いや、御台場のレギオンっていくらぼかそうと三つしかないんで、顔見知りな状態で会っちゃうと藍ちゃんを止められなかったんや…だから被害拡大も仕方ないね、きいたん。
ま、サブタイトルにさらに副題付けてる通り、今回も区切りガガガ ガガガガということなんすけどね!
─ルナティックトランサー─
「はぁああああああっ!!」
スピードこそ梅の『縮地』に劣るものの、『ルナティックトランサー』を発動した夢結の突破力は普段使いをしなくなった今でも決して衰えてはおらず、一気に敵陣を食い破る形でその威力を知らしめている。
(発動してすぐは大丈夫……ってことは、頭では分かってるつもりなんだけどナ)
それでも夢結の
梨璃のお陰で近頃はマシになっていたとはいえ、やはり彼女が側にいてくれた方が安心なのは確かだ。
「ま、その梨璃たちを助けるための戦いだ、無理もしちゃうか!」
だからせめて、決して一人きりにはしてやらない。それが今の梅に出来る精一杯で、利き腕を負傷した千香瑠を連れ一旦ヒュージの囲いから外に抜けた場所にて彼女に後衛を任せれば、少し遅れつつも夢結と一定の距離を離さないように追いかける。
◆◆◆
「にしても、これが前言ってた新型です?」
同じ頃、こちらも梨璃たちを助けようと東京湾に殴り込みな雪華たちの側になるが、移動中にチラリと確認したLACの武装を示す画面に映る『ロングレンジバスターキャノン』二門という並びに、牽引しているガンシップ内の霊奈に繋いで確認を取れば、何を今更といった返しが。
『そうですよー、取り回し改善のために小型化して多少出力は落としましたが、その分連結モードで最大火力自体は上げてます。ストライカーの次ですし、名付けるなら『ウィザードビット』でしょうか?』
「了解。ならマジなショータイムと行きますよっと」
リリィの装備なのに女性系な『ウィッチ』でないのは、お互いの趣味に合わせてだろうからともかく、雪華が意識をモニターに戻せば切り替えた外部カメラからの映像でロネスネスと叶星たちが、メガフロートと御台場が呼称しているらしい超大型ヒュージに攻撃を仕掛け、気を引いてくれているのが見えるのだから、後は外側から大きく背面に回り込むだけ。
規模こそ大掛かりになろうと、やること自体はハレボレボッツの時と変わらないとなれば、装備もバックアップも比較にならないくらい充実しているのだから、雪華としても幾分か気楽な物ではあった。
◆◆◆
「……うーん、よし」
そして台場側からも、海に近い場所ならば多くの建物が倒壊したままな影響もあってガンシップの様子はある程度見えるのだから、もう乗り込むのに問題ない距離と当たりを付ければ、メガフロートへの牽制ついでに近場の敵を処理していた中、『わざと』浅く斬り付けた虫のような小型ヒュージがたまらず下がって行くのを見送って、駆け出した蛍はライトグリーンの長髪を揺らしながら通信を繋ぐ。
「ごめーん、ちょっとヒュージ逃がしちゃったから追ってくるね!」
「……蛍?」
それは近くで同じように戦っていた昴からすれば、不自然さを隠そうともしていないように見えたのだが、先程他校のメンバーと交換した情報を思えば、仕方ないことだろうと納得し言うだけ言って通信を切った彼女の背を見送り、ヒュージからの攻撃を愛機『ヒルドル』のシールドで弾きながら、同じくロネスネスの司令塔である槿へ繋ぐ。
「槿ならちょうどいいと思うので、蛍を追いかけて下さい」
『へ? いや、その位置なら昴の方が近いんじゃ……』
『あっれー、槿様今どこで戦ってましたっけー?』
◆◆◆
「え? どこって、御台場でしょ」
そこで割り込んできた梢の、横と通信越しの声に戸惑いながら返す槿だが、「チッチッチッ」と指の代わりに左手に持つ短剣──梢の専用CHARMである『フェイルノート』の子機側のそれを振られては、何も見落としはないだろうと文句を言おうとして……目についた周辺の光景から感じる懐かしさに気付いてしまう。
「あっ……そういうこと?」
