楪に絡まれている中、暴走を見られた側の夢結は気恥ずかしそうに顔を背けたまま何を話せることもなく、疲れ果てて眠っていた幸恵共々されるがままとなっていただけだったが。

 

◆◆◆

 

 大体の方向に当たりをつけて走れば、信号弾のお陰か向こうもこっちに寄ってきてくれていたのか、すぐ合流出来たのは半分近くが初見とはいえ見知った隊長姉妹と他数人で分かる通りの、LGロネスネス。

 ともかく、挨拶も程々にこっちの事情と行動方針を告げれば、純も頷いてはくれる。

 

「……なるほど、状況は理解しましたわ」

 

「そういう訳だから、どうせノインヴェルトも不発に終わって暇だろうし、もう少しこっちで暴れてくれると助かるかな。夢結たちもまだ合流出来てないしね」

 

 なんか純たちが撃った前提で話しちゃってるけど、そも御台場でノインヴェルトをやれる程の人数と練度のレギオンとなると、その答えは三択。で、状況を鑑みれば本校防衛のコーストガードは現状下手に動かせないだろうから、実質ヘオロットセインツとロネスネスの二択まで絞り込める。

 ほとんど初対面な下級生の詳しい実力は分からないけど、あそこの金髪の子の抱えてるCHARMなんていかにもってライフルタイプだし、こないだ梢ちゃんが自分で整備してた弓っぽいのも大分いい線行けそうだ。それに純のフルンティングだって、前に見た時の出力なら、この距離でもフィニッシュは狙えただろう。

 

 ……まあ、一番はセインツと巡回のルートを被らせないだろうって、事務的+人読みな部分はあるけど。

 

「なので、我々があのヒュージに乗り込んで一柳隊のみなさんを助けるまでの間、御台場の方々には陽動をお願いしたいのですが……」

 

「それは構いませんが、移動手段のあては?」

 

 なんてロネスネスの面子を眺めつつ分析していると、一葉ちゃんの熱弁を受けた初からそれはそうな返しをされて、現実に引き戻される。

 

「あー、行くだけなら私は最悪走ってで済むけど……一葉ちゃん?」

 

 確かに、言われてみれば乗り込む前提で話してはいたものの、私一人で行ったところで流石に拐われた七人全員を背負って戻るなんて無理があるし、泳いで帰るのも皆の消耗を考えたら現実的じゃない。

 故に言い出しっぺが何も考えてないなんてないだろうと、パスはしてみるけど……答えは、そこら辺で拾ったようなボロボロのチラシを取り出して。

 

「それならお任せください! 近くの海浜公園にあるという水上バス乗り場の船を拝借して、私が運転します!」

 

「えぇ……」

 

 いや、確かにこの前色々とマニュアルを嗜んでるとは言ってたけども、命懸かってる場面でペーパードライバーはなぁ。

 

「らんはさんせーい! 楽しそう!」

 

「いや、万一キー刺さりっぱで使えるのがあったとして、実物に乗ったこともないペーパー一葉でやれんの?」

 

「大丈夫です! やればできます!」

 

 あ、恋花からの疑問も勢いで押し切るつもりだこれ。

 

「同盟レギオンというのも大変ですわねぇ」

 

「……まったく否定出来ないタイミングなのが困るけど、楽しくて飽きないとは言っておくよ」

 

 純の皮肉にもなってないド真ん中ド直球なストレートには無難な返ししか出来ないけど、問答の解は、空からやってきた。

 

「……ん?」

 

「あれ、あの色ってエレンスゲの……?」

 

 同じく音と風とに気付いて見上げた瑤がその正体を告げるのなら、話が違うぞと恋花がリーダーに詰め寄る。

 

「ちょっと一葉ー、あんたたちの乗ってたやつもやられたんじゃなかったの?」

 

「え、ええ。ヒュージに襲われたらしく、少なくとも私たちがたどり着いた時には、既に飛行は不可能な状態だったはずですが……」

 