「そういうこと、です!」
近くに残っていたはぐれヒュージも、最後の一体が短剣の投擲で目を潰され、他のヒュージを貫いたまま飛び去るはずだった光弾をお得意のマギコントロールにより誘導した梢がトドメを刺したことによりいなくなったと、そのまま光弾で弾くように手元に戻してみせた短剣で正解だと指して来るのだから、詳しい説明は不要ということ。
「でも、それだと純が……」
『それくらい構いませんわ。むしろ今なら二人くらい抜けても、差し引きは同じですもの』
『ええ! 今日は私たちだっているんだから、また頼ってくれてもいいのよ?』
これまでの話で蛍が抜け出した意味も、槿も行くべきと言われている意味も分かっているにしては、叶星はともかく純の態度が普段通り過ぎる。
それは恐らく言葉の通り叶星たちがいることだけでなく、彼女たちや他所のレギオンとここしばらく共闘や交流しているのが理由かと、納得の行くような行かないような感覚でどうにも動けない槿だが、ヒュージの方はそんな葛藤を待ってはくれない。
『砲撃が来ます! 待避を!』
「はいはーい、っとぉ!」
「うわっ!?」
予兆のような光が敵のコア部分に見えたと、昴が指示を飛ばせばメガフロートからの照射を避けた後梢に内側へ向け押されれば、流石に槿も踏ん切りがつく。
「もう、分かったわよ! けど、蛍を連れ戻しに行くだけだから、すぐ戻る!」
『ここまで来れば、少しは話す時間もあると──』
周りに急かされて意地になったのか、駆け出す前に槿の方から通信を切っていたのもあって、それ以上話は続かないが、ヒュージ側の反撃も次第に収まって行くのならひとまず作戦の第一段階はクリア、向こうの離脱前後まで手持ち無沙汰になるのは確かなのだから、問題はない。
◆◆◆
「さてと、問題なく突入出来たのはいいけども」
ブーストを使ったジャンプで海上からヒュージの背中─という表現が正しいのかはこの際置いておいて─に乗り込めば、これ以上LACで進むのは下手に刺激して捕まってる皆に悪影響が出るのも悪いと、待機状態にさせた機体の両肩からウィザードビットだけを回収して降りながら、手持ちのコアとのリンクは完了したって状態。
そして他の皆もガンシップから降りて来れば、護衛も兼ねて残る霊奈さんが一言。
「私たちはこのままガンシップの修理を済ませておくんで、後はお任せですよー」
「はい! それで雪華様、どう進みましょうか?」
「うーん、右からか左からか……」
刺激の問題で壁をぶち抜いていくのを除外すれば、道はその二択、どこから回ったものか……なんて考えは、走り出した結梨ちゃんの姿に断ち切られる訳で。
「あ、ちょっと?」
「多分、梨璃たちはこっち!」
「や、多分て……」
「いえ、先程も結梨さんはこのヒュージが出てくる前に異変を察知しているようでしたので、闇雲に探すよりは可能性はあるかと」
そうなの? と一葉ちゃんが言うんなら嘘はないだろうとして、結梨ちゃんの向かう先にヒュージの触手が現れるっていうのも、一応当たりっぽくはある。
「っ、とと!」
「そのままストップ、今進行ルートを切り開くから!」
グリップを展開し長銃身なライフルのような形になるウィザードビットを両手に、目の前に敵が出たと思わず後ろに下がる結梨ちゃんの動きを言葉で制しつつ、二挺を左右からくっつける形で連結してターゲット・ロックオン──
「破壊する!」
これもこれで『ツインバスター』だなぁと思いながら、試し撃ちも兼ねた一撃は確かにストライカーの通常出力は越えているなと、納得の威力で現れた触手を一気に薙ぎ払い、その先で外壁のようになっているヒュージの体表に焼き焦げた跡を残す。
……てか、ここまでの威力だと今はちょっと撃ち方に気を付けないとか、これは。
「いいね、誰もいなかったら高笑いしてたくらいの感触だ」
「いや、どういうノリですか」
さて、依奈のツッコミにどう返すか。なんて連結を解きながら考えて、そもそもツインで高笑いは違う『ゼロ』だな?
「いくよ結梨、みんなを助けに」
「うん!」
「二人とも、あんまり先走らないで!」
とか謎の自滅を起こしている内に、一年の三人が先に先にと駆けて行くから、ボケてる暇もないか。
「いや、そう言うんならあんたも一緒に行っちゃ……ああもう、これだからウチのお子ちゃまたちは」
「ふふ、じゃあ引率の先生も急がないと」
なんて言いながら瑤がこっちを見てくるなら、年長者扱いに応えるより流した方が面白そうだと依奈に振る。
「ですってよ、お着替え先生」
「そんなに言うんなら、今度メイド服着せますよ?」
どんな脅し文句なんだ……けど、それを聞いた天葉が「あちゃー」って額を押さえてるから、冗談でないのだけは確かか。
「ま、ハロウィンにネタが無かったら借りるかな。それよりも!」
「了解、行くわよソラ!」
「……あ、普通に受けちゃうんだ」
別に、嫌って訳でもないからねぇ。どうせやるんならプロ……プロか? なんにせよ、慣れた子に選んで貰った方が早いし。
まあ、気分転換もここまでだ。そろそろ本気で行こうかと、新型だろうと変わらず装備されてるらしいビームソードを起動しながら、三人を追って駆け出そう。
◆◆◆
「──っ! 夢結!」
「あの位置なら、なんとか巻き込まれてはいないはずです……!」
メガフロートによる砲撃の余波は、迎撃戦跡地の中でも中央寄りになる梅たちの戦うエリアにも流れて来ており、戦闘中だったヒュージもいくらか巻き込まれはしたが、その真っ只中にいたはずの夢結は、千香瑠が見た限り範囲の向こう側まで抜けていたのだから……
「あ、いました。でも……」
「千香瑠、そっちは任せたゾ! 《縮地》っ!」
無事ではあったのだが、生き残った左右数体ずつのヒュージに夢結が挟み撃をされていると見れば、梅が飛び出したのと反対側へ千香瑠はゲイボルグの銃口を向け、引き金を引けば梅と動きを合わせた夢結が自分たちの側を一気に撃破、仕上げに三人で残る小型ヒュージを撃ち抜けば、残るは宙に浮くラージ級──
「よし、これで後は……」
「はい、あの幽霊ヒュージだけです!」
──ここまでくれば三人にも近頃噂な幽霊の正体だと分かる、ゴーストと呼ばれる個体のみに。
「夢結、もういいゾ!」
「………………」
「夢結?」
ルナティックトランサーを解除して、あいつは梅に任せてくれ──そういう意味を込めて掛けた言葉に返事がないどころか、CHARMを構えた梅とゴーストの間を、こっちこそが幽霊のようにユラユラと覚束無い足取りのまま進む夢結の姿に気付くと、まさか……との悪い予感の答え合わせは、マギの変質する気配と、端から一気に白く染まり始める夢結の髪。
「ぅ……ぁあああああ!!」
「夢結! それにこいつは……?」
見たところの特徴はリッパー種だというのに、ウィッパー種のような蛇腹状の触腕がヒュージの胴体左右から縦横無尽に伸び、様子のおかしい夢結を襲わんとするが、暴走状態に入った彼女はそんなものに構うことなく特攻して、手足に無数の切り傷を残されながらも一気に懐へ飛び込んでCHARMを振るい、ゴーストのクワガタのような顎を二本まとめて半ばで両断。思わぬ痛打にたまらずゴーストも上空へ退避しようとするが……
「逃がすナ! 撃ち落とすゾ!」
「っ、はい!」
ここまで来てそんなことを許すものかと、梅と千香瑠に左右の羽根を撃ち抜かれ、ゴーストが落ちる先にいた夢結がCHARMを反射的に振り上げれば、串刺しになるようにヒュージの胴体にブリューナクのブレードが突き刺さったのを確かめているのかいないのかな速さで、振り抜かれた刃が身体を引き裂きトドメを刺す。
「や、やった……?」
「おう。千香瑠、御台場に連絡は頼んだゾ」
やはりこの幽霊ヒュージが電波障害の原因だったようで、通信の調子が良くなったのは二人にも分かるが、梅の方は、今はそんなことはもう重要ではないとばかりに千香瑠に連絡を任せると、ヒュージを倒したまま微動だにしない夢結の方へ、ゆっくりと近寄る。
「ま、梅さん……? 夢結さんも、ここでの戦いは終わりまし……えっ?」
「……ううぅっ!」
「っ……やっぱり、こうなるんだナ」
梅が触れる直前、どこか怯えたように、あるいは拒絶するようにブリューナクが振るわれれば、理解が追い付かない千香瑠とは正反対に、梅は分かっていたとタンキエムでその刃を受け流す。
「な、何を……しているんですか……?」
「悪い。見ての通りだから、後は梅に任せてくれ!」
今は説明をしている時間も惜しいと、「こっちだ夢結!」と怪我をしている千香瑠から引き離すように注意を引きながら梅が駆け出せば、夢結も彼女を追って、わざと追い付かれる速さに抑えていたのもあり、今度は真っ向からCHARMでCHARMを受け止める形に。
「んぐ、っ……流石にキツいナ!」
その勢いには逆らわず、敢えて梅が後ろに飛べば距離が離れたと今度はシューティングモードの射撃が飛んで来るが、梅もここまで千香瑠から離れれば十分と縮地を使い、何発か銃弾をかすらせながらも一気に距離を詰める。
(いったい、なにがどうなって……?)