 しかし、現実にガンシップは私たちの集まる辺りに降りてきてる訳で、開いたハッチから駆けてくるのは、百合ヶ丘の方に乗っていた操縦士さん。

 

「みなさん、ご無事でしたか!」

 

「見ての通り微妙に欠けてるから、無事とも言い難いけど……そっちはどうしたんです?」

 

「避難したシェルターで彼と会いまして、私たちでも何かやれることがあるはずだと、ガンシップを直してたんですよ!」

 

 なるほど。エレンスゲの操縦士さんも操縦席でサムズアップしているし、嘘はないようだけど……資材も、シェルターにあった分でなんとかなるような損傷だったとか?

 

「……実際のところは、物資込みの救援が来たからなんですけど」

 

「救援?」

 

 猫の手、というより百由の手も借りた状態のエレンスゲがこんなに早く人を寄越せる訳がないだろうし、百合ヶ丘の方なんて下手をすれば、アールヴヘイムの二人が行方不明だなんて、ガーデン間で開戦まったなしな不祥事の揉み消しに、未だ情報すら送られてない可能性すらある。そんな有り様で誰が──

 

『雪華ちゃん、暇だから来ましたよー』

 

 ──いたわ、この状況を外から俯瞰して眺められてた暇人が。いや霊奈さんのサブスキルは『ステルス』だけどさ。

 

「あの時のロボだ!」

 

「えっと、りりぃずあーまーど……こあ? だっけ」

 

「キャバリアだよ、藍」

 

 結構気に入っているのか、末っ子組がまた変なノリになってるのはともかく、瓦礫の間をのっしのっしと歩いてくるLACの肩には、前回と違って砲塔のようにCHARMが外付けされていて、その内側、つまり肩の上には左右それぞれ一人ずつリリィが座っていた。

 

「叶星に、高嶺?」

「叶星様!」

 

 いや、だからなんで元予備隊仲間の純と反応速度同じなん一葉ちゃんは? 同じ都内のリリィとして中等部時代からすれ違っていたにしたって、やけに距離が近い。

 こうなると夕暮れ時に神庭の図書室で勉強を見てもらったとか、そういうのも何度かやってそうな気配。

 

 なんて幻覚はともかく、肩に乗ってる二人の格好に私たちは見覚えがあるなと、話題はそっちの方に。

 

「あれって、千香瑠たちの着てた衣装……?」

 

「いやいや。あの二人あたしらと同じ幕張側で、迎撃戦に神庭から来てたのって秋日だけじゃなかった?」

 

「ま、同盟レギオンだしでついでに作ってたんじゃない?」

 

 そうなると百由は最初から一人別行動だったの含め、このまま何も起きなかったら折角東京に来たんだしと、その足で神庭にも寄って帰るつもりだったのやら。

 

「一葉! 行方不明だって聞いてたけど大丈夫?」

 

「は、はい。みなさんのおかげで、なんとか」

 

 ともかく、そのまま片膝膝立ちになったLACから降りてくる三人と情報交換をしてみれば、都内が騒がしいとたまたま六本木の近くまで来ていた叶星と高嶺がエレンスゲを訪ねたところ、忙しくしていた百由に話を聞いたついでにこの衣装を渡され、台場に向かう途中どこからか話を聞き付けた霊奈さんに、逆ヒッチハイクで拾われてこうなったと。

 

「てか、道路いいかは曖昧なんじゃなかったですっけ?」

 

「緊急車両ってことで通してますから、そこはご心配なく。それと、まだガンシップの修理は半端だから、救出待ちの間に私も手伝って直します」

 

 そこで霊奈さんがキーを投げ渡して来るのは、ガンシップはまだ本来の高度も速度も出せないからと、間に合せの牽引のために使うらしいLACの方には、またしても私に乗れってことね。

 

「で、そうなると高嶺たちもこっち?」

 

「いえ、配置は来る途中ですれ違ったアールヴヘイムの二人と入れ替わりにしてもらうつもりです」

 