しかし、いくら暴走の危険性があるルナティックトランサーといえどこれ程かと、千香瑠としては急な仲間同士の殺し合いにしか見えない状況に、通信が回復していると気付けたのは、御台場からと思われる誰かの声が聞こえて、ようやくだった。
『この通信が聞こえている他校のリリィは、今すぐ返答願います』
「ぁ……こちらエレンスゲの芹沢千香瑠です! 百合ヶ丘のみなさんが、海の巨大ヒュージに囚われて……いえ、それもありますが──」
◆◆◆
──中等部時代、いかにもなお堅い優等生と、自由気儘な気分屋。性格だけで見れば水と油のような二人は、不思議と一緒にいることが多くて、だから……だけど、梅は夢結になんにもしてあげられなかった。
「今のは……? あぐっ……」
お互いにレアスキルを全開にしてCHARMをぶつけ合った瞬間、現実にはほとんど時間が経っていないのだろうが、梅が見たのは夢結と出会ってからこれまでの、断片的な光景……いくら消耗とダメージから大分フラついてきたからと、大事な思い出なそれを走馬灯だなんて思いたくはないし、『前例』はあったと梨璃や雪華から聞いてはいたから、今のが暴走する夢結のマギと共鳴した結果なのだとは、CHARMごと弾き返される梅にも分かる。
「……なあ、夢結も『そう』思ってくれてるのか?」
答えに期待はしていないし、聞くまでもないと思ってもいる。だけど……だからこそ夢結の心に問い掛けたかった梅の言葉も、今はどこに届いたかも分からない。
「…………ぁあっ!!」
返事もままならないこの状態が〈神宿り〉であるのならば、ここ御台場のリリィなヘオロットセインツの治のような特例程でないにせよ、こうなってしばらくは制御出来てなければいけないのだから、やはり夢結の『これ』はあくまで類似した現象に過ぎないのか……もしくは彼女の場合、この姿はルナティックトランサーの暴走から連鎖して成ってしまうが故、初めからタイムリミットは過ぎていると、制御を失った状態なのか──
「う、うぅ…………」
──そのどちらが正解にせよ、学者先生でもない梅には結局詳しいところは分からないし、この際力の呼び方なんぞどうでもいい。現に今夢結は自らの力に苦しんでいる、それだけが、梅の目に映る真実だ。
「んじゃ、もう少し頑張……うわっ!?」
戦場全体ではもう何度目かになるが、こちら側の面々は初めて体験する地揺れからの触手の強襲に、梅は対応なんて出来ていなかった。
ただフラついた弾みに範囲から逃れた彼女より、更に強大なマギを放出し続ける夢結に狙いが集中しただけで、ブリューナクにより多数が蹴散らされようと、生き残った数本が背後から夢結の腕や首に巻き付いていく。
「うっ、ぐぅぅぅぅ…………!!」
あるいは、このまま梨璃たちが捕らえられた時のように触手にマギを吸われ続ければ、夢結は止まれるかもしれない──
「夢結ッ!」
──けど、それを由としてしまったら、梅は夢結の隣に二度と立つ資格がなくなる。
自分で自分を責めているだけならば、側に寄り添ってあげればいい。だけど誰かに苦しめられているのを見て見ぬフリをすることだけは、どうしても出来なかった。
「……うぅっ!」
その結果が、触手をタンキエムで切り裂いたものの、それらから逃れようと暴れていた夢結の刃に、今度は自身が貫かれそうだという現実。
(……ハハ。多分、美鈴様もおんなじだったんだろうナ)
もっと賢いやり方はいくらでもあったろうとしても、自分の中で納得のいくやり方は、これしか──だけど、こんな状況を黙って見ていることなんて出来ないのは、この場において梅一人だけでなかったから、その先は少しだけ違う。
「夢結さん、止まってください! あなたの大事な人を、二度と目の前で亡くさないために──!」
─ヘリオスフィア─
「ぁ……うああああっ!!」
防壁が防壁と機能したのは、刃が触れた瞬間だけ……それでも、遠目に見えた力尽きたように倒れる千香瑠の稼いでくれた刹那は、確かに梅の命を繋いでくれた。
痛む身体に鞭打つように叫びながらタンキエムを割り込ませれば、もろともに近くの瓦礫の山に吹き飛ばされる結果になろうと、生きているだけで儲けものだから。
「がっ……けほっ、けほっ……」
背をぶつけた衝撃で息を吐き出し、咳をしながらもゆっくり梅が起き上がれば、夢結の方も待ってくれている……というより、余裕なんてもうないだけなのがお互い様のようだ。
「「はぁっ……はぁっ……はぁっ……はぁっ……」」
夢結も梅も揃って肩を上下させながら、息も絶え絶え。まるで向き合っている二人以外世界には誰もいないみたいで……けれど、いつまたヒュージの横槍が入るか分からない以上、そして最後の力を振り絞ってくれた千香瑠の想いを無駄にしないためにも……
(何より、わたしまで夢結の傷になっちゃあ、多分もう夢結は戻れなくなるから)
梨璃と出会ってからの夢結は、美鈴が亡くなる前と同じように、あるいはそれ以上に笑うようになった──だというのにまだ一人ではルナティックトランサーを完全に制御出来ていないのは、それだけ美鈴を失ったことによる心の傷が大きいからに他ならない。
だから、これ以上夢結を泣かせたくないから、梅は自分まで彼女の笑顔を曇らせる理由になるのだけは、絶対に嫌だった。
「その笑顔の先が、わたしかどうかなんて、もう……でも、それでも梅だってまだ夢結と一緒にいたいんだ! 限界まで付き合って貰うゾ!」
─縮地─
単純なパワーでは今の夢結には敵わない。だから梅の全力で、全速で、全霊で打ち合う。一発に一発を返して押し負けるのなら二発、三発と重ねて無理矢理拮抗させ……勝つまではいかなくていい、負けなければいいだけなのだから。
そんな切り取られた舞台での二人きりのダンスは、暴風のような余波だけで並のリリィでさえ近寄れなくなる様相を呈していたが、それが不意に収まるのは、夢結が左手で頭を押さえることによって。
「夢結!?」
「うっ……あぁぁ……美鈴……お姉様ぁ……」
負のマギを扱うルナティックトランサーは、様々な悪影響をリリィに及ぼす。その中でも強く今の夢結を蝕むのは、虚空に手を伸ばす様子から恐らく過去の光景のフラッシュバック──彼女の刻は、あの夜の甲州に囚われてしまっている。
「夢結ーっ!!」
「うぁ……っ!」
「来ないで」とでも言いたそうに突き出されるブリューナクは身体を傾けてかわそうとしたものの、避けきれず肩口に上着ごと切られた痛みが走るが、構わず梅はタンキエムでブリューナクを下からかち上げて吹き飛ばすと、それを反射的に視線で追った夢結の背後を取り、そのまま自分のCHARMも放り投げて抱き付いた。
◆◆◆
「ここ……?」
「多分!」
自信があるのやらないのやら……なんて結梨ちゃんに連れられた先の答え合わせは、端末とにらめっこしていた瑤の方から。
「GPSの反応……届いた。ここで合ってるみたい」
「よし、後は梨璃たちを助けるだけっしょ!」
ふむ、海の上とはいえ東京湾内で、通信妨害の出所だろう台場よりも本土に近いから、まだ電波もマシだった?
ともかく、たどり着いた先の触手の壁がヒュージ──ないしその一部であるのならば、当然マギによってその形は保たれていることになる訳で。じゃあ、『こいつ』なら、断ち切れるか?
「おっと?」
なんてソードライフルを手に考え込んでいると、付けっぱなしではあったインカムから、ようやくノイズ以外の音がする。
『……ます……聞こえますか?』
「こちら黒紅、まだ微妙に聞こえづらいけど、皆は無事?」
ならばと返事をしてみれば、多分ダメ元だったんだろうし、まず返ってくるのは驚いたような反応。
『雪華様!? えーと、二川です。結梨ちゃん以外の一年生は全員いますが、そちらは?』
「私と結梨ちゃん、天葉に依奈、それと千香瑠以外のヘルヴォルの四人かな。向こうは梅たちと御台場組に任せてるけど、通信が復活したんなら、やってくれたってことでしょ?」
心配してなかったと言ったら嘘になるけど、それ以上に信じていたんだから、この結果は当然……とまではちょっと言いすぎか。
「ともかく、皆はこの向こうにいるってことでいいの?」
『は、はい! 今『鷹の目』で確認しました! こちらは対楓さん用……げふんげふん。ノインヴェルトで壁の突破を試みます!』
いや、なんて? 相変わらずよく分からんノリを……なんてのはともかく、それなら話は早い。
「了解。こっちもフルバーストかますから、タイミングは任せるよ」
『は、はい! 梨璃さん、そういうことですのでカウントダウンはお任せを!』
『うん!』
「フルバーストって?」
さて、藍ちゃんからの疑問には、ヘッドセットのバイザーを降ろしながらな装備の配置替えを答えとしよう。
ブレイザーを背中のサブアームに任せて、ウィザードは再度連結、ライザーを腰アーマーの左右に引っ掛け、グングニル・カービンは今は役目がないと後ろ側へ、シールドとソードは全機直結の、トリプルバスターを前に向けながら、その中心に置いたウィザードビット──敢えて名乗るならツインバスターライフルの、銃口の先に備えた魔法球と共振させる。