 なるほど。まあ捕まってるのは百合ヶ丘のリリィだけだから、そうしておいた方が後腐れもないか。

 

「了解。なら後は任せたよ」

 

 さて、話もまとまったし、立ってる方の膝を踏み台にLACのコックピットに乗り込もうか。

 

◆◆◆

 

「皆、気をつけてね。行こう高嶺ちゃん!」

 

「ええ。録な挨拶も出来ずにごめんなさいね」

 

「いえ、非常時ですから……では我々も参りますので、純様、初様、こちらはお願いいたします」

 

 LACに乗り込んだ雪華が乗機とガンシップを牽引用のワイヤーで繋ぎ、叶星と高嶺はアールヴヘイムのいる浜辺へ向かったなら、後はヘルヴォルが結梨や霊奈と共にガンシップに乗り込むだけと一葉も続いて挨拶をしていると、その横へぴょこぴょこと藍が寄ってくる。

 

「きいたん、ういたん、がんばってね」

 

「きっ……!?」

 

「あら」

 

 あだ名のつもりなのだろうが、袖をプラプラとさせながらな親しげな呼び方は、純が驚く以上に被害は大きく、後ろの方で明らかに笑いを堪えきれてない気配が。

 

「きっ、きいたんって……あの純に……ぷふっ……!」

 

「あ、槿様……笑ったら悪いですって……あ、無理……!」

 

 梢は仲のいい先輩の藤田(ふじた)槿(あさがお)と向かい合いながら吹き出して隠すつもりもなくなっているし、その向こうでは、咳払いをしつつ露骨に視線を逸らしている二年生の伊草(いぐさ)(すばる)が、同じく二年生な川端(かわばた)(ほたる)に頬をつつかれていた。

 

「あれー、(すばる)は何目逸らしてるの?」

 

「……いえ、純や初が他校のリリィと仲良くやれているのなら、それ自体は素晴らしいことですので」

 

 加えて燈も「その手がありましたわ……!」と我、天啓を得たりな顔になっていたり、残る一年生な金髪の子こと今村(いまむら)(ゆかり)も、突然の空気にどうしたものかとキョロキョロする始末。

 

「うわあああああっ!? す、すみません純様! 藍がとんだ、その……」

 

「……別に、あだ名くらい気にしませんわ」

 

「ばいばーい」

 

 と、ここまでの惨状を見てようやく何が起きたか理解したように、遅れて一葉が謝罪をしようとするも、何を謝ればいいのかすら定まっていない彼女の様子に、流石の純とて怒るような気分にはとてもなれないまま、呑気に手を振る藍を引きずるようにして一葉がガンシップへ乗り込むのを見送る。

 

「私は、悪くないと思う」

 

「雪ねっ……ともかく! もう行きますわよ!」

 

 しかし、三年生の長沢(ながさわ)(ゆき)がフォローなのかただの本音か分からない様子で告げてくれば、完全に純のペースは乱れてしまうのだが。

 

「はぁーいきいたんおね「燈ぃ!」

 

 流石にこれ以上の弄りは御免だと、純に蹴飛ばされる形で燈の悪ノリは中断されるが、それを見て他のメンバーもおふざけの時間は終わりだと辺りに散らばる中、逆に一人純の眼前に近寄る初が巫女服のような隊服の袖を、藍の真似でもするかのように垂らして一言。

 

「きいたん♪」

 

「ね、姉様!?」

 

 遂に身内にまで刺されたぞと、愕然とする純を横目に初も配置に向かうが、既にノインヴェルトの直後だとかそういった部分とは関係なく、純の精神的な疲れがとんでもないことになっているのにも構わず、ガンシップは離陸していく。

 

(ま、聞かなかったことにしておこう)

 

 どうせ一年生同士の仲がいいのなら、わざわざ楪に密告するまでもなくセインツには共有されるだろうしと、ロネスネスのどんちゃん騒ぎをLACのカメラ越しに眺めていた雪華も役目を果たすため、機体をガンシップの先を行くよう動かすしかない。

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