『3、2、1……今です!』
『いっけぇぇぇぇっ!』
「ハイパーバースト!」
なんて叫んではみても、特殊弾もない以上ノインヴェルト程きちんと纏められてはいないから、高濃度に圧縮していった結果な『元ネタ』とは見た目以外あんまり合わせられてはいないけど、それでも人一人は余裕で飲み込めるサイズなりの威力はある光球が触手の壁を抉れば、反対側からの爆発が突き抜ける手助けにはなっただろう。
「おおっ、やりました?」
「そういうの、フラグって言うんじゃなかった?」
まあ、アールヴヘイムの二人がこういう反応を出来る辺り、手応えありだと見てくれたとして、煙が晴れれば崩れた壁の向こうでは、梨璃ちゃんが安堵の息を吐いていた。
「ふぅ、よかったー……上手く行きましたね、雪華様!」
「梨璃!」
ん、返事より先にシルトが飛び出した。まあ、一人残されたなんて、結構堪えたろうからねぇ。
「みなさん、ご無事で何よりです!」
「あまり、無事とも言えませんが……なんでかわたくしが真っ先に撃たれそうになりましたし」
「あ、あはは……いえ、それは夢結様が梨璃さんに特殊弾を渡す時、楓さんをしきりに警戒していたので……」
「なるほど……自業自得?」
「まあ、・J・だからねぇ」
何故に恋花はミドルネームで呼んだし。なんにせよ、対楓さん用ってのはそういう由縁と、私の目の前で二柳が抱き合っている横を一葉ちゃんを先頭にヘルヴォルとアールヴヘイム組が抜けて行けば、各々生存確認をしている。
「さて、これで貸し借りはゼロでいいかしら?」
「ふむ、結梨さんの時も合わせればもう随分とマイナスに傾いている気がしなくもありませんが、依奈様がそれでよろしいのでしたら」
「なんの駆け引きなんだろう……?」
「まあ、依奈のプライドの問題かなー」
あるいは司令塔なんて役職持ち同士の、単なる言葉遊びか。なんて勝手に納得していると、視界の隅でバランスを崩す鶴紗ちゃんの姿が見えたから、駆け寄って支えておこう。
「大丈夫? やっぱりキツいよね」
「はい……でも、梨璃と合流出来てから……少しは楽に……」
こういう時にも頼れるから、浄化系スキルは色々と入り用だよねぇ。とそのまま肩を貸そうとしたら、鶴紗ちゃんを挟んで反対側にとてとてとやってくるのは藍ちゃん。
「鶴紗ー、きぶんわるい?」
「……うん。藍は、平気?」
「んー、なんか変な感じかも。ちょっとあつくなってきたし」
言われて辺りを見てみれば、ヒュージの表面に血管のような光の跡がポツポツと浮かび上がっている……つまり、本格的な攻撃のためにエネルギーを溜めだしたってとこかね?
「なら、さっさと撤収しないとか」
「りょーかい。ぐろっぴー、鶴紗のCHARMおねがーい」
「おう! ……んむ? 何故に百由様からの呼び方が、他校の藍にまで広まっておるのじゃ?」
百由が来た時に話してたのでも聞かれてたのかなぁ? なんて噂って程ではないけど、名前が出たからか今度の通信は、エレンスゲの方にいる百由から。
『……あーあー。雪華様、今どこにいますー?』
「お、こっちの通信も繋がったか。今梨璃ちゃんたち救出して、海の上のヒュージから離脱しようってところ」
『あちゃー、それじゃ夢結たちの救援までは無理そうか……』
仕方ない、優先順位ってもんはどうしても付けなきゃいけなかったんだから。だけど、ここで戦っているのは私たちだけじゃないのもよく分かっているから、信じて任せるだけだ。
◆◆◆
「ぅ……ん……」
「千香瑠! 大丈夫か?」
千香瑠が気を失う前に見た光景は、また夢結が仲間を手に掛けるだなんて、繰り返してはならない悲劇を防いだところで止まっている。しかし、こうして目を開ければ梅も夢結も無事でいてくれたのなら、今度は守れたということ……
「よかったです、甲州のように……ならなくて……」
「……ホント、今日は色々と思い出しちゃうよナ」
それは、過去に色々と抱えてしまっている二年生たちに共通した感想になるだろう。だが、丸っきり同じではなかったからこそ、夢結は落ち着いて言葉を紡げている。
「ええ。本当に、昔のことばっかり……でも、だからわたしは、あなたたちの所へ戻って来られた。止まった時間の中へ、逃げ込まずに済んだのよ」
「夢結さん……」
「ごめんなさい。千香瑠さんも、暴走したわたしを止めようとしてくれたのよね?」
結局、ルナティックトランサーだけでも神宿りだけでも、細かな差異が無数にある以上夢結個人の抱える問題が故の暴走は、上手く説明は出来ない。
「……そうだナ。梅だけじゃきっと、こんなに上手くはやれなかった」
「でも、私だけでもきっと、夢結さんの心を取り戻すことは出来ませんでした。ずっと一緒にいた梅さんだったから、やれたんです」
それでも、同じ痛みを抱えた二人の声は、確かに夢結の心に届いていた……いや、千香瑠のそれはあくまで方向性が同じというだけで、真に同じだと言えるのは、夢結の側にずっといた梅の方だと、彼女の言い方はそんな雰囲気だったから、梅も少し気恥ずかしくなってくる。
「……やめとこう。多分このままじゃ、お互い譲り合って進まないし」
「ふふ、そうですね……痛っ……」
しかし、こうして一件落着となれば緊張の糸が途切れたのもあり、三人して傷だらけという現実が全身の痛みとして襲い来るのだから、救援を待つ他ない。
「ハハ、皆ボロボロだ。名誉の負傷ってやつだゾ!」
「わたしが直接の原因となると、不名誉だと言いたくなるのだけど?」
軽口を言い合える余裕はあれど、辺り一面瓦礫の山なここではゆっくり休むことも出来ない以上、近くのセーフハウスなりを探して応急手当をしつつ救援を待つと……しようとしたところに、ヒュージの足音と気配が複数。
「……不味いナ、さっき撒いたやつらか」
「こちら側の指揮官だった、あの幽霊ヒュージが倒されたから、でしょうか……?」
先程の触手といい、注意を引いてしまった結果と言えばその通りなのだから、仕方はない。対するこちらは戦えるかどうかと聞かれれば、無理ではないがレアスキルを使えばその瞬間残るマギが尽きて倒れるだけ……そんなコンディションだ。
「まだ、わたしは動けるわ。二人は先に御台場に──」
「いや、その必要はなさそうだゾ」
その中でも自分はまだ傷は浅いと、夢結がまたしても立候補しようとしたのを止める理由は、現れたヒュージの何体かが、足の数が左右で合っていなかったりと、不自然な欠損を抱えていたから。
「あれは……?」
「よし、わたしが一番乗り!」
つまり、そちら側から来たヒュージは何者かに追い立てられたということで、先頭の一体が赤いハサミのようなCHARMに捕まり、挟まれる形で両断されている──そのユーザーであるリリィに一番覚えがあるのは、かつての迎撃戦で同じ第5部隊だった梅。
「蛍か!」
「ヤッホー。元気……かはともかく、助けに来たよ!」
通信が回復した時の様子から、千香瑠が御台場の方と連絡を取っていたのは分かっていたが、それにしても早すぎる援軍に驚く中、彼女の後ろから慌ててもう一人、ヒュージを両手のCHARMで撃破しながら駆けてくるのは、今度は千香瑠の方に覚えのある相手。
「まったく、わざわざ抜ける理由作ってまで行かなくてもいいでしょ……!」
「槿、さん?」
二人が同じレギオンということは、ロネスネスの有名さから他のガーデンに通っていても知っているのだから、状況から三人を助けるために抜け出した蛍を槿が追ってきた、ということだろう。
「ごめんごめん。でも間に合ったんだから、お説教は後で!」
「はぁ……仕方ない、千香瑠たちはそこで待ってて! さっさと終わらせ──」
しかし、蛍にわざと逃がされた分はともかく、他のヒュージからの攻撃がない。と気付いて槿が辺りを見てみれば、ヒュージの方が横から強襲されて混乱している様子が映る。
「悪いけど、こいつらはセインツが頂くよ!」
「ちょ、ゆず! わざわざ煽らなくても……」
「ま、言っちゃったもんは仕方ないんじゃない?」
先頭を駆ける楪がロネスネスの二人を見たのもあってそんなことを言いながら、ヒュージを掃討しているのはヘオロットセインツの三人。
「……本当に、わたしたちは縁に恵まれているようね」
「そう、ですね」
「よっし、これだけ休めばまだやれるゾ!」
御台場迎撃戦、第1部隊は夢結と楪、第3部隊は千香瑠と槿、加えて今来てくれた治と
こうなると不思議と途切れない縁というものはあるものだと、改めて確かめながら三人もヒュージを迎撃する。
◆◆◆
「梓、そっちに!」
「はいはい! それじゃあ──!」
治が『カラドボルグ』の本体と鞘による擬似的な二刀流でヒュージの群れを蹴散らせば、たまらず離れた何体かをティルフィングを構える腕を引き絞り待ち構えていた梓が立て続けに切り捨て、違う方へ向かった生き残りは、横取りなどたまらないと分離させた『ベアグノズサクス』を両手に携えた蛍が、回転しながら突撃し蹴散らす。
「うん、全部は盗られずに済ん……あっ」
とはいえ無茶な動きをしたものだから、振り切った勢いで空のヒュージからの射撃を弾いたはいいものの、そのまますっぽ抜けるように左手のCHARMがどこかへ飛んで行ってしまうのは、駆け付けた梅としても呆れるしかないのだが。
「おいおい、そんなんで大丈夫かー?」
「んー、これ借りていい?」
視線で飛んで行った先を追ってくれていたならと、タンキエムに手をつきながらな蛍の提案には、梅もどこか懐かしむように笑う。
「ハハ。
「オッケー、じゃあ遠慮なく……《円環の御手》!」
途中までが順調過ぎたが故の、敵陣ど真ん中での孤立なんて結果になった迎撃戦での第5部隊の戦いだったが、第3部隊の救援までを必死に戦い抜いたあの時間は、苦しくはあれど確かに自分たちの糧にはなった。
だから、その時の思い出と共に背中をバシンと梅に叩かれ送り出されれば、蛍は残ったベアグノズサクスの片刃を地面に跳ねさせて逆手に持ち替え、戦友より受け取ったタンキエムのコアに手をかざす。
「お、結構使いやすっ。ならこのまま……!」
ユニーク機だからと物珍しそうに何度かタンキエムを振るい、ヒュージを遠ざけるといい距離だとシューティングモードへ切り替え、砲撃で薙ぎ払う。
「え、火力たっか!?」
「そりゃあウチの両親が開発に関わってたやつだからナー、いいCHARMだろ?」
「なるほど納得! 返すね!」
家族のことだからと誇らしげに、梅が吹き飛ばされた方を拾って放り投げれば、蛍もタンキエムを放り空中でCHARM同士を交差させると、受け取ったと同時に駆けだし、お互いの背後を狙ったヒュージの元へ。
◆◆◆
「怪我してるんなら無理しないの!」
「ですが、援護くらいなら……!」
腕を庇いながらの動きは見てるだけでも分かるようで、槿からの指摘を受け千香瑠も援護射撃に徹しているが、そのフォローも問題なくこなせるからこそ、御台場女学校の数少ないレギオンの司令塔を預かっているのだと、彼女は率先して前線を張り第3世代CHARM『グラーシーザ』の鎌と斧だなんて変則的な二刀流を、慣れた様子で使いこなしている。
「せぇぇぇい!」
地上のヒュージは片付けたならと、右手の鎌はソードへ、左手の斧はブラスターへと形態を切り替え、連射し弾幕を張って空中のヒュージの動きを鈍らせると、分離させたブレード部をワイヤー越しに振り回して一掃し、引き戻したそれが元の位置に納まるのに合わせて振り向く。
「どう? わたし一人で十分なんだから」
「はいはい、またお代わりだよ!」
などと千香瑠にアピールするようにしていた槿だが、横にやってきた梓がヒュージを撃ち抜く様子に現実に引き戻されると「もう!」と拗ねるのだから、そういうところはまだまだのようだ。
「ふふっ……」
「千香瑠?」
心配して寄ってきたのだろう治に不意に漏れた笑みを見られれば、特に恥じることもないのだから千香瑠も素直にその理由を告げる。
「いえ、久しぶりなのにみなさんも元気そうで何よりだな、と」
「……元気過ぎてしょっちゅう喧嘩になるのも、逆に困ってるんだけどね」
隊長格の様子を見ているだけでも、それは確かなのだろうが、その有り余るエネルギーこそが御台場のリリィの強さを支えているのかもしれないなんていうのは、彼女らと一定の交流があるリリィが共通してたどり着く答えなのかもしれない。
◆◆◆
残る楪と夢結は背中合わせになりながら、空のヒュージを撃ち落としている形になるが、そんな中しみじみとした様子で楪が告げる。
「こないだ幸恵と一緒になった時も思ったけど、結局私らは無茶ばっかりだよね!」
「ええ。それがわたしたちデュエル世代の、どうしようもない悪癖なのかもしれないわ」
だとしても、それを自覚しているのなら一人で無茶をせず、仲間と支え合えばいい──先程の暴走はそれに甘えて先走った結果かもしれないが、それでも梅や千香瑠は、全力で自分を止めてくれた。
──いくな……いくなよ! 夢結!
最後に梅が自分に抱き付きながら必死に叫んでくれていてくれた言葉も、深い闇に落ちそうになっていた意識では全てを聞き取れただなんて言えないが、耳でなく心に触れたと、暖かな気持ちは夢結の胸に確かに残っていた。
──あの夜みたいに、お前の悲しいばっかりの背中をまた見るのは嫌なんだよ!!
「……本当に、迷惑を掛けてばっかりね」
「のわりには、なんか嬉しそうじゃない?」
背中合わせな楪には自分の表情は見えていないだろうが、夢結の頬がどうしようもなく弛んでしまっているのだとしたら、それは回り回って自分のせいなのかもしれない。